テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第六十七話 オマケ

これは裁判者が災禍の顕主と共に居た頃のこと……

 

――マギルゥ奇術団の続き

ヘラヴィーサの街で、マギルゥが興行師に話し掛ける。

 

「すまぬが、お笑い公演をやらせてもらいたいんじゃが、いいかの?」

「かまわんが、あまり目立たないようにな。聖寮に目をつけられるぞ。」

「ふふん、爆笑コンビ“魔女と少年”に、それは無理な注文じゃなー。」

 

マギルゥはニヤリと笑っていた。

ライフィセットがマギルゥを見上げ、

 

「魔女と少年……僕の出番⁉」

「そうじゃ。お主がボケで、儂がツッコミ。安心せい。多少すべっても、お主が愛想をふりまけば、かわいー、かわいー大ウケじゃ。儂が書いた台本は覚えたの?」

「うん、なんとか。」

「さすがじゃな。じゃが、真面目に台本をなぞるだけでは、笑いの門は開かんぞ。お主なりのアドリブ――具体的にはコビコビなお愛想で、お客様の心をつかむのじゃ!」

「できるかな、アドリブなんて……?」

「お主ならやれる。見つけるんじゃ、新しい自分を!具体的にはコビコビのコビを。」

「……うん、やってみる。」

「よっし!その意気で本番じゃ!」

 

マギルゥはライフィセットを連れて歩いて行った。

 

裁判者はいつものように空を見上げていると、

 

「坊のヤツ、『お客さんとの絆を大切にしたい』などと、芸人としても人としても正しいことを言いおってからに!おかげで儂の台本が悪いせいになってしもうたわい!なぜなのじゃ~‼」

 

と、海に向かって叫んでいた。

そして海を指差し、

 

「今度こそは!今度こそは成功させてやるからなー‼」

 

彼女は大声で叫ぶ。

 

それからしばらくして、ストーンベリィの街に来た。

マギルゥは興行師に話し掛ける。

 

「もし。儂ら、お笑い公演をやりたいんじゃが……」

「かまわんが、相方は……?」

「俺だ。」

 

アイゼンが興行師の前に歩み出る。

マギルゥは半眼で、

 

「……正直、お主が一番絡みづらそうなんじゃが?」

「ふん、見損なうな。こう見えても笑いには一家言ある。バンエルティア号に乗った気でいろ。」

 

彼は自信満々で言う。

マギルゥはさらに肩まで落とし、

 

「……すでに少し不安じゃが……まぁ、お主の威圧キャラをイジりつつ、儂がボケ倒せばいけるか――」

「いや、ボケは任せて貰おう。」

「……ま、任せていいのかえ?」

「ふっ……見せてやろう。死神のクールな笑いを。」

「い、嫌な予感がするのぅ……」

 

マギルゥは歩いて行くアイゼンの後ろで頭を抱えた。

船に戻って来たマギルゥはいつものように、

 

「何故、あの状況でドヤ顔ができるんじゃ!大体舌打ちを繰り返しただけじゃろうて!な~にが、『死神のクールな笑いを』じゃ!お主の威圧が多きすげて、お客が皆半笑いじゃったわ!」

 

そしてこれまた海を指差し、

 

「今度こそ!今度こそは負けぬぞ!儂はやり遂げるじゃ!」

 

そう言って、叫びまくっていた。

裁判者はそれを見下ろし、

 

「懲りないな。」

 

 

マギルゥはイズルトに立ち寄った先で、興行師に話し掛ける。

 

「お笑い公演をやらせてもらいたいのじゃが、枠はあるかの?」

「……あるが、イズルトの客は目が肥えている。ショッパイ芸じゃ、返り討ちだぜ?」

「ほう、そいつは腕が鳴るな。」

 

ロクロウの目が熱気が出る。

マギルゥは半眼で、

 

「おお、ロクロウ……妙にやる気じゃな?」

「実は前から舞台に興味があったんだ。勝負度胸を鍛えられそうだからな。」

「それ以上は鍛えんでもいい気はするが……まぁ、お主に多くは望まん。儂がしゃべくり倒すから、お主はテキトーに相づちを打っておればよいぞよ。」

「応。で、切りこまれたら、切り返せばいいんだろ?」

 

と、ちらりとの二刀の短刀を見る。

マギルゥは眉を寄せ、

 

「……言っとくが、刀は使用禁止じゃぞ。」

「はっはっは!」

「こら!『わかった』と言わんか⁉」

「さあいくぞ、マギルゥ!気合いを入れろよ!」

 

ロクロウは腕を組んで、笑いながらズカズカ歩いて行く。

マギルゥは腕を上げて、怒りながら、

 

「い、嫌な予感しかしないぞぉー!」

 

と、歩いて行く。

そしていつものように船に戻って来たマギルゥは、

 

「ぐわー!何故じゃ!何故なんじゃ!あれで、そこそこ受けてしまうとは!てか、ロクロウは制御不能の自由人すぎじゃー!なんじゃ、アルマ次郎って!何が丸いじゃ!く~、覚えておれ!次こそは、次こそはー‼」

 

と、叫びまくっていた。

裁判者はそれを見て、

 

「まだやる気なのか……」

 

クルリと、マギルゥが振り返り、

 

「そうじゃ!次はお主じゃ!覚悟せい!」

 

と、歩いて行った。

 

ある街に来ると、マギルゥは興行師に話し掛ける。

 

「すまぬが、特殊芸を見せたいのじゃが、大丈夫かえ?」

「ああ。ちょうど今、空きが一つできた所だ。」

「よぉしぃ、裁判者!ゆくぞ、お主と儂の芸を見せるのじゃ!ビエンフーをビシバシ贄に使ってな!」

 

と、マギルゥが拳を握りしめ、ガッツポーズを取る。

ビエンフーがマギルゥを見て、

 

「ビエーン!マ、マギルゥ姐さん⁉ボ、ボクはどうなちゃうでフか⁉」

「安心せい、ビエンフー。お主の犠牲は無駄にはせぬ。」

「マギルゥ姐さん⁉本気なんでフか⁉本気なんでフね⁉」

 

マギルゥがビエンフーをわしづかみにして、ニヤリと笑う。

ライフィセットがビエンフーを見上げ、

 

「大丈夫だよ、ビエンフー。もし、危なくなったら、可能な限り助けてあげるから。」

「それって、もはや危険大ありの助かる見込みゼロでフ!」

「大丈夫です、ビエンフー。本当に危なくなったら、助けてあげますよ。多分。」

 

エレノアがサッと視線を外す。

ビエンフーは目を見張り、

 

「ビエーン!多分って、多分って……エレノア様、僕を見捨てるでフか⁉」

「せいぜい頑張りなさい、ビエンフー。もしもの時は、あたしが喰らってあげるから。」

 

ベルベットが左手を開いたり閉じたりする。

ビエンフーはわなわなして、

 

「ビエーン‼どうしてそうなるでフか!普通に助けてほしいでフよ~!」

「諦めろ、ビエンフー。これがお前の運命だ。」

 

アイゼンが腕を組んで、頷く。

ビエンフーはアイゼンを見て、

 

「嫌でフよ、そんな運命!僕の運命はもっと華やかであってほしいでフ!」

「さぁ、行ってこい!男の度胸を鍛えに!」

 

ロクロウが笑いながら言う。

ビエンフーは泣き叫びながら、

 

「ビエーン‼こんな鍛え方は嫌でフー‼お助け~‼」

 

そして、ビエンフーと裁判者はマギルゥに連れて行かれた。

マギルゥが紐に括りつけ、逃げられなくなったビエンフーを片手で持ち、

 

「は~い、どうもどうも!とても奇妙なコンビ“マギルゥ&チャイバンシャ!ア~ンド凡霊聖隷ビエンフーじゃよ~!マギ~ンプイ♪」

「ビエーン!凡霊って言わないでほしいでフー!」

 

早速ビエンフーは泣かされた。

その時点ですでに数人意味は分からないが、笑っている。

マギルゥが裁判者を見て、

 

「ほれ、お主もあいさつせぬか。これは大事じゃぞ。」

「何故だ。芸を見せるだけだろ。」

「……仕方ない。では、ぽっぽ~って言ったら許してやるぞい。」

 

と、マギルゥは客席の斜め後ろを見る。

そこにはベルベット達がいる。

ベルベットが必死に声を抑えて拳を握りしめている。

マギルゥが裁判者を見上げ、

 

「お願いじゃ、チャイバンシャ!儂の顔に免じてお願いじゃ♪」

 

裁判者は視線を外し、

 

「ぽっぽ~……」

「小さい!もっと大きい声で!」

「知らん!言ったものは言った。」

 

と、裁判者はマギルゥを睨む。

マギルゥは一歩下がり、

 

「お、お主、以外にもツッコミもできたのじゃな!」

 

すると、客席で大笑いが起きる。

その中の一人に見覚えのある人物を見つけて、睨みつける。

マギルゥが裁判者を見て、腕を上げ、

 

「こりゃー!お客さんを睨んでどうするんじゃ!ほれ、芸を始めるぞい!」

 

さらに大笑いが起きる。

マギルゥは客を見て、

 

「さてさて、本日行いますのは――」

「消える人だ。」

「ほえ?」「ビエーン!」

 

マギルゥが目をパチクリし、裁判者を引き寄せ、

 

「何を言い出すのじゃ!誰を消すんじゃ、誰を!」

「……誰だろうな。少なくとも、どこに落ちても生き延びる奴だ。安心しろ。」

「いやいや、無理じゃ‼安心できぬは!」

 

裁判者はマギルゥを離し、客席を見て、

 

「では、お前に消えて貰おう。」

 

と、大笑いしていた少年を見る。

少年は笑いを止め、

 

「え‼ちょ⁉待って、待って!」

「では、芸の始まりだ。」

 

裁判者の足元の影が出て、客の上を通っていき、斜め後ろ席に居た少年を掴み上げる。

少年は裁判者を見て、

 

「ちょっと、そこまで怒らなくてもいいじゃん!」

「さらばだ、審判者。」

 

と、指をパチンと鳴らす。

彼は影にパクッと喰べられて、消える。

客に動揺が走る。

マギルゥはビエンフーを掴み、

 

「さてさて、次は――」

「ちょっと!なにもマグマの中に落とさなくてもいいじゃん!酷いなー、全く!」

 

と、消えたはずの少年が、マギルゥの後ろから現れる。

客が立ち上がり、

 

「おおー!凄いぞ!あの一瞬であそこに移動したのか!」

「こりゃあ凄い!」

 

と、拍手を送る。

裁判者はくるっと回り、歩いて行く。

その後ろを怒りながら付いて行く審判者。

マギルゥは引きつった笑顔のまま、

 

「どうもー、ありがとうございました~!」

 

と、歩いて行く。

その際に、ビエンフーを握りしめる。

最後にはビエンフーの悲鳴が聞こえたのだった。

マギルゥは興行師に話し掛ける。

 

「で、どうじゃっただろうか……」

「うむ。とても凄いものを見せてもらぞ。だが、もう一人、忍ばせとくのなら言っといてくれないと。でも、客席に居るとはこれまた面白い!」

「そうか、それはよかった~……」

 

マギルゥ達は興行師から離れ、船の上に乗ると、マギルゥが半眼で、

 

「結果発表~、全員とコンビを組んでみた結果、お主らがま〰ったく使えんことがわかった。裁判者に関しては、邪魔が入るしのう。」

「ごめん……」

 

ライフィセットが肩を落とす。

ベルベットは拳を握りしめ、

 

「別に悔しくはないけど、そう言われると腹が立つわね。」

「じゃので、儂とビエンフーとのコンビでマジルゥに挑むことにする!」

「はいでフー!準備はできてるでフよー!こっちは危なくないでフからね!」

 

と、ビエンフーは腰に手を当てて、張り切る。

そしてマギルゥを見て、

 

「勝負ネタは十八番の『ネコエンペラー』でフかー?それとも鉄板ネタの『機械人の逆襲』?」

「いや、ここは破壊力重視じゃ。『イズチのカミナリ様』でいく。」

「といフことは、山場のカミナリを連続で落とすくだりは……」

「うむ、客の反応にあわせて、アドリブで重ねられるだけ重ねる!ぬかるなよ!」

「了解でフー!ツカミのトーク用に、ご当地ネタも調べておきまフー♪」

「頼むぞよ。」

 

二人は盛り上がって行く。

それを見たロクロウは、

 

「阿吽の呼吸だな。」

「最初からビエンフーでよかったんじゃない。」

「つまりこれが、マギルゥが用意したオチということか。」

 

ベルベットとアイゼンは呆れたように彼らを見る。

エレノアは拳を握りしめ、

 

「それよりも、早くマジルゥちゃんに会いに、王都に向かいましょう!」

 

そして王都に向かって、船は出る。

王都に着き、広場でマジルゥが指を指して、

 

「勝負じゃ、マジルゥ!なるべく万全でない状態で、出てきやがれっ!」

「……マジルゥの公演は当分ないよ。」

 

興行師がマギルゥの前に出てきて言う。

マジルゥは眉を寄せ、

 

「なんでじゃ?儂とビエンフーのコンビ“板かまぼこ”に恐れをなして逃げたかえ?」

「いや、マジルゥが師匠と大げんかをしてな。家出しちまったんだそうだ。」

「なにがあったんですか……?」

 

エレノアが老人を見る。

彼は怒りながら、

 

「ふん、あいつが練習を休みたいなどと言うからだ。」

「そういうこともあるでしょ。遊びたい年頃なんだし。」

 

エレノアがそっけなく言う。

それが彼をさらに怒らせたようだ。

 

「とでもない!一日練習を休んだら、元に戻すのに三日もかかるんだぞ。」

「だとしても、理由ぐらい聞いてあげても……」

 

エレノアが眉を寄せる。

老人は腕を組み、

 

「聞くだけ聞いた。ザマル鎮洞とやらに行きたいと言っておったが、そんな理由では――」

「ザマル鎮洞⁉そこは、凶暴な業魔≪ごうま≫の巣ですよ!」

「なんだと⁉」

 

エレノアが目を見張る。

マギルゥは顎に指を当てて、

 

「ふぅむ、マジルゥがそこへ行ったとすると、儂の不戦勝は確定かものー。」

「そんなオチは認めません!マジルゥちゃんを捜しに行きますよ!」

 

エレノアがマジルゥを引きずって歩き出す。

ベルベット達はため息をついた後、その後ろをついて行く。

裁判者が、老人を見ると、

 

「……ルルゥ……」

「さて、どうなるかな。」

 

裁判者は歩き出す。

 

一向はザマル鎮洞にやって来た。

そこに悲鳴が響く。

 

「きゃああ‼」

 

そこに駆けて行くと、一人の少女が業魔≪ごうま≫に襲われそうになっていた。

マギルゥがそこを見て、

 

「見つけたぞ、家出娘じゃ!」

 

ベルベット達は彼女も前に出る。

エレノアが張り切って槍を構え、

 

「マジルゥちゃんはみんなの希望!」

「マギルゥちゃんが助けるぞい!」

 

マギルゥはニヤリと笑う。

敵を薙ぎ払い、薙ぎ払い続け、業魔≪ごうま≫達が自分達から逃げ出していった。

完全に業魔≪ごうま≫が居なくなると、

 

「……助けてくれて、ありがとう。」

 

彼らの背に、少女が声を掛ける。

彼らは振り返る。

そしてマギルゥが彼女を見て、

 

「聞いたぞよ。師匠に反対して飛び出したそうじゃな?」

「違う、そんなんじゃ……」

「言わずともわかるぞよ。儂にも面倒な師匠がおったからの。師匠なぞ、勝手なことを言うしか能がない生き物じゃ。粗探しばかりしおって、必死に努力しとる弟子の気持ちを知ろうともせん。」

 

マギルゥは腕を組み、思い出すように言う。

少女も俯き、

 

「うん……バルタ先生も、私がここに来ようとした理由も聞かずにダメだって……。いつもそう。芸がすべてで、なにを話しても踊りのことになっちゃうんだ。私はもっと、色々なことを話したいのに……。」

「そうじゃろう。そうじゃろう。そんなクソジジイに自分を殺して付きあう必要なんてないのじゃぞ?」

 

マギルゥは彼女を見据える。

だが、すぐにいつもの調子で、

 

「行く場所がなければ、マギルゥ奇術団に入れてやってもよい。」

 

少女は少し沈黙し、そして俯いたまま、

 

「あるのかな?そういう生き方も……」

「それはどうかな。」

「え?」

 

少女は顔を上げる。

マギルゥは、会話に入ってきた裁判者を見る。

裁判者は少女を見据え、

 

「お前自身はどう思っている。それでも、お前にとっては、全てが全て嫌ではなかったはずだ。そしてお前の師匠も少なからず、お前を想っている。厳しいのはお前を想っている証拠でもある。どちらも気付かぬ師弟愛と言うものだ。」

 

最後にマギルゥを見る。

マギルゥは眉を寄せて、ムッとしている。

裁判者は少女の後ろを見て、

 

「少なくとも、お前の師匠は自らの体の負荷よりも、お前が心配だと言うのは真実だ。」

 

そこに、何かを引きずる聞こえてくる。

そして男性の声が響く。

 

「無事か!ルルゥ!」

 

少女が振り返ると、動かない足を引きずってやって来る老人がいる。

彼女は目を見張って、

 

「先生!どうしてここに⁉」

「それはこっちのセリフだ!なぜこんな危険な場所に来た⁉」

「……この洞窟に薬草があるって聞いたんです。先生の後遺症に効く痛み止めの……」

「お前……わしのために……?バカ者が!お前の素晴らしい才能を、そんなことで犠牲にしていいと思うのか!」

 

老人は少女を見て怒鳴る。

エレノアが眉を寄せて、

 

「そんな言い方って――!」

 

だが、それをマギルゥが止める。

老人は俯き、

 

「ルルゥ……お前を最高の舞台家にすることだけが、わしの生きている意味なのだ。年寄りの身勝手だとわかっている。嫌ってくれていい……。」

 

マギルゥは彼らを見つめる。

そして老人が顔を上げ、

 

「だが、どうかその才能を無駄にしないでおくれ。お前の踊りはな。こんな時代にも明るさをもたらす、かけがいのない宝物なのだ。」

「先生……」

 

そして二人は見つめ合う。

マギルゥが腕を上げて、

 

「やいやいやい!悪い、悪い、安いでお馴染みのマギルゥ奇術団の前で、とんだ三文芝居をするのう!目ざわりじゃ!ピュ~っと立ち去れい!」

 

マギルゥは指を指す。

ベルベット達は呆れた目でマギルゥを見る。

少女はマギルゥに振り返り、

 

「え、急になぜ……?」

「ええい、お主らは場違いじゃと言っておるのじゃ!マギンプイ!」

 

