あれから数分ーー
俺は愛里寿に今までの経緯を話していった。ちなみに後ろのテーブル席では、未だに安斎が後輩達に慰められている。
「...という訳なんだ。愛里寿に話していなかったのは悪かったよ。俺もまさか全国大会にまで関わるとは思ってなくてな」
初めは練習試合を1度だけのつもりだったからなぁ。
「兄さまの言い分は分かった。だけど、女の子と仲良くしすぎ」
「いや、俺としてはそんなつもり全くないんだがな...はい、以後気をつけます」
「罰として今日の晩御飯はハンバーグがいい!島田の実家にいた時に兄さまがよく作ってくれたやつ。」
「オーケー、目玉焼きの乗ったやつだな。最ッ高に美味しいハンバーグ作ってやるから!」
目玉焼きを乗せたハンバーグ。昔よく愛里寿に作ってやっていたもので、愛里寿の好物だ。
「それと、えっと...あのチーズくさい人」
「チーズ..?あぁ安斎な。おーい安斎ー!愛里寿がお前に話があるってよ」
テーブル席にいる安斎を手招きして呼び出した。どうやら後輩達から慰められて少し元気になったようだ。
あ、けど愛里寿と少し距離置いてる。チーズくさいと言われたのをまだ気にしているようだ。不覚にもちょっと笑いそうになってしまった。
「愛里寿、改めて紹介するよ。こっちは俺が教官をしているアンツィオ戦車道チームの隊長、安斎千代美だ」 「安斎と呼ぶなぁ!アンチョビだ!」
「そしてこの可愛らしい少女が俺の妹、島田愛里寿だ。どうだ可愛いだろ?可愛いって言え」 「私の時と扱い違いすぎないか!?」
うーん、いいツッコミだ。それでこそからかい甲斐があるってもんだ。
「よろしく......千代美。今日から1週間、私もあなた達の指導に加わらせて貰うから」
「だから、アンチョ...なんだってえぇぇ!!!」
店内全体に響き渡る声で安斎が叫ぶ。これが通常の営業時なら追い出しているところだ。しかし俺も少なからず驚いた。あの人見知りの愛里寿がほぼ初対面のアンツィオの面々に指導の協力をするとは。
「諸君、聞け!白兎だけでなく、大学選抜チームの隊長である島田愛里寿までもが我がアンツィオに協力してくれるぞ!2回戦も勝つぞ!いや優勝するぞぉ!」
「流石ドゥーチェ!」 「もう勝ったも同然ッスね!」 「宴会だ宴会ー!」 「勝ったな、こりゃ!ハッハッハッ」 「「ドゥーチェ!ドゥーチェ!」」
勝利宣言するの早ぇよ、ドゥーチェ。
しかしこれで少しは2回戦勝利の可能性が見えてきた。それでも不安要素はまだまだ多い..。あくまで可能性が少し上がったに過ぎないが。
「よーしお前達ぃ!湯を沸かせ、釜を炊けぇ!今日はこのまま島田愛里寿の歓迎宴会だぁ!!」
いや沸かさせねぇし炊かさせねぇよ!ここ、俺の店!しかも今日は定休日だからっ!
と、突っ込もうとしたがその前に口を開いたのは愛里寿の方だった。
「勘違いしないでね、千代美。私はあくまで島田白兎の妹として、あなた達を指導する兄さまの手伝いをするだけだから。大学選抜や島田流は関係ない。それに今日はこちらに来るので疲れたから歓迎会はしなくていい」
「あ、ハイ..」
うーん..13歳に尻に敷かれる高校3年生がもうそこにいた。
さて、愛里寿もアンツィオまでの移動で疲れているし今日のところは解散させるか。俺もハンバーグの下拵えをしないといけないしな。
「よぉーし、お前ら!飯も食ったし十分騒いだだろ!今日は早く帰って明日からの訓練に備えておけー!」
「「「はーーーい」」」
腹も膨れ、騒ぎ疲れて大人しくなったアンツィオの生徒達を店の外まで見送る。
最後に店から出てきた安斎が、眉をハの字にして申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
「休日なのにすまなかったな。結局いつもと変わらない騒ぎになってしまってあまり話も出来なかったが、明日からどうする..白兎?」
「まぁ、このノリにもバカ騒ぎにもいい加減慣れてきたとこだ。明日の事については後で俺と愛里寿とで考えておく。明日からはいつも以上に厳しくいくからな。頼んだぞ、ドゥーチェ」
「あ..あぁ!このドゥーチェに任せておけ!ではまた明日な、白兎!よぉーし、帰るぞぉお前達!!」
最後まで元気に騒がしく、アンツィオの面々は嵐のようにやって来て、そして去っていった。
ーーーーーーーーーー
「確かに、今の状況では聖グロリアーナ相手に勝つのは難しいだろうね...」
「そうなんだよなー。機動性に関してはかなりのものなんだが、如何せん火力の面がなぁ..」
「それにまだ全体の動きにムラが多い。指揮系統が良くても実行までに時間が掛かりすぎるね。」
あれから俺達は久しぶりに兄妹水入らずの夕食を楽しんだ。メニューは愛里寿のリクエスト通り、目玉焼き乗せハンバーグとライスにサラダ、そしてデザートに苺のティラミス。
久方ぶりに味わった兄のハンバーグにご満悦だったようで、いつの間にか愛里寿の機嫌も治っていた。よかったよかった..。
その後の入浴時には一緒に入らないかと愛里寿に誘われたが、そこは流石に止めておいた。イエス シスコン、ノー タッチ!
