レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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徹夜で長引いた、ちょっとだけ腰が痛い……。

今回でレミカリは最終回です。いつになくボリューム満載で読み応えがあると思います。読んで頂ければ幸いです。


最終話・レミリアに胸(カリスマ)はありません!

 気が付くと、先ほどまでの空間とは全く違う所に私は居た。仄かな灰色ではなく、完全に真っ暗闇。光も差さないこの暗黒世界に私は居る。宙に浮いている感覚から、星々の無い原初の宇宙空間にでも漂っているかのようにも感じる。

 だが、決定的にそんな世界にいるわけではないという存在が目の前にあった。

 

「対価を完全に支払う事のできなかったあの時の私は、呑まれたの。何者とも呼称しがたい存在にね。でも、その時に少なからずだけれど私はソレから逃れる事ができたの。唯一、残された私にできた事はこの子をこの空間に封じ込める事だけ。ありったけのものをそれこそ全力で掻き集めたわ」

「それじゃ、アンタは……」

「そう、私は貴女自身。でも、本当の私はあの子」

 

 彼女が言った、その視線の先にある存在。それは酷い有様だった。

 歪なまでにゆがみきった顔、それは髪の色合いでなんとか私だという事が認識できる。しかし、身体の方はというと既に人としての形を保っていなかった。

 

「残された私は必死に抵抗したわ。ソレに呑まれそうになったこともあった。でも、それでも何とかして切り抜けてきた。今、貴女が住まう世界もソレに侵食され始めているの。それはひとえに私に残された力が限界を迎え始めている事に過ぎないわ」

「待って、さっきから話が一人で進み過ぎよ。私の住んでいる世界が危ないって、一体どういう事よ?」

「貴女の身近にいる人物でこんな症状を出してた子いなかった?」

 

 彼女は自身の腕を見せる。そこには銀色で侵食された肌があった。

 ふと、脳裏にある光景が浮かぶ。つい最近の記憶、変態が館に侵入した時であった。あの時、確か咲夜の太ももにもそれと似たようなものが確かにあった。

 思い当たる節があった事を彼女は見逃さなかった。

 

「多分、あなたの側近だったと思うわ。体の一部に私と似たような症状が出ていたと思うの」

「確かに太もも辺りにあったわ。でも、それって肌が侵食されるだけで特に害はなさそうだけど?」

「見た目だけじゃ分からない事だってあるのよ。それに、侵食された者は少なからず性格に異変が生じるわ。害がないなんて妄言に過ぎないわ。侮らないで」

「何をそんなに大真面目に、てか大げさよ」

「あなたは本当に無知ね。目の前にいるあの子を差し置いて呑気な事」

「だって知らないんだもん! 呑気だって言われてもしょうがないじゃない!?」

 

 深い溜息をつく彼女。なんで今、そんな溜息をつかれたのか不満を感じずにはいられない。頬を膨らませて機嫌を損ねてしまいそうだ。

 

「まぁ、まだ説明不足な所があったから私も悪いけれどね。手短に話すわ」

「ええ、どうぞ」

「アレに侵食された者に起こる異変として、まず一つ。目に見えて分かるような異変ではないとは、確かに言ったわよね?」

「そうね、見えるとしても銀色のアレが肌に出ているかどうか」

「まず、アレが出てきたら少なくとも性格が豹変するわ。といっても、百八十度変わるわけではないわ。いつもよりちょっと過激な行動に出るとか、そんな微々たるものよ。思い当たる事はない?」

 

 そりゃあ、思い当たる事なんてあるに決まってるじゃない。

 

「私に対する仕打ちがいつにも増してた事です」

「……それっていつもの事だよね?」

 

 真剣に言ったつもりなのに、真剣に返されたのがこれだと何も言葉が思いつかない。言われてみれば、こうなる以前もちょくちょく仕打ちが酷かった記憶がある。それがどんな感じだったとか詳細は流石に覚えていないけれどね。かなり前なのだから覚えてないのも当然なのでしょう。

