テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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第五章 テイルズオブベルセリア~~理という世界~~
toz 第五十三話 記憶


夢を見た。

それは夢と言う名の記憶……

 

 

それは遠い遠い昔のこと。

裁判者だけでなく、審判者も憑魔≪ひょうま≫などを斬ったり、喰べたりしていた。

それを供にやっていた。

 

それからしばらくし、世界が闇に覆われた。

それはのちに『クローズド・ダーク』と言われる時代。

裁判者は自身をドラゴンと化し、四人の天族≪聖主≫達と戦った。

戦いの末、裁判者は四人の天族≪聖主≫とある盟約を交わした。

そして自身の力の一部をある場所に封じた。

 

裁判者はその影響で眠りについていた。

それから刻≪とき≫が経った。

と、裁判者は目を覚ます。

そしてある人物の前に立つ。

そこには多くの人間が居た。

中央にいる人間はのちに『筆頭対魔士クローディン』と呼ばれる者。

また、もう一つの名は、クローディン・アスガード。

『暗黒時代』を終わらせた『英雄王』。

彼は三百年近く活動を続けた人物だ。

のちに彼は『導師』とも、語られる。

 

彼らは業魔≪ごうま≫に襲われていた。

裁判者は影から剣を取り出し、業魔≪ごうま≫を斬り裂く。

それを見たクローディンと呼ばれる者は、裁判者に近付き話し込む。

裁判者は彼と盟約を交わし、誓約をかけて彼に業魔≪ごうま≫を倒す力を与えた。

 

そう、まだ憑魔≪ひょうま≫が業魔≪ごうま≫と言われ、天族が聖隷と言われて居た頃の話……

それからどれくらい経ったのか、世界は『クローズド・ダーク』の影響で月が赤く燃え上がる、緋色の日があった。

それは『開門の日』と言われ、世界に業魔≪ごうま≫がと言われる者達が増えていく。

それ影響で人間達の霊応力が少し上がり、人や獣などが業魔≪ごうま≫として見えるようになった。

それはのちに、『業魔≪ごうま≫病』という名で世界に知れ渡る。

 

その緋色の満月の夜、裁判者はある場所に向かう。

ある一角が炎に包まれているのが解る。

そこから人の欲、業、恐怖、悲痛が伝わってくる。

その場所に居た人間が次々と死に、また次々に業魔≪ごうま≫と化していく。

そして裁判者の耳に、女性の悲鳴が響き渡る。

裁判者は大きな穴の空いた遺跡の跡地のような場所の柱に降り立つ。

 

『封じが一部、解けたか……』

 

そして視線を下に変える。

自分の見下ろすさの先には、声を殺して泣き叫んでいた髪の長い男性。

彼の右手は血を流し、動かない。

左手に掴んでいる剣を強く握りしめていた。

男性はうずくまり、まるで自身に訴えるかのように、

 

「何故だ!なぜこんな事になったのだ!なぜ俺はっ!たった二人の家族すら守れないっ‼」

 

そこには何人かの人間が斬り倒されていた。

髪の長い男性は何かを見つけ、剣を離して左手でそれを握りしめ、穴の前で泣き続ける。

 

「よくわかっていよう、アルトリウス。人が弱く、罪深いからだ。」

 

と、彼の後ろに老人対魔士が現れる。

裁判者は老人対魔士を見据えた。

髪の長い男性は顔を上げ、

 

「メルキオル⁉」

「この村が、お前たち一家を業魔≪ごうま≫化した野盗どもに差し出したのだ。自分たちを見逃す代償としてな。」

「うそだ……そんな……」

「よくあることだ。人間が背負った業の“理”は変えられん。だが……」

 

老人対魔士は上を見上げる。

裁判者は彼らの前に降り、

 

「お前は、クローディンの友だったな。そしてお前はクローディンの弟子か。なるほど。」

「お前は……ああ!」

 

髪の長い男性は瞳を揺らす。

裁判者は自身の横の穴を見る。

 

「では、ここに落ちた贄≪子供≫は、お前の縁≪ゆかり≫のある者達か。」

 

