テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第六十三話 始まりの刻

裁判者は監獄島につき、表の港に歩いて行く。

 

「お前達、今に聖寮がやって来る。裏の港へ行け。」

「何故、そんな事がわかる。」

 

トカゲの業魔≪ごうま≫が裁判者を見る。

裁判者は海を見つめ、

 

「密告者が知らせているからだ。今頃は、そいつを突き止めた頃だろな。急げ、時間がない。」

「……わかった。準備をしてくる。」

 

そう言って、トカゲ業魔≪ごうま≫は駆けて行く。

裁判者は海を見つめたまま、

 

「マギラニカ、お前の壊れた心は……何を想う。自身の師にも、聖隷にも、仲間にも、な……」

 

裁判者は聖寮の船が来るまで、港に居た。

裁判者の瞳にはすでに聖寮の船は見えている。

ついこの間、組み替えた術式を実験する為の実験体と共に。

 

そして雨が降り出し、側に来た犬の喰魔に、

 

「お前達は古文書を持っているグリモワールの元へ行け。そして裏門に行け。そこに船が来る。」

 

犬の喰魔は「ワン!」と鳴いて、駆け出していく。

裁判者の目だけでなく、すでに彼らにも解るくらいの所に聖寮の船が見えてきた。

対魔士が降りてきて、

 

「道を開けろ。」

「一人で何ができると。」

 

裁判者は対魔士達を見据え、

 

「一人で十分だ。」

 

そう言って、影から剣を取り出す。

対魔士達は神依≪カムイ≫を発動させた。

 

「中途半端な。霊応力の才が低いな。」

 

襲い掛かる彼らを、裁判者は一振りで薙ぎ払う。

目を細め、

 

「どうした、抗って見せろ。人間。」

 

裁判者は対魔士達を薙ぎ払っていく。

そこに小さな喰魔の少女がやって来た。

 

「チャイバンシャ!」

 

そこに聖寮の羽根の神依≪カムイ≫の剣が襲い掛かる。

小さな喰魔の少女は脅え、動けなくなる。

裁判者の瞳にはその姿は違う少女の姿へと変わる。

その少女は自分に、必死に手を伸ばす。

 

「マギラニカ……!」

 

裁判者は駆け出し、神依≪カムイ≫剣を全てその身で受けた。

裁判者は膝を着き、剣を振るう。

剣を地面に突き刺し、それを支えにする。

 

「こいつを連れて、逃げろ。今に奴らも来る。」

 

近付いて来た喰魔の女性と頭のない業魔≪ごうま≫に指示した。

 

「お前はどうする。」

「ここでもう少しだけ、遊んでやるさ。」

「わかった。」

 

頭ない業魔≪ごうま≫は二人を連れて行く。

 

「行くぞ。」

「さ、モアナ。」

 

だが、小さな喰魔の少女は裁判者を見上げ、

 

「ごめんなさい……チャイバンシャ!」

「そう思うのであれば、逃げろ。足手まといだ。」

「うぅ〰‼」

 

小さな喰魔の少女は泣き出す。

喰魔の女性が抱き上げ、走って行く。

 

裁判者は立ち上がり、剣を地面から抜く。

そこに導師アルトリウス、老人対魔士、剣の対魔士が現れる。

導師アルトリウスは剣を抜き、

 

「随分とここに、想い入れがあるみたいだな。」

「いや。そうでもない。」

「では、何故ここで戦う。」

 

裁判者は赤く光る瞳で、導師アルトリウスを見据え、

 

「神依≪カムイ≫を作ってやったんだ。いくら願いと褒美とは言え、それはフェアじゃないからな。なら、災禍の顕主以外の喰魔を逃がすのが道理だろ。」

「なるほどな。」

 

裁判者は剣を横に振る。

そこに剣の対魔士が剣を振っていた。

それを剣で防ぎ、堪える。

その逆側に、老人対魔士の術が飛んでくる。

裁判者は剣の対魔士を弾き、術を斬り裂く。

剣を前にし、導師アルトリウスの剣を裁く。

距離を置き、剣の対魔士が裁判者を見て、

 

「おいおい、どうした。随分とこの前より弱えじゃねえか。」

「当然だ。喰魔が多すぎるこの場所で、力を使っては元も子もない。だから、手加減して遊んでやってるんだろ。」

「ほう!なら、もういいんじゃねえか。お前の目がそう言ってる。」

「なるほど。」

 

裁判者は影を広げ、老人対魔士の術を喰らう。

剣で導師アルトリウスと剣の対魔士の相手をする。

 

「さぁ、望み通り、少しだけ遊んでやる。人間。」

 

力を上げて戦う。

導師アルトリウスと老人対魔士が距離を置き、何かを始める。

剣の対魔士を裁きながら、

 

「……クローディンの術式、これは……!」

 

そして魔法陣が裁判者の足元に浮かぶ。

影が消え、裁判者は後ろに飛ぶ。

 

「封じの術式。これをこんな風に使うとな……」

 

裁判者は剣の対魔士の剣を剣で防ぎ、老人対魔士の術を避ける。

導師アルトリウスの剣も裁きながら、後退する。

 

「たくっ!妙な力を封じてもこの強さか!いいねぇ。ホント、いいねぇ!」

 

剣の対魔士がニッと笑う。

裁判者は彼らを見据える。

そして導師アルトリウスが剣を振るう。

裁判者がそれを受け流すと、裁判者は動きを止める。

 

「……そうか、なるほどな……お前はすでに……」

 

そこに聖主カノヌシが現れ、その攻撃が当たり、吹き飛ばされる。

扉を壊し、部屋の壁に叩き付けられる。

立ち上がる前に、老人対魔士の術が当たり、さらに術で拘束された。

老人対魔士は消え、導師アルトリウスは剣をしまって剣の対魔士と共に部屋に入ってくる。

 

「……お前をここまで抑えられるのだから、我が師は本当に凄かったのだ。」

「……ああ、今の私を捕らえられるのだからな。」

 

裁判者は導師アルトリウスを見据える。

そこにベルベット達が駆けて来た。

導師アルトリウスはベルベットを見て、

 

「逃げるのか。」

 

ベルベットは眉を寄せ、こちらを見る。

エレノアは目を見張り、

 

「裁判者!それに、アルトリウス様だけでなく……!」

「シグレェッ‼」

 

ロクロウが大刀を抜き、斬りかかる。

そしてベルベットも斬りかかろうとするが、

 

「ダメだよ!」

 

ライフィセットが止める。

王子もベルベットの前に立ち、

 

「そうだ。ここは彼らと交渉して逃走を……」

「殿下はお下がりを。」

 

導師アルトリウスは王子を見る。

彼は続ける。

 

「その者の目的は、私を殺すことなのです。」

「その通りよっ‼」

 

ベルベットはライフィセットを振り払い、アルトリウスに斬りかかる。

そしてアイゼンの制止を振り切って、ライフィセットがベルベットを追い、他の者達も追いかける。

ロクロウは剣の対魔士と戦い、ベルベットは側に居た対魔士を薙ぎ払う。

ベルベットはアルトリウスを睨み、

 