 

「……んで? 私はこれから何すれば良いのよ?」

 

 根本的な事を聞き忘れていたので、とりあえず聞いてみる。ここに来るまでに会って決着をつけるとは聞いてはいた。だが、どういう風に決着をつけるとまでは聞いてはいない。今のところ、私が思いつく限りでは中セヨーロッパ時代のような一騎打ち。でも、あれって傍から見てても痛そうなんだよね。痛いのは嫌いだから、なるべくなら別の方法が良いのだけれど……。

 しかし、私の淡くて切実な思いというのは届く事はなかった。

 

「簡単よ、あの子に直接挑むのよ」

「言うと思ってましたよ。てか、それ以外ありえませんよね~」

「あら、他に何か良い案でもあったの? 私なんてあの子とずっとそうやって対峙してきて、今いる貴女の世界を守って来たんだから。当然と言えば当然でしょ? それとも何、私の事バカにしているの。良い乳してる割には案外頭の中はお花畑?」

「別にそれ以外なさそうだなという事は百も承知だったよ!? でもさ、それは流石に言い過ぎでしょ!? てか、後半辺り思いっきり私の事ディスってんじゃん! 何なのよもうッ!!!」

 

 なんだかさっきからコイツといい、記憶の中の咲夜といい私をディスったり虐めたりして何がしたいのかね。私ってば私自身までに虐められる体質なのかしら。もう、本当の意味で仲間とか心のオアシスが無い。はっきり言って絶望ね。もしかしたら、今の私なら何者でもなくなった彼女のようになれるのかもしれないわね。……でも、人の形を失うのは嫌かも。少なくとも、人としての威厳だけは保っていたい……。

 

「じゃあさ、一辺聞いておいてみるけどさ。今貴女がしたい決着のつけ方は何よ?」

「チェス……とか?」

「呆れたわ。貴女ってば本当に頭の中がお花畑なのね」

「何よ、何かおかしい!?」

「おかしいも何も。貴女には目の前にいるあの子がそんな遊戯をするような思考が残っているように見えるのかしら?」

 

 指を差して彼女は言う。確かに、目先にいるあの子はどこからどう見ても人ではない。強いて言わせてもらえば、妖怪になり損ねた中途半端な存在。そんなヤツに考える事ができるのだろうか。対話などできるのだろうか。やってみなくちゃ分からない。そんな事はない、十中百区できないに決まっている。

 ならばなぜ私がこんな事を思いついてしまったのか。そんな疑問に至る。自分でも説明ができないのだが、なんかこう……漠然とした何かが私の中を駆け巡っているというか、そんな感じなのだ。やってみないと分からない、そんな事を言っているかのようにも聞こえてくるこの漠然とした何か。それに私はほんのちょっとだけ、僅かな可能性を見出したんだ。

 ――――――――でも、それでも確かめてみたいんだ。

 

「ここまで連れて来られて、さっきから何も言えずにいるけどさ。一つ言わせてもらっていいかな?」

「何よ?」

「貴女は少なからずとも、この現状を打破する事ができる可能性がある。そう見込んで私をここまで連れて来たわよね? だったら、少しは私の我儘だって聞いてもらってもいいんじゃないかな?」

「確かにそれには同意するわ。でも、いくら何でもそんな頭お花畑な貴女にこの状況が打破できるのだろうか? って、改め考えさせられると無理なのかもしれないわね」

「話を逸らすな!!!! それと黙って私の話を聞けッ!!!!」

 

 いつになく大きな声を張り出してみる。今ので少しばかり喉の中が切れたようなそんな感覚を感じた。でも、それは今気にしている場合でもない。

 

「何でもかんでも見た目とかで決めつけやがって、もうウンザリなのよ!! お花畑だろうが、平和至上主義だろうが何と言われようがどうだって良いわよんなもん!!! 今、私がしなきゃいけない事は何? この世界を守る事? いいや、違うね!」

「アンタ……急に何を言い出して」

「うっさい、黙れッ!!」

 

