喫茶店長の戦車道指導譚~アンツィオ風味~   作:とらまる@

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1︰艦外れの喫茶店

ここはアンツィオ高校学園艦にある、小さな隠れた名店「喫茶キャロル」

 

自分で名店なんて呼ぶのは少し恥ずかしいが、『小さな』と『隠れた』の部分なら胸を張って言える。

なんせ表の商店街から路地裏に入って更に奥に抜けた、町外れならぬ艦外れにこの店はあるのだ。

それでもこの店を始めて早2年。自慢の料理たちが噂に噂を呼び、今では常連客も増え店も軌道に乗り始めている。

そして現在もアンツィオ高校の可愛らしい女生徒たちが、学校帰りにうちの店に足を運んでくれている。

 

「てんちょーー!!日替わりピザとボロネーゼ、おかわりくださーい!」

 

「ペパロニ姉さん!私、リゾットがいいッス!サフランリゾット!」

 

「ドゥーチェ、それ美味しそうですねー!一口くださいよー!」

 

「店長、ワインおかわりくださーい!」

 

「一口だけだぞ・・・あぁ!!一口だけだって言っただろうがァ!!」

 

「すいませ~ん、お水のおかわりいただけますか~?」

 

「てんちょーー!!サフランリゾット追加ッス!」

 

「お腹すいたーーーテンチョーまだー??」

 

 

しかしまぁ可愛いのは外見だけで口を開けばこれである。

 

「お前らうるっさい!!他に客がいないからって大声で騒ぎすぎなんだよ!」

 

「えーーでも店長、ここの客って殆んどがアンツィオの生徒じゃないッスか」

 

「ぐっぬぬぬ・・・」

 

そう、確かに常連は増えた。だがその殆んどがこのアンツィオ高校の生徒なのだ。

上手いこと反論ができないまま俺は作り終えたばかりのラザニアを皿に移した。

 

「ほら、野菜たっぷりラザニアおまたせ!ペパロニ、おかわりとリゾット今から作るから待ってろ!カルパッチョ、すまんが水はカウンターにピッチャーがあるからセルフで頼む!安斎、涙目になってないで他のやつ静かにさせろよ!あとワインじゃなくて大人のブドウジュースって言えっていってるだろう!」

 

「な、なんで私だけ苗字呼びなんだぁ!?」

 

なにか安斎の声が聞こえた気がしたが気にしない。

まったく・・と溜め息をつきながらもワイn・・もとい大人のブドウジュースをグラスに注ぐ。

 

そしてそれからも注文を受けては料理を作り、やっといま手が空いて休憩できたところだ。

俺は換気扇の下に行くと愛用の紙巻き煙草アークローヤルに火をつけた。

 

フーーッと煙を吐きカウンター越しに彼女たちに目をやると、腹が満たされ満足したようで話題は戦車道の話へと移っていた。

 

そう、彼女たちはアンツィオの戦車道チームのメンバーなのだ。隊長のアンチョビこと安斎千代美、副隊長のペパロニとカルパッチョ。そして今年入学したての数多くの1年生たち。

今日も戦車道の練習の帰りだろう。体を動かした後ということで相変わらずよく食べる。太っても知らねーぞ。

 

「いやーもうすぐ念願のP40も買えるし鬼に金棒ッスね、ドゥーチェ!」

 

「だからってあんまり調子に乗るんじゃないぞ、ただでさえうちは他校との交流試合が少なくて経験不足なんだから!」

 

「いやほら、そこはノリと勢いでどうにかするのがアンツィオ流じゃないっすかー」

 

「それで今まで負けてるんだろー!もうちょっと頭を使え、頭をー!」

 

いやーペパロニさん流石だわー。そのプラス思考見習いたいわーマジで。

 

だが、まぁ確かに安斎が焦るのも分かる。実直にいえばアンツィオの戦車道チームは弱いのだ。いや安斎がアンツィオに入学してからは、大分マシになったらしい。戦い方も随分と変わった。

それでもこのままでは今年の全国大会も1回戦突破が関の山だろう。

 

そうだな、俺ならアンツィオの機動性を活かして陽動作戦を...いや止めておこう。

もう俺には戦車道なんて関係のないことだ。

さて、アイツらに食後のデザートでもサービスしてやろう。

 

そして俺は静かに煙草の火を消した。

 

 

 


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