マギルゥはクルッと回って、光とハトが辺りを飛び交う。

少女はそれを見上げ、

 

「きれい……」

 

マギルゥは少女を見て、笑みを浮かべる。

 

「これが世紀の大魔法使いマギルゥ姐さんの実力じゃ!三流舞踏家の芸など、相手にもならん。師弟そろって恐れ入るがいい!」

「恐れ入るもんですかっ!今の私じゃ敵わないかもしれないけど、先生が目指す舞踏は、あんたの魔法にだってまけないわ!私は、いつか理想の踊りに辿り着いてみせる!」

 

少女は腰に手を当てて、マギルゥを睨む。

老人が少女を見る。

 

「ルルゥ……」

「言うたな?ならばせいぜい師匠とともに精進するがよい!マギルゥ奇術団は、いつでも挑戦を受けるからの。」

 

と、笑みを浮かべるマギルゥ。

そして二人は出口に向かって歩いて行く。

その背を見て、エレノアはマギルゥを見て、

 

「マギルゥ、ありがとうございます。」

「は?なんのことじゃ?」

「柄にもなくマジルゥちゃんを導いてくれて。」

「さてはて、導いたかどうか……?」

 

マジルゥは視線を外す。

ベルベットが出口に方を見て、

 

「ええ。あの師弟がこの先どうなるかなんて、誰にもわからないわよね。」

「全くのう。ただ一人を除いて、はな。じゃが、師の期待に潰されるか、己の限界に絶望するか。師が弟子を、弟子が師を見限ることだってありうる。よしんば、マジルゥが師の理想を叶えたとしても、それが本当に幸せかどうか……」

「マギルゥ、それはあなたの……」

 

エレノアがマギルゥを見つめた。

マギルゥは遠くを見つめるような目で、

 

「ただのぅ……自分を必要としてくれる者がいるのなら、そやつと一緒にいたいと願ってしまうのが人情じゃろうて。」

 

そして裁判者を見つめる。

裁判者も彼女を横目で見ていた。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「弱いのね……人間って。」

「けど、それが人間ですよ。」

「……そうね。」

 

エレノアも眉を寄せて、ベルベットを見る。

その雰囲気に、

 

「おっと、柄にもなくオチのない話をしてしもうたわい。」

「熱でもあるんじゃない?」

「たまにはいいじゃないですか。」

「たま~には、のう。」

 

と、笑みを浮かべる。

そこにビエンフーがマギルゥを見て、

 

「あの~、姐さん。ボクが練習したネタはどうなるでフか?」

「用なしじゃ。」

「ビエーン‼」

 

マギルゥがニヤリと笑う。

ビエンフーは飛び去って行った。

ベルベットが苦笑して、

 

「できたわね、オチ。」

「じゃのう。」

 

その後、マギルゥがスキップで歩き出す。

裁判者もその後ろを歩き出す。

ベルベット達も苦笑した後、歩き出した。

 

~~Fin~~

 

――アイゼンとノル様人形

アイゼンは、かめにんに手紙を渡す。

ジッと見つ目る彼らに、

 

「言っとくが、これは妹への手紙だ。」

「妹さんの?」

「ああ。今は離れて暮らしているからな。」

「そっか……。」

 

ライフィセットが悲しそうに俯く。

かめにんがアイゼンを見あげ、

 

「やっぱりあれの入手は難しいっす。」

「やはりそうか。いや、構わん。」

 

アイゼンはそう言って、歩いて行った。

ライフィセット達がかめにんから聞き出したことで、ノル様人形を集めると幸運が来るらしい。

ライフィセットは何かを決め、ノル様人形をひそかに探し始めたようだ。

裁判者は船の上からアイゼンを見下ろし、

 

「大変だな、想いを繋げるのも。」

 

アイゼンは裁判者を一睨みした後、歩いて行く。

 

街でライフィセットがノルミン聖隷の人形を見つけた。

アイゼンはそれを取り、ライフィセットが嬉しそうに、

 

「よかったね、アイゼン。ノル様人形を四つ集まれば、幸運がくるって。」

「……かめにんから聞いたのか。」

「あ!ご、ごめん……」

「構わんさ。どうせ気休め程度にしか思っていない。」

「気休めじゃないよ。きっといいことが起こるはずだよ。」

 

ライフィセットがアイゼンに笑顔を向ける。

二人のノル様人形探しは続く。

裁判者はそれを見つめ、

 

「……気休め程度、ね。」

 

 

ライフィセットが、別の街で二体目のノル様人形を見つけ、

 

「アイゼン!あったよ、ノル様人形!」

「ああ。礼を言う。」

 

と、彼らの前に、またかめにんがやって来る。

 

「トータス、トークス!アイゼンさんにお手紙っす。」

 

アイゼンはその手紙を受け取る。

ライフィセットが見つめているのに気付き、

 

「見るか。」

「えっ、あ……」

 

と、困惑しているライフィセットにロクロウが近付き、

 

「よし!俺が読もう!」

 

ロクロウが手紙を開ける。

そしてアイゼンはロクロウを見据る。

 

「さて、読むか!どれどれ……」

 

ロクロウはニット笑って、手紙を読み始める。

 

「『貴様の冷酷さが可憐な乙女の心に、今日も涙雨を降らしている。悔い改めよ!さもなくば我にも考えがある!これが最後の警告なり!』……以上!」

 

裁判者はあるものを思い出し、眉少しだけ動かす。

それを聞いていた者は他にも、

 

「かなりキレてますね。」

「どんな悪さをして女子を泣かせたんじゃ?」

 

そこにエレノアが眉を寄せ、マギルゥはニヤニヤ笑い、ベルベットが呆れた目を向ける。

アイゼンがマギルゥを見据え、

 

「お前で試してやろうか?」

「くわばらくわばら、ケーキは別腹じゃ~。」

 

マギルゥは手を上げる。

ライフィセットが首を傾げ、

 

「可憐な乙女の涙雨って……妹のことじゃないの?」

「妹?」

 

アイゼンが眉を寄せる。

ロクロウが腰に手を当てて、

 

「おお、それはありうるぜ。兄貴と離れ離れじゃ、妹も寂しいよな。」

「兄貴のことが好きならね。」

 

ベルベットの言葉に、アイゼンが黙り込む。

エレノアが眉を寄せて、

 

「この手紙をアイゼンの妹が書いたというのですか?ずいぶん個性的な感じもしますが。」

「……俺の妹はこんな手紙は書かん。」

 

アイゼンは腕を組む。

マギルゥがニヤリと笑い、

 

「なら、妹の傍らにおる何者か……というか男が、妹の涙を受けてこの手紙を書いたことになるの~。」

「てめぇマギルゥ!妹に男が付きまとっているだと!誰だ!今すぐここに連れて来い!」

 

と、アイゼンはマギルゥを掴み上げた。

エレノアがハッとして、

 

「付きまとってるなんて言ってませんから!落ち着いてください、アイゼン!」

「そんなに心配なら、見に行けばいいのに。」

 

ライフィセットがアイゼンを見上げる。

アイゼンはマギルゥを放し、黙り込む。

ライフィセットが首を傾げ、

 

「会いに行ったことないの?」

「ずいぶん前に一度だけ、戻ったことがある。だが、俺が帰ってすぐ、近付に人間たちが集まり始め、たちどころに穢れが溢れ、業魔≪ごうま≫どもが妹を襲った。」

「それって、アイゼンのせいなの?」

「穢れの少ない、安全な場所を選んで移り住んだ、人間が簡単には近寄れない、険しい山奥だぞ?」

「偶然で済まされる状況じゃない、よね。」

「……それ以来、一度も妹には会ってない。」

 

アイゼンは拳を握りしめる。

エレノアはライフィセットが持っているノル様人形を見て、

 

「私はその人形を見て、微妙と思ってしまいましたが、そうですね。違いますね。私はいいと思います。」

 

アイゼンが困惑する。

エレノアは笑顔を浮かべ、

 

「もし、微妙だと思っても、気持ちのこもった贈り物なら、どんなものでも女子は嬉しいです。私も、お手伝いします。」

「お前にはやらんぞ。」

 

アイゼンは小さく笑う。

エレノアは腰に手を当てて、

 

「いりません!それに、アイゼンの大切な妹さんに送る人形です。慎重かつ大胆に捜しますよ!」

 

と、張り切り出す。

そんな張り切っていたエレノアが別の場所でノル様人形を見つけた。

それを手に取り、

 

「ノル様人形も、これで三つ目ですね。最後のひとつも頑張って探しましょう。」

「ああ。」

 

アイゼンはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。

マギルゥが辺りを見渡し、

 

「いつもなら、かめにんが来る頃じゃが……トータス、ゴータツ、ミトータツかのー。」

 

全員がマギルゥを呆れた目で見る。

ベルベットが一呼吸置き、

 

「ひょっとして、かめにんが強盗に遭って荷物を盗られて、ここに未だ到達できていない、って言いたいの?」

「さすがは我が弟子、ベルベットぽっぽ~。」

 

笑うマギルゥに、ベルベットは左手を握りしめる。

ロクロウは苦笑して、

 

「もう少し待ってみるか?妹からの返事も、そろそろ届く頃だろう?」

「いや、返事を期待して手紙を出しているわけじゃない。妹のもとへ帰らないことへの言い訳みたいなものだ。」

「帰れないのは死神の呪いのせいでしょ?どうして手紙や贈り物が言い訳なの?」

 

ライフィセットがそう言ったアイゼンを見上げる。

アイゼンは拳を握りしめ、

 

「妹のそばを離れてからすぐの頃は、妹の手紙には『危険でも構わない、一緒にいたい』と書いてあった。以前の俺なら、呪いを解く方法がないと判った時点で、妹を守る覚悟を決めて、戻ったかもしれない。だが、俺は変わった。アイフリードたちと出会って。」

「あの船に居場所を見つけてしまったのですね。だから、呪いが解けてもあなたは帰らない……」

 

エレノアがジッとアイゼンを見つめる。

ライフィセットがアイゼンを見つめ、

 

「妹はそのこと知っているの?」

「はっきり伝えたことはないが、気付いているはずだ。賢くて、思いやりのあるやつだからな。だから、あいつは俺に手紙の返事をよこさない。」

「アイゼンの生き方を尊重してるから?」

「頭では……な。だが、理解できたからといって、寂しい想いが消えたわけじゃない。返事をよこさないのは、抗議の意思表示なんだろう。」

 

アイゼンはさらに拳を握りしめる。

ロクロウが笑みを浮かべ、

 

「それでも手紙を書き続けるのは、兄としての贖罪の意思表示ってわけか。」

「そんな立派なものじゃないがな。」

「返事が来ないとわかっていて手紙を送り続ける兄。帰って来ないとわかっていて待ち続ける妹……」

 

エレノアが悲しそうに俯く。

ベルベットは呆れたように、

 

「……面倒くさい兄妹ね。はっきり自分の気持ちを伝えて、謝ればいいのに。」

 

アイゼンは黙り込む。

ベルベットは視線を落とし、

 

「……でも、大切に想う相手が生きてる。ちょっと羨ましいわ。」

 

そう言って、歩いて行った。

その後ろをライフィセットが追いかける。

裁判者は黙って歩くアイゼンに、

 

「案外、お前のように変で愉快な仲間と旅をするのではないか。」

「それが妹未来だとでも言うのか。」

「いや、その選択のひとつに過ぎない。全ては誰しもが持つ運命の選択次第だ。」

 

睨むアイゼンに、裁判者はそう言って、通り過ぎて行く。

そして彼らは最後のノル様人形を探し出す。

 

「ありました!ありましたよ、ノル様人形!」

 

エレノアがそれを持って掛けて来た。

マギルゥはくるりと回り、

 

「おお、ノル様人形コンプリート〰‼おめっとさーん‼」

「トータス、トータス!ついに極みにトータツっすね!いやぁ、皆さんの探索能力にはコーフクっす!」

 

かめにんが歩いて来た。

ベルベットがかめにんを見据え、

 

「あんたが探せないっていうから、手間暇かかったのよ。その分、次の取引でサービスしてもらうから。」

「ひどい……ひどすぎるっす〰。」

「そんなことより、なにか届けに来たんじゃないの?」

 

ライフィセットがかめにんを見る。

彼は手紙を取り出し、

 

「そんなこと、じゃないすっけど、アイゼンさんに手紙っす〰。」

「また例の手紙か。」

 

アイゼンは手紙を受け取り、読み始める。

 

「『一筆啓上。我の堪忍袋の緒は切れた。怒りの鉄槌を今くださん!監獄島にくるがよい。逃げても責めはせぬ。うぬが薄情かつ臆病な愚兄と判断するのみ』。」

「おいおい、こいつは果たし状じゃないか!面白そうだなぁ。行こうぜ!」

 

ロクロウがワクワクし出す。

ベルベットが呆れたように、

 

「単なる嫌がらせでしょ?放っておけば。」

「いえ、ここはきちんと処理しておくべきです。」

「僕も気になる。これを放っておいたら、アイゼンの妹にまでなにかするかもだし。」

 

エレノアとライフィセットがベルベットを見る。

アイゼンが手紙を握りつぶし、

 

「それだけは絶対にさせん。タイタニアへ行かせてもらうぞ。」

 

船に向かって歩き出す。

裁判者は横を通り過ぎる彼に、

 

「なら、今のうちに気持ちを整理させ、気持ちを伝える事だ。お前の特有の手紙でな。」

「貴様に言われるまでもない。」

 

彼は歩いて行く。

裁判者達も船に戻る。

 

そして監獄島につき、呼び出された場所の広い部屋に行く。

裁判者は部屋の中央奥にある木箱を見て、目を細める。

ロクロウは辺りを見て、

 

「誰もいないな……ん、なんだ、あの箱は……?」

「盟約の――そして、断罪の時は来たれり!」

 

声が響く。

ライフィセットが辺りを見て、

 

「なんだ?」

 

すると、木箱が光り出し、ガタガタ音を立てる。

そしてその中から、ノルミン聖隷が飛び出してきた。

エレノアが目を見開き、

 

「箱の中から、ノル様人形が⁉」

「なに、あんた?」

 

ベルベットが睨みつける。

ノルミン聖隷は彼らを見て、

 

「ふっ、冥土の土産に覚えておくがいい。我が名は――」

「何をやっているんだ、フェニックス。」

「おお、確かにノルミン聖隷のフェニックスではないか。そうかそうか、どうりで手紙が暑苦しかったわけじゃ。」

 

裁判者とマギルゥが彼を見る。

ビエンフーが驚きながら、

 

「ビエエ~ン!自称・ノルミン聖隷最強のオトコが、こんなところに関わってたでフか〰‼」

「自称に非ず‼我は裁判者に打ち勝ち、最強を手に入れた。」

 

ノルミン聖隷フェニックスは指を指す。

裁判者は彼を睨みつける。

 

「ノルミンの最強は名乗っていいと言ったが、お前に負けた覚えはないぞ。」

「何を言うか、我は貴様との勝負に勝ったのだ!我が名はフェニックス!ノルミン聖隷最強の漢なり!」

 

と、腰を振って、くるりと回り、決めポーズを決める。

裁判者が殺気出す。

それをマギルゥがなだる。

ベルベットが呆れた顔で、

 

「全部先に言われているんだけど?」

 

彼は肩を落とす。

アイゼンが彼を睨み、

 

「手紙をよこしたのはてめぇか。なんの真似だ?」

 

彼は顔を上げ、アイゼンを睨みながら、

 

「すべては天の導きなり。過日。我は、兄への想いがつづられた手紙を拾った。差出人を捜し出し、秘かに訪ねてみると、そこには一人の可憐な少女がいた。兄からの贈り物と、出せなかった手紙の山に囲まれて……な。」

「出せなかった手紙……?」

「一文字、一文字に込められた、兄への想い。便せんに落ちた涙の後に、我も涙した!」

 

と、再び肩を落とす。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「てめぇ!拾った手紙を読んだ挙句、人の部屋に勝手に入りやがったのか‼」

 

彼は顔を上げ、

 

「我が、道徳に反したことの非は認める!だが、我の正義は貴様の非常を許さぬ!使い古しの手袋を握りしめ、広い海に兄の無事を祈る、少女の瞳にかけて!」

「訳がわからん……てめぇはなにがしたいんだ!」

「その言葉、汝自身に問うがよい。」

「なんだと……」

「上っ面の言葉を重ねた手紙とオマケのガラクタで、何が伝わるというのだ⁉」

 

彼はキッとアイゼンを睨みつける。

ライフィセットが眉を寄せ、

 

「それは贖罪の……」

「笑止‼妹を心配する汝も、海賊と共に生きたいと望む汝も、どちらも本物であろう‼ならばなぜ、それを正直に伝えてやれぬ?それが、汝の流儀なのだとなぜ言わぬ!兄の流儀を許せぬような器の小さい女なのか、汝の愛する妹は‼」

「てめぇに説教される筋合いはねぇ!」

「ならば、力を示してみせよ。」

「なにが、ならばだ‼」

「我が勝った暁には、即座に妹と会ってもらう。だが我が敗れた時は、我になんでも命ずるがよい!」

 

そして、アイゼンと殴り合いが始まった。

裁判者は視線を外す。

 

「バカらしい。」

 

しばらくして彼は殴り合い、アイゼンが彼を殴り飛ばした。

彼は床に仰向けになって倒れ込む。

ロクロウが腕を組み、

 

「最強ってのは、まんざら嘘じゃなかったな。」

「強かったね……」

 

と、ライフィセットもアイゼンを見る。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「だが、死神にケンカを売った落とし前はつけてもらう。」

「えっ、アイゼンなにを……?」

 

エレノアが眉を寄せて叫ぶ。

マギルゥは半眼で彼らを見る。

裁判者もそれを見据えてみる。

ノルミン聖隷フェニックスが目を開き、くるっと回転して立ち上がり、決めポーズを取る。

アイゼンが彼を睨み、

 

「……やはりな。貴様の力は『不死鳥』。俺の『死神の呪い』と真逆の性質を持つ加護の力。」

「ふっ……気付いていたか。」

「じゃあ、フェニックスの『不死鳥』の力があれば、アイゼンの妹を守れるってこと?」

 

ライフィセットが首を傾げる。

ノルミン聖隷フェニックスはアイゼンを見て、

 

「……我は敗北した。なんなりと、好きに命じるがよい!」

「断る。」

「……なぜだ?」

「自分で自分の舵を取る……それが俺の流儀だ。そのせいで、妹に寂しい思いをさせていることも、それが身勝手な流儀だということもわかっている。だが、俺はこういう生き方しかできない。お前に命令することは、俺自信を否定することになる。だから、命令はしない。だが――」

