テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第五十九話 気付けぬ想い~その2~

監獄島に着き、中に入る。

と、入ってすぐに対魔士と遭遇する。

アイゼンが身構え、

 

「対魔士がいるぞ!」

 

だが、その対魔士は倒れ込んだ。

エレノアが眉を寄せて駆け寄る。

 

「しっかりしてください!」

「……うっ……首のない騎士……ぅ……う……ま……」

 

そして息絶えた。

エレノアがさらに眉を寄せ、

 

「……亡くなりました。」

 

ついて来ていた王子は顔を伏せる。

ベルベットは腕を組み、

 

「首のない騎士の業魔≪ごうま≫?」

「うわっ⁉」

 

そこにライフィセットの声が響く。

目の前にはサルのような大きな業魔≪ごうま≫が現れる。

ロクロウが身構え、

 

「対魔士を襲ったのは業魔≪ごうま≫か。」

「また暴動が起こっておるのかえ?」

 

マギルゥが笑みを浮かべる。

ロクロウはついて来ていたトカゲ業魔≪ごうま≫と首なし業魔≪ごうま≫を見て、

 

「クロガネ!ダイル!お前たちはモアナと王子を守れ!」

「おう‼」「承知!」

 

二人は王子とついて来ていた小さな業魔≪ごうま≫の少女の前に立つ。

その前に、裁判者が立つ。

 

「さて、心置きなく戦え。」

「これまた頼もしいのー。できれば、あれの相手をして欲しいものじゃー。」

「断る。」

 

笑顔で言うマギルゥに、裁判者は即答で言った。

マギルゥはサルのような業魔≪ごうま≫を見て、

 

「むむ。サルめ!去るなら追わんぞ!」

「バカしてないで油断しない!暴動の生き残りよ!」

 

ベルベットがサルのような業魔≪ごうま≫に斬りかかりながら言う。

彼らが戦いの末、敵を追い込む。

だが、彼らを飛び越え、裁判者達の方へ襲いかかる。

裁判者顎に指を当てて、考え込んでいた。

 

「ちゃっと!アンタ!」

 

ベルベットが眉を寄せて睨みながら、駆けて来る。

裁判者は影から剣を取り出し、

 

「なにも、殺らぬとは言っていない。」

 

そう言って、業魔≪ごうま≫を真っ二つにした。

そして影が業魔≪ごうま≫を喰らい出す。

その光景を見ながら、

 

「聖寮は囚人たちの制圧に失敗したのか。」

「おかしいな。かなりの対魔士が配備されていたはずだが。」

 

ベルベットとロクロウが考え込む。

アイゼンが眉を寄せ、

 

「……蟲毒が行われたのかもしれん。」

「コドク?」

 

ライフィセットが首を傾げてアイゼンを見る。

アイゼンは右手を腰に当て、

 

「業魔≪ごうま≫同士を喰らいあわせることで、より強力な業魔≪ごうま≫を生み出す外法だ。」

「……本当にくだらんな。それで、管理もできなくなるのだから。」

 

裁判者は赤く光る瞳で、辺りを見据える。

 

「囚人業魔≪ごうま≫が喰らいあって、対魔士も敵わない業魔≪ごうま≫を生み出しちまったってことか?」

 

ロクロウがさらに考え込む。

エレノアが眉を寄せ、

 

「暴動が起こったからですね。」

「誰かさんのせいで、のう?」

 

マギルゥがベルベットを見据える。

ベルベットは眉を寄せ、

 

「なにがあったかは問題じゃない。ここを手に入れるために、なにをすべきかよ。」

「死んだ対魔士は、『首のない騎士の業魔≪ごうま≫』って言ってたよ。」

「そいつが元凶かもな。」

 

ライフィセットが思い出すように言う。

そしてアイゼンも腕を組む。

ロクロウが腰に手を当てて、仁王立ちなり、

 

「なら、捜し出してぶっ潰そう。」

「だったら、注意を怠るなよ。でないと、穢れに飲まれて死ぬか、敵に殺られて死ぬぞ。」

 

裁判者が歩き出す。

ベルベットは裁判者を睨んだ後、

 

「島を制圧するまで、この広間を拠点とする。王子とモアナは、あんたたちに任せるわ。侵入する敵はすべて排除して。」

 

と、指示を出していた。

 

 

しばらくして、裁判者の後ろからベルベット達が合流する。

ベルベットが考え込みながら、

 

