レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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前回までのあらすじ!

パチェの財産を盗んだ霧雨魔理沙を追い、はるばる人里まで来たレミィと咲夜。だが、突如理性を失い獣のように暴走し始めた咲夜。一体彼女の身体に何が!? 考える間もなく、暴走した咲夜は一人の罪なき少女を人質に取る。
何もできず誰もが行く末を見守る中、現れたのはまさかの霧雨魔理沙! 果敢にも彼女は一人暴走した咲夜に挑む。しかし、互いに力の差は互角であり決着はいつまで経っても着く事はなかった。そして、彼女達の闘いにより遂に長き眠りについていた伝説の猛獣・ハクタクが覚醒! 戦いは更に激化していき、血で血を洗うような光景に……。

誰もが絶望したその時、1人の僧侶が天から舞い降りた――――その名は、白蓮!!

果たして、この絶望しきった世界を白蓮は救う事ができるのだろうか!!

※これはフィクションであり、登場する人物や団体は全て架空のものです。本編とは一切何も関係はございません。





と言う訳で、偽のあらすじでした。読んでくれたら幸いです。


7・VIP待遇な死刑宣告……猶予はありません!

「あれほど里で騒ぎを起こすなと、何度言えば分かるんだお前達は……」

「「すみませんでした」」

 

 咲夜と魔理沙は口を揃えて謝罪の言葉を述べる。

 あの騒動から少し時間が経ち、私達は里のとある一軒にて今現在お叱りを受けていた。少しとは言ったのだけれど、あれから1時間弱は過ぎている。その間ずっと正座の姿勢で座り続けているものだから、かなり足が痺れていた。早く楽にしたい。でも、彼女らの前に座る女性がそれを許すにはもう少し時間が掛かる。

 

「あのな、お前達はもう少し節度というのをわきまえる事ができないのか? こういうのもアレだが、お前達はしたないぞ」

 

 彼女の言葉に対し、何も返せないでいる咲夜と魔理沙。暫しの静寂が訪れる。聞こえてくるのは、息をする音と外の活気溢れる人々の声。一体、いつまでこれが続くのだろうか。もしかすると、永遠なんて事はないよね? それだと、我が家に帰れなくて困る。それに、フランが寂しさのあまりいつもの破壊衝動が生まれて大発狂しかねない。ホンマ、しんどいからよしてくれ。パチェと小悪魔だけでは抑えきれないかもしれないのよ!

 永遠にも感じ始めてきたその時、

 

「はいはい、お説教もここまでにしましょうね~」

 

 のんびりとした口調で、一人の女性が畳間に入ってくる。少しばかりか、張り詰めていた空気がほぐれた感じがした。蒼銀の髪の女性は彼女を見るなり、

 

「でもな、コイツらは一癖二癖もある連中だ。厳重に注意してやらんと学ばん」

「もう、慧音さんったら……。それは一理あるのだけれど、こう何時間もそんな事に気を取られていては本業の方が危ういですよ? 臨時として代わりに私が寺小屋の生徒達に教えているのだけれど、そろそろ交代してもらいたいのですが……」

「むぅ……仕方がない。まだまだ説教足りない所はあるのだが、今回はここまでにしよう。後日、またここにきて説教の続きだ」

 

 そう言い、慧音と呼ばれた女性は畳間を出ていくのであった。

 あ、そうそう。この際だから、慧音ともう一人について軽く紹介しておくわ。まずは慧音の方ね。彼女は上白沢慧音。半人半妖の麗人で、里の有力者の一人。というより、里を取りまとめている人物の一人である。普段はこの寺小屋にて生徒達に勉学を学ばせているかなりの知識人。特に歴史に関して言えば右に出る者がいないほど詳しい。いわゆる歴女って奴でもあるわ。まぁ、当の本人の前でそんな事言うと頭突きをもらう事になる。それにもう一つ、頭突きの名人という事でも知られている一面があるのだ。彼女をマジで怒らせた時の頭突きというのは、本当に洒落にならない。厳重注意よ。ちなみに、咲夜と魔理沙のあの騒動も彼女の頭突きによって沈められたのは言うまでもない話。あのドS咲夜が一発で沈められたのを見たのは私も生まれて初めてだったよ。

 そしてもう一人の方、先ほどからグラデーション掛かった髪が綺麗でつい見とれてしまう彼女は聖白蓮。里にある寺、命蓮寺と呼ばれる所の僧侶である。当の本人はこの呼び方をあまり好んでないらしく、比丘尼と呼んで欲しいと自らそう言う。比丘尼とは女性の僧侶の事ね。こういう系は結構複雑だから、適当に呼んだ方が良いと思うけど変な所で几帳面なのよね。困るわ……

