テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第六十五話 決戦前

船に戻ると、船員が立って待っていた。

 

「お帰り!特等どもを倒したんだな。」

「ええ。でも、まだ導師と聖主が残ってる。」

「いよいよ最後の決戦だな!いいものが手に入ったから、やるよ。」

 

そう言って、リンゴを取り出した。

それをベルベットに投げる。

彼女はそれを受け取り、

 

「リンゴ?」

「気休めだけど、お守りだ。“フォーチュンアップル”っていう珍しいリンゴでさ。“幸運を運ぶ”って言い伝えがあるんだ。」

「フォーチュンアップル……」

 

ライフィセットがそのリンゴを見つめる。

ロクロウは腕を組み、

 

「う~ん、悪党の俺たちに必要なのは、悪運の方じゃないのか?」

「死神と邪神なら間にあっとるぞー。」

 

マギルゥがニヤリと笑う。

そして全員がアイゼンと裁判者を見る。

船員が一歩引き、

 

「そういうこと言うなよ。」

「ま、それなりにありがたくもらっておくわ。リンゴは好きなのよ。」

「食べるなよ?」

「言われなくても食べられない――」

 

ベルベットはリンゴを見て、握りしめる。

裁判者は彼女を見据える。

 

「見つけたな。選択肢のひとつを。」

 

裁判者は船に上がっていく。

一向は聖主の御座に向かうため、ゼクソン港へと向かう。

 

船が出航し、ベルベットが裁判者を見て、

 

「で、話してくれるわけ。」

「ああ、そうだったな。」

 

裁判者は彼らを見て、

 

「では、まずは……昔々二体の化け物がいた。」

「ちょっとその話は――」

「まぁ、聞け。」

 

ベルベットが眉を寄せる。

裁判者は彼らを見て、

 

「その二体の化け物はある世界の最初の地に生まれた。神殿と共に。その二体の化け物はその地でしばらく過ごしていた。そして世界には人間、聖隷、鳥など色々な生き物が生息を始めた。だから二体の化け物は外に出た。そして自分達の力についても、存在についても理解を深めて言った。」

 

裁判者は空を見上げ、

 

「色々と関わりを持ってお前達、心ある者達の実験に協力した。」

「実験?」

 

ライフィセットが首を傾げる。

裁判者は視線を彼らに戻し、

 

「ああ。ドラゴンの実験、生死の実験、力の実験、色々とな。なら、今度はお前達、心ある者達が私たちの実験に付き合うべきだろ。だから我々は色々動いていた。その過程で、私は関わりを持つのは“意味がない”と理解した。だから私は、色々とお前達の精神や生死を弄ったりしてみた。その過程でできたのが、今お前達が戦おうとしている聖主カノヌシだ。」

「……は?」「……え?」「……ん?」「……むむ?」「……はい?」

 

ベルベット、ライフィセット、ロクロウ、マギルゥ、エレノアは目をパチクリした。

アイゼンは腕を組み、眉を寄せて、

 

「やはりな。喰魔の力だけでなく、カノヌシのあの力……どこかの誰かみたいだったからな。」

 

と、アイゼンと裁判者は睨み合う。

ベルベットがその二人を見て、

 

「にらめっこなら後にしなさい。で、なんで聖主カノヌシが、そうなるワケ。」

 

裁判者は目を細め、

 

「正確には、今は聖主カノヌシと呼ばれているが、それはお前達が付けたものだ。昔の私には、名がなかったからな。故に、その本の製作者クローディンは、私を彼之主≪かのぬし≫と呼んだ。」

「先代の筆頭対魔士か……。」

 

マギルゥが眉を寄せる。

ライフィセットが視線を落として、

 

「そっか、だから数え歌の時に、聖主カノヌシじゃなくて、彼之主≪かのぬし≫だったんだ。」

 

裁判者は腕を組み、

 

「昔、あまりにも変わらぬその現状から、私は初めてドラゴンの姿で『喰らう』という事を始めたんだ。人も、聖隷も、業魔≪ごうま≫も、ドラゴンも、穢れも。ま、この力を理解する為に、“暴走させた”と行っても過言ではない。その実験の過程で、多くの心ある者達が死んでいった。というより、殺されたな。そして文明は滅びた。いや、滅ぼした。それがお前達が『クローズド・ダーク』と言われているものだ。」

