テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第七十話 それぞれの想い

その日の夜。

スレイ達は火を囲んで暖まっていた。

スレイは前に座るアメッカとウィクを見て、

 

「そういえば、二人は仲良いよね。戦闘でも、息が合ってたし。」

「そうですか?でも、ウィクは私にとって、初めての友達ですし……」

 

アメッカは頰を赤くして、嬉しそうに微笑む。

ウィクはニッと笑い、

 

「あたしらセキレイの羽根は、ハイランド王家とも縁が深いからね。あたしもよく、王宮に連れてって貰ったんだよね。で、年の近いアメッカを見つけて話しかけたのが始まり。最初は茂みに隠れてたから、変な子だなぁーって思ってたんだよね。それが姫様ってわかった時は、本当ビックリだったわー。」

「あ、あれは仕方ないのだ。お兄様達やお姉様達から逃れる為に……」

「わーてる、わーてるって。」

 

膝を抱えてうずくまるアメッカ。

ウィクは苦笑して、彼女の背を叩く。

スレイとミクリオの間に座るレイはそれを見て、俯いた。

そのスレイとミクリオは首を傾げて、

 

「お兄さんやお姉さんと仲が悪いのか?」

「それにしては、逃れる為にとはーー」

「バカね。仮にも、この子は王族。アリーシャのことを思い出せば、なんとなくわかるはずよ。」

 

エドナが、横に座るミクリオを半眼で、呆れたように見る。

スレイはハッとして、

 

「まさか……アリーシャの時のように、色々いざこざに巻き込まれているのか!」

「だろうな……。いくら平和な時代が来たとしても、王族の次期国王争いはあるだろうし……。なにより、兄弟姉妹で争いや虐めはよくあるものだ。」

 

ミクリオは腕を組み、右手で顎に指を当てて考え込む。

そこにエドナが傘で頭を叩き込んだ。

 

「っ痛‼︎何するんだ、エドナ!」

「ホッントに、バカね。これだからミボは、いつまでたっても、ミボのままなのよ!」

 

エドナはミクリオを睨みつけた。

アメッカは顔を上げ、悲しそうに呟く。

 

「いいのです、エドナ様。確かに、王族にはよくあることですから……。我がハイランド王家は、異母兄弟や異父兄弟、従兄弟姉妹が多くいます。どの親も我が子を次の王へと思うのです。そして兄弟姉妹同士でもそうです。そういう時、虐められるのは王席が低い者なのばかり。いくら偉大なる王女陛下アリーシャ様がいても、これは簡単には変わらなかった。それから逃れる為に、いつも隠れて過ごしていた。でも、ウィクやあの方のお陰で変われました。」

「ああ、アメッカの言う蒼き騎士の女性ね。」

 

と、アメッカはパッと明るくなる。

ウィクが耳にタコと言うように、苦笑する。

スレイ達は眉を寄せる。

スレイがアメッカを見て、

 

「その人の話、聞いてもいい?」

「もちろんです!あの方は、私が茂みに隠れていた時です。美しい蒼き騎士の女性が私の前に現れたのです。膝を着き、目線を私に合わせて下さって……"何を泣いている。泣く暇があったら剣を取れ。お前には強い心があるはずだ。お前のその辛さはいずれ、弱き民の力となる。お前に、この言葉を贈ろう。……『騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ。』アリーシャが好きだった言葉だ。"と、言って下さったのだ。私の頭を優しく撫でてくれた……弱かった私を見捨てて、愛想を尽かした母。……でも、あの方の手はどこか、いつかの母の温もりを思い出させてくれました。いつしか寝ていた私が目覚めると、あの方は居なかったけれど、とても嬉しかった。その後、ウィクと出会い、街に出て、民を知り、国を知り、私は強くなろうと思ったのです。そして自分を知りたい。そう思った時、偉大なる王女陛下アリーシャ様のことを知り、私は憧れた。いつか見たあの蒼き騎士の女性のように、優しく強い騎士に!アリーシャ様のようになりたいと!」

