もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
ハイヒール女子は走れない!
これ(多分)本当。
『さーて、目の保養ができた所でゲームを再開しまーす! 麻帆良中チームのサーブからー!』
実況者の進行によってゲームが再開され、バニーガール姿のあやかにボールが渡される。
あやかはボールを数回弾ませた後、サーブを打った。心なしか球速が落ちているようだ。彼女の打ったサーブをしいは難なく打ち返した。
そのリターンはネットを超えて、そのままあやかのいるサイドとは逆の方向のベースラインへと飛んだ。
「あうっ!」
あやかはなんとかボールを返そうと足を動かしたが、案の定ヒールのせいで満足に走れなかった。
『おーっと、これは雪広選手、バニー衣装のハイヒールのせいでうまく走れない! そして、しい選手のボールはそのままパネルへ飛ぶー!』
ボールはワンバウンドした後、ベースラインを超えた。
「……
見かねた総一は右足を踏み込み、カバーに入った。彼の姿は残像の影を残してボールの軌道先に現れる。
『ややぁー! 加賀美選手が瞬間移動のごとく回り込んだァ! なんだあの動きはァーー!!』
「せぇー、のッ!」
糸見水や観客の驚愕したリアクションを無視して、総一はラケットを構え、先ほどと同じように振り抜いた。スパーンと音がなり、ボールは相手チームのコートへとわたった。
「ちっ、猪口才な!」
一直線に飛んだきた球を英子は両手で持ったラケットで打ち返す。予想以上の球の勢いに「くっ!!」と力を入れて奥歯を噛み締めた。
やがて、ラケットは振り抜かれ、ボールはまっすぐ飛んでベースラインを超えるか超えないかのギリギリ所でバウンドすると、そのまま麻帆良中チームのパネルに直撃した。
バコォーンという音とともにパネルのマスには『20P』という文字が表れる。
『決まったーー! 加賀美選手のパワーショットを打ち返し、聖ウルスラチーム、20Pゲット!!』
――麻帆良(中)VS聖ウルスラ(高)『45:21』
「うわぁ。あの人、見かけによらず結構パワーあるな……」
打ち返された悔しがるよりも打ち返したことに感嘆として、総一は英子に脱帽したというような目を向ける。彼には黙って背を向けている彼女の姿がどこかカッコよく見えた。
そんな総一をよそに、英子は「馬鹿力め……」とヒリヒリとした手の痛みに耐え、しいから「大丈夫?」と心配されていた。
「くッッ!」
「やっぱりその格好じゃ満足に動けないか……。俺が後ろに行くから、雪広は前を頼む」
「……仕方ありませんね」
あやかは悔しげには眉をひそめながら、総一と交代して前衛に立った。
『さぁー、どんどん行くよー。続いて聖ウルスラチームのサーブ!』
「よーし、バチこーい!」
総一はラケットを構えていつでもどこでも動ける体勢に入った。先ほどの総一の
ふとここで、総一にある考えが浮かんだ。
(そういえば、これってパネルに当てさえすればノーバウンドでも得点になるのかな?)
総一は足を踏み込み、ボールが打ち返せる位置に移動した。
「とりあえず……モノは試し、にッ!」
パコーンと音をたてボールは高く飛んだ。ミスショットかと思われたが、ボールは放物線を描き、ぎりぎり上部にあるマスの一つに当たる。
総一は「よし!」と小さく喜んだが、回転して表れたパネルには『ホイップクリームシフォンパイ』という罰ゲームを表す文字列が書かれていた。
「あっ……!」
『また出たぁーー!! 罰ゲぇーーム!』
先程あやかのバニーガール衣装を持っていた女子生徒が生クリームの乗った紙皿を持って総一の元へ走ってきた。
女子生徒はニッコリと笑って「どうぞ」と手を総一の方へ伸ばす。
「えっ、食べろと? ウワぷっ!!」
総一が言い終えた直後に、彼の顔面が真っ白に覆われた。顔にパイをぶつけるやいなや女子生徒はスタスタとコートから出て行くが、総一の顔に張り付いたパイはいつまで経っても彼の顔から剥がれない。
――アハッハッハッハッ!!
