もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
魔法球の中に入って、また一日が経過した。
「……そろそろ出るか」
上空にある光源を見ながら、俺は手に持った木の棒をおろした。
「今日の修業は終わりだ。帰るぞ」
「もう終わりアルか? ……むぅ、なかなか身に付かないものアルネ」
「そう簡単に身に付くわけないだろ」
俺の前で座っていた
いま、俺たちは視界を塞ぎ、攻撃を避ける修業をしているが、古はまだまだ覇気を行使できておらず、何回も攻撃を受けている。
修業を始めて、はや一月ほど。毎日一時間修業しているネギ君たちとは違い、俺たちは週に三、四回、一回につき二、三時間、魔法球内で修業をしている。よって実質修業した時間は、二月経つか経たないかぐらい、ネギ君たちと比べてちょっと多い程度だ。
修業前から覇気を微かに感じ取っていた古だが、覇気を習得するには、まだまだ時間がかかりそうだ。
雪広同様、戦いの中で覚醒してくれれば、教え手としては楽なんだがなぁ……。
魔法球から出て、俺たちはエヴァさん宅を後にした。
その際に、少しエヴァさんの様子を見てみたが、彼女はいつも通りベットの上でゴロゴロしていた。俺が帰ることを伝えると「あぁ」とダルそうに返事もしたし、どうやら、機嫌をなおしてくれたらしい。
ネギ君の父親――ナギとエヴァさんの間になにがあったのかは不明だが……まぁ、触らぬ神になんとやら、時が来れば向こうから教えてくれるだろう。
「あ、そうアル」
帰る途中、古が思い出したように言い、鞄からなにかを取り出した。
「これ、師匠にあげるヨ」
古はチケットのような紙を俺に渡してきた。
「肉まん無料?」
「私、
「……あぁ」
俺は頷き、路面電車を改装(改造?)した中華料理の屋台を思い浮かべた。
「是非、食べにきて欲しいアル。
「へぇ~……サンキュー。じゃあ、明日にでも使わせてもらうわぁ」
「待ってるネ」
古と別れた後に、俺は一人そのタダ券に目を落とした。
「……超がねぇ」
☆☆☆
翌日の放課後、俺は屋台のある広場へとやって来た。放課後といっても時間は七時過ぎ。出し物の準備のせいで教室を出るのがすっかり遅くなってしまった。
だが、こんな時間でも学園祭が近いとだけあって屋台は実に賑わっている。多くは大学生と高等部生だが、中等部の生徒や先生の姿もちらほらと見えた。さすがに初等部生の姿はない。
屋台の周りにはテーブルが並べられ、皆が食べている料理から美味そうな匂いが漂っている。見た感じも、すべて美味そうだ。
「師匠、来たアルか」
周りの様子を窺っていると接客をしていた古が声をあげた。師匠という単語に周りにいる何人かが反応したが、俺は気にせずに「よぉ」と返事をした。
「相変わらず賑わってるな」
「五月と超の点心は天下一品アルからな」
古は「こっちアル」と屋台のカウンター席へと案内してくれた。
「ニーハオ、よく来てくれたネ!」
席に着くと厨房から、数日後には敵になるかもしれないヤツが顔を出した。というか、南の島での一件から俺は
あのとき、こいつが何をしていたか、未だに分かってないからな。
「何にするカ?」
「……とりあえず、これ」
訊かれた俺は超にタダ券を渡した。券を確認すると、超は「了解ネ」と厨房でなにやら作業を始めた。
俺は古が持ってきたお冷やを口にした。
「はい、お待ちネ!」
さっき作業に取り掛かったと思われる超が、俺の前に
思わず、口の中の水を出しそうになった。
「はやいな」
「当然ネ。注文入って作ってたら、いくら時間があっても足りないヨ」
つまり、作りおきしていたと?