 彼女の頬を思いっきり引っ叩いた。生まれて初めて、自らの手で誰かを引っ叩く事をした。その感想はというと、自分の手が痛い。当然っちゃ当然だ。でも、相手も痛い事は同じだ。そんなの関係ない。

 自分が今された事がまだ理解できていないのだろうか、彼女は固まったまま動かないでいる。

 

「今、私が……いいえ。私達がしなければならない事があると思うの。アンタも、あそこでさっきからぼうっと突っ立って動かないあの子にしたってそうよ。今までアンタがアレの暴走を抑えてきた事に関しては感謝はしているわ。でも、それじゃいつまでたってもこの状況を変える事だなんてできないわ」

「……は、はは。貴女がそれを言う? 一体何を根拠にしてるのさ」

「根拠だんてはっきり言わせてもらうけど無いわ!」

「だから貴女は愚かなのよ」

「違う! 愚かなのはアンタ自身よ!! アンタもあの子も私も、もとは一人の私。それがなんでこうやってバラバラになって対立してんのよ! なんでそこに疑問を抱かないのよ!?」

 

 私にはここに来た時から疑問を抱いていた。でも、それが何なのかははっきり分からなかった。でも、こうしてもう一人の私。そしてまたもう一人の私であった彼女。こんな奴らに会ってやっとその疑問が何だったのか、その答えに辿り着いた気がした。そして、それは根本的な部分にあるんだと私は直感した。

 

「そんな事に今更疑問を抱いて何になるのさ。決まってる事じゃない! 私は! ……私は、あの子の片割れみたいな存在に過ぎない。そして、私にできる事なんてあの子の暴走を食い止める以外無いわ」

「違う、アンタがそんな理由で分裂したりして生まれるはずは無い!」

 

 激しく彼女の発言に反対する私。そして、私はある行動に出る。

 かつてもう一人の私であった者に近寄り、なんとか原型をとどめているか細い手を取った。その瞬間、ソイツの背後から突如現れた触手のような物体が私のありとあらゆる箇所を切り裂いた。

 死ぬほど痛かった。でも、私は反撃はしなかった。それにしても、即死レベルであろうこの触手の攻撃に耐える自身の肉体に若干ながら驚いた。まさか、咲夜のスパルタな特訓がこんな所で役に立つとは……。

 

「何をしているの、やめなさい!! あの子に触れちゃいけないわ!! 今すぐその手を放しなさい!!!! ソレに侵されても良いの!?」

「そんな事知ったことか!! もう触れちまってるし、離す気なんて毛頭ないわね!!」

「アンタ、まさかその子と一体化しようとしてるの!? バカな真似はよしなさい!!」

 

 そう叫んで私を引き離そうとする彼女。

 何かが私を侵していくような感覚が腕を伝ってくる。腕を見れば、先ほどまで血色のいい肌色は銀色に染められている。でも、私からすればしったこっちゃない。それに、侵食されるのと同時に何か別のものも私の体内に流れ込んできている。それは冷たいというよりもどこか遠く懐かしいような。それでいて温もりのあるものだった。

 

『…………怖く、ないの?』

 

 初めてソイツは言葉を発した。くぐもってて聞こえにくかったが、私の声である。ただ突っ立って何もしない植物かと思ったけど、どうやら違ったようだ。……って、さっき触手で切り裂かれた時点で植物でも置物でも何でもないという事は分かっていたけど。

 

「ビジュアル的にホラー感はあるわ。でも、たかがそれだけでしょ? それにここだけの話。私ってば意外とホラーものは得意な方でね。むしろ食べちゃいたいくらいだわ」

『そう……貴方は変わってるわね。あの子は私を避けてるのに……』

「アイツにはアイツなりの事情ってもんがあるのよ。それに……」

 

 コイツから流れ込んでくる得体の知れない温もりあるもの。それの中から、微かに映像が見えた。それはかつてコイツが本来の、ありのままの姿でいた頃の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私に足りていないものは果たして何なのだろうか? 富か、栄誉か、金か。否、どれもこれも全て満ち足りている。今の環境に不足だなんてものは一つもありはしない。

 ならそれでいい。なのに、何故だろうか。心の片隅に残る破片程度のこの不安は?