その悲惨で滑稽な有り様を見て、周りの人達は一斉に笑いだした。相手チームの英子としい、明日菜や木乃香も同様に笑っている。そばで見ていたあやかも口元を隠して湧き出る笑いを堪えていた。
「うぅぅ……コントじゃねーんだがらよぉ……」
皆の笑いをよそに総一はベッタリと顔についた紙皿を取り、残ったクリームを手で拭い取る。そして口元についたクリームを拭い取っていると、少量のクリームが彼の口の中に入った。
口の中に広がった甘みに総一は思わず目を見開いた。
「ちょ、甘っ! これ本物の生クリームじゃねーか!」
総一は改めて手についたクリームを舐める。すると確かな甘さを感じた。正真正銘、彼の顔についたのは牛乳から作られたクリームだった。
「おいおいおいおい! こういうのはシェービングクリームとか使うモンじゃねぇーのかよ、顔ベタベタになるじゃねェーか!!」
勘弁してくれよ、と総一は顔についたクリームを入念に落としていく。しかし、すでに手にもベッタリとクリームがついているため、顔中にこびり付いたクリームすべてを落とすことはできなかった。そして当然これは罰ゲームゆえ、手で拭うことはできても、顔を洗いに行かせてもらうことはできない。
ふと、笑いをかみ殺したあやかは、総一が落としたクリームパイの中に何かがあるのを見つけた。偶然にもパイは紙皿を下にして落ちた為、その表面はまだキレイなままだった。一体なんだろう、とあやかは指先で表面に塗られたクリームを取りのぞく。
「これは……ご丁寧にタルト生地まで入れてありますわね」
「地味に痛いと思ったらソレかよ!」
そんな総一が憤慨する横で、あやかが「芸が細かいですね」と一人感想を洩らしていた。
『さぁー、まだまだ行くよー!』
総一はテニスボールを握り、サーブを打つ構えに入った。その彼の顔にはクリームがついており、前衛のあやかはバニーガール姿になっている。初めてこの場の風景を見た人には、一体この二人に何があったのかと驚くこと間違いないだろう。
「ほっ」
総一はボールを落とすと掬い上げるようにラケットを動かしてボールを相手コートに飛ばした。加減して打った事もあり球速はあまり速くない。
「はん、ハエも止まりそうなスピードね!」
ボールはコートの後ろまで飛ぶことはなく、英子のラケットによってリターンされた。おまけに球速は倍以上の速さになっている。
総一は走り出してベースラインを踏み、ボールが飛んでくるのを待ち構えた。ボールはすぐに飛んできて、バウンド後、総一の腰の高さまで上がった。ボールを打とうと総一はラケットを振ったが、彼が握ったラケットのグリップはいきなりツルッと滑る。
「……えッ!!」
ボールはラケットに当たったが、力の入っていないラケットはボールを返すことができずに弾き飛んだ。そしてそのままボールはパネルに当たって『45P』というポイントが表示された。
『決まったぁーー!! 聖ウルスラ女子チームに45ポイントぉ!』
――麻帆良(中)VS聖ウルスラ(高)『45:66』
「あーあーあーあー」
総一は気の抜けた声を出しながら、ラケットを拾って自身の服で手を拭う。違和感のある彼のプレイミスに、気になったあやかはカツコツと靴音をたてて小走りで歩み寄った。
「どうしたんですか?」
「いや、クリームの油のせいで滑った」
手についた油分というのは、そう簡単に落ちるものではない。彼の手には薄くこびり付いた油がテカっていた。総一は「取れねぇー」と言いながら何度も手を拭う。
そんな総一の様子を見ながら、あやかは難しい顔をして奥歯を噛んだ。
「……まずいですねぇ。私はヒールのせいで走れず、加賀美さんは碌に打てないなんて」
「タチの悪い罰ゲームばっかだなぁ。相手さんと運営係がグルなんじゃねぇーの」
「……気持ちは分からないでもないですが、疑っても仕方ありませんわ。とにかく、やれることをやっていきましょう」
