レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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どうも、和心丼です。

寺小屋にて相変わらずどんちゃん騒ぎやっていますが、ここで遂にオリキャラが登場します。今後どのように関わりを持っていくかが見所となっており、かつストーリーも最終局面へと遂に動き出す回でもあります。あと、文字数を増し増しにしています。かなり読み応えがあるかと。

少しギャグが控えめになっていますが、読んで頂けると幸いです。


9・慧音は乱れている輩に容赦はありません!

「……何してるんだお前達?」

 

 慧音がいた。上半身を裸にさせられた状態の私と、おもむろに手を伸ばす霊夢の姿。それは傍から見れば、謎のプレイ他ならない。しかもよりによって、寺小屋の教師にこの現場を見られてしまっている。……これはマズイ。言い逃れはできない。だが霊夢はしれっと、

 

「いや、レミリアが具合悪そうだったからさ。慧音の所へ行こうとしていたのよ」

「ほぅ……それは良いのだが、一つ疑問が残るな。その具合の悪そうなレミリアに対して、お前はなぜ衣服を脱がせているのだ? それだと余計に悪化しないか?」

「それは、その……色々と事情があってね」

「霊夢、後で詳しい話は聞いてやるから。まずはレミリアに服を着させろ」

「……はい」

 

 嘘をついてその場を凌ごうとしたが、敢え無く失敗に終わる。

 

「はぁ……まったく、どいつもこいつも。風紀を乱しすぎだろ。しかも、よりによって寺小屋でそんな事する奴がいるか! 霊夢、お前がレミリアに一体何をしでかそうとしていたかはそこまでは追及はせんが。とりあえず、後でたっぷりシゴいてやるから覚悟しておけ!」

「うわぁ……冗談じゃないわ。こんなの逃げるしかないっしょ!」

「風紀を乱す輩を逃す訳にはいかん!」

 

 その場を一目散に逃げ出そうとした霊夢の手を慧音は捕まえる。そして、そのまま霊夢の額へ己の頭を思いっきりぶつけた。鈍い音が夜空に響き渡るとともに、霊夢は白目を向いたまま倒れる。慧音の必殺技、『死の頭突き』だ。これをまともに喰らって生きた者がいない事からそう名付けられた。その威力は確かなものであり、数々の異変を解決してきた博麗の巫女でさえこの有様だ。恐るべし……

 

「とりあえずコイツは目が覚めたら、三年B組金次郎先生の全シリーズを見せるとするか。……レミリア、大丈夫だったか?」

「え、あ……ええ。今ので具合の悪さが吹き飛んじゃったくらいよ」

「冗談を言えるくらいに治ったのなら良いだろう。お前も後で霊夢と一緒に特別授業受けるか?」

「え、アレを見せさせられるの? 確かに、金次郎先生は確かに感動するけど。全シリーズを無理やり見せられるとなるとちょっとした拷問じゃなくない?」

「大丈夫だ、多分3話目くらいで慣れる」

「慣れるとか、そういったレベルの問題じゃない気がするよ!?」

 

 三年B組金次郎先生。かつて江戸時代に、二宮金次郎という人物が存在していた。その人物が、とある城下町の寺小屋に教師として雇われる所から物語は始まる。だが、その寺小屋は問題児達が揃ったとんでもない寺小屋でありほぼ学級崩壊しきっていた状況であった。そんなクラスを任された金次郎は、生徒一人一人の問題や悩みを一話ごとに解決していき、徐々に金次郎はクラスにとってかけがえのない存在となってゆく。

 クライマックスの卒業式。問題だらけだった生徒達は立派な人へと成長し各々の道を歩み始める。金次郎は成長した彼らの背中を、涙ながらに見送り届けて寺小屋を去っていくという感動大作である。その後、金次郎先生はシリーズ化され全国の寺小屋を巡り巡る訳となる。当時、この作品が与えた影響というのは言うまでもなく凄まじいものであり。この世から不良という不良が、一人残らず煙のように消えてしまったという程である。作品を通してのメッセージ性というのも評価が高く、日本国にとどまらず世界に知れ渡っている。かつて私の父もそんな不良の一人であり、この作品と出会えたお蔭で由緒あるスカーレット家が生まれた。何かと縁のある作品でもあった。

