レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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機動戦士ガンダムOOのBGMが無駄にカッコいい。それを聞いていた影響か、ストーリーがややシリアス気味になってしまった。ちょこちょこ、小ネタも挟み込んでいたりする。前回がそうだった。

そんなこんなで孤立無援の状態のレミリアに、遂に仲間が現れます。読んでくれたら幸いです。


4・妹に狂いはありません!

 朝を迎え、咲夜に叩き起こされる。『もうあと十分……』などと甘えると、必ず頭にナイフを突きつけてくる。そこんところ、本当に容赦がない。それにだ、随分と濃厚な殺気を含ませて笑顔で突きつけるあの様は、ハリウッドのホラー映画となんら変わりない。いつも刺激的なモーニングコールのおかげで、私の肌は荒れ放題よ。だって、迫りくる死がすぐそこにあるんだから。その時の私の精神状態といったら虫の息だ。放っておけば、そのまま自我崩壊するんじゃね? ってなる。だって、青く艶やかな私の髪の毛が白髪になるくらいだもん。マジで洒落になってない。

 威厳と吸血鬼の能力(但し、暗視と羽根を除く)を失ってからの私の日常というのは、散々なものであった。

 毎朝恒例、咲夜の暴力極まりないモーニングコール。私はこれをバイオレンス・モーニングと呼んでいる。命からがらの起床後に待ち受ける50キロランニング。しかも完走できなかったら朝食抜きという、とんでもないペナルティ付き。どんなに死ぬ気になっても、完走し終える頃には昼過ぎているのでいつも朝食抜きなのは確定である。そして、咲夜自身はその事について何も触れない。本当に化けの皮被った鬼だお。こんな事しても意味がない。

 咲夜にその事について話しても、

 

「それじゃ、これからは走る前に豪華な朝食を頂きになってから走ってもらいます。ちなみに、走っている途中で吐いたりしないようにしてくださいね。私が愛情込めて作った料理なんですから」

「朝食とるタイミングがおかしいよ!?」

「それと、吐いた暁には一日中ご飯が食べれない豪華な景品がついています」

「そんな景品はいらんわ!」

「ではお嬢様、朝食を持ってくるので暫しの間お待ちください」

「分かった! 私が悪かったわ咲夜! 調子に乗ってごめんなさぁぁぁぁい!!」

 

 結果は酷くなる一方であった。本当に私の事を何とも思ってないのかな、この鬼畜メイドは。一応、弱体化したとはいえ紅魔館の主なんだからね私。てか、朝食をとった後に過激な運動して吐かない人はいないでしょ!? 誰でも絶対に気分悪くなって吐くわ!

 と、なんやかんや言うもののなんとか持ちこたえて午前の部が終わる。それから間髪入れず、午後の部に入る。少しは休ませろ。と、訴えたい気持ちではある。だけど、咲夜に反抗するとどんなしっぺ返しが返ってくるのか分からない。それ故に怖い。そもそも何か訴えかけようとすると、咲夜は眼で『何も言うな。言ったら殺す』って語るんだもん。それに力は咲夜の方が圧倒的に上だし。抵抗のしようがない。私はされるがままでいるのであった。

 午後の部は主に弾幕練習になっている。咲夜が全力で放ってくるナイフ(殺傷力あり)を下着姿で避けるという羞恥心に耐えつつ、一発でもまともに食らえばあの世行きのナイフの恐怖にも耐えなければいけない。羞恥心と恐怖心を一度に両方鍛えられる。それは傍から見れば一石二鳥の特訓に見えなくもないが、それは咲夜の本性を知らない奴だから言える事である。実際はどうかと言われれば、

 

「ほれほれ~♪ お嬢様、そんなに動きがトロいとすぐにくたばりますよぉ~?」

「はぁ……はぁ……っ! 少しは……難易度下げろ……っての! これじゃマジで死ぬから!!」

「口利きの悪い子にはもう10本ナイフを追加しないといけませんね」

「ただでさえ限界なのに、まだ追加する気かっ!?」

「何言ってるんですかお嬢様? 最盛期のお嬢様からするとこんなもの『お遊戯以下』なんじゃないんですか?」

「全方位から突きつけてくる時点でお遊戯とは呼べないから!」

「はい、もう100本追加ぁ~」

「桁が増えたぁぁぁ!? やめて、これ以上は――――あんぎゃぁぁぁっ!!」

「あちゃぁ……お尻の穴にストライクショットしちゃった♪」

 

