テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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第二章 動き出す運命
toz 第九話 新たな仲間


スレイは少女ロゼを背おったまま、森の中を進む。

そしてその彼らを追うのは小さな足音。

 

スレイは遺跡の入り口まで来た。

すると、奥の方から何人かが走って来る。

そしてセキレイの羽の一員として見ている者達だ。

しかし彼らはあの時とは違い、黒を身に纏っていた。

 

「頭領!」

 

そしてスレイを見た彼らは、

 

「こいつ……例の導師……?」

 

スレイに背おわれていた少女ロゼは、スレイから急いでおり、

 

「話しはあと。追手を誘い込んだんだ。まずはその始末が先。」

「え!」

 

少女ロゼ達は駆けて行った。

その後姿に、

 

「おい、ロ――」

「待った。」

 

話し掛けようとしたが、それを腕を掴まれ、止められる。

スレイを止めたのは、彼がセキレイの羽の時に会っているトルメと言う少年。

スレイは彼に、

 

「ホントに追手を殺すのか?」

 

「相手次第かな?」

「なんかイヤなんだ。ロゼみたいな子が人を殺すの。」

 

少年は少し嬉しそうにしたが、スレイはそれには気付かず腕をほどく。

 

「あ!」

 

そして駆けて行った。

 

少し走ったところに、スレイを止めるかのように暗殺ギルドの二人が止める。

しかしそれを飛び越え武器を手に着地する。

そしてスレイは驚いた。

 

「え?君たちが……?」

 

それは数人の子供だった。

スレイは武器をしまう。

が、暗殺ギルドの人間が彼らを囲む。

少女ロゼが子供の一人の首にナイフを近付ける。

子供達を囲む彼らもナイフを構えている。

 

「敗残兵狩りの相手を間違えたな。見ての通りあたしらは軍人じゃない。」

 

そして子供を開放する。

 

「もう行って。」

 

そしてお金の入った袋を投げ渡す。

子供達は脅えながら走り去って行く。

少女ロゼはその背に、

 

「敗残兵狩りなんてもうやめときな。」

 

彼らが去った後、少女ロゼは悲しそうに、

 

「……いたたまれないよ。」

 

そして仲間に振り返る。

と、少女ロゼの仲間の一人が怒りながら、

 

「ローランスも何を血迷ったのか……ローランス上層部は何考えてんだろう。」

「ハイランドは姫が抑えていたというのに、ローランスが突然開戦か。さすがに予想できん。」

 

もう一人が、呆れたように言う。

そしてスレイは少女ロゼは悲しそうに、

 

「……おかげであんな子どもまで野盗まがいのマネをしなきゃいけない。」

「けど、ま、たくましく生きてる。」

 

スレイは彼らの言葉を聞き、少し考え、意外そうな顔で少女ロゼを見ていた。

そしてその視線に気付いた少女ロゼは、

 

「何?その顔。」

「いや……」

 

そして視線を外した。

そんなスレイに、

 

「僕ら暗殺ギルドやってっけど、だれかれ構わず殺してる訳じゃないよ。」

「殺さなければならない者以外は殺さないさ。」

 

そういう彼らに、スレイは聞く。

 

「じゃあ、オレは?」

 

それに答えたのは、少女ロゼだった。

 

「少なくとも闇討ちみたいなマネはしない。けどスレイ、導師がやっぱり人を迷わせる邪悪な存在でしかないなら……」

 

少女ロゼはスレイに近付き、

 

「躊躇なく殺る。忘れんなよ。」

 

スレイはそれを苦笑いで受け止める。

そんな彼に、

 

「もう遅いぞ?助けたこと後悔しても。」

「だが、どうやって見極める?頭領。」

「それなのよ。」

 

仲間が聞くが、少女ロゼは腕を組んで悩む。

そしてスレイは笑い出した。

 

「ぷ……ははは!」

「ん?」

 

その彼に少女ロゼは見る。

スレイは頭を掻きながら、

 

「ごめん、なんかおかしくて。」

「さ、隠れ家はこっち。しばらく休めるよ。」

「俺たちは他に追手がいないか辺りを見てくる。」

「サンキュ。任せた。」

 

そして少女ロゼの仲間は別れて走って行く。

と、先程の少年トルメがスレイに振り返り、

 

「そうそう、隠れ家に君の家族がいるよ。早く行ってあげな。」

 

そして駆けて行った。

スレイはすぐに、

 

「家族……レイか!」

「じゃ、急いで行こうか。」

「ああ!」

 

遺跡の方へと戻る。

 

遺跡をの入り口を目指して行くと、少女ロゼが声を上げた。

 

「メーヴィンおじさん!」

 

そして駆けて行った。

少女ロゼの先には、背中に大きな本を背おった探検家の格好をした老人がいた。

 

「久しぶりだな。お嬢。」

 

スレイもそこに駆けて行く。

そしてスレイを見た探検家の格好をした老人は、

 

「そっちのは……今、話題の導師か。」

 

スレイは戸惑いながらも、

 

「スレイっていいます。なぜ導師ってわかったんですか?」

 

その言葉に、探検家の格好をした老人は笑いながら、

 

「はっはっは。天然だな。その恰好を見ればわかる。」

 

そしてスレイはポンと手を叩き、納得した。

少女ロゼはスレイに、

 

「この人はメーヴィン。ギルドの一員じゃないけど、恩人なんだ。今時珍しい探検家よ。」

「へぇ!」

 

スレイは嬉しそうに彼を見る。

 

「気ままに旅してこれの足跡を追うのが気に入ってるってだけだ。」

 

そう言って、一冊の本を取り出す。

それを見たスレイは、

 

「天遺見聞録!」

 

スレイは自分の持っている天遺見聞録を取り出す。

彼とは色違い。

いや、年季の違いだろう。

互いに嬉しそうに見合う。

そして天遺見聞録をしまい、探検家メーヴィンは少女ロゼを見る。

 

「お嬢、戦争が始まったと聞いて気になってたんだが……問題なさそうか?」

「うーん。このアジトはもう捨てる。依頼もしばらく様子を見た方がよさそう。」

 

それを聞いて、スレイは落ち込みながら、

 

「もしかしてオレのせい?」

「導師が暗殺ギルドの心配か?変わったやつだな。」

「そうなのよ。」

 

と、二人は面白おかしく言う。

スレイは苦笑いになるだけだ。

そして探検家メーヴィンは、

 

「さて、俺はもう行くとするか。」

「え、もう?」

「ああ。あのチビちゃんも落ち着いたからな。」

「それって……レイは、レイは大丈夫なんですか⁉」

 

スレイは探検家メーヴィンに詰め寄る。

探検家メーヴィンはスレイの肩に手を置き、

 

「ん?ということは、お前があのチビちゃんの兄ちゃんか。なら、安心しな。大した怪我はしてない。熱もだいぶ下がって、後はゆっくり休めば大丈夫だ。川で見つけた時は驚いたがな。」

 

スレイは落ち着いた。

そして探検家メーヴィンは少女ロゼを見て、

 

「あんまりのんびりするなよ、お嬢。導師の出現、戦争勃発……これから時代が大きく動くぞ。」

「うん。わかってる。」

 

探検家メーヴィンは今度はスレイを見て、

 

「スレイ。せっかくここに来たんだ。奥にある遺跡の謎を解明してみせな。」

「え?どういう事?」

「ここは天遺見聞録に載ってない。他にもいくつかそんな遺跡や伝承がある。そんなに発見が困難なワケじゃないのにだ。なんか、裏があると思わねえか?」

「……自分の目で確かめたときにこそ伝承の本当の意味が見える……」

 

スレイは静かに言った。

それに探検家メーヴィンは、

 

「上出来だ。スレイ、また会おうぜ。お嬢もな。」

「うん。また。」

「じゃあね。おじさん。」

 

探検家メーヴィンは歩いて行く。

そして少女ロゼは、

 

「さ、中に入って。」

 

スレイは長い梯子を降り、遺跡の中に入る。

それを見届けた少女ロゼは、

 

「あー疲れた!今日はもう寝る!と、妹ちゃんの所に行かなきゃね。」

 

少女ロゼは仲間に場所を聞き、案内する。

そこにはベッドの上で寝息を静かに叩ている小さな少女がいた。

まだ少し熱があるのだろう、頭に濡れタオルをのせている。

スレイは髪を撫でると、小さな少女は目を開ける。

 

「あ……ゴメン、起こしちゃった?」

 

小さな少女は首を振る。

 

「レイ……ホントゴメンな。守ってやれなくて……」

 

レイは悲しそうになスレイの瞳を見た。

手を伸ばし、手を握る。

かすかな風がスレイを包んだ。

 

「レイ?」

「お兄ちゃん……あのとき…私に…手を…伸ばして…くれた。それ…だけで…いい。」

 

そう言って、また寝に入った。

それを見届けた少女ロゼは、

 

「スレイも適当に奥のベッド使って。」

「ありがとう。ロゼ。」

「勝手にどっか行くなよ。まだ安全かどうかもわからないんだし。」

 

そして少女ロゼは、歩いて行った。

スレイは一度レイから離れ、この遺跡を少し回る。

そして、閉じられた扉を見て、

 

「この先がここの遺跡の深部か。塞がれているな……」

 

しばらく歩いた後、レイの寝ている部屋に戻る。

もう一度様子を見てから、隣のベッドに横になる。

 

そして休みを少し取ると、聞き慣れた声がする。

 

「まったく、スレイのヤツ……もうちょっと警戒するもんだろう。」

「仲間はずれが寂しいのね。」

「声が届かないのって本当にもどかしいですわね。それにしてもミクリオさん、よかったですわね。」

「そうね。あのおチビちゃんが吹き飛ばされてから、落ち着きがなかったものね。」

「当たり前だ!スレイはスレイで、警戒心がないし!レイはレイで行方不明だったし!」

 

と、叫び始める。

それを聞いたスレイは勢いよく起き上がる。

 

「みんな!」

「スレイ!元に戻ったのか?」

 

と、スレイの中からミクリオ、ライラ、エドナが出てくる。

ライラは嬉しそうに手を合わせ、

 

「本当、よかったですわ。」

 

と、大声を上げる。

スレイは彼らを見渡し、

 

「いなくなったのかと……すげー焦った!」

「ヘルダルフとか言う獅子の顔の男、あの時一体何をしたんだ?」

 

ミクリオが考え込む。

それをエドナが、

 

「考えたことない?二つの領域が重なったら、どちらの加護が強く影響するか。」

「どいうこと?」

 

スレイは聞く。

それにライラが答える。

 

「スレイさんの導師としての領域がかの者のそれに打ち負けたのです。」

「そのせいでスレイの霊応力が一時的にマヒしたってわけか。」

「しょうがないわ。ドラゴンよりも強く、穢れた領域を持っているんだもの。」

「じゃあ、レイの熱も?」

 

と、ミクリオは後ろで寝ているレイを見る。

レイは寝ていた。

 

「いいえ、おそらくそれだけではありません。レイさんの場合はこれまでの負荷が一気に出たのでしょう。レイさんは無意識のうちにスレイさんの負担を肩代わりしていたのですわ。」

「え?」

「アリーシャさんの従士による負荷、急激な穢れによる体の負荷を……レイさんの圧倒的に大きな霊応力がスレイさんを助けていたんですの。そして今回、あの方との大きな乱れで、限界がきたのかと……」