「……神依≪カムイ≫じゃ、あたしをとめられないわよ。」

「問題ない。切り札は別にある。」

 

そう言って、導師アルトリウスの前に光が現れる。

斬り合いをしていた剣の対魔士を見て、

 

「時間だ。下がれ、シグレ。」

「野暮言うな。興が乗ってきたとこだ。」

「巻き込まれれば、お前でもただではすまんぞ。ベルベットの相手は、カノヌシがする。」

 

剣の対魔士が後ろに飛び、導師アルトリウスの横に着地する。

ライフィセットがベルベットの前で手を広げて、光を睨む。

光が辺りを包み、収まる。

そこには一人の少年聖隷が現れる。

 

『さて、お前たちの選択を見せて貰おう。』

 

裁判者は彼らを見据える。

その聖主カノヌシを見て、ベルベットは目を見開く。

 

「なっ‼?」

 

聖主はニット笑い、

 

「久しぶりだね、お姉ちゃん。」

「ラフィ……‼」

 

ベルベットは瞳を揺らす。

エレノアも眉を寄せ、

 

「ベルベットの弟⁉」

「こう来たか。」

 

マギルゥも眉を寄せた。

聖主カノヌシは彼らを見て、

 

「そう。僕はライフィセット・クラウ。そして、鎮めの聖主カノヌシ。」

「うそ……なんでカノヌシが……」

 

ベルベットが一歩下がる。

そこにアイゼンが聖隷術を聖主カノヌシに当てる。

が、それは簡単に防がれる。

 

「やるなら覚悟を決めろ!こいつは敵だ!」

 

アイゼンがベルベットを睨む。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「……わかってる!こんなの……前と同じ幻覚よ!全部喰らってやる‼」

 

そう言って、斬りかかる。

聖主カノヌシは目を細め、

 

「お姉ちゃん、そうやって今まで無理してきたんだね。」

「だまれ!ラフィの声で、しゃべるなぁっ‼」

 

だが、他の者達も応戦を始めるが、簡単に力に押される。

ベルベットは片膝を着き、

 

「はぁ……はぁ……」

「この力……本物の聖主なのか。」

 

アイゼンが睨む。

後ろで、王子が彼らを見て、

 

「そう、この方が鎮めの聖主カノヌシ様だ。」

「でも、なぜ?力は削ったはず……」

 

エレノアは眉を寄せる。

そこに剣の対魔士が、彼らを見て、

 

「喰魔をさらったことか?残念だが、ちょいと遅かったな。しっかし、裁判者とやらから聞いてなかったのか?カノヌシ覚醒に必要なのは、喰魔が喰らった穢れの“量”じゃねぇんだよ。」

 

その言葉に、ベルベット達は眉を寄せる。

裁判者は拘束されたまま、

 

「教える道理がないのでな。」

 

導師アルトリウスも彼らを見て、

 

「八つの“質”だ。貪婪、傲慢、愛欲、逃避、利己、執着。お前たちが喰魔を引きはがす前に、すでにその内六つは得ていた。あとは――ベルベットの中にある、“残る二つ”を得ればカノヌシは完全覚醒する。

「地脈を通して吸い取るまでもないね。直接喰べちゃおう。」

 

そう言って、聖主カノヌシはベルベットに手を伸ばす。

だが、ロクロウが大刀を抜き、

 

「させるかよっ!」

 

そして振り上げる。

だが、聖主カノヌシも剣を創りだし、ロクロウの剣を簡単に弾く。

そして何度か受け流し、ロクロウの剣を折った。

聖主カノヌシは冷たい瞳で彼を見て、

 

「邪魔しないでよ。弱いクセに――」

 

そこにベルベットが聖主カノヌシに剣を突き刺した。

そしてフラフラしながら後ろに下がっていく。

聖主カノヌシはその傷を見て、

 

「……痛い。」

「全部幻だ。」

「痛いよ、お姉ちゃん。」

「うるさい、黙れっ‼」

「お姉ちゃんは僕を殺すの?」

 

ベルベットは叫びながら、剣を振り上げる。

 

「消えろッ!消えろッ!消えろ〰ッッ‼」

 

そして斬り裂き、剣を再び突き刺す。

聖主カノヌシは眉を寄せて、ベルベットを見る。

 

「……僕は、ずっと苦しかったんだ。」

 

ベルベットは剣を抜き、後ろに下がる。

そして自分の手についている聖主カノヌシの血を見て震える。

 

「体が弱いせいで迷惑ばかりかけて……やっぱりお姉ちゃんは……僕が消えた方がいいって思ってた?」

 

ベルベットは泣きながら、聖主カノヌシを抱きしめた。

 

「ああ……ああ……そんなはずない……生きてて欲しかった。側にいて欲しかった。なのに、あんなことになって……仇を討たなきゃて……あんたのために、あたしは……喰らって……殺して……」

「よかった。」

「ごめん……ごめんね、ラフィ……!痛かったよね。」

 

そしてライフィセットに振り返り、

 

「フィー!この子の傷を治してっ‼」

「でも、そいつは……」

「ライフィセットよ‼あたしの……弟だよっ‼」

 

そう言って、ベルベットは再び聖主カノヌシを見る。

聖主カノヌシは瞳を閉じ、

 

「……でもね、僕は仇討ちなんて望んでないんだ。だって、そういうエゴこそが穢れを――業魔≪ごうま≫を生む元凶なんだから。」

「え……⁉」

「だから、僕はアーサー義兄さんを手伝って鎮めるんだ。この世界の“痛み”を。お姉ちゃんみたいな“醜い穢れ”をね。」

「醜い……穢れ……」

 

ベルベットは瞳を揺らす。

導師アルトリウスはベルベットを見て、

 

「覚醒したカノヌシは、すべての業を鎮め、人を穢れを生まぬ存在に変えてくれる。」

「業を喰われたら、俺は俺じゃなくなっちまうんだが?」

 

ロクロウは導師アルトリウスを睨む。

アイゼンが眉を寄せ、

 

「それをやるってことだろう。聖隷から意志を奪ったようにな。」

「だが、痛みのない穏やかな世界が訪れる。」

「人の意志を消すことが、あなたの目的だったのですか!」

 

エレノアも眉を寄せて、導師アルトリウスを見る。

彼はエレノアを見て、

 

「対魔士であるお前も、感情のままに我らを裏切った。こうするしかないのだ。」

 

エレノアは顔を伏せる。

聖主カノヌシは瞳を開き、

 

「業魔≪ごうま≫のいない優しい世界をつくる――それが僕の夢なんだ。安心して、この傷だってすぐ治るんだ。お姉ちゃんを喰べればね。」

 

そう言って、手を広げるとベルベット達の足元に魔法陣が浮かび、そこが飲み込まれ始める。

王子は魔法陣の外だったが、目を見張る。

エレノアが眉を寄せ、

 

「これは⁉」

「裁判者と同じ……いかん、喰われるぞ!」

 