「……それが真の鎮静化……二番目の数え歌。」

「うむ。裁判者が昔やっているからこそ、導師と聖主にその方法を教える事ができ、その結果がどうのような結末を生むか知っておるから、お主は止めたいのじゃな。」

 

ライフィセットは眉を寄せ、マギルゥは顎に指を当てる。

裁判者は即答で、

 

「いや。知ってはいるが、やると決めたのは奴らだ。それで文明が滅ぶのなら、それで構わん。」

「変わらんな。」

 

アイゼンが睨みつける。

裁判者はそれを受け流し、

 

「だが、あいつらはクローディンの残した古文書、そして聖主になった事で扉の存在に気付き、使い出した。その一つが、お前達の見たドラゴンを捕らえていたあの場所や、今回の領域だ。あれは許していない。」

「ん~、でも、『八つの首を持つ大地の主は、七つの口で穢れを喰って』……だけど、裁判者さんは口一つだよね?」

 

ライフィセットは首を傾げる。

裁判者は影を見る。

すると、影がヘビのように出てくる。

 

「ドラゴンの姿で動き、七つの影で穢れを喰らっていた。この影は、穢れの塊だ。故に、影は斬り裂かれても、何度でも甦る。穢れがある限りな。それに地脈に通ずる、これは私達は世界が吸い上げる穢れを入れる器でもあるからだ。世界と一つと言ってもいい。だから地脈とは繋がりがあるんだよ。」

 

裁判者は影をしまい、組んでいた手を片方腰に当て、

 

「そして世界を壊す寸前まできた時、もう片方の化け物、つまりあいつが四聖主を引っ張り出したんだ。あいつは私と違って、ドラゴンにはなれなければ、力も弱かったからな。」

「いやいや、ここで審判者もドラゴンになれると言ったらなお怖いわ。」

 

マギルゥが半眼で裁判を見る。

ライフィセットがハッとして、

 

「だからかな、裁判者さんの力は多分、四聖主と同じくらい強い。だから“忌み名の聖主”って呼ばれていたんだ。」

 

エレノアも、考え込んでハッとする。

 

「ということは、です。『四つの聖主の怒れる剣が、御食しの業を斬り裂いて』……つまり、あなたが審判者と四聖主にやられたと?」

 

裁判者はジッと彼らを見て、

 

「違う。四聖主の怒りに触れたのは事実だが、元をただせばアイツらも悪い。その結果、私はドラゴンの姿のまま、四聖主としばらく戦い続け、大地が割れた。その後、審判者が私を鎮めて、戦いは終了。その戦いの後、私達は力を抑える為に、四聖主と盟約と誓約を交わした。私の力を封じ、審判者も、私の力の半分持つこと。そして、その力が再び暴走しないように、我らの力やその時の影響で乱れた世界の自然バランスを調える為、四聖主が地脈に眠る事で、それを成り立つこととなった。そのせいで、我らは四聖主に変わって世界を管理し、裁かねばならん。」

「そうなの?」

 

ライフィセットはアイゼンを見る。

アイゼンは深く眉を寄せ、

 

「……当時を知る聖隷はかなり少ない。なにせ、裁判者が大暴れしてくれたおかげでな。だが、その時を境に、四聖主が眠りについたのは確かだ。」

「その為に我らは、その一環として中立を保つための道具として、強く固い感情と意志でなくては壊れる事のない仮面を創りだした。それは同時に、我らは心ある者達の本当の願いを一つ叶える理を創りだした。心ある者達に関わりを持つのをやめた私は、心ある者達に関わりを持とうとするアイツが私の力を持つことで、暴走する可能性がある。故に、私は暴走をした時の為にアイツを裁けるように、裁判者。そして私は、外の四聖主とかそういう方にした。だからアイツはドラゴンと化した私を裁けるように、審判者。そう名乗るようになった。その後、私は少しの間眠った。理を創りかえる為にな。ちなみに、お前達が緋の夜と言うあの現象は、地脈による影響で間違いはない。だが、あれはある種で言うのであれば、『私の眠っている力が溢れだす日』と言ってもいい。」

 

裁判者は空を見上げる。

ベルベットが眉を寄せ、顎に指を当てて、

 

「『御食しの業を斬り裂いて、二つにわかれ眠れる大地。緋色の月夜は魔を照らす。忌み名の聖主心はひとつ。忌み名の聖主体はひとつ』。裁判者と封じられた力。ひとつは大地に、ひとつは地脈に。ひとつは世界を守護し、ひとつは世界に災厄を。どちらも一つの裁判者≪彼之主≫……ね。」

