テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第六十四話 始まりの刻~その2~

アイゼンが船員達に、

 

「キララウス火山に向かう。支度をしろ。」

「アイアイサー!」

 

船員達は支度を始める。

裁判者はベルベット達を見て、

 

「なるほど。四聖主を起こしに、地脈湧点に向かうか。穢れなき魂の贄も揃っているからな。」

 

そう言って、裁判者はベルベットの左手を見る。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「ええ。そうよ、あたしが喰らった対魔士どもの魂を贄にする。それより、いい加減にアンタの知ってる事全て教えなさい。大地の記憶にはアンタとアルトリウスの会話もあったんだから。」

「……そうだな。では、お前達が無事に四聖主を目覚めさせたら、全てを教えてやる。何せ、地脈浸点より、難しいからな。」

 

そう言って、裁判者は彼らから離れる。

 

「それに、各々答えを出す頃だ。お前達も、アイツらも、な。」

 

その夜、海賊アイフリードの追悼式を行った。

船員達は彼との思い出を語り、飲む。

アイゼンは空を見上げ、

 

「お前との航海は、呪いを解こうと彷徨った数百年を超える充実した日々だった。……楽しかったぜ、アイフリード。」

 

そう言って、酒を飲む。

そこにロクロウが来て、アイゼンに酒を注ぐ。

裁判者に気付いたロクロウは、裁判者を呼び、酒を注いだ。

朝まで、彼らは酒を飲む。

ベルベットが呆れた目で、

 

「で、どうしてまたこうなるワケ。」

「い、いや……その……」

「アイツがグイグイ飲む姿があまりにも自然過ぎて、忘れていた。」

 

ロクロウとアイゼンは甲板で伸びていた。

裁判者はマギルゥにもたれて寝ている。

 

 

一向はキララウス火山に向かって、出航を始めた。

手すりに座っていたベルベットに、

 

「航海は順調だよ。アイゼン達も今回は直りが早かったし。」

 

ライフィセットが眉を寄せている彼女を見る。

エレノアも供にやって来た。

そしてアイゼンも近付き、

 

「ああ。今回は調子がいい。慣れとは怖いな。が、問題は、アルトリウスたちの“儀式”とやらに、どの程度の時間がかかるかだ。」

「アイフリードは“鎮めの儀式”って言ってた。おそらくカノヌシの力を解放するためのものよ。」

「だろうな。ベルベットの“絶望”とライフィセットを喰えていない以上、完全ではないはずだが、発動すれば……」

 

アイゼンは眉を寄せる。

エレノアが手を握り合わせ、

 

「人の意思が奪われる。」

「『そして、醜い人の業は鎮まり、穢れは生まなくなりましたとさ。めでたし、めでたし』というわけじゃなー。のう、裁判者。」

 

マギルゥが眉を寄せて歩いて来て、裁判者を見上げる。

裁判者は旗の高台から降り、

 

「そうだな。事実上は只の人形みたいなものか。」

 

裁判者は腰に手を当てる。

ライフィセットは俯き、

 

「意思が消える……昔の僕みたいに……?」

「……ああ、あれに近いものだ。」

 

そう言って、裁判者は横目で海を見る。

ライフィセットが顔を上げ、

 

「……なにかが来る!」

「……始めたか。」

 

裁判者が呟く。

裁判者は目を瞑る。

 

聖主の御座の方角に魔法陣が浮かび、光の柱が生まる。

それは王都を包み、人々を包む。

彼らの瞳から感情が消え、ただ立っているだけの存在になった。

そしてまるで人形のように整列し、歩き出す。

王都近くの港では、船乗り達が喧嘩をしていた。

商人は困り果てていた。

そこにも光が包み、彼らは殴り合いを止め、瞳から感情が消える。

彼らは歩き出す。

その光はバンエルティア号にも届く。

 

裁判者は開いた目は赤く光り出す。

 

「……扉を開けようとしているな。」

 

ベルベットが聖主の御座がある方を見て、

 

「これは……領域!」

「うん、カノヌシのだ!」

 

ライフィセットが頷く。

と、彼らの横から、

 

「あ……うぅ……」

 

船乗り達が呆然と立ち尽くす姿。

エレノアが眉を寄せ、

 

「意識を奪われた⁉」

「まだ完全に意識を封じられておらん。ロクロウ!全員殴って目を覚まさせい!」

 

マギルゥが指を指して命じた。

ロクロウはニット笑い、

 

「任せろ!」

「アイゼン!」

 

ベルベットが舵を取るアイゼンを見る。

彼は舵を取りながら、

 

「ああ、一旦近くの港につける!ゼクソン港だ。」

 

そして港に着くと、船乗り達は座り込む。

 

「うう、頭の中を引っ張られるような感じがする……」

「気合いを入れろ。意識を刈り取られるぞ。」

 

アイゼンが座り込む彼らに喝を入れる。

裁判者は顎に指を当てて、

 

「アイゼン。船員を全員船に乗せろ。」

「何故だ。」

「……こいつらまで動けなくされては、元も子もないだろう。それに、アイフリードの顔に免じて、少しだけ手を貸してやる。」

 

裁判者は船の上からアイゼンを見下ろす。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「……いいだろう。全員、船に乗れ。」

 

アイゼンが動けずにいる船員は掴み上げて船に乗せる。

裁判者はアイゼンを見て、

 

「これで全員か。」

「ああ。」

 

アイゼンが腕を組む。

マギルゥが裁判者を見上げ、

 

「何をするのじゃ、裁判者。」

「この船を私の領域で覆う。」

 

そう言って、船の中央に裁判者は立つ。

ライフィセットが眉を寄せ、

 

「そんな事できるの⁉」

「可能だ。本来なら、やらないがな。」

 

そう言って、指をパチンと鳴らす。

船が裁判者を中心に包み込む。

船員は顔を上げ、

 

「なんか、引っ張られるのが消えた!」

「本当か。」

「ああ!」

 

アイゼンが眉を寄せる。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「この船の中なら問題ない。が、船の外に出れば、先程のような感覚に陥る。その場合には、喰魔の側に居ろ。ある程度は、喰魔の領域に護られるだろう。そして完全に意識を喰われると……これは自分の眼で見た方が早いぞ。」

 

そう言って、船を降りる。

ベルベット達もその後ろに続き、港の方に歩いて行く。

ライフィセットが眉を寄せ、

 

「これって……」

 

感情のない瞳を持とう人々がまるで人形のように動く姿。

そして一人の男性が近付いてくる。

エレノアはホッとしたように、

 

「あ、船止め≪ボラード≫の!あなたは無事だったのですね。」

「いや……私は無事でいてはいけない。私は利を貪った。他人を蹴落とし、利用した。特級手配犯にまで手を貸して、事業の拡大を図った……醜すぎる穢れ、許されざる業だ。」

 

そう言って、彼らの間を通って行く。

そのまま海に向かって歩いて行く。

 

「……哀れだな。ここまで来たら、もう滅びしかないな。」

 

裁判者は人形のように動く彼らを見据えた後、横目で海に向かって歩く男性を見た。

エレノアは眉を寄せ、

 

「え……?まさか‼」

 

エレノアは駆け出す。

エレノアが、海に向かって歩き続ける彼の背を掴み、

 