 何もかも満ち足りているのなら、心の片隅にそんなものなど余す事なく満足で満たされている筈だ。という事はつまり、何かしらの要素が足りていなのだろう。それが何であるのか、私には皆目見当もつかない。

 

 ある日、この不足している要素が何であるのか。側近に尋ねてみた。だが、側近にもそれは分からないと言われた。もしかしたら人間だから分からないのだろうか。そう思って特に気にする事なく、その日を過ごした。

 またある日、門番に同じ事を尋ねてみた。答えは側近と同じであった。いつも隙あらば寝ているからだろう。だらしのない妖怪風情にこんな込み入った事など分かる筈もない。そう思って、その日を過ごした。でも、私より立派にしていた態度だけは気に入らなかったから八つ裂きにしておく事にした。今夜の食卓は中華料理のフルコースになる事は間違いないだろう。

 そしてまたある日、今度は親友でもあり知識の宝庫でもある彼女に同じ事を尋ねてみた。答えはまたも同じであった。まさか、魔女にでも分からない事はあるものだと初めて知らされた事に驚きを隠せなかった。また、ついでにその場に居合わせていた使い魔にも同じ事を尋ねたのだが、笑ってごまかされた。気に入らなかったから空の彼方までぶっ放してやった。済々した。

 最後に血の繋がった妹にもこの事を聞いてみた。だが、やっぱり同じ答えが返ってきたのであった。

 

 誰に問いても分からないこの疑問は、一体何なのだろうか。それだけが気になってしまい、徐々に私の心が何か黒い靄に蝕まれていくのであった。

 そんな時だ。そこに賢者を名乗る者が現れたのだ。

 賢者は私の疑問に対して、実に見事なまで完璧と言える答えを導き出してくれた。だが、それは余りにも残酷であった。そう、今の私にとって残酷なもの。

 それは成長過程でいずれ実ってくるものであった。身長とはまた違ったそれ。身長はほんの僅かに足りていなくても、特に気にする事ではなかったがそれは女として威厳を保つには必要不可欠な代物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「でも、それに夢中になり過ぎてしまってアンタはいつしか大切なものを失っている事に気づけなかった。そして、それがアンタをこんな姿にまでしてしまう悲劇の引き金になるとは到底思ってもいなかったでしょうね」

 

 胸が足りていない。その答えに辿りつき、傲慢で欲望な私はそれを得る為にありとあらゆる事を行動に起こした。スカーレット家の威厳を保つ為にはそれも必要不可欠であった。そう判断し、それを得る為に急かした事が周りへの影響となり、いつしか今まで持っていた威厳を失ってしまっていた。

 気付いた時には時既に遅し。収拾がつかなくなった私は絶望の淵に立たされていた訳であった。

 こんな状況を打破するために考案したのが、皮肉にも悪魔との契約である。自身が望むもの、それと現状を変える為に一から世界を作り直す。それに見合う対価というものは相当なものであったのだろう。そりゃあ自身の全財産をはたいてまでじゃないと成せるだなんて、到底無理だろうからね。

 でも、悪魔との契約は非常にも釣り合わない対価として認知されてしまい、交渉決裂。結果的に叶いはしたが、自分の存在を失ってしまう事になった。

 

「でも、アンタは最後の最後まで抗った。そして思いついたのが、自分の能力を分離させること。いずれ来る時の為に、それに賭けたって訳。全財産をはたいただなんて嘘、一つだけ自分の財産を隠していたのよね」

「……それが私って事?」

「多分、そうだろうね。ま、私はぼんくらだし。そこまで相手の考えを読むことができる訳でもないわ。でも、何となくそうなんだろうなって思ったわ」

「本当に貴女は根拠のない事しか言わないわね」

「咲夜だったら『虚勢を張り過ぎてると腰痛めるわよ?』とか、絶対言いそうだけどね。ま、それよりもアンタには『この先の運命』はどう見えてんの?」

 

