もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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※ここからは三人称




43. 超人

 

 

 

 能舞台(リング)へ続く道の上で総一は下りてきた明日菜達に「よぉ」と手をあげた。

 

「明日菜、大丈夫か?」

「う、うん」

「一応訊くけど、何があったか覚えてるか?」

「それが、なにがなんだかさっぱり……なにか“大切な事”を思い出した気がするんだけど……」

 

 明日菜は首を振った。総一にはその顔がどこか悲しそうにも見えた。

 

「そうか……」

「加賀美さん、さっきのは――?」

《さぁーて、まほら武道会第一回戦も残すところ最後の第八試合だけとなりました!》

 

 刹那の問いは朝倉のアナウンスによって遮られた。

 

《続いての試合は、広域指導委員所属、加賀美総一選手対、麻帆良中囲碁部所属、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル選手》

「詳しいことは後でな」

 

 総一は足を進め、リングへと向かった。

 

《そして今、リングへ上がりますは、予選G(グループ)にて『3D柔術』の使い手である山下慶一さんを含めた猛者達を拳ひとつで倒しました、麻帆良の『小さな悪魔(リトル・デビル)』と称される加賀美選手!》

「……ホント、その異名やめてくんないかなぁ」

 

 総一は目を細めた。

 

《対しますは、10歳にしか見えないお人形のようなマクダウェル選手!》

 

「おい、朝倉!」

「えっ?」

「危ないからあっちに下がっていろ」

 

 エヴァンジェリンは選手専用の観客席を指した。

 

「けど、私、実況しなきゃだし――」

「死にたいのか」

「すぐに下がります!」

 

 エヴァンジェリンの眼光に朝倉は背筋を伸ばして返事をし、リングから離れた。

 

「あれ、どこ行くんだ?」

 

 リングから離れる朝倉を見て、総一は声を掛けた。

 

「いやぁ、エヴァちゃんが危ないから離れてろって」

「あぁ、異論なし。今回、エヴァさん“本気(マジ)”みたいだから」

「そうなんだ。とりあえず頑張ってねぇ」

《加賀美さん!》

 

 朝倉の後ろに(憑いて)いた相坂さよがリングに上がろうとした総一を呼び止めた。総一は「ん?」と彼女に目を向けた。

 

「どうした?」

《あ、あの、その……頑張って下さい!! 私、応援してます!》

「おぅ、サンキュ!」

 

 ギュッと手を握りしめて言ったさよに、総一は白い歯を覗かせて笑った。そしてロングコートの裾をはためかせてリングに上がった。

 総一とエヴァンジェリンはリング上で向かい合った。

 観客たちはエヴァンジェリンを見ながら「キャーー可愛い!」「頑張ってーー!」「大丈夫なの?」と声をあげ、総一には「加賀美!」「いけーー!」「油断するなよ!!」「手加減してやれよぉ」という声援が送られた。

 

師匠(マスター)、加賀美さん、二人とも頑張ってくださぁーい!」

 

 解説席の横にいるネギも二人に応援を送った。

 

「いよいよ師匠とエヴァにゃんの戦いアルネ」

「大丈夫なのかな、エヴァンジェリンさん」

「そうですね、加賀美さんが魔法を使えないエヴァンジェリンさん相手に本気で戦うとは思えないですけど……」

 

 選手席に戻った明日菜と刹那は古菲や楓と共にリングを見ていた。

 

「でも師匠はエヴァにゃんが“本気”でくるって、かなり焦ってたヨ」

「“本気”って……。エヴァンジェリンさんって“呪い”のせいで、今は最弱状態なんじゃ」

「今ハ世界樹ノ魔力デ一般人程度ノ身体能力ニハナッテルナ。魔力モ俺ガ歩ケル位ハ戻ッテルゼ」

 

 チャチャゼロの話を聞いて、明日菜は「そうなんだ」と頷いた。

 

「しかし、それでも今のエヴァンジェリンさんが加賀美さんに敵うとは思えないのですが?」

「ケケケ。マァ、黙ッテ見トキナ、面白ェモンガ見レルカモシレネェーゼ」

 

 横にいるチャチャゼロの笑みに明日菜達は首を傾けた。

 

《では第八試合Fight!!》

 

 朝倉の開始宣言で周りの観客が歓声を上げた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 試合が始まると総一とエヴァンジェリンは互いに間合いを取った。二人の距離は6メートルほどで、その距離を維持するように、二人は足を横に動かした。

