テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第七十一話 新たな幕開け

スレイ達は世界を見て回るために旅をしていた。

新しい仲間とも、すぐに打ち解けていた。

 

「アメッカ!そっち行ったよ!」

「任せてくれ、ウィク!たあぁぁ!」

 

ウィクが敵を誘導し、アメッカが仕留めにかかる。

そして、アメッカは後ろを見る。

 

「スレイ!ゼロ様!」

「任せて!ライラ!」

「はい、スレイさん!」

 

スレイとライラは神依(カムイ)をする。

敵を浄化の炎で焼きはらい、審判者ゼロがスレイの横から出て、

 

「逃がさないよ!」

 

短剣を数本投げる。

ザビーダやエドナ、もちろんミクリオも動いている。

ビエンフーはウィクを手伝い、ライフィセットはサポートに回る。

それを少し離れたところで見ているレイとグリモワール。

二人は岩に腰を下ろして見ていた。

 

「大分、連携もサマになってきたね。」

「そうね……。ところで、あなたは戦わないのかしら?」

「んー、私は戦ってもいいんだけど、お兄ちゃん達がダメって言うんだ。」

 

と、言いながら背後に迫ってきた憑魔を影で捕らえ、喰らい出す。

それを見たグリモワールはため息をつき、

 

「はぁー……とか言いつつ、笑顔で憑魔を喰らうなんて前よりタチが悪いわよ。」

「じゃあ、何ならいいのさ。」

 

と、目を細めて冷たく笑う。

その目は、あの裁判者と同じ。

グリモワールはまたため息をつき、

 

「はぁー……やっぱりそのままの方がいいわね。」

「でしょ?」

 

と、向こうでは憑魔を倒し終えたスレイ達の姿。

レイは立ち上がり、

 

「じゃ、私も少し働くか!」

 

レイは岩の上で歌を歌い出す。

 

スレイは辺りを見て、

 

「よし!浄化するか。」

「ん?歌?」

「本当だ。なんて綺麗な歌……」

 

スレイが浄化しようとしたところにレイの歌が聞こえてくる。

ミクリオが首を傾げたウィクとアメッカを見て、

 

「そっか、知らなかったね。レイの歌には浄化の力があるんだ。」

「そ、そうなんですか⁉︎」

 

風が歌声に反応するかのように、辺りを包み込む。

レイの歌が終わり、

 

「お疲れさま、レイ。」

「ゼロ、君のサポートがもう少し早ければ、お兄ちゃん達が焦ることなかったのにね。」

「うっ!」

 

審判者ゼロは渋い顔になる。

アメッカが、ゼロをフォローするように、

 

「で、ですがレイ様!ゼロ様がいなければ取り逃がしていました。」

 

と、言うアメッカに、レイはジッと見て、

 

「その、様はいらない。ゼロはともかく、私はアリーシャとロゼの想いを継いだ君たちとは仲間だと思ってる。そんな君たちに、そう言われると距離を感じるからヤダ。」

「で、でも……」

「ま、慣れろってことだよ、アメッカ!ね、レイ。」

「ん。そういうこと。」

 

ウィクは、アメッカの肩を叩く。

そこに、ライラは涙をホロリとさせ、エドナは淡々と、

 

「レイさん、本当に成長しましたわ……」

「そうね。……にしても、あのおチビちゃんにサラッと言わせるなんて、反省しなさい。」

 

アメッカは緊張した面持ちで、

 

「も、申し訳ありません、エドナ様!」

「罰として、ノルミンダンスを踊りなさい。」

「ノルミンダンス?」

「わからないの?反省しなさい。」

「申し訳ありません、エドナ様!」

「罰として、ノルミンダンスを踊りなさい。」

 

と、前に見たことのある光景になってきた。

それを見たミクリオが、

 

「あまりアメッカを虐めるなよ、エドナ。」

「何かしら、ミボ。と言うより、ミボのくせに生意気ね。」

「……なんか見たことあるような光景だなぁ〜♪」

 

と、喜ぶレイに、

 

「いい、おチビちゃん。ミボは甘やかすと、ダメになるのよ。」

「へえー、そうなんだ。」

「待て!レイに変な事を教えるな!」

 

ミクリオはレイを持ち上げ、エドナから離す。

エドナはイラっとして、

 

「うるさいわよ、ミボのくせに!罰としてノルミンダンスを踊りなさい。」

「まだ続くのか⁉︎」

 

と、ミクリオが眉を寄せる。

レイはアメッカを見て、

 

「慣れるしかないよ、アメッカ。」

「は、はい。レイ様……」

「様はいらない。」

 

と、レイは頰を膨らませる。

アメッカの憂鬱はまだまだ続く。

 

彼らは旅を続ける。

その道中、アメッカとウィクは従士となって、世界を見る。

二人は神依(カムイ)も、できるようになった。

スレイ達が、かつて訪れたローランスの帝都ペンドラゴ、ハイランドの水の都レディーレイク……

勿論、マーリンドや遺跡、色んな場所にも向かっている。

無論、かつて会っている天族の者たちにも会っている。

それに加え、導師の試練で会った護法天族達にも再び出会えた。

そして、スレイ、ミクリオ、レイの故郷でもあるイズチにも訪れた。

懐かしい故郷、仲間、家族。

彼らに、伝える新しい仲間の話。

昔の思い出。

話す事はたくさんあった。

 

積もる話もあったが、スレイ達は始まりの村カムランへと来ていた。

昔と違い、浄化された大地、緑を取り戻した木々たち。

それはかつて見たカムランの姿。

聖主マオテラスの覚悟の場所。

スレイとミクリオのもう一つの故郷。

ジイジとの別れ。

災禍の頸主との戦いの地。

裁判者レイと審判者ゼロの生まれた場所にして護るべき土地。

沢山の想いが流れ出る。

 