 

裁判者は空を見上げたまま、

 

「それがどれくらい経ったか、ある人間の声で私は目覚めた。そこに行くと一人の人間がいた。彼は聖隷や業魔≪ごうま≫が視える特殊な人間だった。」

「霊応力があったと言うわけじゃな。」

 

マギルゥは裁判者を見据える。

裁判者は彼らを見て、

 

「ああ。人々を守るように業魔≪ごうま≫に立ち向かっていた。聖隷とな。だが、只の人間、聖隷では勝てない。その時は、私が手を貸した。それを見たその人間は私に近付き、『人々を守るために、業魔≪ごうま≫を倒す方法を教えて欲しい』と言ってきた。私はその人間と盟約を交わし、彼に力を与えた。その後、彼は昔を聖隷達から私の存在について聞いたらしい。次に会った時には、『いつか君が暴走したら、その時は私が君を止めよう』と言って自信満々だった。」

「変わった人間だな。」

 

ロクロウが目をパチクリした。

裁判者は頷き、

 

「それは間違いない。だから私も、『やれるならやれ』と言った。。あいつは昔を知る聖隷から、私について聞き回り、痕跡がある遺跡やら神殿やら調べ上げたらしい。そして私達が創り、残した遺物を見つけ出したり、術式を創りだしたり、力の復活方法を見つけ出そうと、色々やり上げた。現に、私とやりやって認めた相手だ。そして、本当の意味で『暗黒時代』を終わらせた人物でもある。」

「……もしかしなくても、先代対魔士クローディンかえ?」

 

マギルゥが半眼で聞く。

裁判者は彼女を見据え、

 

「そのまさかだ。」

「で、聖主カノヌシの話は。」

 

ベルベットが眉を寄せる。

裁判者は彼女を見据え、

 

「それが、『お前たちの知る古文書の内容となる』と言うわけだ。クローディン自身、私の封じられた力の場所を探していたらしい。」

「どうして?」

 

ライフィセットが裁判者を見上げる。

裁判者は腕を組み、

 

「おそらくは、封じられた場所を知る事で、何か解るかもしれないと思ったのではないか。敵を知るには、な。そしてあいつは知ったんだ、理を。自分達が理の中で生きている事を。何よりも、業魔≪ごうま≫を生んでしまう心を、な。あいつは聖主カノヌシの復活≪私の力≫を望んだわけではない。それ以外の方法で、理を変えたかったのだろうな。だが、その想いを伝えられずに、あいつは弟子を護って死んだ。弟子はその意志と違う想いを継ぎ、捜し続けた。だが、捜しても捜してもそれは見付からなかった。次第に弟子の心は疲れ果て、進むことを諦めた。だが、彼は出会った。大切な者に。」

「……それが私の姉、セリカと生まれるはずだった子供≪ライフィセット≫。」

 

ベルベットはライフィセットを見つめる。

ライフィセットもまた、俯く。

マギルゥは顎に指を当てて、

 

「じゃが、皮肉にも緋の夜に業魔≪ごうま≫に襲われた。」

「それも、自分達が助かるために、村人に売られてな。」

 

アイゼンも睨むように拳を握りしめる。

裁判者は彼らを見て、

 

「本当に、売られたのならな。だが、売られたと言う真実を知ってなお、村人と関わっているのであれば相当の精神力だな。その時、お前の姉が贄を送ってしまったんだ。『穢れなき魂』という、自身の子を。それが最初の贄となった。その時に、知ってしまったんだ。あの場所が封じの門だと。だが、贄となったのは『穢れなき魂』であり、力の塊である『私の力を宿す器』がなかった。」

「だからラフィが必要だった。」

 

ベルベットは左手を握りしめる。

エレノアが眉を寄せ、右手を握りしめ、

 

「そして器を手に入れた裁判者の力が、ベルベットの弟と言う器を得て、聖主カノヌシとして君臨した。」

「ああ。私には二つの力がある。一つは喰らった穢れを、私自身の中で浄化する。その穢れを喰らうのが、この影と言うわけだ。」

 

と、裁判者は自分の足元を指差す。

 

「だが、人間という一つの器には、一つしか適さなかった。お前の弟は≪聖主カノヌシ≫は、私の力のひとつである『穢れを喰らい、体内でそれを浄化する』を手にし、そしてその穢れを喰らう影の役割を持つ器を、七体の喰魔として存在させた。」

