もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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79. 雪女VS青キジ

 

 

 

 

「委員長!」

 

 捕まる寸前のところで現れ、現在、クザンと向かい合っているあやかの後ろ姿を見ながら、明日菜は声をかけた。

 

「皆さん、この方は私が足止めします。皆さんははやく逃げて下さい」

 

 あやかによって彼女達の足に張っていた氷は砕かれ、明日菜達は自由に動くことができるようになっている。

 

「逃げてって。大丈夫なのアンタ、あの人は!」

「この方の能力については知っています。その力量も……」

 

 あやかはいつになく真剣な表情でクザンを見据えながら、明日菜の言葉を遮った。今の彼女には一瞬のスキもなく、いつもの天然な雰囲気はまったく感じられなかった。

 

「だから皆さんは早く行って下さい」

「でも!」

「明日菜さん、ここは委員長さんに任せましょう。私たちには、あまり時間がありません!」

 

 あくまでも足止めしようとするあやかに、明日菜は意地を張ったような声を上げるが、夕映に諭され、渋々といった様子で口を閉じた。

 あやかの後ろにいた面々は後ずさりしながら、その場を後にしようと走り出す。

 だが直後、あやかは「明日菜さん」と一番近くにいた彼女の背中に声をかけた。

 

()()を、ネギ先生に渡してください」

 

 あやかは巻物のような形になっている一枚の紙を明日菜に投げ渡した。

 

「これ?」

「詳しくはそれに書いてあります。はやく行ってください!」

 

 そういって、あやかは振り返りクザンに眼を向けた。

 

「……無茶しないでよね」

 

 凛として佇むあやかの背中に向けて、明日菜はそれだけ言い残し、夕映たちの後を追って走り出した。

 

「えぇ……」

 

 風の音にもかき消えてしまいそうな、悪友(ダチ)のその言葉を、あやかはしっかりと受け取った。

 

「ですが、無茶をしなければ、あまり長くは足止めできそうにありませんわね……」

 

 誰に応えるでもなく、あやかはボソリと言った。その後、気持ちを持ち直して意識を目の前のクザンに向ける。

 

「はぁぁ」

 

 敵意のこもった眼を向ける彼女に、クザンはわざとらしいため息を洩らす。

 

「まったく……もう一回ゆーけど、邪魔しないで頂戴よぉ」

「生憎、そういうわけにはいきませんわ……来れ(アデアット)

 

 あやかは仮契約(パクティオー)カードを取り出し、アーティファクト『優雅なツララ』を構えた。

 

「そぉ。それなら……仕方ねぇな」

 

 対してクザンは、道端の雑草をむしり取り、空中に浮かべ氷結させた。

 

「アイスサーベル」

 

 クザンは氷のサーベルを手に持ち、構えを取った。

 すると二人の周りには、それぞれ質の異なる冷気が流れ出した。クザンの周りには極寒の刺々しい冷気の風が、あやかの周りには豪雪地帯ような吹雪が吹き荒れる。二人の周りの景色を言葉で表すなら、まさしく“南極”と“雪国”だ。

 

「……行きます!」

 

 あやかはアーティファクトのグリップを強く握り、クザンとの間合いを縮めるように駆け出した。

 しなやかさを感じさせる動きでツララを模した刀身を振り、あやかはクザンに斬りかかる。

 

「ハァーーッ!」

「ムッ!」

 

 クザンの構えるサーベルを打ち払い、あやかは斬撃と突きを変則的に繰り返す。だが相手が経験をつんでいる軍人とあって、彼女の攻撃はいなされ、クザンの身に当たることはなかった。

 それでも、得物をぶつけ合うたび、あやかはわずかな“手応え”を感じていた。少しずつその手応えを重ねながら、あやかはアーティファクトを振り続ける。

 やがて氷のサーベルにヒビが走り、全身に伝播して砕け散った。

 得物を失ったクザンだが、まったく動揺の色は見せなかった。サーベルが砕けた瞬間、彼は腕を伸ばし、あやかの腕を取ってグイッと引き寄せた。

 

「アイス」

「ッ!」

 

 見聞色の覇気から危うい気配を察知したあやかは、柔術を駆使して掴まれた手を振りほどき、その場から飛び下がった。

 

「クッ……!」

 

 クザンと距離を取ったあやかは、普段あまり感じない腕に突き刺さるようなひんやりとした感覚を感じ、反射的に手で押さえた。押さえた箇所を見ると、氷の塊が自身の腕に侵食したように張り付いていた。

 

(腕が、凍った……!)

