テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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第六章 繋いだ未来の先に
toz 第六十八話 繋いだ未来


――そこは辺り一面の花畑。

高い岩崖の近くに一つの墓があった。

海を、大地を、空を、見渡せるその場所で……

そこに一人の少年と顔のそっくりな老人と老婆がいた。

彼らは黒い服を身に纏い、その墓に花を添える。

墓には二振りの短剣と花が添えられている。

少年もまたその墓に花を添える。

導師の紋章をつけたマントを身に纏い、古びた『天遺見聞録』に沢山の付箋をつけ、儀礼剣を下げている。

その彼の後ろには、レディレイクの加護をしていた天族の男性ウーノが見守る。

さらに彼のその後ろには四人の天族達が、その場を見守っていた。

そこに足音が聞こえてくる。

彼らの見るその先には、白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が居た。

その小さな少女は彼らを見て微笑むと、

 

「お花を添えてもいいですか?ここに来る事のできなかった兄の分も含めて、ここに眠る大切な仲間に……」

 

小さな少女の手には、二輪の花が握られている。

老人と老婆は頷き、微笑んだ。

少年が場所を譲り、小さな少女が花を添える。

小さな少女は墓を見つめ、

 

「ありがとう。貴女が繋げた想いを、これからも繋げていくよ……。いつかまた、魂が巡り合うその時まで……」

 

そして小さな少女は立ち上がり、歌を歌い出す。

そこに笛の音が鳴り響く。

風に乗って花びらが雪のように舞い踊っている。

小さな少女は遠くをみるように、

 

「ゼロも来ればよかったのに……」

 

小さな少女は歩き出す。

そしてクルッと少年に振り返り、

 

「あなたが受け継いだ想い、あなただけの物語を私達は見届けよう。新たな導師の器に幸あれ。」

 

そう言って、風が吹き荒れる。

少年は見た。

小さな少女は白から黒い服へと変わり、そこには仮面をつけた少女が居たのを、その少女が自分を一度見て、口パクで何かを呟いたのを……

風が収まると、そこには小さな少女も、仮面をつけた少女も、もう居なかった。

 

そしてまた数日後、多くの人々が列をなしていた。

それはハイランドの大きな葬式。

人々は悲しむ。

偉大なるハイランドの王女の死を……

多くの民がレディレイクの王族の墓に花を添える。

そこには導師の服を纏ったいつかの少年と四人の天族達も花を添えていた。

と、どこからか歌と笛の音が流れてきた。

そしてレディレイクの空に、風に乗って花びらが舞う。

人々は語る。

偉大なる王女はローランスのとの数百年にも及んだ両国の争いを和平へと導いた。

その隣には同じく心と意志を持ったローランス騎士の姿もあった。

その王女が姫だった頃、姫はよく言った。

『大切な友でもある導師が平和への道を拓いてくれた。

 自分はそれに恥じぬように、彼の拓いてくれたこの道を決して無駄にはしない。』

そして姫は、政治家としても、王族としても、騎士としても、一人の女の子としても生きた。

その姫には大切仲間、無二の親友の姿があった。

そして姫騎士として過ごした少女時代、彼女は常々口にしていた。

『騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ。』

大切な師の言葉を胸に抱きながら……

そんな強き姫にも挫けることもあった。

その落ち込む姫のとこには、決まって歌が聞こえてきたと言う。

まるで姫を励ますように、どこからか……

 

 

――時は流れ、ある天族の男性が古びた遺跡を探索していた。

光が彼に指し、その姿が露わになる。

長い銀色の水色の髪を結い上げ、杖を持ってあるく若い青年。

中を探索しながら辺りを見渡した。

奥に進み、そこは溶岩が流れていた。

彼は興味深そうにそれを見上げていた。

そこに聞き覚えのある声と歌が聞こえてくる。

彼はそこに向かって歩き出す。

向かった先は溶岩が一変、水の流れる場所に変わる。

辺りには結晶が輝く。

彼はその中央の祭壇に近付いた。

そして祭壇の中央の石に触れていると、足元が崩れ落ちた。

 

「うわっ⁉」

 

そこに彼の腕を掴んだ者がいた。

彼が見上げるその先には、導師の紋章の付いた手袋をつけ、マントを身に纏った少年。

その少年は光に当てられ、輪郭がはっきりしてくる。

茶色い髪が所々跳ねている穢れのない緑色の瞳。

そしてその隣には、白いワンピース服を着た小さな少女が見下ろしていた。

天族の青年は嬉しそうに、泣きそうな瞳で笑う。

そして自分の手を握っている彼の手を掴む。

そして引き上げられ、彼は二人に抱きつく。

小さな少女は同じように抱きつき、

 