「つまり、あのおチビちゃんはアンタがアリーシャと契約したときからきっと理解していたのよ。アリーシャは従士に向かないと。才能はあっても、霊応力が圧倒的に足りなかった。そんな状態で、神依≪カムイ≫やドラゴンの領域に入ったり、それを解いてからも、穢れに満ちたあの戦場に行った。気に入らないけど、アイツがおチビちゃんと入れ替えてなかったら……」

「スレイさんは穢れに負けて、落ちていましたわ……」

 

ライラは悲しそうに、エドナは少し怒りながら言った。

 

「そう……だったんだ……」

 

スレイは落ち込んだ。

そんなスレイに、

 

「君だけのせいじゃないって言ってるだろ。それに気づけなかった僕も悪い。」

「ミクリオ……」

「わかったら話を進めましょ。」

「あ……うん。ライラ、ヘルダルフ……あいつが災禍の顕主なのか?」

「まず間違いないでしょう。あれほどの穢れをまとうものは他にないと思いますわ。」

「じゃあ、あいつがあれほどの穢れと力を持ったのは何か理由があるって訳か。」

 

そう言って、スレイは瞳石≪どうせき≫を取り出す。

 

「当然だろうな。あんなのが自然に生まれてたまるか。」

 

ミクリオは少し怒りながら言う。

ライラは静かに、

 

「それを識り、スレイさんが答えを持ってかの者に挑まなければ……あ!」

 

真剣な表情で言っていたライラだったが、斜め前を見て、表情が変わった。

ライラがそちらの方向を指差し、

 

「スレイさん……」

 

スレイがそちらを見ると、そこには黒を身に纏った赤髪の少女ロゼを先頭に、暗殺ギルドのメンバーが立っていた。

そして少女ロゼが、

 

「妹ちゃんはまだ寝てるし……何ブツブツ言ってるの?」

 

スレイは少女ロゼの方を見て、

 

「あ、ああ。ここに仲間がいるんだ。」

 

と、スレイは横を見る。

少女ロゼはそんなスレイを呆れたように、

 

「は⁉」

「……天族なんだけど。」

 

そして少女ロゼは戸惑いながら、

 

「そ、そういうの笑えないよ。」

 

と、スレイは思いつく。

 

「ライラ、彼女なら『アレ』で声が聞こえるんじゃない?」

「そうですわね。やってみましょう。」

 

スレイとライラは互いに嬉しそうに言う。

スレイは少女ロゼに近付き、手を握る。

 

「な、何?」

「耳を澄まして。ロゼ。」

 

と、スレイは目を瞑る。

ロゼは不安げな顔で、辺りをきょろきょろし始める。

が、覚悟を決めて目を瞑る。

 

「ロゼさん、聞こえ……」

「ぎゃぁぁぁぁ‼」

 

ライラがしゃべり途中で、少女ロゼは目を大きく開け、叫ぶ。

そしてスレイとの手を思いっきり振る。

 

「ちょっロゼ!」

「ろ、ロゼさん、落ち着いて……」

 

ライラも落ち着かせるために言うのだが、

 

「聞こえない!ばか!放せ!」

 

より一層、スレイとの手を振る。

 

「ロゼ!聞いて!」

 

そしてスレイの後ろに居たエドナが納得したように意地悪顔で手を叩く。

それをミクリオは呆れたように見る。

エドナは、少女ロゼの背後に回り、耳元で囁く。

 

「お化けだぞ~。」

 

少女ロゼは動きが止まる。

スレイ達は少女ロゼを見る。

が、彼女は凄い形相で、

 

「だぁぁぁああああ!」

 

と、スレイの顔面を思いっきり殴った。

スレイは回転しながら飛んだ。

 

「ちょっー!」

 

そして落ちた。

 

「あぁーあ。」

 

エドナが冷めた目でそれを見る。

スレイは白目になって、倒れていた。

それを後ろの暗殺ギルド仲間も、頭を抱えていた。

いや、むしろ呆れていた。

何しろ笑い出すものもいたからだ。

そしてまた一人、その光景を見ていた人物が……。

それに気づき、仲間の一人が、

 

「と、頭領……あれ。」

「え?」

 

そちらを見ると、ベッドの上で座り込んみ、無表情で固まっていた小さな少女がいた。

ロゼはしばらくして、その場から駆けて行った。

 

ミクリオとライラはその光景を口を開けて、呆然と見ていた。

そこにやっと、レイがベッドから降り、無言でスレイを揺する。

暗殺ギルドの仲間は笑いながら、

 

「あははは。ダブーに触れちゃったね。導師殿。」

「頭領、そっち系てんでダメだから。」

 

そしてスレイは起き上がる。

 

「そーですか……」

 

そしてエドナを見る。

エドナはすぐ視線を反らした。

立ち上がるスレイに、

 

「導師。楽にしててくれ。何かあったら呼ぶ。」

「けど、しばらくここに居てもらうよ。君への対応が決まるまでね。」

 

そして彼らは出て行った。

 

ミクリオは少し残念そうに、

 

「僕の中での暗殺者イメージが崩壊していくよ……」

「皆さん良い方たちですね。」

「うん。レイも助けてくれたし。な、レイ。」

「……ん。」

 

そこでエドナは思い出したように、

 

「ロゼって子は天族を信じたくないようだけど。」

「きっとすごい資質をお持ちですのに……」

「ああ。彼女、穢れも感じない。」

 

スレイは嬉しそうに言う。

ミクリオが腕を組み、

 

「ロゼが天族を知覚できないのは、彼女自身が拒絶しているからなんだな。」

 

そしてスレイは改めて、部屋の外へ出る。

 

「レイ、もう起きて大丈夫か?」

「平気……大分…良い。それに……夢を…見た…から…」

「夢?」

「……」

 

レイは無言になった。

と、壁に寄りかかる一人の男性を見つけた。

 

「あれは……」

「……たしかデゼル。」

 

スレイとミクリオは思い出すように言う。

スレイは彼に近付き、話し掛ける。

 

「デゼル、色々聞きたい事があるんだ。」

「フッ。奇遇だな。俺も聞きたい事がある。天族の力をまとって戦うあの力はなんだ。」

「神依≪カムイ≫のことか?」

「神依≪カムイ≫……そうか、あれが……」

 

彼は腕を組んで、考え込む。

そして、

 

「俺もあの力を得られるのか?」

 

レイは彼を見上げる。

ライラが説明する。

 

「神依≪カムイ≫は天族と導師が一体となって行使するものです。」

「お互いが力を合わせるんだ。手に入れるって類のものじゃないよ。」

「ふん……面倒な力だ。だが、確かに強い。」

 

と、彼は呟く。

 

「全く意図がつかめない。何なんだ?」

 

ミクリオがそう言うと、天族デゼルは淡々と言う。

 

「品定めさ。俺の目的に繋がっているかどうかのな。」

 

そして歩いて行った。

が、途中で止まり、

 

「もうひとつ答えろ。あの娘……ロゼは神依≪カムイ≫の力を発現できると思うか?」

 

スレイとミクリオは互いに見合った。

そしてライラを見る。

 

「彼女なら可能かもしれません。それほどの資質を秘めていると思います。」

「そうか……」

「けど、今のままじゃ一生無理ね。どんなに資質があっても、あの子は天族を拒絶してるもの。誰のせいかしらね。」

 

エドナは傘を肩でトントンさせながら、淡々と言い、天族デゼルを見た。

天族デゼルは一度それを見た後、舌打ちして、歩いて行った。

 

「「…そこまでして復讐を遂げたいか……哀れな天族だ。」」

 

レイはその背を見て、小さく呟いた。

そしてミクリオも、天族デゼルのその背を見たまま、

 

「……結局こっちの話は聞く耳なしか。風の天族はよくわからないのばかりだ。」

「神依≪カムイ≫の力を求める天族か……」

 

スレイは小さく呟いた。

そして、遺跡の入り口に向かって歩き出す。

 

「スレイさん、どちらへ?」

 

スレイは振り返り、

 

「うん。戦場に戻ってみようかと思うんだ。」

 

その言葉に、天族組は驚いた。

レイはスレイを見上げる。

ミクリオは怒りながら、

 

「何を言っているんだ!」

「また霊応力を遮断されるかもしれないのよ?」

 

エドナも呆れたように言う。

が、スレイは、

 

「けど、手をこまねいてる訳にもいかない。とにかく何かを掴まないと……」

「僕が反対だ。無謀すぎる。」

「災禍の顕主は導師が何とかしないといけない。だから行かなきゃいけない。そうだろ、ライラ。」

 

そう言って、ライラを見るが、

 

「いいえ。」

 

ライラは首を振る。

 

「え……」

 

そしてライラはゆっくりと言う。

 

「焦らないで、スレイさん。」

「あなたが自分を見失ったらどうなるか、話したはずよね。」

 

エドナはスレイを見つめて言う。

スレイはゆっくりと、

 

「……導師が穢れてしまったら、世界はさらなる災厄に見舞われる……」

「そうです。忘れないでください。」

「たしかにやってみなきゃわからない事もある。だけど、今はその時じゃないと思うね、僕は。」

「はい。今スレイさんに必要なのは休息ですわ。」

 

ライラは手を合わせて言った。

ミクリオはスレイを見て、

 

「僕に提案がある。奥の遺跡を探索に行かないか。あのメーヴィンとかいう男の言葉も興味深い。」

 

と、腕を組んで言う。

そしてスレイも、腕を組み、

 

「遺跡探検か……」

「名案ですわ。そうしましょう、スレイさん。」

「そういう事らしいけど?」

 

ライラが嬉しそうに言って、エドナが小首をかしげる。

スレイは笑顔になり、

 

「よぉし!久々にがっつりやるか!」

「ああ!」

「ふふ。元気が出てきました。」

「休息をとるんじゃなかったのかしら。」

「導師としての、ね。」

「じゃあ、早速行ってみよう。」

 

スレイは張り切って言った。

そして彼らは嬉しそうに歩いて行った。

その後姿に、

 

「「賢明な判断だ。導師の穢れは今を見れば本当にわかる事だ。……さて、あの人間の娘はどうするかな。」」

 

レイもその後ろに付いて行く。

 

 

スレイは歩きながら、

 

「けどミクリオ、メーヴィンとの話聞こえてたんだ。」

「君が僕たちを知覚できなかっただけだ。他の事も全部見てた。ずっと傍に居たからな。」

 

ミクリオは少し安心したように言う。

が、スレイの横から、

 

「で、仲間はずれにされて泣いてた。」

「泣いてない!」

 

ミクリオは頬を赤くして怒鳴った。

レイがミクリオの服を引っ張り、

 

「泣いて…たの…ミク兄…?手を…繋ぐ?」

「泣いてない、泣いてないから!でも、手は繋いでいいよ。」

「寂しかったんでしょ。」

 

と、手を繋ぐミクリオに、エドナは笑みを浮かべながら言う。

そしてスレイも笑った。

 

扉の前に来ると、

 

「さて、何よりもまずはこの扉だな。」

 

スレイとミクリオは扉に近付き、調べ始める。

その光景をライラは嬉しそうに、エドナはつまらなそうに見る。

ちなみにレイは、ミクリオの所に居た。

理由は簡単。

手を繋いでいたから。

 

と、調べまくっていた所に声が響く。

 

「それ全然開け方わからないんだよね。どうでもいいから放っておいたんだけど。」

 

スレイが後ろを振り向くと、商人姿でもなく、暗殺ギルドの衣装でもないロゼが立っていた。

動きやすく、物を多くしまえそうな服だ。

首にスカーフを巻き、腰には二本のナイフがある。

 

ライラとエドナは嬉しそうな顔になる。

 

「開きそう?」

「どうかな……ちゃんと調べてみないと。」

「そ。」

 