そして現在、2階の俺の部屋で明日からのアンツィオチームへの指導方針について話し合っている最中だ。
「そういえば安斎が以前、P40重戦車の購入資金がもうすぐ貯まるとか言ってたな。間に合うようなら戦力的にも大分マシになるな」
「うん、恐らく聖グロリアーナのフラッグ車はチャーチルだろうから、少しでも装甲を抜ける車輌が欲しいところ」
戦車については明日にでも安斎に確認しておくとしよう。それに明日には戦車の修理も終わり、本格的な練習を開始できる。
「ねぇ、兄さま。昔よく軽戦車使ってやってたアレをやってみたら?」
「アレ...あぁ、アレか!確かにアンツィオの機動性を考えるといいかもしれないな。愛里寿もいるし2人なら効率よく出来るだろう」
今までは俺1人での指導という事もあり指示の至らない所もあったが、愛里寿の助けもあり今まで以上に教えに専念できる筈だ。
更に愛里寿は大学選抜チームの隊長を現役バリバリで務めている。ある程度戦車道から離れていた俺なんかより、余程指導に慣れているだろう。
「しかしこうやってまた愛里寿と2人で戦車道に携われる日が来るなんてな。人生分からないもんだ」
「私もまた兄さまと戦車道が出来て嬉しい。幼少の頃、兄さまと一緒に学んだ戦車道が今の私の土台であり支えになっているから」
あぁ、この言葉だけでどれだけ救われただろうか。む..まずい、目頭が。
「ちょっとホットミルクでも作ってくるよ。愛里寿も飲むだろう?」 「あ、うん」
そう言って俺はそそくさと部屋を出、1階のキッチンへと向かった。
あの場にいたら妹の前で泣いてしまいそうだったから。
「そう考えると再び戦車道に関わるきっかけをくれた安斎達にも感謝だなぁ。あと練習試合のみで辞める予定だった俺に続ける後押しをしてくれたダージリンにもな。まぁ感謝はするが、次の試合には勝たせてもらうけどな」
軽く深呼吸をする。少しは落ち着いたようだ。結局涙を流すことはなかったので顔を洗う必要もなさそうだ。
牛乳を温めてハチミツを混ぜホットミルクを2人分作る。これも島田の実家にいた頃に愛里寿と寝る前によく飲んでいたものだ。
それを持って部屋へ戻ると、妹は机にうつ伏せになった状態で眠っていた。長旅の疲れもあり疲れがピークに達したのだろう。遅くまで付き合わせてしまって、少し悪い事をしたな。
起こさないようにゆっくりと愛里寿をベットに運び、部屋の電気を消した。
俺はまだ温かい2つの牛乳を持って再び1階に降り、最後に明日からの流れをノートに纏めた。
ホットミルクで温まった俺の身体は、それから15分もせずに眠気に襲われることになった。欠伸をしながら空になった2つのコップを洗い、俺は再び寝室へと戻っていった。
既に眠っている愛里寿を起こさないように静かに、携帯電話のライトを使ってベットの隣に敷いた布団へと横になる。
当初予定していた休日のプランとは全く違うものになってしまったが、なかなかに慌ただしくも楽しい1日だった。たまにはこんな休日も悪くない。
そんな事を思いながら、彼は久しぶりに再会した妹と共に深い眠りへと落ちていった。
アプリ「戦車道大作戦」のアンツィオ制服愛里寿が可愛する問題につきまして。
あれ...?愛里寿アンツィオ転校ワンチャンあるか?!いやけどチーズもオリーブもアンチョビも苦手だもんなぁ~どうなんだ、公式ィィ!!