もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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70. まっすぐなバカ

 

 

 

 

「はぁーー、遊んだ遊んだ!」

 

 木乃香は満足そうな表情で背伸びをした。

 陽もすっかり落ち、辺りは夜のイベントで賑わっている。遠くの方からはパレードや花火といった楽しげな音が聴こえてくる。

 

「今年も面白い出し物ばっかりやったなぁ」

「そうですねぇ。楽しいと時間があっという間に過ぎちゃいます」

 

 木乃香と並んで歩くネギがニッコリと笑った。

 

「これからどういたしましょうか?」

「中夜祭までは、まだ少しあるわね。なにか食べてく?」

「さっき生ハムメロン食べただろ……。そういえば雪広、お前、前のこの時間に晩餐会がどうとか言ってなかったか?」

「あぁ、それでしたら時間を跳ぶ前にキャンセルしましたので御心配なく」

 

 二人の後ろにつく形で、あやか、明日菜、総一の三人が並んで歩いている。

 

「てか中夜祭って、お前らこんなに遊んで、まだ騒ぐ気かよ。疲れない?」

「良いじゃない別に。それに疲れてもエヴァちゃんの別荘ならすぐに休めるし」

「……あまり使いすぎると、老けるぞ」

「うっ! ……べ、別に、普通の人より2日、3日長く生きたって、そんなに老けないわよ」

「どうだか。塵も積もれば何とやら。その積み重ねが、大人になってシワとか白髪とかの原因にならなきゃ良いけど?」

「……うぅ」

 

 明日菜は「やっぱり少し(エヴァちゃんの別荘に)行くのやめようかなぁ」と、小声で洩らした。

 

「加賀美さん。前から思っていましたが、少しはデリカシーというものを持った方が良いですわよ。正論は時にウソより人を傷つけることがあるんですから」

「切り傷で悪性腫瘍が防げるなら、その方が良いだろ」

「そういう意味ではなく、乙女にとってそういう美容や外見に関する話は、とてもデリケートなものなんですから、野蛮原人の明日菜さん相手といえど気を付けるべきですわ。それに、急所を切りつけたら意味ないでしょうに……」

 

 あやかは頭を抱えながら、総一に呆れた眼を向ける。

 

「ちょっと、サラッと人をおさる扱いしないでよ」

「原人はどっちかというと、もうヒトだよ。火が使える」

「そういう問題じゃない!」

 

 総一のなんのフォローにもなっていない返答も含め、明日菜は二人に怒りをぶつけた。その様子から明日菜の調子がすっかりいつも通りに戻っていることが分かる。

 

「なにかあれば人を猿公(エテこう)扱いして、いい加減にしなさいよね!」

「そんなイチイチ細かいことに噛みつくなよ。雪広みたいになるぞ?」

「うるさい、この鳥公(トリこう)!」

「あなたは逐一鼻につく所をチクチクつついてきますね。羽が生えるだけでなく、口先も尖ってるのではありませんか?」

「なんか言ったか犬公(ワンこう)?」

 

 後方から聴こえてくる三人の喧騒に、ネギと木乃香は少し困ったような顔をしながらも、くすくすと笑いあっていた。

 

「「ネギ先生ぇー!」」

 

 そんな風に歩いていると、どこからか鳴滝風香と鳴滝史伽がやって来た。

 

「こんなところで何やってんの?」

「私たちもご一緒するですー!」

「あっ! 委員長たちがケンカしてる!」

「また三人で仲良くやってるですね!」

 

 ネギ達の後ろで言い争っている三人を見つけた二人は「やれやれぇー!」と更に煽る。

 

「やりましたわね、お馬鹿ざる!」

「なにすんのよ、性悪鳥獣ぅ!」

「うるさい、ショタリアンハスキー!」

 

 風香と史伽の盛り上げのせいもあってか、三人のケンカが落ち着きをみせるまで、そこそこの時間を要した。

 

 

 

 やがて三人のケンカもおさまり、ネギ達は中夜祭まで時間をつぶすため、鳴滝姉妹と共に更に辺りを散策する。

 

「あっ、あれは!」

古菲(くーふぇ)だ!」

 