聖ウルスラ女子チームが得点を取り、サーブ権は相手側に渡った。
「ふふっ、勝利の女神はこっちに微笑んでるわ」
前衛と後衛を交代して、英子がベースライン近くに立つ。
英子はボールを高く投げ上げ、ラケットを振った。彼女の打ったサーブはそのまま総一とあやかの間をすり抜け、パネルに当たる。
パネルのマスがガラゴロと音を鳴らしながら回転して、裏と表が入れ替わった。
「あっ!」
英子はしまったと言いたげな顔になった。表れたマスには『魔法少女』と書かれていた。
『出たぁーー、罰ゲーム!! 英子選手にはこの衣装を着てもらうよー!!』
「これは……想像に難くない罰ゲームだな」
糸見水の示した先には桃色のヒラヒラした服を持ち上げた運営係の女子生徒がいた。総一は嬉しいと思えば良いのか可愛そうと思えば良いのか、よく分からない気持ちに襲われた。
そして、そこからの流れはあやかのときとあまり変わらない。当人である英子は絶望感の溢れる表情となり、パートナーのしいは肩をポンポンと叩いて同情している。羞恥心やら後悔やら複雑な心境をしながら英子は、コート隅に設置された更衣室に姿を消した。
数分後、相手コートには魔法少女の姿となった英子の姿があった。彼女の着ているピンクのドレスには、あちこちにヒラヒラとした白いフリルがほどこされ、頭には赤いリボンが結ばれていた。
客席からは先程のあやかの時とはまた違った歓声があげられる。
「ぐぅっ……!」
「オーホッホッ、滑稽ですわね!」
「うるさいわね、アンタに言われたくないわよ!」
さっきとまるで立場が逆転して、あやかは口元を手で隠して高らかに笑った。
笑われた英子は涙を堪えるような表情でラケットを握る。いま彼女の着ている服と相まって、総一には彼女の持つテニスラケットが魔法少女の杖のように見えた。露出は少ないが服の装飾や雰囲気からして、どうしても子供っぽさが感じられる。
「高校生にもなって魔法少女って……。どう思う?」
「痛々しいですわね!」
「だよなぁ、魔法少女って言って許されるのって、中学生あたりまでだよな。高校生にもなって魔法少女なんて、まるで美魔女崩れしたおばさんみたいだし、ネギ君が着たほうがまだマシなんじゃないの?」
「…………ぐふっ!」
「おい、いきなりどうした?」
ネギの魔法少女姿を想像したあやかは、口元を押さえて悶絶しそうになった。その顔は火照り、林檎のように赤くなっている。頭上ではカチューシャについたウサ耳が彼女の呼吸に合わせてゆっくりと上下に動いていた。
そんなあやかの変貌に、総一は驚いて心配になるが、あやかに「な、なんでもないですわ」と言われ、とりあえず気にしないことにした。
「……せめて、“キューなんとかハニー”のコスプレの方が違和感なかったんじゃ……。いや、アレはアレで、ちょっとマズイな。どこがとは言わないけど体型が足りてないわ……」
「好き勝手いってんじゃないわよ!」
「あ、やべ。聞かれてた」
ふつふつと感じる怨念のような怒りに、総一は「すみません」と頭を下げる。しかし、英子の怒りはおさまらず、睨み殺すかのように総一に怒りの形相を向けていた。格好のせいで総一にはそれほど怖く感じられなかったが、彼はどうにかして彼女をなだめようと考えを巡らせる。
「えーと……英子先輩、その格好カワイイですよー」
「なっ!!」
怒りゲージが限界点を超えたからか、あるいは我慢ならない恥ずかしさからか、英子は頭から蒸気を噴き出すかようにメラメラと怒りを燃やしだした。
「あいつ、コロス!!」
「あらー、火にガソリンまいちゃった?」
「あなた、ワザとやってませんか?」
頭を掻いて「サーセン」と平謝りする総一に、あやかはただただ呆れたように眼を細めていた。
『さーて、ゲームを再開するよー!』