「こんなに成長したのに、甘えん坊。」

「だよなぁー。」

 

少年は笑いながら、彼の背を叩く。

天族の青年はギュッとなおも二人を抱きしめ、

 

「まったく…待ちわびたぞ、スレイ。レイも時々しか現れないし。」

 

小さな少女・レイは天族の青年・ミクリオを見上げ、

 

「やっとね、私は裁判者としても、レイという人間としても、大丈夫だと世界の理が馴染んだの。待たせてごめんね、ミク兄。」

「オレも長いこと寝てたよ。早く他のみんなとも会いたいな。それにロゼやアリーシャ、セルゲイ達が繋げた未来を見てみたい。」

「ああ、みんな待ってる。それに見てくれ、彼らが繋げてくれた世界を!」

 

そう言って、立ち上がる。

レイはスレイとミクリオの手を握り、歩いて行く。

 

外に出たスレイは目を輝かせる。

 

「これがみんなの繋げてくれた世界!」

 

と、手を広げて周りを見渡していたスレイの肩に腕を回し、

 

「待ったぜー、スレイ!」

「ザビーダ‼︎」

 

スレイはその人物を見上げた。

そこには上半身裸状態に、黒いシルクハット帽子をかぶった風の天族ザビーダがニッと笑う。

そして腕を外し、スレイの側に居たレイにもニッと笑い、

 

「嬢ちゃんも久しぶりだな。」

「ん。そうだね。」

 

レイは微笑む。

そこにまた一人、

 

「スレイさーーん‼︎」

 

赤を基準としたワンピースを着て、長い銀色の髪をなびかせる火の天族ライラが、泣きながらスレイを抱きしめた。

スレイも抱きしめ、

 

「お待たせ、ライラ。」

 

ライラはスレイを離し、膝をついて今度はレイを抱きしめる。

 

「レイさんも、ずっと待ってたんですよ。」

「ありがとう、ライラ。」

 

レイもライラを抱きしめる。

スレイがそれに微笑んでいると、横っ腹を思いっきり突かれた。

 

「痛っ⁉︎」

 

スレイが横を見ると、肩に傘をトントンさせている土の天族エドナが居る。

 

「随分と待たせたわね。ミク坊は毎日泣いてたわよ。」

「泣いてない!」

 

と、エドナを見て、ミクリオが怒る。

当の本人は傘を広げて、知らんぷりしていた。

スレイが相変わらずの光景を見て苦笑する。

 

「はは。エドナも変わらないな。」

「あら、ワタシは身長が伸びたわよ。」

 

と、レイの頭に手を置いて、ポンポン叩きながら言う。

レイはエドナを見上げ、

 

「確かに伸びてる!」

「でも、こんなに早くみんなに会えるなんて嬉しいよ。ミクリオはスッゲー変わってたから、若干焦ったけど。」

 

スレイは頬を掻きながら言う。

ザビーダがスレイの肩に手を置き、

 

「なーに、スレイもドンっと大きく成長するって!」

「ああ!すぐにミクリオを超えるさ。」

 

と、腰に手を当てた。

ミクリオは呆れながら、

 

「まったく、君ってやつは……。だが、スレイの言う通りだ。」

「身長が?」

 

エドナが悪戯顔で、ミクリオを見る。

ミクリオは拳を握りしめ、

 

「違う!そうじゃなくて、ここに来たのがだよ。僕は何も言ってないし。スレイが目が覚めたのを知ったのもさっきだ。レイが知らせたのか?」

 

レイは首を振る。

そしてレイはすぐ側の木を見て、

 

「いつまでそこで隠れてるの、ゼロ。みんなに知らせたのは、あなたでしょ。」

 

と、木の影から黒いコートのような服を着た少年が出て来る。

スレイは笑顔で、

 

「ゼロ!」

「や、スレイ。久しぶり。」

 

審判者ゼロは気まずそうに出てきた。

彼はソワソワしていた。

スレイはニッと笑って、

 

「俺、やり遂げたぜ!だから、またみんなで旅をしたい。だからさ、約束通り一緒に行こうぜ、ゼロ!」

「……スレイがどうしてもって言うなら、いいよ。」

「ああ。どうしても、だ。」

「……じゃあ、一緒に旅する。」

「おう!」

 

スレイは腰に手を当てて、笑顔でそう言った。

ゼロは小さく笑い、ミクリオに抱き付き、

 

「起きても彼は変わらないね。」

「そうだな。」

 

と、ミクリオは苦笑した。

そして楽しそうに話し込む。

その姿を見たスレイは目をパチクリし、

 

「なんか、俺の知らない間にミクリオが、ゼロとスッゲー仲がいい。」

「そうね。もしかしたらスレイ以上かも。」

 