「蟲毒……業魔≪ごうま≫を喰らい合わせて強力な業魔≪ごうま≫を生む外法か。」

「アイゼン。蠱毒ってのは、業魔≪ごうま≫を何匹喰えばできるんだ?」

 

ロクロウがアイゼンを見る。

アイゼンは眉を寄せ、

 

「蟲毒に必要なのは数より質――強力な業魔≪ごうま≫の強い穢れだと聞いている。」

「そう、蟲毒の本質は喰らった穢れと己が穢れを組み合わせ、暴走させることじゃ。異常な力を得られる代わりに、自己というものは完全になくなるがのう。」

 

マギルゥが真剣な表情になって説明する。

ロクロウが腕を組み、

 

「ふむ、化け物を通り越して、ただの力と穢れの塊になるわけか。」

「ロクロウ……まさか蟲毒を試してみようなんて考えてませんよね?」

 

エレノアがジッとロクロウを見る。

ロクロウはキョトンとした表情で、

 

「いや、当然考えたぞ。強くなる手段だからな。」

「本気で言っているのですか⁉」

「今更驚くことでもないだろう?ベルベットだって散々業魔≪ごうま≫を喰ってる。」

「あなたという人は……」

 

エレノアはさらに眉を寄せる。

ベルベットがエレノアを見て、

 

「ロクロウの言う通りよ。復讐を果たせるのなら、なんでもないわ。」

 

そう言って、さっさと歩いて行く。

ライフィセットが心配そうに、

 

「ベルベット……」

「まさか、蟲毒を行うつもりじゃ……?」

「心配はいらん。蟲毒なんて使わないさ。化け物になるのはかまわんが、仇を倒すのは“自分”じゃなきゃダメなんだ。俺もベルベットも。」

「ロクロウ……」

 

心配していたエレノアとライフィセットに、ロクロウが真剣な表情で言う。

そして腰に手を当てて、

 

「それに、蟲毒で生まれた業魔≪ごうま≫をぶった斬れば、自分でやる必要はないしな!」

「あなたという人は……」

 

と、笑うロクロウに、エレノアは笑みを浮かべる。

裁判者は彼らを横目で見て、

 

「その選択は正しい。」

「ん?珍しいのー、お主がそんな事を言うなんて。」

 

マギルゥが目をパチクリする。

裁判者は赤く光る瞳で、

 

「喰魔以外の業魔≪ごうま≫がやれば、その業魔≪ごうま≫は最終的には私か、審判者に喰われるからな。ま、今回は側に居た私、かもしれないがな。おかげで仕事が増えた。」

 

その雰囲気は怖く、マギルゥ達の体はゾワっとする。

そして裁判者はどんどんと歩いて行く。

 

奥に進むと、斧を持った強大な首なし騎士業魔≪ごうま≫が立っていた。

ライフィセットが身構えながら、

 

「首なしの騎士!」

「こいつが蟲毒の親玉か。」

「なるほど凶暴そうだ。」

 

ベルベットとロクロウも武器を構える。

マギルゥは笑顔で、

 

「なあに、ベルベットほどじゃないわい。」

 

そして首なし騎士業魔≪ごうま≫は斧を振り回して、攻撃を仕掛けてくる。

裁判者は敵の攻撃を避け、辺りを見渡す。

 

「……まったく無駄な仕事を増やしてくれる。」

 

裁判者は着地と同時に、その後ろからベルベットとロクロウが斬りかかる。

ライフィセット達の聖隷術が飛び交う。

裁判者が首のない騎士業魔≪ごうま≫の斧を蹴り、武器のなくなった業魔≪ごうま≫にベルベットの左手が薙ぎ払う。

首のない騎士業魔≪ごうま≫は吹き飛ばされ、壁に打ち付けられ動かなくなった。

裁判者がその業魔≪ごうま≫を喰らっていると、

 

「これで一件落着だな。」

 

と、ロクロウが腰に手を当てて、笑う。

裁判者は彼らを見て、

 

「そうだな、ある意味では終わったな。」

「はい?」

 

エレノアが目をパチクリしてると、何かの気配を察したアイゼンが、

 

「上だ!」

 

ハッとして全員が上を見ると、黒い何かが蠢いていた。

それが下にドサッと落ちてくると、それは強大なヘビ業魔≪ごうま≫だった。

首のない騎士業魔≪ごうま≫を喰べ終わった裁判者は影から剣を取り出し、

 

「邪魔だ、退いてろ。」

 

ヘビ業魔≪ごうま≫を斬り裂く。

だが、それを避けたヘビ業魔≪ごうま≫はシッポで裁判者を薙ぎ払う。

宙で一回転して、裁判者は剣を縦にする。

そこにヘビ業魔≪ごうま≫のシッポが襲いかかって来たからだ。

 