「だが?」

「できるのなら、お前の力で妹を守ってやって欲しい。業魔≪ごうま≫や穢れ……そして、いつかあいつを襲うであろうドラゴンから。」

「ドラゴン……⁉汝はそこまで……」

「命令じゃなく……お前に頼みたい。」

「……友よ!その願いしかと受け止めた!ならば、友として我も汝に頼みがある。」

「なんだ?」

「汝の妹に、手紙を書いてやってほしい。汝の想いを正直につづり、伝えてやってほしい。手紙を書き終えるまで、我は待つ。」

「……その必要はない。」

「む?」

「出しそびれるうちに、汚れちまったがな。」

 

手紙を取り出し、ノルミン聖隷フェニックスに渡す。

彼は手紙を受け取り、

 

「友よ、この手紙、我が名にかけて妹に届けよう。そして、必ずあの娘の笑顔を蘇らせてみせる。なぜなら、我は不死鳥!我が名はフェニックス‼」

 

決めポーズを取る。

アイゼンは彼を見つめ、

 

「……頼んだぞ、フェニックス。」

 

そして彼はノル様人形と共に、荷物としてかめにんに運ばれていった。

ライフィセットはアイゼンを見上げ、

 

「いいこと起きたね。」

「ああ。なにごとも諦めるな、ということだ。」

 

アイゼンは小さく笑う。

裁判者は顎に指を当てて、

 

「のようだな。これもまた、運命か……」

 

一人呟き、歩いて行く。

 

ちなみに、ノルミン聖隷のグリモワールとビエンフーの話では、あまりこき使うと反乱や独立戦争を起こす問題児でもあるらしい。

それからしばらくして、アイゼンはかめにんから手紙を受け取る。

アイゼンはそれを嬉しそうに見る。

だが、途中から固まり、

 

「うぅ……」

「おい、なんて書いてあったんだ?」

 

ロクロウがアイゼンを見る。

彼は手紙から視線を外し、

 

「俺には読めん……代わりに呼んでくれ。」

 

アイゼンは手紙をライフィセットに渡す。

ライフィセットは手紙を読み始める。

 

「う、うん。『前略、お兄ちゃん。手紙、届きました。なぜかボロボロだったけど。お兄ちゃんの本当の気持ちが伝わってきました。今さら感は否めないけど。護身用に教えてくれた聖隷術、説明がわかりやすくてすぐ覚えられました。いくつか誤字があったけど。海賊に言うのもどうかと思うけど、お仕事頑張って。あとワタシは、秘密は守る方です。だから、なんでも手紙に書いてください。特に待ってないけど、読むのは嫌いじゃないです。山からは見えないけど、海を思って、お兄ちゃんの無事を祈ってます。ワタシは元気です。」

 

アイゼンは涙を流す。

マギルゥが呆れたように、

 

「あーあ、まったく兄妹そろって捻くれ者じゃな。遠回しな愛情表現にもほどがあるわ……」

「まだ続きがあるよ。」

 

ライフィセットは手紙の続きを読む。

 

「『追伸、ノル様人形ありがとう。別にかわいくないけど、少し気に入りました。ただ、夜になると、どこからか“手紙を書くがよい、兄の弱音を聞いてやるがよい”と聞こえてきます。結構イラつくけど、お兄ちゃんのくれたものだから、特別に許してあげます』。……これで全部だよ。」

「なかなかしっかりした子ですね。」

「そういえば、名前はなんていうの?」

 

エレノアとベルベットがアイゼンを見る。

アイゼンは小さく笑い、

 

「エドナだ。」

「なかなか、いい名前ね。」

「当然だ。俺がつけたんだからな。」

 

アイゼンは嬉しそうにそう言った。

裁判者は楽しそうな彼らを見ているのだった。

 

~~Fin~~

 

 

――ザビーダとアイゼンとドラゴン

とある一家と出会った。

彼らは血の繋がった家族ではないらしい。

夫婦の子供は業魔≪ごうま≫に殺され、子供達の両親も殺されたそうだ。

そしてその家族から『ザビーダ』という名が出てきた。

ベルベット達が詳しく話を聞くと、夫婦は料理屋をしていたらしい。

そこに風の聖隷≪ザビーダ≫がやって来て、夫婦を誘拐したらしい。

彼らが連れて行かれた場所に、子供達と彼の恋人『テオドラ』という聖隷が居たらしい。

聖隷も味はわかるが、作る知識も、腕もないと言うことで彼らを連れ来たようだ。

それ以来、彼らの交流が深まったらしい。

なので、彼らにとって彼は生きる喜びを再びくれた恩人らしい。

そして、そのテオドラという聖隷が姿を消し、風の聖隷≪ザビーダ≫が捜しに出たようだ。

 

「……あの聖隷≪ザビーダ≫は気付けるか、あの聖隷≪テオドラ≫の想いに。」

 

裁判者はテオドラという聖隷について考えているベルベット達を見る。

彼らは白角のドラゴンを思い出していた。

そして彼らは白角ドラゴンを思い出しつつも、次に進むことを選んだ。

 

血翅蝶の者からドラゴンについての情報を得た。

話によれば、ある収取化がドラゴン研究もしていたらしい。

そのドラゴンについての資料や古文書を所有していることがわかった。

そしてその資料はアイゼンに有益であると言うことだった。

アイゼンはそれを売っている商人の元に行く。

彼はアイゼン用に資料を残しておいてくれたようだ。

それを持って、近くの宿屋に行く。

古代アヴァロストの古文書をグリモワールに見て貰う。

もちろん、ライフィセットも手伝う。

 

「……ここは『スニラ』と読むと『やるべき』で、『スニク』と読むと『やらずに』って意味になる……」

「そこにかかる単語の読み方は『クル』よ。坊やの感覚で気持ちいい方はどっち?」

「……クル、スニラ……クル、スニク……クルスニク、の方が気持ちいいかな。」

「なら、クルスニクを訳すと……」

「……潰さずに取り出す……『くり抜く』だね。でも、そうすると、これって……」

「ええ、とんでもない古文書ね、これ。」

 

と、二人は眉を寄せて重い空気が流れる。

ロクロウが苦笑して、

 

「おいおい、古文書師弟のお二人さん、俺たちにもわかるように説明してくれよ。」

 

聖隷グリモワールがロクロウを見て、

 

「この古文書は『聖隷とドラゴン』に関する研究書よ……。大昔、ドラゴンを聖隷に戻そうと研究した学者のね。」

「ドラゴンを元に戻す……?その方法が、そこに記されているのですか?」

 

エレノアがジッと見つめる。

聖隷グリモワールはため息をついた。

 

「書かれているのは……失敗の記録と不可能という結論。ただ、その片隅に気になる箇所があるのよね……」

「『白き大角いただくドラゴンの、心くり抜き血とともに、喰わわば消えん、聖隷の加護』。」

 

ライフィセットが古文書を読む。

アイゼンが黙り込む。

ベルベットが眉を寄せ、

 

「白角のドラゴンの心臓を喰らえば、加護が消える。それって死神の呪いも消せるってこと?」

「……書かれていることが、本当ならね……」

 

と、ベルベットと聖隷グリモワールは裁判者を見る。

当の裁判者は外の海を眺めている。

それも、彼らが視線を向けた途端である。

 

「……聖隷が聖隷の心臓を喰らうとな?退き笑いが止まらんのー。」

「古代アヴァロスト時代には、そんなことが行われていたのですか?」

 

マギルゥとエレノアが反応を示す。

ライフィセットが古文書を見て、

 

「研究の過程で、加護が消えた聖隷もいた、って書いてあるだけだから、本当かどうかはわからないよ。」

「真偽を知りたければ、試すしかないのー。」

 

アイゼンは黙り込み続ける。

そこに声が響く。

 

「あんたは試すのかい?」

「ザビーダ!どうしてここに?」

「親切なばあさんが、ドラゴン資料の話を教えてくれたのさ。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は笑いながら言う。

ベルベットは彼を見据え、

 

「あんたも血翅蝶と繋がっていたのね。」

「俺みたいないい男、女が放っとくはずねえだろ?嬢ちゃんたちも、俺に惚れるんじゃねーぜ。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫はニヤリと笑う。

ベルベットは舌打ちし、エレノアは真顔で、

 

「ないです。」

「ふん、冗談の通じねえやつらだ。……まあ、冗談じゃすまされねえことがあるがな。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫はアイゼンを見据え、

 

「てめぇは、殺るのか。」

「だとしたら、お前はどうする。」

「やらせねぇよ。」

「俺を殺すことになってもか。」

「なんでそんなに殺すことにこだわる?あんたは、自分が死神であることを受け入れたんじゃねぇのか?」

「質問に質問で返すんじゃねえ。」

「先に質問したのは俺だぜ。」

 

アイゼンは少し睨み合った後、

 

「殺すことが、救いになるヤツもいる。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫はジッとアイゼンを見据える。

アイゼンも、彼を見据え、

 

「俺は白角のドラゴンを……殺る。」

「……ドラゴンって言うんじゃねえよ。」

 

アイゼンはジッと風の聖隷≪ザビーダ≫を睨み続ける。

彼は眉を寄せ、

 

「あいつは、テオドラだ。ドラゴンじゃねえ。」

「話は終わりだ。」

「次は警告なしだ。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫はアイゼンを睨んで、歩いて行った。

裁判者は二人を見て、

 

「片や、かけられた呪いを解こうとしている者。そして呪いに囚われさ迷う者、か。さて、あのドラゴン、テオドラの想いに気付けるかな。」

 

裁判者は宿屋を出て、船に向かって歩き出す。

彼らも宿屋から出て、船に向かいながら、

 

「ドラゴンの心臓を喰らうことが、『死神』の呪いを解く方法とはな……」

「『呪い』をといておめでとう。キミも今日から『本物の死神』の仲間入り~♪解けば解くほど絡みつく、いやらしい呪いじゃ。」

 

マギルゥがいつものようにふざけた後、真剣な表情で言った。

彼らは各々、想いにふける。

ライフィセットはアイゼンを見上げ、

 

「アイゼン……」

「……なんだ。」

「……呪いを解くために、白角のドラゴンを、殺すの?」

「ああ。」

「ザビーダの大切な人だとしても……?」

「だからだ。」

「だからって……どういうこと?」

「俺の答えだ。お前の答えは、自分で考えろ。」

 

ライフィセットはアイゼンの言葉を考え込む。

裁判者はそれを見据え、

 

「こちらもまた、答えを出せるか、だな。」

 

彼らは白角のドラゴンを追うこととなった。

その際に、ある対魔士達の話が聞こえてきた。

彼らの話によれば、白角のドラゴンは対魔士達をことごとく蹴散らしているようだった。

その際、白角のドラゴンの討伐に向かった対魔士部隊は全滅、白角のドラゴンも深手をおったらしい。

そしてガイブルク氷地に留まっているという情報を得た。

彼らは白角のドラゴンのいるガイブルク氷地に向かう。

おそらく、風の聖隷≪ザビーダ≫が居ると予想される。

 

ガイブルク氷地につくと、傷を負った胴体の長い白角のドラゴン≪龍≫が居た。

ライフィセットがそれを見て、

 

「情報通り、いたね。」

「本当に、あの方法で呪いを解くのですか?」

 

エレノアがアイゼンを見る。

アイゼンは歩き出し、

 

「……呪いにかかっているのは俺じゃない。」

「いいのね。」

 

その背に、ベルベットが問う。

アイゼンは構え、

 

「……やるぞ。」

「だが、奴も来たようだ。」

 

裁判者がドラゴンの奥の方を見る。

そこに竜巻が起き、こちらに向かって来る。

それがドラゴンの前に止まると、風の聖隷≪ザビーダ≫が現れる。

彼はアイゼンを睨み、

 

「やらせねえって言ったろ!力づくで止める。」

「止めてどうする。」

 

アイゼンは彼を見据える。

風の聖隷≪ザビーダ≫はドラゴンを横目で見て、

 

「てめぇが伸びてる間に、あいつを救う方法を見つける。」

 

ドラゴンは風の聖隷≪ザビーダ≫の風の中に、隠される。

アイゼンは風の聖隷≪ザビーダ≫を睨み、

 

「お前がそうしたいなら好きにしろ。だが、俺はやめる気はない。」

「なんでなんだ……理由もなく誰かを殺したがるような外道じゃねぇだろ、アイフリードの親友はよ……」

「殺すことが、救いになるヤツがいる。」

「殺されて救われるヤツがどこにいる!生きてなんぼじゃねえのかよ、この世界は!なにがあろうと生きることを諦めねえ。それが俺の流儀だ!」

「……わかった。」

 

アイゼンは構える。

それを見た風の聖隷≪ザビーダ≫も構え、

 

「……だよな?」

「えっ、どうしてそうなるのですか⁉救いたいという目的は、二人とも同じなのに!」

 

エレノアが二人を見て叫ぶ。

彼らは構えたまま、

 

「流儀と流儀がぶつかったらやるしかないのさ。」

「ああ。」

 

そして互いに地面を蹴る。

拳とペンデュラムがぶつかり合い、

 

「手加減なしで行くぜ!」

「俺を止めたければ、殺す気でかかって来い。」

 

彼らの攻防戦が続く。

裁判者はそれを見据え、

 

『今回の願いはこうするしかないか……』

 

裁判者は彼らの戦いを見続ける。

アイゼンが力を思いっきり込めて、風の聖隷≪ザビーダ≫を殴り飛ばした。

彼は膝を着き、

 

「はぁ……はぁ……」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は自分の後ろを見る。

風で隠していたドラゴンが姿を現す。

そしてドラゴンは起き出し、炎を近くに居たライフィセットに放つ。

 

「うわああああっ‼!」

「「ライフィセット‼」」

 

ベルベットとエレノアが眉を寄せる。

だが、ライフィセットの前に風の聖隷≪ザビーダ≫が護る。

彼らは背中に直撃を受け、吹き飛ばされる。

 

「うわああ!」

「さすがにこいつは――」

「まずい、のー!」

 

ロクロウが短剣を構えて走り出し、マギルゥが炎をドラゴンにぶつける。

それが直撃し、ドラゴンが地面に尽きそうになる瞬間に、ロクロウが剣を振るおうとするが、

 

「させるかよ‼」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫が銃≪ジークフリード≫をドラゴンに当てた。

ドラゴンはロクロウの刃が当たる前にこの場を飛び去って行く。

風の聖隷≪ザビーダ≫は息を整える。

 

「ふぅ……ぐぁっ……」

 

だが、仰向けに倒れ込む。

ライフィセットが駆けて行き、

 

「大丈夫、ザビーダ?」

「ああ、死なない程度にはな。」

「助けてくれて……ありがとう。」

「礼を言うのはこっちさ。お前が怪我をしなくてよかった。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫はライフィセットを見上げる。

ライフィセットは首を傾げ、

 

「僕が?」

「子どもを傷付けたとなりゃ、一番悲しむのはあいつだからな。」

 

そう言って、身を起こす。

ライフィセットはドラゴンが飛び去って行った方向を見て、

 

「テオドラさん……」

「子どもってのは、親や家族を亡くして、絶望に心を無くしちまっても、手を握ると握り返してくるんだよ。不安と恐怖で冷え切った冷たい手が、だんだんあったかくなってくる……。」

 

ライフィセットは風の聖隷≪ザビーダ≫の言葉を聞き、自分の手を見る。

裁判者も何かを思い出すように、彼を見ていた。

自分の右手を誰かの手を握るように、握りしめて。

彼はドラゴンが飛び去って行った方向を見つめ、

 

「心の欠片が、命を燃やして熱を出す。それは生きたいという意志なんだ。だから見捨てない、諦めない。あいつは、そう言った。誰よりも、生きることを大切にするヤツだったんだ。」

「……だから、ザビーダは……」

 

ライフィセットが俯く。

アイゼンは眉を寄せ、風の聖隷≪ザビーダ≫を見据える。

 

「いつまでドラゴンの尻拭いを続けるつもりだ。」

「テオドラだ。」

「ドラゴン化した聖隷はもとには戻らん。」

「だから殺してもいいってか?」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は立ち上がり、アイゼンを睨み、

 

「てめえは口では偉そうにほざきながら、死神の呪いを解きたいだけじゃねぇのか!」

「呪いにかかっているのは俺じゃない。」

「他に死神がいるってのかよ?裁判者か?」

 

裁判者は彼を睨む。

マギルゥが小声で、

 

「あれは死神じゃなく、邪神じゃがの~。」

「アンタは黙ってなさい。」

 

ベルベットがマギルゥをど突く。

アイゼンは彼をさらに睨み、

 

「質問を質問で返すんじゃねぇ。」

「……黙れ。良くわかったぜ、てめえが口先だけのビビリ野郎だってな。今度、てめぇがあいつに手を出そうとしやがったら、そのときは……俺も腹をくくるぜ。」

「なにをくくろうが勝手だが、よく考えてみろ。“あの女”がお前に伝えた『生きる』ってことの、本当の意味をな。」

 

そう言って、歩いて行く。

裁判者は横を通り過ぎる彼に、

 

「お前は気付いているが、あれは気付けるかな。」

「最初から知っているくせに、何も教えないお前よりはマシだ。後は、あいつ次第だ。」

 

そう言って、通り過ぎて行く。

他の者達も歩き出す。

アイゼンの背を、風の聖隷≪ザビーダ≫はずっと睨みつける。

裁判者は彼を見据えてから、裁判者も歩き出す。

 

白角のドラゴンの情報を、アイゼン達は再び集め始める。

そして血翅蝶の者から、依頼を受ける。

再びアルディナ草原に現れるようになった白角のドラゴンの討伐だ。

その依頼理由は風の聖隷≪ザビーダ≫の暴走を止めるためらしい。

話によれば、彼は白角のドラゴンの情報を得る為、対魔士達を片っ端から締め上げているらしい。

それにより、血翅蝶も動きを封じられているらしい。

 

彼らは白角のドラゴンを追っていたが、聖寮の鎮静化が始めり、人々から心が失われた。

裁判者の話によれば、鎮静化の効果で、業魔≪ごうま≫やドラゴンも、活動が低下し、休眠状態に入ったと言う。

なので一行は、先にこの問題を対照する事となる。

そしてアイゼンは離宮で、裁判者がドラゴンになった姿を見て、何かに気がついた。

だが、核心は得ていなかった。

 

四聖主を呼び起こし、再び人々達に心が戻る。

そして聖隷達も解放される。

つまり、業魔≪ごうま≫やドラゴンも再び目を覚ます事となる。

聖主の御座に行く前に、白角のドラゴンの件を終わらせることにした。

 

白角のドラゴンが居るアルディナ草原に向かう。

頂上につくと、ドラゴンと風の聖隷≪ザビーダ≫が居た。

そして彼はボロボロになっていた。

裁判者は風の聖隷≪ザビーダ≫とドラゴンを見据える。

 