 しばらく周辺の賑やかな風景を眺めながら歩いていると、広場の隅でポツンと立っている古菲を見つけた。

 だが、いつも明るくて楽しげな雰囲気の彼女と違い、今の彼女は暗い様子で肉まんを口にしていた。そんな古菲のしょぼんとした表情が気になって、ネギは「古老師ぃー!」と鳴滝姉妹と共に駆け寄った。

 

「なにかあったんですか?」

「元気ないですー!」

「古菲が元気ないなんて一大事じゃんっ!」

 

 ネギたちに詰め寄られ、古菲はピクッと身体を揺らす。

 

「な、なんでもないアルよ。べ、べつに内緒の話なんてないアル!」

 

 その分かりやす過ぎる古菲の反応に、その場に全員が彼女のウソを見抜いた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 少し時間を戻して、古菲(クーフェイ)がネギ達と広場で出会う前の話。

 周りにひと気のない橋の上で、古は(チャオ)鈴音(リンシェン)と会っていた。

 

「やぁ、(チャオ)

「その声は……(クー)カ?」

 

 武道会で新聞部などのマスコミに追われている(クー)は、お面で自身の顔を隠して歩いていた。

 辺りに人がいないこともあり、古はパンダのお面を外して、その内にあった笑顔を超に向けた。

 

「今日の武道会は楽しかったアルよ。開催してくれてありがとうアル! 儲かったアルか?」

「ぼちぼちネ。古も一段と成長したみたいで、友人として嬉しいネ。“覇気”をモノにするのも近いだろう」

「おぉ、知ってたアルか! 超はなんでも知ってるアルね。魔法のことも知ってたアルし!」

「ニヒヒ、まぁーネ」

 

 魔法先生から身を隠している超であったが、親友同士とあって、古との会話はいつも通りの和気あいあいとしたものであった。

 

「そういえば最近手合わせしてなかったアルネ。久しぶりにやってみるアルか?」

「いや、やめとくヨ。もう敵わないネ」

「ナハハハ、超らしくないアルネ、謙遜なんて。どこで覚えたアルか?」

「ニヒヒ……その言い回しは師匠ゆずりカナ?」

 

 小馬鹿にしたように笑いながら言った古に、超は苦笑いで返した。

 

「……そういえば、前に(クー)は言っていたナ、『いつか私は“格闘王(かくとうおう)”になる』と」

「うむ! 最強と呼ばれる格闘家の中の更なる頂点、“格闘王(かくとうおう)”になるのが私の夢アルネ!」

「そうか……なれそうカ?」

「いやぁアハハ。最近は師匠との修業もあって少しはデキるようになったと思ってたアルが、今日の武道会で世界の広さを知ったアルよ。まだまだ先は長いアル!」

 

 古は頭を手をやって困った顔で笑った。

 そんな彼女を見て、ふと超は、いつものニコニコとした笑顔をやめ、どことなく切実な表情で古に目を向けた。

 

「……この2年、古は良い友達だった。だから私から、2つ伝えておくネ」

「む? なにアルか?」

 

 珍しく凛とした雰囲気で話す超に、古はキョトンとした顔で訊ねた。

 

「世界には幾人もの“(おう)”や“皇帝(こうてい)”がいる。(クー)の目指す“格闘王”も、きっとその一角となりえるだろう」

「……うむ?」

「だが総じて、“王”が世界に与える影響というのは凄まじい。(クー)にはそのことを、よく知っておいてほしいネ」

 

 超の話を聞いて、古は「むぅ?」と首を傾げる。

 

「私が目指すのは“格闘王”アル。世界で一番強い格闘家が“格闘王”アルね、世界なんて関係ないアルよ?」

「ニヒヒ、(クー)らしいな」

 

 純粋な眼で述べる(クー)を見て、超はニカッと笑った。

 

「だが本人が望まずとも、“王”という存在、あるいはそれに向かって突き進む者達は、何かしら世界の人々に影響を与える。私の()()()も、古と同様、とある“王”の座を狙っていたが、その影響力たるや並大抵のものではなかったネ」

「同僚? 誰アルか?」

「昔の知り合いネ。説明すると長くなるから、あまり気にするな」

 

 (クー)の問いを、超は笑いながらサラッと受け流した。

 