レイは審判者ゼロを見て、

 

「不思議だなぁ〜、これが懐かしいか……」

「そうだね。俺も、君も、変わったね……」

「ま、そのきっかけは沢山あった。けれど、その一つ一つはあまりにも小さく大きい。私も、あなたも、流れる時は違い過ぎた。けれど、とても大切な道標だった……」

「ああ……」

 

彼らはこの地を護る。

けれど、いつかまたここに命が芽吹くのを待つ。

かの導師が夢描き、望んだあの村を。

それとは違う、けれど同じ想いを抱く彼と共に……

レイと審判者ゼロは村を探索していたスレイ達と合流した。

彼らとの新たな旅を見届けるために。

 

そんな旅が何年続いただろう。

ミクリオはスレイをジッと見ていた。

 

「えっと……なに、ミクリオ?」

「いや、スレイの背も伸びたなって。」

「そうね。ミボを越したわね。短い優越感だったわね。」

 

隣で、エドナが傘をクルクル回しながら言う。

ミクリオは少しムッとした後、

 

「それはともかく。髪も少し伸びて……昔、未来から来たスレイに似てきたと思ったんだ。」

「そう言えばあったな。未来から来たスレイ。」

「確かに言われてみれば……似てきました。」

 

ザビーダとライラも、スレイをマジマジ見出す。

スレイは肩ぐらいに手を挙げて、

 

「な、なんの話?未来のオレ?」

「そうね、スレイは知らないわね。一度、未来のアンタが過去にやって来たのよ。それが丁度、今のアンタくらいだったのよ。」

「へぇー、そうなんだ。」

 

エドナの説明に、スレイは驚いていた。

そして、アメッカとウィクもスレイを見て、

 

「ス、スレイは過去にも行けるのか!」

「導師ってなんでもできんだねー。」

「違うでフよ、ウィク姐さん。」

「そうね、そんなの導師でも無理よ。大方、そこの二人でしょ。」

 

と、ビエンフーとグリモワールがレイと審判者ゼロを見る。

そこには、ライフィセットも彼らを見ていた。

 

「あ!ゼロ、見て見て〜!ノルミンの形の雲がある〜。」

「わぁ〜、ホントだ〜♪」

 

当の本人達は、視線をそらして二人して空を見上げ話している。

あきら様の話のそらしだ。

エドナは半顔で、

 

「……なんとも言えない、そらし方ね。」

「まぁ、あれは禁忌の扉を使ったと言ってましたから。」

「しっかし、この姿になってきたつーことはよ……このスレイが過去に行くのか?」

 

ライラが苦笑する隣で、ザビーダが考えながら言う。

ミクリオも、腕を組んで悩みこむ。

 

「確かに……条件は揃っているな。」

「あ、それはないよ。」「それは、ないね。」

 

だが、レイと審判者ゼロがそれを否定する。

ミクリオは眉を寄せ、

 

「どういう意味だ?」

「あのね、ミク兄。本来、過去を変えるという行為は、未来を変えるという行為なの。」

 

レイはミクリオを、いや彼らを見上げた。

そして審判者ゼロも、

 

「本来、未来というのは枝分かれで色々と決まっている。けど、ある特定の事をすると決まってくる。その一つが、俺らが関わること。強いて言うなら、願いを叶える行為自体がそうなる。」

「でね、その決まっているかもしれない未来を変えるということは、その未来を起こらないようにする事が、前にあったあの干渉なの。」

「スレイは知らないんだけど、未来から来たあのスレイの軸では審判者()レイ(裁判者)にも、干渉を及ぼす程の強い穢れがあったんだ。あれは災禍の顕主並みだったね。いや、それ以上だったかもしれない。その穢れを内側と外側からレイ(裁判者)が留める事で、未来と過去の両方を保った。けど、本来ならそれは未来だけの話。ことは、過去にまで影響を出し始めた。だから、未来の審判者と裁判者(俺ら)は、未来のスレイと聖主マオテラスの力を借りたんだ。で、過去の裁判者の仮面を使う事で、未来のスレイを穢れの塊となっていたレイの領域から守って、時間を稼いでもらった訳。」

「私たち、裁判者や審判者は過去・現在・未来で意識を共有する事がたまにあるの。それを、私たちは『記憶の共有』って言ってるんだけどね。それを通して、未来の出来事を知り、未来に過去の現状を教えた。それを踏まえた上で、未来の裁判者と審判者(私たち)はお兄ちゃんと聖主マオテラスを過去に送り出した。未来の裁判者が、こちらに来る為の時間稼ぎに。そしてお兄ちゃんは、その未来が来ないかもしれないと解った上で過去に行った。アリーシャやロゼ達が、必ず未来に繋げると信じてね。だから、あの未来のお兄ちゃん達が体験した災禍の顕主並みの穢れは、この時代には起きない。けど、それに近いものは現れる可能性はある。だから、禁忌の扉なの。起こりうる未来の可能性を潰す訳だからね。それは過去においても同じ。本来あるべき過去の形を変えることになる。ある者は早く、ある者は遅く、その生を終えたり、伸びたり。色々と厄介な事になるんだ。それが、時代に干渉するって事にはなるけどね。」

「と、言うことさ。良かったね、ミクリオ。あの時の疑問がわかって。」

 

二人の説明に、一同静かになっていた。

エドナが思い出したように、

 

