もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
オリ主、久しぶりの出番。
「……あーらら」
クザンはため息をついて、頭をガシガシと掻いた。彼とあやかの抗争によって、エヴァンジェリンのログハウス付近の林は、氷雪地帯と化している。凍った大地と林は、風に当てられてギシギシと音を鳴らしていた。
「これは……」
「凄まじいな」
葛葉と神多羅木は景色の変わりように唖然としながら、雪と氷のまじった地面をザクザクと踏み、一人立っているクザンの元へ歩み寄る。彼らの口から溢れる息も、もれなく白く曇っていた。
「青藤……いえ、クザンさん」
葛葉は口ごもり、改めて彼の名前を呼んだ。最近までただの生徒だと思っていた男が、実は能力者で、しかも魔法の国の軍人だということに、彼女はいまだ慣れないでいた。
クザンは身をひるがえし、もうこの場には用はないと何処かへ歩きだした。
「……逃げられた」
二人の横を通りすぎ、クザンはボソリとそう溢した。
☆☆☆
ぼんやりと土煙が漂う地下通路。そこにあるいくつもの人影の中で、一番長身であるボルサリーノは、目の前に立つ二人を怪訝な顔で睨んでいる。一人は学ランを着た少年で、顔や手先など肌の見える部分は、すべて包帯で覆われていた。各所の包帯の隙間からは火傷による爛れた肌が見えている。もう一人は霜のついた長い金髪をなびかせた少女で、身につけた制服にも氷が張っている。手先の肌も奇妙なほど色白い。
そんな二人……総一とあやかは、明日菜を守るようにボルサリーノと彼女との間に立っていた。
「ハァーッ!」
見合っていたのもつかの間、総一は飛び上がり、その勢いを利用してボルサリーノに回し蹴りを繰り出す。武装色の覇気を纏った彼の足蹴りは、ボルサリーノの身体をしっかりと捉えた。
ボルサリーノは腕で蹴りを防いだが、勢いに押され、その場から吹き飛んだ。身体は光化してレーザーとなって飛散した。
「……痛ェ」
地に足をつけた瞬間、総一は身体に走る痛みに耐え、周りに聴こえないくらいの声でボソリと溢した。その小さな声が聞いたのは、一番近くにいたあやかだけだった。
「よぉ、明日菜」
「そ、総一?」
しかし自身の不調を隠すように、総一はいつものような調子で明日菜に声をかけた。その声を聴いて初めて、明日菜は目の前にいる包帯男が総一であると理解した。聴こえてきた声は、まるでラジオにノイズが交じっているみたいにかすれていた。
「お持たせしましたわ、ネギ先生!」
「い、
そばにいたネギも、いつもとは違う二人の様子に思わず目を見開いた。
「ネギ先生ッ!」
途端、後方にいた夕映が叫んだ。何事かと思い、ネギが振り返ると、彼女は壁にある世界樹の根を指さしていた。なんと彼女の指した樹の根は光を失っている。
「なっ、光が、消えてく……!」
「マズイ、世界樹の魔力が消えてってんだ! はやくしねぇと間に合わねぇ!」
火のついた導線のように世界樹の根から光が失われていく様子を見て、ネギ達は焦燥に駆られた。
「ここは私たちに任せて、皆さんは先へ!」
「でも!」
「早く行け!」
「無茶です、加賀美さん! その体で!」
あやかと総一は先を急ぐように促すが、明日菜とネギは難色を示した。そうこうしている内にも、光っている根の先端は、奥へ奥へと移動していく。
「困ったねェ~~」
蹴り飛ばした方向から声が聴こえる。目を向けると、ボルサリーノがのっそりと歩きながら戻って来ていた。かなりの衝撃があったにもかかわらず、彼の身体や衣服には傷ひとつ見受けられない。
「走ってください!」
