レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

13 / 18
このタイミングで12月の新艦娘実装だと!?

12月下旬、公式サイトにて掲載された新報を見て驚愕を隠せないでいた和心氏。早速、近場のゲーセンへGO!
有り金はたいてきっちり3隻の新艦娘を着任させ、改まで揃うかと思われたが……残念ながら揃う事はなかった。結局、時間と金を無駄に消費してしまったのは言うまでもない話。……反省してます。でも、排出率の渋さがもう少し緩ければ……。いや、言い訳しちゃダメですよね。過ぎた事は仕方がないです。飛んだ石は返って来ない……ってね。

と言う訳で、今回も楽しんで読んで頂ければ幸いです。


11・夢の中でも安らぐ事ができません!

 

 先に言っておくべき事がある。

 私は今、かつてない悪夢の真っ只中にいる。そして、その内容といったものは――――

 

「やめろぉぉぉっ!! 追っかけて来るんじゃないってばぁぁぁっ!!」

「ウヒャヒャ、ヒーッハァ!!!」

 

 奇声を上げて私を追いかける一人の男。つばの広い帽子を目深に被り、表情や顔は見えない。だが、果てしなく異常とも言える狂気をその男から肌が焼きつくように感じるのは確かであった。そして、それを裏付ける決定的なモノが男の右手に存在している。

 

「さっきからやめろつってんだろ!? 鉤爪で壁を引っ掻くんじゃないわよおおおっ!!」

 

 不気味な高笑いと共に、男は右手の鉤爪で壁を引っ掻く。生理的嫌悪感を抱く音が高々と鳴り響く。その音は、黒板を爪で引っ掻いた時に出るあの音如し。耳が潰れそうになるのは言うまでもない話だ。……ぶっちゃけ、あの音ってマジで苦手なのよね。太陽、銀に次いで嫌いな奴よ。ちなみにどうでもいいが、ニンニクはそこまで苦手ではない。巷では、吸血鬼にはニンニクが有効とか広まっているらしいけど。それは初代吸血鬼・ドラキューラ伯爵が最も嫌いだと言われていた食べ物なだけである。デマなのよ、デマ。私なんて生でイケる口よ?

 

「可愛い、可愛い……これまた愛苦しい子猫ちゃんの悲鳴が、今夜のメインディッシュ。さぁ、聞かせておくれよ。オレの腹が満たされるまでな……ハッハァッ!」

「コイツ、完全にイカれてるわ! もう何なのよ!? 悪魔かお前はっ!?」

 

 それよりも、まずはコイツをどうにかしなければ。なんかさっきから危ない台詞が飛びまくってて鳥肌が立つ。

 

「そうさ、そうともさ! オレは悪魔さ! 夢の国からやってきた悪魔とはまさしくオレの事。そうさ、そうさ! そんなオレの名は――――」

 

 鉤爪をジャキジャキ鳴らして男は高々と叫んだ。しかし、それ以上に私は恐怖と悍ましいまでの狂気に耐えられず、今まで生きてきた中で一番の絶叫を上げるのであった。

 

「いやぁぁぁっ!!!! 咲夜のバカああああっ!!!!」

 

 こんな状況下で叫ばずにいられるだろうか。否、叫ばずにはいられなかった。まさか、昨日咲夜に無理矢理見せられた『エルム街の悪夢』が余りにも怖過ぎたからって。それに、同じ作品を何度も何度も繰り返し見せられるし。こうして夢になってまで出てくる必要なくね? 咲夜よ、アンタはそこまでして私に何を求めているのよ!? 色々とやり過ぎなのよ! ……って、我ながら極限までに追い込まれている状況でよく突っ込んでいられるな! 逆に怖いわ。追い込まれると逆にツッコミの切れ味が鋭くなるっての? そんなの要らんわ!!

 

「イイね、イイね。満たされるぜ! もっと聞かせておくれよ子猫ちゃあああんっ!!」

「やめろぉぉぉ!! これ以上マジで追っかけてくんじゃねえええ!!」

 

 悪魔を怖がる悪魔。傍から見れば滑稽な場面なのかもしれない。でも、当の本人である私からするとそうでもない。ガチで生命の危機に直面しているのよ? それに、エルム街の悪夢って映画。アレの内容は悪魔と契約を契り、この世に悪魔として復活した男が人々の夢の中で無双しては殺戮の限りを尽くす。そして、夢の中で殺された人は現実でも死に至るホラー映画界の二大金字塔の一つ。ちなみにもう一つ方は、十三日の金曜日に定期的に殺戮の限りを尽くすホラーの方ね。……って、何を映画の話しとる場合かぁーっ!?