 私の発言に彼女は驚きを隠せないような表情でいた。何か変な事を言ったつもりはないのだけれど……。

 

「貴女……私の『能力』知ってるの!?」

「いや、知ってるも何も。そもそも、コイツの能力でしょ? それに私自身が自分の事を知らない訳があるわけないじゃない。知ってて当然よ」

「いや、貴女が知っていたのには驚きを隠せずにはいられないわよ。だって、この世界は一から作り直されていて……それでいて、記憶も何もかも変えられているはずよ?」

「うーん、なんていうの。コイツが教えてくれたって言えば分かるかな?」

「!?」

「とりあえず、今見えてんの教えろ」

 

 なんかいつまで経っても驚いたまんま動かないので、そろそろ腹が立ってきた私は怒り気味に言う。コイツ、予想外の事態が起こったらフリーズするとかパソコンか。

 

「端的に言うわ。お先真っ暗ね」

「つまりは何も見えていないって事だな?」

「え、ええ。そうともいうわね」

「歯が浮くような発言だな。もっと自信持て」

「なんかそれを貴女に言われると癪に障るわね」

「でしょ? さっきまで散々ぼろ糞言われてた私の身を思い知った所で、アンタにはやる事が一つあるわ。ちょっと手を貸しなさい」

 

 そう言って、無理やり彼女の手を掴んだ。

 

「さて、こんなくだらない茶番。とっとと終わらせてあるべき日常へ戻るわよ」

「ちょ、貴女なにを言って―――――――ッ!?」

 

 私と彼女は、ソイツに飲み込まれる。

 覚悟はとうに決めていた。いつかこんな日が来るんじゃないか、だなんて乙女の勘が訴えていたからね。特に怖いとも思ってない。てか、いい加減こんな世界にも飽きていたし。私達は本来のあるべきものへと戻らないといけない。そんな運命だった。でも、まぁ色々と楽しめたし? 結果オーライって事で良いんじゃね?

 これまで過ごしてきた日々と別れるってのはちょっと悲しいかもだけれど、いつまでもダラダラしてる訳にもいかないしね。けじめはつけとかないと!

 事情が呑み込めてないもう一人の私は傍でパニックでいる。なんかやかましいったらありはしないので、グーパンで意識を吹き飛ばしておく。アンタはコイツを抑える以外にも役割があると言ったな? アレは半分嘘だ。

 

「そんじゃ、とっとと目を覚ますとしますか」

 

 虚空を見つめ、私は息を大きく吸い込む。侵食がかなり進んでいたのだろうか、ちょっとだけ呼吸が苦しかった。でも、侵食の進行速度は先ほどまでより全然遅く緩やかなものであった。多分、この子も私の意図に気付いたのだろう。

 

 かつて思い描いた理想の私、それを描いた私。それと、たまたま分裂したもう一人の私。いつの間にやらゲシュタルト崩壊起こしてんじゃねーか! って突っ込みたくなるようなバラけ具合。まぁ、ソイツら一人一人も何かしらの事情を抱え込んでいたみたいだしね。かくいう私だってそうだし。

 いつしか、自分がすごいしてた日常が偽りのものだなんて思ってもいなかった。けど、それはそれで満喫できたと思う。今更過去を振り返るのも私らしくはないのだけれどね。まぁ、一つ悔いがあるとすれば咲夜のあの態度は納得できん。あのドSが本来のあるべき世界では無くなっている事を祈ろうではないか。

 

 薄れゆく意識の中、私は走馬灯のように思い出す日々の思い出に明け暮れる。だが、そこでまた一つ新たな疑問が生まれてしまった。これは直接私自身に関わる事ではないのだけれど一応言っておくわ。

 

「そういや、美鈴って誰だっけなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とてつもなく長い夢を見ていたような気がする。