 

アメッカはグッと手を握りあわせる。

スレイ達はレイを見る。

レイは小さく微笑み、首を振る。

彼らは腕を組んで悩む。

 

『……貴女の魂は今もなお、彼女を見守っている……。ま、あの天族の娘の力のおかげでもあるけど……ね。』

 

レイ一人微笑んでいた。

ウィクが手を「パン!」と、叩き、

 

「で、一人旅に出る彼女に、世界中を旅したいあたしが同行したんだ。なんだかんだ言っても、箱入り娘の一人旅なんて危なかっしくてね〜。」

「ウィク姐さん。素直に心配だったって言えばいいのにでフ。」

「うっさい!」

 

ウィクの横にいたビエンフーはニヤニヤ笑う。

彼女は頰を赤くして目を反らす。

ミクリオはノルミン二人を見て、

 

「君たちはいつウィクと?」

「偶然でフよ。たまたま、グリモ姐さんと旅してたら、穴に落ちて困ってた所に、これまた偶然に穴に落ちてきたウィク姐さんの、下敷きにされたのがきっかけでフ。」

「ホント、災厄な日だったわ……」

 

と、明るく話すビエンフーと違い、彼の隣に居たグリモワールは頰に手を当ててため息をつく。

ウィクは笑い出し、

 

「そうそう!落ちた、落ちた!その後、兄貴に助けて貰ったんだよね。で、旅してるっていうから誘ったのよ。」

「ま、暇潰しには丁度良かったわね。けど、ハイランドのお姫様と旅するって言った時のあんたのお兄さん……」

「そうでフよね〜……。ウィク姐さんは気づいてないかもでフけど、すっごく心配してたでフよ。僕らに頼むくらいでフから。」

 

グリモワールとビエンフーは呆れ顏になる。

ウィクは目をパチクリさせ、

 

「そうなん?」

「そうでフよ。」

 

ビエンフーはさらに眉を寄せた。

そこにアメッカの横に居たライフィセットが手を上げて、

 

「ねぇ、ウィクのあの短剣裁きは誰に教わったの?ロク……じゃなかった。知り合いのに似てたから、気になって。」

「ん?これ?」

 

ウィクは腰の二刀の短剣を触る。

短剣を抜き、クルクル回しながら、

「あたしは兄貴に教わった。兄貴は親父に。ま、初代が使ってたからね。その初代はなんでも、幽霊の剣士に教わったって言ったらしいよ。」

「幽霊の剣士?」

 

ライフィセットが首を傾げる。

ウィクは短剣をしまい、

 

「なんでも、大きな長剣二本と短剣二本を持った黒髪で片目を隠した変わった服を着た剣士だって。見て覚えろ、感じて覚えろ、的な感じで幼い頃に教わったらしいんだよね。でも、はっきりとは覚えてないにしろ、初代の仲間にそんな奴いない。ま、それが原因でオバケが苦手になったらしいんだよね。極め付けは、たまに変な声がするとかしないとか……」

「うぅ……や、やめてくれ、ウィク!」

「あはは。ごめん、ごめん。」

 

ウィクの言葉にアメッカが身をすくませる。

スレイは目をパチクリさせ、

 

「そ、そうだったんだ……」

「苦い思い出を思い出したわね、スレイ。」

「あ、あれはエドナのせいだろ。」

「そうだったかしら。」

 

エドナはスレイに知らんぷりする。

ライフィセットは口を開けて驚いていた。

 

「意外なところで、縁は繋がるものだよ。」

「そ、そうみたいだね……」

 

レイがライフィセットに口パクで、そう言った。

ライフィセットのアホ毛がピンと伸び、落ちた。

アメッカとウィクはスレイ達を見て、

 

「そ、それで、スレイ様はどのようにして天族の方々や裁判者様の方々と?」

「そうそう!導師スレイの話聞かせてよ!」

 