「ほう、あの業魔≪ごうま≫なかなか強いのー。あの裁判者が防御に徹しておる。」

「いや、あれはあの業魔≪ごうま≫の力を見ているだけ、かもしれんぞ。」

 

マギルゥとアイゼンが目を細めて、その戦いを見る。

エレノアが眉を寄せて、

 

「それより、加勢した方が!」

「止めとけ。入ったら最後、お主も喰われるやもしれぬぞ。」

 

マギルゥがそう言って指さす。

その先には裁判者の瞳は赤く光り出し、影が広がる。

それがヘビ業魔≪ごうま≫だけでなく、部屋全体を覆う。

ベルベット達は冷や汗を掻き、身が硬くなる。

ヘビ業魔≪ごうま≫がそれから逃れようと、逃げようとする。

だが、影がヘビ業魔≪ごうま≫を貫いた。

そして倒れ込んだヘビ業魔≪ごうま≫を喰らい、影が裁判者の方へ戻って消える。

持っていた剣を影にしまい、彼らを見る。

ロクロウが眉を寄せ、

 

「こ、今度こそ、一件落着だよな。」

「ああ。終わったな、“ここ”は。」

 

裁判者に背を向ける。

ベルベットは足元の地下牢を見つけ、そこを見つめた。

そしてライフィセットは地脈点を感じ取り、

 

「また感じた……!」

「まだ穢れが?」

 

ベルベットがライフィセットを見る。

ライフィセットは首を振り、

 

「ううん、地脈点だよ。この島にもあるみたい。」

「俺も感じる。すぐ近くだ。」

 

アイゼンが辺りを探る。

ベルベットは少し間を置き、

 

「……多分、この真下でしょ。」

 

そう言って、足元の地下牢を見る。

そしてベルベットは地下牢へと梯子を落とし、降りていく。

それに皆がついて行く。

エレノアが辺りを見て、

 

「……ここは?」

「監獄島で一番厳重に閉ざされた特別監房よ。ライフィセット、どう?」

 

そう言って、ベルベットは辺りを探っていたライフィセットを見る。

ライフィセットは頷き、

 

「うん。ここが地脈点だと思う。」

「地脈点につくられた特別監房ということは、ここに捕まっていたのは喰魔……?」

 

エレノアがベルベットを見る。

裁判者もベルベットを見据える。

ベルベットは上を見上げ、

 

「そう、餓えた“喰魔”が繋がれていた。そいつは、毎日放り込まれる業魔≪ごうま≫を喰らって腹を満たし、血まみれの唇をぬぐった。島に何百といる業魔≪ごうま≫や悪党の発する“穢れ”をカノヌシに送っているとも知らずに。」

 

そしてベルベットは視線を落とし、

 

「ある日、絡繰りを知る女聖隷が現れ、結界を解いて喰魔を檻から出した。喰魔は、その聖隷すら容赦なく喰らった。そして――」

 

ベルベットは左手を握り、開く。

穢れに満ちたその腕を見つめ、

 

「あたしは手に入れた。弟の仇を討つための“力”を。」

「ベルベットが……喰魔……!」

 

ライフィセットがベルベットを見つめた。

アイゼンは目を細めて、

 

「監獄島は、囚人の出す穢れを喰魔に喰わせる“エサ場”だったんだな。」

「だが、ベルベットが脱走したせいで穢れが溢れた。」

 

ロクロウが腕を組む。

マギルゥはベルベットを見据え、

 

「モアナの村と同じことが、ここでも起こったんじゃな。」

「アルトリウス様が、そんなことをするはずが……」

 

エレノアが首を振り、眉を寄せる。

ベルベットは拳を握りしめ、

 

「そんな……って、どれのことよ?」

 

そしてエレノアを睨み、

 

「病弱な義弟≪おとうと≫を生贄にしたこと?喰魔になった義妹≪いもうと≫を監禁したこと?全部、あんたが讃える導師様がやったことだ!カノヌシの力を手に入れるために‼」

「きっと……なにか……お考えが――」

「どんなっ‼」

 

ベルベットはエレノアの首襟を掴む。

そして彼女は怒りをぶつけ続ける。

 

「世界の痛みをとめる?ふざけるな‼あの子の痛みは誰がとめるんだ‼あの子の絶望は誰が癒すんだ‼世界のためなら……ラフィは!あたしの弟は殺されて当然だっていうのかっ‼」