「やめてください!」

「穢れは、なくさなければてはならない。私は、死ななければならない。死ななければ。死ななければ。」

 

だが、彼はドンドン歩いて行く。

エレノアは必死に彼を抑え、

 

「違う!そんなのって!」

 

そこにベルベットが歩いて来て、彼の方を殴り飛ばした。

彼は仰向けになって倒れる。

ベルベットが男性を見て、

 

「死ぬのは勝手よ。けど、死な“なければならない”ってのは気にくわない。」

「己の穢れを自覚した者は自ら命を絶つか。実に無駄のない“理”じゃな。」

 

マギルゥが目を細める。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「舵を奪うどころか、生き死にまで押しつける気か。ふざけやがって。」

 

エレノアが俯く。

その彼女に、ベルベットは腰に手を当てて、

 

「なにが起こってるのか調べるわよ。それとも見たくない?」

「見たいはずないでしょう……でも、それ以上に逃げたくありません!」

 

エレノアは顔を上げる。

ベルベットは小さく笑い、

 

「まずは、この力の影響力を確かめる。ローグレスまで行ってみましょう。」

 

彼らはローグレスに向かって歩き出す。

アイゼンは人形のように動く彼らを見て、

 

「これが“鎮めの儀式”とやらの成果か。」

「おそらくね。まさしく人間の“鎮静化”だもの。」

 

ベルベットが眉を寄せながら歩く。

マギルゥが目を細め、

 

「そうじゃのう。自らの業を理解させ、新たな穢れを生まぬために命を絶つ……あのジジイ共のやりそうな“理”じゃ。」

「なにが理だ。」

 

アイゼンは睨むように、拳を握りしめる。

ライフィセットは俯き、

 

「あの領域、空を覆うように広がっていった。」

「おそらく、世界を覆ったはずじゃ。でなければ、鎮静化の意味がないでのう。」

 

マギルゥが裁判者を横目で見る。

裁判者はそれをスルーして歩き続ける。

エレノアは眉を寄せ、

 

「ここと同じような事が……」

「操り人形か、それとも……」

「自らの命を絶つ、か。」

 

ベルベットとアイゼンがさらに眉を寄せた。

ロクロウは腕を組み、

 

「それにしても、こんな地獄の理想郷をあっという間に創っちまう聖主カノヌシの力は凄いな。」

「それほど強力な相手に、私たちは立ち向かおうとしているんですよね……」

 

エレノアが手を握り合わせる。

そんな彼女に、ベルベットは横目で見て、

 

「降りるなら、今が最後のチャンスよ。」

「地獄に降りろと?」

「この先に進んでも地獄なのは変わりないわ。」

「ええ、でもこの道に心は意志もあります。同じ地獄なら、“生き地獄”を私は選びます。」

「泣いても知らないわよ。」

「先を急ぎましょう。」

 

二人は互いに笑い合って、歩き続ける。

 

ローグレスに来て、人形のように動く彼らをベルベット達は眉を寄せて見て行く。

ライフィセットは街を歩きながら、

 

「意思の残ってる人は、いないのかな?」

「きっといます。いるはずです。」

 

と、路地の辺りで、子供の泣き声が聞こえてきた。

 

「ママァ……」

「子どもの泣き声⁉」

 

そこに空を飛ぶ、聖隷が飛んでいく。

裁判者は駆け出す。

ベルベット達もそれを追う。

そこに居たのは数人の人々。

 

「ママ……!こわいよぉ、ママァ~!」

「わわ、泣かないで。困ったな、タバサ。」

 

少年が泣き出す子供を見て、隣にいた老婆を見る。

老婆は泣き出す子供を抱き寄せ、

 

「感情を出してはダメよ!」

「さもないと、こいつらが……」

 

王子が空を飛ぶ聖隷を睨む。

少年は短剣を構え、

 

「さて、どうするかな……」

「審判者!」

 

裁判者が剣を影から出し、空飛ぶ聖隷を薙ぎ払う。

少年はニット笑い、

 

「や、久しぶり。」

「やっている場合か。何をしている。」

「人命救助?」

 

裁判者が彼を睨む。

彼はニット笑い、

 

「君もやったんだからいいだろ。それに、王子は必要になる。」

「……なら、そういう事にしておこう。」

 

そこにベルベット達と、空を飛ぶ聖隷が再び現れる。

ベルベットが驚きながら、

 

「パーシバル王子とタバサ!」

「意思をなくしてない!」

「それと審判者もいるな。」

 

ライフィセットとアイゼンがジッと彼らを見る。

ベルベット達は戦闘態勢に入る。

エレノアは槍を構え、

 

「王都の中に業魔≪ごうま≫が!」

「違う、こいつは聖隷よ!」

 

ベルベットが攻撃を仕掛ける。

聖隷達を薙ぎ払い、裁判者と審判者も戦う。

 

「あ……王子連れて行かれちゃった。」

「あっちはアイツらで足りるだろ。追うぞ。」

「はいはい。」

 

二人は駆け出す。

離宮の地下に来ると、

 

「居たな。」

「もう大丈夫だよ。」

 

と、審判者は子供の頭にポンポン手を置く。

そこには空飛ぶ聖隷たちが構えている。

裁判者は王子を見て、

 

「いや、まだ早い。王子、その子供と離れろ。」

「わかった。」

 

裁判者と審判者は剣を構える。

そして足元に魔法陣が浮かぶ。

 

「また、クローディンの術式か。」

 

そこに空飛ぶ聖隷が襲い掛かる。

裁判者と審判者は剣を振るって敵を薙ぎ払う。

再び魔法陣が浮かぶ。

 

「これは!」

 

裁判者と審判者は膝を着く。

剣を突き刺し、かろうじて体勢を保つ。

そこに彼らの足元に魔法陣が浮かぶ。

 

「う……うわあー、ママァー助けて!」

 

少女が再び泣き出した。

そこにベルベット達がやって来た。

王子も膝を着き、

 

「くうぅ……意識が……!」

「カノヌシの魔法陣!」

 

ライフィセットが眉を寄せる。

ベルベットも眉を寄せ、

 

「意思を直接喰らう気か!」

「それに裁判者と審判者も別の魔法陣に囚われておるのう。」

 

マギルゥが剣を支えにしている彼らを見る。

裁判者は彼らを見て、

 

「そっちを壊せ!」

 

マギルゥはニット笑い、

 

「それにしても、ほっほ~、この登場はまるで――」

「正義の味方みたいね。」

 

ベルベットが敵を薙ぎ払っていく。

マギルゥは手を上げて、

 

「今つっこもうと思ったのに⁉」

 

ベルベット達が空飛ぶ聖隷を薙ぎ払って、ベルベットが左手で王子達の結界を壊す。

裁判者と審判者の瞳が赤く光る。

 

「始めるぞ。」

「ああ。」

 

裁判者が光り出し、姿がドラゴンへと変わる。

以前の黒いドラゴンではなく、白いドラゴンだ。

これが結界に爪を立て、咆哮を上げる。

その力が爆発し、土煙が起こる。

ベルベット達は顔を腕で守り、エレノアは子供を抱き寄せる。

裁判者≪白いドラゴン≫は残る聖隷を赤い瞳で睨みつけると、彼らは消えた。

 