「なら、カノヌシの一部であるフィーの力も、そうなのね。」

 

ベルベットが裁判者を睨む。

裁判者はライフィセットを見て、

 

「それが、私のもうひとつの力、『歌を歌って浄化をする力』だ。ライフィセットの『穢れを焼き尽くす銀色の炎』。あれが、浄化の力だ。」

「浄化の力……」

 

そしてベルベットを見て、

 

「喰魔と私の影は干渉し合ってしまう。数が多ければ多いほどな。前に、お前の腕が、私を喰らおうとしただろ。あれはお前の左手が私の影に干渉したからだ。」

「……そもそも穢れとは何なのです。負の感情と言うのはわかります。ですが、喰魔になって聖主を覚醒させるための心や贄……どうしてです。」

 

エレノアが裁判者を悲しそうに睨む。

少しの間を置き、

 

「贄を用いたのは、封印を解かないためだ。誰しも皆、自分の命を、自ら犠牲になりたいとは思わないだろ。そしてそれが、穢れなき魂なら、捧げるのにも困難がある。だが、今回贄は捧げられた。私の力は聖主として蘇り、君臨している。二人の聖主≪力≫と七体の喰魔≪器≫として。それに、穢れは心があるから生まれる。その心の穢れは誰しも持ち、繋げ、育むものだ。お前達は己の為に行動し、時に誰かの為に自らを行動し、求め続け、さらに求めたくなる。それが身勝手であり、時に誰かを恨み、自分の都合でそれから逃げる。そして絶望するんだ。世界に、自分に、な。」

「『絶望、憎悪、貪婪、傲慢、愛欲、執着、逃避、利己』、八つの純粋な穢れ……」

 

ライフィセットが眉を寄せる。

裁判者は目を細め、

 

「穢れはそんな偏った純粋な感情が、一つだけ大きく膨れ上がったものだ。それが喰魔になり得る資質。業魔≪ごうま≫ではなく、な。業魔≪ごうま≫は逆にその穢れに飲まれると言っていい。飲まれすぎて、人はそれだけに執着し、自身の穢れから逃げる。聖隷は自分を失いこうなったことを後悔し、原因になったものを憎む。だが、喰魔はそれでも己を失わず、自らを見る。だから自分を失いのだ。それが可能な意志と心が必要となる。」

 

裁判者はベルベットを見て、

 

「お前は、なるべくして喰魔になった。」

「は?」

「お前が穴に落ちた時、『幸せを、大切な者を、時間≪とき≫を奪ったモノを壊すための力が欲しい』。それを願った。だから私はお前に力を与えた。それが強い憎しみを一気に生み、喰魔となって顕現した。そしてそれと同時に、真実を知った時に絶望を知るに値する喰魔になった。お前の弟も、『今の自分を失いたくない』と言う願いを放った。お前の人間だった頃の弟の心は、聖隷ライフィセットの中にある。それが今のライフィセットを創る“心”となり、ベルベットが名をつけた事で、“聖隷ライフィセット”となった。お前は欠片≪一部≫ではあるが、聖隷≪ライフィセット≫になのだからな。」

「うん!僕は僕!」

 

裁判者はライフィセットを見る。

そして再び彼らを見て、

 

「これが真実だ。」

 

そう言って、裁判者はベルベットの横を通るとき、

 

「お前の考えている事は可能だ。だが、それは永遠とも言える孤独で、果てしない闇と後悔、もしもの自分を見ることとなる。」

「かまわないわよ、今更。あたしはあたしの意志でやり遂げる。」

「なら、足掻き続けろ。絶望と希望は隣合わせだ。」

「ええ、そうね。本当に。」

 

そして離れる。

 

空を見上げ、裁判者は思い出していた。

関わりを捨て、外で過ごす毎日。

時々やって来ては、勝負を挑んでくるクローディン。

そのせいだろか、それとも必然だったのだろうか。

彼に関わった事で、私はもう一度だけ関わろうと思った。

そして自らの家族に疎まれるボロボロになったマギラニカに会った。

 

――ねぇ、あなたもあれが見えるの?

