レミリアに威厳(カリスマ)はありません!   作:和心どん兵衛

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※大規模改装を実施しました。以前と全く異なる展開をご堪能頂ければ幸いです。


1・私に威厳(カリスマ)はありません!

「ほらお嬢様、床にへばりつくだなんてお嬢様として品がないです。立ってください、そして……」

「い、嫌よ。それ以上は言わないで!!」

「脱ぐのですっ!!」

「嫌ぁぁぁぁっ!! 絶対に嫌ぁぁぁぁっ!!」

 

 断末魔の叫びがここ紅魔館にて木霊する。

 ……えっと、急な展開で申し訳ない。まずは自己紹介からさせてもらうわ。私はレミリア・スカーレット。10世紀以上にも渡り繁栄を築き上げた由緒正しき吸血鬼スカーレット家のその末裔。そして、私がスカーレット家の末裔の証であるものとしてお城のような館、紅魔館と呼ばれる館に住んでいるの。それも主として、ね。ちなみに年齢なのだけれど、4世紀に相応するわ。っと、ここら辺で私の自己紹介は以上とさせてもらうわね。

 先ほどの断末魔の叫びの主は、この私である。しかもこんな夜遅くからである。何かサスペンスが起きていても可笑しく無い時間帯だよね、こういうのって。というよりも、今の私がサスペンス映画の被害者的な位置にいたりしてね。あはは……

 それはともかく、なんで私がこんなに絶叫を上げているのか? それは目の前で仁王立ちして不気味なまでの笑みを浮かべたメイドに理由があるの。

 

「さぁ、お嬢様。今この場にいるのは私とお嬢様の二人のみ。いい加減に観念して、その下着を脱いでもらいましょうか!!」

「ぜぇーーーーったいに、嫌なんだからぁぁぁっ!!」

「全く、往生際の悪いお嬢様ですね。そもそも話が違いますよお嬢様」

「誰もここまでしろとは言ってないから!!」

「え、でもブラとパンツ合わせて残り残機は二機じゃないですか。どこも違ってなんかいないですよ?」

「違う、そこじゃない! なんで起きた瞬間に『野球拳をしましょうお嬢様。無論、異論は認めないし拒否権もありません(満面の笑み)』って言うのが違うのよ!! あと、女の子の場合は下着まで脱がないのがルール!!」

 

 花も恥じらう乙女である私は今、裸にさせられそうになっています。乙女の大ピンチです。

 このメイド、なんていうかその……性格がドSなのです。ちなみにだけど、彼女の名前は十六夜咲夜。私の側近である。花が咲く十六夜の月浮かぶ夜、だなんてちょっと風情があって素敵な名前。……だと思うけど、蓋を開けてみればとんでもない。まごうことなき、ドSなのだ。ほら、彼女の名前をよく見てごらんなさい。咲夜って名前は、最初Sで始まるでしょ? これがドSを裏付ける証拠になってるわ。夜に本性が花のように咲き誇る、そんな意味合いを込めて咲夜という名前なのでしょう。全く、こんな名前つけた人は頭どうかしてるよ。

 それだけじゃない、彼女は私の食事の際に必ず一品だけ何かしらハズレみたいなのを混ぜ込んでいるのよ。吸血鬼だから匂いで区分けできるですって? そんな事ができたら当にやっているわよ!彼女の振る舞う料理には見た目、匂い、味、どれを取っても非の打ち所がない。それほど完璧に作り込まれているのだ。そんなものからハズレを見つけ出す事は、言うなれば、水晶の山から氷を見つけ出すほどの難易度。

 

「そんなルール、私は初めて聞きましたよお嬢様。そもそもですよ? 私とお嬢様は女の子同士です。衣服の脱ぎ合いだなんて全然気にならないものですよ?」

「アンタ以外の人とだったら話は別だけどねっ!!」

 

 同性の子と一緒に着替えるのは別に何も可笑しい事ではない。それは確かに一理ある。でも、咲夜の場合だと話は別になってくる。

 私の発言を聞いた咲夜は、ふと急に不敵な笑みを浮かべた。吸血鬼としての直感が『これは不味いぞ』と脳内で警鐘を鳴らす。だって、笑い方があまりにも不気味なんだもの。なんか特撮もので出てくる悪い怪人達がしそうな顔してるんだもん。絶対に何か企んでるに違いない。世界を我が手に、とか軽く考えてそうだわ。私の遠い親戚、グラハム・ヒットラーおじさんも真っ青よ。

 