二人の会話のやり取りに、ライラは少し驚き、嬉しそうにする。

そしてレイもそれを見ていた。

今だに調べているスレイを見つめる少女ロゼ。

その視線に気付いたスレイは、

 

「……何?」

「別に。ただの導師観察。気にせず続けて。」

「ヘンなの……」

 

スレイはミクリオに近付く。

 

「入り口自体が閉じられてる遺跡か……やはり閉じられてる意味があるんだろう。」

「けど封印の類じゃないな。カギ穴すらないし。」

「スレイ、久々に勝負といかないか?」

「いいよ。絶対オレが先に開け方見つけてやる。」

 

自信満々にスレイは言う。

それを嬉しそうにミクリオは、

 

「ふふん。負け越してるのを忘れてるようだな。そうだろ、レイ。」

「そう…だね。…頑張れ…お兄ちゃん。」

「おう!」

 

そしてミクリオは扉を探る。

 

「鍵穴が見当たらないとすれば、まず鍵穴以外の扉を動かす仕組みがある、と考えるべきだろう。閂≪かんぬき≫やつっかえ棒のようなモノか、押したり引いたりするスイッチのようなものか……」

 

一人でブツブツ言いながら、調べまくる。

スレイも扉を調べていたが、扉をじっと見ているエドナの方へ行った。

エドナは扉を見ながら、

 

「面倒ね……ぶち破ってもいい?」

 

と、その言葉が聞こえたミクリオが、振り返る。

 

「バカな!貴重な遺跡を破壊するなんて!」

 

ミクリオはエドナに怒鳴った。

エドナはつまらなそうに、そっぽ向いた。

 

「とりあえずぶち破らないでいてあげるから、さっさと開けなさい。こういうの好きなんでしょ?」

「ああ!」

 

そしてスレイは再び扉を調べる。

ライラはスレイに、

 

「ロゼさん、ずっと見てますね。」

 

スレイは振り返り、

 

「変わった子だよ。ホント。」

 

ライラは微笑む。

と、スレイは今度は少女ロゼの方を見て、

 

「やば……ライラたちとはなしてるとまたパンチされちゃいそうだ。」

「ぷっ!ふふふ。」

 

ライラは口に手を当て笑う。

 

「な、何?」

「あの時のスレイさんとロゼさん、ホントおかしかったですわ。ふふふ。」

 

と、心の底から笑う。

スレイは肩を落とし、

 

「……他人事だと思って……」

 

そして二人でこちらを見ているロゼを見てから、笑った。

 

「でも……ロゼさん、デゼルさんのことはご存じではないようですね……」

「うん。今は黙っておこう。」

「そうですわね。」

 

その光景を少女ロゼは見ていた。

そして、近くに居たレイに話し掛けた。

 

「ねぇ、レイ。」

「……何。」

 

少女ロゼは、レイを見下ろし、

 

「聞いてもいい。スレイの事、レイ自身はどう思っているの?」

 

レイは少女ロゼを見上げ、

 

「……お兄ちゃんで…導師。…人間なのに…穢れを…知らずに…生き…守られて…きた。どんな…ものに…対しても…優しく…それでいて…自分の事…のように…思える…珍しい…人間。…でも…だからこそ…傷付き…やすく…背負って…しまう。…それでも…決して…弱音を…吐かない…強い…心の…持ち主…」

 

ミクリオとエドナはレイのその言葉を聞き、驚いていた。

そして少女ロゼも何となく理解した。

 

「ふーん。スレイもかなり変わってるけど、レイも相当変わってるよね。」

「……そう…なの?」

 

レイは視線だけを隣に居たミクリオに向けて聞く。

ミクリオは悩んでいた。

しかし少女ロゼにはミクリオは見えていないので、

 

「え⁉こっちに疑問をぶつける⁉ま、でもレイは前にあった時より、よっぽど人らしくなった気がする。何というか、感覚的に。」

 

少女ロゼは視線を外し、頭を掻いていた。

レイは変わらず無表情で、少女ロゼを見上げていた。

が、視線をスレイの方に向けた。

スレイはライラと共に笑っていた。

 

「もう一つだけ聞いてもいい?」

「……この際…だから…いいよ。」

 

少女ロゼはもう一度、レイを見下ろし、

 

「何でスレイに、私の事言わなかったの。気付いてたんでしょ、私が風の骨の頭領って。」

「なんだって⁉そうなのか、レイ。」

 

レイは小さく頷く。

 

「どうやら、そうみたいね。」

 

エドナは傘を地面に突いていた。

そしてレイは少女ロゼを見て、

 

「言う…必要が…なかった…から。多分…お兄ちゃんに…言っても…お兄ちゃんは…貴女に…対する…態度は…変わら…ない…と思う…。でも…言わ…なかった…本当の…理由は…多分…言わなく…ても…きっと…お兄ちゃん…なら…気付いた…から…かな?」

「また疑問形…。でも、それはあたしもそう思う。何となく、だけど。でもさ、あたしがまたスレイの命を狙いに行くかも、とか思わなかったの実際。それに、今この時も。」

「思わ…ない。…もし…来た…としても…貴女は…お兄ちゃん…の…命は…取らない…と…わかって…いる…から。…それに…今も…」

 

この言葉に、ミクリオとエドナはもう一度、レイを見る。

そして少女ロゼも、レイを見据え、

 

「なぜ?」

「殺す…理由が…ない…から。…確かに…導師と…言う…曖昧な…ものは…天族と…言う…存在…と…同じ…。そして…導師…と言う…本当の…意味…を…知ら…ない…人間は…導師を…祀り…怖れる。…導師は…そんな…孤独…を…一人で…抱える…。でもきっと…貴女は…他の…人間…とは…違い…それを…自分…なり…に…受け…入れる…と…思う…から…。」

 

少し沈黙した後、少女ロゼは頭を掻きながら、

 

「やっぱ、レイも変わってるわ。」

「あと…私も…思い…出した。…お礼…言って…なかった。…助けて…くれて…ありがとう…。あの時…は…本当に…動け…なかった…から…。貴女の…仲間に…言って…おいて。」

「それはいいけど、そういうのは直接言った方がいいかもよ。それにレイをここに連れて来たのは、メーヴィンおじさんだって聞いたよ。」

 

レイは周りを見て、

 

「貴女の…仲間…は…今…忙しい。…それに…あの人間は…今…ここに…居ない。」

「確かにそっか……。わかった。あたしから言っておく。」

「……ん。」

 

少女ロゼも周りを見て、言った。

レイが少女ロゼと話していた間、ミクリオはエドナに、

 

「レイは興味が無いようで、ちゃんと見てるんだな……」

「アンタたちが知らないだけで、あのおチビちゃんは色々見てるわ。だからこそ、もしかしたら自分の置かれている状況を一番理解しているかもしれないわ。」

「それってやっぱり……あの裁判者のこと?」

「ええ。アンタだって気付いてるんでしょ。あのおチビちゃんのしゃべり方、あいつに似てきた。違うわね、似たというより――」

 

エドナは最後の方は言葉を濁した。

ミクリオはそんなエドナを見る。

 

「……記憶が戻れば、僕らの元を去る……か。それでも僕らはきっと……」

 

ミクリオは視線をレイに向けた。

レイは少女ロゼと話し込んでいた。

 

ライラと話し終わったスレイは、ずっと見ている少女ロゼに近付いた。

 

「扉の奥、どうなってるんだろうね。」

 

その言葉にスレイは嬉しそうに、

 

「お、ロゼも遺跡に興味あるんだ。」

 

しかし少女ロゼの方は、

 

「全っ然。」

 

首を振った。

そして、スレイを見て言う。

 

「今あたしが興味あるのはスレイだって。」

「そ、そう……」

「そうそう、このアジトの中、もう自由に調べちゃって良いよ。ここは放棄することにしたから。出発の準備も大体終わったし。みんなもう気にしないから、スレイがしたいようにやっちゃって。」

「そういうことなら!」

 

スレイは色々調べに行った。

 

レイは色々探っているスレイに近付いた。

 

「お、レイ。レイも、何か見付けたら教えてくれ。」

「……わかった。」

 

と、レイは部屋の隅の盛り上げっている床を見る。

スレイの服を引っ張り、指さす。

スレイがその床を踏むと、下に沈んだ。

 

「お、これかも!レイのお手柄だな。」

 

と、頭を撫でる。

そして次を探しに行く。

探しながらスレイはレイに聞く。

 

「レイはさ、ロゼのことどう思う?」

 

レイも探しながらスレイに言う。

 

「…あの…人間…とは…違った…意味で…お兄ちゃんを…受け…入れ…られる…人間。」

「あの人間……?もしかして、アリーシャのこと?」

 

レイは頷く。

そして続ける。

 

「あの人間は…己の…抱く…理想や…責任に…押し…潰され…やすい。…でも…彼女は…決して…諦めよう…とは…しない…強い…瞳を…持って…いる。…対して…あっち…の…人間は…すべて…受け…入れても…なお…変わら…ない…自分…を…持って…いる。…人も…天族も…変わる…。でも…彼女は…心が…変わら…ない。…だから…こそ…穢れない。」

「レイが凄いな。この短時間で、ロゼのことちゃんと見てる。」

 

スレイは嬉しそうに言った。

そしてレイの頭を撫でながら、

 

「オレも、そう思う。ロゼは何があっても変わらない気がする。それにアリーシャも、ちゃんと自分の理想を叶えられる。それはそう信じる。」

 

そしてスレイは辺りを見渡し、

 

「さて、他にも入り口に関わるものがないか探すか!」

「……ん。」

 

そして、四つくらい床を踏み、レイとスレイは扉の前に戻る。

スレイが扉に戻ると、入り口が開く。

 

「来た!」

「「おぉ~。」」

 

ライラ、少女ロゼは大いに驚く。

エドナはそれを見て、

 

「待ちくたびれたわ。」

 

ミクリオは考え込む。

 

「なるほど。さっきのが扉の回転を邪魔してたって訳か。」

 

スレイは嬉しそうに、

 

「へへ。今回はオレの勝ちだな。」

「どうやらね。でも、ほとんどがレイの発見だから……レイの勝ちだね。」

 

ミクリオはレイを見下ろす。

 

「な⁉で、でも、確かにそうだ……」「……?」

 

スレイは肩を落とした。

そして当の本人であるレイは首をかしげていた。

スレイ達が遺跡の中に入ろうとした時、

 

「さて、と」

 

ミクリオの前を少女ロゼが歩いた。

スレイは彼女を見て、

 

「ロゼも行くのか?」

「うん。スレイが行くならね。」

 

と、笑顔で言う。

スレイは真剣な顔になり、

 

「ロゼ、遺跡の中には人にとって魔物と言える程手強い獣がいることがあるんだ。そんな奴らをオレは憑魔≪ひょうま≫って呼んでる。」

「ふんふん。」

 

少女ロゼは腕を組み、一応聞いている。

そしてスレイは半信半疑で、

 

「聞いてる?」

「憑魔≪ひょうま≫、めっちゃつよの獣、でしょ。聞いてる聞いてる。」

 

と、普通に言う。

スレイは、そんなロゼに、

 

「危ないかもしれないんだって。」

「スレイがだいじょうぶなら私もだいじょうぶ。知ってるでしょ。あたしの実力。」

 

少女ロゼは自信満々に言う。

スレイは眉を寄せて、不安げになる。

が、当の本人である少女ロゼは、

 

「いい退屈しのぎができそう♪」

「あ!」

 