 

私は子供を見る。

 

「お前は霊応力があるのだな。」

「霊応力……?」

「ああ。ああいったものが視える力だ。」

 

子供は俯き、

 

「だって、私は化物だから……」

「化け物……ね。本当の化物というのは、こういう者をいう。」

「え?」

 

子供が顔を上がる。

私は影を伸ばし、業魔≪ごうま≫を喰らい出す。

そして子供を見る。

 

「す、すごい!あなた、すごいね!私ね、マギラニカって言うの!」

 

目を輝かせ、ウソのない好奇心と尊敬の意を持って抱き付いて来た。

私は子供を見下ろし、

 

『……子供の人間にはあまり関わったことがなかったな……。ついでに実験してみるか。』

 

その後しばらく、その子供の側に居た。

彼女は嬉しそうに話し掛ける。

私も、ある程度の話はいつもしていた。

彼女は私を“初めてできた友達”と言って、笑顔を向ける。

だが、何年か立ったある日、私は子供から離れた。

眠っている彼女に、

 

「もし、私を覚えていたら……名を呼んでやるよ。」

 

 

居なくなった私を、子供はしばらく捜し、待ち続けた。

その想いも虚しく、彼女はある旅一座に親の手で売られた。

彼女の心は閉じて行く。

救いだったのはおそらく、売られてしばらくした時に偶然見つけたノルミン聖隷のおかげだろう。

彼女はノルミン聖隷を抱きしめ、毎日を過ごしていた。

ふと、何を想って私は近付いたのかわからない。

殴られそうになった彼女の前に出て、その拳を受け止めた。

 

「なんだ貴様は!退きな!」

 

私が睨みつけると、男は一目散に逃げ出した。

と、私は抱きしめられた。

後ろを見ると、彼女が抱き付いていた。

 

「急に居なくなったから……寂しかった。」

「寂しい……ね。」

 

と、私はノルミン聖隷と目が合った。

 

「げげ⁉裁判者でフ‼お願いでフ!喰べないで欲しいでフ~‼」

 

ノルミン聖隷は彼女に抱き付いた。

彼女は私から離れると、ノルミン聖隷を抱き上げる。

 

「ビエンフー、大丈夫だよ。この人は私のお友達だから。ね、約束!夢の中で言ったでしょ!」

「……ああ、そうだったな。マギラニカ。」

「ええ⁉マギラニカ、お友達になっちゃったでフか~!」

 

彼女は嬉しそうに頷き、そして話し続けた。

そしてしゃべり続けて寝てしまった。

ノルミン聖隷が脅えながら、

 

「い、言っときまフが、マギラニカに手を出したら……ボクが許さないでフからね!」

「何もしないさ。」

「それは友達だからでフか。」

「いや、違う。実験中なだけだ。」

 

そう言って、自分の服をずっと掴んでいる彼女を見る。

私はちょくちょく彼女の前に現れた。

時々話しかけてくる人間に、視えた事を話した事もあった。

そんな時、私はノルミン聖隷を見て、

 

「お前、あいつを器にしろ。」

「な、なんででフか⁉」

 

私が黙って、ノルミン聖隷を見ると、

 

「わ、わかったでフから、その目で見ないでほしいでフ!」

 

翌朝、彼女に契約の仕方を教えた。

 

「覚えよ、汝に与える真名は『フューシィ=カス≪可愛い帽子≫』!」

「何故、それにした。」

「だって、始めて会った時に可愛い帽子だなって思って。」

「そうか。」

 

私は聖隷の力をある程度使えるように教えた。

そして彼女の頭に手を置き、

 

「これで、自分の身はある程度、守れるだろ。力の使い方を間違えるなよ、マギラニカ。」

「うん!頑張ろうね、ビエンフー!」

「はいでフ!」

 

だが、長くは一緒に居られなかった。

変わらない自分の姿を不審に思う人間達。

そして彼女を含めた旅一座は異端審問に駆けられた。

私は異端審問とやらがどのようなものか見るべく共にいた。

それは酷い有り様だった。

他の異端審問に向かう途中、業魔≪ごうま≫化した人間達に囲まれ襲われた。

一人の老人対魔士が視える。

私はしがみ付いて来た少女と少女の抱えているノルミン聖隷だけを助けた。

次第に、旅芸人の一座は穢れに飲まれ、業魔≪ごうま≫化した。

襲い掛かる者だけ喰らい、後は皆互いに互いを襲って死んだ。

それを全て見ていた少女を見る。

彼女からは初めて、自分に対する恐怖を感じ取った。

 

「頃合いだな。またな、マギラニカ。」

 

私は彼女の元を離れた。

後ろから、脅えながらも私を呼ぶ声が聞こえた。

 

