東方幻影人   作:藍薔薇

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第104話

道中で食べられる茸を見つける度にそこへ拾いに行ったので、非常に時間がかかってしまったが、時間をかけた分だけの量は採れたんじゃないかな?紆余曲折を経て、ようやくわたしの家に到着した。わたしの主観だとそこまで久し振りというわけではないのだけど、実際は一週間以上経っているんだよね。

しかし、このままでは扉も開けられない。ここまで来るのに集めた食料で両手が塞がっているからだ。…しょうがない。もう一枚萃香さんの服を複製して、一度その上に食料全部まとめて置いとくか…?それとも、一度扉回収してまたいつか取り付けるか…?うーむ…。

 

「…お、帰ったか」

「ええ、ただいま萃香さ…ん?」

 

そう思っていたら、ガチャリと扉を開きながら、萃香さんが家の中から出てきた。後ろを振り向くと、わたしと同じように両手いっぱいに食料を持っている萃香さんがいる。もう一度扉のほうを見ると、やっぱり萃香さんがいた。…あれ?二人いる?

…ああ、そういえば『密と疎を操る程度の能力』でそんなことも出来るって言ってたっけ。確か、分身みたいに分かれることが出来るとか。実際、引っこ抜いた髪の毛から小さな萃香さんに変化してたし。

 

「お、食い物か!?早く入れよ!」

「…ええ、何か作りますから、半分持ってくださいよ」

 

そう言ったら、尋常じゃない速さでわたしの両手から食料を全部掠め取った。いや、それでもいいんだけど…。

机の上に雑然と置かれた食料を仕分けていたら、視界の端で二人の萃香さんがお互いの両手の平を合わせた。そして、そのままズブズブと混ざり合っていく。その異様な光景が行われているのを無視することは出来ず、仕分けを止める。

 

「…ちょっと怖いですね」

「「んー、そうかー?」

 

返事が最初は二人分聞こえたのに、一人分になって終わった。いや、作る量が一人分減るから嬉しいけどさぁ…。

 

「もうちょっと、何とかなりませんかね?」

「何とかって何だよ」

「あー…、格好よく…とか?」

「見世物じゃないからいいんだよ」

 

まあ、そうなんだろうけどさ…。スペルカード戦でもあるまいし。けどね、やっぱり薄ぼやけながら重なりだして、粘土を混ぜるように形を作り直しているのを見るのは気持ち悪いよ。

 

「そんなのどうでもいいだろ?」

「ま、そうですけどね…」

「まあ、アレだ。格好よくやろうと思えば出来るけどなー。する必要がない」

「必要な時って?」

「…さぁ?これは今度考えとくからさ、早くなんか作ってくれよ」

「あー、そうでしたね」

 

言われた通り食料の仕分けを再開し、今日中に食べたほうがよさそうなものを選ぶ。とりあえず、魚は食べようか。茸も幾つか一緒に焼けばいいかな。

 

「…綿、枝、薪はある、と」

「ん?焼くのか?」

「ええ。調理するの面倒なので」

「そうかい。じゃあ火はやっとくからさ」

 

わたしが持っていた薪を奪いながらそう言った。ああ、前に口から炎出してましたね。酒の力か、鬼の力か、密度の力か知らないけれど。それなら任しても大丈夫か。…威力調整出来なくて家ごと燃やされる、なんてことがないことを祈ろう。

包丁を取り出し、手に入れた全ての魚の腹を開いて魚の腸を取り除く。魚の腸は苦いから嫌いだ。萃香さんはどうなのか知らないけれど、捨ててしまっても構わないだろう。刻んで外にばら撒いておけば、きっと養分くらいにはなってくれるだろう。

調味料を確認し、本当に砂糖とみりんが無くなっていることに呆れながら塩を取り出す。そして、空っぽになった腹を軽く洗ってから塩を軽く振る。菜箸を複製し、頭から尾にかけて突き刺す。表面にも塩を振っておこうかな。

 

「出来たぞー」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、これ遠火で焼いといてください」

 