 そんなこんなしている間にも、男は背後に迫ってくる。私は限界の限りを尽くして、走りに走る。全速力よBダッシュ!

 

「いい加減に目を覚ますのや、私ぃー!!」

 

 ……てな訳で、悪い夢を見ている時などにする一般的な夢から覚める方法を駆使する私。自らの頬を千切れる勢いで抓る。通称、ツンねり。

 その効果とやらは……全く持って無かった。

 

「なんでやっ!? なんでコレで目が覚めへんねん!!」

 

 思わず関西弁が出てくる。突っ込みも関西染まりになっているのは言うまでもないとして。とりあえず、私大ピンチ。ありとあらゆる手は打ってきたつもりだが、どれも的外れ。全然効果が無かった。このまま逃げ切ろうとしても、体力的な限界でいずれ捕まる。その時こそ、本当にジ・エンドだ。

 脂汗が全身から流れる。気持ち悪い感触が癪に障るし、背後からは未だ追いかけてくる男がいる。しかもこの男、どこに逃げようと振り切れない。振り切ったかと思えば、頭上から降り掛かってくるし。足止めとして、刃物を幾つか急所目掛けてメッタ刺しにしたら、逆にパワーアップしてしまったり。……と、結局何をするにしても焼け石に水ってヤツで意味がない。場合によっては、火に油を注ぐような感じで余計悪化させてしまうのがオチ。

 この事から私が学んだのは、この男に余計な事せずただひたすら逃げるという事であった。

 

「どこへ逃げても無駄だよ子猫ちゃん。さぁ、そろそろメインディッシュの断末魔の悲鳴を聞かせてもらうぜ?」

「それはもっと嫌に決まってんじゃん! それくらいなら、まだ逃げるわよ。逃げてなんぼじゃい!」

 

 こんな訳の分からない男に惨殺されて、人生の幕を閉めるくらいなら死に物狂いで逃げた方がマシ。逃げる姿は確かに無様で恥ずかしいものだ。でも、こんな時くらい全力で逃げるべし。逃げるは恥だがなんとやら……ってヤツよ!

 鉤爪を引っ掻き鳴らしながら追いかける男は突如、その場に立ち止まった。

 

「……邪魔が入ったか」

 

 そう呟いた瞬間、男の胸は何者かの手によって貫かれる。

 

「お嬢様に手を出して良いのは、この私十六夜咲夜のみに許された特権です。他の者に手出しはさせません。メインディッシュにするなら尚更の事です」

 

 咲夜だった。まさか、夢の中で救われるとは思ってもいなかった。ドS行為ばっかりしかしないと思っていたけど、そこは従者。主に危機が迫ればきちんと仕事をこなしてくれる。こうやって身を徹して――――

 

「まさか、夢の中にまで介入するとは……。にしても、その姿勢はキツくないのか?」

「そんな事、お嬢様に手を出そうとした貴方が心配する必要なんてないわ」

 

 身を徹して、悪魔に取り憑かれてブリッジ状態になってしまった少女みたいに……。って、そんな事あるかぁーっ!!

 

「いや、ちょっと待った咲夜。その姿勢は流石に無いよ!?」

「ちょっと重い荷物を持った際に、腰をやってしまいまして……」

「重荷をどうやって持ったらそんな事になるんかね! 逆に気になるわよ!?」

「ツッコミの手は入れないでくださいお嬢様。一応、ギックリ腰みたいなので」

「その歳でギックリ腰って……」

 

 若さ故の……って事か。それにしては、これまた酷い。いくらなんでもそれは無い。身を粉にして仕事に徹する事が、私にとっては生き甲斐だ……みたいな事言ってた咲夜。でも、何もそんなになるまで働き詰める事はないでしょう!? 適度に休みは入れるように言っておいたけど、それを無視してたのは咲夜自身じゃん!

