もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
総一「宴だァーー!!」
シャークティ「……祭ですよ?」
37. 祭の始まり
『ただいまより、第78回麻帆良祭を開始します』
学園中のスピーカーから放送委員の開催宣言が響く。遠方からは大通りのパレードの歓声や花火の音が聴こえる。建物付近ではイベントやクラスの出し物の宣伝をしている人が、看板を持ったりチケットを配ったりして、大声で呼び掛けていた。
学園全体がすっかりお祭りムードだ。そして、それは俺のクラスも例外ではない。
「良いかァー、お前等ァ! 御客様は御主人様だァ! 敬意を持って盛大に御奉仕するのだァ!!」
『『オオオオォォォォーーーー!!』』
中央に立つ
この『コスプレ喫茶』という企画、クラス全員が例外なくコスプレをしている。織戸は頭にプラスチックでできた王冠をのせ、カボチャパンツに赤マントを身に付けている。本人曰く『プリンス・オブザ・ホワイトホース』だそうだ。そう言った時のキメ顔にイラッときたので、相川と一緒に殴り倒しておいた。周りのクラスメイトの格好は、執事服にバーテンダー、軍服にコックに白衣と、てんでんばらばらで統一感が一切感じられない。
そんな皆をよそに、俺は窓際で顔を引きつらせ、遠い目をして空を見ていた。
「あぁ、青空が青いなぁ……」
「そうだな、白雲が白いな……」
隣にいる相川も言った。
「なに、二人で現実逃避してんだよ」
後ろで沢木の声が聴こえたが、そんなことはどうでも良い。
あぁ、まさに『つばさー、はためーかーせー、逝きたいー』だよ……。
「……はぁ」
ため息をつきつつ、俺は濁った目で周りを見た。すると、さっきまでワイワイ意気込んでいた皆は、仕事ごとに――接客係と調理係、宣伝係に――分かれて開店準備に取り掛かっていた。ちなみに俺の担当は接客係だ。俺も仕事の準備に参加しないといけないが、その前に、俺は調理班に混ざろうとしていた沢木を呼び止めた。
「沢木、お前、裏方だろ? 衣装変えてくれ」
「イヤに決まってんだろ。俺も着たくねぇよ、そんな
バーテンダーの格好をした沢木は、俺が頼むやいなや即答で断った。
「調理班は他と違って、客が目にする機会が少ねぇんだ。だから良いだろ?」
「残念だけど、他をあたってくれ」
同情の目を向けながらも、沢木は足早に去って行った。
「誰か変わってくれ。イヤだよ、こんな服」
俺は表情を歪ませ、服の丈を引っ張った。
俺が着ている衣装、沢木のいうように“巫女装束”なのだが、よく神社とかで目にする巫女さんの格好ではない。白い着物に赤の
そして頭には腰まで伸びたカツラを被らされている。しかも、明日菜みたいな髪型にされた。よくわからんがツインテールと言うらしい。
「似合ってるよ、加賀美」
「嬉しくねぇよ……てか、何だ、お前等のその格好!」
隣から聞こえた嬉しくない褒め言葉に反応して目を向けると、平然とコスプレ衣装を着こなしている結城と、目を濁らせて立っている相川がいた。結城はヒラヒラのついた(フリルだっけ?)黒いロングスカートゴスロリで、相川は同じようにヒラヒラのついた、ピンクのミニスカートドレスだ。しかも、結城の場合、長髪のカツラはおろか、ご丁寧に顔にメイクまでされている。
中性的な顔立ちをしている結城はともかく、相川は普通にキモい。
「うるせぇ、俺だって好きで着てるわけじゃねぇよ、こんなフリフリしたピンク!」
「織戸がこれを着ろって……どこから持って来たんだろうね、この衣装?」
そう、これらの衣装、織戸の調達品である。しかも、買い揃えた執事服やバーテンダーの服よりも出来が良い。衣装代は予算内に収めたようだが『まさか自前なのでは』と俺たちの中で噂がたったくらいだ。未だにその真偽は定かでない。
「じゃあ、
クラスの一人(軍服)がみんなに伝えるように、声をあげた。今、教室の出入口はスライド式の扉が外され、代わりにカーテンがかけられていた。
軍服を着た生徒と結城が揃って、カーテンを開けた。外にはすでに客がなるんでいたようで、二人が「いっらっしゃいませ!」「ようこそ、コスプレ喫茶“heaven's”へ!」と挨拶すると、並んでいた客がゆっくりと中に入ってきた。
「あの野郎、学園祭終わったら覚えてろ……」
俺は学園祭が終わったら織戸を袋叩きにすることを誓い、盆を持って、接客をはじめた。
「い、いらっしゃいませー」
最初のお客さんは、二人組の女子高生だった。二人は、俺を見ると「きゃー、かわいい!!」と声をあげ、「写真とっても良いですか?」とケータイを取り出した。
俺は無理矢理笑顔を作って、「良いですよ……」と平常通りに言った。
てか、これじゃあコスプレ喫茶というより、ただのコスプレの撮影じゃねぇか!!