マギルゥが叫ぶ。

ベルベットは聖主カノヌシに手を伸ばし、

 

「待ってよ……あたしは、ずっとあんたのためにって……なのに……こんなのって……」

「ありがとう。だからこそ、ちゃんと償わないとね。ずっと無意味に、みんなを傷つけてきたんだから。」

「そんな……ラフィ……」

「ベルベット‼」

 

ライフィセットが皆を守るように力を使った。

それは結界のようなものだ。

そして彼らは飲み込まれた。

導師アルトリウスは目を細め、

 

「……邪魔が入ったな。」

「けど、地脈には取り込んだ。追いかけるよ。」

 

そう言って、彼も消えた。

剣の対魔士は導師アルトリウスを見て、

 

「ただ硬ぇだけじゃダメなんだよなぁ。それじゃ、弾みでポッキリ折れる。」

「……私に言っているのなら、試してみるか?」

 

導師アルトリウスは横目で彼を見る。

彼は笑いながら、

 

「いいや、待ってやるよ。お前とカノヌシの神依≪カムイ≫が完成するまでな。」

「導師アルトリウス、あなたという人は……」

 

王子が眉を寄せて、導師アルトリウスを見る。

導師アルトリウスは皇子を見て、

 

「すべては計画通りです。王都へ戻りましょう、殿下。」

 

そして拘束された裁判者を見て、

 

「お前も来てもらうぞ、裁判者。」

 

裁判者は瞳を閉じ、

 

「いや、選択は見せて貰った。しかし、まだ見ていない者がいる。それに災禍の顕主の“憎悪”と“絶望”を、聖主カノヌシが喰えるかどうかは決まってはいない。そして、お前達に付き合うのはここまでだ。」

 

そう言って、瞳を開く。

真っ赤に光る瞳で、力を籠め、拘束の術式を壊す。

立ち上がり、導師アルトリウスを見て、

 

「王子はお前に預けておこう。だが、クローディンの術式を使うのは良かった。だが、“二人のライフィセット”を前に使っては何の意味もない。何せ、今のお前達で捕らえられるのは、今の私だけだ。カノヌシの覚醒が成功したとき、誰もお前に歯向かう者がいなければ、その時の敵は災禍の顕主でも、国民でも、聖隷でも、業魔≪ごうま≫でもなく、聖主でもなく、私たちだろうな。導師アルトリウス、それを忘れるなよ。」

「お前自身がこの情報を渡しておいてか。」

「そうだ。これとそれとは別の話。あそこは私たちの生まれた場所にして、私たちはあそこの番人だからな。」

 

裁判者は赤く光る瞳で、彼らを見て影の中に入って行く。

 

裁判者地脈を辿り、

 

「聖主カノヌシは本格的に動き出した。大地を器として。さて、ここまで来たのだから、少しだけ手助けしてやるか。」

 

裁判者はいくつかの球体を飛ばす。

 

「……いくつか邪魔が入ったか……だが、真実を見極めろ、心ある者達。」

 

そして裁判者は悲鳴を聞いた。

そこに降り立つ。

そこは空中に浮かぶ遺跡。

 

「あ奴らは、儂らとは違う……悩み、苦しみ、それでも己が鼓動を抱きしめて……この醜い世界を懸命に“生きて”おるんじゃ!」

 

マギルゥの声が聞こえた。

裁判者はその声の元に行く。

 

「……マギラニカ……」

 

裁判者がは柱の上に立ち、下を見る。

そこには老人対魔士の攻撃に耐えるマギルゥの姿。

裁判者は短剣を投げ、老人対魔士に向かって投げる。

彼が一歩下がり、裁判者を見る。

マギルゥが地面に膝を着き、

 

「……裁判……者……」

 

裁判者を弱弱しく見上げる。

老人対魔士は裁判者を見て、

 

「どうやってあの術を解いた。」

「お前達は解っていなかったと言うことだ。これは貰っていくぞ。」

 

裁判者はマギルゥの横に降り、彼女を抱き上げる。

老人対魔士は髭を摩り、

 

「それにまだ未練があるか、裁判者。」

「さあな。だが、これは自称、私の“友”らしいからな。もう少しだけは実験台に使わせてもらう。」

 

横目で彼を睨む。

マギルゥは裁判者を見上げた。

裁判者は下に居るノルミン聖隷ビエンフーを見て、

 

「よくこれを守ったな。それに、あいつらはどうやら打ち勝ったようだ。」

 

そして地脈点の穴を見る。

そこから炎が吹き荒れ、老人対魔士を飲込む。

裁判者と抱き上げたマギルゥの前にベルベット達が現れる。

 

「……ひょっとして、いいところに来た?」

 

ベルベットが横目でお姫様抱っこされてるマギルゥを見る。

マギルゥは弱弱しく笑い、

 

「遅いわ!おかげでいらんことを口走ってしもうた。」

「アンタも、やっぱり無事だったのね。」

 

ベルベットは横目で見たまま、裁判者を見る。

裁判者も横目で彼らを見て、

 

「お前も、真実を知れたようだな、ちゃんと。」

「ええ。おかげさまで。」

 

ベルベットは小さく笑う。

老人対魔士はベルベット達を見て、

 

「カノヌシとは出会ったな。ならば、お前の復讐には意味がないとわかったはずだ。」

「ええ、よくわかったわ……世界の悲しみ理由も、人が背負った業の深さも。アーサー義兄さん――そしてラフィは、すべてを捨てて、その悲劇を終わらせようとした。それが……あの人たちの願いなのね。」

 

ベルベットは俯く。

老人対魔士は髭を摩り、

 

「そうだ。よくわきまえた。」

「でも、だから許せない。あの二人……アルトリウスとカノヌシが。矛盾した醜いエゴだってわかってる。けど、あのあったかい日々は、あたしが――あたしたち家族が生きた証だったのよ。だから、どんなに苦しくても悲しくても、あたしは、この“復讐”をやりとげる。」

 

そう言って、顔を上げる。

ライフィセットは嬉しそうに見上げ、

 

「ベルベット‼」

 

裁判者は彼らを見据え、

 

「……心ある者達が心を失えば、それはただの人形。文明は滅び、世界は破滅をもたらす。では、何故お前達は感情を持つのだろうな。」

 

裁判者は小声で言う。

マギルゥも彼らを見て、

 

「それが、“生きる”ということだからじゃよ。おそらくな。」

 

マギルゥも小さく呟いた。

老人対魔士は眉を寄せて、

 

「ふざけるな!潔くあきらめて死ね!絶望こそが、お前の宿命なのだ!」

「家族を奪って、体を化物にして、今度は“心”をよこせって……?そっちこそふざけるなッ!」

 

ベルベットは左手を構える。

 

「覚えておきなさい。災禍の顕主は、死んでもあきらめないのよ。」

「己が業を恥もせず、よくも……!」

 

老人対魔士はさらに眉を寄せる。

マギルゥはその姿を見て、

 

「くくく、あ~はっはっはっは‼」

 

そして裁判者から降り、

 