「そうね、またあのドラゴン化したおチビちゃんを相手にしろって言われたら、たまったものじゃないわ。」

「だよなぁ〜、ヘルの野郎が赤ちゃんだと思えるくらいだったもんな〜。」

 

ザビーダも思い出した。

ライラとミクリオも頷いている。

スレイはレイを見て、

 

「レ、レイはドラゴンにもなるのか……」

「なるよ。あ、安心して(・・・・)、審判者はなれないから。」

「そ、そう……」

 

スレイは苦笑した。

だが、腕を組んで、

 

「でも、ゼロたちに干渉するだけの力を持ったそいつは、結局何だったんだ?」

「それが、俺らはよくは分からないんだよね〜。記憶の共有でも、情報がこなかった。」

「そっか。」

 

と、ゼロが腕を組んで唸っているのを、スレイは苦笑する。

レイがアメッカとウィクを見た。

彼らは驚いた顔で、自分を見ていた。

 

「えっと……言っとくけど、姿は子供だよ。けど、君たちよりも長生きしてるからね。」

「あ、ああ……そ、そうなんだが……」「そうなんだけどね……」

 

二人は互いに見合って苦笑いする。

エドナは半眼で、ライラは苦笑して、

 

「あっちの姿になれば、理解しやすかったりして。」

「そうかもしれませんね。でも、されたらされたで……」

「とっても嫌な気分になるのは確定ね。」

 

と、二人は三人を見ていた。

が、アメッカが何かを思い至ったかのように、

 

「も、もしかしなくても、心を読んだのか?」

「読まなくても、表情見ればわかる。」

「ねぇ、レイ。その能力を使って一儲けしない?」

「……しない。ウィクが考えているようなことはできないよ。」

「だよね〜……」

「と言うより、もうあまりしたくない。人は知りたくない事を知った時、物凄いからね。時には、知りすぎるのも良くない。」

 

レイは腰に手を当てて、頷く。

グリモワールが意外そうな顔をして、

 

「あら、随分と大人しく(・・・・)なったじゃないの。」

「……言っとくけど、知りたがったのも、君たちだからね。私たちは、見たモノをそのまま口にしただけ。」

「でも、結局はあなた達がどんどん言っちゃうからでしょ。」

「それも、君たちが望もうと望まないと思っても、来てしまう未来の一つ。変えようと思えば変えたものを、変えなかったのは結局君たちなの。」

 

二人は目と目で互いに睨み合いながら言う。

スレイは頰をかき、苦笑しながら、

 

「はは、なんか二人は仲がいいのか、悪いのかわからないな。けど、レイにしては珍しいよな。グリモワールとは、結構な仲?」

 

レイは腕を組んで、グリモワールを見た後、

 

「グリモワールとは、本当の昔にある人物を通して知り合ったんだ。ま、その後は私の友人の世話をして貰った恩義が少しあるくらい。」

「レイの友人?」

 

スレイは首を傾げて、ミクリオを見る。

ミクリオも解らないようで、首を傾げる。

 

「あ!もしかして先代導師のミケルさん?」

「ああ、彼とは仲が良かったみたいだからね。」

 

と、二人は見合うが、

 

「違うよ。彼は私と言うより……」

 

レイはジッと審判者ゼロを見つめる。

目を細めて、

 

「彼は、裁判者()の友ではなく、審判者(ゼロ)の友。私はどちらかというと、少し興味を持っただけ……のような存在かな。かつてのとある筆頭対魔士(導師)を思い出したからかな。ま、彼のような想いを持った導師達を何人も見てきた。その導師達の想いである願いを少しだけ叶えようと奮闘した彼だからこそ……私たちは惹かれたのかもしれない。」

 

そしてレイは少し遠い目をして、

 

「……それとね、言い方を変える。さっきの友の件だけど……正確には、裁判者(・・・)の友だよ。」

「裁判者の友達⁉︎」

「あの人に友達いたんだ。」

 

ミクリオとスレイは驚いたように、声が裏返った。

そう、改めて思うと凄い驚く事である。

エドナは半顔で、

 

「あの裁判者と友人になろうだなんて、物好きもいた者ね。」

 

レイは少し沈黙した後、

 

「…………えっと、強いて言うならエドナの兄さんでもあるアイゼンとも縁がある人だよ。」

「は?お兄ちゃんと?……どんな奴なの?」

 

エドナの目つきが変わった。

レイは顎に指を当てて、視線を上に上がる。

 

「魔女。」

「は?もっと詳しくーー」

「そんなに知りたければ、兄を知る者に聞いてみれば良いだろう。幸い、ここには沢山いるぞ。」

 

レイから笑みが消え、レイの姿で目を細めた裁判者が言う。

そしてクルッと回ると、グリモワールを見下ろす。

 

「……そうだろ、グリモワール。」

「そうね……」

 

二人は睨み合う。

スレイは「んー」と唸った後、

 

「た、頼むからレイの姿で争わないでくれ。」

「……全く。」

 

レイは風に包まれ、審判者ゼロと同じくらいの少女の姿えと変わる。

服も、白から黒へと変わる。

だが、顔には仮面を付けていた。

 

「これで、いいのか。」

「あ……ありがとう。」

 

スレイは驚いた。

それは素直に変わったからだ。

エドナが睨み、

 

「で、結局その姿にまでなったんだから早く要件をいいなさい。」

「お前たちが、扉についての話をしていたからな。本来なら、扉の話はしないんだ。それを、わざわざ話しているのだから察しろ。」

「相・変・わ・ら・ず、ムカつく奴ね。」

「私としては面と向かって文句を言ったり、怒りをまともにぶつけてくるのは、お前とお前の兄くらいだ。」

 