と、目を輝かせる。

スレイは頰を掻き、

 

「様はいらないよ、アメッカ。」

「で、ですが……」

「じゃあ、オレもアメッカ様って言うよ。」

「わ、わかりました。……ス、スレイ!」

「うん。ありがとう。」

 

アメッカは照れながらも、スレイの名を呼ぶ。

そして、スレイは横のミクリオとその間にいるレイを見て、

 

「オレとミクリオが幼馴染で、レイが妹の話はしたよね。オレとミクリオは赤ん坊の時に、イズチのジイジ……長に拾われたんだ。そこで暮してたオレらが10何才だっけかなぁ……」

「まぁ、その年くらいにレイがやって来たたんだ。昔のレイは今と違って無口でね。」

 

ミクリオは苦笑する。

グリモワールの横にいたライラが手を合わせ、

 

「そうでしたね。昔のレイさんはご自分からは関わりを待とうとせず、スレイさんとミクリオさんにだけ懐いて……ロゼさんがヤキモチ焼いてましたね。」

「そうね。逆に、アリーシャとは仲良かったし。」

 

と、エドナが目を伏せる。

スレイの横にいたザビーダはニッと笑みを浮かべ、

 

「俺様とも仲良かったよなぁ〜♪」

「はぁ?ふざけるのもいい加減にしなさい!死にたいの?いいわ、死になさい。」

 

エドナは目の前のザビーダを睨め付ける。

ザビーダは後ろに少し退がり、

 

「ちょ⁉︎エドナ⁈目が本気過ぎる‼︎」

「仕方ありませんわ。私もエドナさんも、レイさんとの距離を詰めるのにどれだけ苦労したか……」

「あー……そういえばそうだね。」

 

ライラも頰に手を当てて、悲しそうに言う。

レイは視線をそらしながらそれに答える。

場の空気が重くなるのを感じ、

 

「ス、スレイ……続きを話そう!ね!」

「そ、そうだな。」

 

ライフィセットはスレイを見る。

スレイは苦笑いして頷いた。

 

「えっと、イズチにいた頃のオレらの遊び場といえば、近くにあった遺跡だったんだ。ある日、その遺跡にアリーシャが迷い込んできたのが、アリーシャとの出会いの始まり。」

「スレイってば、名も名乗らないし、怪しすぎる相手を自分の家に招いたんだ。」

 

ミクリオは思い出したかのように、スレイを半眼で見る。

スレイはさらに苦笑した後、

 

「ま、あの時はアリーシャは国の為に奮闘してたからね。そのアリーシャがレディレイクで行われる聖剣祭に来ないかと誘われたんだ。」

「僕らはそれがきっかけで旅に出た。そして聖剣祭で、聖剣を器にしていたレディレイクの湖の乙女ライラに出会ったんだ。その後、ライラと契約して、スレイは導師になった。」

 

ミクリオはスレイと互いに見合う。

レイもされを見て微笑む。

その後、腕を組んで、

 

「その時に、セキレイの羽根のロゼにも会ったよ。二つの顔を持つ彼女に、ね。その後も何度も会ったし。レディレイクの地の主も、最初は憑魔だったし。」

 

ライラは嬉しそうに、少し困り顔をして、

 

「はい、そうでしたね……。でも、地の主であるウーノさんと出会いによって、レディレイクに加護が戻りました。それに、レディレイクでは、ミクリオさんもスレイさんと喧嘩して、絆を深めて……」

「あれはどっちもどっちの喧嘩だったなぁ〜……。でも、あれがあったからこそ、お兄ちゃんもミク兄も強くなれたよね。」

 

二人は笑みを浮かべて見合う。

エドナがため息をつき、

 

「その後、私のとこに来たのよ。病に伏せっているマーリンドの人のために、か弱い私に橋を造る手伝いをさせられたわ。しかも、スレイの古い口説き文句によってね。」

「へぇー、スレイでも口説き文句言えるんだ。てっきり天然系だと思ったけど。」

 