あやかの指示を聞き、光を失う樹木の根っこと無傷のボルサリーノを見ながら、ネギ達は渋々といった様子で奥へ向かって走り出した。あやかも彼らの後に付くようにして奥へと進む。
「逃がさないよォ~~」
ボルサリーノは彼らが背を向けて走っているのを狙って、指を向けてレーザーを射った。
一直線に走ったレーザービームは、あやかの身体を貫いた。
「委員長さん!」
「委員長ッ!」
レーザーが貫いた衝撃で身体を反らせるあやかの姿を見て、ネギと明日菜は声を上げた。
その場にいる誰もが一瞬、死んだと思った。だが、穴の空いたあやかの身体は、雪の塊となり空気に溶けるように周りに散った。
「おやァ……?」
彼女のその変化に、ネギ達だけでなく、ボルサリーノも不思議そうな顔をした。
「変形、人獣型」
ボルサリーノがあやかに気を取られている間、総一は姿を変え、間合いを詰めていた。彼は姿を変えるだけでなく、人差し指を突き立てた片手に覇気を纏う。
「
総一の攻撃はパシュと空気を裂くような音を鳴らす。しかし身体に触れる直前に、ボルサリーノは総一の手首をガシッと掴んだ。いつもの状態であれば当てられたかもしれない攻撃であったが、今の総一は怪我の影響で、満足に攻撃を繰り出すことができなかった。
ボルサリーノはそのまま掴んだ手を上げて総一を持ち上げた。ボルサリーノの強い握力に、また総一の身体に痛みが走る。
「クッ……コンニャロっ!」
痛む身体に鞭を打ち、吊るされたような状態から、総一は無理矢理身体を動かして、ボルサリーノに蹴りをいれた。
スピードもなく、大した威力もない足蹴りだったが、それでもボルサリーノの身体を捉え、拘束から逃げることができた。
「雪
総一が距離を取った瞬間、雪の弾丸がボルサリーノを襲った。それは総一が攻撃していた間に、雪化から戻ったあやかが放ったものだった。
だが、雪兎の弾丸はボルサリーノの身体を素通りして、辺りに雪を飛散させるだけだった。
「私は大丈夫です。皆さんは気にせず先へ!」
立ち止まっていたネギ達に向けて、あやかは声をあげた。不安そうな顔で二人を見ていたネギ達だったが、あやかの指示に従い、また奥へと走り出した。
「あの人も能力者……しかも、
あやかは顔を険しくし、転がって受け身を取った総一と並ぶように立って身構えた。
「
歪んだ眼付きで二人を見ながら、ボルサリーノは眉をゆがませる。その表情は、部屋の光に寄ってくる夜の蛾を見ているように、心底煩わしそうだった。
「雪広、お前は下がって明日菜たちを守れ」
「……なにか策が?」
あやかの問いに、総一は無言で顎を引いた。
彼の反応をしっかりと確認して、あやかはゆっくりと後退りした後、ネギ達を追い掛けるように走り出す。
「
総一はアーティファクトを出現させ、そのまま流れるような動作で矢を構え、魔法の射手である『光の矢』を射つ。
大きな爆発音が轟き、また一帯に爆煙が広がった。
通路の先にあった開けた場所は、世界樹の真下を表すような儀式的な巨大遺跡が広がっていた。
ネギ一行は、その遺跡の中心にある魔方陣のそばで立ち往生したように立ち止まっていた。
「皆さん、早く!」
遅れてやってきたあやかは、一行に駆け寄り、過去へ飛ぶように急かした。
「あの人は?」
「加賀美さんが足止めしています。皆さんは早く過去へ!」
「なに言ってるの、ここまで来たらアンタ達も一緒に……!」
二人も連れて行こうとする明日菜に、あやかは首を横に振った。
「いえ、それはできませんわ」
「なんでよ!」
「過去から来た皆さんと違い、私と加賀美さんはこの時間の人間です。だから行けませんわ」
「どういう意味よ!」
明日菜は語彙を強めて訊ねた。そんな彼女に、あやかは何かを懐かしんでいるようにも見える呆れ顔で、ため息をついた。