 そんな感動大作のシリーズを全部見るには、かなりの時間と浪費を掛ける必要がある。ざっと軽く見積もるだけでも一年はある。それを特別授業でやろうとしている慧音。何がなんでも受けたくはない。私だって、アレを全部見るのに3年もの時間を浪費している。

 

「何も心配はないだろう? フルで見せるわけではないさ。それだと時間が掛かるからな。ダイジェスト版を1時間程度見せるつもりでいるから全然問題ない!」

 

 いやいや、一年も時間を掛けて全部見終える事が出来る作品を1時間にまとめるとか。そんな無茶な話ないわ。

 

「そう思っているレミリアに、とっておきの奴を紹介しよう」

「え、何さりげなく人の心読んでんのよ」

「顔を見ればなんとなく分かる」

 

 どうやら私は思っている事がすべて顔に出ているようだった。今度から読まれないようにポーカーフェイスの練習でもしようかな。そんな事考えていると、慧音は何やら妙な機械を取り出した。

 

「これを頭に装着して、脳に直接情報を流し込む」

「物凄い文明の利器を見た気がするし、尚且つゴリ押しな手法だな!?」

「外の世界ではこれを『なーうぎあ』とか呼んでいるらしい。かなり便利だぞ? 寝ている時でも調べものができるのは、画期的すぎるくらいにな」

「あー……はいはい、分かったから。分かったから、そろそろ体が冷え込んできててしょうがないの。後は後日にしてちょうだい」

「しまった、私とした事がつい……済まないレミリア。お前に用があると言っておいて、個人的な趣味の話に尽き合わせてしまって」

「良いわよ別に、いつでもその話聞くからさ。それより、私に話があるんでしょ? それに、せっかく持ってきてくれたお茶が冷めちゃうともったいないしね」

「それもそうだな。よし、では中に入るとしよう」

 

 慧音に促され、私は先ほどまでいた部屋に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると、一人きりにされた少女が涙目でいた。その後、慧音が彼女を何とか慰めるまでにかなりの時間を浪費したのは言うまでもなかった。落ち着いた頃には既に時刻は深夜を回っており、ここでやっと本題に入る事になった。いくらなんでも遅すぎる。それに少女の両親が心配しているのではないかと、慧音に訪ねてみた所。家の者も事情があるらしく、今晩だけ彼女を慧音の元に預けてもらいたいとの事で了承は得ているらしかった。

 咲夜達のいる部屋では未だに聖が『もう一勝負、付き合ってちょうだい!』とか言っており、まだまだババ抜きをやっている最中であった。この勢いだと明け方までフィーバーしていそうなのだが。それよりも聖、お前は命蓮寺に戻らなくていいの? 今日は聖が晩飯担当とかだったら、あそこにいるお仲間さん達は今頃飢餓で苦しんでいるかもしれないよ? 本当に心配なんだけど。

 

「かなり遅くなってしまったが、本題に入るとしよう。レミリア、覚悟はできているな?」

「ええ、もちろんよ!」

 

 ぶっちゃけ怖い。本音は何されるのか分からなくて怖い。一時は死刑宣告かと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。だからこそ、余計に怖い。本当に未知の恐怖ってものは洒落にならないものね。

 でも、ここまで来たからには腹を括るしかない! 紅魔館の主として、誇り高きスカーレットとして恥じぬよう生き様を見せる。覚悟は当の前から決まっているのよ!

 

「なんだか妙に気合いが入ってるな……まぁ、いいが。それとだな、レミリア。何か勘違いしているかもしれないから、この際言っておく。私がお前に用があるのではない」

「……はい?」

「二度も言わせるな。用があるのは私の方ではなくて、この子の方だ」

 

 慧音はそう言い、隣にいた少女に顔を向ける。この子が……?