 

「ふふっ、どうした? 掛かって来ないのか?」

 

 エヴァンジェリンは笑みを浮かべながら、上に向けた人差し指をまげた。

 

「先手は譲ってやるってか……。じゃあ、遠慮なく!」

 

 総一は挑発と分かりながらも、地を蹴った。

 初手は回し蹴りだった。だが、それは見せ掛けで、総一はそのまま腰を回して空振った脚とは逆の脚でエヴァンジェリンに蹴りを放った。しかし、彼女は軽く後ろに下がるだけでそれを避けた。

 二発目の蹴りをかわされ、向き合う形となると、総一はその体勢から拳を突いた。彼の拳がエヴァンジェリンの眼前までいったが、瞬間、彼女は総一の手を払い、軌道を逸らした。そして合気柔術を使って彼の体を後ろへと飛ばした。

 総一は上手く受け身を取り、再度、エヴァに向かった。そして両手を握りしめ、交互に次々と突き出した。

 

「ハァっ!」

「ふん」

 

 総一の“ただのパンチ”にエヴァンジェリンは不愉快そうに鼻を鳴らした。総一の拳を全て受け流した彼女は彼の腹部に掌底を打った。

 その衝撃によって総一の体は後ろに飛んだ。床に着いた足を引きずり、総一は身を構え直した。その表情は真剣なものだったが、半ば余裕が窺える。腹部へのダメージはほとんどないようだった。

 

「なんだ、今のは?」

 

 エヴァンジェリンの目が少しつり上がった。

 

「もっと真面目にやれ!」

「やってんじゃん」

「覇気も纏わずに攻撃しといて、なにを言うか!」

 

 図星を突かれて、総一は眉に皺を寄せて苦い顔をした。

 エヴァンジェリンの言う通り、本気でやらないと死ぬと言っておきながら、総一は本気を出そうとはしないでいた。彼女とは何回も戦闘を重ねている彼だが、異性を過度に傷つけるのを嫌っている上、今の彼女は呪いのせいで弱体化している。それらの要因が彼の本気で戦おうという意欲を欠けさせていた。

 そんな総一の心情を察してか、エヴァンジェリンは彼の顔を見て「チッ」と舌打ちした。

 

「たとえ相手が女子供だろうと、自分の意志で戦いの場に立てば、一人の戦士だ。手加減するな!」

「うるさい、本気を出すかどうかは俺の勝手だろうが!」

「……そうか。なら、本気にさせるまでだ」

 

 エヴァンジェリンは総一に迫った。総一の腹部に拳を突こうとした彼女だが、その攻撃は総一が横に逃げたことで外れた。だが、彼女の表情に攻撃が躱されたことへの悔しさは塵ほどもなかった。

 二人はまたお互いに向かい合った。

 

「貴様、私の異名を知っているか?」

「『闇の福音』でしょ。それがどうかした?」

「確かにそれが最も通っている名だが、私の異名はそれだけではない」

 

 エヴァンジェリンはゆっくりと手をあげていく。それを見て、総一は「来る」と呟いた。

 

「『人形使い(ドールマスター)』……“これ”が私がそう呼ばれる由縁だ!」

 

 エヴァンジェリンはその場で総一にかざすかのように手を向けた。

 

(ソル)!」

 

 だが、それと同時に総一はその場から動いた。

 

(残念ながら、“それ”は知ってるんだよねぇ……)

 

 “糸”を張って体を拘束して来ると考えた総一は、移動することでそれをかわした。

 

「良い判断だ……。だが、無駄だ」

 

 エヴァンジェリンは上げた手の指――親指と人差し指と薬指――をまげた。

 すると突然、総一の体に縛るような痛みが走った。

 

「なにッ!?」

 

 それだけでなく、移動している彼の体が自分の意思関係なく動きを止めた。

 

「なっ、こ、これは!?」

《あぁーと、どうした!? いきなり加賀美選手の動きが止まったーー!!》

 

 実況する朝倉の声に熱が入った。

 

壊人形糸(マリオネット)

 

 そう言うと、エヴァンジェリンは指をまげたまま、その手を払うように動かした。それに従うように総一の左腕が横へ引っ張られた。

 予期せぬ引力に、総一の体はリング上を転がる。だが、彼は受け身をとってすぐに立ち上がった。

 

「ふふふっ」

 

 不敵に笑いながら、エヴァンジェリンは薬指と親指をまげた。

 

「のわッ!!」

 