二人は睨み合う。

と、ビエンフーが口を開けて固まっているウィクとアメッカに気づいた。

二人を見上げ、

 

「どうしたでフか、ウィク姐さん、アメッカ様。」

 

二人はハッとして、

 

「いや、だって……レイが……」

「あの小さかったレイが……一気にこんなに……」

 

レイの姿が変わった事に驚きを隠せないようだ。

ライラから簡単な説明を聞き、さらに驚きを隠せないでいる。

裁判者はそれをスルーして、

 

「ライフィセット。」

「な、なに、裁判者さん?」

 

ライフィセットは意外にも、名前で呼ばれたことに驚きを隠せない。

いくら以前、自分からお願いしてあったとはいえ、レイの方はともかく、今の裁判者からは想像がつかない。

それに、昔と違って彼女についてはよく知っているつもりでもある。

だから少し戸惑い出す。

裁判者は彼のそれを知ったうえで、淡々と言う。

 

「お前の加護はいつまで続けるつもりだ。」

 

ライフィセットは真剣な表情に戻り、

 

「僕が、僕である限り続ける。心を溢れさせてしまった人が、やり直せる明日を。どこまでも飛ぼうとする人たちが、翼を休められる時を。強くて弱い人間が、怖くて優しい人間たちが、いつか空の彼方に辿り着けるように。」

「…………」

「何より、約束したから。僕は、彼女分までこの世界で生きて生きて、やる事全部終わったら死ねるように。だから僕は、生きるんだ。」

「そうか……」

 

裁判者はまっすぐ見つめる彼の瞳を見る。

強く硬い意志、揺るがない想い。

裁判者は小さく笑い、空を見上げる。

そこには空高く飛ぶ鳥の姿。

裁判者は笑みを消して、スレイ達を見る。

 

「なぜ鳥は空を飛ぶと思う?」

 

ライフィセットはその問いを聞き、瞳を揺らしてスレイを見る。

 

「え?うーんと……」

 

と、振られたスレイは腕を組んで悩み出す。

それを聞いたアメッカ達は、

 

「鳥は飛ぶ生き物だから飛ぶのでは?」「羽があるから飛ぶんじゃない?」

 

二人は互いに見合って言う。

ライラが苦笑して、

 

「飛べない鳥も、翼があっても飛べない鳥もいますよ。」

「ペンギョンとか、か……」

 

ザビーダが、思い出す。

エドナが半顔で、

 

「別に、どうでもいいじゃない。空がすきなんでしょ。海だって同じもんよ。」

「だが、飛べない鳥は生きていけない。元々飛べない鳥は飛べなくとも生きる術を持つが、飛べる鳥が飛べなくなると生きる術を失う。そう思うと、生きるために飛んでいるんじゃないのか。」

 

ミクリオが顎に指を当てて言う。

その真剣な答えに、エドナはうんざりした顔で、

 

「馬鹿マジメね。とても、夢見のない理論。これだからミボは……」

「な⁉僕は、僕の想う事を言ったまでだ!」

 

と、ミクリオがエドナに眉を寄せていた。

裁判者はまだ考えているスレイを見て、

 

「導師、お前はどう思う。」

 

スレイはスッと顔を上げ、空飛ぶ鳥を見る。

そして頷くと、

 

「飛びたいから空を飛ぶ、んじゃないかな。理由なんてないと思う。きっと、翼が折れて、ミクリオの言うように生きる術を失くしたとしても、きっと空を飛ぶ。それを夢見るんじゃないかな。だって、エドナの言うように、空が好きだから、とか飛ぶのが好きだから、とかそう言った事もあるかもしれない。けど、鳥は誰かに命じられて飛んでない。自由に空を飛び回る。それってきっと、自分が飛びたいから空を飛んでいるんだろ。」

 

スレイの答えに、ライフィセットは瞳を大きく揺らす。

そして懐かしむように、そっと胸に手を当てる。

審判者ゼロに関しては、小さく微笑んでいた。

 

スレイは裁判者を見て、

 

「……裁判者だったらどんな答えを出すんだ?」

「…………お前たちのような、心を持つ者たちだ。」

「へぇー。でも、これに答えってあるのか?」

「ありはしない。己が持つ答えこそが、答えとなる。誰もが同じ価値観を持っている訳でもない。お前達が正義と認めたものが悪であり、悪と認めたものが正義ともなる。正義と悪を決める基準は、結局のところはそれを見聞きしたものの価値観だ。以前、言っていただろう。導師()が正しく、災禍の顕主()が悪い。けれど、時に導師()が悪く、災禍の顕主()が正しい。そう言ったそれぞれの抱く正義が、運命を決める。この世界に正しい(・・・)答えなどありはしない。」

「……だからこそ、自分の選んだ正義(選択)を信じ、突き進め……そう言いたいんだろ。」

「分かればいいのだ。」

 

スレイはジッと彼女を見る。

彼女は赤く光る瞳で、スレイを見る。

と、裁判者は空を見上げる。

隣では、審判者ゼロも空を見上げていた。

そして互いに見合うと、

 

「どう思う。」

「おかしいと思う。」

 

そう言って、二人は地面を見つめる。

否、地脈を探る。

そして目を細めて、

 

「どういう事だ。この未来(・・)は来るはずのない未来のはずだ。」

「なのに、来ちゃったね。でも、あの時は少し違うみたいだ。その辺はやっぱり、扉を使ったからだと思うけど……」

「だが、これはあの時のアレに近い。いや、そのモノだ。」

「考えられることは、起きてしまった事実……だけど。」

 