……まぁ、当たり前か。
内心で納得しながら、俺は蒸籠の蓋をあけた。すると、中から一気に湯気が立つ。その湯気の濃さが中の料理の適度な熱さを物語っている。
俺は中にあった三つの肉まん内一つを手に取り、かぶり付いた。前にも食べたが相変わらず美味だ。生地がふわふわで、中身はしっかりとした肉の味がする。しかも味付けが結構、俺好みだ。
あっという間に一つ完食。
二つ目の肉まんを口にしながら、俺はテーブルに置いてあったメニュー表を見た。中学生が経営しているにも関わらず、メニューには肉まんや餃子、焼めし、ラーメンだけでなく、
「なんだと!?」
「なんだ、文句あんのか!」
突然、後ろから男の張り上げた声が響いてきた。振り返って見てみると、大学生と思わしき数人が睨み合い、リーダーらしき二人が互いに胸倉を掴んでいた。
「北極の方が寒いに決まってんだろ」
「はぁ!! 南極だろが!」
どうやら、またバカがバカやってるようだ。
「アイツら、またアルか」
「また?」
古の呟きに俺は三個目の肉まんを食べながら、首を傾げた。
「あの大学生たち、この前も打撃と寝技どっちが強いかで喧嘩してたネ」
なんだ、やっぱりただのバカか……。
「ったく、血の気が多いというかなんというか、どうでも良い論議でも全力だなぁ。
「まったく、仕方ないアルネ」
「あぁー、良い良い。俺がやるから」
止めに入ろうとした古をなだめながら、俺は肉まんの残りを口に放り、席を立った。
「えっ?」
「これも俺の仕事さね」
俺は『指導員』と書かれた腕章を左腕につけた。
「でも、師匠、あんまり暴れたらダメアルヨ!」
「……了解」
小さく顎を引き、俺は大学生たちの方へ足を進めた。
「ちょっと、先輩方!」
声をかけると、争っていた先輩方全員が強面な表情でこっちを向いた。
「周りの人の迷惑なんで、喧嘩なら他所でやってもらえますか?」
「なんだ、てめぇ!?」
俺から見て右側にいる数人のリーダーが声を張り上げた。対して左側の数人は、俺を見ると「なっ、こいつ……!」と表情を変えた。
「広域指導委員です。とりあえず、喧嘩するの止めてもらって良いですか?」
「うっ……」
「あぁん!? 中坊のくせに先輩に命令する気か、テメェ!!」
左側にいる南極を推していた先輩たちは俺を見ながら後退りするが、右側の北極を推していたリーダーはずっとケンカ腰だ。リーダーに同意するように後ろにいる仲間も俺を睨みつけてくる。
俺は彼らに冷ややかな視線を向けた。
「じゃあ、中学生に注意されるようなことしないでくれます?」
「うるせぇ。やるか、コラァ!?」
『やるぞ、こらぁ』と言いたいところだが、ここで喧嘩するのは周りの人の迷惑になる。古にも暴れるなと言われたし………………仕方ない。
「これ以上、うるさくするようでしたら、武力行使に移りますけど?」
「上等だ、コラァ!」
男は足を前に踏み出し、俺に詰め寄ってきた。
「やれるもんなら、やって――」
しかし途中、男の言葉が途切れた。
「………」
男の体は傾き、そのまま地面に倒れる。
『『……えっ!』』
男が倒れ、周りの一同は目を丸くした。男に動きはなく、起き上がる様子はない。
「お、おい!」
後ろにいた仲間の男が倒れた男の体を揺するが、返事はなかった。
「御心配なく。ただ気絶してるだけです」
その場にいた先輩たち全員が口を半開きにして、俺を見た。
「さて……」
俺は一拍置き、目を少し細めて先輩たちを見た。
「まだ、やりますか?」
『『すいませんでしたーー!!』』
先輩たちは逃げるように去っていった。
☆☆☆
「……はぁ」
気絶させた先輩をその辺のベンチに寝かせ、俺はカウンター席に戻った。
力を使ったせいか、腹が減った……。
「師匠! さっきの、どうやったアルか!?」
席に座ると古が訊いてきた。
「別に、ただ“威圧”しただけ」
後ろから「すみませーん」と店員を呼ぶ声が聴こえた。
「威圧? ……それって私でもできるアルか?」
「……そのうちな」
「本当アルか!?」
「多分な」
客が呼んでるぞ、と俺は後ろを指差す。古はまだなにか訊きたそうであったが、客を待たせまいと足早に去っていった。
あいつも一端の“王”を夢見ている。どれくらい先になるか、資質があるのかもわからないが、諦めなければ、可能性はゼロではないだろう。
「古は修行熱心ネ」
「まったくな。あのやる気を勉強にも生かせば、成績も違ってくるだろうに……」
「やる気のベクトルは決められないものネ」
ニヒヒ、と超は白い歯を見せて笑った。
「……それはそうだ」
やる気ってベクトル量なのか、とどうでもいいことを考えながら、俺はお冷やを飲み、またメニュー表に目をやった。
さて、何を食べるか……。
ベタにラーメンと餃子とか。けど折角の中華料理で、しかも、ここは点心を看板にしてる。それを食べないというのもおかしな話だ。
汁物は……やはり、スープ系しかないな。
「味噌汁とかないよなぁ……」
俺は誰に言うでもなく呟いた。
「あるヨ」
「……は?」
予期しなかった返答に、俺は目を丸くした。
「あ、あぁ、そうなんだ」
「味噌汁くらいすぐに作れるネ」
あれ、メニューじゃないのか?