 すると今度は総一の左脚が上に引っ張られたように持ち上げられた。

 何かに吊るされているように動く総一のその様は、正しく“壊れたマリオネット”のようだった。

 

 

「あ、あれは!?」

「えっ!? どうなってるの、アレ!?」

 

 観客を含め、選手席にいる明日菜達も総一の異変に驚愕した。

 

「ケケケ。総一ノ奴、完全ニ御主人ノ手中ニ嵌ッタナ」

「チャチャゼロ、一体あれは何アルカ?」

「御主人ノ『人形使イ』ノ技能(スキル)ダ。“魔力糸”デ総一ノ体ヲ縛ッテンダヨ」

「“魔力糸”?」

 

 古菲は聴き慣れない単語に首を捻った。それを見て、横にいた刹那が「魔力でできた糸のことです」と答えた。

 

「ですが、糸だけであんなことができるとは……?」

「マァ、伊達ニ何百年モ生キテネェッテ事ダ」

 

 刹那達はチャチャゼロからリングに視線を戻した。

 

 

「どうした? 随分と間抜けな格好だな」

「こんにゃろぉ……。嵐脚(ランキャク)!」

 

 総一は右脚を思いっきり振り抜いた。彼の足が通った軌道の一線は鎌風が発生し、エヴァンジェリンへ向かう斬撃に変わった。

 迫りくる斬撃をエヴァンジェリンは横に飛ぶことでかわした。能舞台(リング)の床板に斬撃跡が走る。

 

 

『『なっっ!!』』

 

 それを見て、観客席にいる一般人たちが目を広げた。

 

「豪徳寺さん、今のは?」

「さぁ、気を使っていたようには見えませんし、詳しくは分かりませんが、おそらく加賀美選手は足を振ることで鎌風をつくってるんだと思います」

「なるほど」

(そんな、バカなッ!!)

 

 茶々丸や豪徳寺の解説に、横にいた長谷川千雨は当惑した。

 

 

 嵐脚によって糸が切れ、総一を吊るす力が無くなった。リング上に着地した総一は、すぐにエヴァンジェリンに目をやった。すると、彼女は彼のすぐ目の前にいた。

 

繊月光糸(ムーンライト)

 

 彼女の指に――人差し指、中指、薬指――それぞれついた糸が大きく弧を描いた。

 総一は上半身を大きく反らして、攻撃をよける。空気を裂くような音と共に延長線上にあった能舞台の床に三つの線状のキズが走った。

 総一はバク転をして体勢を立て直した。

 

「おいおい、能力が違ぇじゃねぇか!」

 

 総一が小言を言うと同時にエヴァンジェリンは追撃にと、また糸を振るった。

 

(ソル)!」

 

 総一は姿を消した。

 

《な、なんだなんだァ! “何か”を振るうマクダウェル選手! 彼女の手によって修繕されたリングがキズがまみれになって行く! それに対し、加賀美選手は驚異的な速さでそれをよけています! 私には加賀美選手の姿は一瞬しか見えません!!》

 

 エヴァンジェリンの追撃が止まず、総一は姿を現しては消えるように移動した。一般人の目には総一の残像がリング上を転々としているように見えた。そしてそれが繰り返されるたび、能舞台に三本キズが増えていく。

 

(リングが狭くて、どこに行っても攻撃がとどいちまう!)

 

 総一は奥歯を噛みしめた。

 

壊人形糸(マリオネット)

 

 エヴァンジェリンは指をまげると、総一の身動きが止まった。

 

「くそッ、またッ!!」

 

 エヴァンジェリンが腕を引くと、胸を突き出すようにして総一の体が彼女の方へと引っ張られた。彼女が鉄扇を持って構えているのを見た総一は「やばッ!」と声をもらした。

 

鉄塊(テッカイ)!」

 

 総一の身体が鉄の硬度に変わっていく。

 

「武装」

 

 利き手に持った鉄扇を含め、エヴァンジェリンの手が黒く染まる。彼女が振った鉄扇が総一の顔に直撃した。辺りに鉄を叩いたような音が響く。引っ張られる力と武装色の覇気によって、総一に与えた攻撃力は凄まじいものとなっていた。

 総一の体がリング上を弾み、やがて転がった。

 

「痛ェ!」

 

 顔を押さえ、総一は立ち上がった。

 

「まだ本気にならないか?」

 

 エヴァンジェリンは腕を組み、鉄扇で口元を隠した。

 

「……クっ!」

 

 顔に感じる痛みを必死に耐え、総一はエヴァンジェリンを睨んだ。

 

「なら、こんなのはどうだ?」

 

 そう言うと、今度はエヴァンジェリンが姿を消した。

 

(なっ! あれは!!)