エドナの表情は、ウザいという顔で、しかも半眼で彼らを見ていた。

と、彼らの会話を聞いたゼロはミクリオから離れ、

 

「いやいや、スレイには負けるさ。何せ、何かある度に、ミクリオの口からは『スレイ』が出てくるからね。つい最近は、『スレイ、まだ起きないのか……。世界はこんなに変わったのに。会いたいな、スレイ。早く起きろよ。寝坊助。』だよ。」

「ぼ、僕はそこまで言っていない!」

「あれー、そうだっけ?」

 

と、顔を赤くして言うミクリオに、ゼロは笑いながら言う。

レイはミクリオを見上げ、

 

「酷いなー、ミク兄……。私のことはそうでもないんだ。それだよね……」

 

と、最後は視線を落とした。

ミクリオが慌てて、

 

「そ、そんなつもりはないぞ!レイも大切だ!」

 

と、言う姿を見たスレイは腕を組んで、

 

「うん。わかった。二人とも、もといゼロは思いっきりエドナみたいにミクリオで遊んでるって。」

「どういう意味よ。」

 

エドナがスレイを睨み上げた。

スレイは視線をサッと外した。

と、レイはクルリと回って、

 

「さて、冗談はここまでにして。」

「冗談⁉」

 

ミクリオは目を見開いた。

レイはスレイを見上げ、

 

「で、その旅に聖主マオテラスも連れて行くの?お兄ちゃん。」

 

ゼロ以外の者は固まった。

そしてスレイを見る。

スレイはキョトンとして、

 

「ダメか?旅は多い方が楽しいだろ?」

「いやいや、スレイ!お前、聖主だぞ!確かに色々と話ができればいいなとは思うけど!」

「そうですわ、スレイさん!マオテラス様を引っ張り出してきちゃうなんて。」

 

ミクリオとライラは詰め寄った。

ザビーダがニッと笑って、

 

「そりゃあ、ビックリだ。が、面白そうじゃないか。」

「そうね。で、マオ坊はそれに納得しているの?」

 

エドナも傘を閉じ、真剣な表情で言う。

スレイの中から光のドラゴンが現れ、レイを見る。

二人は目で語り合う。

レイは彼らを見て、

 

「納得してるみたいだよ。聖主としてではなく、一人の天族として旅に同行するって。」

 

と、ミクリオは目を輝かせ、

 

「これが、本物の聖主マオテラス!これは凄い!」

 

聖主マオテラスを見上げていた。

その様子を見たレイは腕を組み、

 

「……確かにこれじゃあ、色々とまずいか……」

 

レイは聖主マオテラスに近付き、こそこそと話す。

聖主マオテラスは頭を下げる。

レイが手を当てて、聖主マオテラスを魔法陣が包み込む。

光が溢れ、スレイ達は目を瞑り、腕で守る。

光が収まり、彼らが目を開ける。

彼らの見る先には、さっきまでそこに居た白きドラゴンではなく、一人に天族の少年。

彼は照れるように、

 

「これじゃあ、ダメかな。」

「マオテラスが子供になった!」

 

ミクリオは目を見開いた。

スレイはニッと笑って、

 

「いや、カッコイイよ。よろしく、マオテラス。」

「本当?あ……でも、それもすぐ聖主ってばれちゃうから。」

「それもそうか……。じゃあ、なんて呼べばいい?」

「スレイが決めていいよ。」

 

聖主マオテラスは微笑む。

ミクリオがスレイを見て、

 

「スレイ!聖主に変な名前を付けるなよ!」

 

スレイは腕を組み、考え込む。

 

「う~ん……じゃあさ、マオテラスって意味が『生きる者』。で、現代語で“ライフィセット”なんだ。だからライフィセットって呼んでもいいか?」

 

スレイが聖主マオテラスを見る。

彼は驚いたように彼を見る。

そしてレイとゼロも驚き、ザビーダはニッと笑う。

スレイは頬を掻き、

 

「やっぱ、ダメかな……」

 

聖主マオテラスは首を振り、嬉しそうに言う。

 

「ううん。それがいい。そう呼んで。僕は天族ライフィセット!よろしくね。」

「ああ!改めてよろしくな、ライフィセット。」

 

と、互いに笑い合う。

ライラやエドナ、ミクリオも話に加わり、盛り上がっていく。

 

レイはザビーダを見て、

 

「面白い結果になったね。」

「だな。」

 

ザビーダはニッと嬉しそうに笑う。

レイはライフィセットの元に駆けて行き、

 

「私はレイ。改めてよろしくね、ライフィセット。」

 

ライフィセットが目をパチクリした。

レイは彼を見て、

 

「お兄ちゃんに、仲間は名前で呼び合うものだって教えてもらったの。」

 