「その代わり、“条件”があるヨ」
その言葉を聞いて、なにかイヤな予感がした。
「……じゃあ、いらな――」
「まぁ、聞くヨロシ」
手を前に出して、超は俺の言葉を遮った。
「代わりに、私の話を聞いてほしい。条件はそれだけネ」
「……話って?」
「それは、後で言うヨ……どうカ?」
「………」
俺は超をまっすぐ見据えた。
こいつの話とは、十中八九、学園祭についてだろう。ここでこいつが持ち掛けてくる話と言えば、それ以外に思い付かない。そして、その内容を想像するに、仲間にならないかとか、そういう類だろう。
ついでに言っておくが、俺はこいつの味方になることは、百パーセントない。現実世界に魔法が認識されても、俺(能力者)にはなんのメリットもないからな……いや、寧ろデメリットの方が多いかもしれない。
だが話を聞くだけなら、断ることもないか……。
「……じゃあ、春巻きと小籠包と
「ニヒヒ、了解ネ!」
☆☆☆
「ごちそうさん」
箸をおき、合掌する。
「美味かった」
「お粗末様ネ」
超は頬を赤く染め、ニッコリと笑った。その笑顔は純粋に喜んでいるようだった。
「……んで、話ってなんだよ」
水を口にして、俺は話を切り出した。超は作業の手を止め、俺に目を向ける。
ピークを過ぎたのか、後ろにあるテーブルに座っている客も疎らになっていた。
「格闘大会を知ってるカ?」
「……あぁ、体育祭とか学園祭の時に細々とやってる大会だろ?」
俺は昨日、小太郎君が持っていた用紙を思い出した。
超は「そうアル」と小さく頷いた。
「知っているなら話がはやいネ。私は今年の学園祭中の小さい大会をまとめ、大規模な格闘大会にするつもりヨ」
それも知っている、『まほら武道会』のことだろう。
「この大会で私は表と裏の世界関係なく、出場選手たちを戦わせるつもりネ。是非とも加賀美にもこの大会に参加して欲しいヨ」
やはり、そういう話か。
三日間ある学園祭中、今のところ予定が決まっているのは初日の午前中(クラスの出し物)と二日目の夕方(和泉のライブ)のみ。他は全部、自由時間だ。だから、時間だけで言えば、武道会の予選と本選に出場することは可能だ。
「断る」
しかし、俺は首を縦に振らなかった。
「……即答だナ」
俺が答えると、超は困ったような笑みを浮かべた。だがそれも一瞬で、超はすぐに表情を元に戻した。
「もちろん、タダでとは言わないヨ。優勝すれば賞金一千万円ネ」
「生憎、金には困ってない」
「そうか……じゃあ――」
俺は大会に出るつもりも全くない。だから、俺は超が出してくる提案を、すべて適当な理屈をつけて断るつもりだ。
…………つもりだった。
「加賀美が喉から手が出るほど欲しがるモノを、私は今持っている」
「なっ!?」
聞いたことのある言い回しに、俺は思わず口を半開きにして、コップを傾けたまま動きを止めた。そして頭の中で考えが巡る。
俺が心当たりのある言葉と一致しているのは、偶然なのか。
いや、それよりこいつの言う、俺が心から欲しいと思っているモノって、なんだ?
メラメラの実?
違う。別に欲しいとは思わない。
じゃあ、別の悪魔の実か?
それも違う。俺はすでに能力者だ。能力を複数手に入れる方法を知っているわけでもないし、取り立てて欲しいと思うものもない。
タイムマシンか?
違うな、これも特に欲しいと思ったことはない。
「………」
……わからない。
一体、こいつが持っているものは何なんだ。
「大会に出場すれば、“それ”を渡すことを約束するヨ」
「……なんだよ、その俺が欲しがってるモノって?」
「それは受け取ってみてのお楽しみネ。ただ一つ言えるとすれば、“それ”はきっとこの先、加賀美の助けになるはずネ」
俺は目を細めた。
そもそも、何故こいつは俺が欲しがると、断言しているんだ?
ひょっとして、ハッタリか?
「本当ヨ。私、嘘つかないネ」
超は、また「ニヒヒ」と笑う。
「………」
周りの生徒たちの話し声が随分と霞んで聴こえた。
TO BE CONTINUED ...
……おかしい。
予定ではもう学園祭編に入っているはずなのに……。
あと、もう一話あるなんて……。
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