レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

3 / 18
今回は若干シリアスな展開があります。胸よりストーリーに重心がいっちゃってるんで、珍しい感覚で読めるのではないか思っております。読んでくれたら幸いです。


3・咲夜に容赦はありません!

「さて、お嬢様。これから少し私の私情に付き合ってもらいます」

「嫌よ、絶対に嫌っ!!」

「またこうやって拒んじゃって……ったく、今日はいつもの私です。なのにどうして、嫌だと仰るのですか?」

「自分の手が今何しようとしてるのか、ちゃんと見なさいよ!」

 

 スカートの裾を掴み、下へ引っ張ろうとする咲夜。

 自身の手をしばし見つめた咲夜は爽やかな笑みで一言。

 

「脱がせようとしてるんです」

「それはいつも通りとは言わないからぁぁぁぁっ!!」

 

 変態的な意味でのいつも通りだった。何が『いつも通り』なのよ。全然いつも通りじゃないじゃんっ!! てか、咲夜自身に隠されていた性癖がより一層酷さを増しているだけだし。もう嫌だ、このメイド。

 

「まぁ、それはともかく。お嬢様にはこれから私の私情に付き合ってもらいますからね。だあだあ喚こうが抵抗しようが、拒否権はありませんから」

「このドS――――っ! 鬼畜メイド、駄メイド!!」

「あまり度が過ぎますと、スカートだけじゃなくてパンツまで脱ぎ捨てますよ?」

「それだけはマジで勘弁してぇぇぇっ!!」

 

 泣き叫びながら私は咲夜に懇願する。この人、本当に容赦ないからね。一度口走った事はやり遂げるまで続けるタイプだから。ただ、それがパンツを脱ぎ捨てるというものじゃなかったら、ちょっと尊敬したかも。

 

「もう、仕方がないですね。ここはお嬢様のアレに免じてパンツまでは脱ぎ捨てないでおきましょう」

「良かった、それじゃ……」

「但し、条件があります」

「え、それってもしかして碌でもない条件じゃないよね?」

「他愛もない事言わないでください、お嬢様。碌なものではありませんから。そんな事考えるお嬢様には、やっぱりパンツまで脱ぎ捨てさせておいた方が良さそうですね」

「ごめんなさいっ! 何も言っていませんからマジで勘弁してぇぇぇっ!!」

 

 

 * * *

 

 

「うぅ……なんでよりにもよってこんな恰好で……」

 

 結局、咲夜の私情に強制的に突き合わせる羽目となった私は今、下着姿で立たされていた。晒された肌に冷気が当たってちょっと寒い。紅魔館には窓という窓がなくて日が当たらない。それだけならまだ良いのだけれど、「ちょっと恐怖感を演出するためにひんやりした空気を」という以前の私の考案の元、そういう設計になっている。夏場は熱さしのぎにもってこいだけど、夏の夜は以外にも涼しいものだ。それゆえにちょっと寒い。

 

「はーい、ではお嬢様。行きますよー」

「ねぇ、咲夜。その前に私の恰好を見て思う所はない?」

「特にないですね」

「いや、特にない事はないよ!? 私寒いんだけどっ!?」

「まぁーったく、これくらいの事で云々言わないでください。お嬢様は私に付き合う条件として、『下着姿で』って言ってたじゃないですか? なんで今更そんな事を言うんですか。我がままですか?」

「それはアンタの脅しでしょうが! 何をさりげなく私が言った事にしちゃってるのっ!? この鬼畜メイド!!」

 

 私の恰好を見て特に何も思う所がない咲夜。鬼だ、この人。それに、人を脅しておいて「え、貴方がこうしたいって言ってたじゃん?」みたいに、いかにも自分は悪い事してません風にする。他人に濡れ衣を着させるとは、随分と根性が腐ってやがる! ドSを通り越してるよ!