「パーシバル王子、無事?」

 

ライフィセットが駆け寄る。

彼はライフィセットを見て、

 

「あ、ありがとう。震えや恐怖を感じる心はまだ残っているようだ。」

 

そう言って、ドラゴン≪裁判者≫を見る。

審判者がドラゴン≪裁判者≫の下から出てきて、

 

「良かった、王子は喰われてないね。」

「え?」

 

ライフィセットが首を傾げた。

エレノアが抱き寄せていた子供を放し、

 

「もう大丈夫よ。あなたのママも、私が捜して――」

「……ママは処刑されたわ。あたしのために貴重な食料を盗みだしたから。でも、仕方ないの。理に反したんだもの。」

 

彼は感情のない瞳でそう言った。

エレノアは目を見開く。

そして立ち上がり、

 

「……これが“鎮静化”の正体なのですね。」

「そう、導師アルトリウスが目指す理想世界だ。穢れと業魔≪ごうま≫化の仕組みがある以上、こうするしかない。だから王国は、彼の計画を承認した。だが、私は……」

 

王子は俯いた。

エレノアは拳を握りしめ、

 

「悲しみはないけれど、笑顔がない……。憎しみがない代わりに、愛もない世界……」

「世界中がこうなっちまったのか?」

 

ロクロウが腕を組む。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「いや。御座に近い王都ですら、意思を残した者がいたくらいだからな。だが、あまり猶予はなさそうだ。」

「うん。カノヌシの領域が広がっていくのを感じる。まだ完成じゃないけど、どんどん強まってるよ。」

 

ライフィセットが顔を上げた。

マギルゥは目を細め、

 

「儂らの意識とて、いつ鎮静化されてしまうか、わからんのー。」

「積もる話はるかもだけど。まずは、ここから出しようか。」

 

審判者は彼らに微笑む。

そして裁判者を見上げる。

 

裁判者は人の姿に戻り、倒れ込む。

驚きの声が響いたのだけは、裁判者にも解った。

 

目を覚ますと、船に居た。

 

「……生きるために戦う、か。それがお前たちの選択か……」

 

裁判者は耳に聞こえていたベルベットの言葉を思い出した。

身を起こし、外に出ると、

 

「チャイバンシャ!」

「おう、起きたか。」

 

裁判者は彼らを見て、

 

「……すこしだけ世話をかけたな。あいつらは行ったか。なら、私も行く。」

「大丈夫なの、チャイバンシャ?」

「問題はない。」

「なら、モアナもいく!」

 

そう言って、裁判者にしがみ付いた。

 

「なら、俺らもいくぜ。届けもんもあるし。アンタがいれば、何とかるだろう。」

「儂もいくぞ、ロクロウに用があるからな。行くぞ、ダイル。」

「俺もか⁉」

「もちろん、私も行きますからね。」

「……自分の身は自分で守れよ。」

「おうよ!」

 

他にも犬の喰魔やグリモワール、船員が何人か近付いて来る。

裁判者は彼ら連れて船を降り行く。

 

 

近くの街に付き、人々が逃げて行く。

裁判者は村の奥に行くと、彼らはいた。

 

「副長!南に集団が逃げてったけど、何事だよ⁉」

「ベンウィック、どうしてここに?いや、裁判者が連れて来たのか。」

 

と、アイゼンは裁判者を睨む。

船員はアイゼンを見て、手紙を渡す。

 

「違います。副長に届け物ができたんです。クロガネやモアナたちも一緒だよ。」

「モアナまで⁉」

 

エレノアが驚く。

彼は頭を掻きながら、

 

「どうしても追いかけるってきかないんだ。エレノアが死ぬ夢を見たんだって。」

「モアナ……」

 

エレノアは俯く。

ロクロウが腕を組み、

 

「シグレたちが来るまでどれくらいかかるかな?」

「そうさな……到着は“緋の夜”あたりじゃろうて。」

「なら、ちょっと時間をもらうぜ。クロガネは、俺に用があるんだろ?」

 

と、船員を見る。

彼は頷き、

 

「うん、そう言ってた。」

「丁度いい。各々休息をとっておけ。」

 

アイゼンが背を向ける。

ベルベットも頷き、

 

「そうね。戦いの準備も必要だし。」

「最後の自由時間かもしれん。例によって思い残すことがないようにの。」

 

マギルゥは腰に手を当てる。

裁判者は彼らから離れる。

裁判者は暖を取っていたグリモワールに近付く。

そこに、ベルベット、ライフィセット、マギルゥがやって来た。

裁判者は彼らを見つめる。

 

「グリモ先生、カノヌシの覚醒について、古文書を解読できたんだよね?」

「ええ、タイタニアを脱出した直後にね……。お役に立てなくて悪かったわね。」

「なあに、結果オーライじゃよ~♪」

「あんたが言うな。」

「なんじゃ、グリモ姐さんを責める気なのかえ?」

 

マギルゥが呆れるベルベットを見る。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「別に責めないわよ。ただ、カノヌシの性質は知っておきたい。」

「解読できたことを教えてください。」

 

ライフィセットがグリモワールを見る。

グリモワールは頷き、

 

「いいわ。カノヌシの完全覚醒に必要なのは、穢れの量ではなく、八つの“質”だったのよ。曰く――絶望、憎悪、貪婪、傲慢、愛欲、執着、逃避、利己。」

「それぞれを各喰魔が担当しておったなら、ベルベットは憎悪、モアナは貪婪じゃな。」

 

マギルゥが顎に指を当てて言う。

ベルベットも眉を寄せ、

 

「傲慢はメディサ……テレサが愛欲、オルトロスは……執着か。」

「あとは……グリフォンが逃避で、残るクワブトが利己……かな?」

 

ライフィセットが首を傾げながら言う。

ベルベットはグリモワールを見て、

 

「アルトリウスたちは“絶望”も、あたしから奪おうとしてたけど?」

「そもそも、七体の喰魔で八つの穢れ……という点に矛盾があるのよ。おそらく“八つの穢れ”を入手することが、カノヌシ覚醒における最後の難関なのでしょうね……。そうでしょ、裁判者。」

 

グリモワールは裁判者を見つめる。

裁判者は何も言わない。

グリモワールは目を細め、

 

「あなたからの性格を考えれば、無言が肯定という意味ね。」

「なるほど。であればアルトリウスの行動にも、得心がいくわい。すべては、ベルベットの憎悪を育て、絶望に堕とすための策だったんじゃな。」

 

マギルゥが目を細めて、裁判者を見る。

ライフィセットが俯き、

 

「ベルベットの弟を利用して……」

「……けど、だとしたら喰魔を集めは無駄じゃなかった。今、やつらは“絶望”の穢れを入手することはできない。」

 

ベルベットは考え込む。

マギルゥはベルベットを見て、

 

「テレサの代わりに生まれた喰魔が一体おるはずじゃぞ。」

「ええ。けど、テレサを倒した後、聖寮はあたしの確保に、あれだけの戦力を投じた。おそらく新たな喰魔を確保できていないせいよ。いたとしても、そいつは絶望をもっていない。」

「ふうむ……アルトリウスは、お主の“絶望”を生むために三年の歳月をかけた。それがカノヌシの求める“質”だとすれば、確かに一朝一夕に手に入るものではないの。」

「でしょ。つまり、攻めるなら今ってことよ。」

 