ボールを渡された英子は涙ぐみながらもサーブを打つ体勢に入る。ボールをバウンドさせる彼女の姿を見て、どこか違和感をかんじた総一は、思考した後その理由が彼女がヒールを履いていることだと気がついた。
「だからなんでヒールなんだよ……」
中々サーブを打とうとしない英子を見ながら総一は、ふとある事を考えた。
「てかこれバニーガールしかり魔法少女しかり、アレって俺が当てた場合も着せられるの?」
「おそらく……」
「……俺もう打つのやめようかな」
あやかの返答に総一は肩を落として、どこかへ逃げ出したい気持ちになった。
やがて、英子は覚悟を決めたような顔つきになり、ボールを投げてサーブを打った。
先程よりグリップを強くに握り、多少滑りながらも総一はなんとかリターンした。しかし、ボールはまっすぐ飛ばずヒョロヒョロと放物線を描く。
「あっ、ヤバッ!!」
ボールはパネルの方へと飛んでいく方向を見て総一は声を上げた。その軌道はつい先程打った軌道とほぼ同じものだったからだ。聖ウルスラの二人もそのボールを返す素振りはない。わざわざ“罰ゲーム”のマスに当たることが分かっているのに、そのボールを返すことはしないだろう。
やがてボールは『ホイップクリームシフォンパイ』と書かれたマスに当たった。
『決まったぁーー、二度目の罰ゲーム“ホイップクリームシフォンパイ”!』
「え、ちょ! 2回同じところ当てても有効なの!?」
『もちろんそうだよー!』
総一が糸見水に訊ねている間にも、彼の元に運営係の女子生徒がやってきた。彼女は両手でパイを持って純粋無垢な笑顔を向ける。
「せ、せめてタオルかなにかをヌグムっ!!」
また言い終える前に、総一や顔が真っ白になる。そして、またしても観客から爆笑の声が響いた。
「ンゥーー! ゲホッゲホッ!!」
不意に口に入ってきたクリームにむせながら、総一は顔にこびり付いたパイを落とす。
「うぇー、甘いし痛いし苦しいしぃ……」
「アッハッハッハッ、ざまぁーみなさい!」
総一が紙皿を引っ剥がすと、英子が指をさして笑っていた。先ほど煽られた(煽った本人は半ば無自覚だが)仕返しなのだろう。総一は「むぅ」と口を尖らせ、半目で英子を睨みつけた。
「なんでだろう……少し前ならそうでもなかったのに、あの格好で指さされて笑われると、ものすごくムカつくなぁ……」
魔法少女の格好でゲラゲラ笑う英子に、総一は一人静かに青筋を浮かべていた。
「顔中まっしろになって、もはや誰だか分かりませんわね」
「お前もやるか?」
「遠慮しておきますわ」
(クリームのせいで分かりにくいが)拗ねた顔をした総一とは逆に、あやかは口元を緩めて微笑いを浮かべる。
やがて周りの笑い声も落ち着き、顔をクリームまみれにした総一はサーブを打つために、ベースラインの外に立った。
「うわぁ、グリップが安定しねぇ……」
しかし顔についたクリームよりも、彼にとっては手についたクリームの方が問題であった。いくら力を込めて握ってもラケットの持ち手がぬるりと滑ってしまう。
「はぁ、もういいや……えーい、ままよー!」
手のひらを拭うなど手を尽くしたがクリームの油分のズルズル感とベタベタ感は取れず、仕方なく総一はそのままサーブを打った。
打球はなんとか相手コートに渡ったが、スピードは遅く威力もほとんどない。しかも、飛んだ方向は英子のいる位置の近くだ。
「ふふーん、チャンスボールね!」
ヒラリと腕を振って英子は余裕の表情でボールを打ち返す。ボールは一直線に麻帆良中チームのコートへ飛んだ。
「ハァーーっ!」
「なっ!!」
だが、ボールは総一のいるベースラインまでは行かず、サービスライン付近にいたあやかによって打ち返された。
あやかのショットは相手二人の間を抜けるまっすぐな軌道を描き、パネルに当たった。
――麻帆良(中)VS聖ウルスラ(高)『85:66』