 

「多分、お嬢様は何かを勘違いなされてると思います。私は身を粉にする勢いで自身の職務を全うしてるだけです。至極当然の事です。ただ、日頃溜まった鬱憤を晴らす的が無いだけであって。身近な存在であるお嬢様に当たってるだけです」

「とばっちりも良い所だな!?」

「聞こえが悪いですよお嬢様? これは感謝の意を込められた立派なご奉仕なのですから」

「アンタ頭沸いてんのっ!? 鬱憤を的にぶつける行為をご奉仕とは言わないから!!」

 

 夢の中まで駆けつけてくれるのは有り難い事だったが、やっぱり咲夜は咲夜だった。相変わらず掴み所がない上に、何考えてるのか全く分からん。でも、そんないつもの咲夜があったからこそこの悪夢の中でも平常心でいられた。

 

「あのー……、串刺しにされたオレの事忘れてね?」

 

 そう言えば、私はこの男に追いかけられていたのだった。咲夜の事ですっかり眼中に無かったわ。

 咲夜に胸を貫かれ、動けないでいる男。その表情は、存在を省かれていたのが気に食わなかったのか不貞腐れていた。そこにいるのに会話に入れず、省かれる疎外感はなんとなく分かる。そこだけは同情してあげたい。……だが、

 

「とりあえず、お嬢様の前から消えろ。このケロイド顔め」

 

 咲夜は男を片手でぶん投げる。その先は、マグマのような溶鉱炉。

 特にこれといった反抗もできず、男は頭から溶鉱炉の中に突っ込んだ。すると、悍ましい悲鳴を上げながら燃えて溶けていくのであった。

 

「……ふぅ、なんとか切り抜けた」

 

 ひとまず、この悪夢に終止符を打つ事ができた。寝ている時くらいゆっくり休ませろってんの。こっちは現実世界でしこたま咲夜に酷い目遭わされてるんだから。夢の中くらい楽にさせろっつの。

 ……というのが、私の本音だ。実際、ここん所の咲夜のドS行為は更に磨きが掛かって酷くなる一方である。そんな中、遂に夢までも侵食されたとなれば一体私はどこでゆっくり休めるのやら。男には悪いけど、二度と夢の中に出て来ないでもらいたい。世の中には安眠を必要としてる人間(あくまで、私は悪魔だけど)がいるのよ。咲夜の酷い仕打ちを受けたのなら、これを機に無作為に人を襲うのは止める事ね。

 

「それじゃ、お嬢様。そろそろ目覚めの時間ですので起きてください」

「……え? まだそんなに時間経ってないと思うけど」

「夢と現実では時の流れは別次元なんです。ちなみに現実世界ではそろそろ夜も明ける頃です」

「嘘っ!?」

 

 私は空を見上げる、夢の世界の空模様はまだ夜の空であった。

 

「まだ夜中って感じだけど……?」

「だから、夢と現実は全く違うんです。夢の世界での15分というのは、現実世界の8時間に相当しますから」

「そんなに違うのかっ!?」

 

 流石は『時を司るメイド長』といった所。時の話題になれば説得力がある。……ブリッジ姿のままなのが、とても残念だけど。いい加減にその姿勢をどうにかしろよ。気持ち悪くて見ていられんわ。

 私の内心の呟きを知ってか知らずか、その姿勢のまま近付いてくる咲夜。その動きは、さながらエクソシストに出てくる少女の如く。ぶっちゃけ、さっきの男よりも怖い。……だって、あんなにも涼し気な表情しながらあの姿勢で近付いてくるだもん。身体の仕組みがどうなってるのやらとか疑問に抱く以前に、まず得体の知れない恐怖と不気味さが込み上げてくる。あと、痛くないのかな? ……って、少しばかり心配にもなる。

 そんなこんなで、余りの不気味さに怖気付いて後ろに下がってしまう私。

 

「何をそんなに怯えてるのですかお嬢様。もう脅威は去ったというのに……」

「いや、去ったのは去ったんだけどさ。新たな脅威的なモノが目の前に来ちゃって……ね?」

「さては、私の事でしょうか?」

「……その姿勢、何とかならない?」

「無理です☆」

 

 満面の笑みでの即答だった。

 即答で断られる事は百も承知だったのは言うまでもない。でも、だ。何とかできないかを聞かずにはいられない。しかも、夢だ。私の夢の中である。……つか、夢の中なら普通ではあり得ない事をいとも簡単にやってのける事はできる筈だ。なのに、咲夜は無理ですと言った。おかしい……何かが、おかしいよコレ。

 疑心暗鬼に陥った私は一度咳払いをして心を落ち着かせる。適度に落ち着いた所で、もう一度咲夜に同じ事を問いてみた。すると、返ってきたのは……。

 

「だから、無理です。二度も同じ事言わせないでください」

 

 同じ回答だった。

 

「いや、おかしいじゃん!? だってさ、夢の中なら何だってアリでしょ? 咲夜がその姿勢のままって事、本来ならあり得ないじゃん!」

「確かにお嬢様の仰る通りです。ですが、こう考えてみては如何でしょうか? 『そもそも、この状況が本来ならあり得ない事である』と」

「…………っ!?」

 