ベルベットは眉を寄せる。

グリモワールは顎に手を当てて、

 

「そうよね。でも……」

「なにかひっかかるの?」

 

グリモワールは裁判者を横目で見て、

 

「ええ……“穢れ”の“質”という矛盾がね。質を問うということは、それが“純粋”であるということ。喰魔は“純粋な穢れ”を選びとって喰らうわよね……?」

「……うん。」

 

ライフィセットが頷く。

グリモワールは裁判者のかすかな反応を見極めようとする。

 

「本来、“不純”である穢れに“純粋”に反応することが、喰魔に必要な条件だとすれば、そんな矛盾した資質をもった人間は、そりゃあ、めったにいないわ……」

「なら、安心なんじゃ。」

「でも、似た性質をもった者を、あたしは知ってるのよ……。世に溢れる穢れを、純粋に鎮めようとした歴代の筆頭対魔士たちを……」

「それってどういう……⁉」

「だたの懸念よ。今は……ね。」

 

そして裁判者は彼らの元を離れる。

しばらくして、裁判者は門の上に腰を掛けていた。

そこに、老人対魔士がやって来る。

その後、マギルゥもやって来た。

 

「呼び出しは届いたようじゃの。」

「四聖主の復活を企んでいるのだな。」

「さすが察しがいいのう。」

「わかっているはずだ。そんな外法を使えば、どれほどの混乱が起こるか。裁判者、お前が一番理解しているはずだ。」

 

裁判者はマギルゥの横に降り、

 

「だろうな。だが、それが彼らの選択であり、お前達の行った選択だ。」

「……カノヌシが増幅していた霊応力が元に戻り、聖隷も意思を回復……多くの対魔士が力を失い、聖寮の管理体制は崩壊するじゃろう。」

「業魔≪ごうま≫の脅威をそのままにな。」

「のみならず、数百年は地水火風の自然バランスが大混乱するはずじゃ。異常な地殻変動、気候や海面の大変化に火山の爆発……お祭り騒ぎじゃな。」

「文明も大きく後退するぞ。キララウス火山ひとつとっても、噴火によって炎石が失われば、火薬の製造が不可能になる。」

「それも一興。ま、心配せずとも案外なんとかなるもんじゃて。『頑張れ、人間』じゃよ♪のう、裁判者。」

 

マギルゥは隣に居る裁判者を見る。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「そうだな。それを復刻するのは、人間か聖隷か……はたまた聖主か、裁判者か審判者か。知らんがな。だが、一番頑張らねばならないのは、人間だろうな。それ以前に、私には関わりのない事だ。」

 

老人対魔士は二人を睨みながら、

 

「人をなんだと思っている。」

「“穢れを生む悪の源泉。ゆえに情を鎮め、理による秩序をもたらす。人が己が業を悔い改め、超越する日まで”……じゃろう?」

「そう。だからこそのカノヌシ覚醒だ。」

「“我らは、その為の捨て石、穢れ役。救世主たる導師の影”……か。」

 

老人対魔士は髭を摩り、

 

「……戻ってくる気はないのか?お前が“メーヴィン”を名乗った意図は――」

「お師さんの理想は、退屈すぎるわい。」

「だが、清浄な世界だ。」

「造花の箱庭じゃよ。見てくれだけの紛いモンじゃ。」

「正しい理と秩序がある。」

「歪んだ理じゃっ‼」

 

マギルゥは眉を寄せる。

そして一歩前に出て、

 

「花が枯れねば幸せか?狼が草を喰えば満足か?気色悪いわっ!そんな世界を願う者も!囲まれて満足する奴らも!毒虫とて、喰いたいものを喰うぞ!名もなき花とて、咲きたい場所に咲く!他人にとってはどーでもいい願いにも、決して譲れぬ“生きる証”があるんじゃ!それを“悪”と呼ぶのなら、儂とて悪として生きて、死ぬわい。」

 

裁判者はマギルゥを見て、

 

『……壊れた心は戻らん。だが、心とは何度でも創られるモノだ。マギラニカ、お前は生き、選び抜いたな。』

 

裁判者は横目で、聞き耳立てている彼らに視線を送る。

老人対魔士は眉を寄せ、

 

「……ならば踏みつぶすまでだ。お前も必ず捉え、我が友が残したあの術式を完成させる。」

「お前達には成しえないさ。クローディンの想いに気付けぬ内にはな。」

 

裁判者は老人対魔士をに据える。

そして、裁判者が視線を送っていた彼らは歩いて来た。

 

「どこまでも上からものを言いやがる。裁判者もな。」

「手を貸すぜ、マギルゥ。どっちとやるんだ。」

 

アイゼンとロクロウが歩いて来る。

裁判者はロクロウを見据え、

 

「私と殺り合うのか。」

「おっと、わりぃ。ノリだノリ。まずは、メルキオルと殺るさ。」

 

と、ロクロウは構える。

マギルゥは彼らを横目で見て、

 

「待った、決着はあとじゃ。こやつは災禍の顕主への供物じゃでな。メルキオル・メーヴィン、火山で待っておれ。案ずるな。お主の最期は儂が“看取る”。」

「……いいだろう。まとめた方が踏みつぶす手間がかからん。」

 

老人対魔士は背を向けて歩き出す。

その足元に花が一房咲いていた。

それを少しの間見て、避けて歩いて行った。

マギルゥはその背を見て、

 

「変わらんのう、お師さんは。」

 

そしてマギルゥは裁判者に振り返り、

 

「それより、お主は倒れたが平気なのかえ?」

「そうだったな。お前が倒れるなんて、珍しかったよな。んで、お前を運んだのはアイゼンだぜ。」

 

ロクロウも腕を組んで、裁判者を見る。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「審判者に、パーシバル王子とタバサの事を任せる代わりに、お前を任されたんだ。」

「嫌がらせだろうな。お前、私のこと嫌っているからな。あいつは感情がある分、そういう事をよくやる。」

 

裁判者はアイゼンを見据えた。

アイゼンはさらに眉を寄せ、

 

「ああ、これでお前に死神呪いが発動すれば、なお良かったのだがな。」

「残念だったな、効かなくて。」

 

彼らは睨み合う。

マギルゥが腕を上げ、

 

「こりゃー!話がずれておるぞ!」

「……そうだったな。簡単に言うと、前に見せた黒い方のドラゴンより、あっちの方が物凄く力がるんだよ。」

「ほうほう。では、白いドラゴンが強いと言うことかえ?」

「さあな。だが、黒い方は穢れを喰らってあの形に固定させるからな。白い方は私自身の力のみだからな。と、言っても、今回はあの術式に力のほとんどを吸い取られたのが大きな問題だな。あれは、私達の対抗策として創られたものだからな。」

 

マギルゥが目をパチクリし、

 

「お主らに喧嘩を売るとはのう……」

「はっはっは!だが、聖隷みたいにドラゴン化した裁判者が、自我を失わないだけいいだろう。」

 

ロクロウがマギルゥを笑いながら見る。

アイゼンがさらに眉を寄せ、

 

「……自我があってあれをしたのなら、お前は相当質が悪いぞ。」

「さて、どっちだろうな。」

 

二人は再び睨み合う。

マギルゥが半眼で、

 