「ほぅ……この私以外でしたら、ですか。ちなみにですけど、私以外の人とは?」

「そ、それは……その……」

「くっくっく……本当はいないのではありませんか? そんな無理をしてまで胸を張る必要はございませんよ。虚勢で居られ続けると腰痛の元になりますから」

「まだ私は若いわよ!? それに、その説は咲夜が造り上げたデマでしょうがっ!!」

 

 齢400歳。確かに、10代後半の咲夜(彼女は人間である)からすると相当な年寄りでしょうね。でも、人間の物差しで測ったらそうなるだけで、吸血鬼の物差しで測ると咲夜と大して変わらない。色々と事情ってものがあるんですよ、我が吸血鬼業界も。

 

「いやいやそんな事ないですよ、お嬢様。卑屈な性格が腰痛の元になるという意味合いでは合っているんですよ」

「病は気からとか言うけど、それは絶対にないからねっ!! てか、口八丁かお前は!!」

「瀟洒です、そんなものと一緒にしないでください。穢れます」

「十分に穢れているわよっ!?」

 

 やっぱりであった。ろくでもない事考えていたよこのメイド。

 確かに私は咲夜になんとか反撃の機会を試みようとして、ハッタリをかました。でも、時々館に来る客人と一緒に風呂に入って裸のお付き合いをしているのも事実。血の繋がりがある妹や親友である魔女とだって、時々入る。でも、時々ね。それに、こういう事を言うのってぶっちゃけると恥ずかしい。面と向かって咲夜に言うのには、ちょっと抵抗がある。でも、それを言わなければ私はこのままイジられ続ける。それはなんとしても御免。

 

「全くもう、さっきから往生際の悪いお嬢様なんですから……」

 

 はぁ……と、ため息混じりに咲夜は呟く。往生際が悪いなんて語弊だ。そっちの方がよっぽど往生際が悪い気がする。でも……今回の咲夜の往生際の悪さについて、少し納得している私自身がここにいたりする。なぜなら、まだ誰にも言わないでいる秘密が私にはあるのだから。

 

「いい加減に、そのブラを外しなさぁぁぁぁいっ!!」

「うぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

 咲夜の中で何かが割れたのか、今までクールビューティを気取っていたのが嘘のように、獣が如く私の胸に飛び掛かってきた。あまりの豹変ぶりに思わず私は悲鳴を上げる。

 さて。そろそろここで、私が咲夜の要望を頑なに拒み続ける理由を話さなければならない。

 咲夜が理性を失い、野獣になってまで私のブラを取り外しに掛かるその理由。それは、私自身の胸にあった。

 

「お嬢様のその胸にぃぃぃ、たわわに実ったおっぱいは本物であるはずがないっ!!」

「本物よコレは!! そうまでして確認する必要はあるのっ!?」

「お嬢様はいつも嘘つきです。これが本物であるかどうかは、私自ら確認する必要があるのです!! 否、お嬢様に拒否権はありません!! さっきから頑なに拒み続けていると、私の好奇心も限界まで達するのは必然。 ……てな訳で、お嬢様っ!! そのおっぱい、揉ませていただきます!! 異論は一切、この咲夜が認めないっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁっ!! 変質者ぁぁぁっ!!」

 

 理性を失った咲夜はただの変態だった。私は恐ろしくなって、悲鳴を上げながら部屋を飛び出た。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 本来、女性というのは年を重ねるごとによって女性らしさを身に着けていく。その過程で、胸も成長するものである。だが、それが一夜の内に成長したらどうなるか。答えは簡単、誰でも混乱するに決まっている。

 私、レミリア・スカーレットは吸血鬼ではあるが例外ではない。

 何時からこの身に異変を感じたのか分からないけど、ある日の朝、目が覚めたらそこに当たり前のように実ったおっぱいがあった。何を訳の分からない事言いだしてるの? ただの痴女なの? そう思うでしょう。でも、起きた出来事をりのままに説明するとこうなる。いや、こうなってしまうのよ。

 最初は何が起きたのか分からなかったよ。でも、たわわに実った胸というのは女の子の中ではある意味理想的なものであって、それが起きたら身に宿っていたとなるとなんかこう……すごく光栄だった。奇跡だと思ったよ。その日は一日中ずっと部屋に籠って狂喜乱舞してた。あまりにも勢い余ってはしゃぎ過ぎたから、足の小指をテーブルの角に何度もぶつけて悶えていたよ。

