東方幻影人   作:藍薔薇

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第19話

わたしは『幻』をすぐに作り出す。直進弾と阻害弾は高速と低速の四種類を各六個ずつ、追尾弾は七個、炸裂弾は四個。現状最大数である三十五個だ。フランさんは、自分自身を中心として球体となるような弾幕を放っている。放つタイミングはズレることなく正確で、弾と弾の間隔も綺麗に揃っている。わたしとは大違いだ。

始まってからから気づいたけれど、スペルカード使用回数と被弾回数を決めてない。一応聞いとかないと駄目だよね。

弾幕の間を縫うように避けながら声を張り上げる。

 

「スペルカードと被弾はどうしますかー!?」

「両方とも三回でー!」

 

どうやら基本的なルールでやるようだ。まあ、何も言わなかったからこうなるのでは、とちょっとは考えたけれど、ちゃんと聞かないと駄目だよね。確かルールに『事前に使用回数を宣言する』っていうものがあったはずだし。

弾の間隔は遠くに行くほど広くなるので、避けることが容易な距離を保つ。避けるのが簡単ならば『幻』任せの弾幕ではなく、自分自身が攻撃することが出来る。自分自身の攻撃は『幻』と違って撃つ場所を自分で決めることが出来るから、避けにくい位置に狙撃したり、阻害弾用『幻』よりも明確な特定方向への移動の阻害が出来る。

ちょっと余裕出てきたし、ちょっと会話をしようかな。このスペルカード戦はお遊びのためのものだ。お話をしながら楽しくやったほうがいいと思う。あと、会話に意識が少しでも向けば当てやすくなりそうだし。とりあえず、会話で時間を稼いで瞬きの瞬間を狙って当てやすそうな胴体に一発撃ってみようかな…。

 

「どうです?私とのスペルカード戦は」

「うーん、おねーさんの弾幕ってあんまり綺麗じゃないなー」

「うっ…、そんなこと言われてもこれがわたしのやり方ですので…」

「おっと…。まあ、その分避けづらいかなー。」

 

右頬に向かって進んでいた弾を、首を曲げて避けつつ会話が続く。うーん、ここまで瞬き一度もしてない…。もしかして、吸血鬼って瞬きしないでも大丈夫だったりするのかな…。もしそうなら、別の隙を見つけないと当てられそうにない。

 

「でも、このままお互い避け続けてもつまんないなあ」

「なら、一発大きいのやりましょうか?」

「え?そんなの出来るの?」

 

一応ね。ただし、美しいとは言ってない。きっと派手なものに分類される……はず。

その場でも大丈夫だと思うけれど、念のためフランさんから少し離れてから垂直方向に急上昇する。視点をフランさんから、紅魔館の庭の外側にある森林に向ける。うーん、どの木が一番葉が生い茂っているかなあ、あっ、あれがいいかな。

複製するものがあまりにも大きいので一応『幻』を全て解除してから右腕を上げて、さっき決めた木を複製する。うっ…、やっぱり重い。妖力もごっそり持ってかれた。この木が回収できなかったら『幻』の数減らさないとなあ…。とりあえず、この木はとっとと振り下したほうがいいだろう。私の右腕のために。

 

「行きますよー!」

「おねーさんって私だけじゃなくて木も出せるんだねー」

「複製『巨木の鉄槌』ッ!」

 

勢いよく右腕を振り下ろして、木をフランさんに向かって投げ飛ばす。フランさんの弾幕は木の葉や枝に阻まれてこちらに飛んでくることはなかった。それに、フランさんは避けることなくその場で止まっている。このままなら被弾一になるだろう。

ん?止まっているということは何か対抗手段があるということなのでは?そんなことを考えたら、木が真っ二つに切断され、切断面からは炎が上がってきた。そのまま炎は木を包み込み、豪快に燃え盛る。ムワッとした熱気が押し寄せ、火の粉がわずかに頬を掠めていく。な、何事?

 

「禁忌『レーヴァテイン』」

 

燃え盛る炎の中から、フランさんの身長の軽く二倍はありそうな炎を纏った剣を持ったフランさんが見えた。わたしの投げた木はフランさんに当たる前に燃え尽きて消え去ってしまったようで、あの剣の凶悪さがよく分かる。あんな剣に僅かでも当たれば『鏡宮幻香の丸焼き~ウェルダン~』が出来上がっちゃいそう。

 

「ちょっ!なんですかその見るからにヤバそうな剣は!?」

「え?レーヴァテインだよ?見たことあるでしょ?」

 

そういえば、前に何処からか取り出していたような気がする。いや、そんなことはどうでもいい!

 

「そんなの当たったら死んじゃいますって!サクッて!こんがりと!」

「当たんなければ大丈夫だから!ほらっ!」

 

そう言って私に向かって飛んできて、そのレーヴァテインを振り下ろす。斬られたら丸焼き確定なので、大きめに避ける。しかし、剣が纏っている炎が刀身から広がり、皮膚のすぐ近くを通ってかなり熱いし痛い。当たらなくても熱気が凄くて汗が噴き出てくる。

 

「熱ッ!わたしまだ死にたくないんですけど!?」

「もし死んじゃったら食べてあげるから。美味しく」

「それが嫌だから言ってるんですよ!くっ、このっ!」

 

フランさんが近づいたことを利用して最速の攻撃を試みるが、レーヴァテインの刀身で防御されてしまった。

その隙を突いて、素早く振り下ろしてきた。まずい!避けれない!