 

「わーわー喚く子にはお仕置きです! お嬢様、お尻を出しなさい」

「べーっ、 嫌だもんね!」

「言うことを聞かなければ……」

 

 その瞬間、天地がひっくり返るような感覚が私を襲う。あ、これは何時ぞやの……。気づいた頃には時既に遅し。私は咲夜にがっちりホールドされていた。

 これはヤバい。直感がそう告げる。嫌な脂汗がにじみ出てくる感覚を私は覚えた。目の前の咲夜未だ笑みを崩さないでいる。よく見れば目は笑ってない。マジでヤバい事しちゃったかも……

 

「はわわわ……」

「お嬢様、私の言う事は絶対です。無闇やたらに変な抵抗すると、私の能力が発動しますよ? では、お仕置きに参りましょう」

「待って、タンマ! 今のは言葉のあやという訳であって」

「言い訳言っていいわけ? ってことで、問答無用!」

 

 突き出された私のお尻に、咲夜は平手打ちをする。スパーンッと、何かが割れるような音が響く。

 

「アッ――――!!!」

 

 隕石が衝突したような痛みがお尻から全身にかけて伝わる。とんでもない痛さだ。痛みだけで意識が吹っ飛んでしまいそう。これはもはや人間が繰り出せるようなものではない。まさか、咲夜は人の形をした鬼か何かなの!?

 余りの痛みに声を上げられずにいられなかった。それくらい、本当に洒落になっていない痛みだった。傍から見たらこんなお仕置き、小さな子供に対して罰を行うお母さんみたくもない。まぁ、私の場合は主と側近という関係である。でも、身長差からすると姉妹みたいなものかも。そう言えばここだけの話、私の生みの母も悪さをした時はこうしてお尻ぺんぺんをされた事がある。あの頃は母の優しさというものがあった、温もりを感じる柔らかな痛みだった。しかし、咲夜のにはそんなのはない。ガチでお仕置きする事だけを意識した、冷たさと厳しさしかない痛み。そして、そこにちょっとした嫉妬心も含まれている。何に対する嫉妬かは、薄々ではあるが感づいてます。

 

「痛い! 超痛い!」

「痛いのは当たり前ですお嬢様。それで、反省しましたか?」

「そりゃするよっ! こんな痛いやつ二度とか勘弁だからね!」

「うむ、よろしい」

「本っ当に痛かった……まだジンジンするよ」

「では、本題に入りましょう。お嬢様、とりあえずそこに座ってください。あと、その恰好はなんか見苦しいのでなんか着てください」

 

 咲夜は私に座るよう命じる。そして、バスタオルを放り投げた。

 

「さっきから脱げだの着ろだの、ちょっとおかしくない? 結局、私は何のために脱がされたの?」

 

 放り投げられたバスタオルを受け取り、上半身をささっと隠す。その後、私は咲夜に理由を問いてみた。さっきから頑なに脱がせたがる咲夜。もしかしたら、何か理由でもあるんじゃないか。よくよく考えてみると、服を脱がせてする私情というのは。もしかすると、新しいドレスを仕立てるために私の身体の採寸をしようとしてるのではないのだろうか? そう考えると、なんとなく納得がいく。

 急に胸が大きくなった私は、今ある衣服はそのほとんどが胸あたりが窮屈になっていた為、新しいのを仕立てる必要があった。応急処置として、今は門番の服を借りているのである。門番? 一体どんな人物かって? それはまた今度の機会に。強いて言わせてもらえば、よく寝て、よく食べ、そしてよく動く人よ。

 私の考えは正しいだろうか。さて当の咲夜は、

 

「お嬢様のその乳の具合を確かめるためです。ですが、今は興ざめてしまいました」

「ですよねー」

 

 予想を斜め上どころか、斜め下。下手したら垂直落下するんじゃないかな、と思うくらいの予想外な返答が返ってきた。てか、どれだけ私の胸に執着してんのよ。逆にちょっと引くよ。いや、性格がドSだったから結構引くかな。良い方に考えていた私が馬鹿だったよ……。

 ドン引き過ぎて生返答になってしまう私。

 

「さて、お嬢様の胸に対する興味が失せてしまったのでもう一つの本題に参りましょう」

「え、もう一つあったの?」

「あったのです。本音を言わせてもらえば、もう一方の方が本命ですね」

「それって、何なの?」

 

 なんと以外。咲夜はこのくだらない一件以外にも他にあったようである。まぁ、さっきの件でかなり幻滅した私は半ば期待をせずに聞いてみる。

 

「弾幕練習ですよ、お嬢様」

「はぁ……は?」

 

 あれ、今なんて言ったんだろう。何かの聞き間違いかな?