しばらくして、関わりを断ったはずの少女に会った。

彼女は私を見て、驚きながらも嬉しそうに駆け寄って来た。

今の彼女は対魔士の弟子として、修行に明け暮れていた。

師匠の期待に応える為、必死になって自分の居場所を手に入れる為に。

老人対魔士と目が合う。

だが、関わりを捨てた自分にはどうでもいいこと。

だから背を向けて歩き出す。

 

「……またどっか、行っちゃうの……」

 

私は立ち止まり、

 

「もう、関わりのない事だからな。」

「……え……でも……」

 

俯く彼女に振り返り、持っていたリンゴを投げる。

それが俯いていた彼女の頭に当たる。

彼女は右手で頭を抑え、左手でリンゴを拾い上げる。

 

「『幸運を呼ぶ』と言われているらしい。それが今のお前の選んだ選択だ。」

 

そう言って、歩いて行った。

裁判者はそれからまた一人長い時間を過ごしていた。

と、声が聞こえた。

 

――……裁判者……会いたいよ……

 

そこに飛ぶと、彼女は心を壊され、捨てられるところだった。

私を虚ろで見るその瞳が一回だけ揺れ、

 

「本当に会えた……」

 

そして気絶した。

私は彼女を抱き上げる。

側に居たノルミン聖隷を掴み、彼女の上に乗せると歩き出す。

 

「それはもう、お前の知るマギラニカの心はないぞ。」

 

老人対魔士の横を通ると、彼が横目で見て言う。

私は立ち止まり、

 

「だったらなんだ。捨てたのだろ。なら、お前に関わりのない事だ。」

「お前も同じではないのか。」

「……私は私の仕事をするだけだ。」

 

そう言って、歩いて行く。

ノルミン聖隷を見下ろし、

 

「行く当てはあるのか。」

「……ないでフ。でも、知り合いならいるでフ、グリモ姐さんでフ!」

「グリモワールか……」

 

裁判者は影で身を包み、グリモワールの元にとんだ。

場所は空き家だった。

急に現れた私を眉を寄せて見て、

 

「あら、やだ。裁判者だわ。何の用かしら。」

「グリモ姐さん!助けてくださいでフ!」

 

ノルミン聖隷が飛び降り、近付いて行く。

話を聞いて、

 

「……いいわ。そこに寝かしなさいな。」

 

裁判者はベッドの上に彼女を寝かせる。

 

「で、どういった心境なのかしら。」

「……知らん。」

「は?まあいいわ。この子がいつ起きても良いように、スープを作るわ。」

「ボクも手伝うでフ!」

 

そう言って、スープを作り出す。

私は眠る少女を見て、

 

「……なんでだろうな。」

 

椅子に座り、本を読み出す。

二日後、彼女は目を覚ますが、虚ろの瞳で何も手を付けようとしない。

困り果てているノルミン聖隷をどかし、虚ろな彼女にスープを飲ませる。

そして横にさせる。

彼女はボーと天井を見上げた後、瞳を閉じる。

 

「うう~、マギラニカ~、ごめんでフ~!」

「泣かないの。鬱陶しいわ。」

 

そしてノルミン聖隷は私を見上げ、

 

「お願いでフ!マギラニカを元に戻して欲しいでフ!」

「その願いにはお前の願い≪想い≫ではあるが、願い≪望み≫ではない。」

「変わらないわね、アンタ。」

 

それを無視し、眠る彼女に手を当て、魔法陣を入れる。

 

「……壊れた心は治らない。だが、心は何度でも甦る。今度はちゃんと、なりたい自分になれ、マギラニカ。」

 

 

その二日後、彼女は目を覚ます。

少しだけ変化はあった。

生きたいと思う心が現れ、次の日には身を起こして歩きまわる。

ある程度心の回復を感じ取り、

 

「グリモワール、しばらくの間――」

「この子の面倒、少しの間だけやってやるわ。」

「……珍しいな。」

「アンタもね。ま、なるようになるでしょ。この子にまだ、生きたいと願う心があるなら。それに、ビエンフーがうるさいのよ。あんなになっても、あの子の側を離れないんですもの。」

「そうか。」

 

私は懸命に話しかけているノルミン聖隷を見る。

赤子のような少女を、生きようと願う彼女を必死に支える。

 

身の回りの事ができるくらいに回復した彼女に、

 