「どうやら地雷を踏んじゃ用だぞ。どうしてくれるんじゃ、ロクロウ!」

「俺のせいなのか⁉」

 

ロクロウが暴れ出すマギルゥに、逃げ出す。

そしてマギルゥは彼を追いかけた。

裁判者はアイゼンと睨み続ける。

しばらくした後、アイゼンと睨み合っていた裁判者は、小さな喰魔の少女に連れて行かれた。

裁判者は小さな喰魔の少女がいうかくれんぼし、

 

「見つけたぞ。」

「見つかったぁ~。チャイバンシャ、強すぎ!モアナ、一度も勝てないよ~!」

「常に、勝てるとは限らない。そういう事だ。」

「難しいぃ!」

「なら、大人になったら理解しろ。」

「ぶ~!」

 

宿屋の前に行くと、彼らが出てくる。

彼らは各々話をつけていた。

裁判者は空を見上げ、

 

「もう、あの喰魔のとこに行け。。」

「え~!モアナ、もっと遊ぶ!」

「終わりだ。お前の目的は済んだのだ。」

 

そこに喰魔の女性がやって来る。

 

「モアナ、行きましょう。」

 

小さな喰魔の少女は渋々、彼女の手を取る。

歩いていた小さな喰魔の少女は立ち止まり、裁判者を見る。

 

「……チャイバンシャはモアナのこと嫌い?」

「何故、そんな事を聞く。」

「だって、一度もモアナの名前呼んでくれない。」

「神殿に居た時に名は出したぞ。」

「でも、あれはチャイバンシャじゃなかった気がする。チャイバンシャだけど……モアナ、よくわかんないけど……」

「……私は滅多に名は呼ばない方だ。」

 

そう言って、歩いて行く彼の後ろに歩いて行った。

空は赤く燃え上るような月が出ている。

そう、緋の夜だ。

ライフィセットが歩きながら、

 

「空も、地面の雪も……みんな赤い。これが“緋の夜”なんだね。」

「不思議な光景よね。」

「うん、なんかすごい……」

 

ライフィセットはジッと赤い月を見上がる。

ベルベットは黙り込む。

それに気付いたライフィセットが、

 

「あ……緋の夜を喜んでいるわけじゃないよ。」

「ラフィやセリカ姉さんのことなら、気にしなくていいわ。どうしてあの月は、あんなに赤いんだろうって、思ってただけだから。」

 

ベルベットも月を見上げる。

エレノアも月を見上げ、

 

「本当に赤いですよね。裁判者と同じくらい。ですが、緋の月は、この世とあの世を繋ぐ“門”とか、人の“罪の証”と言われているんですよ。」

「罪の証か……悪人が流した血を、月が吸い上げてるのかもしれんなぁ。」

 

ロクロウも月を見上げる。

裁判者は目を細めて、彼らの言葉に耳を傾ける。

マギルゥが半眼で、

 

「ぞわ~……ずいぶんと猟奇的じゃの~。」

 

と、裁判者を見る。

エレノアはそんなマギルゥを見て、

 

「しみじみと怖いこと言わないでくださいよ。それも、裁判者を見ながら!なお、コワイです!」

「“緋の夜”は、ある周期で満月が特別な位置をとる度に起こる。大地と月が引き合い、地脈の力に空に溢れ出るせいで、赤く染まって見えるんだ。」

「そう。そして、その異常な力場だけが、聖主に通ずる特殊な霊力条件を満たすといわれておる。」

 

アイゼンは腕を組み、マギルゥが指を当てて、説明する。

ライフィセットは二人を見て、

 

「だから、緋の夜に儀式を行うんだね。」

「……ただ、人の世は流血の歴史。惨劇によって流された血は、すべて大地の記憶として地脈に浸み込んでいる。そういう意味では、月が血を吸い上げているという表現も、あながち間違いじゃないかもしれんな。」

 

と、アイゼンは横目で裁判者を睨む。

裁判者は彼に睨み返す。

ロクロウがそれには気付かず、

 

「おお!俺の妄想があってた!」

「はしゃがないでください。」

 

エレノアは眉を寄せて、ロクロウを見る。

ライフィセットが俯き、

 

「……そう思うと、哀しい色だね。」

「そうね。」

 

そして彼らは火山口に入って行く。

 

「シグレとの戦い!とうとう来た!」

「アイツはどう出ると思う。」

「小細工はしない。正面にいるさ。」

 

ロクロウは大刀を握る。

アイゼンは前を見て、

 

「そうか。」

 

奥に進み、マグマの流れる道のど真ん中に、剣の対魔士が座っていた。

 

「おいおい、本当に正面におったわ……」

 

マギルゥが呆れ顔になる。

ロクロウは彼の元に歩いて行き、酒を飲んでいる彼の前に座る。

そして大刀を取り、彼の前に見せる。

彼はそれを受け取り、鞘を抜く。

ロクロウは彼のついだ酒を口に運ぶ。

剣の対魔士は剣を見て、

 

「大した奴だ。自分を刀にしやがるとはな。」

「……ああ。その刃はクロガネの数百年そのものだ。」

 

裁判者も彼の見ている刃を見る。

 

『……確かにそうだな。』

 

剣の対魔士はニット笑い、

 

「“クロガネ征嵐”か。面白ぇ。」

「今は、まだ“クロガネ”だ。“征嵐”とは“號嵐”を征する刀の名。俺が、お前と號嵐を叩き斬って、こいつを“クロガネ征嵐”にする。」

「……面白ぇなぁ!」

 

剣の対魔士はさらに笑みを深くし、剣を鞘に戻してロクロウに渡す。

ロクロウはそれを受け取り、立ち上がる。

そしてベルベット達の方に戻る。

 

裁判者は全体が見える位置に移動する。

上に上がり、座って彼らの戦いを見る。

 

「さて、あの対魔士の本当の力とやらを見せて貰おう。そしてお前達の征嵐を、な。」

 

ネコ聖隷が彼に駆けていた枷を外す。

彼の霊応力が一気に上がり、地面にヒビが入る。

ベルベット達は構え、戦闘を開始した。

ロクロウの大刀と剣の対魔士が互いに剣をぶつけ合う。

 

「ほう、あれを止めるか。」

 

しばらくベルベット達と戦った後、剣の対魔士は膝を着く。

そしてロクロウが彼に近付き、二刀の刀を構える。

剣の対魔士も立ち上がり、剣を構える。

二人の攻防戦が繰り広げられる。

彼らの刃が交えるたびに、火花が飛ぶ。

そして一度距離を置き、笑い合う。

と、剣の対魔士がロクロウに突っ込み、剣を振り上げる。

ロクロウは二本の短刀でそれを受け止め、自分の短刀もろとも彼の剣を弾き飛ばす。

それが宙を飛び、ロクロウは背中の大刀に手をかける。

それを握り、剣の対魔士を斬り裂いた。

彼は後ろに倒れ込む。

 

「お前の出した答えは、三刀か……。」

 

裁判者は立ち上がり、下に降りる。

三本の剣も地面に突き刺さる。

剣の対魔士は自分の横の剣を見て、

 

「クロガネへのはなむけだ。號嵐を……もってけ。あとな……ムルジム≪このネコ≫は見逃してやってくれ。」

 