 眠気なまこな視界をクリアにさせるべく、私はちょっとした軽い柔軟運動をする。すると、体中至る所からボキッ! という音が鳴るわ鳴るわ。恐ろしいほどまでに響き渡るのも、また怖いわ……。

 と、自身の骨の音に恐怖感を抱いていると誰かの呼ぶ声が聞こえた。

 

「美鈴ー、起きてるならちょっと来なさーい。寝ていてもいいから来なさーい。そん時はグーパンで目を覚ましてあげるから」

「それは勘弁してくださいよぉ~……」

「だったら早く来なさいな。いちいち声張り上げてアンタを呼ぶのも億劫なのよ」

「へいへ~い……」

 

 気怠い返事をして、とぼとぼと声の主の方へと向かう私。そこには声の主らしき少女が見晴らしの良さげなバルコニーでティータイムに入り浸っていた。側には替えのお茶を準備するメイドの姿もある。

 

「んで、何用でお嬢様はお呼びになられたんです?」

「いや、特にこれと言ってはなんだけど。たまには皆でお茶でもしようかと」

「こりゃまた唐突ですね、それにしても……」

「ん? 何よ美鈴? 私の顔に何か変なもんでもついてるの?」

「いや、ついてはいないのですが……」

 

 私はある部分を見つめる。……気のせいかもしれないけど、少し成長しているような。服越しとはいえ、ちょっとだけ突起ができ始めているという事は少なからず成長している。うん、順調そうで何よりで。

 

「お嬢様、胸おっきくなりましたね~」

「!?」

 

 お嬢様、その傍にいるメイドの目つきが急に鋭くなった。目線は私を追ってお嬢様のある部分へ。そして私を二度見るなり、

 

(後で覚えておけ……)

(ちょ、勘弁してくださいってばぁ!?)

 

 口パクで処刑宣告された。ちなみにこのメイド、処刑の仕方がマジでえげつない。居眠り常習犯な私に対しては特に、だ。これから待ち受けている拷問から逃げる事はできないし、言った言葉は戻ってこないし……。うん、助け船はないね。ここは諦めよう! 素直に拷問受けよう。なーに、大したことないさ。ちょっとだけ意識が吹っ飛ぶだけだからね。別に痛気持ちいわけではない。痛すぎて意識が吹っ飛ぶんですからね。そこんところ、勘違いしないでくださいよ~?

 

「美鈴……」

 

 私の名を呼び、すっと音も無く立ち上がる。やばい、これは地雷を踏んでしまったか。

 メイドのみならず、お嬢様直々の拷問もセットでついてくるとなるとこれは流石にキツイ。耐えきれるかどうかと言われたら無理。だって、お嬢様ってば由緒ある家系の吸血鬼なんですもの。見た目幼いけど威力は凄まじいからね? この間、お嬢様の妹と弾幕ごっこして遊んでたらどの辺から趣旨が変わったのか、急に格闘戦になってしまってね。その時、もろに腹に一発もらったんですよ。そしたらお腹に風穴が開いてましてね。おお、怖い怖い。痛みも感じなかったから尚更でしたよ。もう二度とあんな体験はしたくないです。

 

「お嬢様、もう手遅れかもしれませんが私の至らぬ行為に対して謝罪を申し上げます。ですので、グーパンは控えてもらってよろしいでしょうか? トラウマになりそうです」

「いや、別にそんな物騒な事しないわよ。てか、誰にそんな事されたのよ?」

「妹様に、過去に一度……」

「やんちゃだった頃のフランに一発貰ってたの!? 道理でそんな発言ができる訳ね。まぁ、でも安心して美鈴。私は暴力に訴えるような子ではないから」

「お嬢様……」

 

 やば、今のお嬢様は天使に見える。私の失言をまるで聞いてすらいなかった素振り、懐が深いやらちょっと悲しいやらと色々と複雑です。

 

「まぁ、でも私に向かって失礼な事言ったからね。それなりの罰は与えるわ」

「な、なんとぉ!!!???」

「さて、気になるお仕置きの内容は……」

 

