東方幻影人   作:藍薔薇

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第210話

「よし乗った。で、私は何をすればいい?」

「やるよ。私はおねーさんに協力する!」

「私達の力が必要なんだろ?ここで手を貸さないなんて言わないさ」

「即決!?」

 

さっきまで呑んでいた瓢箪の飲み口をわたしに向けて言い切った萃香と、やる気に満ちた表情で手を挙げているフランと、不敵に笑いながらサラリと言った妹紅に驚く。協力してくれるのは嬉しいけども、もう少し話を聞いてからでもいいんじゃないかな?

フランは何故か萃香を睨んでムスッと頬を膨らませ、萃香は何食わぬ顔をしていつも通り瓢箪を煽いでいた。…あの僅かな時間に二人に何があったの?

 

「い、いや、もうちょっと話を聞いてからでも…」

「なぁまどかー。異変って何ー?」

「チルノちゃん!…まどかさん、チルノちゃんには私が教えますから、続けてくれて結構です」

「え、あ、はい」

 

異変の意味が分からなかったチルノちゃんをリグルちゃんがせせら笑い、取っ組み合いの喧嘩を始めようとしたところで、近くにいた慧音がリグルちゃんの、大ちゃんがチルノちゃんを押さえていた。…いや、いくら広くなったからって喧嘩出来るほどじゃないんだからね?

チルノちゃんとリグルちゃんの喧嘩を抑止は慧音と大ちゃんに任せ、わたしは続きを語ることにする。

 

「そ、それでですね。協力してくれる人には、最低限熟してほしい役目を与えます。それ以外は、基本的に自由で構いません。わたしに何をすればいいか訊くもいいし、貴女の思うように動いてもいいです」

「ねぇ、幻香。そもそも、その異変は何のためにやるの?」

「わたしの、わたしによる、わたしのための異変。わたしが欲しくて止まないものを得るために、わたしは動きます。最悪、わたし一人になったとしても、わたしは異変を起こします」

 

協力者が多ければ多いほど、やりやすくなる。けれど、たとえ零人だったとしても成し遂げてみせる。そのくらいの覚悟はある。そうでなければ、そもそも自発的に異変なんて起こそうなんて考えない。

 

「参加するとして、私達の役目って何なの?」

「それは全員が決まってから割り当てますよ」

「…出来るかなぁ」

「出来ないことを頼むつもりはないですよ。無理させるつもりはないんですから」

「それじゃあ私はやる!だって楽しそうだし!」

「楽しいのかー?なら私もやるー」

「あー、えぇーっと、楽しいかどうかは保証出来ませんが」

 

そのままそんな軽い感じで参加することを決めたサニーちゃんとルーミアちゃんに巻き込まれるように、ルナちゃんとスターちゃんも参加することになった。しかし、渋々といった雰囲気ではない。それこそ、これから悪戯をしに行くかのような気楽さで。…いいのかなぁ、こんな感じで。

 

「貴女が何をどう考えてその結論に至ったのかは分からない。けれど、私でよければ協力させてもらうわよ。フランもやる気みたいだから、ね」

「ありがとうございます、パチュリー――うげっ」

 

パチュリーに頭を下げて礼を言っていると、突然横から何かが跳んで来た。絡みつくそれはヒヤリと冷たく、咄嗟に目を遣るとチルノちゃんがわたしを見上げながら元気よく言い放った。

 

「つまり、異変は騒がしく遊ぶってことでいいのか!?だったらアタイはやるよ!」

「…大ちゃん、これは一体どういうことなんですか?」

「あはは…、分かりやすく説明したつもりなんですけどね…。まどかさん、私も協力させてください。チルノちゃんを止めることも含めて」

「チルノがやるなら私だってやる!私だって強くなったんだから!」

「皆協力するのに私だけ、なんて言えないよね。…それに、幻香のことちゃんと見てないといけないし」

 

しがみついていたチルノちゃんをやんわりと引き剥がし、大ちゃんに任せる。その表情は、見ていて物凄く楽しそうだ。リグルちゃんは自分の実力を試したいのだろう。ミスティアさんは周りに流されているようなことを言っていたにもかかわらず、何か強い芯を感じた。…どうしてわたしを見てないといけないんだろう?わたし、何かしたっけ?…たくさんしてるね。

こんな短時間でわたしの友達の十二人が協力してくれると言ってくれた。しかし、非常に難しい表情をしながら考え続けている人が一人いる。…まぁ、しょうがないとは思う。今の彼女は板挟み。この選択で大きく変わることが分かっているのだろう。

 