そう言って、近付いて来たネコ聖隷を見つめる。

ネコ聖隷は眉を寄せ、

 

「シグレ……」

 

ロクロウは號嵐に手をかける。

そしてそれを抜き、刃を見る。

 

「シグレ、あの上位討ちは――」

「どの道、おん出てたさ。飼い犬暮らしにうんざりしてたんだ。」

 

ロクロウはため息をついて、眉を寄せた。

剣の対魔士はロクロウをニット笑い、

 

「バカ野郎……小難しいこと考えんな。斬れたら嬉しい。斬れなきゃ悔しい。斬られれば死ぬ……そんだけのことだ。剣は単純で……だから面白え。」

「ああ、面白いな。」

 

ロクロウも彼に笑みを浮かべる。

 

「ふっ……いい悪い顔だ。アルトリウスの石頭も……そんな風に笑えば……いいのによぉ……」

「そうか……」

 

ロクロウはジッと彼を見た後、背を向ける。

 

「ベルベット。」

「いいのね。」

「いいさ。兄貴は俺が斬った。」

 

彼は號嵐を掲げる。

そして剣を地面に突き刺した。

剣の対魔士はベルベットに喰われる。

彼は剣の対魔士の剣と二刀短刀をしまう。

 

「……ロクロウ、最後に何か話してたね。」

 

ライフィセットが彼に話し掛ける。

ロクロウは腕を組み、

 

「ああ、昔話だ。シグレが主家に謀反を企てたって話な。あれは嘘なんだ。俺が、嘘の密告をした。」

「なんで……」

「上位討ちの大義名分を手に入れる為にさ。號嵐、シグレの名、当主の地位――昔の俺は、そんなものが欲しかったんだよ。」

「……後悔してるの?」

「まさか。シグレにも気付かれてたしな。それより、あの時、なんでシグレに勝てると思ってたのかがわからん。」

「あの人……強かったね。」

「当然だ。最強剣士の一族ランゲツ家の当主だからな。」

「ロクロウは後を継ぐの?」

「いや、俺は業魔≪ごうま≫だしな。それに……兄貴に勝てれば、それだけでよかったんだ。俺は。」

 

その背にベルベットが、

 

「戻ってもかまわないわよ、ロクロウ。」

「忘れるなよ。俺の目的は、お前に恩を返すことだぜ。」

 

彼らは歩き出す。

ネコ聖隷が裁判者を見上げ、

 

「あなたもいつかは解るかもしれないわね。」

「何をだ。」

「私たちの“心”を、よ。」

 

裁判者は立ち止まり、ネコ聖隷を見て、

 

「……さてな。だが、もしそうならその時の私はどの選択肢を取るものか……」

 

そう言って、裁判者も歩き出す。

 

 

進み続け、マグマが所々にあふれ出ている。

マギルゥが肩を落とし、

 

「温≪ぬく≫っ!いや暑っ!いやいや熱≪あっ≫つぅぅっ‼」

 

そう言って、腕を上げた。

エレノアが眉を寄せ、

 

「いちいち騒がないでください!」

「ふん、火山の火口で冷静な方がおかしいわい。」

 

マギルゥがまた肩を落とす。

裁判者は辺りを見渡す。

ライフィセットが辺りを見渡し、

 

「湧き上がってくる地脈の流れを感じる。ここが地脈湧点だ。」

「おかしいぞ。メルキオルがいない。」

 

アイゼンが眉を寄せる。

そこに声が響く。

 

「シグレまで喰らったか、災禍の顕主!だが、対魔士でも四聖主の贄たり得る魂はシグレ、オスカー、テレサ……あとは儂くらいであろう。」

「上からだ。奴は山頂か。」

 

声はまだ響く。

 

「三つの贄では三聖主しか目覚めず、カノヌシの力を封じることはできん。のみならず、一角を欠いた地水火風は、火口を巻き込んで暴発するだろう。四聖主を同時に覚醒させたくば、儂の魂を奪いにくるがいい!」

 

ベルベットがマギルゥを横目で見る。

 

「どう思う、マギルゥ?」

「罠じゃな。メルキオルが得意とする攻撃は“氷”。火口≪ここ≫では地の利がないゆえ、誘導したいんじゃろう。」

 

マギルゥが目を細める。

アイゼンが腰に手を当てて、

 

「だが、あいつは長い間、聖主の復活を企んできた対魔士だ。」

「そう。ゆえに、すべて偽りと決めつけるのも危険じゃ。」

 

マギルゥは真剣な表情で言う。

ベルベットは腰に手を当てて、

 

「……今更だけど、マギルゥ。あんたはメルキオルの身内なのね。」

「まったくもって今更じゃな。昔の儂の名は、マギラニカ・ルゥ・メーヴィン。メルキオルの養女で、破門された元弟子じゃよ。」

 

マギルゥはニッと笑う。

裁判者は横目でマギルゥを見る。

エレノアは腕を組んで考え込む。

 

「マギラニカ……?欠番の特等対魔士!」

 

エレノアはハッとして、マギルゥを見る。

マギルゥは意外そうな顔で、

 

「名を残しておったか。十年も前に破門したくせに……」

「お前、結構すごいヤツだったんだな。」

 

ロクロウが驚きながら言う。

マギルゥはジッとベルベットを見て、

 

「別にすごくない。ベルベットとアルトリウスの関係と似たようなものじゃ。」

 

そして彼女の横を通り過ぎ、

 

「恩も怨も……の。」

 

そして立ち止まり、振り返る。

 

「ベルベット、信じてくれとは言わん。じゃが、儂はあやつと決着を――」

「どーでもいいわ、魔女の事情なんて。あたしは頂上に行く。いつも通り勝手にね。」

「うむ、儂も勝手についていくぞ!いつも通りにの♪」

 

と、笑みを浮かべる。

ロクロウが腕を組み、

 

「結局のところ、お前と裁判者の関係は?」

「友達じゃよ。」

「自称な。」

 

マギルゥと裁判者は供に歩きながら言う。

裁判者はマギルゥを横目で見て、

 

「どこかの化け物に、友と言って縋って来た変わった人間のな。」

「なんじゃ、酷い奴じゃの~。」

 

と、歩いて行く。

ベルベット達は目をパチクリし、呆れたように笑う。

ライフィセットが思い出したかのように、

 

「あ!化け物の話!あれって裁判者さんの話だったの⁉」

「気付いてなかったの?」

「気付いてたの⁉」

「わりとな。」

 

ベルベットとロクロウが驚いていたライフィセットに笑って言った。

そして一行は頂上に向かって歩き出す。

ロクロウはマギルゥを見て、

 

「メルキオルの本性がいまいちわからんな。一体どういう奴なんだか。」

「ひとことで言うなら“対魔士の影”じゃよ。」

「影……か。」

「穢れなき心を持つ対魔士とて、所詮は人間。そして、救わんとする相手もまた人間。まっすぐな誠意だけで、世界を救えるはずもない。対魔士が穢れぬためには、その影を……汚れ仕事を担う影が必要なのじゃよ。」

 

マギルゥは目をほめた。

アイゼンはマギルゥを見て、

 

「なるほど、それがメルキオルか。」

「……聖寮にいた頃は、気付けませんでした。あの方がなにをしていたのか……」

 