 しかし、それは一時の間の至福と時に過ぎないという事を知らされる羽目になった。

 最初に異変を感じたのは、散歩がしたい気分になって館の外に出た時である。日の光が天敵である吸血鬼にとって、日中の外出というのは命の危険を伴う。丸腰で行こうとするなら自殺しに行くようなもの。瞬時に日に焼かれ、灰になって吸血鬼ライフ終了よ。

 その為に、私達は特別使用の日傘を差して日中は行動している。その日も、いつも通り日傘を差してのんびり管内の庭園を散歩していた。そしたら、赤く綺麗に咲いたバラが咲き誇る場所に辿り着いた。吸血鬼は人の血が大好物。これは宇宙の真理と同じくらいなものである。血のような色をしたバラを見ると、自然とそのバラにうとれてしまうのは必然であった。

 その時よ。バラに夢中になってて気づけなかったのか、一陣の強烈な突風が吹き抜けたのよね。あまりの突発な出来事だったから、緩く握っていた日傘は案の定飛ばされたわ。

 

 ――――あ、これ死んだな。目をつむってそう思ったわ。今までの人生が走馬灯で蘇ってきたわ。

 

 でも、何故だか死ななかったの。目を開けると、そこはお花畑……ではなくて、赤いバラが咲き誇る庭園だった。

 疑問に思ったよ。なんで先ほどまで見ていた光景がそこに? ってね。もしかしたら、気づいていないだけでもうとっくに死んでいたりしているのかも。だなんて考えた。試しに頬をつねってみれば、ちゃんと痛みがあった。よく死んでるかどうか分からない時ってこうやるでしょ。それで、痛みがあったらちゃんと生きている証拠ってやつ。

 それをやって痛みがある。つまり、生きている。それが判明した後は不可思議にも思いながら、「今日は疲れているんでしょうね。寝よう」と言いながら眠りについたわ。

 

 翌朝。私が着替えに手間取って咲夜を呼んだ時、部屋に入った咲夜は私の胸を見るなり唖然。石みたいに硬くなってしまったよ。とりあえず、そこら辺で立たれているのも迷惑だったから事情を説明した。その後の咲夜の反応は、

 

「はは……そうですか。そのような事があったのですね、はは……。はぁ、なんで私だけ……」

 

 理解してくれたが、どこか上の空なご様子だった。私の胸と自分の胸を見比べては、何かをぶつぶつ呟いていた。なんか、「呪い殺してやる」とか物騒な言葉が聞こえたけど。それはさておいて。

 それ以来、咲夜は私に対する態度が少しだけ冷めた感じになった。少し寝かせて冷ましておいた紅茶みたいに、ほんの微々たるものだったけど。長年私と共に過ごしているだけあって、その微々たる変化はすぐに気づいた。

 一体何が原因になっているんだろう? 私はそう思った。物事には何かしら原因はあるものだ。少々考えを巡らせると、それはすぐに思い至った。

 私の胸だった。咲夜は私を見る時、私の顔ではなくて先に胸を見ていた。その度に、冷めた視線が胸に突き刺さる感覚を覚えていた私である。

 このまま放っておくと、いずれ私と咲夜の間に深い溝ができてしまう。胸より絆の方が大切なものであるものだ。それに気づかされた今、私はこの胸と決別して元の日常を取り戻す。そう覚悟を決め、私は胸を元に戻す方法を探すべく行動に出た。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「何も逃げる事はないですよ、お嬢様ぁぁぁっ!!」

「ひぃっ!? 追って来ないでよ変態っ!!」

「変態ではありません、瀟洒です。私のどこをどう見れば変態と呼べるのでしょうか? 逆に不思議に思えてきますよお嬢様。さてはお嬢様、貴方の方がよっぽどの変態なのでは?」

「まずは自分が今何をしているのか、鏡を見てみなさいよっ!」

「あら、今日の私は左側頭部にクセ毛が一本立っていますね。私とした事が……っと、これでよし」

「違う、そこじゃないっ!! その蟹のような横走りで追って来るアンタ自身だよ!!」

 

 あの決意を胸に秘めてはや一週間が経つ。その間に得る事ができた情報というのは、あまりにも悲惨なものであって。その情報の一つに、目の前にいる咲夜の豹変ぶりも存在する。

 いつもポーカーフェイスを装って、優雅に私の身の回りを淡々とこなしていくその様はまさに出来るメイド。伊達に瀟洒を名乗ってるわけではないと感じさせる。しかし、それは私の身体に起こった異変を境にその瀟洒ぶりは垣間見る事はなくなる。その代わり、新たに露わとなった咲夜の一面がこうして表面に出てきてしまっている事であった。蟹のように横走りで私を追いかける咲夜には、もはや瀟洒の影は見当たらない。完全に変態と化していた。あの頃からずっと変わらないポーカーフェイスと横走りの組み合わせは、ある意味シュールであった。そんじゃそこらのホラー映画と比べものにならない恐怖とシュールさ。こんな所まで出来るメイドであって欲しくはなかった。それが今は無常に悲しい。