レイは彼の耳に顔を近付け、小声で言う。

 

「それに、約束したからね。一緒に居るときは名前で言うって。」

「うん。」

 

ライフィセットも笑う。

 

しばらくして、ライフィセットは驚いていた。

彼の見る先には、スレイとミクリオとワイワイしているレイがいる。

ライフィセットは横にいるゼロを見上げ、

 

「なんか……アレが裁判者さんだと思うと違和感が……」

「だよねー。俺も最初は驚き満載だった!」

「……でも、審判者さんはあんまり変わってないよね。」

「えー、そう?」

「うん。」

 

ゼロは腕を組む。

それをライフィセットは苦笑いする。

彼は空を見上げ、

 

「でも……スレイの先代導師ミケルが、君達を連れて来た時はびっくりしちゃった。それに、カムランで過ごした時間は短かったけど……楽しかった。あの場所の封印を解いた時は、もっとびっくりしちゃったけど。」

 

審判者ゼロも空を見上げ、

 

「そうなんだよー。おかげで、裁判者には物凄く怒られちゃったけどね。でも、俺はミケルの目指す夢を成し遂げられるか、見てみたかったのは本当だよ。出来ることなら、あのままただの人間として、彼の友として、あの村で過ごしたかった。けど、それはもう出来ない。」

 

審判者ゼロは、楽しく会話をしているスレイ達を見て微笑んだ。

 

「だけど、彼と彼の妹が繋いだ希望の夢はまだ見れる。」

「そうだね。希望も、夢も、まだまだ始まったばかりだ。」

 

そして二人は互いに見合って、笑った。

そこにレイも加わり、導師ミケルとの昔の思い出を語るのであった。

 

夜、木にもたれ爆睡しているスレイ。

その横にミクリオが寝ていた。

そして彼の足を枕にして、レイが寝ている。

ゼロはゆらゆらしながら、

 

「レイとミクリオ取られちゃった。」

「それよりも、あれだけ寝て、まだ寝るのね。」

 

エドナが呆れ顔になる。

ライラは苦笑して、

 

「だからではないですか。久々に起きて、思いっきりはしゃいで、疲れてしまったのではないでしょうか。」

「かもなぁー。」

 

ザビーダ笑いながらそういう。

ライフィセットはそんな彼らを見て微笑んでいた。

エドナが目を細め、

 

「ライフィセット坊や……長いから坊でいいわね。で、なんであんたはついてくる気になったワケ?」

「ん~と、スレイから一緒に行こうって言われてたんだ。遺跡を見たり、世界を見て回ったり、人や天族に関わったり、色々一緒にやった方が楽しいって。それに、僕としても旅をしたかったのはホントだよ。」

 

ライフィセットは笑顔で言う。

ザビーダはライフィセットの肩に手を回し、

 

「いいねー、これからヤンチャしようぜ、ライフィセット♪俺様、何でも教えてやるぜ。」

 

と、そこにシュバッと言う音が鳴る。

 

「死にたいの?てか、死になさい!坊に変なことを教えるんじゃないわよ。」

 

エドナは、傘をザビーダの目の前に突き出していた。

ザビーダはそれを白羽取りをして、傘を受け止めていた。

 

「おいおい、エドナァ~。何を考えてるんだい♪」

「もういいわ。ここで死になさい‼︎」

 

エドナはさらに力を入れる。

ザビーダは踏ん張り、

 

「そんな大声出しちゃうと、ボウヤ達が起きちゃうぜ♪」

 

ザビーダはチラッと寝ているスレイ達を見る。

エドナは傘をどかし、ノルミン人形を握りつぶす。

ライフィセットが目を見開き、『フェニックス―⁉』と、心の中で叫んでいた。

それを見ていたゼロは笑顔のまま、

 

「ねぇ、主神さん。」

「なんですか、ゼロさん。」

 

ライラがお茶を飲みながら、すました顔で聞く。

ゼロは横目で彼女を見て、

 

「ライフィセットに言わないの?あれがただの人形だって。」

「……きっと大丈夫ですわ。それになんとなくですが、これはエドナさん自身が言わないといけない気がします。」

「そ。だけど、それは早めにしないと……ライフィセットが、あの陪神さんが人形を握りつぶす度にああなるよ。」

「……きっと大丈夫ですわ。多分……」

 

と、ライラは遠くを見るような目でその光景を見る。

そしてライラが、持っていたお茶を置く。

静寂が訪れた。

だが、その静寂を壊す叫び声が響く。

 

「我は来たれり!想いをぶつけに我は来た!勝負だ、裁判者!」

 

と、決めポーズを決めてノルミン天族フェニックスが登場した。

ライフィセットが、エドナの傘に付いている人形と天族フェニックスを見比べ、

 