「……ホント、おサル並みのおバカさんですわね」
「こんな時にまでサル呼ばわりすんじゃないわよ!」
時間がなく、あやかはそれ以上説明しなかったが、彼女の意志は固かった。この場にいる者の中で、彼女の意図を理解したのは、(理解度に差はあれど)ネギと夕映、のどかと千雨だけだった。
ここで総一とあやかが戻って時間を変えれば、その時間軸に、二人の同一人物が同時に居続けることになり、矛盾が生じる。ただでさえ7日という大きな時間を戻ろうとしているにもかかわらず、そのような矛盾が生じる現象を起こせば、それによって、ネギ達が無事に過去に戻ることができなくなってしまう可能性もある。その可能性を事前に考えていたあやかは、少しでも過去に希望を残すため、自身はこの時間に止まることを決意していたのだ。
「ネギ先生」
あやかはネギの前に立って、優しく抱きしめた。
「ここまで、あまり協力できる機会がありませんでしたが、私もネギ先生の従者です。過去に戻りましたら、是非とも、その時間の私を頼ってください!」
抱きしめられたネギは、あやかの身体から感じる冷たさに、思わず目を大きくしたが、見上げた先にあった彼女の優しく笑みに、対称的な暖かさを感じた。
「委員長さん、あの!」
「大丈夫ですわ」
ネギの言葉を遮り、申し訳ないような顔でいる彼に、あやかはニッコリと笑った。あやかはネギが何を言おうとしていたのか、少なからず理解できたようだ。分かったからこそ、彼女は目の前にいる一人の少年の言葉を遮ったのだ。
「さぁ、はやく!」
あやかはネギと放れ、過去へ跳ぶよう促した。
「兄貴、もう時間がねぇ。あやかの姐さんを連れてけねぇのは残念だが、世界樹の魔力が尽きちまったら意味がねぇ。はやくやっちまえ!」
「待ってください、まだ楓が!」
「拙者なら、ここに!」
カモがネギを急かす。それに刹那が待ったをかけたが、同時に当の楓が彼女の後ろに現れ、いつでも過去へ向かえるようになった。
明日菜達はネギを中心に、隣にいる仲間と手を握り合い、一緒に過去へ跳べるよう身体を繋げる。
「
瞬間、彼女達から少し離れた位置に立っていたあやかは、背後に殺気を感じて身体を翻した。
「雪垣!」
突如、ネギ達を狙いに来たような眩い光が走る。しかし、それは、あやかの出現させた雪の壁によって、辺りに飛散した。散った光は、瞬時に人の形を成して、やがてボルサリーノへ姿を変えた。
姿を現したボルサリーノは、煩わしそうに雪の壁を睨む。
あやかは慣れない武装色の覇気を足に纏い、自身が作り出した雪の壁を散らして、ボルサリーノと距離を詰めた。それに迎え撃つため、ボルサリーノは身構える。
だが、その瞬間、背後に総一が現れたことで、それに気を取られ、彼は隙を作ってしまった。
「「邪魔するなァァ!」」
あやかと総一の揃った回し蹴りが、ボルサリーノを遺跡の壁に向けて吹き飛ばした。その衝撃で壁は崩れ、辺りに轟音が響く。
二人のおかげで、今、ネギ達は過去へ跳ぶまたとないチャンスを得た。それを感覚的に察知したネギは、過去へ跳ぶ決心をして、手に持った
「みなさん掴まってください。いきます!」
跳ぶ直前、明日菜はあやか達の方へ目を向けた。この時、なぜ彼女が二人の方を向いたのか、彼女自身、後で思い返しても分からなかった。
通路にいる二人は、ネギ達を見送るように立っている。総一はお気楽そうに皆へ向け手を振り、あやかは真っ直ぐ明日菜を見つめていた。
「ネギ先生のこと、頼みましたわよ。明日菜さん!」
「……えぇ、任せといて!」
明日菜のその言葉を最後に、ネギ達はこの時間から姿を消した。
☆☆☆
遺跡の中心にいた面々がいなくなり、通路に立った二人は、とりあえずの目的は達成できたと、安堵の息を溢していた。