「儂も混ぜい!賭けに負けた八つ当たりじゃ♪」

「いけるの?そんなザマで。」

「だれに向かって言っておる!自分で言うのも楽しいが、地獄の沙汰もノリ次第!正義の対魔士を蹴散らす悪行無道の魔法使い。マギルゥ・メーヴィンとは、儂のことじゃ!」

 

そう言って、構える。

ベルベット達も老人対魔士に構える。

 

「痴れ者どもが‼」

 

と、老人対魔士も構える。

マギルゥは術を展開しながら、

 

「皆の者!心配かけてすまんの~♪」

「別にしてない。」

「心配されるようなタマか。」

「だよな。」

「これも、ある意味の信頼ですよ。」

「うん。」

 

と、マギルゥを置いて、攻撃を仕掛けながら、各々言う。

マギルゥは術を力強く発動し、

 

「この恩知らずども~!のう、裁判者!」

「知らん。」

「むむ~!別の意味でチクチクじゃわっ!」

 

裁判者はそっぽ向く。

マギルゥは腕を上げて怒る。

そうこうしてる間に、ベルベットが老人対魔士達を薙ぎ払ってしまった。

 

「あ!……儂の八つ当たりが~……」

 

肩を落とすマギルゥ。

老人対魔士は膝を着き、

 

「ぐうう……」

「アルトリウスとカノヌシに伝えなさい。あんたたちは、あたしの大事なものを奪った。絶対に許さないって。」

 

ベルベットは老人対魔士を睨む。

彼は膝を着いたまま、

 

「……歴史には度々お前のような悪が出現する。欲望のままに世を乱し、混乱と災厄を撒き散らして省みない穢れの塊。始末に負えぬ人の業を体現した“魔王”がな。」

「災禍の顕主ね。」

「対魔士が討つべき世界の敵だ。」

 

老人対魔士は立ち上がった。

アイゼンは彼を睨み、

 

「よく喋るな。ついでにアイフリードの居場所も吐いてもらおうか。」

「後悔するぞ。」

 

二人は睨み合う。

裁判者は目を細める。

そしてライフィセットもそれに気付き、

 

「カノヌシの気配だ!迫ってくるよ!」

「今戦うのは不利です!」

 

エレノアも眉を寄せる。

マギルゥがビエンフーを見て、

 

「ビエンフー、裂け目を閉ざせぃ!」

「無理でフよ~⁉」

 

彼は悲鳴を上がる。

裁判者はマギルゥを見て、

 

「閉じるのはまだ早い。」

「は?」

 

マギルゥが眉を寄せる。

老人対魔士が空間を操り、

 

「出でよ!」

 

一体の業魔≪ごうま≫を呼び出す。

アイゼンがハッとしたのもつかの間、そこに銃が撃たれてる。

老人対魔士と業魔≪ごうま≫は裂け目の中に吸い込まれる。

 

「ぐあああっ!」

 

それを見た裁判者は指をパチンと鳴らし、裂け目を閉じる。

ベルベット達が振り返ると、

 

「油断大敵だぜ。」

 

銃≪ジークフリード≫を構えた風の聖隷。

ライフィセットが驚きながら、

 

「ザビーダ!」

「……邪魔してくれたな。」

 

アイゼンが風の聖隷を睨む。

風の聖隷は眉を寄せ、

 

「あ?『助けてくださってありがとうございます』だろうが。」

 

アイゼンは彼に近付く。

ライフィセットが風の聖隷を見上げて、

 

「助けてくれて、ありがとう。」

「ここは、どこなのですか?」

 

エレノアが風の聖隷を見る。

彼は腰に手を当てて、

 

「カースランドって島にある聖寮の施設だ。メルキオルが管理してると聞いて忍び込んだんだが、まーさか術で隔離された空間とはな。」

「外に出る方法は?」

「出口はあるぜ。俺がこじ開けたやつがな。」

「一旦外に出ましょう。話はそれからよ。」

 

そう言って、彼らは歩き出す。

そしてライフィセットは振り返る。

 

「あ……」

 

そこには一人の少年聖隷がいる。

アイゼンが腕を組み、

 

「あいつは……?」

「知り合い。一号っていうんだ。」

 

ライフィセットが答える。

そこに風の聖隷が近付き、膝を着く。

 

「よう、一緒に行くか?独りでこんな場所にいたらドラゴンが出るかもな?襲われたら嫌だろ。」

「……うん。怖い。」

「よっし!なら、ついてこい!」

 

彼は立ち上がる。

アイゼンが彼を見て、

 

「なにを考えてる。」

「放っておけねーんだよ。器ぐらい俺がなんとかするさ。」

「……勝手にしろ。」

 

そう言って、歩き出す。

 

 

歩きながら、マギルゥはルンルンでベルベットに近付き、

 

「ベルベットや、調子はどうじゃ?」

「問題ないわ。……あんたにも世話になったみたいね。」

「なんの。柄にもない礼なぞ、どーでもいいから、ちょっと『あーん』してみぃ。」

「は?」

「そう、歯じゃよ!儂はお主の牙が折れる方に100ガルド賭けたじゃろ?ゆえに、お主の牙が折れたかどうか確認せねばならん。坊よ、出番じゃぞ。」

 

と、マギルゥは指を立てて、ライフィセットを見る。

ライフィセットは頷き、

 

「うん。糸切り歯を確認すればいいんだよね?」

「そう、人間の牙といえば、犬歯こと糸切り歯じゃ。しっかりばっちり見極めるのじゃぞ。」

 

ニヤニヤ笑うマギルゥに、ベルベットが呆れたように、

 

「そういう具体的なことじゃないでしょ?しかも、なんでフィーにやらせるわけ⁉」

「なんじゃ、乙女の純情かえ?確かに、口の中を見せるのは、ある意味ハダカより恥ずかしいという説があるが。」

 

マギルゥはベルベットを見据える。

ライフィセットは驚き、

 

「ええっ、そうなの⁉」

「そんなこと言われたら変に意識するでしょ!」

 

ベルベットはマギルゥに怒鳴る。

マギルゥはニヤリと笑い、目を光らせ、

 

「ホレホレ、見せるのか?見せぬのか?判定できなければ、結果は確定できぬぞよ~♪」

「……わかった。牙が残ってる証拠は、あたしの左手でみせてあげる。」

「うむ!それは、ビエンフーに確かめてもらうかのー。」

 

そう言って、マギルゥはビエンフーを掴み、ベルベットに投げた。

ビエンフーは泣きながら、

 

「こ、ここでボクでフか~⁉フ条理極まりないでフ〰‼」

 

そして喰魔手でない左手で彼を掴む。

 

「ビエ〰!ニギニギされるでフ~!すっごくバキバキでフよ〰‼」

 

それを見たエレノアは小さく笑い、

 

「ベルベット、もう大丈夫みたいですね。」

「ああ、目が生き返った。だが……口の中を見せるのは、そんなに恥ずかしいのか?」

「な……⁉デリカシーの無いこと聞かないでください!」

 