 

そう言って、エレノアを離す。

エレノアは俯く。

裁判者は赤く光る瞳で、ベルベットを見据え、

 

「怒りをぶつけるのはそこまでにしたらどうだ、ベルベット・クラウ。」

「アンタになにがわかる!」

「では、いつぞやの真実の話を少しだけしてやろう。導師アルトリウスに、カノヌシ復活の方法を教えたのは私だ。そしと、喰魔となったお前をここから連れ出すのに、お前の知る女聖隷に方法を教えたのも、私だ。」

「なっ!」

 

ベルベットは怒りに満ちた瞳を裁判者に向ける。

裁判者は背を向け、歩き出し、

 

「すべては最初の贄が落ちた時から始まった。」

「最初の贄?」

 

ライフィセットが首を傾げる。

裁判者は視線だけを彼らに向け、

 

「今は教えられないな。」

「アンタはやっぱり知ってるのね!なにもかも‼」

「ああ、知ってる。だが、それを教えるかどうかは、私しだいだ。」

 

そう言って、ジャンプして上に上がる。

上に着地し、裁判者は駆け出す。

 

「あっちの方も気付き、動き出したか!」

 

そこに小さな業魔≪喰魔≫の少女の心の叫び声が響く。

 

「……たすけて……エレノアァ……」

 

そして広間に出る。

首のない馬に乗った首なし騎士業魔≪ごうま≫が槍を構えてトカゲ業魔≪ごうま≫達に襲いかかろうとしていた。

裁判者がその前に降り立ち、影を出そうとして、後ろを見る。

目を細めて、剣だけを取り出し、

 

「まったく、仕事を増やしてくれる!」

 

槍を剣で防ぐ。

そして槍と剣の攻防戦が繰り広げられる。

裁判者は後ろを見て、

 

「少し離れていろ!」

「ああ!」

 

トカゲ業魔≪ごうま≫は小さな業魔≪喰魔≫の少女を抱えて下がる。

そこに、足音が響き渡る。

裁判者が剣風で敵を後ろに薙ぎ払う。

そこにエレノアが駆け込んできた。

 

「モアナ‼」

「エレノア‼本当に来てくれたね……」

 

小さな業魔≪喰魔≫の少女がエレノアの背を見つめる。

エレノアは彼女を見て、

 

「約束ですから。」

 

ベルベット達も彼らの前に立ち、身構える。

ライフィセットは業魔≪ごうま≫を見て、

 

「首のない騎士と――馬の業魔≪ごうま≫‼」

「強い穢れを出してやがる。」

 

アイゼンは裁判者を睨み見付ける。

裁判者は横目で見て、

 

「私は一度も、あの部屋の業魔≪ごうま≫を、蟲毒で生まれた業魔≪ごうま≫、とは言っていないぞ。」

「じゃが、お主は喰らっておったろう。」

 

マギルゥが腕を組む。

裁判者は目を細めて、

 

「だから『無駄な仕事を増やしてくれる』と、言ったのだ。あれは、穢れの多いあれが生み出した異物に過ぎないからな。」

「んじゃ、こいつが蟲毒で生まれた本当の親玉って事で、片付ければいいんだな!」

 

ロクロウが武器を構える。

マギルゥは手を広げる。

 

「ピーンときた!死んだ対魔士は『首なし騎士の業魔≪ごうま≫』ではなく、『首のない騎士』と『ウマ』と言いたかったのじゃな!」

「なんでもいい。全部倒して監獄島≪ここ≫を制圧する!」

 

ベルベットは武器を構える。

裁判者も横に立ち、

 

「手伝ってやろう。」

「自分の仕事、だからでしょ。」

 

ベルベットが睨む。

裁判者は視線だけ彼女に向け、

 

「大分、理解してきたな。」

 

そう言って、裁判者は駆け出す。

敵の槍を剣で受け流しながら、弾く。

そこに、ロクロウとベルベット、エレノアが攻め込む。

そして押し込むそこに聖隷術が飛んでくる。

裁判者はしばらく彼らに襲い掛かる槍の攻撃を、裁判者が剣で受け流していく。

聖隷術が放たれ、できた隙にロクロウが斬りこむ。

業魔≪ごうま≫は倒れ込む。

その盾が小さな業魔≪喰魔≫の少女の前に落ちた。

小さな業魔≪喰魔≫の少女はそれを突いていると、それが動き出し襲うとする。

 

「きゃあああっ‼」

 