パネルのマスには『40P』と書かれており、その分の得点が麻帆良中チームに与えられた。しかしそれよりも、動けなくなっていたあやかがボールを打ち返したことに、聖ウルスラ女子の二人は驚きを隠せなかった。
『おーと、ここで機動力がなくなってしまっていた雪広あやか選手が動いた! 麻帆良中チーム再度リードぉー!』
「走ることは難しいですが、一歩踏み込んで動く程度なら問題ないですわ!」
あやかはラケットを相手の方へ向けてポーズを取る。そんな彼女に、コートの外では木乃香と明日菜が「ナイスいいんちょー」「やるじゃない!」と彼女のプレイを称えていた。
「ナイスショット、さすがユッキー」
「ふふん、コレくらいどうってことありませんわ!」
「……あれ?」
総一に褒められ、あやかは得意気に胸を張る。頭につけたうさ耳もピクリと揺れた。からかい混じりな褒め言葉だったが彼女はあまり気にしていないようだ。そんな彼女の今のポーズは、さながらステージに立つモデルのようである。
てっきり『だれがユッキーですか!』と返されるものと思い、総一は肩透かしを食らった。
「100Pまで、あと15点。いま表示されているポイントのマスを狙えば、私達の勝ちですわね!」
「あぁ、けどあまり言い過ぎるとフラグが立つ。油断せず行こう」
あやかがポイントを決めたことでサーブ権は麻帆良中チームに移った。総一はボールを握り、打つ態勢をとる。
『さぁー、このゲームもいよいよ大詰めだよー!』
「ふぅ……」
緊張から周りが少し静かになった。点数から見て、次の得点で勝負が決まる可能性は大いにある。
総一はゆっくりと息を吐き、ボールを投げた。狙いはすでに表に出ている『30P』のマスだ。
「……オラッ!」
思ったほどの威力は出なかったが、総一の打ったサーブはそこそこの速さで相手コートへ進んだ。しかし、薄い笑みを浮かべたしいによって球は返され、高く打ち上げられる。
総一は外野でフライを取る野球選手のように後退りしながらボールを見定める。そしてボールがある程度の高さまで来ると、サーブと同じような動作を取ってボールを打ち返した。
「あ、やべっ!」
なんとかボールを相手に打ち返した総一だったが、彼の持っていたラケットはすっぽりと手から滑り、地面の上を転がった。
「チャンス!!」
総一はラケットを手放し、あやかは一歩分の範囲でしかまともに動けない。しかも総一が返したボールは容易に打ち返すことのできるモノとなっている。英子はニヤリと笑い、2、3歩、足を動かしてラケットを構えた。
「あ、ちょ、タンマタンマ!」
「なにしてるんですか……まったく」
ラケットを拾うためサービスラインより前に向かって走り出す総一を見て、あやかはすぐにベースライン側に向かって走った。
「無駄よ無駄ぁ」
英子はコートの外側に向かって走ろうとしているあやかを嗤う。そして彼女は総一が前に出たことでがら空きとなっているゾーンへボールを打った。
行動はあやかの方が早かったが、ハイヒールを履いている彼女の足では、飛んでくるボールにはとても追いつけない。試合を見ている周りのみんなも、そう思った。
「ハァァァ!!」
だが瞬間、あやかの動きが加速してボールを打ち返せる位置まで移動した。
「なっ!!」
『なな、なぁーんと、雪広あやか選手が超スピードで移動してボールをとらえたーー!』
そのあやかの超加速に、英子やしいのみならず周りの皆も驚きの声を上げる。
しかし、そんな中で彼女と同じコートに立っていた総一だけが彼女の動きの“真相”に気づいた。
(あれは……なるほど。コートに薄い雪を張って、片足をスケートみたいに滑らせたのか。確かにアレなら足を一歩踏み込むだけで動けるうえ、周りに能力がバレることもないな)