 聖は、職業柄で住職として知られているが実は大魔女でもある。パチェとはタイプが全く異なり、肉体強化魔法に長けている。これのおかげで千年もの時を若々しく保っていられているとかないとか……。それはともかく、彼女も咲夜達の暴走を止めてくれた有り難い人物であった。

 

「さて、そういう訳ですから。お二人方は後日、寺小屋にきて反省会の続きをしましょうね」

「えー……嫌なんだけど」

「あら、珍しく貴方と意見が合うわ。私もそう思っていたのよ。それに、私の場合はメイドとしての職務を全うする義務があるもの」

 

 慧音がその場からいなくなった瞬間、口々にそう言いだす。お前ら小学生児かっ! 見た目のわりに幼稚だな!?

 

「咲夜さん、貴方の場合は今回はそこにいるお嬢様に特別許可を得てるから心配は無用よ。安心していらっしゃい♪」

「ぐぬっ……!?」

 

 逃げ場を失い、言葉も失ったメイド。てか、何をしれっとアンタだけ逃げようとしてんのよ。全く、こいつは本当に駄目なメイドね。それにドSだし。今回は自業自得よ、ざまぁみろ!

 

「あ、それと紅魔館のお嬢さん。貴方は後で慧音さんの所に行くように、と彼女から伝言ね」

「え!?」

「……ぷっ」

 

 突如言い渡された死刑宣告。しかもよりによって私だけVIP待遇の奴。いやいや、おかしいでしょ!? こんな理不尽な事ってある? それと、咲夜。お前、誰にもバレてないとでも思うな。笑うんじゃない!

 

「それってどういう事よ!?」

「まぁ、後で行ってみれば分かるでしょう」

 

 母性溢れる笑みでそう返す聖。存外、アンタも適当な事しか言わないのかよ! 聖人というのは、見た目と裏腹に黒光りするとてつもなくヤバいものを持っている事を思い知らされた気がするよ……。

 

「それじゃ、それまでの間少々お遊戯でもしましょう」

 

 パン、と手を叩いて聖は言う。そして、懐から何かを取り出した。それは多くの絵柄が描かれているカードのような代物であって。

 

「あら、住職さんにしては珍しいものね。トランプだなんて、持っていたのですか?」

「ええ、この前お気に入りの古物屋さんに訪ねてみた時に素敵だな~っと思って、思わず買っちゃったんです」

「お、こーりんの所に置いてあった奴じゃねえか。これってとらんぷって言うのか……へぇー」

 

 聖が取り出したのは、トランプであった。私はよく咲夜が手品を披露する際に見ているので馴染みのある物であった。でも、聖にとっては物珍しい物に見えたのだろう。

 

「それにしても、聖。アンタは職業柄こういった物にのめり込んで大丈夫なの?」

「まぁ、少しだけなら良しとしています。あまり俗物に染まり切るといけないので、程ほどにはしています」

「へー、緩いのねアンタの所の寺は」

「妖怪も人間も分け隔てなく、平等である事に重きを置いてるので。では、早速始めましょう」

 

 人間も妖怪もみな平等。それをモットーにしている命蓮寺ならではといった所である。だからなのだろう、聖には厚い人望があるのは。私も少し見習わなければいけない。

 そして、それとは別に私はある事に疑問を持った。

 

「ねぇ、聖。アンタ、トランプの遊び方って知ってるの?」

「知らないですね」

「「「……」」」

 

 即答である。てか、遊び方も知らないのによくそんな物持ってこれたな! 私か咲夜がいなかったら一体どうしてくれてんだよ! もしかして、トランプを使って弾幕ごっことかそんなバカげた事考えてないよね!?

 

「……あら、何か?」

「いや、なんていうか……聖ってばどうやって遊ぼうと思ってたのかなって」

「それは……こうして」

 

 聖はカードの一枚を抜き取り、それを手に持つ。この時点で私の中で嫌な予感がざわついていた。だが、この後取った聖の行動というのが私の嫌な予感が的中するものであったという事を、あえて先に言わせてもらうわ。

 

「こうするのです」

 

 聖はそのままカードを思いっきりぶん投げた。くるくると、回転しながら飛んで行くカードは私の頬を掠めて壁に突き刺さる。

 

「「「それ絶対に間違ってるよ!?」」」

 

 予感通りであった。聖はトランプを『相手に向かって全力で投げつけて遊ぶもの』と捉えていた。そんなの単なるバイオレンスな弾幕ごっこよ! しかも掠った時の余波で頬に傷ができてるんですけどぉーーっ!?