 その時、電流が走る感覚を覚えた。確かに、夢はあり得ない事だらけの世界。謎の男に追いかけられる事だって、本来なら絶対にあり得ない。でも、夢という世界においてはそれが有り得てしまうのだ。……ぶっちゃけ、よう分からん。けど、大体の意味合いではそういう事なんだろう。

 

「ようやく悟ったようですね。まぁ、他にも夢にまつわる事は不思議な事だらけです。他人の夢の中にいざ入るとなると、どうしても本来の能力を引き出せず制限が掛かってしまったり……と、色々と複雑なんですよ」

「なるほど……ね。咲夜がその姿勢を解く事ができないってのも頷けるわね」

「そういう事です。……そこでなのですが、お嬢様。そろそろこの姿勢でいるのも辛くなってきたので早くお目覚めになられましょうか? 流石の私でも、長時間この態勢でいるのは酷です。頭に血が登ります」

 

 誰しもその姿勢でずっといられる訳でもなく、昨夜は少し辛そうな表情を見せる。だが、それでもまだ凛々しさを残している辺り流石と言わざるを得ない。

 今回は咲夜に一応救われた身ではあるので、ここはひとまず夢から覚める事を決意する私。……だが、心の片隅にいる本来の悪魔な自分自身が耳元で囁き掛けてくる。

 

『ねぇ、いつもはやられっぱなしなんだからさ。今回くらい仕返ししちゃおうよ?』

 

 確かに、それをするなら今が絶好のチャンス。ここ最近、私に対して酷い仕打ちばっかりしてて鬱憤は溜まりに溜まりきっている。それに、ここは私の夢の中。好き放題にできるし、この上なく都合が良い。復讐するなら今しかない。でも……

 

『でも?』

 

 酷い仕打ちをする咲夜ではあるが、何処か焦りや不安、それと暖かい温もりを感じる時がしばしばある。それに、時折見せる咲夜の表情に涙が見える事もある。……ひょっとすると、何か訳ありなのかもしれない。そう思ってしまうんだ。

 

『そんなの気のせいだよ。私自身が酷い目に遭いすぎて、視界が涙で歪んでただけなんだよ』

 

 そうだと思いたい。……でも、私は見てしまったんだ。それを見てしまったから、この行為に何かしらの意味が含まれてるのではないのか? って、考える様になったんだ。

 

『……?』

 

 私は咲夜を見る。頭に血が登ってるのであろう、顔が赤くなっている咲夜。彼女の左足は肌色ではなく、銀色に染まっていた。

 

「……確かめなきゃ」

「お嬢様、今何か仰りましたか?」

「ううん、何でもないよ咲夜。それよりも、早く目覚めないとね。確か、今日はフランと朝早くから特撮を見るって約束してたんだもの」

「あら、姉妹揃って水入らずですか? 何とも微笑ましい。それなら、今日は朝食からこの豪華なものしませんと」

「咲夜ってば、大袈裟ね。いつも通りで良いの」

「ならせめて、ハズレ品を1品増やしておきます」

「いや、それだけはやめてよっ!?」

 

 ハズレの品がもう1品増えるのはマジで勘弁して欲しい。咲夜のハズレ品って、洒落にならないし……。

 結局、いつもながら酷ぇ仕打ちを受ける羽目となる私であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✻ ✻ ✻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……眠っ」

 

 目を覚ますと、いつも見ている赤い天井が視野に入る。いつもの私の部屋だ。特にこれといった事はない。

 それにしても、今朝は本当に酷い夢を見たものだ。未だに全貌がはっきりしてる辺り、相当なものだったんだろう。鉤爪の男、あの後どうなったんだろうな……。ちゃんと更生して、人々の夢を守る英雄になれたかな? 元々悪だったヤツが正義のヒーローになる系の作品って、何気に熱いよね。とりあえず、そういう風になっている事を願うばかり。

 いつまでも横になっていると再び眠りへとつきそうになるので、ひとまず身を起こす事にした。

 

「…………ん?」

 

 と、ここで部屋の隅に何者かの影が動く。泥棒か、はたまた未だにブリッジの姿勢が治らないままでいる咲夜なのか。その正体は見てみなくちゃ分からない。

 そんな訳で、よーく目を凝らして見てみる。すると、ソイツは何かを呟いた。

 

「……じょうじ?」

 

 体育座りをした、筋肉モリモリマッチョマンの変態さんがいた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。