 

「はて、何の事を仰ってるのでしょうかお嬢様。今の私は完全無欠のメイド長ですよ?」

「その恰好でっ!?」

「私は普通に追いかけているだけです」

 

 両手を振り子のように左右に振りながら横走りで追いかける咲夜。蟹走りから欽ちゃん走りに、いつの間にか進化(悪化)していた。どうやら完全に自分を見失っているようだ。これでは何を言っても埒が明かない。というよりも、しれっとした顔と体が完全に別物になっている。これが私の知っている咲夜であったのであろうか。今一度、考えさせらる。考えても無駄だけどね。

 とにもかくにも、咲夜の隠されていた部分が明らかになってしまった事は悲しい。でも、それだけにはとどまらない。単身で調査していみたら更に悲しい事実が判明したのだ。

 

 日の光を直に浴びても灰にならなくなった出来事があったその夜、私は洗面所の鏡台の前にてある実験を試してみた。それはカミソリで自身の腕を切るというものであった。傍から見ると頭のイカれた自殺志願者にも見えなくはないが、こうでもしないとある事が分からないのよ。

 薄く、表面だけを切る感じに刃を滑らせる。すると、当然の事だが刃が通った部分はぱっくりと切れて血が出てくる。それからしばらくの間、傷口を観察していた。

 私がこの行為をした理由、それは吸血鬼としての治癒力が働いているかどうかを検証する為の行為であった。そして、検証の結果。流血が止まるのに10分、完全に傷が治ったのは就寝した後の事であった。

 この結果は、並みの人間と大して変わらないものである。吸血鬼なら、こんな傷は1秒も掛からず完治する。つまり、この結果から導き出される答えはただ一つ――――私は吸血鬼としての能力を失ったのであった。

 苦手な銀も平気で触れるようになり、身体的な能力も並みの人間と変わらない事もついでに判明したのは言うまでもなかった。ただ、暗視に関して言えば辛うじて吸血鬼程度に残っていた。生まれ持った特殊能力も何故だか失われていた。この特殊能力については今は触れないでいるが、とにかく私が私である事の何よりの証拠になるものという事だけはあえて言っておく。それについてはまた今度の機会に。

 

「ええいっ! 本っ当に往生際の悪いお嬢様ですね。こうなれば……」

「!? まさか……」

 

 欽ちゃん走りをしていた咲夜が急に止まる。そして、懐から懐中時計を取り出した。

 それを見た瞬間、私の直感は嫌な気配を捉える。恐れていた事態がこれから起きようとしているのだ、この『運命』からは逃れる事はできない。私の直感がそう訴えてくるほどに。心臓の脈拍が急激に上がる感覚を覚える。

 

「こんな事で使う気はいないでいるつもりでいましたが、やむをえません。一時的に『止めさせて』もらいます」

「くそ、させるかっ!」

「戯れ事はお終いですお嬢様。――――『止まれ』」

 

 咲夜がそう呟いた瞬間、天地がひっくり返るような感覚が私を襲った。

 一瞬の感覚だった。それが過ぎ去った後、目の前に私の胸を鷲掴んだ咲夜の光景があった。

 

「やっと捕まえましたよお嬢様……くくくっ」

「ぁ……ぅ……」

「おおっといけませんね。動かないでください。動いたらその乳がどうなるか知りませんよ?」

 

 先ほどまで変態極まりない咲夜が一転、悪の魔王みたいになっていた。瞳の奥でドス黒い何かが渦巻いている。

 恐怖のせいで私は先ほどまでの罵声は何処へやら。ただ呻く事しかできなくなっていた。蛇に睨まれた蛙とはこの事を言うのであろうか。

 

「お嬢様、もう観念してもらいましょう。今日はたぁーっぷりと遊んであげますからね」

「や、お願い……それだけはやめて咲夜」

「問答無用っ!! 私の気が済むまでその乳、揉んで揉んで揉みまくりますからねっ!!」

「いやぁぁぁぁぁっ!! 勘弁してぇぇぇぇっ!!」

 

 その日、生まれて初めて一番大きな悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 あのあと咲夜に胸を散々揉まれた私は、処女を剥奪された少女のように生気を失った瞳で一夜を明かす事になった。


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