 私はもう一度尋ねてみた。そうすると、咲夜は真顔で。

 

「だから、弾幕ごっこの練習ですよお嬢様」

「そんな事をして一体に何になるのよ?」

「逆に問いますお嬢様。今の自身の状態をご存じで?」

「下着姿でその上にバスタオル」

「こんな所でボケをかまさないでください。ちょっと腹がよじれましたよ。違います、もっと根本的な所に問題がありますでしょう? 吸血鬼として」

「あ……そういう事か!」

 

 咲夜にそう言われて改めて自分が置かれている状況を気づかされる。今の私は吸血鬼でもなくば人間でもない。なんともグレーな存在。強いて言えば人間寄りの妖怪。ダウングレードした妖怪である。身体機能は人間と同じ、だけど妖怪としての特徴をいくつか残している。そんな中途半端な妖怪が今の私である。

 

「だからなのでしょうね、最近のお嬢様から『あるもの』が感じられなくなったと感じるようになったのは」

「『あるもの』って?」

 

 咲夜は神妙な面持ちで答える。

 

「『カリスマ性』ですよ、お嬢様。今の貴方からはそれが微塵も感じられません」

 

 その単語を聞いた瞬間、雷が落ちたような衝撃を覚えた。私にカリスマがないですって? そんな馬鹿な話があるわけがない!

 

「嘘よ、そんなの嘘に決まってるでしょ!?」

「気づいていないかと思いますけど、お嬢様。現に今も貴方からそれは感じられません」

「そんな事ある筈が――――」

「そう言うだろうと思って、こちらに下級妖怪を用意しております」

 

 咲夜が指を鳴らす。すると、そこにはなかった大きな檻が現れた。中には獰猛そうな獣の妖怪が血眼になって蹲っていた。目のギラつき具合から察するに、腹を空かせていて餌を求めているようだ。

 

「では、お嬢様。この下級妖怪の前に立って威嚇してください」

「ちょっと、その前にこの恰好じゃ……」

「四の五の言わずにやってください!」

「……はい」

 

 少し怒りを含んだ咲夜の声色はいつになく怖かった。それほど本気なのだろう。先ほどまでの変態ぶりは何処へやら。

 咲夜に言われた通り、檻の前に立つ。そして目つきを鋭くした私は低い声で、

 

「伏せなさい、下級妖怪風情が」

 

 威厳をたっぷりと含ませた声色で放った。すると、檻の中で蹲っていた獣妖怪は、

 

「グルぁァァぁァぁっ!!!!」

「きゃぁっ!」

 

 勢いよく柵に体当たりをぶちかまし、ノコギリのように鋭く尖った牙を見せ今にも私を食い殺さんとばかりに柵に噛みついた。その勢いに私は怯んでしまう。

 

「どうですかお嬢様。これで明らかになりましたでしょう?」

「信じ難いけど、確かに今の私にはそれがないようね。まだ実感できないわ。まるで夢見てるみたいよ」

 

 獣妖怪は畏怖する所か、恰好の獲物を見つけたと言わんばかりの勢いで飛び掛かってきた。もし、柵がなければ今頃食い殺されていたに違いない。直前にまで迫っていた死の恐怖に、私は生まれて初めて恐怖した。

 

「つまり、そういう事です。今のお嬢様は、野良妖怪達にとっては格好の的でしかありません。このままでは、死んでしまう恐れがあるのです」

「そうならない為にも、弾幕の強化練習をしてそこら辺にごろごろいる野良妖怪達にくたばらない程度に、一から鍛え直すって言う事ね?」

「仰る通りです。それに、この館には来客も訪れたりします。今のお嬢様のお姿を見られると小馬鹿にされると思います」

 