とても楽しそうだった。

そして先陣をきって歩いて行った。

スレイが苦笑いしてみていると、今度は無言で天族デゼルがスレイ達の前を歩いて行く。

 

「俺もいく。おまえたちに余計な手間はかけさせん。」

「けどデゼルは憑魔≪ひょうま≫を浄化できないじゃないか。」

「ふん。」

「あ~。」

 

と、肩を落としたスレイ。

そのスレイにミクリオが、

 

「いざとなれば助けてやればいいさ。」

「ですね。せっかくの遺跡探検です。楽しみましょう。」

「奇妙なバカンスになりそうね。」

 

ライラは手を合わせて嬉しそうに言い、エドナはつまらなそうに言った。

スレイは横に居たレイに、

 

「じゃ、レイ。何があるかわからないから手を繋いでいくか。」

 

いつもなら、すぐに手を繋ぐレイなのだが……。

 

「今日は…ミク兄と…手を…繋ぐ。…最近…ずっと…お兄ちゃん…ばっかり…だった…から…」

 

レイは首を振り、レイはミクリオの傍に行き、

 

「ミク兄…手…繋い…で…いい…?」

「もちろんだとも。」

 

そう言って、手を繋いで歩いて行った。

それを見たエドナとライラは、

 

「振られたわね。」

「振られちゃいましたね。」

「う~。」

 

スレイは肩を落としながら歩いて行く。

 

 

遺跡の奥に進んでいく。

ライラは辺りを見ながら、

 

「それほど穢れは感じませんね。」

「ふむ。いい探検になりそうじゃないか。」

 

と、ミクリオは嬉しそうに言う。

 

「でも…気を…つけた…方が…いいよ。」

「そうだね。」

 

会話をしていたレイの左横で少女ロゼが、

 

「何を気をつけるの?」

「……色々。」

「ふーん。ところでさ、レイ。」

「…何…?」

 

少女ロゼはレイの歩き方を見た。

左手を宙にあげ、握っている。

それはまるで誰かと手を繋いでいるかのような……。

 

「何でそんな歩き方なのさ。それじゃまるで……」

「ミク兄…と…歩いて…いる…から…」

「ミク兄?」

 

レイは左横に居る少女ロゼを見て、

 

「そう…。貴女…の…横で…歩いて…」

「ウソ⁉ヤダ!冗談止めて、レイまで!」

「冗談…じゃ…ない。…本当に…横に…」

「ぎゃああああ!」

 

と、少女ロゼは両手を思いっきり振り回す。

 

「ちょっ!危ないじゃないか!」

 

ミクリオはその手を避ける。

と、少女ロゼの回し蹴りが飛んでくる。

それをしゃがんだ。

そして少女ロゼは、走って行った。

レイは視線をミクリオに下し、

 

「ミク兄…大丈夫…だった?」

「何とかね。危うく、スレイみたいになる所だった。」

「オレみたいってなんだよ。あれ、ホントに凄かったんだからな!」

「それは見てたからわかるさ。」

 

と、歩いて行く。

その光景を見ていたライラとエドナは、

 

「あのおチビちゃん、前より会話するようになったわね。」

「そうですわね。こちらからの問いかけや、話し掛けに応じてくれるようになりました。」

「ホントよね。前はスレイとミクリオ以外は話しける事も、答える事もないんだから。」

 

二人は歩きながら、会話を続ける。

 

「でも、おチビちゃんはあれで大丈夫なのかしら。どんどんあいつに似てきた。いえ、戻ってきた。」

「そうですわね……。もし、記憶が戻った時……感情や今のスレイさんたちの記憶をどのように受け止めるのか……私としてはちゃんと見届けたいと思ってます。」

「ワタシは変わらないと思うけどね。でも、今のおチビちゃんも残ってて欲しいとは思うわ。」

「ええ、本当にそうですわね。」

 

二人は前を歩く三人をそっと見守る。

 

 

と、先を進んでいた少女ロゼが、何かを見つけたらしい。

 

「何これ……レバー?」

 

スレイは壁に仕込まれたレバーを、少女ロゼがいじってるのを見る。

スレイは急いで、少女ロゼ叫び、近付こうとする。

 

「ロゼ!待った!遺跡の仕掛けを不用意にさわっちゃ……」

 

言ってる傍から、すでにそれを下してしまった少女ロゼ。

彼女は反動で、尻餅をつく。

そしてスレイの目の前で、扉が閉まる。

スレイは反対側、つまり入り口を見る。

そこも、音を立てて閉まった。

スレイは急いで、扉を調べるが、

 

「だめだ。カギ穴もない。」

 

エドナは扉を睨み、

 

「……なに?いきなりこれなの?」

 

ライラも保身状態で、

 

「あはは……どうしましょうか……?」

 

ミクリオは呆れたように、

 

「やれやれ……いきなり出鼻を挫かれるとは……とりあえず向こうにいるロゼと話ができないか、試してみたら?」

「これ…以上…何か…しでかす…前に…」

「レイの言う通りだな……。試してみよう。」

 

スレイは扉の向こうに叫ぶ。

 

「ロゼー、聞こえるー?」

 

と、向こう側から呆れた声が聞こえる。

 

「あらら。」

「あらら、じゃないだろう!」

 

スレイは呆れつつ、怒りながら言う。

これを引き起こした当の本人の少女は、

 

「やー、でも結局作動させたっしょ?行き止まりだったし。」

「うっ。」

 

と、小さな四角い穴から向こう側の少女ロゼが見える。

スレイは肩を落とした。

実際、少女ロゼの言う通り、あの先は行き止まりだった。

なので、スレイもいじろうとは思っていたのだ。

そしてスレイ後ろでミクリオは、

 

「読まれてるよ、スレイ。」

 

と、また何やらガチャガチャ聞こえてくる。

 

「あれ、戻んないや。」

 

その言葉に、ライラは再び放心。

エドナは半眼で、ミクリオは考え込む。

そしてレイは無表情の無言だった。

 

「どうすんだよこれ!」

 

スレイは叫ぶが、小さな四角い穴から見える少女ロゼは、奥を見て、

 

「奥開いたし、ちょっと見てくる。そこ動かないで。」

 

と、歩いて行った。

スレイはその背に、

 

「動けないんだよ!」

「あはは、怒んなって。」

「まいったな。」

 

スレイは困った。

後ろから、

 

「はぁ~~……タイクツ……メンドクサイ……。スレイ、どうにかしなさい。」

 

と、床を傘で突いているエドナ。

 

「本当に困ってしまいましたね……。なんとか脱出できないか、もう一度、扉や壁を調べてみたらどうでしょう?」

 

ライラが壁を見渡して言った。

スレイは壁を調べ、同じように調べていたミクリオに近付いた。

傍にはレイもいる。

これは単に、傍に居たからだが、レイはじっと、扉を見ていた。

調べていたミクリオは、

 

「壁の継ぎ目がほとんど目立っていない。この遺跡、マビノギオより精度が高いかもしれないぞ。」

「本当だよな~。」

 

と、あっちこっち調べ回したが、

 

「ダメだ。内側からはどうしようもない。ロゼを信じて待とう。」

 

そしてライラは、この機を使いスレイに言う。

 

「ロゼさんを私たちの旅に誘いませんか?」

「え、何?突然。」

 

ライラの言葉に困惑したスレイだが、ミクリオは頷き、

 

「僕は同意だ。スレイのいい仲間になると思う。」

「ミクリオまで……」

 

そしてミクリオは思い出すように、

 

「ジイジが言ってた、『同じものを見て、聞くことのできる真の仲間』だよ。」

「真の仲間か……。」

「良いんじゃない?」

「ロゼさんの霊応力はスレイさんと比肩するほどのものです。アリーシャさんの時のように従士の代償でお互い苦しむ事もないと思いますわ。そうですわね、レイさん。」

「……ん。…あの…人間は…それを…可能…と…する…だけの…霊応力…の…持ち主。」

 

レイは依然と扉を見ていた。

だが、ライラを視線だけ向けて言った。

そしてエドナが、スレイを見上げ、

 

「それに人間がスレイだけだと時々面倒なのもわかったし。」

「けど……」

 

それでもスレイは、俯いて考え込む。

そして顔を上げ、

 

「導師の宿命に巻き込むわけにはいかない。」

「やっぱり君が気にするのはそこなんだな。」

「スレイさん、ここまでの旅は辛い事ばかりでしたか?」

 

ライラは優しく問いかける。

スレイは首を振り、

 

「ううん。楽しいこともいっぱいあった。」

「導師の使命に飲み込まれる程度か?僕たちの夢は?」

 

ミクリオも、優しく問いかけた。

 

「……違うよな。」

「言いたいこと、わかったようね。」

 

エドナは嬉しそうに言った。

スレイは頷き、

 

「うん。何でも抱え込むな、だね。」

「スレイさんの責任感、うれしく思いますわ。ですが、スレイさんにはスレイさんの歩き方があるはずです。」

「無理して走っても途中で倒れるだけ。」

「オレにあったやり方を見つけださなきゃって事だな。」

「そのためにも仲間が多いのは心強いだろう?」

「そうだな。」

 

決意するスレイだが、ミクリオは笑いながら、

 

「決めるのはあの子だけどね。」

「まずは話して私たちの事理解してもらわないと。」

「……いきなりの難関。」

「いずれにせよ、戻ってくるのを待つしかないね。」

 

スレイ達は互いに頷き合う。

 

スレイはミクリオに近付き、

 

「まさかジッとしている事になるとはね。」

「昔を思い出して楽しいよ。これも遺跡探検の醍醐味だよな。」

 

スレイは嬉しそうに言うが、

 

「僕は閉じ込められた事なんてほどんどないけど。」

「オレが仕掛けを解除してやった事もあるだろう。」

「ごくごく稀にね。それに、解除したのはほとんどレイだ。」

 

と、レイを見る。

レイは扉を見ていたが、何かに呆れていた。

目の前のスレイは、

 

「ちぇ。」

 

と、スレイは肩を落とした。

ミクリオは感心したように、

 

「それにしても変わった遺跡だな。」

「閉鎖された空間、覗き窓のある扉……」

「そして外からの操作で部屋の仕掛けが作動する、か……」

「「そうか!実験場だ!」」

 

二人は互いに言って笑う。

それにライラとエドナは驚いた。

 

「ここが実験のためのものなら、中からは開かないだろう。完全にロゼ任せだね。」

「でも何の実験をしていたのかは調べられるよ。」

「脱出できるかどうかわからないってのに、君は本当にお気楽だな。」

「うっせ。」

「しかし実験場とは言ったものの、ここがどういう性格を持った場所だったかは、まだ分からない。その「観察」がどんなものだったのか……興味が尽きないね。」

 

と、ミクリオは興味津々で言っていたが、ライラが心配そうに、

 

「大丈夫でしょうか、心配ですね。」

「信じて待つしかないよ。」

 

スレイはライラにそう言うが、レイが天井を見上げて、

 

「…落ち…て…くる…」

「ん?」

 

スレイも天井を見上げる。

 

「なんですの?」

 

ガタンと言う音共に、天井が開く。

そしてそこから、ヘビが落ちてくる。

 

「わ!」

 

だが、しかしただの蛇ではない。

 

「憑魔≪ひょうま≫です!」

 

ライラが叫ぶ。

スレイは武器を構え、

 

「とにかく戦う準備を!」

 

と、戦闘を開始する。

スレイは戦いながら、

 

「まさか、ロゼが何か仕掛けを?」

「まったく、とんだトラブルメーカーだ!」

 

と、戦っていた後ろの方から、

 