その小さな業魔≪喰魔≫の少女を守るように、強大な鳥の業魔≪喰魔≫が盾に体当たりする。

その鳥の業魔≪喰魔≫は盾の穢れを喰らい出す。

 

「離宮にいた業魔≪ごうま≫!」

「いや、穢れを吸い込みおったぞ。そやつは喰魔じゃ。」

 

と、ベルベットとマギルゥが見据える。

王子が二人を見て、

 

「いや、その鷹は私の唯一の友――グリフォンだよ。」

「……タバサが『近いうちに必ず』と言ったのは、こういう意味だったのね。」

「そして審判者が『離宮の業魔≪ごうま≫は気付きそうで気付けない場所』というのも納得じゃの。」

 

と、ベルベットは王子を、マギルゥは裁判者を見る。

エレノアが王子を見て、

 

「殿下、なぜあなたが喰魔を⁉」

「だから言った通りさ。グリフォンは子どもの頃からの親友なんだ。喰魔になってしまっても、こいつは私の……」

 

と、言って鳥の業魔≪喰魔≫に近付く。

鳥の業魔≪ごうま≫は小さくなり、彼の腕に止まる。

アイゼンが腰に手を当てて、

 

「喰魔と知って逃したんだな。大方、審判者が手を貸したんだろうが、なにをたくらんでいる?」

「なにも。私はグリフォンを、ただ逃がしたいだけなんだ。」

「さすがは未来の国王、第一王子殿下。わがまま放題じゃのー。」

 

マギルゥは王子を見据える。

彼は目を細める。

 

「ふふ、わがまま……か。そんなもの、一度だって許されたことないよ。唯一、この子を逃がすという私のわがままに付き合ってくれたのは、あの少年だ。彼にとっては、仕事かもしれないがな。それに、王子とは人ではなく“公器”だ。自分のことより、国と民を優先するように“つくられる”んだよ。」

「それが、ちゃんとできるもの、やれるのも、少ないがな。」

 

裁判者は目を細める。

ライフィセットが首を傾げる。

王子はそんなライフィセットを見て、

 

「……例えば、法律の勉強中に背中がムズムズしたら、君ならどうする?」

「背中をかくよ。普通に。」

 

ライフィセットは不思議そうに言う。

王子は小さく笑い、

 

「私が、そうすると傅育係に皮膚が裂けるほどムチ打ちされたものさ。国のための勉学より、痒いという個人の感情を優先させた……という理由でね。そんな私にとって、こいつが空を飛ぶ姿を見て、自由を想像することが、唯一の慰めだったよ。だが……こいつがカノヌシの力に適合してしまった。」

「聖寮が喰魔をつくってることを、ミッドガンド王家も知っているのね。」

 

ベルベットが王子を見据える。

王子は頷き、

 

「もちろんだ。王国は、導師アルトリウスの理と意志を全面的に支持している。だが、私は……閉じ込められ、空を奪われることだけは許せなかった。どうしても。私のその願いに、彼がやって来た。そして私の願いを叶えてくれると。私は彼と共にその場に向かい、彼は結界を壊した。そこに対魔士たちがやって来て、グリフォンに襲われて命を失った。」

「だから、もう戻れないって。」

 

ライフィセットが俯く。

マギルゥは頭で腕を組み、

 

「対魔士一人、二人だけの問題ではあるまい。喰魔をはがせば、王都の穢れも増大するじゃろう。」

「……全部わかっていた。それでも私は……友としてグリフォンを犠牲にしたくなかった。」

「殿下……」

 

王子は拳を握りしめる。

エレノアが眉を寄せる。

 

「だがそれは、友の為と言う偽善を並べても、お前の感情というわがままでしかない。お前は、その鳥を自分としても見ていた。自分にない自由を鷹に持たせ、まるで自分であるかのように縋った。だが、お前の縋る自由を持っていた鳥が、自分と同じように自由を奪われた。それはお前が縋る唯一のモノ≪心≫を奪われた事でもあった。だからお前は、全≪国≫より個≪自分≫を選び、全≪民≫より個≪友≫を選んだ。それは、お前の事実でしかない。」

 

裁判者は彼を見据えていた。

ベルベットは視線を外し、

 

「世界よりも一羽の鷹か。……鳥はなぜ空を飛ぶと思う?」

 

そして視線を上げる。

エレノアがベルベットを見て、

 

「それはアルトリウス様の!」

「解剖学の本には、骨が軽くて、翼を動かす筋肉にすごい力があるからだって――」

 

ライフィセットが思い出すように言うが、王子が首を振る。

 