二人は互いに横目で見合い、

 

「お前は聖主(ライフィセット)を守れ。」

「導師たちはいいの?」

「……まずは、聖主(ライフィセット)の身を守る事を優先しろ。四聖主(あっち)は、私が行く。」

 

そう言うと、裁判者は風と共に消えた。

スレイはビクッと身を動かし、

 

「え?えぇ⁉」

「また、あいつは勝手に……」

 

エドナに関しては傘についているノルミン人形を握りつぶしていた。

ミクリオは審判者ゼロに詰め寄り、

 

「どういう事だ、ゼロ‼」

「あー……えっと……」

 

彼は視線を横に流し、肩ぐらいの所に手を上げる。

が、ハッとして、

 

「――‼」

 

ミクリオを引き、影でこの場居る全員を守る。

影を引き、影から槍を取り出すと、

 

「ちょっと、ちょっと!来るの早すぎでしょ‼」

「い、一体、何なんだ⁉」

 

ミクリオは戸惑いながらも、武器を手にする。

スレイ達も構え、横に並び立つ。

彼らの前には、黒い何かに覆われた憑魔の姿。

災禍の顕主と同じ……否、それ以上の何かを感じる。

それこそ、裁判者と審判者と同じくらいの何かを……

 

が、審判者ゼロは敵に襲い掛かりながら、

 

「スレイ!君たちは、ライフィセット(・・・・・・・)を守るんだ!どうやら、俺らが思っている程……敵は優しくないみたいだ。」

 

相手の攻撃を交わしながら、彼は叫ぶ。

スレイは頷き、

 

「わかった!けど、ゼロ一人ではさせない!ウィク、アメッカ!」

「任せておいて、スレイ!」

「そうです、スレイ!理由はわかりませんが、ライフィセット様の事は任せてくれ!」

 

二人は頷き合う。

グリモワールとビエンフーも二人の横に立ち、

 

「そうね……この子たちだけで坊やを守るのはきついでしょうから、私も手伝ってあげるわ。」

「はいでフ‼僕もガンバるでフ‼」

 

そこに、エドナとザビーダが立ち、

 

「任せない、私も手を貸すから。勿論、ここから援護もしてあげるわ。」

「おうよ!この、ザビーダ様にお任せってな‼」

 

スレイはニット笑い、

 

「ああ!任せた‼」

 

スレイはライラと神依をして、ミクリオと共に戦う審判者ゼロの元に駆けて行く。

ミクリオは近距離からの天響術を繰り出す。

エドナ、ザビーダは遠距離からの天響術を放つ。

スレイと審判者ゼロは一端距離を取り、

 

「全く、俺でもここまで手こずるなんて。」

「ゼロ、あれは一体なんなんだ?」

「……うーんとね、まだ分かんない。」

「え?」

 

と、言っている所に敵の天響術が繰り出された。

ミクリオは避けながら、

 

「天響術だって⁉ま、まさか天族なのか?」

「いや、あれは……」

 

そして無数の剣が、敵に降り注がれる。

だが、その剣は黒い何かに飲み込まれた。

神依したスレイと審判者ゼロの前に、裁判者が降り立つ。

 

「……あれはやはり……」

「あー……やっぱり?」

 

審判者ゼロは槍をしまい、剣を取り出す。

スレイは眉を寄せて、

 

「どういう事?」

「スレイ‼」

 

ミクリオが叫ぶと、黒い何かがスレイに襲い掛かる。

審判者ゼロが自分ごとスレイを影で飲み込み、ライフィセットの横に現れる。

ミクリオを裁判者が影で掴んで、同じように横に移る。

その敵の頭上に魔法陣が浮かぶ。

そしてそこから扉が現れ、白角の竜が現れた。

ザビーダとライフィセット、ビエンフーは驚きを隠せない。

裁判者と審判者ゼロはその竜の突進を剣で抑え込み、

 

「扉まで使えるか。」

「これはやばいね。」

「全くだ‼」

「ヤバイ!あっちが逃げる!」

 

二人が見るその先の敵は黒い何かに包まれて、その姿が消えた。

白角のドラゴン()は角を振り上げ、二人を投げ飛ばす。

空中で体勢を整え、左右に着地した二人。

白角のドラゴン()は空高く舞い上がる。

ザビーダが眉を寄せて叫ぶ。

 

「待て!テオドラ‼」

 

だが、その声は虚しく響き渡る。

その白角のドラゴン()が居なくなると、ザビーダは地面を蹴る。

 

「くそっ!どういう事だ、裁判者‼」

「…………」

 

武器をしまった裁判者は、同じく武器をしまった審判者を見る。

 

四聖主(あっち)には結界を張っておいた。問題は、ライフィセットと敵が扉を使える事だ。」

 

と、ザビーダは無視をした裁判者の襟元を掴み、

 

「俺は、どういう事だって聞いてんだよ‼」

 

裁判者はそれを払い、

 

「少し黙っていろ、陪神。」

「っんだと‼」

「説明はしてやる。今は黙っていろ。」

「……くそっ!」

 

ザビーダは帽子を深くかぶる。

スレイはライラとの神依を解き、

 

「一体、あれは何だったんだ?」

「それも説明してやる。だが、その前に……」

 

裁判者と審判者ゼロはライフィセットを見下ろす。

ライフィセットのアホ毛がピンと立つ。

 

「な、なに?」

「……今から私と審判者は、ここに居る導師と陪神を連れて過去に飛ぶ。あの、白角の(ドラゴン)がいた時代に。」

「それって……」

「ああ。禁忌の扉を使う。四聖主には話は通してある。後で、グチグチ言われるのは面倒だからな。だが、場合によっては、我々はお前の護衛はできない。プラス、扉からも離れる事になる。」