さて、茸を焼きたいけれど、金網は何処にあったっけ?…ああ、ここにあったのか。普段使われることがほとんどないから忘れてたよ。あとはそれを支えるためのものを、っと。よし、これでいいか。

焚火の上に設置し、その上に茸を乗せる。ある程度火を通せばいいでしょ。あ、そうだ。醤油準備しておかないと。

 

「おーい、まさかこれだけ?」

「ええ。残念ながら肉はないんですよ」

「いや、米とかは?」

「…干し飯ならあった覚えがあったんですけどねぇ…」

「悪いな。既に食べた」

「…知ってますよ。そもそも全部食べたんでしょう?」

「隠してあったのとかあるかなー、なんて」

「ないですよ」

 

米を炊くのは面倒なので数回しかやったことがない。それに、そもそもこの家にはかまどは存在しない。慧音や妹紅さんが炊いて余ったご飯を干してもらい、それを稀に貰うくらいだ。

 

「ま、それならいいや。早く焼けないかな」

「そこまで急ぐことじゃないでしょうに」

「私の腹は待ってくれないぞ?」

「少し前にお粥食べませんでしたっけ?」

「それじゃあ全然足りないし、それにこっちにいたのがかなり空いてたからその分食いたい」

「…もう少し追加した方がいいですかね?」

「しろ」

「はーい」

 

あとで干して水分を飛ばしておこうと思っていた茸も金網の上に乗せる。明日の分はまた採ろう。

最初に置いた茸から水分が出てきた。うん、もう十分かな?醤油をかけると、ジューッとかなりいい音を立てる。よし、大丈夫でしょ。皿を取り出し、金網から移していく。

 

「こっちも大体焼けたぞー」

「そうですか?んー…、そうですね。ちゃんと焼けてますよ」

 

多分。ま、採ったばかりだし、少しくらい生でも問題ないでしょう。きっと。わたしは大丈夫だった、はず。…あれ?その後お腹壊したような…?…ま、いっか。

後に乗せた方も火が通ったようなので、今度は塩を軽く振ってから皿に移していく。

 

「先食べてていいですよ。洋梨の皮剥いてますから」

「お、そうか?」

 

そう言うと、すぐに魚に齧り付いた。慧音がいたら説教が飛んでくるだろうが、わたしは気にしない。かなりの速さで口の中に次々と放り込まれていくが、わたしの分って残るのかな?

包丁を添え、洋梨をクルクルと回しながら皮を剥く。うん、身が少し滑って剥き辛かったけど、何とか出来た。皮は途中で切れることなく、ちゃんと一本に繋がってる。

 

「食べます?」

「ちょ…っと、ング…待っ…()、くれ…」

「急いで食べたらそれだけ早くなくなりますよ?」

「ムグ…、そんなの当たり前じゃん」

「ま、そうですね。…ああ、わたしの分残してくれたんですね。よかったよかった」

 

四分の一も残ってないけど。ま、今のわたしにとっては十分かな。

洋梨を萃香さんの口に押し込んでから魚を食べる。…お、ちゃんと火が通ってる。うん、美味しい。これで小骨が喉に引っ掛かることがなければ、もうちょっと食べる頻度を上げてもいいんだけどなぁ…。

茸は醤油も塩も合う。簡単に調理出来るし、スープの具に真っ先に使われるし、そこら中に生えてるし、茸って便利だよね。毒茸さえ選ばなければ、ね。

食べ終わって残された骨を金網に乗せ、水分を飛ばす。魚の骨は火で炙って残さず食べよう。いつの日か食べた煎餅のようにカリッとするくらいまで炙れば食べれるはずだから。シューシューと音を立てている骨が焦げないようにジッと見つめていると、突然萃香さんが話しかけてきた。

 

「なあ」

「はい?何でしょう」

「…大丈夫か?」

「怪我とかはしてないはずですよ?それに、永琳さんも大丈夫って言ってましたし。…どうかしました?」

「いや、ならいいんだ。…いいんだ」

 

洋梨の芯を噛み千切りながら言った萃香さんは、外を見始めた。そのときの眼が、やけに鋭かったのが気になった。

 


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