 

 普通の人間であれば、氷水などに身体を浸した時、浸った箇所が(かじか)み、血の気が引き、ヒリヒリと痛むような感覚を覚える。

 しかし、『ユキユキの実』の能力者であるあやかは、自身の身体が“雪”の性質を持っているため、普通の人間が冷たいと感じる温度の物に触れたとしても、身体が凍えることはない。

 だが今、あやかは普段感じることのない凍える感覚を感じていた。それは、彼女の能力がクザンの『ヒエヒエの実』の能力よりも“下位種”であるという証だった。

 あやかは腕にある冷感をよそに、マントをなびかせるような動きで手を振った。

 

「雪(ラビ)!」

 

 彼女が振った手の軌跡から、兎形の雪玉が銃弾の如くクザンに向けて吹き飛んだ。

 

「フッ」

 

 だが雪玉が着弾する前に、雪玉はクザンの冷気に当てられ、速度を失って空中に凍りついた。

 

(やはり私の能力では、あの方には敵わない……)

 

 クザンの強さを実際に見て、自身の劣勢を確信し、あやかは無意識に一歩後退りした。

 それでも、自分の務めを果たすため、彼女は諦めなかった。

 

「カマクラ十草紙」

 

 クザンの周りに雪柱が生え、彼を囲うようにドーム状に広がった。

 

「あーらら」

 

 瞬く間に雪の壁に囲まれたクザンは、カマクラの内部を見上げて、気の抜けた声を洩らす。その間にも、彼が見ているカマクラの外側では、次々とカマクラの層が形成されていった。やがて、十層の硬い雪のドームがクザンを閉じ込める。

 だがなお、クザンの表情に変化はなかった。

 

「いい加減、諦めなさいな……」

 

 クザンはヤンチャな子供に言い聞かせるように言いながら、ゆっくりとカマクラの壁の前まで歩を進めた。

 そして、彼は雪でできた硬い壁を手のひらで触れる。

 

氷河時代(アイス・エイジ)

 

 

 

 

 

 場所は変わり、明日菜達は武蔵麻帆良の教会に向けて走っていた。佐倉愛衣から聞き出した情報では、その教会の地下牢にネギがいるらしい。あやかと別れた所からは、もう随分と離れた所まで来ている。

 

「寒っ!」

 

 途端、明日菜は後方から吹いてきた風の()()()()()()に、思わず足を止めて背後に目をやった。前にいる(クー)や木乃香達も、彼女と同様に足を止めて、後ろを振り返える。

 そして目の前に広がる光景に、皆一様に目を見開く。

 

「えェ!」

「なッ!」

「これはッ!」

「そんな、馬鹿なッ!」

「ウソっ!」

「なんじゃこりャーー!」

 

 そこに広がっていたのは、まさに“氷の大地”。

 彼女達がいる所より少し先は、地面や木々をはじめ、所々にある路面や電柱など、目に見えるすべての物が氷に覆われていた。まるで世界が凍ったようにさえ感じられる。

 

「オイオイなんだよアレ! さっきの比じゃねぇーぞ!」

「……これが悪魔の実の能力(ちから)!」

「こんなことまで!」

 

 千雨、のどか、夕映が自然に出てきた言葉を吐露する。口調は違えど、周りの他の面々も含めて、同じく光景に驚愕していた。

 

「……委員長」

 

 明日菜の頭に、目の前の“氷の大地”の中にいるであろう彼女の存在が過る。

 

「明日菜さん!」

「ッ!」

 

 夕映に呼ばれ、明日菜は自身が足を踏み出し、来た道を戻ろうとしていることに気がついた。

 

「委員長さんが心配なのは分かります。ですが、私達が今すべきことは、ネギ先生を救出して過去に戻ることです!」

「うん……そうね、行こ!」

 

 夕映の言ったことを理解して小さく頷き、明日菜は皆と共に走り出した。だがその心には、どうしても後ろ髪を引かれるような気持ちが残った。

 

「……信じましょう。委員長さんも同じ能力者、それに私達も知っての通り、とてもタフな人です。ただではやられませんよ」

 

 長年の付き合いから明日菜の心中を察した夕映は、彼女の不安を軽くするために、そう言った。もしかしたらそれは、周りの木乃香達や自分自身にも、言い聞かせたものだったのかもしれない。