 ドSな咲夜なので、最初から聞く耳持たずなのであった。女の子らしかぬ悲鳴を上げて、激しくのた打ち回る私。なんでかって? 貴方達は経験がないからそうやって問えるかもしれないけど。お尻の、しかもど真ん中にナイフが突き刺さった時の痛みが痛烈なのよ。痔が切れた時の痛みにも似ているし、出産する大人の女性が感じる痛みにも似ている。それはもう、意識を失うよ。どうでもいいけど、この時ばかり私の生み母の事が思い出されたね。私を産んだ時もこうやって、意識が飛ぶような激痛に耐えていたんだろうな。やっぱり、母はすごいよ。

 生命の神秘に触れて感動を覚えた所で、私が気を失ったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 スパルタ特訓……もとい、咲夜のドS行為も日が暮れれば終わる。そして、満身創痍になった身体を癒すべく風呂に入る。この時は流石の咲夜もドS行為を行わない。湯船に浸かって鼻歌を歌えるこの時だけは天国だ。

 無駄に広く造られた浴場は、さながら古代ローマのテルマエのよう。広いスペースを一人で独占できるのは、なんとも気持ちが良い。これぞ、紅魔館。今の私は古代ローマに君臨する、マリー・アントワネットみたいで心地が良い。誰か、お菓子を持ってきてくれないかしら……とか言ってみたり。

 

「ふんふんふ~ん、ふふーんふふーん♪ あぁ、傷が癒えるわぁ~」

 

 そして、この時だけなら咲夜への愚痴を思う存分にぶちまける事もできる。本当に幸せこの上ない。だが、ここに至る前に必ず関門が待ち受けている。それが、夕食の時間である。理由は至って単純。咲夜が料理を作るからだ。

 咲夜は朝、昼、晩の一日に三度行われる食事の全てを担当している。というより、ほとんど全部咲夜が取り仕切っている。どんな料理を作るのか、それも彼女の自由ってわけ。でも、これがいけなかった。咲夜は私に食べさせる料理に一品だけ必ずハズレを仕込ませている。私はそれを見切りながら食べる……事は許されず完食しなければならない。これが何気にキツイ。激辛から激マズまで、どんなのが入ってるのか。それは口にするまで分からないので余計に怖い。んで、万が一にハズレを引き当てたとしても、咲夜は決して口直しの為の品なんてものは出さない。全部食べ切り、そしてそのまま風呂へと向かうのだ。

 風呂場まで辿りつけたら、後はこっちのもん。それまでの間、舌に広がる苦みや辛さに激痛。それらに耐えるしかない。意識が朦朧とするのは必然の事であって、時には道中で意識を失って倒れてしまう事もあった。その時は風呂になんて入れさせてもらえないので、そのまま翌朝の特訓へと向かう。

 

「とにかく、今日も一日お疲れさん。明日も頑張ろう!」

「いやぁ~そんな事言われると私、照れちゃうよ~」

「それもそうよね。自分自身に向かって『お疲れさま』って言っている所、他の人に見られたら頭おかしい奴だと思われるからね」

「あ、確かにそれは一理あるかも。現に今のお姉様がそんな訳だし」

「そういえば、さっきから話がどこか噛み合ってないような……あれ?」

「どうしたのお姉様? どこか具合でも悪いの?」

「ううん、何ともないよフラン……って、フラン!?」

 

 いつの間にか、隣には金髪の少女が湯船に浸かっていた。

 彼女はフラン。フランドール・スカーレット。私の唯一血の繋がりを持った妹である。髪の色は異なるけれど、顔と赤い瞳は似ている。私も金髪のウィッグをつければフランと区別がつかないくらい似ている。そんな我が妹がいつの間にやら、私の傍にいた。妹も吸血鬼なので別段、驚く事もないのだけれど今の私は中途半端な存在。それに、この事についてはまだ妹には話していなかった。それよりも、今は何故フランがここにいるのかだ。