「あれ~、ダメだった?……って何してんの?」

「憑魔≪ひょうま≫が!」

 

しかし、ロゼには憑魔≪ひょうま≫が見えていないので、

 

「その土埃が?なんかよくわからないけど……」

「気にしないで他を当たって!」

「了解了解~」

 

しばらくして、ロゼがまた言う。

 

「まだ騒いでる。やっぱりなんかあるの?」

「ああもう!…じゃあ今お化けと戦ってるの!」

 

スレイはぶっきらぼうに言った。

ロゼは即答で、

 

「ハイ気にしないことにしましたー!」

 

ロゼがいなくなったのを見て、レイは歌を歌い始める。

敵の動きが鈍くなったところで、スレイ達は一気に憑魔≪ひょうま≫を片付ける。

 

「ふぅ~。」

 

スレイは武器をしまいながら、息をつく。

 

「驚きましたわ。」

「なんか嫌な予感がするんだけど……」

 

ミクリオは頭を抱えて言う。

エドナも、

 

「珍しく気が合うわね。ワタシもよ。」

「……同じ…く…」

 

レイも珍しく、スレイを見て言った。

 

「はは……大丈夫だよ……たぶん……」

 

スレイはそう言いながら、肩を落とした。

そんなスレイの背に、ライラが手を合わせて言う。

 

「いきなりヘビ憑魔≪ひょうま≫が降ってくるなんて、なかなかヘビーな仕掛けですわね。」

 

その一言に、全員が一瞬ライラを見て、黙り込んだ。

そしてエドナがしびれを切らし始めた。

 

「……遅いわね。ワタシも行けばよかった。」

「はは……」

 

スレイはそれに笑うしかない。

そしてレイが、

 

「また…やらかした……」

 

と、一言呟いた。

スレイ達がレイを見たが、ガタンと言う音がする。

 

「なんか音した?」

「したわね。」

 

エドナは即答だった。

そして部屋の壁から何かが吹き出てくる。

 

「煙だ!」

「ホント、大変ね。」

「なんか他人事なんですけど。」

 

エドナを見て、スレイは言うが、

 

「ええ。煙で困るのは人間のスレイだけ……あとおチビちゃんだけよ、がんばって。」

「えー!」

「エドナ、冗談を言ってる場合じゃないよ。」

「ひとまず態勢を整えましょう。」

「それに…これは…天族も…危ない…やつ…」

「しょうがないわね……」

 

エドナはスレイの中に入る。

それと同時だった。

 

「スレイ!だいじょうぶなの⁉」

「ロゼ、近付いちゃダメだ!オレは大丈夫だから、他を見てみて。」

「お兄ちゃん……あれ。」

 

レイが指さす方向には床が盛り上がっている。

スレイはそれを見て、

 

「よし!あれだ!」

 

スレイは四つの床を踏みに行く。

駆け足が聞いていた少女ロゼは、

 

「ごめん……なんかさすがに反省……」

「だいじょうぶだって!」

 

そう言ったスレイに、

 

「心が広いのね。スレイ。」

 

そのエドナの言葉に、ミクリオが笑いながら、

 

「ふふ。昔のスレイそのものだからな。」

「あはは。考えなしで色々いじってきて学習したんだよな。」

「スレイ、ホントごめん。すぐ別の調べてくるから。」

 

そして、煙が充満する前に解除できた。

スレイは心の底から、

 

「ふ~。」

 

スレイは辺りを見渡す。

そしてエドナも、

 

「もうだいじょうぶみたいね。」

「うん。」

 

と、スレイは明るく言う。

その姿にエドナが、

 

「なんだか楽しそうね。」

「うん。なんかこういうの久しぶりだなって感じるよ。」

「そう。その感じを大事にする事ね。」

 

そして扉が開いた。

 

「開きましたわ。」

 

ライラが少し嬉しそうに言う。

そしてレイは前に歩み出た。

スレイは体を固くする。

 

「この感じ……領域⁉」

 

スレイとミクリオは扉の端に隠れ、奥を見る。

 

「かなり強力な存在だぞ。しかもこの穢れ……憑魔≪ひょうま≫だな。」

 

レイが奥に向かって駆けて行った。

 

「レイ⁉」

 

それと同時だった。

 

「キャ――――‼」

「ロゼの声だ。」

「急ごう!」

 

と、奥の方から少女ロゼの悲鳴が聞こえて来た。

スレイ達は急いで向かう。

 

レイの歌声が聞こえてくる。

そして、少女ロゼの戸惑いの声。

 

「なになになに‼」

「そんなドラゴンニュートっ⁉」

 

その先を見ると、大きなドラゴンに近い姿をした二本の剣を振り回す憑魔≪ひょうま≫。

少女ロゼの前で歌を歌うレイと、憑魔≪ひょうま≫の攻撃を防いでいる天族デゼルの姿。

 

スレイはライラに聞く。

 

「やばい奴なのか?」

「ドラゴンの幼体のひとつですわ。」

「危険な憑魔≪ひょうま≫って事か。」

 

少女ロゼの目の前では、土埃が風と共に吹き荒れる。

その目に見えない何かに、少女ロゼは脅える。

 

「もうやだ~‼」

 

その姿を見たエドナが、

 

「そろそろ限界みたい。」

「いくぞ!みんな!」

 

スレイは武器を手に、憑魔の横に行く。

 

「おい!憑魔≪ひょうま≫!お前の相手はこっちだ!」

「スレイ?」「導師⁉」

 

少女ロゼと天族デゼルはスレイ達を見る。

 

「構わないようなら逃げましょう!」

「ああ。とにかくロゼたちが逃げられる時間を稼げれば!」

「ロゼ、逃げろ!」

 

少女ロゼはレイに手を引かれ、その場から移動する。

しかし、攻撃が通用しない。

 

「私たちの持つ属性では効果が見込めません!」

「どうするの?くたびれるのは嫌よ。」

「分かってるんだけど…!」

「……」

 

ミクリオは考え込んだ。

そしてそれを見たレイは隣に居た少女ロゼを見た。

 

「…貴女が…目に…見え…ない…何かに…脅えて…いる…のは…見え…ない…から…だけ…じゃない。…過去に…囚われ…て…いる…から。…かつて…は…見えて…いた…一部を…無意識…の…うちに…忘れて…いる…から…」

 

少女ロゼはレイを見下ろし、考えた後、

 

「わぁぁぁぁぁ‼」

 

と、両手にナイフを持って、スレイ達の方へ駆けて行った。

しかも目を瞑って。

それを見て、スレイは驚く。

 

「ロゼ、何やってんだ!逃げろって言ったじゃないか!」

 

だが、憑魔≪ひょうま≫の前を過ぎて行った。

そしてそこをレイも、普通に歩いて行った。

流石にこれは憑魔≪ひょうま≫も拍子抜けだったのだろう、見送った。

スレイの前に来ると、

 

「け、けどさ……あたしのせいでしょ?そんなになってるの!」

 

ボロボロになっているスレイに、詰め寄る。

スレイは少女ロゼを見て、

 

「気にしてないから!」

 

憑魔≪ひょうま≫が武器を手に、再び動き出す。

スレイは少女ロゼを突き飛ばし、憑魔≪ひょうま≫に向かって行った。

少女ロゼは尻餅をついたまま、スレイを見る。

 

「む~。」

 

そしてミクリオはそのロゼを見た後、

 

「スレイ、僕抜きでしばらく耐えてくれ。」

「え……」

 

レイは尻餅ついているロゼの服を握った。

そしてミクリオを見た。

ミクリオは、少女ロゼを見下ろして、

 

「ロゼ。」

「ひっ⁉」

 

ロゼはレイに抱き付いた。

そして辺りを見渡す。

つまり聞く耳はあるようだ。

 

「感心にも今度は耳を傾けてるね。」

「うぐぐ……」

 

少女ロゼはレイにおもいっきり締め付ける。

それをレイは無表情で、受け止めている。

 

「ロゼ、怖がってもいい。そのまま我慢して聞いて欲しい。」

「……う?」

 

ミクリオはゆっくり話し始める。

 

「スレイはあんなヤツだ。幼なじみの僕でも見ててハラハラする。僕たち天族は確かにスレイの仲間だ。だけど、スレイと同じものを見たり聞いたりできてるのか、正直わからない。」

「スレイとレイだけが……人間だから?それとも、スレイだけが導師だから?」

「両方だ。スレイには本当の意味で、導師の宿命を共感できる人間の仲間がいないに等しい。」

「……あたしにスレイの仲間になって欲しいんだ。」

「決めるのは君だけどね。ね、レイ。」

 

ミクリオは優しく言う。

そしてレイも頷く。

少女ロゼは考え込んだ。

そして土埃を含んだ竜巻と戦っているスレイを見る。

そして、レイが見る方向の方を見る。

 

「……ねぇ、名前なんて――」

「ミクリオ!来てくれ!」

 

スレイが叫んだ。

その声に、ミクリオは歩きながら、

 

「はいはい。」

 

少女ロゼは呟く。

 

「ミクリオ……レイが言った……ミク兄?」

 

レイは頷く。

少女ロゼは大声で言う。

 

「ミクリオ!」

 

ミクリオは振り返る。

少女ロゼはレイから離れ、目を閉じて立ち上がる。

そして目をゆっくり開ける。

 

「むむむ!」

 

少女ロゼの前には水色の髪をした少年がうっすらと見え始める。

そこに向かってゆっくり近付いて行く。

 

「え⁉」

 

そしてそれがくっきり見えた。

 

「わっ!」

 

そして手を上げ、突き飛ばした。

 

「だぁあああ!」

「ちょーっ!」

 

ミクリオは後ろに転がって行った。

 

「あ……」

 

レイは転がって行くミクリオを見た。

そして少女ロゼは自分の手を見る。

ミクリオはスレイの所まで転がって行った。

 

「ミクリオ⁈」

 

そして少女ロゼは自分の手を見つめながら、

 

「はぁ……はぁ……見えた……けど、やっぱ……こ、こ……」

 

ミクリオは天井を見上げながら、

 

「さ、さすがにひどいんじゃないか……?これは……」

 

少女ロゼは叫ぶ。

 

「勘弁して!やってやるから!スレイ!ミクリオ!それと……」

 

少女ロゼは自分の横を通り過ぎた黒い服の男性を見る。

何だか親近感を感じる。

が、スレイに視線を向けると、化物が目に入る。

 

「ぎゃああああ~‼」

「何?何なんだ?」

 

スレイは敵の剣を防ぎながら言う。

少女ロゼは必死に言葉にする。

 

「あ、あ、あたしも戦う!」

 

起き上がったミクリオは、

 

「彼女は決心したようだ。もちろん彼女の意思でね。」

 

ライラが、ロゼに笑いかけ、近付く。

 

「……ありがとう。」

 

スレイは少女ロゼに言う。

スレイはライラに、

 

「ライラ、時間を稼ぐ!その間に従士の契約を!」

「ですが、スレイさんに真名を付けてもらわないと――」

 

スレイは敵に向かいながら叫ぶ。

 

「『ウィクエク=ウィク≪ロゼはロゼ≫』!」

「え!」

「それがロゼに与える真名!」

 

レイはライラと目が合った。

ライラは苦笑いで、

 

「わ、わかりましたわ。」

 

スレイは敵と再び剣を交える。

 

「無理に突っ込むな!もう少しの辛抱だ!」

「ああ!とにかく時間を稼ぐ。」

 

しばらく戦っていると、スレイが驚きの声を出す。

 

「え!」

「どうした?」

「デゼルがライラの陪神≪ばいしん≫に⁈」

「何⁈」

 