 天使の皮を被った悪魔でした。もとより悪魔なのですけれどね。さて、結局は罰を受ける羽目となりました私。その刑とやらは……

 

「今日から一週間、美鈴が咲夜の代わりにメイドとしての仕事をこなしてもらうわ」

「あれ? 以外にも普通ですね」

 

 予想していたよりも、ずっと軽い処罰でした。これにはちょっとばかり目を丸くしてしまいました。

 

「まぁ……なんていうの。ずっと働いてくれてる咲夜には感謝しててね。この機会に長期休暇入れてあげようかなって思ってたりしてたのよね」

「お、お嬢様……ッ! そんな、私には勿体無いお言葉です! 私が一日、いや一秒たりともお嬢様の傍を離れるなど決してあってはいけないですのに」

「まぁ、そんなに根詰めて働いてくれるのはありがたいけど、たまには自分の『時間』も大切にして欲しいかな? でないと、こっちもやりづらいからさ」

「ぐすッ……では、お言葉に甘えさせて頂きます!」

 

 涙声になりながら、早速どこかへと立ち去る咲夜。てか、なんでそこまで感動しているのかね。まるで、ブラック企業で毎日ぼろ雑巾のように働かされて一日も休みもらえなかった社員が、どうにかこうにかして勝ち取った一日だけの休日みたいな。別にそこまで我が紅魔館はブラック企業でも何でもないと思うけどな……。ま、咲夜には咲夜なりの事情があるのでしょう。あまりプライバシーに関わると処罰が増えかねないので、あえて言及はしないでおく。

 

「あ、勿論のことだと思うけど美鈴。引き続き門番も兼ねて仕事してもらうからね」

 

 訂正、割とブラックな方でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美鈴が背中を丸くして元の場所へと戻っていくのを見送った後、私は引き続きティータイムに入り浸るのである。今日はお天気日和もあってか、吸血鬼な私でも程よく気持ちい日差しである。日傘差して散歩も悪くはない。そう思えるほどにね。

 さて、こんな私には何故だか変な記憶がある。これがいつ、どこで、誰のものであるかは知らないが出てくる人物や名前が奇妙な事に一致している。ここ最近の私の悩みの種だ。

 友人であるパチュリーは前世の記憶がどうだこうだ、と言っていた。だが、前世の記憶にしては年代が私と同じくらいであり前世とは呼べないものであった。どちらかというと、もう一つの世界の私の記憶。それに近いものである。というより、パラレルワールドってものがあるのだろうか気になる所なのだが。まぁ、そんな事はさておき。

 

「フラン、隠れてないで出てきたどうかしら?」

「あちゃ、バレてた?」

「さっきから金色の髪のような蝶が庭辺りをちょろちょろ飛んでいたからね。フランだって一発で見抜いたわよ」

「ぐぬぬぬ……流石はお姉様。まだまだ私も修行が足りないでござるようですな」

「ぷっ、何よその口調。ちょっとおかしくて笑えるじゃない」

「お、おかしいだんんて失敬な! これは江戸時代の言葉だよ? 今時の忍者も普通に使うからね!? 白猫とか疾風伝とかさ!」

「はいはい、わかったから。それで、今日はどうしたの? また新しい遊びでも思いついたの? 悪いけれど、お姉ちゃん付き合いきれないからね?」

「うー……遊んで欲しい訳じゃにもん! 今日はお姉様に折り入って話があったから来ただけだもん!」

 

 まだ幼さの残る口調がこれまた可愛らしい。やはり持つべきは可愛い妹だ。ちょっと赤面な所もポイントよね。

 

「そ、そんなにジロジロ見ないでよお姉様……」

「フラン、今は誰もいないからそんな風に呼ばなくても良いわよ?」

「良いの?」

「姉妹で改まる必要だなんてある? おいで、フラン」

「……! うん、分かったよお姉ちゃん!!」

 