「フェニックスが二人になった⁉」

「否、我が本物なり!そしてあの乙女の側に居る我も、我の心なり!」

 

と、再び決めポーズを決める。

エドナが人形を思いっきり握りつぶす。

 

「うるさいわね、相変わらず。それより静かにしなさい。でないと――」

「あれ?フェニックス?」

 

スレイが伸びをする。

ミクリオも起き、

 

「ああ、道理で暑苦しいわけだ。」

 

と、ノルミン天族フェニックスを見る。

そしてノルミン天族フェニックスは、スレイの足を枕にして寝ているレイを指差し、

 

「さぁ、勝負だ!裁判者!」

「待ってよ、フェニックス。理由は何なんだ。」

 

スレイが構えている彼を見る。

ノルミン天族フェニックスは拳を握りしめ、

 

「我が一族、ノルミン達の独立の為だ!平和になったからこそ、我はノルミンのノルミンによるノルミンのための覇権を今度こそ、打ち立ててみせる!」

「なんでまた。」

 

スレイが若干呆れ気味に言う。

彼の瞳が燃え上がり、

 

「決まっておろう!今がチャンスなのだ!今こそ我らの力を広めるのだ!」

「けど、前にレイが『裁判者はもう面倒なので関わらないからね。少なくとも、意見がまとまるまでは。てか、関わりたくない』とかなんとか言ってたような……」

 

スレイ達はが腕を組んで思い出す。

ミクリオがノルミン天族フェニックスを見る。

彼からは汗が流れ出ている。

 

「……この様子だと、まとまってない見ただな。」

「なのに仕掛けるのか……」

 

 

スレイは苦笑する。

スレイとミクリオが、ノルミン天族フェニックスと話している傍ら、ライフィセットはザビーダに小声で聞いていた。

 

「もしかして……かなりアイゼンの妹にこき使われてた?前にグリモ先生がこき使い過ぎると独立戦争がうんぬんかんぬん言ってたから。」

「あー……ま、お前もエドナの傘の人形を見れば、何となく理解できるだろ?」

「あ、うん……それはなんとなく……」

 

ライフィセットは視線をノルミン天族フェニックスに向ける。

その彼は再び構え、

 

「さぁ!いざ、尋常に勝負!」

「俺、知ーらないと。」

 

と、ゼロがその場から離れる。

エドナは立ち上がり、傘を広げ、

 

「勝手にやって、勝手に叩き潰れなさい。」

 

彼女も離れ始める。

ライラも立ち上がりながら、その場から離れる。

 

「フェニックスさんらしいと言えばらしいのですがね……」

 

ザビーダも立ち上がり、

 

「よっし!行くぞ、ライフィセット。」

「え⁉えぇ⁉」

 

ザビーダは困惑するライフィセットを抱えて離れ始める。

スレイとミクリオは互いに見合って、レイを見下ろす。

レイはムクりと起き上がると、

 

「……せっかくお兄ちゃん達と居たのに……!」

 

レイはノルミン天族フェニックスを睨みつける。

そして影が彼を薙ぎ払った。

だが、彼は体勢を整え、

 

「まだまだ!」

「ウザい!」

 

と、レイの影とノルミン天族フェニックスの戦いが月明かりの元、始まった。

そんな中、スレイはハッとする。

 

「ミクリオ!レイがいつの間にか、『ウザい』なんて単語を!」

「そういえば!エドナ!」

「なんでそこでワタシになるのよ!」

 

戦いの巻き添いになる前に走り込んできたスレイとミクリオは、エドナを見る。

エドナは人形を握りつぶす。

ライフィセットはハラハラしながら、戦いを見つめる。

 

「だ、大丈夫かな……」

「フェニックスが喰われない限りは大丈夫だろ。多分。」

「多分⁉」

 

ザビーダが視線を外しながら言う。

ライフィセットはザビーダを見上げた。

ライラがゼロを見て、

 

「あれはどうなるんでしょうか。」

「さぁ、危なくなって来たら……どうしよっか。」

「はぁ……」

 

ゼロは笑顔のまま、ライラを見るのであった。

 

翌朝、レイは影にノルミン天族フェニックスを締め上げ、歩いていた。

ライフィセットはワナワナしながら、締め上げられているフェニックスを見ている。

スレイが苦笑して、

 

「レ、レイ……そろそろ、フェニックスを離してやらないか。」

「いくら、フェニックスの悪ふざけだけだったとしてもさ……」

 

ミクリオも苦笑していう。

レイはムッとしながら、

 

「フェニックスは、離すとまた戦い出すから、このままの方がいい。少し頭を冷やさせないと。」

 