『さて、そろそろ願いを叶えなければならないが……』

 

と、ドラゴンは咆哮を上げ、風の聖隷≪ザビーダ≫を尻尾で彼を薙ぎ払う。

彼は体勢を整え、

 

「はは……懐かしいなぁ。初めてお前に声をかけたときも、こんな風にぶん殴られたけっか。」

 

そう言っている彼に、再びドラゴンが尻尾で彼を薙ぎ払った。

 

「ぐああああっ‼」

 

彼は地面を転がる。

彼は身を起こし、

 

「……痛ってぇ……。加減を知らねぇ子どもみてぇだなぁ……。」

 

そして立ち上がる彼を、ドラゴンが咆哮を上げて体当たりする。

彼は思いっきり吹き飛ばされる。

 

「うおぉぉぉぉぁぁああっ……」

「ザビーダ‼」

 

ライフィセットが彼の元に駆けだす。

だが、その肩をアイゼンが掴み止める。

 

「……アイゼン⁉」

「黙ってみてろ。」

「でも……!」

 

ライフィセットは眉を寄せて、風の聖隷≪ザビーダ≫を見る。

彼は本当にボロボロだった。

彼は懸命に立ち上がり、

 

「俺が死ぬのを待って、こいつの心臓を喰らうつもりか?だが、そいつは無理だぜ。俺は死なねぇし、こいつも殺らせねぇ……」

「俺がどうするかは、俺が決める。」

 

アイゼンは風の聖隷≪ザビーダ≫を見る。

風の聖隷≪ザビーダ≫は銃≪ジークフリード≫を取り出し、頭に銃口を向けるが、そこにドラゴンの炎が放たれる。

それは彼を直撃する。

それを見たライフィセットはアイゼンの手を払って、

 

「僕はザビーダを助ける‼アイゼンがダメだって言っても、僕が決める‼」

 

ライフィセットが聖隷術を詠唱し始める。

裁判者はライフィセットの元に行き、

 

「これはあの風の聖隷の問題だ。お前は関与するべきものではない。」

「え?」

 

ライフィセットは詠唱を止め、裁判者を見る。

が、ドラゴンに吹き飛ばされる風の聖隷≪ザビーダ≫を見え、

 

「ザビーダ‼」

 

彼が地面を滑り、銃≪ジークフリード≫を落とす。

アイゼンがその銃≪ジークフリード≫を拾い上げ、

 

「子どもをためらいなく襲い、命懸けで助けようとする男を襲う。あの白角のドラゴンは、誰だ?」

 

アイゼンは風の聖隷≪ザビーダ≫を見下ろす。

そしてアイゼンはドラゴンに振り返り、

 

「なにがあろうと生きることを諦めないのが、お前の流儀だと言ったな。なら――今のお前は、生きているのか?」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は眉を寄せて困惑する。

だが、ライフィセットは何かに気づく。

アイゼンは目を細め、

 

「俺にはお前が、生きているようには見えない。」

「なんだと……」

 

そしてアイゼンは銃≪ジークフリード≫をしまい、ドラゴンに向かって歩いて行く。

ライフィセットはアイゼンの背とボロボロの風の聖隷≪ザビーダ≫を見て、

 

「そうか……呪われているのはアイゼンじゃないんだ。アイゼンが殺すことで救おうしているのは……!」

「俺は、呪いを解く。」

 

アイゼンは構える。

ライフィセットが彼の横に駆けて行き、同じように構える。

ベルベット達もその後ろに付き、武器を構える。

ドラゴンの攻撃を避けつつ、聖隷術で攻めていく。

そしてアイゼンがドラゴンを殴り飛ばした。

ドラゴンが地面に崩れ落ちると、

 

「下がっていろ。」

「よせ!そいつを殺しやがったら……俺はてめぇを許さねえ‼」

「だろうな……」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫が膝を着いて、叫ぶ。

アイゼンはドラゴンの前に歩いて行く。

裁判者は彼の横に立ち、

 

「まだ、お前は気付けないのか。」

「何をだ!」

「あれは誰の為に、あそこまでしてドラゴンを討とうとしているのか。そして、ドラゴンになって苦しんでいる聖隷の想いに、だ。」

 

そう言って、彼らの元に歩いて行く。

 

「うおおおっ!」

 

と、アイゼンは思いっきりドラゴンの頭を殴る。

そしてドラゴンは咆哮を上げて倒れ込んだ。

ザビーダが目を見張って、

 

「ああああああ……‼アイゼン、てめぇ……」

 

彼は立ち上がる。

だが、ドラゴンから穢れが漏れ出す。

アイゼンはその穢れを浴び、膝を着く。

彼からも、穢れが漏れ出す。

ベルベット達は目を見張り、風の聖隷≪ザビーダ≫も驚き、

 

「なにっ、穢れ……⁉」

 

裁判者が目を細め、彼の元に歩いて行く。

だが、その横をライフィセットが駆けて行く。

 

「アイゼン‼」

「来るなッ……うああああああっ!」

「こ、これは……‼うわああああっ‼」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫の元にも、穢れが広がり、彼も悲鳴を上がる。

立ち止まった、ライフィセットは眉を寄せ、

 

「アイゼン!ザビーダ!」

「ダメよ、あんたも穢れる!」

 

再び駆け出すライフィセットに、ベルベットが叫ぶ。

彼は振り返り、

 

「だけど!アイゼンとザビーダが‼」

 

と、穢れは近付いたライフィセットまでも飲み込む。

裁判者はライフィセットの頭に手を置き、

 

「まったく。関わるなというのに。」

 

裁判者が彼に力を送る。

ライフィセットは目をつぶって、

 

「うあああああっ‼」

 

彼を中心に銀色の炎が穢れを燃やし尽くす。

そして裁判者の手を払って、銀色の炎を纏って、ドラゴンに向かっていき、

 

「お願い、元に戻って!」

 

その炎をドラゴンに当てる。

ドラゴンは咆哮を上げて、ライフィセットを払い避ける。

再び駆け出すライフィセットの肩を、風の聖隷≪ザビーダ≫が止める。

彼は首を振り、

 

「もういい……」

「でも……!」

「ありがとうよ。」

 

彼は崩れ落ちる。

が、再び力を入れ、立ち上がる。

アイゼンが立ち上がり、銃≪ジークフリード≫の銃口を自分の頭に向ける。

 

「やれるのか。」

「ああ。やるさ。」

 

そう言って、引鉄を引く。

彼の力が膨れ上がり、ドラゴンに向かって拳を振り上げる。

ドラゴンは咆哮を上がる。

 

「だが、少しばかり力は足りないようだ。」

 

裁判者がアイゼンに襲い掛かるドラゴンの頭に手を置き、

 

「お前の願い、どうやら私ではなく、同胞が叶えたようだ。代わりに、お前をおくってやるよ。これで、もう傷つけることはない。」

 

黒い炎がドラゴンを包み込む。

そしてドラゴンは光り輝き、燃えていった。

ドラゴンが完全に消滅すると、風の聖隷≪ザビーダ≫がアイゼンに近付く。

 

「なぜ、死神の呪いを解かなかった?」

「俺にあいつの心臓を喰わせたかったのか?」

「質問に質問で返すんじゃねえよ。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は手を広げる。

アイゼンはドラゴンが居た場所を見つめていた。

裁判者は彼らを見据える。

アイゼンは、風の聖隷≪ザビーダ≫に振り返り、

 

「死神の呪いは俺にかかった呪い。ドラゴンは、すべての聖隷がかけられた呪いだ。」

「さっきの穢れ……あれは、そういうことなんだな。」

「ああ。もう、始まっている。俺がそうなる日も、遠くない。」

「海賊と離れりゃ、ちったあマシになるんじゃねえのかよ。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は彼を眉を寄せてみる。

アイゼンは力強い瞳で、

 

「俺はアイフリード海賊団副長アイゼンだ。呪いに自分の舵を奪われるくらいなら、ドラゴンになったほうがマシだ。」

 

そう言って、彼に背を向けて歩き出す。

が、立ち止まる。

 

「ただ、大切に想う者が、ドラゴンになった自分に囚われてしまうことだけは……恐い。」

「大事なものにすら気づけなくなったテオドラはを、救ってくれたんだな。殺すことで……」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は視線を落とす。

アイゼンは再び彼に振り返る。

彼は拳を握りしめ、

 

「なによりも、人を傷つけることを嫌い、誰よりも人を愛する……優しい女だったんだ。」

「そうか……」

「殺すことで、救いになるヤツもいる。」

「あんたにも、守りたい相手がいるんだな。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫がアイゼンを見る。

アイゼンはペンダントを握りしめ、

 

「……妹だ。」

「いい女か?」

「“早咲きの花”のように、賢いしっかり者でな。よく俺を、子ども扱いしやがる。……本当は泣き虫だが、芯は強い子だ。」

「そうか――仲良くしたいもんだ。俺の嫁候補にしてやるよ。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫はニッと笑う。

アイゼンは眉を寄せる。

 

「てめぇ!」

「心配すんな。全部あんたを殺した後のことだ。」

「ザビーダ、お前……」

「テオドラの仇討ちだ。アイゼン、あんたは俺が殺してやるよ。あんたがあんたでなくなった時、必ず……な。」

「いいのか。」

 

アイゼンが彼を見据える。

風の聖隷≪ザビーダ≫はジッと彼を見て、

 

「ああ。フィルクー=ザデヤ……『約束のザビーダ』の名にかけてな。」

 

アイゼンは彼に歩み寄り、銃≪ジークフリード≫を彼に渡す。

 

「ウフェミュー=ウエクスブ《探索者アイゼン》……俺の真名だ。」

「覚えておく。」

 

風の聖隷≪ザビーダ≫は銃≪ジークフリード≫を受け取る。

裁判者は空を見上げ、

 

『囚われ続けるのに、何百年かかるかな……』

 

ライフィセットが二人に近付き、

 

「……他に、なにか方法はないの?ドラゴンにならずに生きる方法や殺さない方法……」

「殺すか、殺さないかの問題じゃない。大切なのは、自分の舵を自分で取るということだ。」

「それが“生きる”ってことだからな。」

 

アイゼンと風の聖隷≪ザビーダ≫はライフィセットを見る。

ライフィセットは眉を寄せて、

 

「哀しくて……難しいね。けど……わかった。僕も、二人みたいに生きるよ!」

 

力強い瞳で彼らを見る。

風の聖隷≪ザビーダ≫は小さく笑い、

 

「じゃあ、また会おうぜ。」

「どこにいくの?」

 

ライフィセットは歩き出す風の聖隷≪ザビーダ≫の背を見る。

彼は背を向けたまま、

 

「風に聞いてくれ。」

 

歩いて行く。

アイゼンはその背に、

 

「そうだ、ザビーダ。」

「ああ?なんだ。」

 

彼は立ち止まり、アイゼンを見る。

アイゼンは腕を組み、

 

「『白き大角いただくドラゴンの、心くり抜き血とともに、喰わわば消えん、聖隷の加護』。白き大角いただくドラゴン……本当の白角を相手にするのは、命がいくつあっても足りん、と言う話だ。」

「は?なんだそりゃ。」

「覚えておいて損はないという話だ。」

「そうかい。」

 

彼は再び歩き出す。

ライフィセットが首を傾げ、

 

「アイゼン、それってどういう……」

「お前なら気付けるはずだ。」

 

そう言って、アイゼンはライフィセットの頭を撫で、歩いて行く。

アイゼンは裁判者の横を通り、見据えて歩いて行った。

裁判者は目を細め、

 

「なるほどな。」

 

裁判者も、歩き出す。

ライフィセットは腕を組んで悩み続けた。

 

それからベルベット達は血翅蝶に接触した。

彼らの情報からマーナン海礁に、開かない宝箱が打ち上がったらしい。

話によれば、一等対魔士達が数人がかりでも開けられず、壊せず、動かすこともできないらしい。

アイゼンがそれは異大陸の秘宝と判断した。

彼は異大陸で同じものを見て、開け方も知っているそうだ。

それを回収するべく、宝箱のあるマーナン海礁に向かう事となった。

 

そして捜索し、ライフィセットが宝箱を見つける。

 

「あれかな?異大陸の宝箱?」

 

そこに近付き、普通の開け方をやってみたが、開かなかった。

裁判者は宝箱を見て、

 

『ああ……なるほどな。』

 

マギルゥが開けるのを諦めて、アイゼンを見据え、

 

「さあて、アイゼン、どうやって開けるんじゃ?」

「う~ん、俺が斬って開けてやるのに……」

「あなたは中身ごと斬ってしまうでしょ?」

 

ロクロウが眉を寄せて言うが、エレノアは腰に手を当てて、彼を注意した。

アイゼンは宝箱を見て、

 

「合言葉がある。異大陸で『富』を意味する言葉――『バンエルティア』。」

 

彼がそう言うと、『カチャ』という音が鳴り、宝箱の箱が開く。

ライフィセットは驚き、

 

「開いた!」

「なんじゃ、つまらん。こうもあっさり開きおってからに……」

 

マギルゥが半眼で彼を見る。

エレノアは顎に指を当てて、アイゼンを見る。

 

「バンエルティア……異大陸の言葉だったんですね。」

「ああ。バンエルティア号の設計には、異大陸の技術をもった技師が関わっていたからな。そういう偶然と必然――“縁”が、アイフリードに裁判者を会い、ジークフリードをもたらしたんだろ。」

 

アイゼンは腕を組む。

ロクロウは腕を組んで、

 

「で、肝心の中身は、なんなんだ?」

 

ライフィセットが宝箱の中を見て、

 

「本だ……」

 

本を取り出す。

マギルゥが肩を落とし、

 

「むは~……せつないほどつまらんの~。」

「かなり古いけど……読める言葉で書いてある。『特殊能力付加装置ジークフリードの研究』。」

 

ライフィセットが本を読む。

裁判者は目を細め、

 

『あったな……そういうのも……』

 

他の者達は驚きながら、

 

「ジークフリードの解説書ってことですか⁉」

「うん……あちこち欠けているけど、そうみたい。」

 

ライフィセットに詰め寄るエレノアを、彼は戸惑いながらも答える。

マギルゥも驚いたようで、

 

「こりゃまた、えらい偶然じゃの~。」

「フィー、続きをお願い。」

 

エレノアを離し、ベルベットが言う。

ライフィセットは頷き、

 

「うん。『アヴァロスト時代の遺物と思われるジークフリードは、内蔵された術式によって“霊力の操作”を可能とする。一般的には、撃ち抜いた対象の霊力を操作し、“増幅”する装置として認知されているが、これは正規の機能を起動・制御するための基本能力にすぎない』。」

「正規の機能?つまり別の力があるってことか?」

 

ロクロウが考え込み、ライフィセットを見る。

ライフィセットも眉を寄せながら、

 

「そうみたい……『そもそもジークフリードの正体は、対ドラゴン戦用の特殊兵器と推測される』。」

 

その言葉にアイゼンは眉を寄せ、裁判者を睨み出した。

裁判者は空を見上げていた視線を、彼に向ける。

マギルゥもそれに気付き、二人を見て、

 

「ほほう、ちょっと面白くなってきたのう。」

 

ライフィセットは後ろの彼らの睨み合いに気付かず、

 

「『その本来の機能は“意志の弾丸”撃ち込み、特殊な効果を発動することである。霊体結晶の弾丸は、込められた意志の種類によって複数の異なる効果を発揮する。“力の結びつきを断つ弾丸”や“一時的に穢れの影響を遮断する弾丸”等が確認される』。」

「穢れの影響を遮断する弾丸……」

 

アイゼンが目を細め、さらに裁判者を睨み出す。

エレノアがジッとライフィセットを見て、

 

「弾丸の在処は?」

「ええっと……ごめん、これ以上はボロボロで読めない。」

 

ライフィセットが顔を上がる。

アイゼンが裁判者から視線を外し、

 

「そうか……」

「ふうむ……真偽は不明じゃが、それなりに納得できる説じゃな。」

 

マギルゥも裁判者の反応を見て、考え込む。

ライフィセットがアイゼンを見て、

 

「アイゼン、弾丸を探してみようよ。」

「……いや、俺には必要ない。」

 

アイゼンが彼らを見る。

そんな彼にエレノアが、

 

「でも、その弾丸があれば、あなたは――」

「俺には、先にやることがある。なによりも、もうジークフリードはザビーダのものだ。ライフィセット、今度ザビーダに会ったら、このことを教えてやれ。」

 

アイゼンはライフィセットを見る。

ライフィセットはジッとアイゼンを見つめ、

 

「……いいの?」

「頼む。あいつなら、きっと弾丸を見つけ出すだろう。世界中を駆け回ってでもな。」

「……うん、必ず伝えるよ。」

 

ライフィセットは頷く。

マギルゥは肩を上げ、

 

「やれやれ、これも縁なのかじゃが……ど~なっても知らんぞえ~。」

 

と、目を細めて裁判者を見る。

裁判者は視線を外し、耳だけ傾ける。

エレノアはマギルゥを見て、

 

「もう、茶化さないでください。」

「そうだぜ、アイゼンがいいっていうんだからさ。これでいいんだろ。どの道、未来がどうなるかなんてわからんしな。」

 

ロクロウがニッと笑う。

ベルベットが左手を握りしめ、

 

「そうね。それでいいのよ。」

「いいのかえ?」

「ええ。先がわかったら、つまらないでしょ?」

 

そう言って、彼らは歩き出す。

その背を見て、マギルゥは笑みを浮かべ、

 

「……それもそうじゃの♪だからお主は、視える未来を言うわぬのだろ。」

「さてな。」

 

裁判者も歩き出す。

マギルゥはその横に付いて行く。

 

 

一向は風の聖隷≪ザビーダ≫が知る家族の元に立ち寄った。

それは、ドラゴンを討った後、彼に会えたかどうか知るためだ。

家族に会いに行くと、彼は会いに来たようだ。

聖隷テオドラの事を聞くと、その件は解決したと言って、二人で旅に出ると言ったようだ。

『離れていても、繋がっている絆がある。それが“彼らの家族の流儀”』らしい。

彼らが生活に困らないよう、大金を置いて旅に出たらしい。

そして彼らは、家族から離れる。

と、離れる際に対魔士達の話し声が聞こえてきた。

彼らの話では、輸送部隊が襲われたそうだ。

それも、現金輸送車だったらしく、お金は全て奪われたらしい。

その相手に察しがついたライフィセット。

そしてアイゼンも、その人物に察しがついて、小さく笑った。

 

裁判者はそんな彼らを見て、

 

「これもまた、縁……か。」

 

裁判者はすでに歩き出している彼らの元に歩いて行く。

 

~~Fin~~

 