 フランは私の膝に乗っかる。少しだけ筋肉がついたのだろうか重く感じた。でも、それを直接我が妹に言うと変にすねられそうなのであえて言わないでおく。まぁ、それにしても大きくなったこと。微々たるものだけどね。

 

「それでね、お姉ちゃん。パチェなんかとお話したんだけどさ。私、お医者さんになる!」

「そう、遂にあの力を制御する事ができるようになったのね。偉い偉い」

「大変だったよ~えへへ……。もっと褒めて~」

「だ~め、あんまりほめ過ぎるとすぐ駄目な子になっちゃうよ?」

「えー!? それだけは嫌だよ!?」

「それじゃ、これからもっと勉強しよっか。お医者さんになるのは大変だよ?」

 

 まぁ、そんな記憶は可愛い妹を前にするとどうでもよくなるのよね。それよりも、最近はちょっとある野望というかやりたい事ができたからそっちの方で忙しかったりするし。

 

「お姉ちゃんも一緒にするよね?」

「勿論よ、パチェもいつになくやる気だったわよ? それに、今日は特別講師として竹林のお医者さんにも来てもらってるから特に頑張らないとね!」

「うん! 一緒にお医者さん目指して困ってる人達の役に立とうね!」

「お姉ちゃんみたいな子でも、ヒーローになれるかな?」

「なれるよ! だって、少なくともお姉ちゃんはもう私にとってはヒーローなんだから」

「嬉しい事言ってくれるじゃない。お姉ちゃん感激よ」

「それに、さっき美鈴が胸の事がどうとか言ってたけどね。あんなの気にしないでよねお姉ちゃん?」

 

 先ほどの会話を盗み聞きしていたのか、心配してくれるフラン。

 

「分かってるわよ、そんな事に執着しているほど未熟ではないわ。それに、胸があろうがなかろうが張れる胸があるんだから。それでいいのよ」

 

 でも、その必要はない。別にあってもなくても変わりはしないし。というか、ある方がちょっと苦労してるみたいだし。パチェなんて肩がいつも凝り気味だからそれで悩んでいるし。肩こりがきっかけで永琳とも親しくなってたみたいだし。それは初耳だったけどね。

 

「それにしても、月の都の歴史ってすごいよねお姉ちゃん。なんでも、ある侵略者から月を守った英雄が居たみたいだし。刹那えふせいえいと質の悪い兎のふれんず? なにこれ、なんて書いてあるの? しののの、たば? とにかくすごいよね。クアンタムバースト理論やIS理論、これってもしかしたらお医者さんになるためには必須科目だったりするかもね!」

「……いや、流石にそんな事までは教えてはくれないと思うよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今更だと思うけれど、私はレミリア・スカーレット。由緒あるスカーレット家の令嬢にしてこの紅魔館を統べる主。今現在、妹と共に医学について学んでいるわ。それはかつて栄えていたスカーレット家を再び繁栄させるため、というのも一つの目的なのだが困っている人を助けたいというのが一番の理由。それに従うはメイド長の咲夜、門番の美鈴、友のパチュリーとその使い魔。そして愛すべき我が妹。

 胸なんて無くても張れる胸さえあればどうってことない。威厳もカリスマも後からついてくるもの。現に私には従える者達がいる。それが何よりの証拠。

 

 主が幼女? 威厳が無い? 貧乳だ? そんな些細な事を抜かしていられるのは今のうちよ? 見てなさい、貴方達はこれから伝説を目の当たりにしていくのだから。

 

 




ここまで読み切ってくれた読者の皆様、応援してくださった皆様。本当にありがとうございました。これにて、レミリアに威厳(カリスマ)はありません!(通称、レミカリ)の物語は完結です。
昨年から書き始めて色々な問題い直面してきましたが、無事に完結させることができて感激です。一時は放置して新しいのを書こうか悩んだ時期もありました。でも、なんとか気合いで持ちこたえてみました。というよりも、一番の要因は今作品を呼んでくれた読者のみなさんにあります。評価もしてくださり、本当に感無量です!

では、また次回作でお会いしましょう!!

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