エレノアもマギルゥを見た。

そしてロクロウは腕を組み、

 

「なんで穢れないんだ?」

「世界を救う対魔士を支える……その信念と覚悟は、純粋で迷いのないものじゃからの。そして、奴は裁判者と盟約を用いている。そりゃあもう、煮ても焼いても砕けんガチガチの氷山のようにのう。あんな氷の心には、とてもとてもなれなんだよ……」

「あ……もしかしてマギルゥは……」

 

ライフィセットが眉を寄せる。

マギルゥはニット笑い、

 

「そう。儂は次代の筆頭対魔士――アルトリウスの影になるべく、メルキオルに育てられたんじゃ。ところが目論見は大失敗。儂はそれ期待に応えることはできんかった……」

「予定通りにいってたら、メルキオルじゃなく、お前と戦ってたわけか。」

 

ロクロウが笑う。

ライフィセットがホッとしたように、

 

「そうじゃなくてよかった。」

「まあね。マギルゥが聖寮を動かしてたら……」

「まったく出方が読めん、恐るべき組織になっていただろうからな。」

 

ベルベットとアイゼンが呆れた。

マギルゥが二人を見て、

 

「それはそれで面白そうじゃがの~♪」

「そうなっていれば、お前とは敵だったな。」

 

裁判者がボソッと通り過ぎて囁いた。

マギルゥはクルッと回り、

 

「いやはや、影になっておらんでやかったわい。でなければ、あ奴に叩き潰されておったじゃろうな。」

 

エレノアが手を握りしめ、

 

「あの方は……私の影でもあったのですね。」

「ジジイに同情して、戦いづらくなったかえ?」

「いえ、そんなことは……」

「お主が気に病むことはない。影を消すのは影の仕事じゃ。もっとも儂は影になれず、闇に落ちた魔女じゃがの~♪」

 

マギルゥは拳を握りしめ、悪い顔で笑みを浮かべる。

 

 

頂上に付近まで来て、

 

「もうすぐ頂上ね。」

「気をつけい。あ奴はシグレとは違って、正面からは来んぞ。」

 

そして上ると、老人対魔士が赤い月を見上げ、

 

「四聖主は、本来地水火風の自然を調和させ、世界の秩序を維持する存在だ。お前たちは、そんな四聖主が眠りについた理由を考えたことがあるか?」

「さあね。興味ないわ。」

 

老人対魔士はベルベットに振り返る。

 

「まさに貴様のような傲慢な存在こそが理由なのだ。そして裁判者、お前のせいでもある。」

「かもな。」

 

裁判者は彼を見据える。

彼は眉を寄せ、

 

「四聖主の力――加護の力の源は、純粋な人間たちの祈り。だが、人々が穢れ、祈りを忘れてしまったせいで、裁判者との戦いに力を使い果たした四聖主たちは眠りについてしまった。」

「人々の祈りが聖主の力……聖隷と同じだ!」

 

ライフィセットが眉を寄せる。

ロクロウは眉を寄せ、

 

「カノヌシが心を喰らうのも加護だっていうのか?」

「第五の聖主カノヌシは、穢れごと人の心を喰らい尽くし、無に還す役を担う。」

 

老人対魔士は眉を寄せて叫ぶ。

裁判者はそれを聞いて小さく、

 

「無に還す……ね。」

 

老人対魔士は裁判者を睨み、

 

「再び人に赤子のような清らかさをもたらし、四聖主を復活させるためにな。そうすれば、お前とて勝ち目はない。」

 

エレノアが眉を寄せ、

 

「心を無に還す⁉でも、それでは――」

「そう、文明は滅び去る。穢れの拡大とカノヌシによる精神浄化は、太古から幾度も繰り返されてきた。それが人間の文明が何度も栄えては滅んだ理由。だが、これではいつまで経っても進化はない。ゆえに、我ら聖寮がカノヌシの力を制御し、人の心を未来へと導かねばならないのだ。」

「……なるほど。カノヌシの制御のためにつくった術が“神依≪カムイ≫か。」

 

ベルベットが眉を寄せる。

マギルゥも眉を寄せ、

 

「そして、神依≪カムイ≫の構築には、ジークフリードに使われている技術が必要じゃったんじゃな。それに、あの時、何やら裁判者が渡してたものも、おそらくはその類じゃろうて。」

「だからアイフリードを巻き込んだのか。」

 

アイゼンが眉を寄せて、拳を握りしめる。

老人対魔士は空を見上げ、

 

「……光があれば影があるように、どんなことにも“犠牲”は必要だ。我が身も同じ。人間の理想のための“贄”だ。」

 

そう言って、力を解放する。

 

「ぐおおお……っ‼」

「神依≪カムイ≫!」

「させるか!」

 

ライフィセットが叫び、アイゼンが走り出す。

だが、マギルゥが眉を寄せ、

 

「違うぞ、アイゼン!」

 

そう言って、マギルゥは後ろに振り返り駆け出す。

アイゼンの拳が老人対魔士の顔を殴る瞬間、それは靄となって聞ける。

そして彼らの後ろから技のぶつかる音がする。

 

「言うたじゃろう、正面からは来んと。」

「ちぃ……一撃とはいかんか。」

 

老人対魔士が神依≪カムイ≫をして現れる。

彼の後ろには球体がいくつか浮いている。

 

「ひねくれ者が。誰に似た、マギラニカ!」

「儂は儂!悪の大魔法使いマギルゥじゃ!」

 

マギルゥは術を放つ。

そしてベルベット達も彼に襲い掛かる。

裁判者はそれを横目で見て、

 

「さて、どうなるかな。あの神依≪カムイ≫も、不完全だな。」

 

彼らはどんどん攻めていく。

老人対魔士が押され、マギルゥの術に吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ……あと百才若ければ……」

 

と、膝を着く。

ライフィセットが驚き、

 

「百才⁉」

「“誓約”で寿命を伸ばしておるんじゃよ。何百年も、の。」

 

と、マギルゥは裁判者を見据える。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「それが“理”だっていうの?不自然な欲望でしょ。」

 

老人対魔士は立ち上がり、

 

「ふん、儂も何千回も同じことを言ったわ。儂なら自然のままに滅びる――とな。だが、あいつときたら……」

 

思い出すように、

 

「「『理を乱すのも人なら、超えるのも人……理を超えて願う想う“理想”こそ人の力だ』。」」

 

老人対魔士は裁判者を見る。

 

「だろ。」

 

裁判者は老人対魔士を見据える。

彼らは眉を寄せ、

 

「貴様!貴様が口にするか!」

「先代筆頭、クローディンの言葉か。」

 

マギルゥは目を細める。

ベルベットはさらに眉を寄せ、

 

「詭弁ね、」

「そう思うなら実行して見せてやらろう。」

 

老人対魔士は手を前に出し、ベルベットを創りだす。

それはベルベットだけでなく、ライフィセット達もだ。

 

「今更幻覚が通用すると!」

 

彼らは自分を薙ぎ払う。

老人対魔士は姿を消し、

 

「思ってはおらん。だが、術を溜める時間は稼げた。」

 

彼らが振り返ると、火山口に向けて力を溜めている老人対魔士。

その彼の手には力の塊がある。

マギルゥは眉を寄せ、

 