 咲夜の言う通りだった。外観は真っ赤で不気味なのだけれど、中には物好きな連中や同じ妖怪の仲間達だって訪れる。そんな連中ってのは大抵は大妖怪、もしくは人外のどちらかだ。そんな奴らに今の私の姿を見せるのは、咲夜も私も恥ずかしい。

 そのような姿を見せないためにも、こうして鍛える必要がある。それはとても理に適っていた。

 

「そういう事です。これはお嬢様の為……いや、紅魔館として、その主としての威厳を保つ為の弾幕練習なのです!」

「妙に重圧感があるわね。でも……」

 

 このままの私でいるのも嫌だ。ならば、いっその事今はレミリア・スカーレットとしての誇りは捨て修羅にならなければならない。咲夜も同じなのだ。

 私は意を決した。このまま威厳のない自分でいるのは紅魔館の主として恥晒しなだけ。それなばいっそのこと、修羅になって一から鍛え直す。たとえその道が茨の道であろうと。

 

「このままの私は嫌。たとえ胸が大きくなった所で、吸血鬼として力を失い紅魔館の主としての威厳も失ってしまうくらいならこんな胸――――」

「いや、その胸も一応は必要なので」

「はぁっ!?」

「まぁ、それはともかく。私の弾幕練習はそんじゃそこらの大妖怪よりも厳しいですよ? お嬢様、覚悟はできていますか?」

「え、まぁ……できてるわ。でも、なんでこの胸が必要な訳?」

「それは今の段階ではお答えできかねます。ですが、いずれ話す時がくるでしょう」

「そう、なのね。なら良いわ」

 

 急に真剣な雰囲気になったと思いきや、咲夜の場違いな発言に素っ頓狂な声を上げてしまう私。しかし、なんかそれも必要っぽいらしい。やっぱり、新しい洋服を仕立てる為なのだろう。咲夜は「私の弾幕練習は厳しいぞ」と言ってるくらいだ。今の恰好ではとてもだが練習できないのだろう。

 

「ではお嬢様、早速練習に入るとしますよ」

「え、でも今私の恰好は下着姿だよ? それでもやるの?」

「当然です。思い立ったらすぐ行動。これが私のモットーなのですから」

「いや、せめて服を着させて」

「駄目です。これも弾幕練習の一環です」

「どこがだよっ!?」

 

 下着姿で弾幕練習って、羞恥心との闘いでもするのか。このメイド、なんでそんな事までするのよ? やっぱり、単なるドSなの? 今までの流れはなんだったのよ!

 

「肌身を晒す事で迫りくる弾幕の猛威というものを、己の肌で直に感じるのです。今のお嬢様の状態だと一発で死に至りますよ? それでもいいと言うなら服を着ても構いません。しかし、私は手加減しませんから」

 

 思いのほか、ちゃんとした理由であった。でも、手加減をしないって……最初から全力でやるつもりだろうか。それだとしたら、私どのみち死ななくない!?

 

「それ危険じゃん!」

「危険も承知の上です。死ぬ気で掛かってこないと、それこそ本当に死にますよ?」

「くぅ……わかったわ。そこまで言われたからには、私も全力でやるわよ!」

「それでこそ我が主です」

 

 咲夜はそう言って笑った。久しぶりに見た純粋な笑顔だった。そこにはあのドSな咲夜、パンツを脱ぎ捨てようとする咲夜はいない。瀟洒で完全無欠なメイド、十六夜咲夜の笑顔だ。あぁ、これが見たかったのよ私は。

 

 その後、咲夜と行った弾幕練習というのはもうなんというか。スパルタとしか言いようがなかった。開始直後に全方位からナイフが襲い掛かり、私は一本も避ける事が出来ずに体を蜂の巣にされたのであった。……本当に、容赦がないなこのメイド。そこんところ、やっぱりドSだったよ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。