そう言っていた傍から、後ろから声が響く。

 

「たぁぁぁ‼」

 

と、ライラと神依≪カムイ≫化したロゼが炎を纏った剣を振り下ろす。

スレイの時は違い、伸びた髪を上に結い上げ、白を基準とした赤。

一種のドレスのような格好だった。

そしてスレイと同じく瞳の色も、変わっていた。

 

「お待たせ!」「お待たせしました!」

 

ロゼはスレイを見て言う。

 

「ライラ!ロゼ!」

 

敵の一撃を互いに左右に避け、

 

「なんか、めちゃやれそう!」

「よぉし!一気に――」

「決めるぞ、導師!遊びはもう終わりだ!俺の神依≪カムイ≫を発現させろ!」

 

と、その言葉を遮るデゼル。

そして着地したスレイに、短剣の神器を渡す。

 

「デゼル!お前なんで――」

 

しかしデゼルは無言だった。

スレイは敵を見て、

 

「終わったらちゃんと説明してくれよ!」

「ふん!」

 

と言うのを、最初から最後まで見届けた後、レイは歌を歌いだす。

 

「『ルウィーユ=ユクム≪濁りなき瞳デゼル≫』!」

 

スレイはデゼルと神依≪カムイ≫する。

白を基準とした緑に、背には羽のような剣がある。

 

「神依≪カムイ≫…これが!」

 

デゼルは驚きを現す。

そしてライラはロゼに、

 

「実戦で実戦ですよロゼさん!」

「なんですと⁉」

 

こちらも戦いながら、ロゼは驚きを上げる。

そしてスレイとロゼ二人で神依≪カムイ≫を組み合わせて、戦闘を行っていく。

ロゼの介入で、戦いがスムーズになる。

そして、ロゼがエドナと神依≪カムイ≫をし、一撃を与える。

 

「やった!」

 

憑魔≪ひょうま≫は崩れ落ちる。

レイは歌いながら、憑魔≪ひょうま≫に近付き、憑魔≪ひょうま≫は浄化された。

レイは歌うのを止め、浄化されたものをみる。

浄化された憑魔≪ひょうま≫は、真っ白い毛色に、足先と尻尾が紫で首にバンドのような布を着けた犬へと変わる。

 

「犬の天族?」

 

ミクリオはそれを見て言った。

レイはしゃがんで、犬の天族に触れる。

風が犬の天族を包む。

 

スレイは嬉しそうに、エドナと神依≪カムイ≫化したロゼを見て言う。

 

「うまくいったな!ロゼ!」

 

しかしロゼは、膝をつく。

レイはロゼを見る。

 

「ロゼ……?」

「……うう!」

「ロー」

 

スレイが近付こうとした。

が、スレイを押しのけられた。

それは、デゼルが声を上げて、膝をついて苦しむロゼに駆け寄る。

 

「おい!しっかりしろ!」

 

そしてロゼの肩を支える。

しかし、

 

「ロゼだと思った?ワタシよ。」

 

それはエドナの声だった。

ロゼとエドナの神依≪カムイ≫化が解け、ロゼは倒れた。

デゼルは立ち上がり、

 

「っざけんな!てめえ!」

 

エドナに怒鳴りつける。

彼女はそれには気にせず、

 

「よっぽどこの子にご執心なのね。」

 

ロゼを見てから、デゼルを見上げる。

 

「なんのつもりだ!」

「あら。あなたが陪神≪ばいしん≫になったワケがスレイたちにわかりやすく伝わったと思うけれど?」

 

エドナはスレイ達の方を見る。

スレイは嬉しそうにしていた。

 

「導師、俺は――」

「わかったよ。デゼル。」

 

スレイは嬉しそうに言う。

が、デゼルは怒鳴る。

 

「聞け!」

「デゼルさんは神依≪カムイ≫の力で成したい事があるそうですわ。」

「そうだ。そのためにお前たちを利用させてもらう。」

 

デゼルはスレイ達を見ながら言う。

ミクリオはデゼルに聞く。

 

「……何をしようって言うんだ?」

「復讐だ。俺の友を殺し、『風の傭兵団』に濡れ衣を着せ、犯罪者へと堕とし、暗殺ギルドとしてしか生きていけなくした、憑魔≪ひょうま≫へのな。」

「なんだ。それなら歓迎するよ。その憑魔≪ひょうま≫を鎮めればいいんだな。」

「ふん……それだと救うだけだ。俺の目的は復讐だと言ったろう。」

「殺そうっていうのか!」

 

デゼルは怒るミクリオに、鼻で笑う。

ミクリオは怒りながら、

 

「ライラ、何故こんなヤツを陪神≪ばいしん≫に招き入れたんだ。」

「こんな方だからですわ。復讐に取り憑かれたデゼルさんがこれまで憑魔≪ひょうま≫にならずに済んだのは、穢れない器があったからこそです。」

「……ロゼか。」

「そうか……ロゼが僕たちと共に来るのなら、デゼルは穢れなき器を失い、いずれ復讐心が穢れと結びつき憑魔≪ひょうま≫と化す……」

 

ミクリオは落ち着きを取り戻し、デゼルを見て言った。

 

「復讐の相手と同じ憑魔≪ひょうま≫になるなんざ、死んでもごめんだからな。……おまえらが招いた結果だ。」

「けど、あなたの望んだ結果でもあるんじゃないかしら。」

 

エドナはきつく言う。

 

「ふん。否定はしない。神依≪カムイ≫の力がどんなもんか、この身で理解できたからな。」

「…あの…風の…天族…とは…また…違う…理由。…復讐に…意味…は…なく…とも…やらず…には…いられない。」

 

黙ってみていたレイが、デゼルを見て言う。

スレイ達も、レイを見る。

そしてデゼルはレイを見下ろし、怒る。

 

「意味がないだと!」

「ない…。だって…貴方が…友と…呼んだ…その…天族の友は…それを…望ま…ない。…そして…貴方が…復讐…を…遂げ…たい…と…思った…先に…ある…末路は…その…忘れ…形見…さえも…壊す。…貴方は…それを…理解…して…いて…なお…それを…行おう…と…して…いる。」

「お前に何がわかる!」

 

レイの瞳は赤く光っていた。

そして風がレイを包み、黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女が現れる。

 

「分かっているさ。お前に…いや、『風の傭兵団』の家族であり、仲間たちに、復讐を止めてくれと願ったのはお前が友と言う天族だ。あの天族は、お前が誰よりも復讐に駆られることを理解していた。故に、その願いを願った。お前達『風の傭兵団』をあの現場から逃がし、次に生きる希望を手に入れた事で、風の傭兵は風の骨として生きた。少なくともお前たとは違い、復讐は考えは薄くなったの思うがな。そしてお前もまた、その記憶を偽っている事で、復讐を変えようとしているがな。」

 

小さな少女は無表情で、デゼルを見上げて言う。

しかし、その少女の瞳は赤く、強い光を灯していた。

 

「よくわからんガキが!例え、あいつがそれを望もうが、何かしてようが、俺は復讐を遂げる!」

 

二人は睨みあう。

スレイはデゼルを見て、

 

「……事情はわかった。」

 

そしてミクリオも再び怒りながら、

 

「一緒に行く以上、勝手な振る舞いはさせないぞ。」

 

デゼルはスレイ達の方へもう一度視線を戻し、

 

「ふ……ちゃんと協力はする。俺も天族の端くれだ。導師の活動に異論があるはずはないだろう。」

「……確かに。」

「そういえばそっか。」

 

ミクリオとスレイは納得する。

そしてデゼルはロゼを見下ろして、

 

「ロゼには俺の話は黙っていてもらおう。その娘は自分の意志と力で、これまで生き抜いたと思っている。俺が後ろで何をしてきたかなど、知る必要はないからな。」

「デゼルさん……」

 

それは少し悲しく辛そうだった。

そして気絶しているロゼにエドナが神依≪カムイ≫化し、

 

「これでみんなトモダチ、ね!」

 

明るい声で言った後、語尾は単直に言った。

デゼルは怒りながら、

 

「その娘で遊ぶな!ちゃんと看てやれ!」

「大丈夫よ。怖くて気絶してただけだから。あなたが床に叩き付けた事の方が効いていると思うわ。」

「ぐっ。」

 

エドナは淡々と言った。

その言葉に、デゼルは帽子を深くする。

意外と堪えたようだ。

ライラが全体を見て、

 

「ロゼさんが目覚めるまでここで休憩しましょうか。こちらの天族の方もまだ意識を戻しませんし。」

「そうしよう。」

 

それぞれ休憩に入る。

 

ミクリオは、スレイを見て、

 

「随分大所帯になったな。」

「うん。ロゼもデゼルも面白いヤツだ。」

「ロゼはともかく、デゼルがそれを聞いたら猛然と反論するだろうね。」

 

と、デゼル方を見て言う。

 

「あははは。想像できるな。」

「オレ、この遺跡探検で、改めて自分が気負ってたんだってわかった。サンキュ、ミクリオ。」

「僕は心配なんてしてないよ。……とはいえ、ロゼの怖がりぶりはちょっと心配だな。ツッコミの必要が増えそうで。」

 

ミクリオは笑いながらそう言った。

 

スレイは岩陰にいるエドナの所に行った。

エドナはスレイを見上げ、

 

「言っておくことがあるわ。」

「何?」

「あのロゼって子だけど、簡単に力が通り過ぎる。」

 

エドナは視線を寝ているロゼに向け、

 

「気絶している間に、勝手に神依≪カムイ≫を発現して、体を操れる程ね。」

「どういうこと?」

 

エドナはスレイに視線を戻し、

 

「天族の力に馴染みすぎているのよ。おそらくデゼルが長い間、いびつに干渉し続けた結果ね。彼はこれまで何度も意識のないロゼを操ってたんじゃないかしら。そうでないとあの力の通り方に説明がつかないわ。」

「……デゼルは復讐のために、ロゼを利用し続けてきたって事か……」

「そして彼の望む通り、ロゼが神依≪カムイ≫も発現させたわ。意識を奪えば自由に操る事ができる、理想の器に仕上がったって事よ。アイツも、そんな感じの事を言っていたし。覚えておく事ね。」

 

最後の方は、黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女のままのレイの方を睨んで言った。

それを小さな少女は簡単に受け流す。

 

「……わかった。」

「ホント、仲間と一緒にやっかい事も増えたようね。まぁ、頑張るのはアンタだけど。」

「え~。」

 

スレイは苦笑いする。

そしてスレイは気絶したロゼのとこに行く。

ライラは気絶したロゼの傍に居た。

スレイの視線に気付いたライラが、

 

「デゼルさんの事が気がかりですの?」

「うん。まあね。」

「デゼルが憑魔≪ひょうま≫を殺そうとするなら、なんとか止めたいから。」

 

と、ライラの隣に座る。

 

「いざとなれば私が主神としての権限で陪神≪ばいしん≫である彼を拘束しますわ。」

「そんなことができるんだ。」

「ですが、そうしなくて済むのが一番です。主神と陪神≪ばいしん≫とは言いますが、それ以前に仲間でありたいですからね。」

 

ライラは嬉しそうに、慈しむように言う。

 

「ライラ……」

「デゼルさんも、導師であるスレイさんと旅をすれば、復讐よりもやりたい事が見つかるかもしれません。彼も天族なんですもの。」

 

ライラはデゼルを見て言う。

それにスレイは頷く。

そしてライラは視線をロゼに戻し、笑う。

 

「ふふ、ロゼさんたら、いつの間にかスヤスヤと眠っちゃってますわ。」

 