あやかがいた位置から、いま立っている位置までの地面には微かに水滴が光っていた。ラインカーで描いた白線の如く引かれた“雪の道”はすでに溶けて蒸発しかけている。また、彼女の左足には(土煙のような)薄い冷気が漂っていた。
「…………雪のほそ道」
「えっ、名前あんのソレ?」
ボソリと呟いたあやかの言葉を聞いて総一は少し耳を疑った。そんな彼のリアクションに反応して、あやかの頭につけたウサギの耳がピョコッと揺れた。
「い、いいからはやく貴方はラケット拾いなさい!」
二人がそんなやり取りをしている間にも、試合は進み、ボールは相手コートの地面でバウンドする。
総一はなんとかラケットを拾えることができた。
「えぇーい! しつこいわ、ねッ!!」
スパンッと音を鳴らして英子はボールを返した。その球のスピードと威力は申し分ない。ボールはネットを超えて、前衛にいる総一と後衛にいるあやかの間をすり抜けるような軌道を描いた。そして、あやかのいる少し前の位置でバウンドして、威力を保ったまま、まっすぐ飛んだ。
「くっ!」
あやかは足を踏み込み、ラケットに力を込めて、なんとか返球した。しかし、打ち返した球はまっすぐ飛ばず、歪なスピンをしながら相手コートの上空に飛んだ。
「はっ! しまった!!」
「もらったァ!」
あやかは焦った顔でボールを見上げ、対する英子は満を持して飛び上がった。そのジャンプ力は並のものではなく、バレーボール選手がアタックを決めるような、あるいはバスケットボール選手がダンクシュートを決めるようだった。
英子はボールを総一達のコートに打ち落とすようにラケットを空中で構えた。
「ちょ、英子先輩! ジャンプ力がスゴいのは分かったけど、パンツ見えるパンツ見える!」
そんな最中、総一は困惑した顔をして早口で言った。その彼の大きな声を聞いて、急に英子の表情が変わる。彼女は顔を真っ赤にして目をつり上がらせた。
「イィヤぁぁーー!!」
「ノワッ!」
ボールは弾丸のようなスピードでまっすぐ総一に向かって打ち落とされた。総一は慌てて直撃から身をかわした。ボールが地面にぶつかる際には、まるで隕石でも落ちていたのかと思わせるような衝撃音がズドーンッと鳴った。
大きくバウンドした後、ボールは重力に従って落下すると何度もバウンドを繰り返す。やがてボールは地面の上をスーッと転がった。
「見るんじゃないわよ!」
「いや見てないです。見えそうになったから注意しただけです…………あれ? てかコレ、なんかデジャブ!」
「……なんですか? こっちを見ないで下さい」
あやかはほんのりと顔を赤く染めて不機嫌そうに総一を睨んだ。そんな彼女達の後ろでは、いまだにテニスボールが静かにコロコロと転がっている。
ベースラインを超えると、ボールはカタコンと音を立ててパネルの後ろへと消えた。
「「あっ……」」
『おおーと、これは!!』
パネルの動く音に気がついた皆は、ギーっと軋んだような音を鳴らしてゆっくり動くマスに目を向けた。
やがて、くるりと回ったマスは、裏表を逆にして静止する。
そのマスには大きくハッキリと『35P』と書かれていた。
――麻帆良(中)VS聖ウルスラ(高)『75:101』
マスに書かれたポイントを見て、聖ウルスラ女子チームの得点が加算された。
「「えっ!!」」
得点板に表示されている点数が信じられないと、二人は声を揃えて驚愕した。
『ゲーム、聖ウルスラ女子チーム! ファーストゲームを取りましたぁーー!!』
「「えぇェェーーーー!!」」
糸見水が宣言すると、総一とあやかの絶叫が木霊した。
TO BE CONTINUED ...
おそらく所々で誤字脱字している、あるいは全体的に駄文になっている気がする……。
とりあえず後で修正しよう。
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音