と、ロクロウに怒りだしていた。

マギルゥが眉を寄せ、

 

「この際、裁判者でも構わぬ!さぁ、ベルベットの口の中を――」

「断る。賭けはお前の負けだ。」

「なんじゃと⁉お主、見たのかえ!」

「見なくても解る。」

「ホントかえ?」

 

ジッと裁判者を見るマギルゥ。

裁判者は無言で歩いて行く。

マギルゥは手を上げて、

 

「こりゃー、裁判者!どっちなのじゃ!」

 

と、追いかけて来た。

それを見て、ロクロウが思い出したかのように、

 

「そういや、マギルゥ。俺たちが地脈をさまよってた時、お前は、なにをやってたんだ?裁判者にお姫様抱っこまでされて。」

「鐘を鳴らしておったのじゃよ。聞きっぱなしの地脈の裂け目から聞こえなかったかえ?」

 

マギルゥが嬉しそうに言う。

エレノアが顎に指を当てて、

 

「鐘なんて、どこにもなかったと思いますが?」

「姐さんはメルキオル様と戦ってたんでフよ~!姐さんは……とってもがんばったでフ〰‼」

 

と、ベルベットの手から解放されたビエンフーが泣きながら言う。

マギルゥは呆れ顔で、

 

「こりゃ、ビエンフー!そんな言い方をすると、こやつらが勘違いするではないか!」

「だって、ずっと耐えてたじゃないでフか!ボクは……ボクはカンゲキしたでフ……」

「ああ、耐えた耐えた♪笑うのを必死での~。」

 

と、マギルゥは笑う。

ロクロウがマギルゥを見て、

 

「あのジジイから笑い話でも聞かされたのか?」

「にらめっこをしておったのじゃ。昔から、あのジジイはジジイの顔でのー。若い身空から、ああまで老け顔じゃったかと思うと、笑いがこみ上げてたまらん。儂もまだまだ修行が足らんでの。百と八つの笑いの発作を、鐘の音で砕いておったのじゃ。バリーン、グシャーンと、景気よくの~!」

 

と、クルクル回る。

ライフィセットが眉を寄せ、

 

「もしかして砕けたのってマギルゥの……」

「儂がジジイへの恋に破れて乙女心が砕けた……などとあさっての同情をするのでないぞえ?」

「そんな妄想してないよ⁉」

 

ライフィセットは目を見張る。

エレノアは手を握りしめ、

 

「……あなたが、地脈の裂け目を守ってくれたのですね。」

「違うと言うておろうに!勝手に儂が『がんばったで賞』を授けるでない!」

「受け取っておきなさい。どうせどーでもいいでしょ?でないと、裁判者になるわよ。」

「いらん。」

 

裁判者は即答だった。

が、立ち止まる。

マギルゥがそこにぶつかり、

 

「なんじゃ、いきなり!」

 

裁判者はクルッと回ると、

 

「頑張ったな。」

 

と、そう言って再び歩き出す。

マギルゥは目をパチクリし、ベルベットがマギルゥを見て、

 

「みたいよ。」

 

ベルベットがマギルゥを見て笑う。

マギルゥは笑みを浮かべ、

 

「……ま、そうじゃの♪そういう事にしとくわい。」

 

そう言ってベルベット達も歩き出す。

しばらく歩き、裁判者は再び止まる。

ライフィセットが裁判者の前を見て、

 

「ドラゴン!」

「……捕まってるみたいね。喰魔と同じように。」

 

ベルベットが眉を寄せる。

そこには中に囚われているドラゴンの姿。

エレノアも眉を寄せ、

 

「なんのためにそんな……?」

「ふうむ、地脈に繋がる術が動いているようじゃ。儂らがここに飛び出したのも、そのせいじゃろうて。」

 

マギルゥがドラゴンを見据える。

ライフィセットがマギルゥを見て、

 

「地脈……つまりカノヌシと関係してる?」

「そう考えるのが自然じゃな。」

 

マギルゥが頷いた。

風の聖隷が腕を組み、

 

「話が見えねぇよ。説明しろ。」

「いいわ。あんたも無関係じゃない。」

 

ベルベットが風の聖隷を見る。

そしてライフィセットと少し話して、風の聖隷に説明した。

 

「……なるほど、カノヌシの正体はわかった。で、あんたは、それでも戦うのかい?」

「だからこそ、導師と聖主を殺す。」

「……怖えぇ女だな。」

 

ザビーダは笑みを浮かべる。

ロクロウは腕を組み、

 

「ひとつ疑問があるんだが。カノヌシは穢れを喰らって目覚め、その力で人の業を鎮めるんだよな。で、人が穢れを生まなくなったら、カノヌシはどうなるんだ?」

「食べる物がなくなって……死ぬ?」

 

ライフィセットは首を傾げる。

エレノアも顎に指を当てて、

 

「いえ、再び眠りにつくのでは?」

「だがそれじゃ、カノヌシの力が消えて、人間は、また穢れを生むだろう?」

 

ロクロウが腕を組んだまま言う。

ベルベットが裁判者を見る。

 

「どうなの、裁判者。」

「何故、私に聞く。」

「アンタは前に言ったわ。真実とやらの事を。」

「……だが、全てを全て聞くのは道理ではない。故に、まずは考えてみろ。」

 

裁判者は横目で彼らを見る。

ライフィセットは考え込み、

 

「カノヌシに、ずっと業を鎮めさせるには……」

「穢れを喰わせ続ければいい。例えば、不死身のドラゴンが発する強力な穢れを。」

 

ベルベットはハッとする。

アイゼンが眉を寄せ、

 

「ここは、人間を制御し続けるための“ドラゴン牧場”というわけか。」

「まさか⁉」

 

エレノアが目を見張る。

マギルゥは真剣な表情で、

 

「あくまで仮設じゃが、辻褄は合うのう。」

「とことん聖隷を道具にしやがって。」

 

風の聖隷も怒りだす。

エレノアは眉を寄せ、

 

「平穏な世界のために、一体どれだけの犠牲が……」

「解放するわけにはいかないわよ。危険すぎる。」

 

ベルベットは風の聖隷を見る。

彼をベルベットを見て、

 

「……わかってる。やってくれるぜ、対魔士ども。」

 

そしてドラゴンの前を歩いて通り抜ける。

エレノアは歩きながら俯き、

 

「私の信じていた聖寮はなんだったのか……。足元から崩れていくようなことばかり……。」

「エレノア様、元気だしてくださいでフ……。ボクも元気なくなるでフ~……」

 

ビエンフーもエレノアの横で落ち込んでいた。

ライフィセットは眉を寄せ、

 

「ドラゴン牧場のこと?」

「はい……聖寮といえど、ドラゴンを思いのままに操って導くことは不可能なはずです。つまりあのドラゴンは――」

「ここに来るまでは、ドラゴンじゃなかった⁉」

 

ライフィセットが目を見張る。

アイゼンが腕を組み、

 

「そう考えるのが自然だな。おそらく聖隷を拘束し、その後ドラゴンに変えたんだろう。」

「……前にメルキオルの野郎がやったようにか。どこまでも聖隷を踏みにじりやがって!」

 