「良かったのか?」
「えぇ、あとは過去の私に任せますわ」
「そう。まぁ、それもあるんだけど……」
一息ついたのも束の間、総一は、あやかのことを含め、現状とこれからについて考える。
「あの人は政府の人間だ。現状でもヤバいのに、これ以上楯突けば、今後の『雪広』の名前にも傷がつくぞ?」
総一と違い、あやかには家族がいる。それも財閥の人間だ。魔法が世界にバレて世間が混乱しているとはいえ、ここで問題を起こせば、あやかだけでなく、彼女の家族も、何かしらの汚名を着せられるだろう。
「……分かっています。覚悟の上ですわ」
「無理しなくても、ここからは、俺一人でも良いんだけど?」
総一がそう言うと、あやかは見透かしたような眼で彼を見つめた。
ここであやかが身を隠して、総一がボルサリーノを相手取れば、あやかには真っ当な道を歩める可能性が微かだがある。総一は婉曲的に、あやかに逃げるように助言したのだ。
また、総一は『一人でも良い』と言ったが、彼は今、あやかよりも重い傷を負っている。いくら
それらを察したあやかは、やれやれと息を吐いた。
「いいえ、
「別に、こんな時にまで気を使わなくても良いんだけどなぁ」
「今さら貴方に気を使ったり致しませんわ。私がやりたいからやるんです」
腕を組み、あやかは顔をプイッとそらす。少しだけ見えた彼女の横顔は、微かに赤く染まっていた。
そんな照れ隠しが垣間見える彼女の仕草に、総一はクスリと笑みをこぼした。
「お前のそういうトコ、結構好き」
「……バカ」
そんな風に二人が話していると、遺跡の壁が大きく崩れた。やがて、立ち上る土煙の中からボルサリーノが姿を現す。
「おぉ~~、ビックリしたねぇ……」
壊れてできた壁の穴の中に立っているボルサリーノは、殺気のまじった眼で通路にいる二人を睨んだ。
「さて……それじゃあ、
「えぇ、そうですわね!」
二人は能力を発現して、アーティファクトを構えた。
総一は天使の翼をはためかせて飛翔し、あやかは吹雪を纏い辺り一面の地に雪を積もらせていく。
そして、“神々しい光”と“純白の光”は、黄色いレーザー光と、ぶつかり合った。
その戦いは、地下の遺跡を半壊させるまでに至った。
☆☆☆
その後、二人とボルサリーノの戦いが、どうなったのか知るものはいない。
しかし、数日後、現実世界と魔法世界に、ふたつの手配書が配られた。
“天聖者”、加賀美総一。
懸賞金:7800万¥
“雪女”、あやか。
懸賞金:7000万¥
時が経ってなお、この二人の名前は、2つの世界で、時折、新聞を賑わせた。そして、『魔法世界の崩壊』に深く関わったことで、さらに懸賞金の額は上がり、その名前は広く知れ渡った。
やがて、二人の名前は、世界をひっくり返した“海賊”として、歴史に刻まれたのだった。
TO BE CONTINUED ...
やっと「別の時間軸」編が終わった。
この(魔法がバレた)時間軸のその後のお話を考えるのも、自分は好きです。
というのも、過去に委員長が「私は過去完了形から現在進行形で恋をしている」と言ってましたが、コレってつまり、委員長には過去に“惚れたヒトがいる”って事なんですよね。
その相手というのが……まぁ、言わなくても良いか。
そういうことを掘り下げながら、この世界軸における二人の活躍を考えると、結構楽しいものになりそうな気がしています。
さて、次章は「第8章もうひとつの麻帆良祭最終日」編です。
ネギと総一は、あの超鈴音に勝てるのかな?
それでは、『待て、次回!』
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
-
超 鈴音