☆☆☆
「ありがとうございましたー!」
出ていく客に向かって大きく礼を言うと、その客が使っていたテーブルを布巾で拭いた。
「あのー、写真、取っても良いですか?」
「あ、はい。良いですよ」
拭き終えて間もなく、別の客から“注文”が入る。
なんだかすっかり作り笑いが顔についてしまった。なにせ、この“注文”――結城同様の中性的な顔立ちが災いしたのか――十分に三回は頼まれる。人気があるのは悪い気がしないけど、如何せん女装姿というのが腹立たしい。当の結城も頼まれているようだが、アイツは五分に二回位の割合で頼まれていた。愛想笑いの俺に対して、アイツは嫌な顔ひとつせずに、純粋に楽しんでいるような笑みで、客の“注文”を受けていた。その心意気は地味に感服する。
他の奴等も頼まれているようだし、これ、一枚につき五百円ほどとったら、ガッチリ儲けたんじゃなかろうか……。
えっ、相川と織戸の撮影回数?
さぁ、知らないなぁ。
「おい、そこの巫女」
写真を撮り終えた若者夫婦を見送ると、後ろのお客から鋭い口調で声を掛けられた。声からして女の子だと思う。俺は作り笑いを浮かべて「はい」と振り返った。
「げっ!!」
身を翻して客を見た途端、俺の表情が歪んだ。
「なんだその顔は?」
「なんだって……」
目を向けた先では、金髪の少女ことエヴァさんがテーブルにかけていた。隣の椅子にはチャチャゼロが置かれている。二人ともメルヘンチックな格好をしていて、エヴァさんは白いドレス、チャチャゼロは小悪魔を連想させるような服を着ていた。
「なにしてんだよ、こんな所で?」
「どこで何をしようと私の勝手だろう。そんなことよりこっちに来い」
俺は渋々、エヴァさんの隣に立った。エヴァさんは横目で俺を見るが、その口角は微妙につり上がっていて、笑いを堪えているのがひしひしと伝わってくる。
「なんだよ?」
俺は声を低くして言った。
「貴様、それが客に対する態度か」
「客? 冷やかしの間違いでしょ。どこで聞いたか知らないけど、どうせ俺を笑いに来たんだろ?」
「さぁーな。だが理由はどうあれ今の私は一人の客だ。ちゃんと注文もしてやる。キチンと接客しろ」
「……はぁ」
ため息をつく俺を見て、チャチャゼロがケケケッと小さく笑った。
前から思っていたが『私は客だ、丁重に扱え』などと言うヤツは傲慢も良いところだ。そりゃあ、サービスとしてお客に対して親切に接するのは良いことだと思う。けどお店側もお客を選ぶ権利があるはずだ。お店は売りたいから売っているし、お客は買いたいから買っている。需要と供給が成り立っての商売に――店員と客に――上下関係なんてないんだよ。『お客様は神様です』と言った三波春夫さんも、言葉の真意をちゃんと説いていた。それに、今回の客(エヴァさん)は俺にとっては“顔見知り”、はたして
しかし、ここでそんなことをごねても仕方がない。
俺は表情を改め、エヴァさんに向かって頭を下げた。
「御注文を御伺いします」
「ふん……なら、このショートケーキセットとやらをもらおうか」
「ショートケーキセットをひとつ。御飲み物どうされますか?」
「紅茶、ストレートで良い」
「紅茶のストレートで。御一緒にホールケーキセットはいかがですか?」
「食えるか!!」
「冗談です。では少々お待ち下さい」
少しだけ不満を晴らした俺は、調理係にエヴァさんの注文を伝えて、別の客への接客に移った。
やがて、エヴァさんが頼んだメニューが用意された。そして、なぜかまた俺がそれを持っていくことになった。
「御待たせしました。ショートケーキセットでございます」
皿にのったショートケーキとティーカップに淹れられた紅茶をエヴァさんの前に置いた。
「ふん。“お遊び”にしてはまぁまぁだな」
「御ゆっくりどうぞ」