風の聖隷が拳を握りしめる。

エレノアは眉を寄せ、

 

「言葉もありません……」

「エレノア様のせいじゃないでフよー……」

 

ビエンフーはさらに落ち込むエレノアに声を掛ける。

マギルゥは顎に指を当てて、

 

「しかし、喰魔だけでなくドラゴンまで生み出すとは……そのうち人間を生む方法を発見するかもしれんのー。どこかの誰かさんみたいだのー。」

「……はい。」

 

エレノアはそのまま頷く。

裁判者は横目でエレノアを見る。

エレノアは焦り出し、

 

「あ!いえ!その!マギルゥ!それはわかってるでしょ⁉」

「さあの~。」

 

と、マギルゥはどんどん歩いて行った。

そして風の聖隷が開けたと言う穴に入ると、島に出た。

ライフィセットは笑顔で、

 

「出られた!」

「俺の乗ってきた船がある。島の南東の浜だ!」

 

そう言って、風の聖隷は駆け出す。

一向も駆け出す。

だが、裁判者の瞳に、時空の裂け目が生まれ、そこから穢れの球が打ち出されたのを見た。

 

「注意しろ、でないと穢れるぞ。」

「何⁉」

 

だが、その穢れの球は小さな聖隷に当たる。

そして吹き飛ばされ、倒れ込む。

彼らは立ち止まる。

 

「ああっ⁉」

 

ライフィセットは彼を見る。

ベルベット達は構え、

 

「なんだ⁉」

「ふふふ、昔よく鬼ごっこしたよね。」

 

そこに子供の声が響く。

その声の方を見ると、聖主カノヌシがいた。

 

「逃がさないよ、お姉ちゃん。」

「カノヌシ!」

 

ライフィセットは眉を寄せる。

穢れ球が当たった小さなは穢れに包まれる。

 

「ああ……や……っ!怖い……よぉ……!」

「やめて!この子がドラゴンに!」

 

エレノアが眉を寄せる。

聖主カノヌシは目を細め、

 

「そうするつもりでテレサから取り上げたんだ。“それ”も、鎮静に必要な犠牲なんだよ。」

 

そして穢れの球に当たった小さな聖隷は頭を抱えて、ドラゴンとなった。

咆哮を上げる。

アイゼンは聖主カノヌシを睨み、

 

「カノヌシ、てめぇ!」

「前門のカノヌシ、後門のドラゴン……死神や邪神より質が悪いのう。」

 

マギルゥが目を細める。

聖主カノヌシは小さく笑い、

 

「“絶望”するには丁度いいでしょ。」

「勝手に決めるな。」

 

ライフィセットは聖主カノヌシを睨む。

ベルベットも眉を寄せ、

 

「あんたのお姉ちゃんは、この程度じゃ折れないのよ。」

「……抵抗すると苦しむことになるよ。」

 

聖主カノヌシは眉を寄せる。

風の聖隷が一歩前に出て、

 

「ベルベット。こいつの仕置きは、俺にやらせろ。」

「無理だよ。ただの聖隷には。」

「“ただ”のじゃねぇ。」

 

そう言って、銃口を自分の頭に当て、撃つ。

 

「下衆野郎にブチ切れた!」

 

そう言って、もう一回頭に銃口を向けて討つ。

 

「限界突破の‼」

 

さらにもう一発頭に撃ち込んだ。

そして聖主カノヌシを睨み、

 

「ザビーダ様だッ‼!」

 

彼は竜巻を起こし、聖主カノヌシを吹き飛ばす。

そして自分も駆けて行く。

 

「ザビーダ‼」

 

アイゼンが駆けて行く彼を見る。

裁判者はそれを見て、

 

「無茶をするな……さて、こっちも動き出したな。」

 

ドラゴンが咆哮を上げ、ベルベット達に近付く。

ロクロウが剣を構えて斬りかかる。

 

「ええい、大騒ぎすぎる!」

「問題ない!各個撃破よ!」

 

ベルベットも攻撃を仕掛ける。

エレノアも駆け出し、

 

「私の器が、もっと大きければ……」

「後悔はあとだ!集中しないと死ぬぞ!」

 

アイゼンがエレノアを追い越して言う。

ロクロウも攻撃をしながら、

 

「応!ひと思いに殺してやるのが情けだ!」

「できれば、な。」

 

裁判者は攻撃を仕掛けている彼らを見る。

ドラゴンは攻撃を受けても、穢れを吸い込み、回復する。

マギルゥが腕を上げて、

 

「はりきって回復しとるぞ~!」

「一気に押し切らないと勝てんな。」

 

ライフィセットが気配に気付いて、振り返る。

そこにボロボロになった風の聖隷と、聖主カノヌシの姿。

聖主カノヌシはベルベット達を見て、

 

「だから苦しむと言ったのに。」

「ザビーダ……」

 

アイゼンが眉を寄せる。

ライフィセットは考え込み、

 

「僕が、カノヌシを防ぐ。みんなはドラゴンを追い詰めて。」

「一人なんて無茶です!せめて私も一緒に――」

「これは命令じゃないよ。僕の策戦。」

 

そう言って、聖主カノヌシの元に歩いて行く。

裁判者は彼の方に近付き、二人のライフィセットの戦いを見る。

聖主カノヌシはライフィセットを見下ろし、

 

「ずいぶん格好つけるね。僕の一部のクセに。」

「僕は、聖隷ライフィセット。」

 

ライフィセットは光の球体を創りだす。

 

「僕は僕だよ!」

 

その球体を聖主カノヌシに撃ち込む。

彼はそれを簡単に破壊し、

 

「……手加減はなしだ。さっきはそれで手こずっちゃったからね!」

 

二人の攻防戦が繰り広げられる。

裁判者は横目でドラゴンと戦っている彼らを見る。

ドラゴンが倒れ込む姿だ。

だが、再び穢れを吸い、回復を始める。

そして再び立ち上がる。

裁判者は視線を二人のライフィセットに戻す。

彼らの戦いは聖主カノヌシの方が有利だ。

ライフィセットは聖主カノヌシの攻撃に吹っ飛ばされる。

それでも、彼は立ち上がる。

言い争いをしながら、攻撃を防御する。

彼は剣を突き出す聖主カノヌシの前に羅針盤を突き出す。

彼は目を見張り、羅針盤に突き刺さり壊れる。

そしてライフィセットは左手で、彼を殴った。

聖主カノヌシは吹き飛ばされる。

ライフィセットは聖主カノヌシを見て、

 

「ベルベットはベルベットだ!」

「僕の欠片のくせに!」

 

聖主カノヌシは拳を握りしめ、攻撃を放つ。

ライフィセットはベルベット達を見て、

 

「みんな避けて!」

 

その攻撃はドラゴンに当たる。

ドラゴンは咆哮を上げ、炎を聖主カノヌシにぶつけた。

ドラゴンは倒れ伏す。

 

エレノアはライフィセットを見て、

 