「つまり、自分の身を守る事と、二人の代わりに扉の管理をすればいいんだね。」

「ああ……」

 

ライフィセットは真剣な表情で二人を見つめていた。

審判者ゼロは体を左右に動かし、

 

「君には、できればカムランの近くに居て欲しいけど……前みたいにカムランにある神殿自体を器にすることはさせられない。そこで、イズチに居てくれないかな。あそこなら何とかなると思うんだ。それに、敵の目的はどうやら『審判者と裁判者(俺ら)』と『導師スレイ』みたいだし。」

「俺?」

 

スレイは自分を指差し、驚く。

裁判者は風に身を包み、レイの姿に戻る。

 

「そ。あれはね……お兄ちゃんだよ。」

「え……?」

「正確には、導師スレイと言う器を得た穢れの塊。大地や人の穢れ、堕ちた導師達の想い、憑魔、災禍の顕主、天族やドラゴンの穢れとありとあらゆるモノが、導師スレイと言う器に入った者だよ。簡単に言えば、災禍の顕主との戦いで君が負けた、ってこと。そんな君のもう一つの姿ってわけさ。」

「……もう一つの、俺の姿……」

 

スレイは視線を落とす。

ライラがキュッと唇を噛みしめる。

ミクリオが眉を寄せて、

 

「だが、仮にそんなスレイがあったとしても、だ……君たちはそれを、あのスレイを止めなかったのか。君たちの嫌う扉まで使われて。」

「止めるもなにも……あのスレイの世界には審判者と裁判者(俺ら)は存在しないし、扉もない世界だ。そんな俺らに、何ができるのさ。」

 

審判者ゼロはキョトンとした顔で言う。

ミクリオ以外の天族組は目を見開き、

 

「は⁉お前らがいない世界だと⁈」「そんな事がありえますの⁈」「何よ、それ‼」「ビエ⁉ホントに、ありえるでフか⁉」「あらら……」「う、嘘……え、でも……それもあり得るのかな?」

 

と、各々叫んでいた。

古くから二人に関わり……いや、存在を知っている彼らからしてみればありえない事だ。

事あるごとに、波乱や災害、災厄の事態として世界まで壊しかけたのだから。

 

「よ、よく解らない事も多いのですが……最終的にはどういう事なのですか?」

「そうそう!もっと砕けて、砕けて!」

 

アメッカとウィクが叫ぶ。

レイは審判者ゼロを横目で見た後、

 

「元々、私もゼロも創られた存在だからね。自分達が存在しない世界があってもおかしくはないよ。世界は無限にあるからね。」

「で、結局のところレイやゼロが狙われるのは、二人の特性やら、その扉がうんぬんかんぬんだったとしてだよ……」

 

ウィックが目を細める。

 

「どうして、導師スレイとライフィセットが関係あるの?スレイは導師だから、ってもあるかもだけど。ライフィセットは天族でしょ。けど、ゼロは狙われているスレイではなく、ライフィセット(・・・・・・・)を守る事を優先したのさ。」

「そ、それはでフね……ウィック姐さん……」

 

ビエンフーがオロオロし始める。

ライフィセットも、チラチラとレイと審判者ゼロを見る。

レイは笑顔で、

 

「それは、ライフィセットが聖主(・・)、だからだよ。」

「は?……はぁ⁈」

 

ウィックは思いっきり目を見開く。

アメッカも驚きながら、ライフィセットを見る。

レイは真剣な表情になり、

 

「二人に黙っていたのは、彼が聖主だと知られるのはまずいから。いくら、一人の天族として共に導師スレイの旅に同行したとしても、彼は聖主と言う座に居る。そんな彼を守る義務が、導師スレイにはある。それが、聖主を引っ張り出すと言うこと。それを理解した上で、彼は聖主をこの旅に同行させたの。なら、私とゼロは守秘義務が科せられる。この事は、スレイとライフィセット以外の人たちは知らない。」

 

レイがそう言うと、ミクリオはスレイを見る。

 

「スレイ!」

「あはは……ごめん……」

 

スレイは頬を掻きながら、謝った。

ライフィセットがスレイを庇うように、

 

「ち、違うんだ!スレイは悪くないよ。僕も、それに同意しちゃったし……聖主である事を重視するなら、僕はスレイの為にも断るべきだった。実際、僕は四聖主達の忠告を受けた上で、ミケルとも、スレイとも関わりを持った。」

 

ライフィセットは俯く。

そのアホ毛も、元気なく倒れて行く。

ザビーダは二人を見て、

 

「んっで、お前さんらはその事に対して後悔してるのかよ。」

「してないよ!僕はミケルの想いも、スレイの想いも知ってる。だからスレイの誘いは嬉しかったんだ!」

「勿論、俺も後悔はしてない。それこそ、俺は俺の選択を信じた。だからこそ、俺はこの旅がこんなに楽しかったし、世界も知れた。新しい絆だって生まれた。出会いも会った。だからすっごく嬉しんだ。」

 

と、二人は顔を上げて言う。

ザビーダはニット笑い、腰に手を当てて、

 

「なら、よし‼んで、何故それを教えた。」

 

と、横目で審判者ゼロを見る。

彼は若干驚いた後、

 