軽く頭を下げて、俺は足早にその場を後にする。
「おい、ちょっと待て」
しかし、一歩踏み出すのと同時にエヴァさんに袴を掴まれ、俺は足を止めた。
なんだよ、という言葉を飲み込んで、俺は表情を改めた。
「なんでしょうか」
「お前、超鈴音を知っているか?」
まさかの人物の名に、俺は目を細めた。
「……知ってるけど、アイツがどうかした?」
「ヤツが今夜なにやら“イベント”をするらしい。“それ”に参加して欲しいと昨日私に言ってきてな」
「あぁ、アレね」
俺の表情を見て、エヴァさんは「やはり」と小さく顎を引いた。
「お前の所にも行っていたか……お前はどうするつもりだ?」
「どうもこうも、参加するつもりだけど……?」
「……そうか」
エヴァさんは脚を組み、こめかみに手を当て、何かを思考している。瞬きが減って目が鋭くなっているが、その視点はどこにも定めていない。そして心なしか哀愁が漂っているように感じる。
彼女が何を考えているのか知らないが、気軽に訊いて良いような話ではないように思い、俺はなにも訊かなかった。
「……いい加減手を放せ、こら!」
ずっと俺の袴を掴んでいたエヴァさんの手を振り解き、俺はその場を後にした。
「「加賀美ィーー!!」」
エヴァさんのテーブルから離れた途端、相川と織戸が飛び掛かるように寄ってきた。二人とも器用に小声で叫び声をあげている。
二人の凄まじい剣幕に、俺は一歩後退りした。
「誰だ、あの絵に描いたような美幼女はァ!?」
相川が言った。
「お前、まさか初等部の娘に手を出しているわけじゃないよな!?」
「ハァ!?」
織戸の言葉に俺は眉間に皺を寄せた。
エヴァさんは“一応”中学生だぞ、とか言いたいことはあるが、俺がロリコンのように聴こえるその言葉は聞き捨てならない。
「誰が手を出すか。それに、あの人は同級生だぞ」
「「嘘だァ!!」」
なんでや!?
あの身長を見て、信じられない気持ちは分からんでもないが、お前らは鳴滝姉妹という“前例”を既に見てるだろ?
「加賀美ーー」
今度は結城が話し掛けてきた。俺はめんどくさい二人から逃げるため、すぐに顔を向けた。
「なに?」
「お客さんが僕と加賀美と一緒に写真を撮りたいって」
結城の手を向けた先には、中等部の制服を着た女子生徒が三人ほど立っていた。
相川と織戸を払い除けて、俺はそっちに向かう。写真を撮られるのはできるだけ避けたいが、二人からアレコレ言われるよりかはマシだ。
女子生徒の一人が携帯電話を取り出した。そして「写真、撮ってくれませんか?」と白衣を着たクラスメイトに渡した。
俺と結城は並ぶように立ち、彼女たちと合わせるようにピースサインを作った。もちろん、俺は強引に口角を引っ張り、営業スマイルを浮かべている。
視界の隅に映ったエヴァさんが顔を隠して、クスクスと笑っていたのが、少し癪にさわった。
☆☆☆
その後、ショートケーキと紅茶を完食したエヴァさんは俺に「似合っていたぞ」と言い残して――嘲笑いながら――その場を後にした。その時、目が少し潤んでいたのは、間違いなく俺が接客している間ずっと笑いを堪えていたからだろう。
まったく忌々しい限りだ。
しかし、腹を立てていても仕方がないため、俺は気持ちを入れ換えて、次の接客に臨んだ。
「いらっしゃいま――って!?」
「アハハハハハハ、そ、総一! 何その格好っ!!」
入口には、身長順に大中小と並んだシスターが三人。そのうち真ん中にいるシスター――美空はお腹を抱えて笑っていた。目の端には涙が滲んでいる。
「こ、こんにちは、そういち……」
シャークティさんも口元を隠してクスクスと笑っている。表情から察するに、軽く笑っているというよりも、笑いを堪えているようだ。
「……ふっ」
ココネも珍しく唇が緩んでいる。
そんなに俺の格好は滑稽か?