「お前の心は壊れた。自身の師の望むものになれなかったから。だが、お前はお前として、これからを生きるつもりがあるのなら、その壊れた心で世界を、人を、聖隷を、業魔≪ごうま≫を見ろ。お前を変えてくれるものだって、あるかもしれないぞ。」

 

そう言って、頭をポンポン叩き、そこを後にする。

 

裁判者は船の甲板を見る。

そこには仲間と笑い合い、共に歩む自分を持った魔女の姿をした少女。

 

「……お前は変わったよ、マギラニカ。」

 

嬉しそうに笑う彼女を裁判者は見つめる。

 

裁判者が海風に当たり、海を眺めていると、

 

「……裁判者。」

「なんだ。」

 

視線だけを横に向ける。

そこにはベルベットがいる。

ベルベットは左手を握りしめ、

 

「私のお姉ちゃんが聖隷になって記憶を持っていたのは、アンタのせいなの。それにラフィも……」

「……ああ。お前の姉の願いは、『あの人≪アーサー≫を一人にしたくない。家族で共に居たい』だった。だが、あの魂は、贄として扱われた。故に、完全に別の者に生まれ変わろうとしていた。そのため人ではなく、聖隷に転生させた。そしてお前の弟の方は、器としての転生だったから、記憶はすぐにあった。」

「……だけど、姉さんの方は記憶の甦るのに、時差があった。だから、アーサー義兄さんが声を掛けても反応できなかった。そしてフィー≪ライフィセット≫は生まれてすらいなかったから、自我がなかった。生まれた時の事も覚えてなくて当然ね。だけど、なんでフィーの中に、ライフィセット≪私の弟≫になるのよ。」

「お前の弟は聖主カノヌシ≪聖隷≫の器となった。だから、空白だった器≪ライフィセット≫に、人間だった頃の“ライフィセットの心”を入れたんだ。だが、あれはお前も知っての通り、すでにお前の弟ではなく、聖隷ライフィセットだ。」

「わかっているわよ、そんなこと!」

 

そして背を向けて歩いて行く。

だが、立ち止まり、

 

「それでも、今思えばわかるわ。お姉ちゃんの気持ち、シアリーズの気持ち、フィーの気持ち、ラフィ―の気持ち。そして……アーサー義兄さんの気持ち。」

 

裁判者は彼女の背を見据え、

 

「ベルベット・クラウ、お前の考えている答えに必要な道具は我らが持っている。お前は我らを殺せるか。」

「必要なら殺してみせるわ。あたしはあたしの選んだ答えを突き進むだけよ。」

 

そう言って、再び歩き出していった。

裁判者は視線を海に戻す。

 

 

ゼクソン港につくと、人々は自分を取り戻していた。

ベルベットはそれを見て、

 

「鎮静化は解除されたようね。」

「業魔≪ごうま≫の被害と引き換えに、のう。」

 

マギルゥがベルベットを見据える。

ベルベットは左手を握りしめ、

 

「……それも予定通りよ。世話になったわね。」

「したいことをやっただけさ!礼なんかいるかよ。」

「行くぞ。導師との決着をつける!」

 

アイゼンが歩き出す。

そして一向は聖主の御座に向かって歩き出す。

 

聖主の御座に来て、上へと上がっていく。

ライフィセットが空を見上げ、

 

「いる……!カノヌシは空の上だよ。」

「空に……なにかある⁉」

 

エレノアが空を見上げ、眉を寄せる。

ベルベット達も空を見上げ、眉を寄せた。

彼らの眼にもかすかに見える。

空には何かが浮いている。

ロクロウはそれを見上げ、

 

「う~ん……『カノヌシがいる』はいいが、ちょっと高すぎるぞ。」

「あの高さではグリフォンでも無理そうですね。」

 

エレノアはため息をつく。

マギルゥは札を取り出し、

 

「儂の式神は一人乗りじゃしなー。」

「おそらく悩む必要はないだろう。そうだろ、そこに隠れている審判者。」

「え……?」

 

アイゼンが斜め後ろの柱を見る。

そしてエレノアや他の者達もアイゼンと同じ所を見る。

柱の影から仮面をつけた少年が現れ、

 

「ばれてたか。ま、仕方ないね。」

「爪が甘いんだ。お前は。」

「ヒド‼君に呼ばれたから、手伝いに来たのに。」

 

裁判者は彼を睨む。

審判者は一歩下がり、

 

「冗談だよ。あそこまでされたら、俺らも扉の番人として動かないとね。」

 