 予想していたのと全く違ってしまった事に、私は戸惑いを隠しきれないでいた。状況が飲み込めない私は、少女と慧音の顔を交互に見合わせる事しかできないでいた。鳩が豆鉄砲を食った様な感じだよ。てか、首を横に動かしすぎて首の骨と筋肉が痛い。

 

「え、えーと……慧音。どういう事なのかイマイチ分からないんだけど。どういう事? それにこの子誰?」

「そうか、まだ自己紹介していないんだったな。それに、お前は失礼な奴だな。とでも言っておこう。あのメイドから命を救った者の顔さえ覚えてないとはな……さては、ポンコツなのか?」

「誰がポンコツよ!? ええ、覚えているわよ! えっと、えーっと……」

 

 ダメだ。全然思い浮かばない。

 額から汗が滝のように流れ出る。何か言わなければならないのだけれど、いい言葉が見つからない。どうしよう? 今更、ごめん嘘ついてましたごめんなさい。だなんて言えない……どうする、この状況!? 助け舟の咲夜は? ……あ、そうか。アイツ、聖に拘束されているんだった。畜生! 完全に八方ふさがりじゃないの!

 

「正直に言った方が良いよ、お姉ちゃん?」

「はは……ですよねー。そんなの分かってるわよ! でもね、スカーレットとして紅魔館の主としてのプライドがそれを認めないのよ!」

「なんか頑固なお姉ちゃんだね。昭和時代の頑固オヤジ並みに頭が固そう」

「おい、そこぉ! さっきからちょくちょく癪に障る様な毒舌やめなさいよ!?」

 

 さっきからちょくちょく変な事を挟み込んでくる少女。何よ! 一体アンタは何なのよ!? それに誰なのかすらも覚えてないから余計に誰なのよ!?

 

「はぁ……全くもって面倒だなお前も。とりあえず、深くは追及はしない。だからレミリア、少し落ち着け」

「うぐ……そうね。少しばかり頭に血が上っていたようだわ」

「さて、レミリアも落ち着いた事だし。彼女の自己紹介とでもいこう。彼女は東雲麻耶だ」

「東雲麻耶です。マヤって呼んでも構わないから」

 

 マヤと名乗った少女。後ろに束ねた黒髪のポニーテールが愛らしい彼女は、どこか霊夢にも似たような雰囲気が漂っていた。……もしかすると、霊夢の親戚か何かなのだろうか?

 

「あ、それとね。よく『博麗の巫女に似てるねー』って言われてるんだけど、血縁関係とかそういったのは……実はあったりするんだ」

「「意外な事実!?」」

「……というのは嘘ね。てへっ☆」

 

 ずこぉーーーっ! と、昔のギャグマンガさながらの効果音が飛び出しそうな勢いでズッコケる私と慧音。嘘なのかよ!? それに最後のてへっがあざとい! あざと過ぎる!! この子、人を弄ぶ事に長けている気がするんだけど!? もしかして、かなりのやり手なのかな!?

 

「麻耶、嘘は良くないとあれほど注意してるだろう! 何度言えば分かるんだ」

「いや、分かってはいるんです慧音先生。でもね、ほら……こんなにも弄りがいがある人見てたらちょっと悪戯しちゃいたくなりません? 私はなりますね」

「そんな事していると、いつか鬼に食われんぞ……」

「えー……鬼なんている訳ないですよ。いるのは先生みたいなハクタクだけですから」

「んぐ……むぅ……やはり、少しばかり矯正せねばいけないみたいだな」

「ねぇ、慧音。この子一体なんなのよ? マジで癪に障るよ!?」

「イジられ体質のお姉ちゃんは黙ってて!」

「んがっ……!?」

 

 次から次へと突き刺さる言葉のナイフ。随分と容赦がない……何だコレ。咲夜とはまた別のタイプ弄り方してきやがる! 咲夜程度ならある程度の免疫はついてるけど、この子のは斬新というか新鮮とでも言うべきか。やはり、人が違えば免疫云々とか関係ないのかもしれない。それよりも、このストレートすぎる言葉のナイフが痛い。精神的ダメージ特大なんですけどぉーーー!?