「相討ちを狙ったのね。」

「先に言えぃ!全討ちになるとこじゃったわー!」

 

マギルゥがライフィセットを指差して怒る。

聖主カノヌシはライフィセットを見て、

 

「よくも……やった……な……。代わりに、お前をドラゴンにしてやる!」

 

穢れの球がライフィセットを直撃する。

 

「ぐうう……‼」

「ライフィセット‼」

 

ベルベットが叫ぶ。

裁判者はジッと彼を見て、

 

「さぁ、自分を手に入れた聖隷よ。自身の力を解放しろ。」

 

マギルゥが裁判者を見据える。

そしてライフィセットは手を広げて、

 

「うあああ――っっ‼」

 

彼を銀色の炎が包む。

聖主カノヌシは眉を寄せ、一歩下がりながら、

 

「なんだこれ⁉ひ……あぁあぁぁっ‼」

「穢れを焼いた⁉」

 

ベルベットが目を見開く。

アイゼンが倒れ込むライフィセットを担ぎ、

 

「退くぞ!急げ!」

 

アイゼンが駆け出す。

そしてロクロウが風の聖隷を担ぎ、走り出す。

他の者達も走り出す。

裁判者は倒れ込むドラゴンと聖主カノヌシを見て、

 

「さて、これで揃った。」

 

裁判者は空を見上げ、

 

「お前も、自分を見失うよ、アイフリード。」

 

彼を追って、走り出す。

 

 

近くの港に尽き、裁判者は彼らの船に降り立つ。

 

「裁判者!」

「いやはや、乗って来ん時は迷ったが、出て正解じゃの。しかし、坊の穢れを焼く炎……とんでもない力を持っておるのう。」

 

マギルゥが裁判者を見据える。

裁判者は黙り込む。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「この子がカノヌシの一部だから?」

「じゃろうな。最高の切り札じゃが、同時に……」

 

マギルゥは冷たい笑みを浮かべる。

そして裁判者はライフィセットの元に行く。

彼に手を当て、

 

「これは答えを出したお前への褒美だ。」

 

彼を回復させる。

そして隣で倒れている風の聖隷を見て、

 

「ついでだ。あそこまでやりとげた、な。」

 

彼にも回復をかける。

そして再びベルベット達のとこに行くと、

 

「カノヌシを封じてアルトリウスを討つ。カノヌシが覚醒したということは、封印する方法もあるはずよ。」

「やはり手がかりはグリモワールの古文書ですね。ベンウィックたちと合流しましょう。そうですね、裁判者。」

 

ベルベットがそう言って、エレノアもそれに付け足し、裁判者を見る。

裁判者は彼らを見て、

 

「バンエルティア号に戻れたら、考えておこう。」

 

裁判者は彼らから離れていく。

ベルベットの横を通るとき、小声で、

 

「穢れが漏れ出しているぞ。だが、決めたお前に褒美を一つやる。」

「褒美……?」

「お前の中に居る姉と聖隷に向き合える時間だ。」

「……!アンタ!」

 

ベルベットが裁判者を睨む。

裁判者はすでに歩き出していた。

 

翌日、裁判者は出航する彼らの船の上に降りる。

 

「おお、お主も来たか。」

「ああ。見極めにな。」

 

裁判者はアイゼンを見据える。

アイゼンは裁判者を睨む。

 

それからしばらく裁判者は船の手すりに乗り、風に当たっていた。

 

「出遅れたな。」

 

島の前にはバンエルティア号が見える。

そして彼らはリオネル島に着くなり、駆け出した。

船員達が皆、倒れている。

小さな喰魔の少女がエレノアに駆けてきて、

 

「エレノア!」

「なにがあったのですか⁉」

「いきなりツノの業魔≪ごうま≫が襲ってきたの……」

 

と、泣き出した。

ロクロウが彼らを見て、

 

「かろうじて息はある。」

「ザビーダが駆けつけてくれたのよ。じゃなかったら全員殺されていたわ……」

 

グリモワールが歩いて来る。

アイゼンが眉を寄せ、

 

「……俺が迷ったせいだ。」

「なら、お前は答えを見つけろ。」

 

裁判者が彼を横目で見た。

そして裁判者は地面に手を着き、

 

「これはアイフリードの意志≪想い≫だ。」

 

裁判者を中心に魔法陣が浮かび、負傷している彼らを治療する。

彼らの傷は治る。

ベルベットはグリモワールを見て、

 

「あいつらは?」

「ザビーダが引きつけて、島の奥へ向かったわ。」

「行くぞ!」

 

アイゼン達は駆け出す。

小さな喰魔の少女は走り出す裁判者を見て、

 

「ねぇ、チャイバンシャ!」

「なんだ。」

 

裁判者は立ち止まる。

小さな喰魔の少女は大声で、

 

「マギラニカって誰?モアナを助けてくれた時に、叫んでいたでしょ。」

 

マギルゥが立ち止まり、耳を傾ける。

裁判者は小さな喰魔の少女を見て、

 

「……化け物に対して、初めて“友”といった人間の子供の名だ。」

「それって前に話してたお話の?なんでチャイバンシャがその名を呼ぶの?」

「……情を持ってしまったからかもしれないな。」

 

そう言って、走り出す。

マギルゥも小さく笑い、走り出す。

 

奥の岬に駆け付けると、風の聖隷はボロボロだった。

彼は角の業魔≪ごうま≫と戦っていた。

 

「ザビーダ!」

 

ロクロウが手を出そうとするが、

 

「やめろ!この拳は間違いねえ……こいつはアイフリードだ。」

「なぜやり返さない?」

 

アイゼンが風の聖隷を見る。

彼は拳を握り、

 

「こいつには……俺を“俺”に戻してもらった借りがあるからよ。今度は、俺が元に戻してやる番さ。」

「……業魔≪ごうま≫は、もう人間には戻らん。」

 

アイゼンは眉を寄せる。

ベルベットはライフィセットを横目で一度見た。

風の聖隷は銃≪ジークフリード≫を取り出し、

 

「だからって流儀を変えられるかよ……なぁ、アイフリード!」

 

それを頭に当てようとして、角の業魔≪ごうま≫に吹き飛ばされる。

銃≪ジークフリード≫が宙を飛ぶ。

彼は地面に叩き付けられる。

 

「ザビーダ!」

 

ライフィセットが眉を寄せる。

角の業魔≪ごうま≫は咆哮を上げながら、ライフィセットに炎に燃えた拳が襲い掛かる。

その拳がライフィセットに当たる瞬間、アイゼンが左手で受け止める。

 

「……子供まで狙うのか。ベンウィックたちは、共に命を張った仲間だ。ザビーダはバカだが、仁義を通した。」

 

その拳を受け止めたまま、引き戻していく。

 

「奴らの流儀を踏みにじる野郎は……てめぇでも許さねぇっ‼」

 

そして殴り飛ばす。

吹き飛んだ業魔≪ごうま≫の近くには、銃≪ジークフリード≫が落ちていた。

それを拾い自分に撃ち込んだ。

 