スレイもそれを見て笑う。

そしてスレイは、岩に背を預けていたデゼルの方へ行く。

そして彼を見ていたスレイ。

その視線に気付いたデゼルは、

 

「……何か用か。」

「あ、うん。そう言われたら何もないけど…」

「けどなんだ。」

 

デゼルはぶっきらぼうに言う。

 

「オレさ、ロゼとデゼルってなんか好きなんだ。」

 

嬉しそうにスレイは言った。

そんなスレイの方を見て、

 

「はぁ?何を言ってる!」

「人と天族が一緒に旅してるのなんて、オレたちだけだと思ってたからさ。」

「……以前は珍しいものでもなかった。」

 

デゼルは思い出すかのように、語り出す。

 

「人はオレたちが見えなくても、声が聞こえなくてもそこに居る事を感じ、共に笑い、共に泣けた。」

「風の骨のみんなはそうじゃないのか?」

「そうだ!だからオレは……!」

 

と、怒る。

 

「デゼル……」

「……言っておく。邪魔だけは許さん。たとえお前が導師であったとしてもだ。」

 

デゼルは、スレイに背を向けて言った。

 

ロゼの近くに戻ると、エドナが黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女のままのレイを見て、

 

「で、アンタはいつまでそのままなのよ。」

 

小さな少女は、岩の上で全体を見ていた。

エドナを見下ろし、

 

「陪神≪ばいしん≫、お前はつくづく私に対し、怒りをぶつけるのだな。」

「ワタシ、アンタのこと、嫌いだから。」

「だろうな。大方、ドラゴンになった兄の事を根に持っているのだろう。」

「……!ホント、アンタのこと嫌いよ!」

 

エドナは傘を広げ、背を向ける。

 

「けど、どうしてまたレイの体に?」

「……この際だから言っとくが、これは私の器でもあるぞ。そのことを忘れるな。」

 

岩の上から降り、ミクリオの前でそう言った。

小さな少女は、スレイの方を見て、

 

「前回のことで、お前が導師として使えなくなるのではないかと思っていたが……案外、平気そうだな。」

「まるで、スレイがアンタの道具みたいな言い方ね。」

「実際、導師と言うのは道具だ。人間も、天族も、導師と言う器が欲しいのだ。今でこそないが、昔は国同士で導師の取り合いを行ったり、逆に導師を多く輩出しようとしてた事だってある。」

 

小さな少女は全体を見据え、

 

「導師と言う器は、強大な力を持ったいわば武器であり、象徴だ。その導師が多ければ多い程、国は天族からの恩恵を、力を、そして富を得られる。いつからか、時代はそう変化した。なにせ、導師一人で国を……いや、世界を手に入れる事は簡単だ。事実、今回ハイランドはお前を利用しただろう。ま、お前一人で国ひとつ落とすのは簡単だ。無論、今のお前では世界は無理だろうがな。」

「オレは、導師の力で国を、世界を手に入れようとは思わない。」

「お前がそうでも、お前の周りはそうではない。それは人も、天族も、だ。それこそ、お前が仲間だと、家族だと想うこいつらもだ。」

「みんなはそうじゃない!」

「そうだ!僕らはスレイにそんなことはさせないし、させようとも思わない。」

「ええ。もし、そうなるのであれば……私たちはスレイさを守りますわ。」

 

小さな少女は黙って、彼らを見る。

相変わらずの無表情だが、瞳は断然この中では強かった。

が、犬の天族の方を見ると、

 

「どうやら時間が来たようだな。導師、災禍の顕主には関わってもいいが、私の対とは関わるな。あれはもう、穢れている。」

「……!それはどういう――」

 

ライラが小さな少女に詰め寄ろうとしたが、風が小さな少女を包んだ。

弾けると、いつものレイが現れる。

 

「……お兄ちゃん……起き…た…みたい…」

 

そう言うと、

 

「う……む……」

 

かすかな声が聞こえて来た。

そちらの方を見ると、犬の天族が起き上がる。

 

「目が覚めたようだね。」

 

ミクリオが犬の天族を見下ろしていった。

犬の天族に理由を話すと、

 

「がっはっは、それは助かった。礼を言うぞ。導師殿、天族の同胞≪はらから≫よ。」

 

そしてレイの方を見ると、

 

「……まさか、あなた様まで力を貸してくれるとは思いませんでしたぞ、裁判者。」

 

その言葉を聞いたデゼルが、

 

「裁判者⁉こいつが⁉」

 

しかし、レイは犬の天族を見て、

 

「…違う…」

「へ?」

「…少なく…とも…私は……レイ…は…違う。」

「つまり、黒い方が裁判者か……。そうか、あれが……」

 

デゼルは考え込んでいた。

その後沈黙するレイ。

犬の天族は頷き、

 

「そうかそうか。わかったよ、お嬢さん。」

 

レイは頷く。

そしてスレイは、犬の天族を見て、

 

「スレイです。妹のレイに、ライラにエドナ、デゼルにミクリオ、あっちで寝てるのが……」

 

と、横から順に紹介していく。

ロゼを紹介しようとしたら、当の本人が起き上がり、

 

「わんこがしゃべってる!」

 

犬の天族を見て言う。

 

「ロゼ、目が覚めたんだ。」

「うん。」

 

犬の天族は、スレイ達を見上げ、

 

「ワシはオイシだ。こう見えても歴とした天族だぞ。」

「へぇ~。まさに天族の神秘ってかんじ。」

 

ロゼは感心して言う。

 

「がっはっは!よろしくの。」

「よろしく!あたしはロゼ。」

「もう慣れたみたい。」

 

スレイは小さくライラに言う。

ライラは笑顔で、

 

「さあ、戻りましょうか。ロゼさんも目覚めた事ですし。」

 

そう言うと、ロゼは悲しそうな顔になる。

ミクリオはそれを見て、

 

「……そういう訳でもないようだ。」

「怖い?叫ぶ?パンチ?」

 

エドナはロゼを見上げて言う。

 

「遊んでるんじゃない。戻るんだろうが。」

 

デゼルはそんなエドナを見て言う。

 

「……ん。」

 

スレイも俯き、考え込む。

そんなところに、

 

「ちょい待ち!まだ何も見つけてない。んで、この遺跡にはまだ先がある。」

「つまり、やることはひとつ。」

「そう。」

 

そしてスレイとロゼは声を合わせて、

 

「「進もう。」」

「確かに遺跡探検はまだ終わってないからな。」

 

ミクリオの言葉にデゼルは鼻で笑い、エドナはつまらなそうに、

 

「まだバカンスは終わらないようね。ね、おチビちゃん。」

「……そう…みたい…だね…」

「では、奥に進みましょう。さあ、スレイさん。」

 

ライラがスレイを見て、スレイは頷く。

 

「ありがとう、みんな。じゃあオイシさん。オレたちもうちょっと遺跡、調べます。」

 

犬の天族オイシは笑いながら、

 

「がっはっは!面白い導師一行だの。気を付けてな。」

「じゃあね!わんこ天族さん。」

 

と、彼らは歩き出す。

 

スレイは遠くを見ながら、

 

「どうなったんだろな?戦争の結果。」

「さあねえ。ローランス軍が崩れたのまでは確認したけど。」

「直後にハイランドも将を失い撤退した。勝敗は引き分けといったところだな。」

 

ロゼとデゼルが、スレイに言う。

するとロゼは、

 

「あんたもあそこにいたんだ?」

「……戦場を見るのが趣味でな。」

「ふうん。」

 

デゼルは帽子深くし、ロゼから顔をそむける。

 

「オレがやったことが、そのまま結果に結びついたわけか。」

「ライラが言った通りだな。」

「アリーシャとルーカスは大丈夫かな。」

 

スレイは腕を組んで悩む。

 

「ルーカスは平気だろう。アリーシャのことは……ハイランドを信じるしかないね。」

「だよな……。」

 

スレイはさらに落ち込む。

そんなミクリオは明るく、

 

「とにかく!僕らにできるだけのことはやったさ。」

「だよな!」

 

そこでロゼは思い出したように、

 

「そういえば別れたんだ?アリーシャ姫と。」

「うん。マーリンドで。」

「アリーシャにはアリーシャの夢があるからね。」

「もしかして、あたしって後釜?」

 

少し拗ねたように言うロゼに、

 

「「そんなつもりはないよ!」」

 

二人は声を揃えて言った。

と、ロゼは笑いながら、

 

「あはは!変な聞き方してごめん。気にしなくていいよ。一緒に行くって自分で決めたんだからさ。逆にお姫様役を求められても困る。」

 

少し悪顔のようないたずら顔で言うロゼに、

 

「「それはわかってる。」」

 

即答だった。

二人は声を揃えて言った。

ロゼはそれに少し落ち込みながら、

 

「わかってるのはいいけど……即答は失礼じゃない⁉」

 

ロゼは叫ぶ。

それを二人は苦笑いし、デゼルは背を向けた。

 

前を歩いていたミクリオは立ち止まる。

石像などを見て、

 

「ドラゴン……八天竜の石像か?」

「いや、数があわない。ドラゴン信仰の建物なのは間違いないと思うけど。」

「時代を考えると、八天竜伝承の原型になった信仰かもしれないな。」

「神頼み~はわかるとしてもさ、なんでそれがドラゴンなんだろ。」

 

と、三人は悩む。

そこに傘を開き、背を向けていたエドナが、

 

「どうにもできない力をもった存在。恐怖の象徴だからでしょ。荒神として祀れば助かると思ったんじゃない?」

「「あ……」」

 

スレイとミクリオは互いに見合った。

 

「あちこち回ったけど、足跡も見たことないけどね。あ。レイフォルクの側で聞いた雷の音はドラゴンっぽかったかも。」

 

と、ロゼは思い出す。

スレイとミクリオは互いに俯いた。

 

「本物よ、それ。」

 

エドナは淡々と言った。

 

「またまたあ!」

 

と、笑うロゼの服をレイは引っ張る。

ロゼが見下ろすと、レイは首を振った。

 

「行ってみればわかるわ。命はなくなるだろうけど。」

「え……」

 

ロゼはスレイとミクリオの方を見る。

 

「オレたち、レイフォルクでドラゴンに会ったんだ。」

「そのドラゴンはエドナのお兄さんで……」

 

と、スレイ達は思い出し、悲しそうに言った。

だが、ロゼは不思議そうに、

 

「は?エドナは天族でしょ?」

 

これまで黙って聞いていたデゼルが、

 

「不思議はない。ドラゴンは穢れきった天族が実体化した化け物だからな。」

「……」

 

ロゼは黙り込んでしまった。

そのロゼに、

 

「別に謝らなくてもいいわよ。ドラゴンを拝むのがバカみたいっていうのは同意だから。」

 

そう言って、エドナは歩いて行く。

 

しばらく遺跡の中を見て回り、

 

「ロゼも遺跡に興味出てきたんだな!」

 

スレイは嬉しそうに言うが、

 

「そういうのはスレイに任せる!さっき色々いじったけど、もうさっぱりだもん。ここに入ってきた時みたいに、スレイの好きに踏んだり押したりしてみたら?また罠があるかもだけど、そん時はドンマイで。」

 

それを聞いたスレイは、

 

「レイ、何があるかわからないから……いや、起こるかわからないから、手を繋いで行くか。」

 

と、スレイは手を出すが、

 

「…じゃあ…ミク兄…と…いい?」

「僕は構わないさ。」

 

と、手を繋いで歩き出す。

 

