もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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85. 信念の象徴

 

 

 

『参加者の皆様は6つの防衛拠点の中から自分が防衛する拠点を選択してください!』

 

『上位ランカーには豪華賞金を贈呈します!』

 

『参加者以外のゲームエリアへの立ち入りは危険ですので、一般の方は指定するエリアには入らないようお願いします!』

 

 あやか達の頑張りによってイベントの参加者は順調に増えていた。

 用意された魔法使いの杖やローブを身につけ、生徒たちは、魔法の試し撃ちを楽しんだ後、イベントの開始をいまかいまかとワクワクしながら待っている。

 

 生徒達はアナウンスの指示に従って各所の防衛ポイントに集まり、その半数はロボットが出現すると思われる湖岸付近に集っている。

 

 

 

 

 一方その頃、総一と古菲(クーフェイ)はイベントの防衛作戦に参加するために世界樹前広場へ向かって走っていた。

 

「……えぇ……はい……じゃあ状況を見て……はい、その時は手筈通りに……では」

 

 何度かケータイで話をしながら走っていた総一は、一通り話を終えると自身のポケットにケータイをしまった。

 

「師匠、いったい誰に電話してたアルカ?」

「あぁ、ちょっとな」

 

 その電話の相手が気になって古菲は訊ねるが、総一本人は答えを濁す。

 

「……だんだん賑やかになってきたな」

「参加者も増えてるみたいアルネ!」

 

 目的地に近づくにつれて、二人は魔法使いのローブと杖を身につけている生徒をチラホラ目にするようになった。

 二人はその光景を見て、作戦が順調に進んでいることを予感した。

 

「あぁーーッ、そこの二人ィ!」

「ん?」

「む?」

 

 ふと走っている最中、二人に声をかける女性が現れた。突然声をかけてきたその女性に、二人は不思議に思いながらも足を止めた。

 見たところ、その女性……大学生らしいお姉さんは学園の魔法使いでもイベントの参加者というわけでもなく、ただの一般人のようだ。

 

「あなたは……どちら様?」

「そこの洋服ショップの店員です。あなた達、昨日うちの店で服借りた子でしょ?」

「「…………あぁ!」」

 

 少しの間、二人は何のことかと首を捻ったが、やがて思い出したというような顔で揃ってポンと手を鳴らした。

 

(そういえば、この人……武道会の後に寄った洋服店*1の店員さんだ)

 

 武道会が終わった後、二人は新聞部や野次馬の目を逃れるため洋服店に行って、変装の服をレンタルしていた。目の前のお姉さんは、その時に二人の服を見繕った洋服店の店員である。

 

「うちのレンタル期間は終日までなの。あなたたちがレンタルした服、返してもらえるかしら?」

「え、えーと、いま急いでますので、あとでで良いですか? 今日中には返しますので……」

 

 レンタルした服は着方は違えど今も身に着けているため、すぐに返すことは可能だ。

 だが総一たちにとって、今は少しでも時間が惜しい。

 

「別に良いけど、どうなっても知らないわよ?」

「……というと?」

「うちで預かってるあなたたちの服が、あなたたちが来る頃にはファッションクリエイト研究会の素材になってるかも」

「なにッ!」

「無茶苦茶アル!」

 

 二人は揃って声を上げる。

 本当のところ、レンタルの規約では『もし預け主が衣服を預けたままにしている場合、数か月預かった後、衣服をバザーに出すこと』となっている。だが店員の立場としては預かった服はなるべく返したいため、お姉さんはことを大げさに言って二人をけしかけたのだ。

 

「どうするアルネ師匠?」

「……はぁ」

 

 しかし残念ながら今の二人に契約内容について知るすべはない。それに預けている服の中には、総一の制服も入っている。

 一刻も早く広場に向かいたいところではあるが、総一は仕方ないといった表情でしぶしぶ洋服店に寄り道することにした。

 

 

 

 

 店にやってきた総一と古菲(クーフェイ)は、預けていた服を受け取り、武道会の時に着ていた服に着替えた。総一は学ランに黒いコート、古菲はショートパンツとチャイナ服だ。

 

「前より綺麗になってるアルネ!」

「預かってる間に破れたところを縫って洗濯したの。サービスよ……あぁ、それとね」

 

 着ている服を見ている古菲に、お姉さんは何やらラミネート加工されたチラシを取り出しながら言った。

 

「今なら割引価格で服にプリントしてあげるけど、どうする?」

「いえ、結構です……ん?」

 