それと同時だった。

大きな穴から光がそびえ立つ。

老人対魔士は裁判者と光を見て、

 

「“理”を調える手段は見つかった。」

 

その光を裁判者は冷たく見る。

髪の長い男性はその光を見て、

 

「領域……⁉なんだ、この巨大な力は⁉」

 

そして男性は目を見張って、

 

「まさか……こんなところに、探し求めていた聖主≪カノヌシ≫が!なぜ、今になって……ここを!」

 

そして裁判者は男性を見て、

 

「人間だった頃のお前の妻の願いは叶えた。後は好きにしろ。」

 

男性が裁判者を見ると、彼女の後ろに二つの炎が現れる。

その中から、二つの人の形が見えてくる。

一人は髪の赤い女性、もうひとつは小さな少年の形に変わる。

それが炎に包まれて現れたのだ。

炎が消え、赤い髪の女性の顔を見た彼は、左手に握っていたモノを握りしめた。

 

「こ、この聖隷は……」

 

老人対魔士もその二人の聖隷を見て、

 

「転生したか。姿は同じでも別の存在だ。」

 

裁判者は老人対魔士を見据える。

彼は再びうずくまり、

 

「なぜだ……なぜこんな残酷な縁が……」

 

光が消え、老人対魔士は赤い月を見て、

 

「どうやらカノヌシの復活は不完全のようだ。その原因を明らかにし、聖主を導かねばなるまい。」

 

そして聖隷に近付き、

 

「この聖隷どもはもらっていくぞ。」

「……待て。」

 

髪の長い男性は立ち上がり、赤い髪の女性聖隷に近付き、左手に握っていた物を開く。

 

「……約束を守れなくてごめんよ。」

 

彼は裁判者を睨み、

 

「……教えてくれ、どうしたら世界を救える!業魔≪ごうま≫を失くし、痛みを消し、人を正す事ができる!」

 

裁判者は横目で彼を見て、

 

「……業魔≪ごうま≫を消すことは不可能だ。そして人を正す、それはある意味で、業魔≪ごうま≫と同じ。あれはお前達、心ある者達の中の穢れ。それが具現化したものに過ぎない。それを失くすと言うことは、心を捨てるとこ。お前はその己の願いに、『個≪親しい者≫を捨て、全≪世界≫を救うか。全≪世界≫を捨て、個≪親しい者≫を救うか』。さぁ、どちらを選ぶ。」

 

そして左手に持っているモノを再び握りしめ、俯く。

一度、赤い髪の女性聖隷を見て、

 

「償いはする。今から俺は俺を捨てる。」

 

彼は顔を上げ、

 

「こんな痛みを世界からなくせるのなら……良いだろう!俺は……私は全≪世界≫を救う!方法を教えてくれ!」

「……いいだろう。」

 

裁判者は赤く光るその瞳で、男性にその方法を教えた。

男性は立ち上がり、自身の動かなくなった右手を前に差し出す。

彼女の影が男性の腕に噛みついた。

 

「これで盟約は交わされた。」

 

裁判者は彼に背を向け、赤い髪の聖隷の横に行く。

そして小声で、

 

「人間だった頃のお前の願いは叶えた。お前が望むのであれば、私は現れよう。その仮面はその一つの手段だ。見極めろ。自身の望んだ結果の行く末を、お前が信じて愛した人間が選んだ結果を。」

 

女性は虚ろな瞳で、自分の持っていた仮面を握りしめる。

裁判者は横の虚ろ目をした少年聖隷を見た後、再び男性を見る。

 

「事をなす時、再び現れよう。」

 

そう言って、背を向けて歩き出す。

その後ろでは、髪の長い男性が赤い髪の女性聖隷と契約を交わしている所だった。

裁判者は視線を横に変えると、ここに走り込んできた小さな子供二人を見てから消えた。

 

 

それから数年が経った。

裁判者は緋色の満月の夜の前日、穴の空いたあの場所に来ていた。

仮面を外し、その穴を見下ろす。

と、後ろから女性の声が響く。

裁判者が振り返ると、

 

「アンタ!そこは危ないのよ!離れなさい!」

 

と、腕を引かれる。

そして少し離れると、

 