「いや……飛べない鳥は鳥ではないからだ。私はそう思う。」

「……事情はわかった。この島の中でなら自由にしていいわ。ただし、逃げようとしたら殺す。」

「いいだろう。聖寮に対する人質としても使えるしな。」

 

ベルベットとアイゼンが王子を見据える。

王子は頷き、

 

「承知した。グリフォン共々よろしく頼む。」

 

と、裁判者は剣をトカゲ業魔≪ごうま≫達の方に投げる。

彼らの後ろには、あの時と同じくらい大きいヘビ業魔≪ごうま≫が襲いかかろうとしていた。

裁判者は駆け出し、ジャンプして彼らの横から襲いかかろうとしていたもう一体のヘビ業魔≪ごうま≫の顔を蹴り飛ばす。

さらに影から短剣を取り出し、後ろに投げる。

そこにはさらにもう一体のヘビ業魔≪ごうま≫が襲いかかろうとしていた。

そのヘビ業魔≪ごうま≫の眼に突き刺さる。

 

「モアナ‼」

 

駆けつけたエレノアの腕を掴み、小さな業魔≪喰魔≫の少女の前に突き出し、

 

「怖かったら目を閉じろ。」

「え?」

 

小さな業魔≪喰魔≫の少女は戸惑った後、エレノアに抱きつく。

エレノアは彼女を抱きしめる。

裁判者は目を細めて、

 

「トカゲと首なし、お前はベルベットとロクロウの所、王子は鳥と共に、ライフィセットとアイゼンのとこにいろ。」

 

戸惑う彼らに、

 

「さっさとしろ!」

 

その一言があまりも怖かった。

彼らは言われた通りに固まる。

マギルゥが裁判者を見て、

 

「では儂は、お主の側に居ようかのー。」

「私のとこが一番危ないが。」

「うむ。儂はベルベットのとこに行くとしよう。」

 

と、サッと走って行く。

裁判者は赤く光る瞳で、部屋全体を見て、

 

「全てを燃やし尽くす、黒き業の炎よ、燃やし尽くせ。」

 

裁判者は指を鳴らす。

裁判者を中心に、黒い炎が燃え上がる。

それがベルベット達を避けながら広がっていく。

それが業魔≪ごうま≫達を襲う。

 

「……まったく、喰魔が多すぎてやりずらいな。」

 

そう言って、影がヘビのように影から出てくる。

それが黒く燃える炎に向かって、伸びていく。

と、数体の影が、黒い炎と共に業魔≪ごうま≫達を喰らっていく。

小さな業魔≪喰魔≫の少女はエレノアに必死にしがみ付き、鳥の業魔≪喰魔≫は身を逆立てて威嚇する。

ライフィセットのカバンにいたムシの業魔≪喰魔≫もガサガサ動き、ベルベットも目を見開く。

それが跡形もなく消えると、影が戻ってくる。

裁判者は辺りを見て、

 

「少しだけ、穢れを調節した方が良いな。」

 

裁判者は瞳を閉じる。

すると今度は裁判者を中心に風が吹き荒れる。

それが収まると、

 

「もう好きにしていいぞ。」

 

裁判者は腕を伸ばす。

少しの間を置いた後、ロクロウが腕を組み、

 

「さ、終わったんだ!アジトづくりといくか!」

 

と、動き出した。

 

裁判者は空を見上げていた。

そこにベルベットが歩いて来た。

彼女は裁判者の背を見据え、

 

「裁判者、一つだけ答えなさい。アルトリウスは、家族であったあたし達、個を犠牲に全……世界や大勢の人間を救う選択を取った。それが理想の理をもつ、あいつの答え、なのよね。」

「……確かに、あの導師は個≪親しい者≫より、全≪世界と人≫を取ったな。あいつの妻と子……お前の姉と生まれるはずだった姉の子が死んだ時にな。」

 

裁判者の言葉に、ベルベットは眉を寄せて、

 

「……そう。なら、アンタは全≪世界≫と個≪親しい者≫、どっちの選ぶの。」

「答えるのは一つではなかったか。」

 

裁判者が視線だけを彼女に向ける。

ベルベットは腰に手を当てて、

 

「ついでよ。答えなさい。」

「……まあ、いいだろう。ついでだから、そこの聖隷と魔女も聞いて行け。」

 

と、裁判者はベルベットの方に振り返る。

奥の方からアイゼンとマギルゥが歩いて来る。

マギルゥは頭で手を組み、

 

「いやはや、やはりばれておったか。これも死神の力かの。」

「知らん。」

 