 

――エレノアの想い

エレノアはモアナの様子を見にやって来た。

と、喰魔の女性から喰魔の少女≪モアナ≫が高熱を出した事を知る。

そして彼女はうわ言で、『お母さんのおクスリ、のみたくない』と繰り返しているらしい。

おそらく、風を引く度に彼女の母親が与えていたのだろうと察する。

その薬があるとすれば、ハリヤ村の彼女の家にあると思われる。

エレノアがその薬を取りに行くと言う。

その理由は、己の母を失い、孤児となった彼女は、自分の母親をと貰うために修道女になるつもりだったらしい。

だが、降臨の日以来に霊応力が上がり、その力で悲しい世界を変えられると信じていた。

しかし、自分は対魔士になっても無力で、世界を変えるどころか、その本当の姿も知らなかったと。

そのせいで、喰魔の少女≪モアナ≫の母親を追い込み、彼女から母親を奪ってしまったことに嘆いていた。

だから、彼女の為にできる事をしたいと、彼女が救われるようにと。

 

裁判者はエレノアを見据え、

 

『……想いは想いでも、これは災厄の場合に穢れるな……』

 

そう言って、裁判者は歩き出す彼らに付いて行く。

彼らは薬を取りに、ハリヤ村へと向かう。

 

ハリヤ村に向かう途中、血翅蝶から情報を得た。

村には今、棍棒をもった強大なトロルが住みついているらしい。

その情報を聞き、エレノアは眉を寄せて拳を握りしめる。

それでも、彼らはハリヤ村に向かって、歩き出した。

 

途中、エレノアを心配するライフィセット。

そして、ロクロウに諭され、彼女は語った。

血翅蝶の情報の業魔≪ごうま≫が、エレノアの村を襲ったヤツかもしれないと。

彼女の村に祀られていた“エレノア≪光≫”の名を持つ宝玉を狙ったという。

その宝玉を守ろうとした。

だが、エレノアは傷を負い、母親は彼女を庇う為、宝玉を使って囮となった。

そして亡くなった。

エレノアは仇討ちを望んではいなかった。

彼女は母親の『強く生きて』と言う言葉に囚われていた。

 

『まったく、心ある者達はなぜこうも、囚われる生き物なのか……』

 

裁判者はエレノアを見据え、ライフィセットを見る。

彼には、エレノアの穢れが微かに影響を出てきた。

 

村に着くと、情報の業魔≪ごうま≫は見当たらない。

彼らは薬を捜す。

家をあさり、ベルベットが薬を見つけ出す。

彼女は皆を呼び、薬を見せる。

 

「あった。多分これよ。」

「見つかりましたか。」

 

彼らは駆けて来る。

ベルベットは薬を見つめ、

 

「ええ。なんかメモがついてた。」

「メモ?薬の作り方ですか?」

 

ベルベットはメモを取り出し、

 

「……違うわ。注意書きみたい。『この薬はとても苦く、モアナは飲むのを嫌がります。私が留守の間に娘が熱を出した時は、なんとかして飲ませてください。その方法は――』。」

「どうやら、来たみたいだぞ。」

 

読んでたベルベットに、裁判者が視線を向ける。

彼女の後ろには、強大な業魔≪ごうま≫が現れた。

それを見て、エレノアは目を見張る。

 

「あれは……“エレノア”です。」

「じゃあ、こいつがエレノアの――!」

 

ライフィセットが眉を寄せる。

だが、エレノアが槍を構えて敵に向かっていく。

 

「うあああっ‼」

「ああっ!待って!」

「ちっ、援護するわよ!」

 

ライフィセットが追いかけ、ベルベット達も追いかける。

エレノアは槍を振るい、

 

「よくも!よくもお母さんをっ!」

「落ち着いて、エレノア!」

 

ライフィセットが援護しながら叫ぶ。

彼らもエレノアの支援に回る。

そして、エレノアは槍をついて業魔≪ごうま≫を吹き飛ばす。

 

「やった……!やったよ、お母さん……!」

 

そしてハッとする。

ライフィセットが彼女を見ると、彼女は涙を流し、

 

「私は……こんなに仇を憎んでた……復讐したかったんですね……」

「おかしなことじゃないよ。自然な感情だと思う。」

「……そうですよね。でも、だとしたらモアナも……モアナも真実を知ったら、私を憎んで、殺したいって思うんじゃないでしょうか?」

「そ、それは……」

「それが自然な感情です。」

 

ライフィセットが俯く。

裁判者はエレノアを見据え、

 

「今のお前なら、自分の本当の気持ちに気付けるのではないか。」

 

彼女は槍を強く握り、

 

「私は、それが怖かった。あの子のためと言いながら、本当は、自分のために嘘をついていたんです。そんな醜い私は……モアナに襲われたら、自分のために、あの子を殺してしまうかも……」

「エレノアは、そんなことしないよ!」

 

ライフィセットが顔を上げる。

だが、エレノアは首を振り、座り込む。

 

「きっと殺してしまいます!だって私は――母親を犠牲にして生き残ってしまったモアナに……そんな人間に救いがあるなんて、信じてないんだから……!」

 

そして彼らは気付く。

彼女がずっと苦しんでいたことを。

そんな自分を認めた彼女からは、穢れが漏れ出す。

 

「『強く生きて』って言われたのに……お母さんの命を犠牲にして生き残ったのに……なんて弱くて……自分勝手……。ごめんね、モアナ……ごめんなさい、お母さん……」

 

彼らは、眉を寄せる。

裁判者はベルベットを見据える。

彼女は頷き、

 

「『薬の飲ませ方その1・甘いオブラートに包む。でも、オブラートだけ舐めて薬を吐き出すことがある。その2・嘘をついて食事に混ぜて飲ませる。でも、最近は知恵がつき、簡単には騙せなくなってきました。その3・鼻をつまんで無理矢理飲み込ませる。体力勝負。時々指をかんでくるので要注意。」

 

ベルベットがメモを読み上がる。

エレノアが顔を上がる。

 

「それは……薬とあった……」

「そう。モアナ母親が残したメモよ。巫女の仕事のために、モアナを残して留守にすることが多かったんでしょうね。」

 

ベルベットがエレノアを見る。

ロクロウが歩いて来て、続きの文を読む。

 

「『高熱は精神的な不安が原因で、薬と信じているこの苦い木の実を飲むと落ち着きます。だだをこねて御迷惑おかけすると思いますが、どんな手を使ってでも、薬を飲ませてやってください。わがままな娘ですが、とても寂しがり屋で心の優しい子なのです。どうか、助けてやってください。お願いいたします……』。」

「お母さん……モアナのことを、こんなに……」

「ははは、なかなか身勝手な母親だなぁ。」

 

ロクロウは腰に手を当てて、笑う。

ベルベットはライフィセットに近付き、

 

「母親だって聖人君子じゃない。必要なら嘘もつくし、腕力だって使うわよ。中途半端な覚悟じゃ、子どもは守れないんだから。」

「子どもを守る……覚悟……」

 

エレノアから、穢れが収まっていく。

彼らはホッと一息つく。

そしてエレノアは立ち上がり、自らの意志でモアナを助けると決める。

裁判者はエレノアを見て、

 

「もう一度よく、自分の母親が言った『強く生きて』の意味を考えるのだな。」

 

そう言って、歩き出す。

彼らは薬を持って、喰魔の少女≪モアナ≫の元へ急ぐ。

 

薬を持って歩いて行くと、裁判者は走り出す。

そのままキララウス火山に向かって走って行く。

着いてすぐ、裁判者は喰魔の女性≪メディサ≫を離れさせる。

 

「殺さないで!」

「今は殺さないさ。あいつが答えを出したのならな。」

「え?」

 

そこに、ベルベット達が駆けて来る。

エレノアが喰魔の少女≪モアナ≫に近付き、

 

「モアナ!“お母さんのおクスリ”をもってきましたよ。」

「ウソダァァ〰‼」

「嘘じゃありません。モアナが熱を出したってきいて、お母さんが送ってくれたんです!」

 

そう言って、薬の袋を見せる。

だが、喰魔の少女≪モアナ≫は泣きながら、

 

「ヤダァァ〰!ニガイのキライィィ〰‼」

「これは苦くなんてありませんよ。あなたのために、お母さんが甘いおクスリをつくってくれたんです。」

「ウソダ!ウソダ!ウソダァ〰‼」

「本当ですよ。ほら。」

 

そう言って、エレノアは薬を一粒口に運び、笑顔になる。

喰魔の少女≪モアナ≫はそれを見て、落ち着く。

エレノアが近付き、彼女の口に薬を入れる。

彼女は元に戻り、

 

「うえぇ……にがいよぉ……エレノアのうそつき……」

「……はい、すごく苦いです。ごめんね、モアナ。」

 

彼女は嬉しそうに笑い、眠った。

喰魔の女性≪メディサ≫が彼女をベッドまで連れて行く。

彼女は答えを見つけたのだ。

裁判者は彼女の答えを、心の声を聞いた。

 

『どんな結果になるかはわからない。でも、弱い人間でも、自分を誤魔化さずに一生懸命生きれば、母も許してくれる。私はそう思うから……だからこそ、強い子も、弱い子も、間違った子も、どんな子もみんな、この世界で生きていて欲しい……』

 

裁判者はエレノアを横目で見て、

 

「なるほどな。」

 

そう言って、微笑む彼女を見る。

 

~~Fin~~

 

 

――ベルベットの想い、ライフィセットの想い

ベルベットは自分の故郷で、自身家の前にある姉セリカと生まれるはずだった姉の子の墓を見つめていた。

それを心配したライフィセットだったが、彼女は明るく、昔話をするのだった。

 

四聖主を起こしたのち、裁判者から真実を聞いた。

そして、彼らはひょんな事からノルミン島を見つけ、交流を持ったノルミン聖隷たち。

そこで導師アルトリウスを知るノルミン聖隷にあった。

彼は聖隷の加護を広め、『暗黒時代』を終わらせた英雄王クローディン・アスガードと共に旅をしていたらしい。

そして導師アルトリウスの先代筆頭対魔士でもある。

ノルミン聖隷の話によれば、三百年以上も誓約で生きていたらしい。

それに、裁判者とはよく戦っていたと。

だが、ロウライネで、ある哀しき事件でそれは唐突に終わってしまったらしい。

そしてマギルゥの師匠であるメルキオルから多少の事は聞いていたらしい。

彼女曰く、クローディンに付き合うために自身も誓約をかけた事。

そして師でも呆れるほどの妙な男だったらしい。

王位を退いた後も、人知れず対魔士として世界を守ろうと願ったとか。

裁判者はそれも含めて、知っていたのであはないかと問わる。

裁判者は目を細め、『自分で知れ』と目で語る。

 

彼らはその真実を知るためにロウライネに向かった。

そして天井が空いた場所で、空を見上げていたノルミン聖隷を見つけ、

 

「あんたが、アルトリウスたちと一緒に旅をしたノルミン?」

「せやけど……あんたはアルトリウスはんのお身内さんか~?後ろに裁判者がおるさかい、教えてもらったらええやんか。」

「私は言うつもりはない。」

 

裁判者は即答で言う。

ベルベットはノルミン聖隷を見て、

 

「……教えて。ここでなにがあったのか。」

「あかん。言いふらしてええことちゃうし。」

 

ノルミン聖隷は真剣だった。

マギルゥが一歩前に出て、

 

「儂は、先代の影――メルキオルの身内じゃ。頼む、話してくれんか。」

「……十数年も昔に、ここでクローディンはんが亡くなったんや。愛弟子のアルトリウスはんの命を救うために、“誰も殺さない”という誓約を破らはってな……。」

「やっぱり……」

 

ベルベットはなにかを思い出すかのように、眉を寄せる。

ノルミン聖隷は続けた。

 

「アルトリウスはんは悪うない。あの時あの子を救うには、ああするしかなかってん……。王様の寿命は、誓約を使こうても、もう限界やったし。なにより王様は、アルトリウスはんの純粋さに希望を……未来を託してはった。けど……アルトリウスはんは、先生を殺したのは自分や~と背負い込んでしまわはってん……」

「あの片らしい……ですね。」

 

エレノアは胸で拳を握りしめる。

ノルミン聖隷はベルベット達を見て、

 

「せやしあの子は、たった一人でそりゃあ一生懸命頑張ったんや。世界中の人に、聖隷の存在と業魔≪ごうま≫の恐怖を説き、純粋な心の大切さを伝えて回らはった。けど、平和に馴れた人間たちは全然知らん顔で……裁判者との戦いで半眠り状態やった四聖主は、とうとう完全に眠りに入ってもうた……。アルトリウスはんは、そのことまで自分のせいやって苦しんで……」

「……アルトリウスはどうなったの?」

 

ライフィセットが服を握りしめる。

ノルミン聖隷は視線を落とし、

 

「自分と一緒にいたら、きっとウチらを業魔≪ごうま≫にしてしまうーゆーてな……。ひとりぼっちで、東へ向かわはった。」

「東へ……」

 

ベルベットは眉を寄せた。

ノルミン聖隷は顔を上げ、

 

「なあ、アルトリウスはんは元気なんか~?今どうしてはるん?」

「……話しにくいことを語ってもらって、すまんかったの。」

「今のミッドガンドは危険よ。業魔≪ごうま≫になる前にノルミン島に帰りなさい。」

 

マギルゥとベルベットがノルミン聖隷を見る。

ノルミン聖隷はトボトボと歩いて行った。

 

「己が無力さをに絶望した若き筆頭対魔士は、すべてをあきらめて東へ向かった……か。東とは、すなわちイーストガンド領――」

「アバルか。」

「すなわち、裁判者が言った通りの、ベルベットが知る真実をへとなる……か。」

 

マギルゥがベルベットを見る。

ライフィセットがベルベットを見上げ、

 

「ベルベット、アバルへ行ってみようよ。なんか、呼ばれているような気がするんだ。」

「……そうね。あたしもよ。」

 

一向はアバル村へと向かった。

ベルベットの家に行くと、お墓の前にノルミン聖隷が居た。

 

「……ここに来て、よーわかったわ。アルトリウスはんは、幸せやったんやな~……」

「あんたは?」

 

ベルベットがノルミン聖隷を見る。

ノルミン聖隷は振り返り、

 

「昔、アルトリウスはんと旅をしたもんや。どーしても、あの子のことが気になってな~。噂をたどって、ここまできたんや~。」

「……そのプリンセシアは、あんたが?」

 

ベルベットが添えられていたピンクの花を見る。

ノルミン聖隷は首を振り、

 

「ちゃうよ。ウチが来た時は、もう捧げてあったわ……。プリンセシアの花言葉……知ってはるか~?」

「……『かけがえのない宝物』『幾々年も健やかに』。」

 

ベルベットが呟く。

ライフィセットがハッとして、

 

「この花を供えたのは……!」

「……そ~ゆ~ことやろな……。使命に疲れてボロボロにやった“あの子”を、このお墓の人が救ってくれたんやね……。ありがと~なぁ……。」

 

そしてお墓を見て、お礼を言った。

ノルミン聖隷は思い出すように、

 

「あの子は昔からそうやってん……。真面目な、真面目な子やった……。せやし、いつも自分で自分を縛り付けてしまうんや……。あんなに好きやった人間たちの心を……『消さなあかん』と思い込んでしまうほど強う……」

 

そしてノルミン聖隷はベルベット達に振り返り、

 

「……お願いや。もうあの子を“自由”にしてあげてくれへんか?」

「……頼まれなくてもやってあげるわ。あんたが願う“自由”とは違うだろうけど。」

「……よろしゅうお頼みします……災禍の顕主はん。」

 

そう言って、ノルミン聖隷は歩いて行く。

裁判者は空を見上げ、

 

「確かに、お前の願う“自由”ではないな、どちらも。クローディン、お前の望んだ未来ではないが……お前は何を想うのだろな。お前が育てた愛弟子の今の姿を……そして掴みたかった未来を、な。」

 

裁判者はベルベット達を見る。

彼らは知った導師アルトリウスの過去を真意を。

彼がずっと何をしてきたのか。

そして彼の“師と嫁、しいては子”の絶望を乗り越えて、導師として君臨する覚悟。

それを理解した上で、彼らは進む。

 

彼らは、今のカノヌシの情報を得る為に地脈に潜ることとなった。

ベルベットの故郷にある鎮めの祠に向かう。

彼女は祠の穴を見つめ、思いにふける。

ここから彼らの想いは始まった。

ベルベットの復讐が始まった場所、聖隷にある前のライフィセットが生まれる前に死んだ場所、導師アルトリウスが妻と子とを亡くした場所、ベルベットの弟が贄にされた場所、想いが駆け巡る。

地脈の穴を見つけ、彼らは危険を承知で中に入って行く。

 

地脈に入り、大地の記憶を探る。

大地の記憶の中に、聖隷シアリーズと導師アルトリウスと老人対魔士の映像が映し出される。

二人は聖隷シアリーズの中に、ある誓約の術式を彼女の命を対価に組み入れた。

話によれば、“ソーサラーリング・ブリュンヒルト”という聖主カノヌシの神依≪カムイ≫を制御する為のものらしい。

つまり聖隷シアリーズはその為に犠牲になれと言うことだ。

 

ベルベットが眉を寄せ、裁判者を見る。

 

「でも、シアリーズはアンタとも誓約を交わしたと言っていたわ。」

「ああ。あれとは別に、お前をあの場所から出すために必要な力を同じく命を対価にした誓約を渡した。」

 

裁判者は彼女を横目で見る。

ベルベットは左手を握りしめ、

 

「……あっそ。」

 

ベルベットは歩いて行く。

彼らは再び歩き出しながら、考えをまとめた。

聖隷シアリーズの件も、海賊アイフリードやジークフリードの件はすべて聖主カノヌシの神依≪カムイ≫制御の為だった、と。

 

彼らはさらに大地の記憶を探る。

そこに今度は導師アルトリウスがアーサーとして、聖隷シアリーズがベルベットの姉セリカの時の記憶。

そう、彼らが出会ったばかりの記憶だ。

彼は彼女に今まで自分が見てきた世界の話をしていた。

人々に対して哀しさ、業魔≪ごうま≫の増加、四聖主の眠り、問題は山積みであること。

彼女は彼の話を聞き、彼が世界を、人々を愛している事を知ったのだ。

彼が自分を変えようとしていた第一歩だった。

 

ベルベットは過去を思い出しながら、前に進む。

彼らは知る事で真実を知る。

だが、それは同時に恐怖でもある。

知る事が……

 

さらに進むんでいくと、今度は聖隷シアリーズとライフィセットの記憶だった。

ライフィセットが心を失っていた聖隷二号と言われていたあの頃の……

聖隷シアリーズが立っているライフィセットに話し掛ける。

それはライフィセットが配属が決まり、名前を得た時のことだった。

彼女は『聖隷二号』と名付けられたライフィセットに語る。

 