と、レイはフェニックスを締め上げている影が、さらに彼を絞め上がる。

スレイ達はさらに苦笑いするしかなくなった。

 

しばらくたって、休息を取るためそれぞれ動いていた。

レイは休息場所を決め、準備をしていた。

森の中でレイは準備が終わり座って、スレイ達を待っていた。

そこに、少女の声が響き渡る。

 

「お前!そこに絞め上がげているそのお方は、ノルミン天族様ではないか!」

「……だったらなに?」

 

レイはその少女を見る。

クリーム色の肩につくかつかないかくらいの短い髪。

だが、右房がカールのかかった髪となって結い上げられている。

瞳は決意に満ちた緑色の瞳。

槍を構えた騎士の少女は、

 

「まさか……お前は憑魔か!そうかなのだな!ならば、致し方ない!」

「ちょっと、ちょっと!アメッカ!子供相手に何やってんのさ⁉︎」

 

と、木の上から一人の少女が降りてきた。

腰には二本の短剣を携え、長い赤い髪を左に結い上げていた。

そしてその両肩にはシルクハットで顔を隠したノルミン天族と魔女の帽子をかぶったノルミン天族の姿がる。

 

「邪魔をしないでくれ、ウィク!あれは憑魔だ!あのノルミン天族様を助けなければ!」

 

赤い髪の女性が振り返り、レイを改めて見る。

と、彼女の肩に乗っているシルクハットで顔を隠しているノルミン天族は、レイを見て悲鳴を上がた。

 

「ビエーン!こ、この気配は裁判者でフ!てか、フェニックス兄さん⁉何をやってるでフか!そもそも、裁判者は何故に子供姿でフか⁉︎?」

 

締め上げられているノルミン天族フェニックスは、拳を握りしめる。

 

「ぐぬぬ、不覚なり……!」

「相変わらずのバカねぇ……」

 

と、もう一人赤い髪の女性の肩に乗っていた魔女の帽子をかぶったノルミン天族が呟いた。

シルクハットで顔を隠しているノルミン天族の、裁判者に対する質問には答えなかった。

肩に乗っているシルクハットで顔を隠しているノルミン天族を見て、赤髪の女性は聞く。

 

「ビエンフー、あんたの知り合い?」

「ウィク姐さん、お願いでフから逃げましょうよ~!」

「ビエンフー様のお知り合い!ならば、なおさらお助けしなければ!」

 

だが、クリーム色の髪の女性アメッカと呼ばれていた者は、レイに槍を突きつけた。

だが、レイは動かない。

なぜなら、影が彼女の槍を掴み、

 

「……ハイランドの姫がこんなに短気なんて……」

「だよねー、あたしも最初思った。」

 

と、赤い髪の女性は腕を組んで頷く。

レイはため息を付き、

 

「まぁ、似てると言えば似てるのかな?でも、なぁー……」

 

と、レイは考え込む。

クリーム色の髪の女性アメッカは槍を引っ張る。

そして引っ張り出した槍を再び構える。

横目で赤い髪の女性ウィクと呼んだ者を見て、

 

「ウィクも手伝って!」

「えぇー……」

「ウィクだって解るでしょ!あの影は穢れを纏っている!」

「まぁー、それりゃあそうなんだけど……」

 

赤い髪の女性ウィクは腰にある二本の短剣を抜き、

 

「仕方ない。あのノルミン天族を一先ず助けるか!」

「じゃあ、少しだけ遊んであげる。」

 

レイは構える二人に小さく微笑む。

クリーム色の髪の女性アメッカが、槍を突き出す。

レイはそれを右や左へと避けていく。

後ろに回り込んだ赤い髪の女性ウィクが短剣で、切り裂いてくる。

レイはそれを後ろに一回転して彼女の後ろに着地する。

それをしばらく繰り返した。

二人は息を整え、

 

「こ、この子、意外にできる!」

「さ、流石はノルミン天族様に手を出す憑魔というわけか!」

 

レイは少しムッとする。

反論する前に、

 

「そうでフよ!裁判者を敵に回すと、とても怖いんでフから!今からでも遅くないでフ!逃げるでフ〜‼︎」

 

シルクハットで顔を隠しているノルミン天族が、赤い髪の女性ウィクにしがみ付く。

魔女の帽子をかぶったノルミン天族がため息を付き、

 

「そうね。面倒事に巻き込まれるのはイヤよ。大方、裁判者を怒らせるような事をしたアレの自業自得。」

 

レイは赤い髪の女性ウィクの肩に乗っているノルミン天族達を見る。

レイが口を開けようとした時、

 

「隙あり‼︎」

 

