東方幻影人   作:藍薔薇

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第155話

妹紅の家の一部に埋め込ませてもらった複製を頼りにして、妹紅の家まで真っ直ぐと向かう。竹林が目の前にあっても体を捻じりながら竹の間を無理矢理すり抜けつつ、迷いの竹林を一気に駆け抜ける。道らしいところを右往左往するよりも、こうして道なき竹林を切り開いたほうが早く着く。

僅かに見える日の光が茜色に染まる頃、ようやく妹紅の家に到着した。屋根の上で誰かが寝そべっている、と思ったら妹紅だった。あちらもわたしを一瞥してから起き上がると、目の前に降りてきた。

 

「早いな。どうかしたか?」

「わたしも随分早く見つけることが出来たと思ってますよ」

「そうかい。そりゃよかった」

 

そう言うと、手招きしながら家の中に入って行った。その背中に着いていき、わたしも中に入らせてもらうことにした。お邪魔します。

そのまま部屋に入ると、先に卓袱台に座っているように言われたのでそうさせてもらう。少し待つと、お茶を持って来てくれた。

 

「ほらよ」

「あり――熱ッ!」

「ん、熱かったか?まあ、冷めるまで待ってろ」

 

妹紅はそんな沸騰寸前と言いたくなるようなお茶を美味しそうに飲み始めたが、わたしにはとても出来そうにない。少しでも早く冷めることを期待しつつ、湯気を手で仰ぐことにする。

 

「…ところで、どうしてあんなところで寝てたんですか?」

「ああ、あそこからだと空が見えてな。ちょっと眺めてた」

「へぇ」

「鳥が美味そうだった」

「美味しいですよね、鳥」

「食うか?一羽仕留めた残りを今から食べようと思ってたんだ」

「いいんですか?」

「いいさ」

 

半分ほど残していたお茶を一気に飲み干し、すぐ近くに調理場へと向かった。

既に羽根が毟り取られて丸裸になっている鳥を取り出すと、早速焼き始めた。内臓はもう食べ切っていたらしい。

 

「ここに来たのはその報告だけか?」

「いえ、流石にそれだけじゃないですよ。実は、ちょっと困ったことがありましてね」

「言ってみろ。出来ることなら協力してやるからさ」

「場所があっても家がない」

「そりゃそうか。で、その家を建てるのを、か?」

「ええ、話が早くて助かります。出来れば萃香もいたら、なぁんて思ったんですが」

「あー、そういやどこ行ったんだろうな」

 

鳥肉が焼ける香ばしい香り。そこに醤油を取り出し、焼いている鳥にサッとかけると、いい音と共に醤油が少し焦げたいい香りが漂い始めた。

 

「ま、いつかポッと現れるだろ」

「そうですね。…あ、そうだ」

「何だ?」

「明日の朝にそこへ行く予定なんですが、そのときにちょっと確かめたいことがあるんですよ」

「へえ、それは私が必要かい?」

「妹紅じゃなきゃ、ってわけじゃないですがね。ですが、信用出来る人はそこまで多くないですから」

「そうかい。もう焼けたかな?…ちょっと早いか?まあ、いいや」

 

そう言うと、焼いた鳥を皿に載せて持って来てくれた。いただきます。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。日が昇る少し前に迷いの竹林を出て行くと、日が昇って少し経った頃に迷い家周辺に到着した。朝食も食べずに来てしまったが、いつものように空腹感はない。

わたしの隣で山頂を見上げている妹紅は、わたしに訊ねた。

 

「で、何処にあるんだ?」

「この奥です。が、結界があるそうで」

「結界ぃ?」

「ええ。本来そこに行くには、迷う必要があるんですよね」

「迷う、ねぇ…」

 

そう言うと、妹紅は周りを見渡し始めた。そして、溜め息を吐く。

 

「…迷う要素ないな」

「ですよね。そこで、これらの護符を持っていると問題なく通過出来るわけです」

 

わたしが首に掛けている鎖を見せてから、他の様々な形の護符を見せた。その中の硬貨の形をしたものを手に取り、じっくりと観察し始めた。日に当てると、光を反射して輝いて見える。

 

「…これが?」

「そうらしいですよ。そこで、これを持っていないで入れるか調べて欲しいんですよ」

「持たないで、ねぇ。…ああ、もしかして護符なしで入ったのか?しかも迷わずに」

「まあ、そんな感じです」

 

詳しい説明は家を建てている間にでもすればいい。

硬貨の形の護符を返してもらい、その代わりに緋々色金のネックレスを妹紅に手渡す。過剰妖力は十分入っているため、どう考えてもあの時迷い家にあった家財の数々よりも妖力量は多い。

 

「まず、これを持って真っ直ぐ進んでほしいんです」

「真っ直ぐ、な。了解」

 

もしこれで迷い家に入れるようなら、ちょっと考えものだ。良くも悪くも、わたしが通ったことのあるところには石ころの複製が転がっている。もしこれで迷い家に到着するとすれば、酔狂にも石ころの複製を大量に掻き集めてしまえば入れるということになる。さて、どうだ…?