…………滑稽だろうなぁ。
「とりあえず、こっちにどうぞ」
入口にずっと立たせるわけにもいかず、俺は三人が座れるテーブルに案内した。位置は教室の端、比較的教室内の
テーブルの場所を教えると、俺は一度その場から離れた。そしてガラスコップに冷水を注ぎ、お盆にのせて三人の所へ戻った。
戻った時にはシャークティさんとココネはいつも通りになっていたが、他一名はいまだに俺を見てニヤニヤと笑っている。
「一体どうしたんですか、三人で来るだなんて。警備の集合時間まではあと三十分ほどありますよ」
「この時間、私もこの子達も暇でしたから、総一を迎えにいく次いでに、クラスの出し物を見てみようという話になりましてね……」
「そんな、いつの間に……」
苦笑いを浮かべながら話すシャークティさんの言葉に、俺は頭を抱えた。
迎えに来てくれるのはありがたいし、見られて何か減るものでもないが、知人に見られるのはできるだけ避けたかった。
「……まぁ、良いです。それで御注文は?」
「私たち、今、来たばかりなのだけど……」
「ですよね。じゃあ、決まったら呼んでください。あと美空、お前そろそろ笑うのやめないと張り倒すぞ!」
「だ、だってぇ……」
いまだにクスクス笑っている美空を睨む。
「おーーい、かがみーん」
横で聴いた美空がプッと吹き出した。
その呼び方に怒りを覚え、俺は声の主にギロリと目を向けた。
「あ、えっ、あの……」
声を掛けてきた織戸は俺の顔を見ると、足を止めて顔を青くした。
「……なんだよ」
「え、えぇーと、お客が加賀美と写真を撮りたいって言ってんだけど……」
「あぁ、分かった」
「そ、そうか、じゃあ、よろしく、な?」
織戸は逃げ出すようにどこかへ消えた。
俺はなんとか表情を変え、愛想笑いでお客さんと写真を撮った。今度の客はいつぞやの初等部の子達とその保護者だった。
撮り終えると俺はまたシャークティさんの所に向かった。
「忙しそうですね」
「えぇ、なぜか繁盛してます」
シャークティさんの言葉に肯定して、俺は大きなため息をついた。
「総一も大人気だねぇ」
美空が言った。
「
美空は腕を伸ばして俺が着ている袴の端を摘み上げた。
「やめんか!」
「やめなさい!」
俺とシャークティさんは声を揃え、美空の頭に拳を下ろした。「痛っ!」と呟き、美空は殴られた箇所を撫でる。その表情は相変わらずアハハと惚けるように笑っていた。
「それより、注文は決まりましたか?」
「私はブラックコーヒーを」
「……ミルクココア」
「私はコーラで」
「了解……コーラは砂糖とミルクお付けしますか?」
俺が作為的な笑みを向けて訊くと、美空は「えっ!?」と声をあげた。
「いやいやー、砂糖はともかくコーラにミルクはいれるものじゃないでしょ!?」
冗談を言ってると思っているのだろう、笑いながらツッコミをいれる美空に、俺は黙って微笑み続けた。
少しの間、静寂が流れた。
「……えっ?」
やがて、美空の顔が違和感を感じたような顔になった。
「……少々お待ち下さい」
「ちょっとー! 本当にいらないからね!! 冗談だよね総一! 信じて良いんだよねーー!?」
後ろで叫ぶ美空の声を無視して、俺はニヤリと口角をあげた。
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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