 

「なんでここにいるのよ!?」

「えへへ~、ここしばらくの間はお姉様と会えないでいたからさ。なんだか無性に会いたくなったの」

「そ、そうなの?」

「うん!」

 

 意外とまともな理由だった。

 思い返してみれば、最近は咲夜のドS行為に突き合わされっぱなしだったので妹の顔なんて見てなかった。いや、見させてもらえなかったの間違いね。『そんな暇があるなら、私の鍛錬に付き合いなさい』と言って、咲夜は離さないでいたからね。逃げ出そうものなら、問答無用でナイフが飛んでくる。絶対服従だったから仕方がないよね。一応、言っておくけど私が主で咲夜が側近だけど。

 

「咲夜に『お姉様はどこにいるの?』って聞いたらさ、『今は不治の病に掛かっててね。集中治療しなきゃいけないから、隔離しているの』って言ってたんだけど。どーも胡散臭いっていうか、嘘臭さがにじみ出てたから。私、すごく気になって調べていたんだよ。そしたら、さっきお姉様の鼻歌が風呂場から聞こえてきたからもしやと思ってね」

「うっ……!? もしかして、咲夜の悪口も聞いてた?」

「そりゃバッチリ!」

 

 満面の笑みとVサインを送る妹。まさか、私の独り言が妹に聞かれていたとは。我ながら恥ずかしい。

 

「……この事、言わないでくれる?」

「咲夜にって事だよね? 大丈夫だよお姉様。咲夜も私に嘘ついてたんだし、言わないよ。それよりも、これまでの間何があったのか話してくれないかな? 女の子同士、裸のお付き合いって感じで腹を割ってね」

「それもそうね」

 

 この際だし、妹に事情を説明する事にした。咲夜の態度が急に変わった事、自分の身に起こった異変。それらを全て根掘り葉掘り、ついでに咲夜への憂さ晴らしという意味合いも込めて愚痴も入れつつ話した。

 あらかた事情を聞いた後、フランは少し顔を曇らせて、

 

「そうかぁ……それは大変だったねお姉様。まさか、こんな事になっていたなんて。もっと早くお姉様の異変に気付けてあげれば、少しはマシになったのにね」

「良いの、フラン。貴方が負い目を感じる必要はないわ」

「うん」

 

 同情するのであった。フランは罰の悪い表情をしながら湯に顔を沈める。なにもフランに非があるわけではないのに。非があるのは、どちらかと言えば私だ。こんな姉で済まないと思うよ。こんなんじゃ、主として姉としても失格だ。

 

「でも、お姉様も負い目を感じる事はないんじゃないかな?」

「あれ、考えている事見抜かれてた?」

「顔に書いてあるもん。最近、お姉様ってば考えている事がよく顔に出てくるんだよね。これは直しといた方が良いと思うよ?」

「フランが鋭いだけでしょ」

「そうなのかな? 私ってば自覚がないから、もしかするとそうかもしれないね。それよりも、問題は咲夜だよね」

「そうよ、咲夜ったら私に対する仕打ちが酷いんだよ!? だからさ、聞いてよフラン! 今日も咲夜ったら、風呂に入る前に夕食で酷いもん仕込んでやがったのよ。ロブスターのステーキに本わさびをたっぷりと入れていたのよ? 香りとか見た目とかがロブスターだったから気づけなかったけど、食べた瞬間に卒倒したからね! それにさ、なんか一言言ってやろうとしたら『ハバネロぶち込むわよ?』って脅迫してくるし! もう、限界」

「お気の毒だね。本当に、マジでお世辞抜きで」

「でしょ? 一回、アイツも私と同じ目にあってもらいたいよ……」

 

 咲夜の事になると愚痴がとめどなく溢れ出てくる。それは留まることを知らないナイアガラの滝みたいに。

 ふと、フランは突然立ち上がり、

 

「ならさ、クーデター起こそうよ!」

「いや、やりたいのも山々だけどさ。今の私には到底――――」

「私がいるよ、お姉様! お姉様は一人ぼっちなんかじゃない、世界が敵に回っても私はお姉様の味方だから。地下で独りぼっちの生活送っていた私が言うんだもん。少しは妹の事、頼りにしちゃってもいいんだよ?」