 

 微かに見えた彼女の残像の動きに、総一は目を大きくした。

 

(ソル)!?)

 

 目の前の事実に驚愕しながらも、後ろに気配を感じた総一はすぐに振り返った。視線の先では姿を消したエヴァンジェリンがかぎ爪を模したような手を構えていた。

 

切裂羅糸(ジャックライト)

 

 彼女の振るった五本の糸が総一の体前部に傷をつけた。糸の走った傷口から血が飛散する。糸は総一の体を切り裂くだけでなく、後方へと飛ばした。

 リングの端まで飛ばされた総一は、傷口を押さえながら震える足で床を踏んだ。

 彼の腕を伝って血が垂れる。観客席からも「おい、アイツ、血が!」「まさか、血のりかなにかだろ?」「で、でもよぉ」と緊張したような声が聴こえた。

 

「ちょ、加賀美君!」

 

 いつの間にかリングへ続く道を走っていた朝倉がマイクを外して、総一の背中に声を掛けた。

 

「来るな!!」

 

 後ろにいる朝倉に向けて、総一は叫んだ。それに気圧されたかのように朝倉は足を止めた。

 

「まだ終わらねぇよ。さがれ」

「で、でも、血が!!」

「……ケチャップだ、気にすんな」

 

 自分で言っておきながら、いい加減な事を言っているな、と総一は思った。一般人から見れば、血を滴らせている今の彼の姿は、普通と呼べる状態ではない。実況兼審判の朝倉が棄権を勧めようとするのも無理はなかった。

 しかし、彼の気迫に、朝倉は足を後退させ、リングから離れた。

 

「てか、なんでエヴァさんが(ソル)を……!」

「見よう見まねだ」

「誰の?」

「お前しかおらんだろ」

「見て真似できるモンじゃねぇーだろ」

「長く生きてると、存外、器用になるものだ」

「器用で片付くレベルじゃねぇーよ」

 

 軽い口調で言っているが、総一は口を引きつらせていた。そんな彼に対し、エヴァンジェリンは「ふふふ」と唇を緩めた。

 実際、エヴァンジェリンの使った移動術は“(ソル)そのもの”ではない。彼女は自分の少ない魔力と(ソル)の技法を併用して、高速移動を実現していたのだ。つまり、瞬動と(ソル)の合わせ技だった。

 しかし、どんなやり方であろうと、彼女が高速移動を使ったという事実に、総一は汗を流した。

 超人(パラミシア)級の技能(スキル)に疑似的な“瞬動”。呪いを掛けられているにもかかわらず、エヴァンジェリンは総一を圧倒するほどの力を有していた。

 

「やばいな…………。ん?」

 

 傷口を押さえていた彼の手に“なにか”が当たった。

 

「…………ふっ」

 

 首から掛けているロザリオを見て、総一は小さく息をついた。

 

(そうだ、こんなところで負けてたら、この後に来る“嵐”を越えられない。そしたら、“また”大事な人と会えなくなる……。そんなの絶対イヤだ!)

 

 総一は十字架を握りしめた。

 大好きな人と会えなくなるのは、辛く、苦しく、悲しい。家族や親友達との(つながり)を裂かれる悲しみを、総一はその身を以て知っていた。この世に生を受けてそれを実感した時、彼は人知れず涙を流した。転生した当初は『何故あの時、神様に前世と同じ世界に生まれるように言わなかったのか』と後悔した。そして、それに気付かなかった自分の愚かさを呪った。

 だが、時間は戻らない。だから、次は後悔しないよう最善の選択をしよう。総一はそう誓った。

 

(だから、俺は負けねぇ!)

 

 ロザリオから手を放し、またその手を握りしめた。

 

「ふん。ようやくやる気になったか」

 

 総一の表情を見て、エヴァンジェリンは小さく息をついた。そして組んでいた腕を解き、彼と同じように手を握りしめた。

 

「「武装」」

 

 声を揃え、二人は拳に力を込めた。お互いの腕が覇気によって黒く染まる。

 二人が足を動かしたのは、ほぼ同時だった。

 

「ハァーーッ!!」

「フっ!!」

 

 二人の拳が激しく“衝突”した。

 

 

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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