 

「と、とりあえず……そういうお遊戯じゃないから。これからちゃんとしたもの教えるわ」

 

 こうして、私達は一番知られているであろうトランプを使ったゲーム『ババ抜き』をするのであった。ルール説明している間、妙に聖の顔が般若の顔していたのは気のせいだと思いながら。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 あの後、壮絶なババ抜きが繰り広げられた事は言うまでもなかった。というより、聖の顔つきがとにかくヤバくてカードを抜き取る手から溢れ出る脂汗ってのが尋常ではなかった。咲夜も魔理沙も、震える手でカードを抜き取っていた。明らかにババ(ジョーカー)を手にしていた時の聖の表情。ババのある方に手を向ければ仏の顔、ババではない方に向ければ般若の顔。と、軽くトラウマを植え付けられるようなものであった。アレは酷い。今までやってきたババ抜きで一番酷かったのは言うまでもない。フランとババ抜きした時は、感情が爆発して館が半壊で済む程度だった。でも、聖の場合は命に関わっていた。『ババを取らないとぶっ○すぞ』と鬼気迫る表情で物語ってくる。あれは反則級の技だ。しかし、公式ではそれも心理戦の内として公認されている。そこを理解している辺り、聖は質が悪いと言えよう。何か抗議しようものなら、般若心経フックか南無阿弥陀仏アッパーが飛んでくる。この世の地獄というのを垣間見た気がするよ……。今でも生きた心地がしない。

 夜になって、未だに延長戦を志願する聖。いい加減にしてほしい。誰もがそう思いだした頃、私だけが何故か彼女の束縛から開放された。そして今、廊下を一人とぼとぼ歩いてるのである。

 

「全く……あんなのババ抜きなんかじゃないわよ。聖のワンマンショーでしょ」

 

 軽く愚痴が零れ出た。そこで私はハッと周りを見回す。もし、今のを本人に聞かれていたら確実にやられる。そう思ったからだ。だが、周りには人の気配はしなかった。不幸中の幸いである。

 

「ワンマンショーとは一体何の事だ?」

「あぁぁああぁああぁっ! 何でもないですぅ!!」

 

 突如、背後から声が掛けられる。私は思わず驚いて奇声じみた悲鳴を上げてしまう。

 

「こら、急に大声出すな! 今は夜だぞ!」

 

 そう怒鳴られ、何者かによる頭突きをくらわされる私。ごん、と鈍い音がなった後に激痛が走る。滅茶苦茶痛い。それに、こんな怒り方をするような人物と言えば一人しかいない。そこに思い至った時、軽くパニック状態だった私は冷静さを取り戻した。

 

「って、なんだ慧音か。おどかさないでよ……」

「そんなつもりは毛頭なかったのだが、済まない」

 

 何か申し訳ない事をしたと思った慧音は私に謝る。

 

「良いわよ別に、私が勝手に驚いただけだから」

 

 そう言って、私は慧音に頭を上げてもらう。先程まで咲夜と魔理沙に説教をしていた……とは思えないようなやや弱々しい顔がそこにある。下目使いでそんな顔されたので、一瞬だけドキっとしてしまったのは内緒。真面目な人間ほどギャップてのは効果を発揮するらしい。

 

「まぁ、こんな所で立ち話もあれだから。中に入るぞ」

「そ、そうね。廊下での立ち話は少し寒いわ」

「温かいお茶でもご馳走するとしよう」

「それはありがたいわ」

「それじゃ、私はお茶を用意してくるから先に部屋に入っておくといい」

「そうさせてもらうわ」

 

 そう言った私ではあるのだが、実は内心ビクビクしている真っ最中なのである。理由? そんなの、あのグラデーションば…お姉さんが言ってたじゃない。これから私は個人特別の死刑を受ける事になるのよ。ああ、怖い怖い。何されるのか分からないから、余計に怖い。今すぐにでも逃げ出したい気分である。

 でも、ここで逃げ出したら紅魔館の主として格好がつかない。どうせ死ぬなら格好良く死ぬ。それが私の死に様ポリシー。誰にも譲れはしないわ!

 意を決した私は戸を開ける。正直な所、夜は冷え込むので吸血鬼である私でも外での長居はしたくない。暖を取って過ごすのはどの種族も同じなのよ。

 そんな訳で、そそくさと中に入る私。

 

「……アンタがここに来るなんて珍しい事もあるのね」

 

 中に入ると先客がいた。それに、私を知っているような口振り。私と何かしら関係のある人物である。

 誰だろう? と思いながら私は戸からその人物に視線を向ける。そこに居たのは、

 

「昼間以来ね、レミリア」

 

 少女と談話をする霊夢の姿であった。


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