「ソイツは、かなりの野心家でナ、己の野望ためには手段を選ばないヤツだった。あまり良いヤツとは言えないが、それでも、その人間くさいヤツの振る舞いが周りの奴らを惹きつけた」

 

 一瞬、(クー)(チャオ)から、なにか混沌とした空気を感じ取った。それは、怒り、憎しみ、哀愁、尊敬、どれともはっきり言い表すことはできないが、そのどれとも取れるようなモノだった。

 

「『人を凌ぐのも楽じゃない』とヤツは言っていたが、この言葉に私は共感している。あらゆる科学の法則や難しい魔法を使うことよりも、人を乗り越えていく方が、ずっと難しい。それを乗り越えた、ほんの一部のものが、“王”と呼ばれる椅子に座れるのだとしたら、“王”の存在やその椅子に座ろうとする者たちが、多くの人々に影響を与えるのも頷けるネ」

「……う、うぅーむ」

 

 (クー)は腕を組み、眉間にしわを寄せた思案顔で首を捻る。

 

「……むぅぅ、帝王学とかいうやつの話アルか?」

「ニヒヒ、そんな大したものじゃないネ」

 

 口を尖らせながら目一杯考え込んでいる目の前の親友に、超は「やはり(クー)には難しいカ……」と小声で洩らす。

 

「つまり“王”とは、そのあり方次第で、希望にも絶望にもなり、周りの人々を幸せにも不幸にもする。だから(クー)、お前も“王”を目指すなら、()()()()皆の希望となる“王”になってほしい。これは親友としての私の願いネ」

 

 言いたい事の1つを言い終え、超は一度そこで言葉を区切った。

 古は、また「うーむ」と考え込むよう顔を俯かせる。

 

「……超が何を言っているかイマイチ分からなかったアルけど」

 

 古の前置きに、超は「ニヒヒ」と苦笑いする。

 

「とにかく私は、私のまま“格闘王”になれば良いアルな!」

 

 下を向いていた古は、ふと顔を上げ、いつものようにニッコリと笑いながら言い放った。あまり中身のなさそうな思考の末に出た古の結論に、超は思わず絶句してしまった。

 だが唖然としたのもつかの間、すぐに彼女は、ニヤリと口をつり上がらせた。

 

「……ニヒヒ、ニヒヒヒヒ、ニャハハハハハ!」

 

 洩れ出た彼女の微笑は、やがて爆笑に変わった。普段大人しめな超にしては珍しいほど、彼女は大きな笑い声をあげる。

 

「さ、さすが(クー)ネ。やはりお前は“まっすぐなバカ”だヨ!」

「むぅぅ、いきなりバカとはなにアルか!」

 

 お腹を抱えて笑う超に対して、古は不満そうな顔を彼女に向けた。

 

「ニヒヒ……いや、すまない。そう、(クー)はそのまま自分の信じた道を進むと良いネ」

 

 超は「ニヒヒ」と薄く笑ながら呼吸を整え、目の端に溜まった涙を拭う。

 やがて超の笑いも落ち着き、彼女は「では、もう1つ」と、これまでの流れを仕切り直すかのように口を開いた。

 

「2つ目は……クラスの皆には言わずに行くつもりだったが、お前だけには言っておこうと思うネ」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「えぇーー! 超さんが学校を辞めるゥーー!」

(あっ、い、言ってしまたアル!)

 

 古から超が退学することを聞かされて盛大に驚くネギ達と同じように、古本人は自身が口を滑らせたことに、目をぱちくりさせた。

 だが、言ってしまったものは仕方がないと、古は「ホントは学祭が終わった後に渡せと言われたアルガ……」と、懐から何かを取り出した。

 

「これ、ネギ坊主に預かってるアル……」

 

 古は綺麗に折り畳まれた紙をネギに手渡した。その表面にはきれいな字ではっきりと『退学届』と書かれていた。

 

「じゃあ超さん、ホントに……」

「学園祭が終わったらすぐに故郷へ帰ると言っていたアル。どうしても帰らないとイカンらしいアル」

「そんな! 僕なにも、担任なのに……!」

 

 超の退学の件で戸惑っていると、ふとネギのケータイが鳴った。

 

「はいネギです……えぇ。はい。えっ、会議ですか?」

「ネギ先生、仕事ぉ?」

 