審判者ゼロはライフィセットの隣で意外そうな顔をする。

ミクリオは呆れ顔で、

 

「間違ってはないね。スレイは素でやる奴だから。」

「ま、そんなこんなで私たちはアリーシャ達とマーリンドに向かったわ。マーリンドにも加護を復活させ、戦争の一手が始まったわ。そこでーー」

「待て待て!エドナの勧誘の時に、俺様にも会ったろう⁉︎なー、スレイ!」

 

どんどん先を話すエドナの言葉に、ザビーダが叫ぶ。

スレイは目線を逸らし、

 

「あー……そう、だね。」

「反応うっす!」

「ま、それは置いといて。ハイランドとローランスの小競り合いが始まったの。お兄ちゃんは、不義の汚名を着せられたアリーシャを救うために戦争に介入した。何とか、小競り合いを止めることには成功したけど、そこで災禍の顕主と出会った。あ、災禍の頸主ってのは簡単に言うと、導師とは相反する強い憑魔とでも思って。で、その時はまだ力の弱かったお兄ちゃんは、彼の領域に触れ、一時的に霊応力を封じられた。」

 

眉を寄せるザビーダを無視して、レイがエドナの続きを話した。

ミクリオもそれに続き、

 

「ああ。それによって、導師の力も封じられてしまった。危ないところに、ロゼが助けてくれたんだ。その後、回復したスレイはロゼと共にローランスに渡った。ローランス側でも色々やったな。白皇騎士団のセルゲイとの出会い。仲間との悲しい別れ、導師の試練……それに、その頃ゼロにもあったな。」

「ねー。いやー、懐かしいな。その後、ハイランドとローランスの戦争が本格的に始まってしまったし。しかも、その戦場にドラゴンも現れる始末。けど、導師スレイの導きの元、双方は戦争を止め、ドラゴンに立ち向かった。それは同時に、戦争を終わらせ、和平への道の始まりとした。」

 

審判者ゼロは笑顔で言う。

ザビーダが腕を組み、

 

「んで、俺もその頃に正式加入してたってわけさ。亡きあいつの想いを継いでな。」

 

アメッカとウィクは首を傾げるが、そこは触れないでおく。

審判者ゼロは笑みを消し、

 

「そして、導師一行は災禍の頸主を調べ上げ、災厄の時代の始まりを知った。その導師一行は始まりの村カムランにて、災禍の頸主との最終決戦を行った。その後、災禍の頸主を討った導師スレイは、大地の浄化をする為に深き眠りにつき、この時代に目を覚ました……というわけ。」

 

彼は笑顔に戻る。

アメッカは拳を握りしめ、

 

「そ、そうだったのですね!よくわからないとこもありましたが、凄いです‼︎」

「で?ライフィセットはいつ仲間になったん?」

 

ウィクは首をかしげる。

ライフィセットは嬉しそうに、

 

「僕は、スレイが目覚めてから、旅に誘われたんだ。僕も、ある意味君達と同じ新参者だよ。後、審判者さんも同じ。」

「ゼロ様はレイ様と同じくして仲間だったのでは?」

 

今度はアメッカが首をかしげる。

審判者ゼロは笑いながら、

 

「その頃はレイと……裁判者と喧嘩中でね。和解したのはスレイ達が災禍の頸主を討った頃かな。」

「ホント、はた迷惑な喧嘩だったわ。」

 

エドナがウンザリ顔でいう。

レイはムッとして、

 

「あれはどちらかといえばゼロが……審判者が悪い。どこかの誰かさんのせいで、色々あったもん。殺されかけたり、殺されかけたり!」

「君も、俺も、簡単には死なないだろ。」

 

審判者ゼロは笑顔だが、何やら不穏だ。

そして二人は無言となり、それに耐えられなくなったのか、

 