「記憶は……あるはずないですよね。生まれる前に亡くなってしまったのだから。」

「記憶……?」

 

聖隷二号≪ライフィセット≫は首を傾げる。

彼女は一度櫛を取り出し、見つめた後、それをしまう。

 

「はい。私には戻ってしまった。その記憶が、胸を焼くのです。かけがえのない……とりかえしのない記憶が……」

「意味……わからない。」

「それでいいわ。意思も記憶も目覚めない方が幸せだった。叶うことなら、あんたはこのままで……」

 

記憶が戻ってしまった自身の想い、懐かしく、取り戻す事の出来ない記憶。

それによって、意志と記憶は思い出すと辛いということ。

彼女は歩き出す。

聖隷二号≪ライフィセット≫は彼女を見る。

 

「どこへ?」

「最強の聖主と筆頭対魔士を“殺せる者”を解き放ちに。これは……私の過去と私自身への復讐なのよ。」

 

自身の記憶≪過去≫と復讐を行うために。

そして聖隷シアリーズはライフィセットを見て、

 

「さようなら。あなたを守ることができなかったお母さんを……どうか許してね。」

 

彼女は、母として守れなかった事を悔やんでいた。

けれど、彼女は進む。

 

大地の記憶が終わると、彼らは監獄島の地下牢に地脈のワープの効果で来てしまった。

ライフィセットは俯き、

 

「僕、シアリーズに会ってたんだ……なにも、覚えてなかった……」

 

ベルベットはそんな彼を見つめた。

そして彼女はここに飛ばされたのは、おそらく聖隷シアリーズの意思ではないかと言う。

その意思は、ライフィセットとベルベットに想いを伝える事だと皆が言う。

ライフィセットは顔を上げ、大きく頷いた。

彼らは港に出る為、上に上がる。

ライフィセットは一人、胸に手を当てて、

 

「僕……意思が目覚めちゃったけど、辛いことばかりじゃないよ。この世界で“生きる”って感じられるから。だから安心してね……お母さん。」

 

ライフィセットは微笑んだ。

 

ベルベットはキッシュを作った。

それをライフィセットが味見し、大丈夫だと言う。

彼女はそれを包み、犬の喰魔の元へ行った。

 

ちなみに、裁判者が視線を外すと、そこにはマギルゥ、アイゼン、ロクロウが正座をしていた。

その彼らをエレノアが腰に手を当てて、説教をしていた。

 

『……あれは……なんだかな……』

 

裁判者は船に向かって歩き出す。

 

一向はメイルシオに来ていた。

ベルベットが犬の喰魔に近付く。

二匹はベルベットに唸り声を上げる。

ライフィセットがベルベットを見て、

 

「気をつけて。オルとトロス、普段はおとなしいんだけど……」

「仇が目の前にいるんだもの。当然よ。」

 

ベルベットは膝を着き、キッシュの入った包みを開く。

それを彼らの前に出す。

 

「毒なんて入ってないわ。あんたたちに、聞いて欲しいことがあって来たのよ。この“特製キッシュ”は、私の姉さんの得意料理でね。家族みんなの大好物だった。生地の練り方と、二種類のチーズを使うところに工夫があるのよ。作り方のコツは、卵とクリームの分量に気をつけることと、具材の水気をよくきっておくことで……」

「どうしてオルとトロスに?」

 

ライフィセットが意味が解らず、ベルベットを見つめた。

ベルベットは視線を落とし、

 

「レシピを教えてあげるって約束してたのよ。……ニコと。」

 

ライフィセットは目を見張って驚く。

ベルベットは二匹を見て、

 

「あんたたちから、御主人様に伝えてあげて。あたしは、ニコと同じところには行けないから。」

 

二匹はベルベットを見つめた後、キッシュを食べ始める。

ベルベットは立ち上がる。

ライフィセットが慰めようとすると、ベルベットはそれを断った。

でないと、友達ニコが救われないと。

ベルベットは全てを背負う。

 

ライフィセット達は村でドラゴンの話を聞いた。

カースランドで、ドラゴンが暴れているらしい。

そのドラゴンは聖隷シルバ、ライフィセットと共にいた聖隷だ。

聖主カノヌシから逃げる際に、穢れによってドラゴンとなってしまった。

ライフィセットは話したことも、触れ合った事も少なかったが、今の彼はまるで、自分のもう一つの姿だったとかもしれないと言う。

彼は決着をつけるために、彼の元に向かう。

 

ライフィセット達がドラゴンの前に立つ。

そこにはあの時、聖主カノヌシの攻撃を受け倒れていたドラゴンは、完全復活していた。

ライフィセットは彼の前に立ち、

 

「ごめん……前は君を利用して逃げちゃった。今度は逃げないからっ!」

 

そしてライフィセットは構える。

ベルベット達も構え、咆哮を上がるドラゴンに突っ込んで行く。

 

「君を倒すよ!シルバ!」

「小細工はなし!総力戦よ!」

 

彼らは攻撃を仕掛けていく。

それを見ていた裁判者は、

 

「……ああ、そうか。それがお前の願いか。」

 

裁判者はドラゴンと戦う彼らの前に立ち、ドラゴンの炎を魔法陣で防ぐ。

ライフィセットを見て、

 

「私はこのドラゴンの願いを叶えなければならない。」

「それって……」

「トドメは私が取ると言うことだ。」

 

裁判者は影から弓を取り出し、

 

「お前の願い、叶えてやろう!」

 

裁判者は矢を放つ。

無数の黒き炎を纏った矢が、ドラゴンに突き刺さる。

ドラゴンは燃え上がり、穢れを燃やし尽くす。

そして、その場にはドラゴンの骨だけが残る。

 

「これで、お前は自由だ。」

 

裁判者はドラゴンの骨に触れる。

ライフィセットが骨と化したドラゴンの前に座り込み、

 

「……ひとつだけ思い出したんだ。僕がテレサ様に怒られて罰を受けた時、あの子は、こうして側にいてくれたんだ。なにも言わなかったけど、ずっと側に……」

「そう……」

 

ベルベットはそんなライフィセットの背を見つめる。

ライフィセットは立ち上がり、

 

「ごめんね……」

 

そしてライフィセットはベルベット達の元に歩き、

 

「それと、ベルベット。あの時――ヘラヴィーサで、僕を連れて逃げてくれてありがりがとう。」

「あれは……ほとんど誘拐だし……」

「だとしても、お礼を言いたいんだ。」

「……いらないわよ。あんたが、今のあんたなのは、あんた自身のせいなんだから。」

 

ベルベットは微笑む。

裁判者は空を見上げ、

 

「少なくとも、お前の魂は……」

 

裁判者は歌を歌う。

その力は辺り一帯を包み込み、この場所を隠し、封じる。

裁判者は歌い終わり、ライフィセットが見ている事に気付いた。

 

「なんだ。」

「ううん、ありがとう。シルバを自由にしてくれて。」

 

微笑むライフィセット。

裁判者は目を細め、彼らの頭をポンポン叩いた後、歩いて行く。

ライフィセットは少し驚いた後、ベルベット達にそれを話して笑いながら歩いて来た。

 

~~Fin~~

 

 

――ペンギョンとキンギョン物語

ベルベットが災禍の顕主と呼ばれていた時の話。

彼はイズルトに立ち寄っていた。

そのイズルトの宿屋で変わった話を聞いた。

 

「知ってます、お客さん。しゃべるペンギョンが出没するって噂。」

 

裁判者の眉がピクリと反応する。

それに気付かなかったベルベットが眉を寄せる。

 

「ペンギョンがしゃべる?」

「本当なんですよ。夜の浜辺で話しかけられた人間が、三人もいるんです。」

「そりゃあ、面白い。とっつかまえてマギルゥ奇術団の見世物にしたいわー。」

 

マギルゥがニヤリと笑い出す。

裁判者はさらに腕を組み、イラつき出す。

それに気付かない彼らは、

 

「そんなのんきな話じゃないんですよ、お客さん。イズルトには『この世の終わりに物言うペンギョンが現れ、罪人に裁きの言葉を告げる』って伝説があって、そのペンギョンに遭遇した人たちは、ショックで寝込んじゃってるんですから。」

「業魔≪ごうま≫ではないのですか?」

 

エレノアは顎に指を当てて聞く。

裁判者は腕を組み、眉まで少し寄せ始めた。

 

「違うみたいですが、かなり凶暴で『ボクワリーゼマクシアノイガクセイデス』と叫びながら襲ってくるとか。」

「それが裁きの言葉?」

「意味は解りませんが、とにかく夜の浜には出ない方がいいですよ。絶対に。」

「むむう……そう言われると出たくなるの~。のう、裁判者。」

 

と、マギルゥが裁判者を見て、サッと視線を外す。

他の全員も、裁判者を見て、サッと視線を外した。

そこには殺気をむき出しにした、災禍の顕主よりも怖い裁判者が居た。

 

夜、裁判者は外に出た。

そしてしばらく浜であるものを捜していた。

と、一匹のペンギョンと側に居る少年、ベルベット達を見つけた。

裁判者はそこに歩いて行く。

 

「あ、裁判者さ――」

 

足音に気付いたライフィセットが、裁判者に振り返って名を呼んで固まった。

そこに居たのは、災禍の顕主よりも怖い裁判者。

ライフィセットは震え上って、ロクロウとアイゼンの後ろに逃げ込む。

裁判者は笑顔で笑っている少年を掴み上げ、

 

「貴様は何をやっている。」

「え~っと……ペンギョンさん……というより、リーゼ・マクシアのジュードさんとお話中です。」

 

彼は両手を上げる。

足元に居たペンギョンが腕をパタパタさせて、

 

「や、やめてください!審判者さんをイジメないでください!彼は僕の為に――」

「貴様は黙っていろ、異界人。これはこちらの話だ。」

 

物凄く怖い裁判者が、ペンギョンを睨みつける。

エレノアが裁判者を見て、

 

「裁判者は何か知ってるんですか⁉食べ物がしゃべってる理由!」

「あなたたちもペンギョンを食べるんですか?教えてください。とても大事なことなんです。」

 

ペンギョンがエレノアを見る。

エレノアは俯き、

 

「……食べます。」

「あたしは何でも喰らうわよ。必要ならね。」

 

ベルベットは左手を見つめる。

ペンギョンはジッと彼らを見て、

 

「そうですか、あなた方も以前の方たちと同じなんですね。なら、やめてもらわなきゃ!」

「ほほう。愛くるしいペンギョンの分際でなにができるのかえ。」

 

と、マギルゥが目を細めると、

 

「あ、彼はペンギョンじゃなくて――ちょ、危ない!」

 

裁判者は審判者に剣を振り下ろす。

彼らは互いに戦いを始めた。

と、ペンギョンが腕をパタパタし出す。

 

「はあああ!」

 

そして光出す。

光が爆発すると、そこには一人の少年が現れる。

マギルゥは手を上げ、

 

「ギョーン⁉人間に化けおった!」

「なんなのよ、あなたは⁉」

 

ベルベットが構える。

少年も構え、

 

「ごめんなさい!でも……ペンギョンに手出しはさせない!」

 

そして彼らの方でも、戦闘を始めた。

裁判者と審判者は剣を交え、

 

「そんなに怒んないでよ!」

「何で、異界人を二人も連れ込んだ!」

「あっ!やっぱりそうだよね、しゃべるペンギョンが現れた時点で、君は調べるよね……」

「当然だ!大体、お前は遊んでるだろ。」

「ばれちゃった?」

 

と、審判者は剣を弾き、後ろに一歩下がる。

そして戦闘を行っている彼らを見て、

 

「うわっ⁉マズ‼」

 

彼は戦闘を行っている彼らの元に駆けて行く。

審判者はベルベットの左手を掴み、

 

「ちょっと待った!お願いだから、彼を喰べないで!」

「邪魔しないで!」

「するよ!俺があの人……人じゃないけど、あの人と裁判者に怒られる!」

「は⁉」

 

そして審判者はベルベットを砂浜に叩き付ける。

アイゼンの拳を受け止め、彼に蹴りを入れる。

それと同時だった。

少年はペンギョンの姿に戻る。

 

「くっ……また戻っちゃった……でも!」

 

と、再び腕をパタパタし出す。

その彼に、ライフィセットが眉を寄せて、

 

「待って、どうしてそんなに無理をして戦うの?審判者も君を守るくらいだし。」

「ペンギョンたちを守るためです。あなたたちのような密漁者から!」

「密漁者?」

 

ベルベットもその回答に、きょとんとした。

ライフィセットが彼を見て、

 

「僕たちは密漁なんてしないよ。しゃべるペンギョンを見に来ただけなんだ。」

「え……?けど、ペンギョンを食べるって言いましたよね?」

 

しゃべるペンギョンは彼らを見つめた。

エレノアとベルベットは視線を外して明後日の方向を見る。

ロクロウが笑いながら、

 

「すまん、あれは言葉のアヤだ。こいつは何でも喰うんだ。」

「わ、悪かったわね……」

 

ベルベットはそっぽ向きながら言う。

エレノアも眉を寄せて、

 

「私も食べるのは、お店で売っている正式なお刺身とか干物だけです。」

「俺たちは善人じゃないが、そういう類の悪党じゃない。」

 

アイゼンがしゃべるペンギョンを見る。

彼は目をパチクリし、

 

「そう……なんですね。すいません。急に戦いを挑んだりして。審判者さんもごめんなさい。」

 

ペンギョンは裁判者に腹を殴られ、正座していた彼を見る。

他の者達に至ってはそれを見てみぬふりをする。

何せ関わりたくないのである。

 

「い、いや……いいんだ。俺も君に会いに来るのが遅れたせいでもあるし……」

 

彼は正座したままそう言った。

しゃべるペンギョンは彼らを見て、

 

「前にペンギョン狩りをする密漁者と出会ったせいで、ちょっと神経質になっていたみたいです。」

「例の目撃者じゃな。そやつらは、お主と出会ったせいでショックで寝込んだそうじゃ。その程度の子悪党なら、二度と密漁なぞできんじゃろうて。」

 

マギルゥはニヤニヤ笑う。

ベルベットは腕を組み、

 

「で、結局あんたはなんなの?ペンギョンの化身?」

「いえ、僕はリーゼ・マクシアの医学生。ジュード・マティスです。」

「リーゼ・マクシア?医学生……?」

 

ライフィセットが首を傾げる。

ペンギョンは体を横に振り、

 

「こことは違う異世界です。僕も、皆さんと同じ人間なんですが、突然、この時空に飛ばされて、気がついたら、こんな姿に……」

 

マギルゥは目を細め、

 

「うむ。裁判者が言っていた異界人と言うからには本当の事じゃろうが……本当に別の世界から来たのかえ?」

 

しゃべるペンギョンは頷く。

マギルゥも頷き、

 

「そして、何らかの影響でペンギョンになってしもうた訳じゃな。」

 

そしてマギルゥは裁判者を見る。

ベルベット達も、しゃべるペンギョンも見る。

と、裁判者はさらに審判者を睨みつける姿。

彼は裁判者に土下座して、

 

「俺が悪いです。彼だけ落としました。そのせいです!」

 

ベルベット達はそれを見て、眉を寄せる。

そして顔を上げた審判者は、しゃべるペンギョンを見て、

 

「ごめんね、異界人のジュード君。俺の不手際のせいでそんな姿にしてしまって。」

「いえ、いいんです。最初は途方に暮れていたけれど、ここのペンギョンたちが暖かく向かい入れてくれたので。だから僕はこの子たちの為になにかできないかと思って……」

「それで密漁者からペンギョンを守っていたんですね。」

 

エレノアが手を握り合わせる。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「人の……ペンギョンの心配をしてる場合じゃないでしょ?お人好しすぎるわね。」

「よく言われます。」

「あんたの言い分はわかった。けど、事実だとしても、私たちはなにひとつ手助けはできそうにないわ。」

「気にしないでください。変える方法は、審判者さんが知っているそうなので。なんとか、なると思います。」

 

しゃべるペンギョンは審判者を見る。

ベルベット達も彼らの方を見る。

その審判者は裁判者を見上げ、

 

「と、言うわけなんだ。」

「……どういう訳だ。異界人を連れ込んだあげく、落とし、よりにもよってペンギョンの姿にして、さらにその不始末を私にもやれと言うのか。」

「できれば、そうしてくれると嬉しいな~なんて……だって、俺と“あっちの人”だけじゃさ。」

「大方、“アレ”が呼び出し、お前の発案の元、事をなそうとしたら、不始末が起きたんだ。“アレ”とやれ。私は手を出さんぞ。」

「ええ⁉いや、俺だって“あの人”……人じゃないけど、二人は嫌だよ!確かに俺が発案したけどさ。」

「私はアレに会いたくない。むしろ葬り去りたい。」

「今だに大暴れしたときの事、怒ってるの。仕方ないじゃん。」

「“アレ”に説教じみた事を言われたんだぞ。もういっそ、世界を壊すか。」

「やめて!お願いだから!」

 

と、会話をしていた。

しゃべるペンギョンはベルベット達を見上げ、

 

「多分、大丈夫だと思います。多分……」

「ま、健闘を祈るわ。」

 

ベルベットは頭を抱える。

マギルゥは腕を組み、

 

「にしても、あの裁判者を説教する奴とはどのような奴かの~。」

「俺を見るな。知らん。」

 

アイゼンは眉を寄せて、マギルゥを睨んだ。

しゃべるペンギョンはベルベット達を見て、

 

「それと、一つお聞きしたいのですが、僕の他にしゃべるペンギョンの話はありませんか?一緒に来ている仲間が一人いないんです。」

「知らないわ。審判者はどういってんの?」

「審判者さんは一緒に居たけど、どっかに行ってしまったと。」

 

しゃべるペンギョンは視線を落とす。

アイゼンが小さく笑い、

 

「仲間の特徴を言え。もしかしたら、見かけるかもしれん。」

「はい!えっと、名前は“ミラ”っていいます。きれいな赤い瞳に、金色の長い髪。不思議な威厳にみちた凛々しい女の人で……あ、あとピョンっとしたチャームポイントがあって、美味しそうなものを見ると『じゅるる』って言います。」

「ピョンとしたチャームポイント。」

「美味しそうなもので『じゅるる』。」

 

ライフィセットとロクロウが顎に指を当てて、考え込む。

しゃべるペンギョンは彼らを見上げ、

 

「それと、ミラは地水火風を司る四大精霊を従えていて、“精霊の主”って呼ばれています。」

「ほう、地水火風……精霊の主とな?」

 

マギルゥが目を細める。

アイゼンが頷き、

 