クリーム色の髪の女性アメッカが槍を回して、影に締め付けられていたノルミン天族フェニックスを助け出した。

彼はクルリと回転して、決めポーズを取って着地する。

 

「解き放たれたなり!気高き、そして美しい姫君よ、感謝するぞ。」

「いえ!お助けできて良かったです!」

 

クリーム色の髪の女性アメッカはグッと拳を握りしめる。

ノルミン天族フェニックスはレイを見て、

 

「いざ!ノルミンのノルミンによるノルミンのための覇権を今度こそ、打ち立ててみせる!」

「お手伝いします、ノルミン天族フェニックス様!」

 

と、クリーム色の髪の女性アメッカは再び槍を構え出す。

赤い髪の女性ウィクは武器をしまい、頭をかきながら、

 

「なんか、面倒事に巻き込まれちゃった……」

「だから言ったのよ。と言うより、まだ言ってたのね。」

「ビエーン!もうイヤでふーー‼︎」

 

魔女の帽子をかぶったノルミン天族とシルクハットで顔を隠しているノルミン天族も各々落ち込む。

 

そしてクリーム色の髪の女性アメッカが槍を再び突き出したのを、レイは横に避けると、

 

「とおぉーー‼︎」

 

ノルミン天族フェニックスの蹴りがレイの顔にヒットした。

レイは一歩下がり、

 

「…………」

 

俯く。

しかも無言で。

これには彼らも、動きを止めて黙り込む。

と、レイの肩が小刻みに震え出し、

 

「……絶対に喰い殺す‼︎」

 

影が複数出できた。

 

ーーレイを置いて薪拾いをしていた審判者ゼロは、

 

「いやー、レイってばいつになったら落ち着くかなぁ〜。」

「早くなんとかしないと、フェニックスが殺されちゃうよ。」

 

同じく薪拾いをしていたライフィセットが、今も締め付けられているであろうノルミン天族フェニックスの事を思い出す。

 

「あー……うん。それはそうなんだけどねぇ……」

「ま、今はムリね。あのバカが頭を冷やさない限り、おチビちゃんの機嫌は直らないわ。……あのバカが本当の意味で、バカじゃなければの話だけど。」

「さ、流石にそこまで馬鹿ではないと思われますわ……。ただ、真面目……いえ、暑すぎるだけであって……」

「そりゃー、フォローになってないぜ、ライラ。」

 

食材集めをしていたエドナ・ライラ・ザビーダが審判者ゼロ達と合流する。

審判者ゼロはため息を付き、

 

「でも、なんとかしないといけないのは本当だよ。いくら彼の能力があるからといって、あの影は穢れのようなものだしね。何かしらの手を打っといた方がいいと思う。」

 

と、言った審判者ゼロだが、空を見上げて絶句する。

そこに明るい声が響き渡る。

 

「もうみんな集合したのか。最後はオレらかぁー。」

「ま、ともかく、レイのところに帰ろう。随分待たせてるからな。」

 

水汲みに行っていたスレイとミクリオが合流する。

スレイは苦笑いで、

 

「だな。フェニックスも心配だし。」

「うん、帰ろう!すぐ帰ろう!」

 

審判者ゼロは猛ダッシュして、走っていく。

その姿を見たライフィセット以外の彼らは各々……

 

「何かあったわね。」「何かありましたわね。」「何かしでかしたな。」「やっちゃったか……」「予想していたとはいえ、やったか……」

 

エドナは半眼、ライラは肩を落としてため息をつき、ザビーダは帽子を深くかぶる。

スレイは頬をかき、ミクリオは片手で目元に手を置く。

そんな彼らに、ライフィセットは?マークが浮かぶ。

 

「何が起きたの?」

「「「「災厄なこと。」」」「災厄なことよ。」「災厄なことですわ。」

 

そう言って、彼らは走り出す。

ライフィセットは困惑しながらも、彼らを追って走る。

そして驚愕した。

そこにはマジギレした裁判者こと、小さな少女レイがいた。

彼女は影を使い、ノルミン天族フェニックスとクリーム色の髪の女性と対峙していた。

 

「……スレイ、パス。」

「ええ⁉︎ス、スレイに振るの⁉︎」

 

審判者ゼロの言葉に、ライフィセットが眉を寄せた。

審判者ゼロはライフィセットを見下ろし、

 

「……ミクリオの方が良かった?」

「いやいや、審判者さんがなんとかしないと!ほら、確か止められるんでしょ⁈」

 

ライフィセットは完全諦めモードに入っている審判者ゼロはさに言う。

かれは遠い目をして、

 

「レイは無理。むしろ、俺よりスレイとミクリオの方が丸く収まる……はず?」

「それでも疑問系なの⁉︎」

 

ライフィセットのアホ毛がピンと張った。

スレイとミクリオは互いに見合い、

 