目を閉じることも出来ず、本能的に右手を差し出して防御をしようとする。何か…、何か創らないと…!

 

「へぇ?これも出せるなんて驚いたよ」

 

金属同士が当たったとき特有の甲高い音が紅魔館に響く。咄嗟に目の前のあるものを創って防御を試みた結果、わたしの右手にはあの炎を纏った剣、つまりレーヴァテインが握られ、フランさんのレーヴァテインと鍔迫り合いをしていた。まずい、押されてる!

すぐに左手でも柄を握る。うぎゃあ、熱っつう!しかし、今は手の火傷なんて気にしていられない。なんとか押し返そうとするが、振り下ろしと振り上げの差は大きく、押し返せずにどんどん押し込まれていく。

すぐに鍔迫り合いを諦めて急降下。地面に着地する。フランさんは勢い余って僅かにふらついていた。

 

「ふぅ…。死ぬかと思いましたよ…。今更宣言するのはあんまり良くないかもしれませんけれど一応しておきますか。複製『レーヴァテイン』」

 

とりあえず、両手に妖力を流して無理矢理治癒を試みる。が、すぐに火傷になってしまったので諦めた。次に、妖力を使って耐熱が出来ないか試す。…うん、出来ない。やり方誰か知ってる人いないかなあ…。真っ赤になった鉄の棒を握っている気分。

 

「そうだっ!ちゃんばらやろ!ちゃんばら!」

「えっ、こんな物騒なものでやりたくないんですけどー…」

 

私の言葉はフランさんに届かなかったらしく、急降下しながら振り下ろしてきた。勢いよく横っ飛びして避けるが、すぐに横薙ぎの斬撃が飛んできたので、レーヴァテインで防御する。この剣、振るたびに炎が広がって非常に危なっかしい。服とか髪の毛が燃えないか心配になってきた。

 

「フフフ、アハッ!楽しくなってきた!」

 

フランさんはあの時のような狂気をそのまま表現した顔でレーヴァテインを振り回す。咄嗟に避けたり防御したりとなんとか当たらないようにするが、結構ギリギリだ。防御するたびに私の剣からはミシリと嫌な音が聞こえる気がする。スペルカードの時間は三十秒のはず。あと何秒防げばいいの?折れる前に終わってくださいお願いします…!

ギィンギィ(パシャッ)ガァンという音が紅魔館に響き渡る。

 

「あっ、時間切れ…」

「た、助かった…?」

 

防御すること数十合、フランさんのレーヴァテインはその手から消えていった。わたしの複製「レーヴァテイン」もあと五秒くらいで終わってしまうだろう。まあ、自分で消すんだけどね。

けれど、一発くらいは当てときたいっ!自分が出せる最大の速度で左肩を狙って突き出す。しかし、当たる直前に左肩から先が真っ紅な蝙蝠になって空振りした。そ、そんなことも出来るなんて、ちょっとずるい…。

 

「今のはちょっと危なかったかなー」

 

そう言いながら、左腕を再構築している。もう一回、と思ったが時間切れ。急いで回収する。

さて、不味い状況になってきました。お互い被弾はしてないけれど、わたしはスペルカードを既に二回使ってしまった。あと一回使い切ればその瞬間負けが決まってしまう。しかし、今確実に出来るスペルカードは最長時間の三十秒続くようなものは鏡符「幽体離脱・静」だけだ。しかし、このスペルカードは相手に被弾させるためのものじゃない。

焦りが自然と表情に浮かび、頬が引きつるのを感じる。不思議と乾いた笑いが零れ出てきた。

とりあえずフランさんから離れつつ『幻』を新しく作る。複製した木が回収できずに燃やされてしまったのが痛い。一発でも被弾させたいので、すべて炸裂弾にする。作った数は二十個。これで何とかなるかな…?

 

「さて、どんどんいくよー!禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

そう言うと、何処からか三人のフランさんが現れた。

 

「さあ」「いくよ」「おねーさん」「避けれるかな?」

 

それぞれの口から全く同じ声色の言葉が響く。そして、四人からそれぞれ違った弾幕が飛んでくる。同心円状だけならまだ避けやすいのだが、たびたび扇状の速度大きさ共に違った弾幕を放ってくるので、非常に避けづらい。

 

「くっ、こうなったら遠くへ逃げ――」

「アハッ」「逃がさないよ?」

 

逃げようとした方向には、既に二人のフランさんがいた。別の方向に行こうともたついているうちに囲まれてしまった。

この状況は辛い。わたしは背中や後頭部に眼が付いていないので、後ろからの弾幕を避けるために首を各方向に動かさないといけない。なので、動きがどうしても鈍くなる。被弾も時間の問題だろう。

……しょうがない、勝利はもう諦めよう。

 

「鏡符『幽体離脱・静』」

 

だけど、被弾するとは言ってないっ!一番弾幕が濃かった方向を見て、スペルカードを発動させる。瞬間、視界に移る弾幕の九割五分ほどが消え去った。フランさんの驚愕した顔がハッキリと見える。

動揺は、動きを止める。

最速の妖力弾を放ち、フランさんの右肩に当てた。その瞬間、残ったわたしの妖力弾が、視界の外から飛んできた弾幕を相殺して全てが消えた。

 

試合終了。被弾、(幻香)(フラン)。スペルカードを全て使用したことによって、フランの勝利。

 


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