 断ろうとした総一であったが、ふとお姉さんが取り出したチラシに載っているサンプルの一つに目がとまる。それはよくありがちなアウトローファッションの髑髏だった。

 いつもなら一瞥してダサいなぁと思うデザインだが、いまの総一はそのサンプルの髑髏を見て、とあるヤブ医者の言葉を思い出した。

 

(不可能をものともしない“信念の象徴”、ねぇ……)

 

 たかがマンガに出てきたキャラクターのセリフ。

 だがそれは、この世界に生きる者、そして何か大きなものと戦う者にとっては、覚悟を持つために背中を押してくれる言葉となりえた。

 

「……これってオーダーしたイラストだと、どれくらいで仕上がります?」

「んー、モノにもよるけど……一週間くらいかしらねぇ」

「そうですか……」

 

 そんなに時間を要すると、さすがに頼めない。

 しかし、ここで考えついたことをやめるのも気勢がそがれる。

 総一は違う方法を考えついた。

 

「じゃあ、なにか白い塗料とかってありますか?」

「えっ! え、えぇ……たしか奥にあったと思うけど」

「少し貸してもらえます?」

「……まぁ、別に構わないけど」

 

 唐突な少年の頼みに疑問を抱きつつも、お姉さんは店の奥へ塗料を取りに行った。

 総一は羽織っていたコートを脱いで、背中の部分をまっすぐ床に広げた。

 

「俺も“信念”持ってやらないとな……」

「……師匠?」

 

 横にいた古菲に、その言葉の意味するものは、まだ分からなかった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 少し時間が過ぎ、世界樹前広場。

 防衛拠点のひとつであり、運営の場所でもあるそこには、他の防衛拠点よりも多く参加者が集まっていた。

 たくさんの参加者の中にはA組のメンバーもいる。

 

「ふふーん、まだかなぁ!」

「イベントの開始時間は、まだ先だよ」

「いっぱい敵を倒して賞金もらうもんねぇ!」

「楽しみですぅ」

 

 裕奈、アキラ、鳴滝姉妹は支給された魔法具を手にして、イベントが始まるのを楽しみに待っていた。

 

「おーい。ゆーな、アキラー!」

「あっ亜子」

 

 参加者の中から裕奈たちを見つけた亜子が彼女たちと合流する。その手には運営からもらったと思われるバズーカタイプの魔法具があった。

 

「どこ行ってたの?」

「ん、ちょっと色々なぁ……」

 

 先ほどからずっと姿が見えなかったことが気になってアキラが訊ねたが、亜子は答えを濁してうっすら笑うだけだった。

 

「なになにぃ、私たちに秘密なんて感心しないにゃー!」

 

 親友の反応が気になって、裕奈は亜子を問い詰めようとした。

 しかしその時……。

 

「おい、何だアレ!」

「えっ!」

 

 誰かの大きな声に反応して、裕奈たちは周りのみんなが見ている方へ目を向ける。

 目を向けた先には運営が設置したイベントの様子を表示するスクリーンがあった。そして今、そのスクリーンには湖から続々と現れるロボットの大群と、それを見て驚く湖岸に集まっていた参加者たちの様子が映っていた。

 やがて、岸に立ったヒト型ロボットのTX(ティーエックス)シリーズが参加者に向かって攻撃を開始した。

 

「な、ななな、なんじゃアリャーーっ!」

「あれが噂の脱げビーム!」

「うわぁチョー本格的ィ!」

「すご過ぎですゥ!」

 

 尋常でないロボット軍団のクオリティの高さとロボットの攻撃で裸になっていく生徒を見て、スクリーンを見ていた防衛拠点の生徒たちは、総じて驚天動地といった感じのリアクションになっていた。

 現時刻、イベント運営が参加者に通知していた開始時間ではない。だが(チャオ)は計画を早め、予定よりも早く奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

『なんと、開始の鐘を待たず火星ロボ軍団が現れましたァ!』

 

 魔法使いのコスプレをした朝倉の姿を見て、アキラは「朝倉また司会してる……」と一人呟く。

 湖岸から現れたロボットの群れは、その数を増やしていき、すでに2500体を超えるロボットが湖岸に並び学園都市を囲んでいた。

 

『さぁ魔法使いの皆さん、準備は良いですかァ!』

 

 もはや開始時間がどうとか言ってる場合ではない。

 イベント参加者、魔法先生と魔法生徒……すべての魔法使い達は戦うことを余儀なくされた。

 

『では、ゲーム開始(スタート)!』

 

 学園祭イベントと偽った、魔法使いと火星人の戦争が、いま幕を開けた。

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

*1
【56. 勘?】を参照。店員さん自体は出てきていません。本話で初登場です。

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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