「何で俺を睨むのさ。」

「嬢ちゃんを睨めってか。無理だわ、無理。俺様、カワイ子ちゃんには優しくするタイプ♪」

「えぇー。」

「ま、冗談はそこまでにしてよ。」

「はいはい。教えたのは、この二人にライフィセット……いや、聖主マオテラスを護衛してもらいたいからだよ。勿論、イズチの地でね。それと、俺らの加護と聖主マオテラスの加護を与える為。その為にも、二人には彼が聖主だと言うことを教える必要があった。流石に、今回は聖主の力を過去には持っていけないし、彼自身を連れて行く事もできない。そうなると、俺らは未来での情報を掴めなくなる。でも、あのスレイは確実に俺らを追ってくるから、こちらには心配はないだろうけど、打てる手は打っておいた方がいい……と言うワケ。」

「なるほどねぇ~。で、テオドラの件は。」

 

ザビーダは笑顔で審判者ゼロに詰め寄る。

彼は一歩下がり、

 

「多分、巻き込まれただけ。扉を使ってみたら手ごろなドラゴンが近くいた、ただそれだけ。深い理由はないよ。」

「……そうかよ。」

 

ザビーダは帽子を深くする。

審判者ゼロはレイを見下ろし、

 

「けど、彼女も元の時代に戻さなきゃいけないけど……」

「まずは、イズチに向かうしかないね。で、二人はライフィセットを守ってくれる?」

 

レイは苦笑しながら、アメッカとウィックを見る。

二人は見合った後、

 

「もちろんだ。何があっても、ライフィセット様はお守りする。」

「大体、聖主を見捨てるなんてできないって。それが、仲間のライフィセットならなおさらね。」

「……二人とも……ありがとう。」

 

ライフィセットは嬉しそうに微笑む。

スレイは二人に頭を下げ、

 

「ごめん。けど、ありがとう。」

 

ウィックが腰に手を当てて、

 

「あたしら、二人の力は弱いかもしれない。けど、ビエンフーやグリモワールも居る。あ、二人は強制的に入れちゃったけど、大丈夫?」

「もちろんでフ!ライフィセットは僕が、護ってあげるでフ~!」

「そうね……大切な子だもの。」

 

と、ビエンフーとグリモワールは頷く。

アメッカは武器を握りしめ、

 

「みんなで力を合わせれば、きっと何とかなります。だからスレイ……私たちを信じてくれ。」

「ああ……信じてる。」

 

スレイは顔を上げ、ニッと笑う。

エドナが傘をクルクルさせながら、

 

「で、おチビちゃん。ここからイズチに向かうとしたらかなり、時間を取られるわよ。事は一刻も争うのんじゃにの?」

「うん!」

 

レイはとびっきりの笑顔を向ける。

そして、手を合わせて、

 

「だからごめんね。ちょっ~と、みんなに怖い思いをさせる。」

「え?」

 

スレイがレイを見ると、レイと審判者ゼロの影が広がり、全員を飲込んだ。

スレイ達はハッとすると、そこは既にイズチだった。

そして、気持ち悪くなって全員森に駆け込んで行った。

審判者ゼロは頭を掻いて、

 

「あ~、やっぱりこれはキツイか……。地脈をおもいっきり駆け抜けたからね。」

「穢れも流れている場所だしね。流石のライフィセットにもきつかったか……」

 

と、レイも苦笑した。

レイは審判者ゼロを見上げ、

 

「じゃあ、ゼロ。私はイズチの皆に話を付けてくるから、後はヨロシク。」

「……前々から思ってけど、君の性格変わり過ぎじゃない?」

「えぇ~、そうかなぁ~?」

 

と、笑顔で左右に体を揺らす。

が、表情を真剣な表情に戻すと、

 

「ま、私の知る子供と言う人間が、こういうのが多かったってだけだよ。あくまでレイ()は、裁判者の知る人間の性格や記憶で創られている。いくらお兄ちゃん達との出会いや旅を得ても、この根本的な核は変わらない。それは、ゼロもでしょ。ま、ゼロは私より多くの者に会っているからこその、ゼロだろうけどさ。」

「それも、そうか……けど、君の周りの子供って極檀だよね。」

「かもね。」

 

と、レイは最期はどこか懐かしむように微笑んだ後、里の皆の所に駆けて行く。

 

しばらくして、スレイ達がやって来た。

レイは手を振りながら、

 

「お兄ちゃん、待ってたよ。皆にはもう話してあるから大丈夫。」

 

と、奥の方では天族カイムがスレイ達に気付いて頷く。

そして村の皆に指示を出していた。

レイはライフィセットを見て、

 

「じゃ、ライフィセット……ううん、聖主マオテラス。君に、私たちの加護を預ける。そして、君はその力を元に、このイズチの者たちとアメッカ達を加護で守って。その彼らが、キミを守るから。」

「うん。」

 

ライフィセットが頷くと、レイと審判者ゼロは手をかざす。

ライフィセットが魔法陣に包まれ、光と共に光のドラゴンの姿へとなる。

そして彼が翼を広げると、加護がイズチを包み込む。

 

「さて、あとは……」

 

レイが目を瞑る。

空の上空に魔法陣が浮かぶと、そこから白角のドラゴン、テオドラが現れる。

レイは目を開く。

 

「で、どうやってテオドラを過去に戻すんだ?」

 

ザビーダは空を漂う白角のドラゴン、テオドラを見つめて言う。

レイは腰に手を当てて、

 

「目には目を、歯には歯を……ドラゴンにはドラゴンを!」

「そうか……はぁ⁉」

 

ザビーダは足元に居たレイを凝視した。

レイは真剣な表情で、

 

「ザビーダにとっては辛いよね。けど、みんなを運びながら彼女を連れて行くには丁度いいんだ。帰ってきたら、その怒りをぶつけてくれても構わない。」

「そんな事はしねーよ。」

 