 

「麻耶、それ以上はやめておけ。本当に鬼に喰われるぞ」

「だぁーかーらぁー、鬼なんていないんですってば」

「いや、お前の目の前にいるぞ?」

「へ?」

 

 慧音がある方向に指をさす。その先にあるのは――――

 

「やっほー♪ ちょいと立ち寄ってみたぜ」

「なんでアンタまで来ているのよ!?」

「いやぁ~、ちょっくら霊夢を探し回っていたらね。寺小屋の方に向かってったという情報を嗅ぎ付けて来た訳なんよ。そしたら、なんかお前達が何やら盛り上がっているようだからさ。私も交じりてぇな~って」

 

 私……ではなくて、私の後ろにいつの間にやら現れた闖入者であった。頭に立派な角を持った小柄な少女。彼女は伊吹萃香。言わずと知れた鬼である。今日も酒の入った瓢箪をぶら下げて来る辺り、飲み歩き回っていたのであろう。酒の独特な香りが彼女から発せられているのが何よりの証拠である。

 

「ちょうどよかった。萃香よ、ちょっとコイツの減らず口をどうにかしてくれないか?」

「うぃ~……ひっく。美味い酒持って来たらやらん事はないよぉ~?」

「この間珍しい酒を手に入れた。酒蔵に入ってるから持って行っても構わん」

「りょ~かぁい」

 

 ふらふらと、おぼつかない足取りで萃香は麻耶の前に立つ。そして、

 

「んがぁぁぁぁぁおおおぉぉぉっ!! たぁぁぁべちゃぁぁぁうぞおおぉぉぉっ!!」

 

 耳鳴りがするほどの大声で叫んだのである。

 大気が揺れ、地響きが起こる。今ので寝静まり返った里の人々が地震と勘違いして起きたに違いない。それくらい威力のあるものであった。

 んでもって、鬼がいないなどと減らず口を叩いていた麻耶は……ビビりすぎて硬直していた。

 

「あ、あわわわわ……」

 

 効果は一目瞭然。口をパクパクさせ、目は白黒入れ替わる有様である。何か言葉を発しようとしても、あまりの恐怖で声が出てこない。おまけに目尻に涙がダムのように溜まっている始末。いつ決壊してもおかしくなかった。

 

「さて、麻耶。お前はさっきまで鬼がいないと言っていたが。今はどうだ?」

 

 声が出せなくなった麻耶は、首を縦にふる。『今なら信じる! てか、目の前にいるから信じれる!』と、必死に首を縦に振る事でその旨を伝えていた。効果は十二分って所である。

 

「これで良かったかなぁ~慧音?」

「全然! 最高のパフォーマンスだったぞ。礼を言う」

「ほんじゃ、蔵の酒持ってくわな」

「ああ、それとだな萃香。入口付近で倒れている霊夢も連れて行ってくれ」

「あいあいさー!!」

 

 そう言うと萃香はそそくさと、しかしおぼつかない足取りで部屋を出ていく。『んしょ』という霊夢を担ぐ掛け声が聞こえたかと思えば、『どらっせぇぇぇぇぇい!!!!』という気迫の声と共に何かが空を切っていく音が聞こえた。多分、霊夢が投げ飛ばされたのだろう。かなり雑な連れ方だ。というより、あれは連れて行ったというのが正しい表現なのか疑惑を覚える。道端にあった小石を適当に投げた、といった方が正しい気がする。

 

「さてと、珍しいお客さんが去って行った所で本題に戻るとしよう」

「そ、それもそうね。それよりも、麻耶は大丈夫なの?」

「お、お姉ちゃんが心配する事はないです。ふぅ……なんとか喋れた」

「大丈夫そうだな。それじゃ麻耶、時間もおしている事だし手短に済ませて寝るとしよう」

 

『分かりました慧音先生』と、そう言うと私の方に振り向く。

 

「あの時、助けてくれて本当にありがとう。お姉ちゃん」

「え? あの時って何……って、あ!」

 

 そこまで言われてやっと気が付く私。色々あって忘れていたけど、咲夜が人里にきて突如暴走したあの時。人質として捕らえられていた少女が目の前にいる人物であったのだ。なにもできずじまいでいたけど、魔理沙が咲夜の注意を引いてくれていた隙を狙って、この子を素早く助け出したのである。あの後、何処で何をしていたのか全く興味はなかったけど、一人の人の命を救えた満足感があったのは確か。でも、それだけで良かったのになんでわざわざ……