「振られたな。」

「振られたわね。」

「振られちゃいましたね。」

「振られちゃったね、スレイ。」

 

と、デゼル、エドナ、ライラ、ロゼの順番で言った。

スレイは、拳を握りしめ、

 

「あーもう、みんなそっとしておいて!」

 

と、叫んだ。

 

スレイは憑魔≪ひょうま≫との戦闘でのロゼの姿を見て、

 

「ロゼは最初から見えてたら、天族も憑魔≪ひょうま≫も怖がらないんだな。」

「そりゃあそうでしょ。最初から見えるって事は居るって事だよね?見なかったのが見えるって事は、居ないって思ってたのに、ホントは居るって事。まじこわくない?」

 

ロゼの説明に、スレイはロゼから視線を反らしながら、

 

「わかるようなわからないような……ミクリオたち、苦労しそう……」

 

と、呟く。

 

 

大体遺跡の中心に着た時、ロゼが床に落ちている光る石を見つけた。

 

「あ!なんか発見!」

 

スレイもそれを見て、

 

「あれは……!」

 

スレイはその石、瞳石≪どうせき≫を拾う。

瞳石≪どうせき≫は光り出す。

 

ーーそこは戦場だった。

服装の違う兵士達が戦っている。

武器がぶつかり合う金属音、人々の悲しみ、怒り、恐怖の入り混じった声が響く。

それを高い場所から見下ろす穢れの塊がある。

その塊は獅子の顔を持った男。

そしてその隣には、髪を左右に結い上げた少女が立っていた。

その戦場を見下ろし、獅子の顔の男・ヘルダルフは大きく笑みを浮かべる。

すると、戦場に居た兵士は次々と憑魔≪ひょうま≫と化していく。

それはどんどん広がり、敵味方関係なしに殺し合う。

憑魔≪ひょうま≫と化した兵士はどんどん我を忘れ、憑魔≪ひょうま≫と同化していく。

 

戦場は村を包み、街を包む。

辺りはもう、瓦礫の山に、死体に、火の海だ。

兵士が武器を持たない人を、関係のない村を街を破壊し、殺していく。

それは新たな憑魔≪ひょうま≫を生み出す。

そして無残に、無念に死んでいく村人の怨念が新たな憑魔≪ひょうま≫を生み出し、兵を薙ぎ払う。

 

また一つ、また一つと穢れが広がっていく。

この連鎖は終わらない。

 

瞳石≪どうせき≫の過去の記憶を見たロゼは、

 

「……なんなのこれ……あの化け物は……」

「大地の記憶。過去の出来事が記録されているんだ。」

 

スレイは静かにロゼに言う。

ミクリオは疑問にしながら言う。

 

「……各国での戦争の様子なのか?」

「それをあいつが……ヘルダルフが利用して、穢れの坩堝を生み出しているって事か……」

「憑魔≪ひょうま≫同士を争わせて、より力をもった憑魔≪ひょうま≫を生み出そうとしてるんだわ。」

「反吐が出る……」

 

エドナとデゼルは呆れたように言う。

ライラは静かに、

 

「かの者の心は深い闇の底かもしれません……」

「これが災禍の顕主……」

 

彼らは深刻そうな顔つきになる。

レイはそれを黙って見上げ、聞いていた。

 

 

遺跡の最奥に到着したスレイ達。

ロゼが辺りを見渡し、

 

「ここが一番奥?」

「そうらしい。」

 

ミクリオがそう言うと、ロゼは怖がった。

そんな彼女を見て、

 

「ホントにいつか慣れるのか……?」

 

レイは部屋の奥の壁を見つめる。

そしてライラが壁に描かれている壁画を見て、

 

「これは導師となる者の試練を描いた壁画のようですわ。こんなところにこんなものがあるなんて……」

「これが導師の試練を……」

 

それは大きな広い壁に書かれた大陸の地図。

ロゼはそれを指差しながら、

 

「このシミみたいなのがグリンウッド大陸を示してんの?んで、この印ついてるところに導師は行かなきゃってわけ?」

「ライラ、そういう事?」

 

と、スレイはライラの方を見る。

ライラはハッとした顔になり、目を見開いて、

 

「今日の晩ご飯はマーボーカレーですわ!」

 

と、叫んだ。

それを後ろでエドナが呆れる。

スレイも察した。

肩を落とし、

 

「気にしないで……ライラは自分にかけた誓約で、話せない事があると時々こうなるんだ。」

「ダイエットみたいなもん?」

 

ロゼの言葉に、ライラは笑う。

ミクリオはその地図を見て、

 

「印の場所は4つか。」

「レイクピロー高地の北部にひとつ、大陸中央南端にふたつ……」

「最後のはウェストロンホルドの裂け谷方面ね。」

 

デゼルとエドナも、その印のなる大陸の名を言う。

 

「試練っていうぐらいだからクリアしたら何かいいことありそう。超便利道具が手に入るとかパワーアップするとか。」

 

ロゼは楽しそうに言う。

スレイはそれを聞き、

 

「それだ!もしかしたら強い領域にも負けない力が手に入るかも!」

「……ヘルダルフに対する光明が少し見えたかな。」

 

ミクリオも納得する。

ロゼは頷きながら、

 

「ふんふん。全然わからん。領域?ヘルダルフ?」

「あ、えっと。」

 

どう説明しようかと、スレイが説明しようとすると、

 

「いい。ご飯食べる時にでも話して。収穫あったってことでしょ?」

「ああ。ここの探検は終了かな。」

「そ。じゃあ戻ろ。退屈しのぎに退屈するとは思わなかったぜ。」

「まったくだわ。」

「まったくだ。」

 

ロゼの言葉に、エドナとデゼルが即答で納得した。

ライラは俯きながら、

 

「ノーコメント。」

「はは……」

 

スレイは軽く笑う。

スレイはロゼを見て、

 

「えっと……そんなに退屈だった?」

「ううん、面白かったよ。ライラの変なリアクション!」

 

スレイは肩を落とす。

それを見ていたレイは小さく、

 

「「試練は思っている程簡単ではないがな。」」

 

そう呟いて、壁画を見る。

 

帰り際、スレイはミクリオに、

 

「あの壁画の模様、似てないか?ペンドラゴの神殿ってのの模様に。」

「天遺見聞録に載ってるのとは確かに似てるな。」

「どっちかが模倣なんじゃないかな。」

「ふむ……ということは、ここは『アスガード隆盛期』の遺跡ということか。ペンドラゴの神殿がそうだからな。」

 

スレイは悩み込む。

この二人の会話を聞いていたロゼは、ミクリオと手を繋いでいるレイに、

 

「ね、レイ。」

「……何?」

「話し付いていけてる?私は無理なんだけど。」

「…いけ…てる…これは…基礎…固め…」

「ウソ⁉」

「ウソ…だから…」

「え⁉」

「じゃ…ない…かも…しれ…ない。」

「どっち⁉」

「調べて…みたら?」

 

ロゼは頭を抱える。

と、悩んでいたスレイが、

 

「うーん。ペンドラゴの神殿も見てみたいなぁ。」

 

と、言う。

それを聞いたロゼは厳しい表情になり、

 

「それはちょっとむずいよ。」

「え、なんで?」

「ペンドラゴはローランス帝国の首都、神殿は教会の総本部。今や教会関係者、しかもトップ連中しか入れないって事。」

 

しかしスレイは諦めるどころか、嬉しそうに、

 

「そっか~。」

「全然諦めてないな……」

 

ミクリオは呆れたように言う。

 

 

犬の天族オイシは戻って来たスレイ達を見て、

 

「戻ったか。その顔は収穫あったのか?」

「うん。けど……」

 

エドナが淡々と説明する。

 

「大地の記憶とか、導師の試練とか……なんだか色々あって面倒になってきてる。」

「ふぅむ……」

「どれから行こうか……」

 

悩むスレイに、

 

「ちゃんと考えろ。世界を巡る事になる。動きやすくするべきだろう。」

 

デゼルの言葉を聞いたロゼは、

 

「ん……じゃあペンドラゴはどう?スレイはきっとローランスのエライさんに目、付けられてるだろうからさ。イヤイヤ戦争に参加させられたって、ちゃんと話しといた方がいいかも。」

「なるほど……その方がローランス帝国内では活動しやすそうですわ。」

「人間ならではのアプローチだな。」

 

ロゼの言葉に、ライラとミクリオは納得した。

デゼルもそうであるかのように、鼻で笑う。

と、犬の天族オイシが、

 

「考えはまとまったようじゃの。」

「うん。オイシさんはここに残りますか?」

「そうじゃな。愛着もあるからの。ただ、このままでいられないのも事実。」

「何かまずいの?」

 

ロゼは首をかしげる。

スレイはロゼを見ながら、

 

「天族を祀ってくれる人が必要なんだ。神殿や教会みたいに。」

「でないとまた穢れと結びついて憑魔≪ひょうま≫になる危険がある。」

 

ミクリオの言葉に、

 

「……んじゃ、誰か探して連れてくる。それでいい?」

「いいのか?アジトなんじゃ……」

「いいから任せとけって、ね?」

 

ロゼは自信満々に言う。

 

「かたじけない。導師殿のおかげでしばらくは大丈夫。折を見て連れてきてくれい。たっぷり加護を与えてやるぞい。」

 

と、尻尾を振りながら、犬の天族オイシは言う。

ロゼは笑う。

スレイは犬の天族オイシを見て、

 

「じゃあオイシさん、また!」

「がっはっは!またの!」

 

スレイ達は歩き出していく。

レイは犬の天族オイシの前にしゃがみ、

 

「……これは…おまけ。」

 

そう言って抱き付く。

風が一人と一匹を優しく包む。

 

「これで…だいぶ…楽に…なる。」

「がっはっは!お嬢さんも、優しいな。」

「…優し…い?」

「ああ。優しい子じゃよ。ほら、お嬢さんもはよう行かんと。」

「……ん。またね。」

 

レイも立ち上がり、スレイ達の元に駆けて行く。

それを見た犬の天族オイシは嬉しそうに、

 

「がっはっは!ホント、あの頃とあまり変わりませんな~。」

 

犬の天族オイシは彼らが見えなくなるまで、彼らの歩いて行った方を見続けた。

 

 

スレイは歩きながら、

 

「オイシさんのことはいいの?」

「別にいいって。なんなら新しいアジトに招待するよ。最初から見えてれば怖くないしね。」

 

と、ルンルンで歩いて行く。

スレイはそれを苦笑いで見るのであった。

 

最初の入り口まで戻ると、

 

「さって。じゃあ出発は明日ね!」

「今から行こうって思ってたんだけど……」

「着の身着のままはさすがにノーサンキュ!アタシとレイは女の子、おーけー?」

 

と、レイを見下ろす。

 

「……?……ん?」

 

レイはロゼを見た後、スレイやミクリオを見上げる。

 

「あ……」

 

と、スレイはなんとなく理解する。

ロゼは一転、真剣な表情で、

 

「スレイ。」

「ん?」

「今までもずっとあんな……憑魔≪ひょうま≫?と戦ってたんだ。普通の人には見えない化け物と。」

「うん。」

「……これからも?」

「ああ。さっき話に出たヘルダルフってのが災禍の顕主って言って……」

 

と、スレイが腕を組んで話し始めたが、

 

「待った!長い話はご飯食べながら、ね!」

 

そう言って歩いて行った。

 

 

翌朝、レイは空を見上げていた。

大きな木の隙間から暖かい日の光が自分にあたる。

スレイもまた、気持ちのいい風を感じながら、

 

「行こう!」

 

スレイ達は旅発つ。


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