アイゼンはマギルゥを睨む。

ベルベットは裁判者を見て、

 

「で?」

「……どちらも選ばない。」

「は?ふざけてるの?」

「いや、私達は世界に従う。世界が全≪心ある者達≫か、個≪特定の者≫のどちらかを救えと言うのであれば、片方を。どちらも救うなと言うのであれば、選ばない。両方を救えと言うのであれば、全てを救う。それが私達だ。」

「まるで、世界の命令に従う人形……聖寮の対魔士が従える人形≪使役聖隷≫と同じね。アンタの、アンタ達の感情や意志はないわけ。」

 

ベルベットは睨むように、裁判者を見据える。

裁判者はそれを受け流し、

 

「ないな。私には感情はない。だが、お前たちの言う“意志”は違う。意志≪己の唯一の心≫ではあるが、意志≪己の想い≫ではない。そもそも、あいつの抱く感情も、私達の意志も、元から世界に創られたものだ。なら、世界に従うのが道理だろう。それに、私達は世界を管理し、裁く者だ。そんな者が、感情に左右され、己の私情や意志で裁定を下してみろ。それこそ、災厄だ。」

「だから関わりを断つという事じゃな?」

 

マギルゥがいつになく真剣な表情で聞く。

裁判者はそれをジっと見て、空を見上がる。

 

「最初から断っていた訳じゃない。初めて見るものが多かった頃、関わって知ったのだ。何も変わらない、と。だから私は外側で、あいつは内側なのかもしれないな。」

「まるで子供みたいな発想ね。」

 

ベルベットが呆れるように言う。

裁判者は視線を彼女に戻し、

 

「……グリモワールも、そして他の者も、よくそう言っていた。だが、今のこれは、お前達≪心ある者達≫が創りだした結果だと言うの事は変わらない。私はそう判断した。ベルベット・クラウ、お前は真実を知った時、どの選択肢を選ぶのだろうな。」

「また知っているくせに、その答えは言わないのね。」

「初めから答えを言うのでは意味がない。それだけだ。」

 

裁判者は歩き出す。

ベルベット達の横を通り過ぎ、建物の中に入ろうとした時、

 

「お前の、願いや答えはないのか。」

 

アイゼンがジッと裁判者の背を見据えた。

裁判者は立ち止まり、

 

「それは私には必要のない選択肢だ。私達は、私達≪裁判者と審判者≫であり続ける。これからも、そしてその先≪未来≫も。それが、お前の言うところの“流儀”なのだろな。」

 

裁判者はそう言って、建物の中に入る。

 

 

翌朝、裁判者は壁にもたれながら、部屋全体を見ていた。

そこにエレノアがベルベット達に、

 

「お話があります。」

 

ベルベット達はエレノアを見る。

裁判者は目を細め、エレノアを見据える。

 

「今まで隠してましたが、私はアルトリウス様の特命を受けたスパイでした。『聖隷ライフィセットを保護し聖隷本部に回収せよ』味方の命を奪うことすら許された最重要の特命です。」

「僕を回収……」

 

ライフィセットが俯く。

エレノアはライフィセットに頭を下げる。

 

「ごめんなさい。最初はあなたを油断させて連れ出すつもりでした。ですが、もう聖寮の命に従うつもりはありません。」

「アルトリウスを裏切るってわけ?」

 

ベルベットがエレノアを見据える。

エレノアはベルベットを見て、

 

「いいえ。アルトリウス様が目指す世界も、その志も、人の世を慮ってのことと信じます。でも、その方法を信じられない自分がいるのです。ですから……」

 

そしてエレノアは小さな業魔≪喰魔≫の少女を見て、優しく微笑む。

それから全員を見て、

 

「喰魔の保護に協力します。私自身の“答え”を見つけるまで。」

「エレノア……」

 

ライフィセットがエレノアを見つめる。

エレノアは力強い瞳で、

 

「私は、本当のことを知りたいんです。自分に恥じない生き方をするために。」

「ははは!思いっきり感情論だな。」

 

ロクロウが笑い出す。

アイゼンも小さく笑い、

 

「それがお前の“流儀”か。」

「ようこそ、悪党の世界へ~。」

 

マギルゥが笑みを浮かべてクルリと回る。

エレノアは頬を少し赤くして、

 

「一緒にしないでください!感情で納得できないのに行動することこそ、“理”に反するんです!」

 

そう言て、そっぽ向く。

ベルベットが呆れたように、

 

「ほんと面倒なヤツ……」

「面倒でもいないと困るでしょう!」

 