「慧音」

「…幻香。すまないが、すぐには決められそうにない」

「分かっていますよ。だから、わたしは貴女に四つの選択肢を先に提示しましょう」

「四つか…」

「一つ目は、協力しない。二つ目は、協力してかかわらない。三つ目は、協力して深くかかわる。四つ目は、協力して裏切る。詳細は問われればしっかりと答えますよ」

 

最後の選択肢を言ったときは、慧音だけでなく他の皆も一斉にわたしに目を遣ったのを感じた。

 

「皆にも言っておきますね。信頼の形は千差万別。共に歩むことも、背中を任せることも、それは一つの信頼。ですが、この異変の間のわたしにとっての信頼は、裏切りを許容することです。密偵、諜報、暗殺。何をしようと、わたしは貴女達を恨みません」

 

そう言った瞬間、細い腕がわたしの首元を掴み取った。そのまま思い切り引き寄せられ、目の前には静かな怒りを漂わせる萃香がいた。

 

「おい、そんなつまらないことを私がするとでも思っているのかよ?」

「思ってないです。しないと思っているから、わたしは言いました」

「…はぁ、そうかよ」

 

正直にそう言うと、深いため息を吐きながら手を離してくれた。

 

「さて、話が逸れちゃいましたね。慧音、貴女はどれを選びますか?」

「…まず、全ての詳細を聞かせてくれないか?」

「いいですよ。一つ目は、そのままの意味ですね。このまま帰ってもらって、人間の里でゆっくり異変を傍観するなり、異変解決に乗り出すなり、好きなようにしてもいいです。二つ目は、人間の里で待機してもらいます。無関係な人間共を里から出さないように、とかそんな感じの役目を持って残ってもらう感じかな。多少の怪我を負うことになりそうですが。三つ目は、全面的にわたしに協力して最初から最後まで異変に付き合ってもらいます。四つ目は、二人きりとかの時に後ろから不意討ちして人間の里にでも持ち帰って英雄となる、とか?…ま、わたしとしては三つ目を選んでほしいですが、慧音のことを考えると二つ目をお勧めしておきましょう」

「そうだな。…すまないが、二つ目にさせてくれ」

「いいんですよ。協力するだけで相当無理があることは分かっているんですから」

 

それでも協力することを選んでくれたことに、わたしは感謝するしかない。

一応最後に、この部屋の提供者にも訊いてみる。

 

「さて、橙ちゃん。貴女はどうします?」

「え?わ、私も?…いや、私はここで静かにしてようかなー…」

「分かりました。別に構いませんよ」

 

まぁ、そのくらいは分かっていた。ただわたしが友達に何をするのかが気になってここにいるだけだったし、突然異変に協力してくれるように頼んでも断られてしまうことくらい、誰にだって分かる。

橙ちゃんから目を離し、十三人の協力者を見回す。これから言うことは、協力を辞めてしまう人が出るかもしれないことだ。けれど、彼女達の善意の協力を黙って隠して偽って騙してまで利用しようとは思えない。

 

「最後の確認です。わたしに協力したところで、わたしが貴女達に渡せる明確な利点は何もありません。異変が終わっても得られるものは何もないかもしれません。失っただけになるかもしれません。…それでも、わたしに協力してくれますか?」

「するよ。おねーさんには何度も助けられたから、今度は私が助ける番」

「今更降りるなんて言わねぇよ。あんたの異変、見させてもらおうか」

「あの時は身勝手だったけど、今は求められているんだ。やるに決まってるだろう?」

「いいよ!まどかと遊ぶのは楽しいから!それに、アタイは最強だからな!」

「幻香には色々世話になったからね。恩返しがしたいんだ。今がその時だよ」

「まどかさんはすぐ無茶するんですから、もっと私達に頼っていいと思いますよ?」

「幻香はいつも大変なことするからなー。私にも手伝わせてねー」

「出来ることなら何でも言って。…もうあんな顔、もう見たくないから」

「やるわよ!ルナ!スター!光の三妖精の力を見せつけるわよ!」

「…お、おー。幻香さん、私頑張りますから!」

「ふふ、出来ることは少ないけれど、精一杯やらせてもらうわね」

「貴女の異変の援助は任せてちょうだい。私の知恵の全てを提供するわ」

「直接ではないが、陰から私は幻香を支援しよう。人間の里のことは私に任せてくれ」

 

誰も協力を撤回しなかった。その事実が、わたしの胸を熱くさせる。一つ涙が出て来そうになったのを堪え、わたしは宣言した。

 

「異変決行は、三日後の満月の夜。それまでに、わたしの異変の役目と計画の調整をします。…やりますよ。わたしは必ず成し遂げてみせる」

 


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