「オレはレイをなんとかする。」

「僕はフェニックスと……あの彼女か。」

「安心なさい、ミボ。ワタシも手伝ってあげるわ。あのバカを叩き潰すの。」

 

エドナが鋭く睨んで言った。

二人は別の意味で恐怖する。

無論、ライフィセットも心の中で、

 

『ア、アイゼンの妹さん怖い……』

 

と、エドナから距離を置く。

そして三人は戦闘の中に飛び込んでいく。

エドナが天響術を繰り出し、レイ達の間には岩が突き出て、レイとノルミン天族フェニックス・クリーム色の髪の女性とを離らかす。

岩が戻り、ミクリオがノルミン天族フェニックスとクリーム色の髪の女性の前に出て、

 

「そこまでだ、フェニックス!これ以上、レイを怒らせるな。」

「そうよ。大方、またバカしたんでしょ。」

 

さらにエドナが不機嫌そうに言う。

クリーム色の髪の女性は、ミクリオとエドナが天族と解ると、

 

「で、ですが、あの少女は憑魔でして……。なにより、ノルミン天族様の未来の為にも……」

「バカね。今相手にしている子を本気で怒らせたら最後、世界は滅びるわ。」

「な、なら!なおさら倒さねば‼︎」

 

クリーム色の髪の女性は槍を構える。

ノルミン天族フェニックスに至っては、最早エドナの睨みを見た瞬間には黙り込んでいた。

そしてレイの前にはスレイが立ち、

 

「レイも、もう止めるだ。やり過ぎだ!」

 

スレイが眉を寄せる。

レイの影はピタリと止まり、戻っていった。

そしてレイは俯く。

その肩が小刻みに震え出し、

 

「……お、お兄ちゃんに嫌われたぁ〜‼︎」

 

と、泣き出した。

そしてスレイの横を通り、ミクリオにしがみ付く。

 

「フェニックスが調子に乗ったのが悪いんだもん‼︎」

 

ミクリオはレイを抱き上げ、

 

「な、泣かなくても大体予想はつくけど、レイもやり過ぎたのは自覚してるだろう?」

 

レイは頷く。

ミクリオは小さく微笑み、

 

「じゃ、わかるよね。」

 

レイはスレイを見て、

 

「ごめんなさい、お兄ちゃん。」

「わかればいいさ。」

 

スレイはニッと笑う。

エドナはチラリとクリーム色の髪の女性アメッカを見て、

 

「あれでも憑魔と言えるかしら?」

「で、ですが……あの影は……」

 

槍を下ろし、困惑する女性。

審判者ゼロが近づき、

 

「俺らはちょっと特殊でね。実はーー」

 

審判者ゼロが彼女に軽く説明する。

それを聞くにつれて、彼女はワナワナ震え出し、

 

「も、申し訳ありませんでした!そ、そんな方とはつゆ知らず、無礼なことばかり‼︎」

「いやー、アメッカがあるご迷惑おかけしました。」

 

と、戦いが終わり、歩いてきた紅い髪の女性ウィクが頭を下げる。

 

「……あれ?この感じ前にも……」

 

勢いよく頭を下げる彼女の姿に、審判者ゼロはハイランドの姫騎士アリーシャとスレイの従士をしていたロゼを思い出す。

そして納得した。

 

「これは、これで面白いかも。」

 

と、早く話していた審判者ゼロ達。

シルクハットで顔を隠しているノルミン天族が、

 

「ビエーン!あ、あの裁判者が泣くなんて……なんの災厄の始まりでフか⁉︎」

「だよねー、いま僕もびっくりしちゃった。」

 

そんな彼に、ライフィセットが話しかける。

シルクハットで顔を隠しているノルミン天族は驚き、

 

「マーー」

「ライフィセット、でしょ。」

 

ミクリオから降りたレイが、笑顔で彼を見る。

シルクハットで顔を隠しているノルミン天族は後ろに下がりながら、

 

「ビエーン!お助け〜‼︎」

 

と、泣き出した。

レイはそれをスルーする。

魔女の帽子をかぶったノルミン天族が、

 

「久しぶりね、ライフィセット。」

「うん。グリモ先生も元気で良かった。」

 

ライフィセットは嬉しそうに笑う。

魔女の帽子をかぶったノルミン天族はレイを見て、

 

「で、貴女はどういった心境かしら?」

「ん?私は裁判者であると同時に、レイと言う人間なだけだよ。」

「あっそ。」

 

レイは目を細める。

二人は無言の会話をした後、互いに違うところを見る。

レイの視線の先にはスレイ達がいる。

クリーム色の髪の女性アメッカと、赤い髪の女性ウィクと楽しげに話していた。


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