「火山を爆発させる気か⁉」

「お前も死ぬぞ!」

「裁判者はこの程度では死なぬだろうが、災禍の顕主一味と相討ちなら上出来だ。それが――“理”だっ‼」

 

そう言って、老人対魔士は振り返り火山口に向かって落ちようとする。

が、マギルゥが彼の足元に花を創る。

彼は目を見張って、それを避けバランスを崩す。

その隙をベルベットが駆け込み、左手で彼の腹を掴む。

彼ごとベルベットは飛ぶ。

力の塊は宙で砕け、ベルベットは彼を喰らい出す。

 

「よくも……クローディンの理想が……」

「お師さんよ……まこと感情はやっかいじゃのう。」

 

喰われる彼を見て、マギルゥは悲しそうに瞳を揺らす。

そしてマギルゥは裁判者を見て、

 

「これが儂らの答えじゃ、裁判者。」

 

裁判者は彼らを見据え、

 

「ああ。答えは見せて貰った。いいだろう、四聖主達の眠る門を出してやる。そこに贄を落とせ。」

「え⁉門⁉」

 

エレノアが裁判者を見る。

裁判者は赤い月を見上げ、火山口に向かって飛んでいるベルベットを見る。

 

手を前に広げて、

 

「裁判者たる我が名において、眠れる聖主の扉を開く。彼らの意に応え、我が裁定の名の元に顕現せよ!」

 

ベルベットの真下に魔法陣が浮かび、そこから彼女の前に扉が現れる。

それが開き、地脈の流れがあふれ出る。

彼女はそのまま宙に浮いたまま、左手に喰らった魂たちを火山口に現れた扉に向ける。

マギルゥが大声で、

 

「やれいッ‼ベルベットッ‼」

「言われなくても!四聖主どもは、災禍の顕主が――叩き起こすッッ‼」

 

そう言って、扉に贄をぶつける。

それが爆発する瞬間、裁判者は彼らを影で掴んで消える。

 

光が溢れ、聖主カノヌシの囲っていた領域を囲うように、赤、黄、青、緑の四つの柱が浮かぶ。

それが広がり、聖主カノヌシの領域は小さくなっていく。

その小さくなった領域から羽を持つ龍を囲うように七つの竜が輝きながら宙に飛んでいく。

そしてそれが一つになり、宙に浮かぶ一つの神殿を創り出した。

そして世界に意志を奪われていた聖隷達は解放され、対魔士達の元を離れていく。

 

ベルベット達が目を上げると、そこは雪の上。

火山の入り口だった。

彼らは身を起こし、辺りを確認する。

裁判者が一人、彼らを見ていた。

 

「一応、礼は言っとくわ。」

 

ベルベットは裁判者にそっけなく言う。

そしてマギルゥを見て、

 

「助かったわ、マギルゥ。メルキオルに隙をつくってくれなかったら終わってた。」

「儂は儂のケリをつけただけじゃよ。じゃが、感謝するなら物でおくれ♪」

 

マギルゥは笑顔で手を伸ばす。

ベルベットはそっぽ向き、

 

「前言撤回。」

「花を傷付けない……誓約だったの?」

 

ライフィセットがマギルゥを見上げる。

マギルゥは頭に手をやり、

 

「……いいや。あのクソジジイは草花が好きだったんじゃよ。生きている人間よりも、ずっと……の。それだけのことじゃ。」

「心は自由にならないのね。特等対魔士でも。」

「魔女でものう。生きるということは、まっこと難儀じゃわ。」

 

ベルベットは眉を寄せ、マギルゥは目をほめた。

エレノアは顎に指を当てて、

 

「四聖主は目覚めたのでしょうか?」

「さてなぁ。だが、これで起きないマヌケなら当てにしても無駄だ。」

 

裁判者が言う前に、ロクロウが言い放つ。

アイゼンがロクロウを見据え、

 

「その悪口、聞かれたかもしれんぞ。カノヌシの領域が変化している。そうだろ、裁判者。」

 

そして裁判者を睨む。

裁判者は彼らを見て、

 

「ああ。奴らは目覚めた。案外、お前を睨んでいるかもしれんな。」

「マジか⁉ライフィセット!」

 

 

ロクロウは目を見開いて、ライフィセットを見る。

ライフィセットは頷き、

 

「うん、四人とも起きて、カノヌシは地脈から押し出された。」

「これで増幅されていた霊応力は低下し、多くの聖隷の意思も解放されるじゃろう。対魔士どもの数は激減するはずじゃが……」

 

マギルゥは裁判者を見据える。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「聖隷はすでに対魔士から離れている。そして、霊応力も少しずつ小さくなる。」

「エレノア、お前まで戦えなくなっていないだろうな。」

 

ロクロウはエレノアを見ると、

 

「残念ながら、まだ見えています。悪い業魔≪ごうま≫も、聖隷も、魔女も、裁判者も。」

 

と、小さく微笑む。

ベルベットはライフィセットを見て、

 

「……わかるのね。」

「感じるんだ。あいつの本体は地脈から出たよ。“聖主の御座”の上だ。導師アルトリウスもそこにいる。けど、カノヌシは四聖主の力をすごい勢いで押し返そうとしてる。」

 

ライフィセットは瞳を閉じて感じ取る。

マギルゥは顎に指を当てて、

 

「四聖主が押し負けたら、今度こそ打つ手なしじゃ。まったりしとる時間はなさそうじゃぞ。」

「行くわよ。決着をつけに。」

「うん!」

 

そしてベルベットは裁判者を睨み、

 

「約束通り、話してもらうわよ。」

「船に戻ったらな。」

 

裁判者は歩き出す。

そして彼らも歩き出す。

 

一度、街に戻る。

そこに血翅蝶の女性がトカゲ業魔≪ごうま≫と話していた。

トカゲ業魔≪ごうま≫は彼らに気付き、

 

「はっはー!ベルベット、よくも無事に戻ってきやがって!」

「タバサ≪ボク≫から言われてきたのよ。あなたたちに助力するようにって。」

「丁度いいわ。街の方はどうなってる?」

「私は遠くに居たからわからないわ。けど、聖寮はヘラヴィーサの北方を“第四種管理区”に指定したわよ。」

 

エレノアが顎に指を当てて、

 

「第四種……管理を放棄したということですね。」

「メリルシオの住民たちは?」

「全員、無事保護されたわ。連名で災禍の顕主討伐の嘆願書を出してたけど。」

「当然でしょうね。」

 

ベルベットは苦笑する。

トカゲ業魔≪ごうま≫は腰に手を当てて、

 

「丁度いいから、この街を新しいアジトにしようぜ!温泉付きのアジトなんて、そうそう見つからないぞ。」

「……そうね。モアナたちは、ここに残していった方がいいわね。」

「ダイル、モアナたちをお願いします。」

 

ベルベットとエレノアはトカゲ業魔≪ごうま≫を見る。

彼は笑い、

 

「へへ!ここまできたら、頼まれなくたってやってやるさ。」

「頼もしいわね、ダイルのくせに。」

「『くせに』は余計だ!とっとと行け、ベンウィックたちが、ヘラヴィーサで準備を整えてるぜ。」

「ええ。」

 

ベルベット達は彼らを見て頷き、港に向かって歩き出した。


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