レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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どうも、今回はレミリアが主役ではなく咲夜が主役となっています。ですので、4話ではなく3話と4話の間、3.5話にしております。
いつもレミリアに対してドSな行為を繰り広げる咲夜さんの視点になって、楽しめていただけると幸いです。また、今回は意外なキャラクターも出てきます。


3.5・咲夜の本心

「パチュリー、状況はどうなの?」

「うーん、前からそんなに大差ないわ。大丈夫よ」

「永遠亭のお医者さんの方も何か変わった事はなかった?」

「彼女と同じね。侵蝕率はこの前とさほど変わらないわ」

「そう、それを聞けて少し安心したわ」

 

 私、十六夜咲夜は彼女達のその報告を聞いて安堵の息を漏らした。横にしていた身体をお越し、とりあえず衣服を着る。少々診察が長引いたのもあったせいか、身体がやけに冷え込んでて寒い。

 それを察してたのか、パチュリーの隣にいた小悪魔が温かいお茶を差し出した。なんとも気が利く。小悪魔に礼を言い、ついでに診てくれた彼女達にも礼を言った。

 

「ふふ、どういたしまして。ああ、それと。その呼び方は堅苦しいから『永琳』で良いわよ。なんだか私だけのけ者扱いされてるみたいで気分が良くないわ」

「分かったわ、永琳。次からはそう呼ばさせてもらうわ」

「早速そう呼んでもらえて嬉しい限りよ」

「……全く、そんな事で喜べるだなんて不思議なものね」

「長年生きていると、些細な事でも嬉しく感じるものなのよ」

「ふーん、まぁ私はそこまで長く生きてはないから知らないけど。そういうものなのね」

「あら、何を言ってるのよ。貴方だってそうでしょう? 咲夜やレミリア、それに貴方の側近も互いに下の名前で呼び合ってる仲じゃない」

「いや、下じゃなくて上の名を互いに呼び合ってるだけよ。咲夜やこあは例外だけど」

 

 永琳の僅かな違いの発言を、パチュリーは見逃さず突っ込んだ。どうやら、魔女はこういう面においては几帳面らしい。間違いを正さないと生きていけない性分なのだろう。

パチュリーの横でくすくすと笑う彼女。彼女は八意永琳。月の人間であり、私達と同じ見た目とは裏腹に3000年ほど生きてる人間である。人でありながらこんなに長生きするとは、妖怪から見ても驚きではありそうだが果たして何か長寿の秘訣でもあるのだろうか。そこら辺は謎のベールに包まれていて、ミステリアスであった。今度機会があれば一度、聞いてみる事にしよう。

 

「ところで永琳、貴方の故郷から何か情報はなかったの?」

「木星を探索していた人工衛星からの連絡が途絶えた後、月の都に謎の金属生命体の襲撃があったくらいね」

「被害状況は?」

「かなり深刻ね。都の大半が機能していないわ。まさか、あの子達がいながらあれだけの被害になるとは全くもって想定外の事態よ。恐らく、第二波が迫ってくると思うわ。その時は躊躇しないでここに来るようには伝えている感じね」

「あの月の都が、ねぇ……」

 

 私は天窓から覗く月を眺める。そこにはいつものように白く淡く、そしてどこか儚げない感じが漂う月があった。今日は満月で、いつもなら少し黄金色に光る月は何故だかこの日は、半分は銀色で半分は黄金色という奇妙な色をしていた。

 月を眺めていると、パチュリーの声が掛かる。

 

「それよりも咲夜、あなた今日の昼間レミィと弾幕練習してたってこあから聞いたけど、それ本当?」

「ええ、間違いないわ。今日の昼、お嬢様の弾幕練習をしていたわ」

「全力で?」

「そりゃ、もちろん。全力で相手してあげたわ。お嬢様が弱体化しているからと言って、手加減するのは私の誇りが許さないから」

「馬鹿っ!」

 

 パーンっ! と、乾いた音が響く。それと同時に、私の頬に痛みが走った。

 

「咲夜、あなた一歩間違えれば死んでいたのかもしれないのよ!?」

「お嬢様が死なない程度には加減してたわ。そこは問題ないわよ」

「レミィに問題がなくても、貴方自身に問題があるの! 今回はたまたま浸食率が変わらなったからよかったけど、急に悪化したりする事もあるのよ? だから無闇に力は使わないでよ!!」

 

 さきほどまで理性的でいたパチュリーは、今は感情を剥き出しにして私に雑言馬頭を浴びせる。宥めようとして駆け寄ってきた小悪魔。しかし、感情的になったパチュリーに顔面を思いっきり殴られどこかに吹っ飛んでいった。火事場の魔女の馬鹿力である。普段、喘息気味で体力もない彼女がこの時ばかり戦闘民族と化していた。魔女は理性を失うと怖い。密かに肝に銘じておこう。

 なぜこうも、パチュリーが感情を剥き出しにしてまで激昂するのか。それにはちゃんとした理由がある。

 

「今の貴方は命に関わる事態にいるのよ? もし万が一にも咲夜がいなくなったら、私とレミィ……いや、みんなが悲しむのよ? それくらい分かるでしょ……」

「そのくらい分かっているわ。でも、私には命をそっちのけてでもやらないといけない事があるから」

 

 窓に映る自分の姿を見る。そこには体の半分が銀色で蝕まれた私の姿があった。青く凛々しい瞳も、片方はそれに汚染された影響なのか黄金色に光っている。いわゆるオッドアイってやつだ。その姿を見てちょっとかっこいいな、と思いながら自惚れている私がいたりする。しかし、それは私の生命を脅かす存在である。かっこいいからとかいった理由で、そのまま放置していたら本当に危険らしい。