「意志を奪われても、お前は本能で……お前なのだな。」

 

彼の力が膨れ上がり、アイゼンと睨み合う。

アイゼンは業魔≪ごうま≫を睨み、

 

「お前には、でかい借りがある。それを今返すぜ、アイフリードッ‼」

 

アイゼンは業魔≪ごうま≫に殴りかかる。

彼らは互いに殴り合う。

そして業魔≪ごうま≫に、アイゼンが一撃を与えた。

彼は後ろに下がり、唸りを上げる。

 

「ここまでね。」

 

ベルベットが叫ぶが、業魔≪ごうま≫は駆け出し、アイゼン、ベルベット、ロクロウを交わし、ライフィセットの首を締め上げる。

そしてライフィセットを掴み上げ、ベルベット達に振り返る。

 

「フィー!」

「今度は人質か。」

 

ベルベットとアイゼンが業魔≪ごうま≫を睨む。

ライフィセットは業魔≪ごうま≫の腕に触り、

 

「ごめん……でも、かまわないで!僕だって……覚悟を決めてるよ……!」

「……わかった。お前はもう一人前の“男”だ。」

 

アイゼンがコインを投げ、握り込む。

そして業魔≪ごうま≫に近付き、

 

「……家族……仲間……かつて俺が掴もうとしたものは、みんな掌からこぼれ落ちちまった。だが、あるバカは『どうせ掴めないなら拳を握って勝ち取れ』と笑って言いやがった。……この拳で取り戻すぜ。お前の言った通りにな‼」

 

そしてアイゼンは拳を振るう。

ライフィセットがそれに合わせて、頭突きをして業魔≪ごうま≫から離れ、そこにアイゼンの拳が業魔≪ごうま≫の腹に直撃する。

それは業魔≪ごうま≫の腹を貫く。

裁判者は業魔≪ごうま≫に向かって歩き出す。

そして業魔≪ごうま≫がニット笑い、

 

「ああ……お前の拳だ……な……悪ぃ……面倒をかけちまった……」

「……いいさ。親友≪ダチ≫だからな。」

 

そして彼は崩れ落ちる。

アイゼンがそれを支える。

ライフィセットが駆け寄り、

 

「アイフリード‼」

 

だが、彼はすでに助からない。

裁判者はライフィセットの頭に手を置き、

 

「少しだけ、手伝ってやろう。」

 

ライフィセットの力が溢れ、銀色の炎が彼を包み、人の姿へと変わる。

マギルゥが眉を寄せ、

 

「業魔≪ごうま≫が人に戻った⁉裁判者!」

 

裁判者は横目で彼らを見るだけだった。

ライフィセットは海賊アイフリードに治癒術をかけるが、

 

「もういいぜ。無駄だ。」

「ごめん……僕が今の力を……ちゃんと使えれば……」

 

そして泣きながら、治癒術をかける。

アイゼンがライフィセットを見て、

 

「泣くな。覚悟……決めたんだろ?」

「でも……アイゼンはずっとアイフリードを捜してたんだ。」

 

海賊アイフリードは小さく笑い、

 

「ふっ……苦労性だなぁ、相変わらず。坊主、いいこと教えてやるよ……お前の力はカノヌシの一部なんだとさ。だから……もしヤツの領域を封じ込めれば、面白ぇケンカができるかもな。」

「領域を封じる?」

「地脈に眠る地水火風の四聖主……そいつらを叩き起こせば……。急げよ……今、アルトリウスとカノヌシは鎮めの儀式とやらで動けねぇ……出し抜くなら今……だぜ。」

「わかったよ、アイフリード。」

 

ライフィセットは涙を拭って、頷く。

海賊アイフリードは笑い、

 

「へっ……一緒に行けねぇのが残念だ……面白くなりそうなのに……よ……」

「詫びは言わんぞ。」

「当たり前だ……お前のおかげで退屈しなかった……」

 

海賊アイフリードは裁判者を見上げ、

 

「お前は裁判者……だろ。」

「ああ。」

 

裁判者は彼を見下ろす。

彼はニット笑い、

 

「お前の言う通りだったな……だが、そのおかげで俺はいい縁に導かれた。おかげで面白ぇ仲間に会えた。しかし、お前さん意外と普通の顔だったな……殴り合ってた時にはお前の仮面にすら届かなったが……最後に見れてよかったぜ。」

「……お前はやはり変わっているな、アイフリード。」

「ちがいねぇ!後は頼むぜ、あいつらを。」

「願いは叶えるさ。それが私の仕事だ。」

「アイゼン、おめぇもな。また……どっかで会ったら遊ぼうぜ……アイゼン……」

 

そして彼の胸に当てていた左拳が落ちる。

アイゼンは彼を見て、

 

「ああ。またな、アイフリード。」

 

そして瞳を閉じる。

彼の後ろに居た風の聖隷が立ち上がり、歩き出す。

 

「世話になったな、ザビーダ。」

「可能性はあったんだ。なのに殺しちまいやがって……。次に会った時は着けるぜ。てめぇの“流儀”との決着をな。」

「……またな、ザビーダ。」

 

そして彼らはアイフリードの墓を作り、船に戻る。

マギルゥは目を細め、

 

「四聖主を起こす……か。あやつ、面白いことを言っておったのう。」

「でも、どうやって?」

「さぁて、裁判者は教えてくれるかわからんし、それはグリモ姐さんにでも聞いてみれば――」

 

と、船に乗った瞬間、マギルゥは吹き飛ばされる。

 

「みんな!」

「回復したみたいね。ま、裁判者がなんとかしてたし、大丈夫だとは思ってたけど。」

 

ベルベットが腰に手を当てて、彼を見る。

彼は腕を組み、

 

「なんとか。それよりあの業魔≪ごうま≫は?」

「……倒したわ。あいつは――」

「俺から話す。お前達はグリモワールに四聖主の件を問い質せ。」

 

アイゼンはベルベットの言葉を遮り、船の仲間を呼び、集める。

裁判者はアイゼンの方に歩いて行く。

そしてアイゼンは海賊アイフリードの事を話した。

 

「船長‼」

 

船長達は泣き出た。

アイゼンは裁判者を睨み、

 

「裁判者、アイフリードの願いとは何だ。」

「『船の仲間に未来を繋げて欲しい』。己の意志を、自らで考え行動し、未来を掴み取れ。その意志を自分亡き後、船の仲間がくじけそうなら喝を入れてくれだと。お前を含めてな。」

「……アイツらしいな。」

 

アイゼンは拳を握りしめる。

船員達は涙を拭い、

 

「いつまでもメソメソしてられねぇぞ!こんなんじゃ、船長に笑われちまう!」

「おお!」

 

彼らは手を振り上げ、叫ぶ。

そして各々自分の仕事に戻った。

 

アイゼンは裁判者を横目で見て、

 

「礼は言わんぞ。」

「いらん。これは私の仕事だからな。」

 

裁判者も横目で彼を見る。

アイゼンはベルベット達も元へ歩いて行き、彼らと話して戻って来た。


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