エレノアはベルベットに微笑む。

ライフィセットが頷き、微笑みながら、

 

「うん。エレノアは僕の器だからね。」

「はいはい。」

 

ベルベットが小さく笑う。

裁判者は彼らを見つめ、

 

「本当に面倒な生き物だな。心ある者達は……」

 

小さく呟いた。

ロクロウが手を叩き、

 

「さて、俺たちは次の喰魔を探そうぜ!……と、いきたいところだが、手がかりがないな。」

「エレノアが聖寮から喰魔の情報を盗んでくる、というのはどうじゃ?」

 

と、マギルゥが笑みを浮かべてエレノアを見る。

エレノアは眉を寄せて、

 

「それは……」

「無駄だ。裏切り者に機密を漏らすほど、聖寮はマヌケじゃない。」

 

アイゼンが腰に手を当てる。

ベルベットも考え込み、

 

「そうね。ライフィセットを危険に巻き込むわけにもいかないし。というか、エレノアにスパイなんて無理でしょ。」

「……否定はしませんが。」

 

エレノアは頬を膨らませる。

ライフィセットがベルベットを見上げ、

 

「昨日行った一番地下の特別監房。行ってみよう。試してみたいことがあるんだ。」

「……わかったわ。」

 

彼らは地下牢へと向かう。

 

「己の力に気付き始めたな。」

 

裁判者もその後ろからついて行く。

地下牢につくと、ライフィセットが羅針盤を取り出す。

ベルベットがライフィセットを見て、

 

「……で、どうするの?」

「えっと……“地脈”は大地を流れている自然の力。そして“地脈点”は地脈が集中している場所のこと。」

 

ライフィセットが羅針盤を見つめる。

アイゼンが頷き、

 

「そうだ。カノヌシは地脈を利用して穢れを喰らい、覚醒しようとしている。お前は、地脈を感じる力に長けているようだ。ある程度近づけば地脈点の位置を……」

「近づかなくても感じたんだ。昨日ここに来た時。ずっと先にも、ここと同じ場所があるって。」

「地脈を通じて、離れた地脈点を探知できるのか?」

「多分。どこまでやれるか、喰魔がいるかどうかは、わからないけど……」

 

ライフィセットが肩を落とす。

ベルベットはライフィセットに微笑み、

 

「それでも重要な手がかりよ。お願い、試してみて。」

「うん。」

 

ライフィセットは頷き、地脈を辿る。

色々な方角に羅針盤を向ける。

ベルベットがライフィセットを見て、

 

「……どう?」

「ん~……」

 

ライフィセットは眉を寄せる。

裁判者がライフィセットの頭に手を置き、瞳を閉じる。

そして彼の波長に合わせる。

 

「はっきり感じた。」

 

そう言って、瞳を開けるライフィセット。

裁判者も瞳を開け、ライフィセットの頭から手をどかす。

ライフィセットはベルベットを見て、

 

「地脈点は何十個もあるけど、特に大きいのを幾つか見つけたよ。」

「裁判者が手を出したとは言え、大きさまで感じ取れるのか。」

 

アイゼンが驚いたように言う。

ライフィセットはベルベット達に近付き、

 

「うん。この島の地脈点も他より大きいみたい。同じくらいのが東と南東の方にもある。多分、虫がいたワァーグ樹林と、パラミデスの場所だと思う。」

「だとすると、大きな地脈点のどれかに喰魔がいる確率が高いわね。」

 

ベルベットが考え込む。

エレノアも考え込み、

 

「残る喰魔は三体。数が絞り込めれば総当たりもできますね。」

「だな。お手柄だぞ、ライフィセット。」

 

ロクロウがライフィセットに笑顔を向ける。

マギルゥがライフィセットを見据え、

 

「いやはや大したもんじゃわ。やはり坊は只者ではなさすぎるのー。さすが、裁判者が目を掛けるだけはあるのー。」

 

裁判者はマギルゥを見据える。

マギルゥはそっぽ向く。

ライフィセットは照れながら、

 

「そんなことないよ。裁判者さんにも手伝って貰ったし。」

「善は急げです。喰魔探しの準備をしましょう!」

 

エレノアがガッツポーズを取る。

マギルゥが笑いながら、

 

「儂らは、ぜんぜん善じゃないがの♪なにせ、死神と邪神がおるからの~♪」

 

と、上に上がっていく。

裁判者も、マギルゥを見据えた後、共に上がっていく。

エレノアは呆れながら、上がっていく。

彼らは船に戻り、一番近く大きな地脈点に向かい出した。


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