「あなた、村の子じゃないわね。迷い込んだの?でも、あそこは落ちると危ないの!近付いちゃダメよ!」

「……確かにあそこは、人には過ぎたるものだな……。」

 

と、穴の方を見て言う。

そして女性を見て、

 

「……お前は『全≪世界≫と個≪親しい者≫』、どちらを救い、選ぶ。」

「は?なに訳のわからない事を……」

 

だが女性は裁判者の瞳をじっと見る。

彼女は腕を組み、顎に手を当てる。

そして頷くと、再び裁判者を見て、

 

「あたしは個≪親しい者≫ね。世界なんて知らない。あたしは私の知る世界≪親しい者≫を救うだけよ。」

「……そうか。なら、抗って生きていくのだな、人間。」

 

裁判者は赤く光る瞳で女性を見ると、風が吹き荒れる。

女性が目を瞑り、開くとすでに裁判者の姿はなかった。

 

裁判者は仮面をつけ、物陰に身を隠し、木にもたれながら下を見下ろす。

そこには先ほどの女性がウリボア達に囲まれていた。

女性はウリボア達を倒していく。

だが、最期の一体が穢れに飲まれ、業魔≪ごうま≫と化す。

女性が腕を前に目を瞑る。

そこに男性の声が響く。

 

「シアリーズ。」

 

業魔≪ごうま≫に炎が当たる。

裁判者は目を細めてそれを見る。

 

「対魔士の技!」

 

女性は驚いたように声を上がる。

そして二人は話し込む。

その姿を見て、

 

「……偽りにして、真の関係≪家族≫……か。人間とは……いや、心ある者達は厄介なものだな。」

 

そう言って離れる。

その際に、男性の側に居る意志を持たぬ、仮面をつけた赤い髪の女性と目が合った。

 

「さぁ、お前は……『全≪世界≫と個≪親しい者≫』、どちらを選ぶ。」

 

 

次の日の夜。

それは赤く燃える赤い満月の日。

そう、人々に『緋色の満月』と言われた夜。

そしてこの日はのちに、世界に『降臨の日』と言うわれる夜……

裁判者は再び同じ場所に現れる。

柱の上に立ち、裁判者は下を見下ろす。

そこにはあの時の男性と、赤い髪の聖隷、そして人間の少年がいた。

裁判者は少年を見て、

 

「それが器か。」

「ああ。そうだ。」

 

あの時の男性は裁判者を見る。

そして男性は少年を見る。

少年は裁判者を見た後、男性を見て、

 

「あの人は?」

「あれは人ならざるものだ。シアリーズとは別の……」

 

少年は胸の服を握りしめる。

男性は目を細め、

 

「大丈夫だ。お前の犠牲を元に、世界は救われる。」

「うん。」

 

少年が頷く。

男性が剣を握る。

と、あの時のように、誰かが駆け込んできた。

裁判者はそこを見る。

そこには、あの黒髪の人間の女性がこちらに走って来る。

女性は眉を寄せて、

 

「ラフィ!義兄さん!」

 

二人に叫ぶ。

そして息を整え、困惑した顔で彼らを見る。

少年は女性を見て、

 

「お姉ちゃん!」

「……ベルベット。」

 

男性も黒髪の女性を見る。

女性はどこか安心したように、

 

「よかったぁ……。義兄さんが守ってくれたんだね。」

 

泣き出しそうな顔で男性を見る。

男性は空を見上げ、目を瞑り、

 

「……これも断つべき〝感情″か。」

 

少年は男性を見て、眉を寄せる。

少年は女性を見て、

 

「お姉ちゃん!逃げて!」

 

と、走り出す。

だが、男性が剣先を少年の足元に出す。

少年はその鞘の剣先につまずき、転ぶ。

 

「あっ‼」

「義兄さん⁉」

 

女性は驚き、駆け出す。

だが、女性は押さえつけられるかのようにうつぶせになる。

そして自分の手首と足首に炎が燃え上がる。

それが錠のように、地面に縛りつける。

 

「熱っ‼」

 

女性がもがくが、ほどけない。

男性は静かに、

 