「そ、そうだよ、俺も悪いよ!けど、君だっておあいこだろ‼︎大体、君だって雲隠れした挙句に、レイまで創り出したし!」

「それは貴様のせいだろう。それに私にはやることがあった。駄々をこねて、拗ねていた貴様とは違う。挙げ句の果てには、災禍の頸主と手を組んだ。そのせいで、こっちは一人で色々やったんだ。」

「それだったら、君だって最初はそうだっただろう。挙句に、双方に協力したせいで色々苦労したのは俺だし!四聖主やクローディンの時だってそうだ!後先考えず暴れたくせに!」

「あれは、大体は心ある者達の結果だ。私にも非があったのは認めるが、元を正せば私ではない。」

 

審判者ゼロと、レイの姿のままの裁判者が言い争いをする。

と、裁判者は何かを思い出したかのように、

 

「ああ、そうだ。導師、貴様はやり遂げだ。だが、お前と周りの刻《とき》の流れは違うことは忘れるな。」

 

スレイを、赤く光る瞳で見た。

彼女はそう言って、レイに戻る。

 

「……災厄。忘れた頃に、あいつが出てくるなんて……」

「こういう時でも、あの方は変わりませんね。」

「なんだか昔にも同じことがあったような気がするでフ……」

「あったわね……そんなことも。」

 

エドナがノルミン人形を握り潰し、ライラも苦笑する。

さらに、ビエンフーとグリモワールも反応する。

アメッカは困惑しきり、

 

「え?え⁈な、なんか今、レイ様の様子が……」

「別人みたいに変わったね。てか、ライフィセット大丈夫なん?」

 

ウィクも意外そうに言った後、固まっているライフィセットを見た。

ライフィセットはハッとして、

 

「う、うん、大丈夫……だよ。ただ、実際に見るのは初めてだったから……心の準備が……」

「ま、慣れろってこった。」

 

ザビーダはゲラゲラ笑いだした。

夜も深くなり、ライラが手を叩き、

 

「さて、もっとお話ししたいのは山々ですが、今日はもう寝ましょうか。」

「そうね。明日も早いし。」

 

エドナが立ち上がり、テントに向かう。

と、振り返り、

 

「何してるの。二人も早く来なさい。」

 

アメッカとウィクを見る。

アメッカはすぐに立ち上がり、

 

「わ、私もご一緒でよろしいのですか⁉︎」

「私に、二度も言わせるの。」

「あはは!ほら、行くよ、アメッカ。」

 

ウィクも立ち上がり、アメッカの手を引いてテントに向かって歩いていく。

ライラも立ち上がり、

 

「レイさんはどうしますか?」

「……後で様子見ていくよ。」

「わかりましたわ。」

 

ライラが歩いて行く。

ザビーダが立ち上がり、スレイとミクリオの方を叩き、

 

「よし、俺らも寝るか。」

「え?あ、うん。」

 

スレイは立ち上がる。

立ち上がったゼロはミクリオの手を引き、

 

「ほら、行くよ、ミクリオ。」

「な、なんなんだよ。」

 

彼らも別のテントに向かって歩いていく。

ライフィセットとビエンフーとグリモワールの会話が終わるのを待っていたレイ。

ライフィセットが去った後、歩き出そうとするビエンフーを影で捕まえる。

 

「ビエ⁈た、喰べないで欲しいでフ‼︎」

「喰べないよ。てか、不味そう。」

 

レイは彼を離す。

近づいて来たグリモワールは、

 

「確かにそうかもしれないわね。」

「ひ、ひどいでフ‼︎」

「で、なんの用なの。わざわざ、坊やとの話が終わるまで待つなんて。」

 

ノルミン天族二人はレイを見上げる。

レイはしゃがんで、目線を合わせる。

 

「……私っていうより、裁判者として言いたかったことがあるんだ。」

「な、なんでフ……」

 

怯えるビエンフー。

その姿に、レイは苦笑する。

が、表情を柔らかくして、

 

