レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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前略、レミリア一行が人里に行っている間、紅魔館では妹様の身に何かあったようです。

という訳で、今回も読んでくれると幸いです。とりまギャグ路線で頑張ってみました。


9.5・ノックの音が……

 ノックの音がした。

 ここは紅魔館のとある一室。ピンク色の兎のぬいぐるみ、茶色いクマのぬいぐるみ等々。色とりどりの可愛らしいぬいぐるみが置かれていおり、いかにも女の子らしい部屋といった所。甘ったるい匂いが部屋中を包み込む中、そのど真ん中にて私は一人地べたに這いつくばっていた。

 

「はぁーい、どちら様ぁ~?」

 

 間の伸びた調子の声で扉の向こう側にいるであろう人物に返事をする。

 私、フランドール・スカーレットは今現在暇を持て余していた。なんというかその、お姉様から部屋から出ないように謹慎を言い渡されたのである。何かあったのか気になったので、ちょっと問い尋ねてみた所。『まぁ、ちょっと人里まで野暮用……。てか、パチェの所にあった私物を魔理沙がまた盗んでいったみたいだから。それを取り返すよう依頼を頼まれたの。パチェも人使い荒いよね。自分で取りに行けばいいのに』……との事。

 いや、お姉様も人には言えないからね。正直、私はそう思っていた。でも、その本音は内心に留めておく。これが妹の優しさってヤツよ。だがしかし、愛しい愛しいお姉様にそんな思いが伝わる訳でもなく。てか、毎度の如く踏み躙ってくる。ムカァ――――っ!! ってなるよマジで。いっその事、木っ端微塵に吹き飛ばしてあの腐った根性を叩き治してやろうか。そう思うくらい。

 でも、最近のお姉様は様子がおかしい。てか、滅茶苦茶おかしかった。この前なんて久々に一緒にお風呂入った時、お姉様の胸にあるはずのないものがたわわに実っていたんだもん! 絶対これは何か訳ありだって、直感がそう言ってたよ。そしたら予感は見事的中。なんか色々あって胸がたくましく成長したとか話してくれましたよ。

 もうさ、話聞いてたら色々と馬鹿馬鹿しいなってそう思ったちゃったんだよね実は。でも、真顔でいつになく嘘偽りのない真剣な顔でさ、そう話してくるもんだから。こっちも流石に気押されて、真摯に聞いてたの。そしたら、話の途中で突然泣き出すしさ。まぁ、その理由としては主に胸がおっきくなって以来咲夜の態度が豹変したというものだけどさ。てかさ、従者としてあるまじき行為じゃんそれって? 普通は、『イエス! マイなんとか!』って忠誠を誓うのが従者でしょ? 主を虐める従者なんて従者じゃないじゃん! これ聞いた時、私は咲夜をぶちのめそうかとマジで思った訳。でも、今はその時じゃないから。ツケはいずれまとめて支払ってもらう事にするわ。お姉様と私の分含めて。

 

 ……と、話の後半で私の独り言が暴走していたいのでここで閑話休題。

 

 こん、こん、とまた扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「入ってまーす。……って、そうか。ここトイレじゃなかったや。とりまどちら様ぁー?」

 

 返答は返ってこない。どうやら、ただの妖精の悪戯のようだ。咲夜なら、何かしらのアクションはあるし。パチェならブックカバーを投げつけてくるし。お姉様なら、『待って! 頼むから話を聞い……わぁぁぁぁぁ!?』って誰かに襲われて悲鳴を上げるし、こあは時報でしらせてくるし。あ、美鈴は問答無用で扉を蹴破ってくるけど。アレはどうかなと思っている。正直、毎度アレをされると後始末は私がやらんといけない。分かっててやってるんだったら、今度お返ししてやらないとね。無論、本郷た○し直伝の初代ライダーキックで。でなきゃ気が済まん。

 

「……っち」

 

 ……という事でちょっとムカついた。そうだ、こんな時こそ木っ端微塵よ! てな訳で、思いついたら即実行。行動力が有無を言わせるこのご時世。動かなければ喰われて死ぬ。どこかのお偉いさんがそう言っていた。

 

「後ろの正面、だぁぁぁぁれじゃボケぇぇぇぇ!!」

 

 勢いつけてのドロップキック。木っ端微塵に扉を吹き飛ばすと修理費が洒落にならん事を念頭に入れて、ちょっと威力を弱めにしております。だなんて、私ってば気の利く女ね。将来は一人前のレディ間違いなし!

 私のドロップキックを真正面から受けた扉先輩は、ものの見事に吹き飛んだ。一切形は崩れず、形状を維持したま一直線上に。そして、先輩はそのまま星の彼方まで飛んでゆくのであった。『ちょっとコンビニ行ってくる!』そんな幻聴が聞こえた気がした。先輩、一時の間お別れね。たくましくなって帰ってくるのよ。ついでにおにぎりとジュースを買ってきてもらえると尚更ね。

 扉先輩が遥か彼方へ消え去った事で風通りの良くなった部屋は、少し涼しかった。これならエアコンも扇風機も使わずに快適に寝れそうだ。二酸化炭素が大量に発生したせいなのか、平均気温が二度くらい上昇してる幻想郷。エネルギーをもっと節約に、二酸化炭素を減らして快適な幻想ライフを。という、紫さんの宣伝を聞きちょっとだけエコってみたよ。うん、悪くはない。ただ、プライバシーがなくなるだけなんだから。そこまで大した問題じゃない。みんなの部屋も私と同じくすれば良いだけなのだから……。

 まぁ、それよりも――――

 

「結局は誰だったんだろうね。扉の前に人の気配はおろか……虫の気配もしないのだけれど。もしかし、オバケ?」

 