ザビーダはレイの頭をおもいっきり撫で回す。

それが終わると、レイ自身を魔法陣包み込み、ドラゴン姿のライフィセットと同じ……いや、少し大きめの白い角を生やした白銀のドラゴンが現れる。

レイは身を縮め、翼を下げてスレイ達の法に向ける。

 

「ここから乗って。お兄ちゃん。」

「わかった。」

 

そう言って、スレイ達は乗り始める。

ザビーダはレイのその姿を見て、

 

「『白き大角いただくドラゴンの、心くり抜き血とともに、喰わわば消えん、聖隷の加護』……そういや、言ってたな。本当の白角を相手にするのは、命がいくつあっても足りん……なるほどな。」

 

ザビーダは帽子を深くして、顔を隠す。

レイは顔を彼に近付け、

 

「今なら心臓を繰り出せるよ。そうすれば、彼女を元に戻すことも不可能じゃない。それに、今から行く時代には、アイゼンも居る。彼も救えるかもしれない。私は心臓を抜き取られても、死なないし、平気だよ。」

「いっんや。しねーよ。あの、裁判者ならともかく……嬢ちゃんみたいな子供(・・・)を使って元に戻したと知ったら、あいつが悲しむ。アイゼンにしてもそうだ。エドナがこの方法を知ったとしても、きっとやらない。それは、アイゼンの生きた意味を潰す行為になるそれに、俺も、エドナも、自分自身を許せないし、許さない。大切な仲間を裏切る行為だ。」

 

と、帽子をクイっと上げて、ニッと笑う。

レイは赤い目を細め、

 

「……ありがと。」

「んじゃ、俺様も乗らせてもらいますかね。」

 

ザビーダが乗って、スレイ達の元に行くと、

 

「遅いわよ。」「遅いですわ。」

 

と、エドナと睨みつける。

ライラに至っては、頬を膨らませていた。

ザビーダは笑いながら二人の間に座り、

 

「いんっや~、悪いな。俺様、遅れて登場するイケメンだから。」

「馬鹿は死になさい。」

「エドナさん、それは馬鹿に失礼ですよ。」

「それもそうね。」

「うげ~。二人ともヒデ~。」

 

と、互いに顔を反らしていた。

スレイは下いるイズチの皆とアメッカ達を見て、

 

「じゃあ、行ってくる!マオテラスの事、よろしくね!」

「ああ!任せてくれ!」「任せて!」

 

レイは顔を上げ、聖主マオテラスを見る。

 

「後の事は頼んだよ。」

「うん。任せて。」

 

レイは翼を広げる。

 

「ゼロ、お兄ちゃん達を落とさないようにね。」

「了解!」

 

審判者ゼロの影が、スレイ達を捕まえる。

レイは翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。

真っ直ぐ、白角のドラゴン、テオドラに突っ込んで行く。

 

「お兄ちゃんたち、しっかり捕まっていてね!」

「え?」

 

レイは体当たりして、咆哮を上げる。

その先には巨大な魔法陣浮かび、扉が開く。

そして彼女を扉に押し込んで、そのまま中に入って行く。

スレイ達は暗闇の中を進んで行く。

そして光が見えるとそこは、吹雪漂う雪山だった。

レイは彼女から距離を置き、

 

「これで、彼女は元の時代に戻した。後は、一つやらなきゃいけない事があるから、そこに行くよ。」

 

レイはもう一度咆哮を上げる。

同じように巨大な魔法陣が浮かび、扉が開く。

その中に入り、暗闇の中を進んで行く。

 

「注意してほしい事を、二つ素早く言うね。まずは今から行く時代の者たちとは生きる流れが違う事を忘れない事。どんな人物に会っても、それは過去の人であり、そこで何が起きても、それは過去の出来事。深く関わってはダメ。変えた過去は、未来を変える。その事を忘れないで。」

「ああ。」

「もう一つは、その時代の裁判者と審判者には関わらない事。」

「え?」

 

スレイは眉を寄せる。

レイはなおも続ける。

 

「今から行く時代の……特に裁判者の方は、実験の真っ最中だから。関わると、命がないかも。」

 

それを聞いたエドナは、何か思い当たり、

 

「それって、もしかして……おチビちゃん!」

「忘れないで、エドナ。」

「わかったわ……」

 

エドナは視線を落とす。

レイは思い出したように、

 

「後、ザビーダは特に注意して。」

「なんでだ?」

「過去の自分に会ったら……面倒だから。」

「具体的には?」

「近くに居て、鉢合わせしたら……私かゼロのどちらかが、どっちかのザビーダを殺してしまうかもしれない。」

「うわー……できれば、過去の俺様が大人しくしていてくれる事を祈るぜ。」

「……できるといいね。」

「なー……」

 

ザビーダは遠い目で呟いていた。

と、背後に気配を感じる。

 

「どうやら、敵も追って来たみたいだ。」

「ゼロ!」

「ああ!」

 

審判者ゼロはスレイ達をさらにきつく掴む。

レイの方はスピードを上げる。

だが、相手もドラゴンの姿を取ると、火の球を繰り出してきた。

 

「おいおい、マジかよ!」

「なんでもありね……」

 

スレイ達は身を屈める。

レイもそれを避けるが、その一つが羽根に当たる。

体勢を崩したところに、敵のドラゴンが突っ込んでくる。

それと同時に、扉が不安定の形で開く。

スレイとミクリオ、ライラがはじき出される。

それをとっさに審判者ゼロが影で掴んで、三人と共に消えた。

エドナを抱き寄せ、必死に捕まるザビーダはレイの影に捕まれて、光に包まれた。


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