 

「そのやらなきゃいけない事ってのは、一体何なの咲夜?」

 

 パチュリーは涙ながらに問いかける。かなり心配しているのだろう。私は穏やかな笑みを浮かべて、

 

「そんなの、お嬢様を紅魔館の主としての威厳を保つ為に決まってるじゃない」

「やっぱりね。貴方って馬鹿ね」

「馬鹿でも何でも結構よ。私は私自身の身体の事よりも、お嬢様の身に起こった異変を解決する事を第一に動いてるんだから。言っとくけど、私はお嬢様の側近なのよ? 完全無欠で瀟洒な私の他に誰がお嬢様の側近が務まるわけ?」

 

 今の私の身体は、謎の金属生命体に体を蝕まれている身である。だからといって、私は自身のメイドという仕事を休むわけにはいかない。それに、お嬢様の事もある。あのたわわに実った胸とか、胸とか、それと胸とか。あぁもうっ! 何なのよあの胸! 考えただけでイラ立ってくる。

 

「いてて……パチュリー様!」

「あら、こあ。生きていたのね。良かったわ」

「なんか私の扱い酷くない!?」

「気のせいよ」

「気のせいじゃなくないっ!!」

 

 お嬢様の胸に対する事で苛立ちを覚えていた所に、吹っ飛ばされた小悪魔が戻ってきた。顔全体には包帯が余すところなく巻かれている。永琳に処置してもらったのだろう。顔面全体が包帯で覆われている分、小悪魔の表情は分からない。だが、口調からちょっと怒り気味だというのが伺える。

 もごもご動く包帯を見て、私は少し吹いた。

 

「ちょ、なんで咲夜さん笑ってんですか!? 包帯で見えないと思いますけど、今の私の顔風船みたいに張れているんですよ!? それに殴られた箇所にパチュリー様の握り拳の後が焼き印みたいに残っているし!! めっちゃ痛いんだからぁっ!!」

「もう一発いっとく?」

「何しれっと、とんでもない事ぬかしてるんですかパチュリー様!? しないでください、死にます!」

「大丈夫、貴方が死んでも替えはいくらでもあるわ」

「この主って、人の命を何とも思っていない!? 魔女だ! 残酷極まりない魔女がここにおる!」

「いや、魔女なんだけどね。とりあえず、もう一発くらっとけ」

「そんなぁぁぁぁ!!」

 

 悲鳴を上げる小悪魔。パチュリーは容赦なく小悪魔の顔面にもう一発拳を叩き込む。そして、小悪魔はまたどこかに吹っ飛んでいった。遠くで本が雪崩のように落ちる音と小悪魔の悲鳴。ご苦労様です。

 

「はぁ、済々したわ」

「そりゃそうでしょ。それにしてもあの使い魔、随分と苦労人な事ね。まるで優曇華を見ているみたいだわ」

「何を呑気な事言ってんのよ」

「それは良いの。さて、貴方は咲夜にいつも通り魔法で外見をカモフラージュさせておいて。今日の診断はこれで終了よ。私は先に失礼するわ」

「ええ、ありがとう永琳」

「どういたしまして。あ、それと進行を止める薬、ここに置いておくからね」

「そりゃどうも」

「それじゃ、また来るわ。お大事にね」

 

 そう言って、永琳は瓶を私の傍に置いて立ち去っていた。

 

「ねぇ、パチュリー」

「何よ咲夜」

「今の私は、お嬢様にどう見られているのかな?」

「さぁ、単なるドSに見えてんじゃない? そういやこの間、私の所にレミィが転がり込んできてね。それで貴方の事について散々言ってたわよ。あまり度が過ぎると、あの子、ブレイクしちゃうわよ?」

 

 私の知らない所で、お嬢様は私の愚痴を漏らしていたのか。これはいけないな。後でお仕置きしておかないと。お仕置きの内容は一日中下着姿で過ごさせるか、それとも、その恰好で延々と犬の物まねをさせるか。うーん、ちょっと悩むな。こういう時は両方ともやるか。よし、それ採用。

 

「そう。なら良いわ。今の調子なら気付かれることもなさそうね。さて、そろそろ私も仕事に戻らないと」

「何度も口うるさく言っておくけど、無茶だけはしないでね」

「はいはい」

「はいは一回で良いから。……っと、これで良し! もう大丈夫よ」

 

 私は鏡を見る。そこには銀色で覆われた肌ではなく、本来の血色の良い人肌があった。オッドアイは青い瞳に戻っていた。これが本来の私の姿である。

 

「咲夜ぁー、お腹が空いたわ。何か作ってちょうだい」

 

 遠くからお嬢様の声が聞こえてくる。

 

「はい、お嬢様。ただいま参ります」

 

 私はそう言い、仕事服に着替える。

 これから先、お嬢様には大変な試練が待ち構えている。それをお嬢様自身は気付かないでいる。だが、その時は人知れず刻一刻と迫っている。何とかしてお嬢様から失われた威厳を取り戻す。それが今の私の使命。そして、いずれ来る『来たるべき対話』。すべてはその時に備える為に。今の私はドSと呼ばれても構わない。それに――――

 

「私がいなくとも、立派でいて欲しいのよね……」

「声に出てるわよ咲夜。変な事言わないの」

「冗談よ、パチュリー」

「そう、なら良いけど。ほら、こんな所で物思いにふける暇があるなら早くレミィの所に行ってあげなさい。あの子、機嫌を損ねると私でも手に負えないんだから」

「それもそうね。それじゃ、行って来るわね」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 ネクタイを締め、私は腹を空かせて待っているお嬢様の所へと歩みを進めるのであった。


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