「フラン……っ! 貴方、見ない間に成長したのね」

「あはは……そう言われると、なんだか照れくさいよ」

 

 照れくさそうに笑うフラン。その姿が今の私には、ちょっとだけ眩しく見えた。昔は内気で誰とも会話すらしなかった超インドアな妹が、今では劇的な成長を遂げている。姉としての立場がないくらい、それはもう勇ましい。本当に今の自分には、威厳も何もかもないんだな。そう感じてしまうのが、ちょっと心にちくっとくる。

 

「さて、そうとなれば早速……咲夜をとっちめに行くか」

「でも、フラン。咲夜は非の打ち所がない強敵よ? 『止められ』でもしたら勝気はないよ?」

「ふふん、そこんところは秘策があるんだよお姉様。私が何も考えずに突っ込むとでも?」

「少し考えていた自分がいたよ」

「もう、お姉様ったら! 私だって、いつまでも子供のままじゃないんだよ? 万が一にでもお姉様がいなくなった場合でも、この紅魔館を代理で取り仕切っていけるくらい努力してるんだからね! どーんと、この私にまかしんしゃい!」

 

 胸を張って豪語するフラン。溢れ出る自信が、その頼もしさを物語る。確かに、フランだって何時までもお子様でいられる訳ではない。成長するのは必然の事である。たまには、妹に任せてみるのも良いかもしれない。

 

「それで、具体的にはどうするの?」

「それはね、私一人じゃどうにもならないからコレを使うの」

 

 フランは何処からともなく、携帯端末らしきものを取り出した。手のひらほどのサイズがあるそれには、アーチ状のクリアパーツがついてある。はて、どこかで見覚えがあるような気が……

 

「私とお姉様をこの機械で読み取り、フュージョンアップするのよ! シュワッチ! ……ってね」

「どこぞの特撮ヒーローだよ!?」

「え、駄目だったかな? それなら、ここにある二つのベルト。片方を私、もう片方はお姉様が装着してこのガイアメモリをベルトに入れる箇所があるから、そこに突っ込んで変身して――――」

「まさかの仮面ライダー!? てか、どっからそんなもん持ってきた!?」

「ちょっと友情出演した際に貰ったんだ」

「最近、顔を見なかった理由はそれか!!」

「風来坊のお兄さん、かっこよかったなぁ……」

 

 少し期待に胸を膨らませていた私。ではあったのだけれど、フランの作戦が思いのほかトンチンカン極まりなかった。なんていうか、見ない間に頼りがいのある奴に成長したかと思えば、ただ単に特撮ものにハマっただけであった。頼りがいに見えるけど、成長の仕方がどこかおかしいよ。ヒーローにでもなるつもりか!

 特撮番組について語りだすフラン。その瞳はとてもキラキラと輝いてた。輝きすぎて、ちょっと灰になりかけているけどそこは一切気にしていないご様子。どんだけ、ドハマりしてんのよ。前に見た時は、全身迷彩柄の服を着て『メーデー! メーデー!』とか言いながら、館内を駆け回っていたし。どうやら、私の妹はテレビや映画の影響をもろに受けやすいらしい。今回は特撮ものときたか……まぁ、悪くはないよ。でも、乙女なら恋物語的な奴を見るんだけどな。私の冬ソナ貸せば良かったかな。儚く、切ないあの名作見たらフランもイチコロなはず。

 

「うーん、やっぱりユナイトでいった方が良いのかな。あっちの方が凡庸性が高そうだし、何よりサイバー感があってかっちょいいし。でも、フュージョンアップもこれから先の事考えたら悪くもないし。うむむむ……」

 

 咲夜討伐作戦に思考を巡らせる妹。暫しの間、考えるも結局は『私がぶっ壊せば済むじゃん』という結論に至り、あっけなく解決する。それ以降は、妹の趣味の話を聞きながら風呂を楽しむのであった。色々あったけど、私に味方と呼べる存在が一人増えた事はとてもありがたい事だった。


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