 そして夕映がそう口にした直後、“氷の大地”の中から爆音が鳴った。

 

「……そうみたいね!」

 

 その爆音を聴いて、あやかが無事であることを悟った明日菜は、さっきまであった不安を一掃して、再度、前を向いて走り出した。

 

「あんなのでも、私達のクラスの委員長だもん。絶対、大丈夫っ!」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「そんなことが……!」

 

 一連の話を聞いて、ネギはただただ、そう言葉を洩らした。

 

「タカミチは、どうやってその話を……?」

「昔、エヴァに聞いてね。どういう経緯でエヴァが他の面々と手を組んだのかとかまでは聞けなかったけど、ちょっとした話の種に、その事件について話してくれたことがあったんだ」

 

 微笑を浮かべながら、タカミチは灰皿に灰を落とす。

 

「そして、そんな話をエヴァから聞いていたこともあって、僕は『悪魔の実』を世間に広めることは、世界に大きな悪影響を生むと思っているんだ」

 

 タカミチの言ったことを理解し、ネギは「うん」と静かに頷いた。

 現状で進行してしまってはいるが、もし『悪魔の実』の存在が世界中に広まった場合、いずれそれを悪用するものが現れる。そして、その力を独占しようと強奪、虐殺をする者も現れるだろう。

 タカミチはそれを危惧していた。

 

「……そういえば、タカミチは最初に加賀美さんと話をしろって言ったよね。それはどうして?」

 

 話のはじめにタカミチの言っていたことを思い出し、ネギは訊ねた。

 タカミチは吸い終わった煙草を灰皿に置き、火を消した。

 

「加賀美君は超君を止めることに、まったく迷いを見せなかった。彼も世界に『魔法』と『悪魔の実』を広めることへの良い影響と悪い影響を、ちゃんと理解しているにも関わらずね。彼は彼なりの()()があって超君の計画を止めたと思うんだ。その考えは、きっと君が超君を止めるかどうかを判断する上で役に立つと思うんだ。僕達のやり方は失敗だったけど、彼は超君を追い詰めるまで行けたわけだからね」

「……そっか、分かったよ」

 

 ネギは顔を俯かせ、強張った表情で小さく頷いた。

 タカミチは新しい煙草を取り出し、火をつける。

 

 ――TRRRR

 

 すると突然、タカミチの懐から電子音が響いた。タカミチは携帯電話を取り出し、電話に出た。

 

「はい……うん、そうか。ガンドルフィーニくん達にも伝えてくれるかい?」

 

 それだけ言うと、タカミチは電話を切って、牢の出入口に向かう。

 

「ちょっと失礼するよ」

「どうしたの……?」

 

 何かあったと思われるタカミチの様子に、ネギは顔を上げ声をかけた。

 

「君を助けに来たのさ……君の仲間達がね」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 一方、その頃。麻帆良学園の出入口となる大橋の上。

 現代社会の一般人とは違う、ただならない雰囲気を持つ集団がいた。

 体格や顔つき、立ち振る舞いなど、その集団の変わった所は多々あれど、ひときわ特徴的な点は、その服装だ。

 全員、ジャケットと肩にかけるようにコートを身につけており、そのコートの背には『正義』の文字が刻まれていた。

 

「麻帆良学園都市ねェ。たいそう御立派なこってェ……」

 

 集団の先頭に立つ男が、飄々とした低い声を洩らす。

 長身な体格に、色の入ったメガネ、黄色いストライプのスーツ、一目で堅気の者じゃないと思わせる見た目をしたその男は、橋から見える学園の様子を一瞥すると、再度歩き出し、学園へと向かう。

 

「ボルサリーノ大将!」

「ンー?」

 

 ボルサリーノと呼ばれたその男は、すぐ後ろを歩いていた部下と思われる男に意識を向ける。

 

「いま報告が上がってきまして、なんでも本事件の重要参考人達が学園内を逃げ回ってるようです。如何しますか?」

「あーん? 学園の魔法使いは、一体なにをしてるんだァい?」

「分かりません。おそらく参考人達に抵抗され、苦戦してるのではないかと……」

「……まったくゥ」

 

 眉間の皺をやや深くし、ボルサリーノはため息を吐いた。

 

「それなら、ソイツ等はわっしが捕まえてくるよォ。アンタらは先に学園へ行ってなさいなァ」

「ハッ!」

 

 気の抜けた声で部下達に指示を出した後、一瞬の閃光と共にボルサリーノは姿を消した。

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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