「……わかった。情報を得たら教えよう。」

「大変そうですが、気を落とさないで。」

 

エレノアが今だ怒られている審判者を見てから、ジッとしゃべるペンギョンを見つめる。

彼も審判者を見てから、ジッと彼らを見て、

 

「ありがとうございます。ミラのこと、お願いします。」

「自分のことよりこだわるのね。」

「そ、そんなこと……でも、僕にとって大切な人なんです。」

「そう……」

 

そう言って、彼らは宿に帰っていく。

その後、朝になってから裁判者は帰って来た。

宿屋の前に立っている裁判者の雰囲気を見たエレノアは、

 

「夢ではありませんね。」

「うむ。触らぬ裁判者に祟りなし、じゃ。触れずに次に行くぞ、皆の者!」

 

マギルゥがササッと歩き出す。

そして他の者達も歩き出す。

各地で聞き込みをすると、対魔士がペンギョンに負けたと言う情報を得た。

そして、その敗因は地水火風の術で倒されたと言うことだった。

しかも、全身が金色の赤い瞳をした“キンギョン”だったらしい。

さらに、情報ではキンギョンは『世界に終末を告げる』といわれる不吉な生き物と、言われているらしい。

その際の裁判者はすでに見るのも怖いくらいの威圧感を出し、周りの人々は逃げ出していた。

一向はキンギョンが現れたと言うヘラヴィーサの雪原へと向かう。

歩いて行くと、金色の毛並み、赤い瞳を持ったペンギョンが居た。

裁判者はそのキンギョンを睨みつける。

エレノアがぞっと震え、

 

「赤い目で金色……本当にキンギョンですね……」

 

そのキンギョンは腕をパタパタしている。

裁判者はさらに睨みに凄みが増す。

ライフィセットが脅えながら、

 

「し、しかもピョンとしたチャームポイントもあるね……」

 

キンギョンには二本のピョンとした毛がある。

ベルベットがキンギョンを睨み、

 

「注意して。裁判者と情報が正しければ、四大精霊とやらを使うはずよ。」

「じゅるる。」

 

キンギョンは裁判者と目を合わせた。

ロクロウが一歩下がり、

 

「おい今、『じゅるる』って言ったぞ!」

「つまり私たち……というよりかは、裁判者を“美味しいもの”と見てる⁉」

 

エレノアが影が揺らぎだす裁判者を見て、距離を置く。

ベルベット達も距離を置き、

 

「まさか人食いペンギョンなわけ?」

 

ベルベットが構える。

そこにペンギョンを抱えた少年が降り立つ。

そしてペンギョンを置き、裁判者に近付き、

 

「お願いだから!それしまって!ね?」

 

と、話し始めた。

そして、ベルベット達を見て、審判者が置いたペンギョンが、

 

「ま、まってください!」

 

と、キンギョンを守るように手を広げる。

ライフィセットがしゃべるペンギョンを見て、

 

「ジュードペンギョン!」

「確かにミラは、食いしん坊だけど、無意味に人を襲ったりは絶対しないよ!」

「じゅるる。」

 

そのしゃべるペンギョンの後ろで、キンギョンが再び鳴いた。

そして、しゃべるペンギョンはキンギョンを見て、

 

「あれ……?このキンギョンはミラじゃ……」

 

と、しゃべるペンギョンは後ろに倒れ込む。

ベルベットが眉を寄せ、

 

「……大丈夫?」

「お、お腹が空いて……。連絡を聞いて、審判者さんにここに連れて来てもらったから、飲み食いを忘れてた……」

「そこまでだ。」

 

そこに女性が歩いて来た。

金髪に赤い瞳、ピョンとしたアホ毛がある。

そして彼女はどこか凛とした声で言う。

 

「性懲りもなく、またペンギョンをいじめているのか。食べるだけならまだしも、『不吉だから』などというあいまいな理由で命を奪うのは見過ごせない。ペンギョンたちに代わって、私が相手をしよう!」

 

剣を構え、女性が話している最中に、

 

「あ!ちょっと!」

 

裁判者が影から剣を取り出し、キンギョンに向かって走り出す。

審判者は肩を落とす。

キンギョンはテトテト駆け出した。

裁判者の前に、女性が立ちふさがる。

裁判者は一度止まり、

 

「異界人は退いていろ。これはこちらの問題だ。」

「む?という事はお前は審判者の知り合いか。わかった。」

 

と、退いた。

ライフィセットが驚きながら、

 

「いいの⁉」

 

審判者を見た。

彼は地面に膝を着いて、落ち込んでいた。

 

「ライフィセット、そいつはほっときなさい!」

 

ベルベット達が構える。

裁判者は駆け出した。

 

しばらくして、裁判者がボロボロになって、キンギョンのピョンとした毛を掴んで戻って来た。

審判者が駆け出して、キンギョンを取り上げて、

 

「ちょっと!何したの⁉」

「少しだけやっただけだ。」

「少しじゃないよね⁉」

 

審判者がキンギョンを下ろす。

裁判者は指を鳴らすと、傷も服も治る。

ライフィセットが一歩下がり、

 

「あの裁判者さんをあそこまでするキンギョンって……」

「キンギョンはともかく、こいつは強いわ。ジュードの言うように、さすがは精霊の主ってとこかしらね。」

 

ベルベットがそう言うと、女性は剣をしまい、

 

「ジュード⁉ジュードを知っているのか?彼は今どこにいる。」

「そこよ。」

 

と、ベルベットは彼女の足元にいるペンギョンを見つめる。

女性はペンギョンを見つめ、ペンギョンも彼女を見つめる。

そして、女性は膝を着き、

 

「ジュード!審判者が君を落とした、と言った時は驚いたが……よかった、無事だったのだな。」

「ミラ……僕がわかるの?」

「当たり前だろう。多少小さくなったが、君は君だ。なにも変わらないよ。」

「ありがとう、ミラ。」

 

そしてしゃべるペンギョンは肩を落とし、

 

「……なにも変わらないと言われると、ちょっと複雑だけど。」

 

女性は立ち上がり、ペンギョンを見つめ、

 

「ふむ……確かに、この姿は少し困るな。レイアやエリーゼは心配するだろうし、アルヴィンには、しつこくからかわれそうだ。」

「元に戻る方法はあるらしいんだ。審判者さんが方法を知っているって。」

 

そして審判者を見る。

女性やベルベット達も見ると、彼はキンギョンの前に立ち、裁判者と睨み合って何かを話している。

しゃべるペンギョンはベルベット達に振り返り、

 

「そ、それに前に一度、彼らと戦った時にはできたし。」

「戦った……?やはりペンギョンを虐待する不届き者か。」

 

女性もベルベット達を見る。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「違うってば。全部勘違いよ。」

「この人たちはミラの情報を教えてくれたんだ。ペンギョンのこともいじめたりしてないよ。」

「そうだったのか。すまない、どうやら私が早とちりをしたようだな。」

「みなさん、連絡ありがとうございました。」

「筋を通しただけだ。礼には及ばん。」

「仲間に会えてよかったね。」

 

アイゼンとライフィセットが笑う。

そして審判者が戻って来て、

 

「話は終わった?じゃあ、とりあえず行こうか。裁判者が大人しくしている内に。」

 

審判者はキンギョンを抱えて、サッと近寄って来た。

そして彼らを影で掴むと、

 

「じゃ、そういう事で!」

 

彼らは消えた。

裁判者の方を見ると、裁判者は物凄い怖い雰囲気を出して雪玉を蹴り飛ばしていた。

 

彼らはある事でノルミン島に来ていた。

それはねこにんから“終末の使者”がノルミン島に出現したと言うことだ。

それを聞いた瞬間、裁判者はねこにんを掴み上げ、情報を脅し取った。

裁判者は颯爽とベルベット達を置いて、歩いて行った。

脅えきったねこにんから“終末の使者”について聞いたベルベット達。

話によれば、終末の使者の使者は“裁きを下す者”らしい。

その裁きの結果が“悪”なら、すべてを滅ぼし、“善”なら、願いを叶えてくれると言われているそうだ。

その極端であるが、絶対者らしい。

現に、裁判者や審判者よりも上の存在らしい。

 

そんなわけで、ひょんなことからノルミン島を見つけ、交流を持っていたベルベット達。

彼らはそのノルミン島に来ていたベルベット達。

そこで、異世界の女性ミラとしゃべるペンギョンジュードと審判者と怖い裁判者が居た。

 

「お前たの方法には従うが、後始末はお前が主にやれよ。」

「わかったって!そんなに怒らないで。」

「怒る?私にそんな感情はない。」

「ソウデシタネー、ソウデシター。……めんどくさ。」

 

若干雰囲気の悪い裁判者に、審判者が何やら話していた。

と言うより、機嫌が物凄く悪かった。

裁判者はベルベット達を見て、

 

「来たか。なら、終わるまでは待っていよう。」

「は?と言うことはこいつらが“終末の使者”?」

 

ベルベットが異界の二人を睨む。

裁判者は眉を少しだけ動かして、後ろに下がる。

異界人の二人は首を振り、

 

「いや、違う。」

「僕たちは、終末の使者から託されたんだ。“裁きの戦い”を。」

「裁きの戦い⁉」

 

エレノアが眉を寄せる。

審判者が手を上げて、

 

「俺は、その見届け人けん、ジャッジをさせて貰うから、手は出さないよ。」

 

ベルベットも眉を寄せて、

 

「それって……あんたらに負けたら、この世界が滅ぶって言うんじゃないでしょうね?」

「察しがいいな。その通りだ。」

 

異界人の女性は頷く。

アイゼンは腕を組み、

 

「終末の使者が、勝利すれば元の世界に戻すとでも約束してくれたのか?それとも、そこでニヤついている審判者か、後ろで殺気立っている裁判者に言われたか?」

「……僕たちは、リーゼ・マクシアでやり残していることがあるんだ。」

 

しゃべるペンギョンジュードは俯く。

ベルベットは目を細め、

 

「そうなのね……けど、そんなもの、こっちにだってあるわよ!」

 

ベルベット達は構える。

マギルゥは彼らを見据え、

 

「一人と一匹で、儂らとやる気かえ?」

「一匹じゃない。マギンプイ。」

 

しゃべるペンギョンジュードが腕をパタ突かせた後、「ボン」と煙が立つ。

煙が消えると、人型ジュードがいた。

そして彼らを見て、

 

「二人だよ。」

「なにぃ⁉儂のどーでもいい呪文がオドロキの効果をー!」

 

マギルゥが目を見張って驚く。

異界人の女性ミラが、彼ら見て、

 

「“終末の使者”の力だ。この戦いの重大さがわかっただろう。」

「本気で戦わないと、僕たちには勝てないよ!」

 

二人は構えて、突っ込んでいく。

 

「終末の使者に代わって!」

「いざ、裁きの戦いを!」

「何様のつもりよ!」

 

ベルベットが応戦しながら叫ぶ。

他の者達もそれに加わる。

彼らは二人対六人だが、彼らは強かった。

なにより、二人のコンビネーションがいい。

それでも、ベルベット達の方が多勢に無勢で二人を弾き飛ばした。

ベルベットは剣先を彼らに向け、

 

「これで終わりよ。」

「くっ……」

 

ベルベットが異界人の女性ミラに剣を振り上がる。

異界人の男性ジュードが、彼女の前に出る。

 

「ミラ!」

 

そしてベルベットと睨み合う。

審判者が手を叩き、

 

「はーい!そこまで!」

 

そして二人の間に立つ。

裁判者も歩いて来て、彼らの横上を睨む。

 

「終わったのなら、さっさと終わらせろ。」

「わかっていますよ。本当に心の狭いですね、相変わらず。少しは審判者を見習ったらどうです。」

 

裁判者は殺気が上がる。

だが、その声は続く。

 

「さて、そこの娘の勝利だ。」

 

と、彼らの横上に光の球が現れる。

審判者は苦笑いで、その光の球を見る。

ベルベットがその光の球を見据え、

 

「あんたが……終末の使者?」

「しかり。我は、世界に裁きを下す者だ。裁きの勝者よ、お前の願い叶えてやろう。なんなりと言うがよい。」

「この二人を、元の世界とやらに帰して。」

 

ベルベットは異界人の二人を見る。

裁判者は横目で彼女を見る。

異界人の女性ミラは驚き、

 

「なぜだ?」

「そっちでやりたいことがあるんでしょ?だからよ。」

「……本当によいのか?お前が願うなら、お前に起こった因果を変えることも、時間すら、巻き戻すことすらもできるのだぞ。」

 

終末の使者の光は、そう言う。

だが、ベルベットはライフィセットと見合い、

 

「逃げるつもりはないわ。過去からも、罪からも。そう自分で決めたから。」

 

そう言って、光を見つめる。

その答えに、審判者は笑みを浮かべ、裁判者は目を細めた。

 

「裁きは下された。汝が意志は“悪”にあらず。ゆえに、この世界の消滅は回避しよう。」

「は?」

 

ベルベットは眉を寄せる。

異界人の女性ミラと異界人の男性ジュードはベルベットを見て、

 

「お前の返答こそが、裁きの真の課題だったのだ。」

「僕たちは、あなたの願いを引き出すことを託されてたんだ。」

「バカな使者様ね。あたしは災禍の顕主よ。」

 

ベルベットはイラつきながらが言う。

後ろの方ではマギルゥが「言わんことを言うでない!」と言う顔でベルベットを見ている。

エレノアも目を見張っていた。

だが、終末の使者の光の言葉は、

 

「それがどうした?魔王が“悪”とも、勇者が“善”とも限らない。人は誰かを愛すがゆえに憎み、罪を犯しながら、無償の奉仕を捧げられる生き物だ。」

「ゆえに何度も愚かな選択を引き続けるがな。」

「ま、それが心ある者達だからね。」

 

裁判者は腰に手を当てて、審判者は笑いながら言う。

 

「それは善意と悪意は表裏一体にして、その境界は常にたゆたう。お前達も、それは理解しておるのだろう。」

「それはまあね。」

「心ある者達には期待はしていない。」

 

審判者は苦笑いし、裁判者素っ気なく言う。

ベルベットは裁判者や審判者、終末の使者を睨み、

 

「アンタたちこそが、一番の悪よ。化け物並の力を安易に使い、振り撒く。選択だのなんだの言って、全てを見透かして、何もしないければ、関心も持たない。願いを叶えておいて、後処理は何もしない。それが人の生死であっても。」

「うん、それは否定できないな。」

 

審判者は苦笑いする。

裁判者に関しては無言だ。

ベルベットはさらに眉を寄せ、

 

「それに、今度は裁きに答えた奴が、そんな曖昧な“悪”だったら、世界を滅ぼす気だったんでしょう!」

「その通り。だが、それはたった一人の曖昧な“善”が世界を救うということでもある。」

「……質の悪い博打ね。」

 

だが、ベルベットの言葉に、

 

「ううん、僕はこうなると信じてたいたよ。」

「そう。だから、私も君たちを信じた。ジュードは、なかなか人を見る目があるからな。」

 

異界人二人は笑みを浮かべる。

ベルベットはそっぽ向きながら、

 

「生憎、人じゃないのよ。」

「そうなのか?だが、それは大した問題ではない。」

「人でも、精霊でも、魔王でも。」

 

二人はジッと彼女を見つめる。

ライフィセットが頷き、

 

「うん、関係ないよ。」

 

ベルベットはライフィセットを見つめた。

裁判者は終末の使者の光を見つめ、

 

「事が済んだのなら、この二人をさっさと元に戻せ。異界の門の事で、私が四聖主に文句を言われるのだぞ。」

「……だから後処理は俺がやるって!いつまで怒ってるのさ。」

「怒っていない!」

「だからそれが怒ってるって!」

 

審判者は裁判者に叫んだ。

終末の使者の光が、

 

「やれやれ、本当に心の狭い裁判者ですね。さて、手間をかけたな。異界の精霊の主と青年よ。さぁ、裁判者もうるさい事だし、それぞれのあるべき場所へ戻るとしよう。審判者、頼むぞ。」

「はーい。」

 

そう言って、光が地面に降りる。

そしてその光が消えると、金色のペンギョン、キンギョンが現れた。

 

「ええ⁉キンギョン‼」

 

そこにベルベット達の驚生きの声が響き渡る。

キンギョンが腕をパタパタし、再び光が辺りを一帯を包み込んだ。

光が消えると、そこにはキンギョンも、異界人の二人も、審判者も居なかった。

エレノアが眉を寄せ、

 

「しゃべっていたの……キンギョンでしたよね⁉」

「『この世の終わりに物言うペンギョン現れ、罪人に裁きの言葉を告げる。キンギョンは“世界に終末を告げる”といわれる不吉な生き物』。」

 

マギルゥが顎に指を当てて言う。

ロクロウが腕を組み、

 

「言ってたなぁ、そういえば!」

「終末の使者が……キンギョンだったなんて。」

 

エレノアが視線を落とした。

マギルゥは笑みを浮かべ、

 

「じゃが、これで裁判者がとてつもなく不機嫌だったワケも、ボロボロだったワケも、わかったのう。」

「ああ。それに危ないとこだったな。ベルベットがいつも通りに喰らってたら、世界が終わっていた。」

 

と、アイゼンがベルベットを見る。

ベルベットはアイゼンを睨み、

 

「人を死神みたいに言わないで。」

 

彼らは若干雰囲気的に危なかったが、場はライフィセットが和ませる。

今回の一件で、彼らはペンギョンの肉は恐ろしくて食べれなくなった。

また、彼らは島に居るノルミン達から裁判者とキンギョン≪終末の使者≫との仲を聞く。

その昔、裁判者が世界を滅ぼしかけた時、キンギョン≪終末の使者≫が裁判者を説教し、鉄槌を下した。

元々、仲の悪い彼らはこの一件でさらに仲が悪くなったと言う。

出会ったら最後、世界が割れるとまで言われているらしい。

ベルベット達は今回が、そうならなくてよかったと心底思うのであった。

 

~~Fin~~

 

 

――天への階梯

真実を知り、地脈を巡って、情報を集めていたベルベット達。

そして彼らはある地脈に迷い込む。

そこは火山の中、溶岩が辺りを流れていた。

裁判者は眉を少し動かす。

目の前にはねこにんが立っていた。

そのねこにんが彼らを見て、

 

「ここは“天への階梯”ニャ。」

「”天への階梯”?」

 

ベルベットがねこにんを見据える。

ねこにんは殺気出す裁判者に気付かず、

 

「世界の機密が隠された空間ニャ。聖隷を引き寄せる力をもっているみたいで、仲間のねこにんが、奥へと吸い込まれてしまったニャ。」

「ねこにんは、やっぱり聖隷だったんだ。」

 

ライフィセットがジッとねこにんを見る。

ねこにんは腰を振りながら、

 