 

「別に、大した事なんてしてないわよ。あの時、私ができる事と言えばそれくらいしかなかったもの」

「それでも、たったそれだけの事だと思うけど私はお姉ちゃんに感謝しているの。もしあの時、お姉ちゃんが助けてくれなかったら私は……」

「そうね、間違いなく被害を負っていたのは確かよ。今度からは気を付ける事ね」

「うん、言われなくてもそうする。それとこれ、お姉ちゃんに渡したかったの。受け取って」

 

 麻耶は手のひらの大きさの小包を私に差し出す。

 

「これは……?」

「開けてみれば分かるよ」

「そう言われも……」

「まぁ、レミリア。ここは言われるがままに開けてみるのがベストだぞ?」

「そ、そうよね。んじゃ、開けるわよ」

 

 手渡された小包を開く。すると、中には1通の手紙と星の模様が描かれたブローチ。

 

「あら、これは……中々に良いブローチね」

「それとね、お姉ちゃん。その手紙も……できれば開けて欲しいかなぁ」

 

 麻耶はどこか恥ずかしそうな様子で言う。ちょっと怪しい気もするが、今度は手紙の方を開けてみる。そこには小さく可愛らしい文が一言添えられていた。

 

『お姉ちゃんは私にとってヒーローだよ。ありがとう』

 

「……」

「あの時のお姉ちゃんはね、見ず知らずの私を必死で助けようとしていたの。自分では分からないと思うけど、その時の姿ってのはとても勇敢でカッコ良かったんだよ? だから、ずっとお礼が言いたくて……その……」

 

 私は麻耶の頭を撫でる。

 

「もう何も言わなくていいわ。貴方が言いたい事は十分、私に届いてるから。その……こっちこそ、こんな素敵なプレゼントありがとうね」

「……っ! えへへ……」

 

 麻耶は照れくさそうに笑う。私も同じ様に、照れくさそうに笑った。

 威厳なんて、あの異変が起きて以来なくなってしまった。そう思っていた。でも、それは間違いであった事に今回のこの出来事で気づかされた。胸が大きくなった? だから威厳が失われた? それでもって吸血鬼の力を失ってしまった? 今考えれば、全部言い訳にしか聞こえない。そんな物があってもなくても、ちゃんとこうして見てくれている人がいる。たったこれだけの事。でも、それが私の中ではとても大きく響き渡っていた。

 確かに、今の私はまるでポンコツみたいな吸血鬼だと思う。威厳なんて欠片もないはず。でも、少なくとも今目の前にいる少女にとっては私は威厳のある存在に見えているのだろう。

 と、ここである事に私は気付いた。そう言えば、まだ私は彼女に名を名乗っていなかった。この際、名乗っておくのが礼儀というものだ。息を整え、胸を盛大に張る。そして、彼女に握手を差し伸べる。

 

「レミリア。レミリア・スカーレットよ。アンタを助けたヒーローの名前、ちゃんと胸に刻み込んでおきなさい」

「うん! レミリアお姉ちゃん!」

 

 少女は差し出した手を取り、握手を交わした。傍から慧音が温かい眼差しでそれを眺めている。少し恥ずかしい気持ちはあるけれど、不思議と心地良さの方が勝っていて特に気にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――この時はまだ誰も知らない。満点の夜空を照らす月が、僅かに黒く穢れている事を。




・東雲麻耶(しののめ まや)
今作品初のオリジナルキャラクター。暴走した咲夜に人質として捕らわれていた所を、レミィが上手い事助け出す。以来、レミィに対して尊敬の眼差しを持つようになる。でも弄る時はとことん弄る。彼女からすると、レミリアは命を顧みず勇敢に人の命を救い出すヒーロー的な存在。見た目は自他ともに認めるほど霊夢に似ているが血縁関係は特にない。いささか毒舌な一面もある。趣味はお菓子作り。実家が和菓子屋を営んでいる為、幼少の頃からお菓子を作り続けている。今では跡継ぎ候補として両親を支えるている。性格に難があるけれど、意外と根は良い奴。

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