「最後まで、あの子のそばにいてくれてありがとう。」

「え……」

「あの頃の私にはできなかったから。それに、あの子が最後まで笑顔でいられたのは君のお陰であり、貴女があの子の心を取り戻してくれたからだ。そして、あの旅をした彼らのおかげでもある。ま、それを言いたかっただけ。」

 

と、立ち上がり歩き出す。

その背に、ノルミン天族グリモワールは、

 

「一つ、聞いてもいいかしら。」

「ん?……ああ、その答えは『今度は看取るよ、最後まで』。導師スレイという人間の最後を、水の天族ミクリオの行く末を。それが盟約だからね。それに、それが私《レイ》を妹として受け入れてくれた二人に対する私なりの答え。きっとこの先には現れないだろう、大切な兄だからね。」

 

レイは立ち上がり、振り返る。

その表情は裁判者と同じだ。

そして再び前を見て歩き出し、

 

「後、君の思っている事だけど……後にも、先にも、裁判者を"友"と呼んだのはあの子だけだよ。あの子は今も、昔も、私《裁判者》の大切な友だよ。」

 

その表情はわからないが、その声は嬉しそうだった。

レイがいなくなった後、ビエンフーはグリモワールを見て、

 

「姐さんは何を聞こうとしたでフか?」

「導師スレイとあの坊や、ミクリオといつまでいるのか……。あんたは?」

「……マギルゥ姐さんのことをどう思っていたかでフ。」

「そう……で、あなた達はどう思ってるの?」

 

ノルミン天族グリモワールは斜め後ろの木々を見る。

そこから、エドナ、ライラ、ザビーダが現れる。

ライラが手を握り合わせて、

 

「……私達は見守りますわ。それに、レイさんはあの方と同じであり、違う存在ですから。」

「ま、大切な仲間だからな。お宅らは知らないだろうが、あの嬢ちゃんは、裁判者にできない事ができる。逆もあるだろうが、あれは裁判者が関わりを持つ為に生まれた存在でもある。」

 

ザビーダは腰に手を当てて、真剣な顔で言う。

エドナも真剣な顔で、

 

「だから少し不安だもあるわ。おチビちゃん……本当の意味で、レイを止められるのはスレイとミボだけ。ミボはともかく、スレイは人としての寿命はとても短い。盟約や誓約をつけてもたかが知れている。でも、ミボも天族。いつかは居なくなる可能性はある。憑魔、ドラゴン、普通に死んだとか、色々ね。そうなった時、誰がおチビちゃんはどうなってしまうのか。」

「きっと、レイさんはずっとあの姿のままでいるでしょう。そして、それはきっと何があっても変わらないと私は思います。」

「俺らは、せっかく関わりを持ち、やっと裁判者や審判者を本当の意味で知る機会を得た。それが途中で、解らずに終わるのが嫌だし、嬢ちゃんが消えるのも嫌だつー話だ。」

 

三人は互いに見合う。

グリモワールは頰に手を当てて、

 

「そう。ま、本質は変わってないみたいだけど、感覚は違う。いいわ、私たちも少しだけ見守らせて貰うわ。」

「はいでフ‼︎」

 

ビエンフーも頷いた。

エドナはノルミン二匹を見て、

 

「そういえば、あんたたちはお兄ちゃん……アイゼンを知ってるのよね。」

「はいでフ‼︎アイゼンは元気でフか?」

「死んだわ。ドラゴンになってしまったから……」

「そ、そうでフか……」

「そう……やっぱりなってしまったのね。」

 

二人は視線を落とす。

エドナは小さく微笑み、

 

「でも、心の中で今もそばに居てくれてる。お兄ちゃんの想いを知れた。ちゃんとお別れもできた。だから、いつか坊……ライフィセットと共に、霊峰レイフォルクにお墓があるから……会いに行ってあげて。」

「わかったわ。」「はいでフ‼︎」

 

彼らはテントに向かって歩き出す。


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