「ねこにんはねこにんニャ。奥へ行ったのは、単なる好奇心ニャ。」

「なら、自業自得じゃろうが。」

 

マギルゥが呆れる。

ねこにんはベルベット達を見て、

 

「それはそうだけど、封印されてたここが開いたのはあなたたちと裁判者のせいでもあるニャ。」

 

裁判者はさらに殺気立っていた。

だが、それに気付かないエレノアが、首を突っ込んだ。

 

「封印されていたということは、危険な力を秘めている可能性が高いですよね?」

「本当に聖隷を引き寄せる力を持っているなら、放置するのはまずいかもな。」

 

アイゼンが眉を寄せる。

ロクロウは腕を組んで、

 

「どうする、ベルベット。奥を探ってみるか?」

「お願いニャ。そそっかしい仲間を助けて欲しいニャ。」

 

ねこにんもベルベットを見つめる。

考え込むベルベット。

そこに、声が響く。

 

「およしなさい……」

 

裁判者は殺気が頂点に達した。

彼らは二つの意味で、びくった。

ベルベットが後ろを見ないようにして、

 

「誰⁉」

 

そう言うと、彼らの前に光の球体が現れる。

 

「“世界の仕組みを識る者”とでも言っておきましょう……。」

「裁判者さんみたいな人かな……」

 

ライフィセットが恐る恐る後ろを振り返ると、そこには怖い怖い裁判者が立っていた。

ライフィセットは近くに居たロクロウにしがみ付く。

光の球体は語る。

 

「進んでも無駄です……。この奥には絶望しかない。せめて、自分の世界で生をまっとうしなさい。進めば、それすらできなくなるでしょう……」

 

そう言って、消えた。

マギルゥは呆れたように、

 

「はぁ……世界の仕組みを識っておると、いいながら、人の心理には疎いようじゃの……」

「進むわよ。ねこにんはともかく、無駄って言われると、気になってきた。」

 

ベルベットが奥を見つめる。

マギルゥは肩を落とし、

 

「ほ~ら、こうなる!」

 

裁判者はねこにんの前まで歩き、締め上げ、

 

「お前達一族に伝えろ。余計な真似をして、仕事を増やすと喰らうぞ、と。」

「は、はいニャ!」

 

ねこにんは震え上る。

それをベルベット達は見て見ぬふりをしてやり過ごした。

 

彼らは奥へと進む。

奥へ奥へと進むと、神殿に出た。

そこに一匹のねこにんが居た。

そのねこにんの話によれば、他の仲間は奥に行ったらしい。

さらに、ここが本来の“天への階梯”の場所らしい。

だが、空間が歪んで、色々な場所と繋がっているらしい。

裁判者はねこにんを睨み付ける。

ねこにんは悲鳴を上げて、裁判者に助けを求めた。

 

裁判者が穢れを喰らい、空間を直しながら奥へと進む。

さらに奥に進むと、ドラゴンと鉢合わせになった。

裁判者がドラゴンを見据えて喰らう。

ドラゴンについて議論していたからの前に、再び光の球体が合われた。

 

「ドラゴンたちは“門”を目指して、この階梯に入り込んでくるのです……」

「また出おった!」

 

マギルゥが目をパチクリする。

ベルベットが球体を見上げ、

 

「“門”って、なんのこと?」

「“天界”へ至るための扉……」

「だから、その“天界”って、なに⁉」

 

ベルベットは眉を寄せる。

マギルゥが殺気立つ裁判者に気付き、

 

「聞いても無駄じゃぞ、ベルベット。」

 

光の球体は消えた。

マギルゥは半眼で、

 

「ほらのー。識りたければ、もっと奥へと来いと言っておる。それに、裁判者があの調子じゃ。きっと面倒なことが起きるぞよ。」

 

彼らは奥へと進む。

その後も、裁判者は穢れを喰らい、ドラゴンを喰らう。

再び光の球体は現れ、

 

「無駄だと忠告したのに、こんなところまで来てしまったのですね……。なぜ、止めないのです、裁判者。」

「誰のせいだ、誰の!」

 

裁判者は殺気立っていた。

マギルゥが呆れアながら、

 

「そうじゃ!お主が、思わせぶりな話をするからじゃろーが。」

「思わせぶり?私は、心から忠告しているのですが……」

「善意があるなら教えて。天界ってなんのこと?」

 

ベルベットが光の球体を見据える。

光の球体は語り出す。

 

「天界とは“天族”の棲む場所。あなたたちの棲む穢れた地上世界が生まれる前から存在していた“真なる世界”のことです。」

「天族が棲む真の世界……だと?」

 

アイゼンが眉を寄せる。

ベルベットが首を傾げ、

 

「……天族って?」

 

だが、それは応えなかった。

 

「そして、この階梯の最深部には、ある条件を満たすと開く“天界への門”があります。」

「ちょっと。」

「でも、その門を開けられた者は数万年の間に一人もいない……。進むだけ無駄なのです。」

「あんたねぇ!」

 

ベルベットは怒りだす。

だが、光の球体は消えて言った。

マギルゥが肩を落とし、

 

「こやつ……性格が悪いのか、天然なのか、どっちなんじゃろ?」

「どっちでも、腹が立つことに変わりないわ。」

 

ベルベットはさらに怒る。

ライフィセットが考え込み、

 

「天界の門……そんなものがこの奥に……裁判者さんはなにか知って――」

 

ライフィセットが裁判者を見る。

そこには、拳を握りしめていた裁判者。

逆鱗に触れないように、彼らは触れずに歩き出す。

奥へ奥へと進み、奥まで来たことに喜ぶねこにんを見つけた。

ねこにんは嬉しそうに『世界を仕組みを識る者』からの伝言を話した。

 

――カノヌシの鎮静化は以前にもあった。その為、この世界が人間の文明と歴史が断絶している理由……。そして、聖隷と人間が救われない理由なのです……

 

そのねこにんはその世界の仕組みを識る者に聞いたそうだ。

何者か、と。

すると、『私は天族だった』と言ったらしい。

 

彼らは奥へと進む。

裁判者は穢れとドラゴンを喰らい続ける。

と、再び光の球体が現れる。

ベルベットが眉を寄せ、

 

「天族様。カノヌシの情報、どうも。」

「伝言は伝わったようですね。わかったでしょう。カノヌシによる鎮静化は避けられぬ運命。抵抗しても無駄なのです……」

「なぜ無駄だと言い切れるの?裁判者の力だけら?それとも、ひょっとして天族が、カノヌシの黒幕だから?」

「『そうだ』とも『そうでもない』とも言えます……。聖主も聖隷も、裁判者や審判者も、かつては天界の住民だった。聖主と聖隷は、みな“天族”と呼ばれる存在だったのです。」

「聖隷と天族が同じ存在だと⁉」

 

アイゼンが眉を寄せる。

裁判者はとりあえずは、大人しく待っている事にした。

 

「そう……“聖隷”とは天界から地上に降りた天族のこと。そして、主神として彼らを率いた存在が“聖主”と呼ばれる者たちなのです。」

「そうか……聖隷とは“聖主に隷≪したが≫う者”という意味だったのか。」

「本来は“天族”と呼ぶのが正しいのですね。」

 

アイゼンとエレノアが、納得する。

 

「知らなくても無理はありません。私たちが天界を離れたのは数万年も前のこと……。今地上にいる聖隷のほとんどは、降下のあとに生まれた“過去の制約”を知らない者たちですから。」

「待って!過去の契約ってなんなの?」

 

ライフィセットが叫ぶが、光の球体は消えてしまった。

ライフィセットが裁判者を見る。

裁判者はライフィセットを睨みつけた。

ベルベットが歩き出し、

 

「識りたければ、進むしかないみたいね。」

 

ライフィセット達は頷き、歩いて行った。

裁判者は拳を握りしめて、歩き出す。

 

再び、歩き出し、裁判者は穢れとドラゴンを喰っていく。

そして再び光の球体が姿を現す。

ライフィセットが光の球体を見上げ、

 

「お願い!天界でなにがあったのか教えてください。」

「……いいでしょう。私たちが巻き込んでしまった、あなたのような若い聖隷には識る権利がある……。天族にとって“穢れ”は猛毒。穢れを生みだす地上の人間たちは、天族にとって危険な存在でした。それゆえ、天界の天族は、裁判者を利用して、地上ごと人間を滅ぼそうとしたのです。」

 

ベルベット達はキョトンとする。

そしてハッとして、エレノアが眉を寄せ、

 

「そんな乱暴な!」

「でも、天族の中にも人との共存を願う者たちがいました。彼らは、地上を滅ぼそうとする天族たちと賭けをしたのです。自分たちが地上に降り、穢れを乗り越えて、人と共存を果たしてみせると。」

「その天族たちが、聖主と聖隷になったのか。」

 

アイゼンが腕を組んで眉を寄せる。

裁判者は彼らを見据える。

 

「そう。彼らの夢が現実した時、天界の門は開かれ、人間と天族、天界と地上はひとつになる……。天界との間に、そういう“誓約”が結ばれたのです。そしてそれらを含めた扉を、裁判者と審判者が護り続ける番人として君臨しています。」

「けど、その夢も数万年たっても果たせてないわけね。」

「……当然です。天界に残った天族たちは、誓約の対価として人間と聖隷に“あるルール”を科しました。でも、それは共存を不可能にする“呪い”だったのです。これには裁判者と審判者は手を出せない。最初から天界は、人間と私たちを切り捨てて滅ぼすつもりだったのでしょう……。すべて無意味で……無駄だったのです……」

 

そう言って、消えた。

裁判者は遠くを見る目で、想いにふける。

ライフィセットが考え込み、

 

「人間と聖隷に科せられたルール……呪い?それも裁判者さんや審判者さんには手を出せないもの?」

「なるほど、読めてきたわい。」

 

そう言って、アイゼンを見るマギルゥ。

アイゼンも頷き、

 

「ああ、呪いとは、おそらく……」

「気に入らないわね……」

 

ベルベットもそれに気付き、眉を寄せる。

そして彼らはさらに奥へと進む。

その奥にはねこにんがいた。

気まずい雰囲気の中、泣きながら喜んでいた。

裁判者は視線を外し、

 

「ねこにんを滅ぼそうか……」

 

その呟きが聞こえたねこにんは、悲鳴を上げながら、

 

「お願いですニャ!ご堪忍を!これからはなるべく、大人しくしてますニャ!」

「なるべくなんだ……」

 

ライフィセットが苦笑いする。

そしてマギルゥが裁判者の背を押して、奥へと歩いて行く。

 

最奥まで来ると、長い階段と巨大な門がある。

階段を上がり、ベルベットが門を見て、

 

「これが“天界の門”か。」

 

そしてその扉の前には、羽根の生えた白いブウサギが居た。

エレノアはそれを見て、

 

「なんかカワイイ生き物がいますが……?」

「……驚いたわ。裁判者の手助けがあったとはいえ、まさか天界の門にまで辿り着くなんて。」

「この声は……“世界の仕組みを識る者”⁉」

「ええ。元天族……今は聖隷ズイフウでです。」

 

ロクロウが腕を組んで、

 

「その姿……かけられた呪いって、ブウサギになることなのか?」

「違う。ムルジムと同じだ。こいつはこういう聖隷なんだ。」

 

アイゼンが即答で言う。

マギルゥが聖隷ズイフウを見て、

 

「人間と聖隷にかけられた呪いとは、業魔≪ごうま≫化とドラゴン化のことじゃろう?」

「……その通り。業魔≪ごうま≫化は人間の感情を暴走させる審判者の力、聖隷の理性を失くすドラゴン化は裁判者の力。」

「私たちは勝手に利用された。だが、天界に居る奴らとの盟約で、我ら自身は直接手を出せない。だから、四聖主との盟約で、お前達の願いを叶えることとした。そうすれば、人も聖隷もある程度は手を出せる。しかし、巻き込まれた人間が、業魔≪ごうま≫化した場合は元に戻せるが、ことの発端を創りだした聖隷……いや、天族のドラゴン化は元に戻せない。だが、実体化する前なら、我らが関わり元に戻すことはできる。時間の問題だがな。」

 

裁判者は目を細めて言う。

 

「そして、地上に降りたった聖隷たちは、心ある人間たちと手を取りあって世界を変えようとしました。でも、協力は、呪いのせいで早々に崩壊しました。裁判者と審判者は本当の願いでなければ、関われない。だから、ほんのささいな諍いが穢れを生み、業魔≪ごうま≫とドラゴンが溢れた。業魔≪ごうま≫は、人間を愛する聖隷を引き裂き、ドラゴンは、聖隷を信じる人間を喰らった。ほとんどの聖隷は、共存の希望を捨てて、人間から離れて暮らすようになったのです……。下界に降りたことを、永遠に後悔しながら……」

「なるほど、ここにドラゴンが入り込んでたのは、天界に帰りたがっていたからか。」

「ねこにんが言っていた“聖隷を引き寄せる力”とはこのことだったのですね。」

 

ロクロウが納得し、エレノアは悲しそうに言う。

マギルゥが裁判者を見て、

 

「お主も、知っているのだったらなぜ教えてくれるんのじゃ!」

「……条件が揃わないと、このことは話せないからだ。それに、天界のひとつにはお前達も見ているぞ。」

「ほえ?」

「聖主の御座。あそこは、私と審判者が下界に降りた時に持ってきたものだ。だからずっと封じていた。扉もあるしな。」

「……いまいちよくわからんが、わかった。」

 

マギルゥは目をパチクリして、淡々という裁判者の言葉を納得する。

ベルベットが眉を寄せ、

 

「そんなことより、あんたも、あきらめた一人ってわけ?」

「どうしようもないのです……。ただでさえ少数派だった霊応力をもった人間は、さらに減って、彼らは聖隷の存在すら忘れていきました。穢れは際限なく湧き出し、業魔≪ごうま≫とドラゴンが何度も地上を覆い尽くした……。裁判者が世界をリセットさせなければ、人も聖隷も死に絶えていたでしょう……」

「聖主カノヌシは、今や安全弁のようなものだと?」

 

アイゼンが眉を寄せる。

聖隷ズイフウはアイゼンを見つめ、

 

「『ようなもの』ではなく安全弁そのもの。カノヌシは、今や地上の破滅を防ぐ役割を担わされた番外の聖主なのです。」

「穢れが溢れ、鎮静化し、また穢れる……。世界は、そんなことを繰り返してきたのか。」

「主に穢れの溢れがな。」

 

顎に指を当てて、考えていたロクロウに、裁判者が目を細めて言う。

マギルゥがさらに呆れ、

 

「いやはや救われん話じゃのー。」

「希望は“聖主の契約者”の存在でしたが……」

「契約者……?」

 

ベルベットが眉を寄せる。

聖隷ズイフウはジッと彼らを見て、

 

「聖主と契約を交わせるほどの強い霊応力と、真っ直ぐな意志をもった人間のことです。でも、現在の契約者であるアルトリウスは、カノヌシの力で、人と聖隷の心を操作しようとしている。」

「扉を使ってな。」

 

裁判者は殺気立つ。

聖隷ズイフウは視線を落とし、

 

「ですが、この方が良かったのかもしれません。永遠に悲劇を繰り返すより、悲劇が感じなくなる方が、まだマシかもしれませんが。」

「……ふざけないで。」

「ふざけてなんかいません!何万年も人間を信じたのに、だめだった……!それでもあなたは、穢れを無くせると……共存の希望はあるというのですか……⁉」

 

聖隷ズイフウは顔を上げ、ベルベットを見る。

裁判者も、ベルベットを見据える。

ベルベットは眉をさらに深く寄せて、

 

「知らないわよ、そんなこと。」

「え……⁉」

「あたしは、あんたが無駄無駄言うのが気にくわなくて、一言言いにきただけ。あんたが絶望するのは勝手だけど、地上は、あたしたちが生きている世界よ。無駄だろうが、不可能だろうが、理不尽だろうが、生まれた以上、そこで生きていくしかないの。現に、今この瞬間も生きてる。人も業魔≪ごうま≫も聖隷も、魔女も死神も対魔士も、裁判者や審判者も、みんな!」

「でも、間もなくカノヌシの鎮静化が――」

「あたしがとめる。絶対に。」

「あなたは……世界の仕組みを識って尚……」

「そんな胸クソ悪い仕組みも、天界の天族とやらもどーでもいい。世界がどうだろうと、あたしはあたし。なにを願うかは、自分で決めるわ。」

 

ベルベットは言い放った。

ロクロウがニッと笑って、

 

「さぁて、言うことは言ったし帰るか。」

「あなたの苦しみはお察しします。どうかゆっくり休んでください。」

 

エレノアはジッと聖隷ズイフウを見つめた。

マギルゥは笑みを浮かべ、

 

「ま、天界だのなんだのの揉め事は、当事者同士で好きにやっておくれ。」

「だが、こっちの邪魔をするなら容赦はしない。」

 

そう言って、アイゼンは歩いて行く。

そしてベルベット達も歩き出す。

ライフィセットはそれを見ていた。

聖隷ズイフウは彼らの歩いて行く姿を見て、

 

「なんて人たち……」

「うん。怖くて、勝手で、変な人たちだよ。でも、僕は、みんなが……みんなが生きてる世界が、嫌いじゃないんだ。」

 

ライフィセットは笑顔でいう。

聖隷ズイフウは彼を見て、

 

「……何万年後にも――あなたがドラゴンになっても同じことがいえるかしら?」

「それは、わからない。けど……言えるように一生懸命生きてみるよ。」

 

そう言って、歩いて言った。

聖隷ズイフウは彼らの歩く姿を見つめたまま、

 

「こんな聖隷と人間たちがいたなんて……」

「お前たちは変わらない。だが、変わる生き物だ。鎮静化は所詮、まがいもの。人形が生き続けても、未来にはあるのは同じく破滅だけだ。なら、今のこの世界を生きる者達が、足掻きまくった末に壊れた方がいいと私は思っている。それがあと何万年も続こうと、な。」

「……そうね。きっとまだ、希望は残っているのかもしれないわね……。ゼンライ、あなたが信じているように、人間と聖隷――天族はいつか……」

「それができるかどうかは、お前達……心ある者達しだい、だな。」

 

そう言って、裁判者も歩き出す。

小声で、

 

「だが、いいモノは見せて貰った。本当に、心ある者達はコロコロ変わるな。感情も、未来も、想いも……」

 

彼は、助け出したねこにんの報酬として、銭湯に出かけて行った。

彼は絆を深めると言って向かって行った。

彼らが湯に入っている間、裁判者は今回仕事を増やしたねこにん達を睨み、見据え、影を使って締め上げ、説教していた。

戻って来た彼らは、絆を深めるどころか、何やら不穏な雰囲気になっていた。

 

~~Fin~~


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