 考えるだけで、ぞっとする。実はこの私、紅魔館の小さなアイドルことフランドール・スカーレットちゃんは大のオバケ嫌い。これは血の繋がった姉であるレミリアお姉様にも話していない私の秘密。なんかね、こう……非科学的なものが私は大っ嫌いなの。生まれた時からなのか、はたまた過去にお化け屋敷というアトラクションに入ってトラウマを植え付けられたのかどっちかは定かだけど。とにかく、オバケは生理的に受け付けてないのよ。おかげで、オバケとか見たり怖い話聞かされると理性を失って大暴走。その暴れ具合は災いして、『悪魔の妹』や『狂った妹』など変なレッテルを張られる始末。私、本当はちゃんとした子なんだよ? なんでみんなして分かってくれないのかな? って、思うけど私自身が手にしている能力に訳があったりしたり。まぁ、こんな話してるとシリアスなムードになっちゃうんで割愛するけどね! みんな、スマイルスマイル♪ 笑う門に福来たりだよー!

 

「まぁ、そんな訳がないよね! さて、大分風通しのよくなった部屋が私だけだとつまらないから。他の部屋も風通し良くしてこよう! そして、それが済んだら恐竜戦隊見なきゃね! 多分、一通り終えた頃にはちょうど良い時間になってるでしょ」

 

 そんな訳で、結局扉先輩の向こう側にいた存在はどうでもよくなった私。朝の7時半に放送されるスーパー戦隊シリーズが始まるまでの間、暇つぶしに館内の部屋や窓をぶち壊し回る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虫という生き物は特に思考回路とか所持していなく、ただ本能的に飛び回る習性があった。

 かくいう私、Gもその一人にすぎない。そして、私は扉フェチという事だけは自覚していた。というよりも、我々Gという種はテカっている茶色い扉を見ていると体当たりをせずにはいられない。そんな性があるのだ。そして今回は、やたら大きな館に魅入られた訳であり今に至る。

 今まで数々の扉を見てきているが、ここに来て今まで生きてきた中でこんな素晴らしい扉は見たこともなかった。とだけ言っておこう。

 私はとある一室に目を奪われていた。その先にあるのは――――

 

「こうして、こうやって……ガブリんちょっ!!!! って、痛いっ!? 思いのほか痛かった!? あ、ヤバい! 血、血が出てる! あんぎゃーーーーっ!!!!」

 

 小さな女の子の声がする一室の、その扉であった。中では何やら騒いでるらしいが、私の知ったことではない。むしろ用があるのは目前にお城当然にそびえたつ茶色い扉である。

 それはこの世のありとあらゆる言葉で表現するには物足りなかった。強いて言うなれば、絶世の美女を見てその美貌に魅入られて動けなくなってしまった。……という所である。だが、これでもまだ物足りない。

 私の前にそびえ立つそれは神々しかった。思わず涙が溢れ出そうになったのは言うまでもない。だが、そこは虫という種。泣こうにも泣けないのだ。だから私は、心の中で歓喜の涙を流した。虫の分際で図に乗って申し訳ない。だが、それくらい感動するものなのである。どうか、その辺を理解してもらいたい。

 そして、言わずも知れた我々の生まれ持った性というのは理性で抑えようとしてもそれは敵わない。私は扉に渾身の体当たりを入れた。

 

 ――――こん、こん。

 

 合計、二回。しかし、それだけでは物足りない。硬さ、形状、全てにおいて今の体当たりで感じた。この扉は、素晴らしいものであると。

 あと何回かしていたい。そんな欲求が私の脳内を駆け巡る。抑え切れなくなった感情は理性の檻を突き破り、そのまま私の身体を突き動かす。

 

 ――――こん、こん。

 

 あぁ、たまらない。この何とも言えない漆塗り加工された高級な材木の澄み渡った響き。その音は廊下と私の心の奥底まで響き渡る。あぁ、本当にたまらない。こんなものと出会えるとは、光栄だ。

 無限にも感じるような最高の悦に浸ってる事数分、私は湧き上がる衝動を抑え再度扉に体当たりを決めようとしたその時。

 

「後ろの正面、だぁぁぁぁれじゃボケぇぇぇぇ!!」

 

 女の子の怒りの叫びと共に目の前の扉が押し寄せてきた。否、恐らく中にいた女の子がこの扉を蹴破ったのだろう。それにしても、何なのだこの威力。子供とは思えん!

 急な出来事で立ち止まり、動けなくなってしまった私。目前の至高の物は止まっているのにも関わらず、近寄ってくる。っと、こんな所で動けないでいるのはマズイ!

 脳内で警鐘が鳴る。私は急旋回を試みる。しかし、扉の方が速さは圧倒的に上回っておりどう足掻こうが避けられない。駄目だ、これは死ぬ。そう悟った瞬間、

 

 ――――ぷちっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さな命は不運にもその命を散らす事となった。

 また虫という生き物は、もう一つ。知られざる習性がある。それは仲間の死を認知する事。

 彼の死は、瞬く間に幻想郷中にいる仲間達に伝達された。それだけには留まらず、外の世界。地球上に生きとし生ける全ての仲間に彼の死は知らされ。皆、慟哭の叫びを上げた。そしてそれは、一つの集合体となり――――

 

「じ……じょぉぉぉぉぉぉぉじっ!!!!!!」

 

 一匹の化け物を誕生させるのであった。

 彼が誕生して、やるべき事はただ一つ。彼の無念を晴らす事。ただそれだけ、それだけの事である。

 化け物は彼の悲しみを背負い、夜空を舞う。行先は言うまでもなく、彼が命を落としてまで辿りついた至高の産物のある場所――――紅魔館。


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