 ネギは電話相手に二言ほど返事をすると、意外そうな声を出す。その内容から電話相手が他の先生であることが、周りにいた面々には理解できた。

 

「えぇー! 超さんがっ!」

 

 急な大声に、その場にいた全員がビックリしてネギを見た。

 ネギは「はい、分かりました」と言って電話を切る。

 

「超がどうかしたアルか?」

「い、いや別になにも!」

「ウソ言いなさい! なにかあったんでしょ!」

 

 古が驚いた顔で訊ねたが、ネギは誤魔化すように手を振って否定した。明日菜はネギの反応がおかしいことに気づき、事実を訊き出そうとした。

 

「あ、あの僕、急用ができたので。それじゃあ、皆さん、また後でーー!」

「あっ、ちょっと!」

 

 明日菜の静止の声を聞くことなく、ネギは慌てて逃げ出すようにその場を去っていった。

 

「ネギ君、なんか様子が変やったなぁ」

「どうしたんだろう?」

「会議って言ってましたですけど……?」

「超、なにかやったアルか?」

「ネギ先生のあの慌てよう……なにかただ事でないことがあったようですが……」

 

 木乃香、風香、史伽、(クー)、あやかは、それぞれ思った感想や疑問を口にする。

 そしてふと、あやかと明日菜は総一が先ほどからまったく口を開かないのに、気がついた。眼を向けると、そこには神妙な面持ちで何かを考えている総一がいた。

 

「加賀美さん?」

「総一?」

「ん?」

 

 二人の呼び掛けに気づき、総一は表情を変えて二人に顔を向けた。

 

「どうかしました?」

「えっ、何が?」

「アンタ、さっきからずっと厳しい顔つきしてたわよ」

 

 明日菜に指摘され、総一は思わず「えっ!」と声を洩らす。

 

「そんなに?」

 

 総一が訊ねると、あやかと明日菜は揃ってウンウンと頷いた。

 

「あ、そう……」

「超さんについて、なにか気になることでも?」

「まぁ、少しだけ。いや、大したことじゃないんだけどな……」

 

 あやかと明日菜は、いつもと違う総一の態度が気になったが、彼はハッキリとした答えを返さない。周りで聞いていた面々も、三人のやり取りが気になり、自然とそっちに意識が向いていた。

 

「何よ、どうしたのよ?」

「勿体ぶってないで話したらどうですか?」

「うーん……」

 

 二人の問いに答えることなく、総一は虚空を見つめながら、なにやら思考を巡らせる。

 

「……やっぱり、“一度見とくか”」

「「はぁ?」」

 

 長考の末、総一は一言呟いたが、その意味が分からず二人は声を揃えながら顔をしかめた。

 

「とりあえず気になることがあるから、俺もちょっと行ってくる」

「ちょっと、待ちなさいよ!」

「気になることって何ですか! ちゃんと説明なさい!」

 

 あやかと明日菜に呼び止められ、総一は歩みを止める。

 

「まぁ、その、えーと……あれだ……俺は俺のやるべきことをやるから、お前らはアイツのクラスメイトとして、やるべきことをやれ!」

「あっ! ちょっと、どういう意味よ!」

 

 総一はそれだけ言い残すと「そんじゃ!」と手を振って、どこかへと走り出して行ってしまった。

 

「なんなのよ、もう。ネギも総一も……!」

「………」

 

 明日菜は不満げな顔で、総一とネギが去っていった方向をそれぞれ睨む。

 そんな彼女の横で、あやかは無表情で総一が去っていった方向を静かに見つめていた。やがて、彼女は「はぁ」とため息混じりに苦笑いを浮かべる。

 

「言うならはっきり言ってから行きなさいよね!」

「あの人は適当なことしか言ってないでしょうから。意味が分からないのも当然ですわ……まぁ、なんとなく私達がやるべきことは分かりましたが……」

「えっ!」

「鳴滝さんたち!」

 

 ピンときていない明日菜をよそに、あやかは気合いの入った顔つきで、風香と史伽、木乃香、古たちのいる方へ向きなおった。

 

「なに委員長!」

「急いで、3―Aの方を集めてください! 皆さんの協力が必要です!」

 

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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