審判者は裁判者を見据える。

裁判者は風に包まれ、黒い服が白と黒に変わる。

そして仮面を着け、

 

「では、あそこに行くぞ。」

「どうやって?」

「私と審判者が扉を開く。そこからあそこに飛ぶのだ。」

 

裁判者と審判者は横並びになり、手を前に出す。

 

「「扉の番人たる我らが命ず、かの扉を開き給え‼」」

 

魔法陣が浮かび、そこから門が出てくる。

扉が開き、ベルベット達は吸い込まれた。

 

 

「いつまで寝ている。起きろ。」

「おーい、生きてる?」

 

裁判者は寝ている彼らに声をかけ、審判者は彼らを揺する。

彼らは目を覚まし、

 

「なにがどうなったの?」

「空にあった遺跡に飛んだ。」

 

審判者がニッと笑う。

マギルゥが腕を上げ、

 

「やるならやると、言わんか―‼魂が抜かれると思ったわい!」

「へー、そんな感じなんだ。」

「喜ぶでないわい!」

 

笑う審判者にマギルゥが起こり続けた。

アイゼンがマギルゥを見て、

 

「だが、敵の懐に入ったのは変わりない。注意を怠るな。」

「それもわかっとるわい!」

 

マギルゥは肩を落とした。

彼らは改めて、辺りを見渡す。

自分達の足元には青く丸い球体がある。

辺りは一色の青。

時折、きらめく星がある。

 

「辺りに対魔士はいないようね。」

「でも、かなりの聖隷がいます。」

 

ベルベットとエレノアは辺りを探りながらいう。

アイゼンは目を細め、

 

「カノヌシと直接契約した聖隷――陪神たちだ。気をつけろ。奴の力を分け与えられているはずだ。」

「やっかいそうね。」

「そうでもないさ。全部斬り倒すだけのことだ。」

 

ベルベットが舌打ちするが、ロクロウがニッと笑う。

裁判者は歩き出し、

 

「斬れるのならな。」

「ちょ、置いてかないで!」

 

その後ろを審判者が続いた。

彼らも歩き出す。

 

彼らは襲ってくる聖隷を薙ぎ払い、前へと進む。

ロクロウが歩きながら、

 

「しかし、空にこんなものが出るとはなぁ。カノヌシは大地を器にしてたんじゃないのかよ?」

 

マギルゥが笑みを浮かべ、

 

「まぁ、なんとかと神様は高いとこが好きと相場が決まっておるからの。」

「なんとかって……鳥か?」

 

ロクロウは真顔で答えた。

マギルゥは呆れた顔で、

 

「お主のような者のことじゃよ。」

「これは力の塊でできている。」

 

裁判者がそっけなく答えた。

審判者は意外そうな顔で、裁判者を見た。

マギルゥが裁判者を見て、

 

「やはりそうか。この聖殿は、カノヌシが地脈に循環させておった力とお主の力を凝縮し、結晶化させたもの――わかりやすくいえば、聖主カノヌシの体そのものなんじゃよ。」

「な⁉体の中⁉」

 

エレノアが眉を寄せる。

マギルゥは笑顔で裁判者を見て、

 

「じゃろ、裁判者。」

「ああ。それを理解したら、警戒を怠るな。」

「はは、だね。」

 

審判者は腹を抱えて、笑いを堪えていた。

 

ふと、ベルベットが宙を見ながら、

 

「鳥か……。『鳥は飛ばなきゃならないんだ』……ラフィはそう言ってた。きっと、あれがアルトリウスの望んだ答え。でも、あたしは……」

 

そしてベルベットは裁判者を見て、

 

「裁判者、あんたはなぜ鳥が飛ぶと思う。」

「……鳥はお前達自身の心を表しているのではないか。」

「え?」

 

ライフィセットが首を傾げる。

裁判者は立ち止まり、

 

「鳥が羽を怪我をし、飛べなくなる。それは人の心でいえば、心が折れるのと同じ。空を奪われた鳥は、それでもなお空を求める。人も同じだ。心を壊され、挫折しても、立ち上がり前へと進む。鳥は自由に空を飛び、人は自由を求めて生を求める。己が信じるものを掲げて、な。」

 

そう言って、裁判者は再び歩き出す。

ベルベットは視線を外し、

 

「それも一つの答え……ね。」

 

そしてベルベットは顔を上げ、歩き出す。

ライフィセット達は小さく微笑み、歩き出した。


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