真っ直ぐと緋々色金の動きが突然大きく曲がり始めた。そして、最初の方向からほぼ垂直に曲がったところでわたしは妹紅のところへと飛んでいった。

 

「お、どうした?」

「とりあえず大丈夫そうです」

「そうかい」

 

緋々色金のネックレスを返してもらう。…本当に護符がないと入れないんだなぁ。わたしがおかしかっただけ、なのかな?

 

「で、次は何をするんだ?」

「そうですね…。わたしに付いて来てくれませんか?」

「どのくらい近くにいればいい?」

「あー、どのくらいですか…。じゃあ、一歩後ろで」

 

迷い家の位置を確認し、真っ直ぐと歩き始める。何度か後ろを振り向いて確認するけれど、ちゃんと付いて来てくれている。

 

「…着いた」

「へえ、ここがか」

 

そして、問題なく迷い家に到着した。持っているのはわたしだけで、妹紅は護符を持っていない。それでもここに到着するということは、わたしという道標をちゃんと視界に収めていれば問題なく到着するということだろうか?

そう考えれば、わたしが迷い家にあった家財の複製を道標にここに到着出来たのも納得出来るだろうか。

 

「何考えてるんだ?」

「検証からの考察」

「で、どうなった?」

「追手には気を付けよう」

 

つまり、誰かに追われているときにここへ逃げ込むのは得策ではないということだ。もし、わたしを見失っていなければ、その追手もここに来ることになる。それは危険だ。

そこまで考えたところで、軽く頭を叩かれた。これ以上深く考える必要もないか、と思い顔を上げると、妹紅が迷い家の外側を指差した。

 

「検証、続けるか?」

「いえ、もういいでしょう」

 

わたしの複製をどれだけ持っていようと迷い家に侵入することが出来ない。護符なしで迷い家に入る手段。この二つはわたしが最低でも知っておきたかったこと。それが推測出来たのだから、これで十分だ

 

「なら家だな。何処にあるんだ?」

「えーっと、…こっちですよ」

「当たり前の事を訊くけどさ、建材はあるよな?」

「一本ちゃんとしたのがありますよ」

「ならいい」

 

建てかけの家はここからはまだ見えない。けれど、それなりに近いはずだ。まだ迷い家の地理はボンヤリとしか覚えていない。

魔法の森でわたしが主に活動していた範囲は、一応今でも覚えている。迷い家も同じように記憶しておきたい。ここは魔法の森よりも覚えやすい環境だと思うから、もうちょっとここにいれば自然と覚えられるだろう。

 

「ところでさ」

「何でしょう、妹紅?」

「あの護符は貰ってもいいのか?」

「ああ、そういえば忘れてましたね。いいみたいですよ。どれかお一つ好きなのをどうぞ」

「じゃあ、さっきの硬貨をくれ。気に入った」

「そうですか?では、どうぞ」

 

数ある護符の中から硬貨の形をしたものを投げ渡す。それを仕舞う頃には建てかけの家が見えてきた。

周りには大量の丸太が無造作に転がっている。その一つに橙ちゃんが片腕で逆立ちをして遊んでいた。わたしに気付き、そして妹紅に気付くと、そのまま軽く跳び上がって着地してから手を振ってくれた。

 

「おかえりー。その人が幻香の友達?」

「ええ。快く引き受けてくれましたよ」

 

妹紅は早速建てかけの家の壁はまじまじと見詰め、丸太を一本持ち上げた。そして、削った部分を観察し、元に戻した。

 

「お、こうするのか…。鋸あるか?」

「え?あ、ちょっと待ってて!」

 

そう言うと、橙ちゃんが走ってここから離れて行った。わたし一人のときは必要なかった鋸。それが必要と知ったときの顔は、やけに嬉しそうに見えた。

それを見送っていると、妹紅が転がっている大量の丸太を見回した。

 

「で、そこら中に転がってるのは…複製か?」

「ええ。さっきも言った通り、一本しか準備してませんから」

「あれか」

 

唯一加工が全くされていない樹の元へ行くと、耳を押し当てて軽く叩き始めた。続いてゆっくりと持ち上げ、重量を確かめる。

 

「…ふむ、いいんじゃないか?中身もしっかりしてる」

「そうですか?ならよかったです」

「じゃ、鋸が来たら始めるか」

「その前に軽く朝食を食べましょう?」

 

ちょうど頭上を飛んでいた鳥を妖力弾で撃ち落とす。それを見た妹紅は、丸太の複製を一本肘と膝を使って砕き始めた。そして、乱雑ながらも薪のようなものを作って着火。火は準備出来た。わたしはこの鳥の羽を毟るとしよう。…あ、これまた鴉だ。

 


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