「かつて、この場所で地獄の蓋が開いた。そして今夜、救世の力が復活する。」

 

そして地面に鞘を刺し、剣を抜く。

 

「ライフィセットの命を生贄にして。」

「なにを……言ってるの?」

 

女性は瞳を揺らして、剣を抜く男性を見る。

少年は立ち上がり、男性の方を見て瞳を閉じる。

剣を少年の腹の方へと向ける。

 

「義兄さん!やめて‼」

「あ……‼」

 

そしてその剣が少年を貫いた。

 

「あああ……」

 

女性は目を見開く。

その瞳に映るのは、義兄が弟を剣で貫き持ちあがる姿。

それは赤く燃え上る月と同じくらいに、地面に血が流れ出る。

裁判者はそれをただ見ているだけだった。

そして女性の感情が流れてきて、そこを見る。

女性は瞳を大きく揺らし、悲しみ、絶望、憎悪、困惑、怒り……多くの感情が揺れ動いていた。

 

「あああああ〰っ‼!」

 

女性は必死にもがき始める。

そして炎を打ち破って、走り出す。

男性は少年を大きな穴へと落とす。

女性は叫ぶながら、手を伸ばし、穴に落ちる。

少年の手を掴み、必死に岩にしがみつく。

 

「ぐうううっ‼」

 

男性は女性を見下ろし、

 

「離しなさい。“それ”は世界への捧げものだ。」

「なんで……!」

「もう絶対に助からない。」

「うそだうそだうそだぁぁっ‼!」

 

女性はしがみついたまま、首を振って叫ぶ。

男性は目を細め、

 

「……そうか。やはりお前は……」

 

男性は剣を上げ、女性に向ける。

 

「感情に従うのだな。」

 

そしてしがみついている女性の腕を斬り付けた。

男性は冷たく女性を見る。

女性の瞳から光が失われていく。

女性は少年と共に穴に落ちていく。

 

裁判者はその穴に向かって降りる。

女性と少年を追い越し、彼らを見上がる。

そして、その暗闇の中、裁判者の瞳は赤く燃え上り、その姿はドラゴンへと変わる。

 

女性は力なきその瞳で、少年を、弟を見る。

と、そこに赤い瞳が浮かび上がり闇が口を開く。

赤い魔法陣のようなものが浮かび上がる。

そこから黄金に光り輝くドラゴン≪龍≫が出てくる。

それが弟に迫る。

女性は手を伸ばし、

 

「ライフィセット‼」

 

だが、弟は黄金に輝くドラゴン≪龍≫に飲み込まれた≪食べられた≫。

そしてそれは自分にも迫りくる。

 

「よく……も……よくもおおおっ‼」

 

女性はドラゴン≪龍≫を睨み、叫ぶ。

そして女性も飲み込まれた≪食べられた≫……

 

「お前達の願い……私が叶えてやろう。」

 

女性の耳に、女性の声が響く。

 

 

彼らが落ちた穴から二つの光が立つ。

それが交わり、一つとなる。

そして空に飛んでいく。

さらに七つの光が空に向かって上がっていく。

光は全てで八つ。

その光が消え、そこに一つの人影が落ちてくる。

それが地面を転がり、止まる。

男性がそこを見ると、黒髪の女性が倒れている。

その彼女の左腕は穢れに満ちた強大な腕。

そして光り輝き、穢れを纏うドラゴンが穴から出てきて、女性の真上に留まる。

ドラゴンが光と穢れに包まれ弾け飛ぶと、それは人型に変わる。

女性の後ろに、白と黒のコートのようなワンピース服来た仮面をつけた少女が降り立つ。

男性が倒れる黒髪の女性の方に歩き出す。

黒髪の女性も起き上がる。

その表情は怒りに燃えている。

 

「はぁ……はぁ……」

「…………」

 

男性は立ち止まり、女性を見つめる。

裁判者は女性の背を見て、

 

「さぁ、抗って見せろ。人間……いや、業魔≪ごうま≫にして、喰魔よ。」

 

裁判者は赤く光る瞳を細める。

そこに狼型の業魔≪ごうま≫の群れが現れる。

裁判者は襲い掛かる業魔≪ごうま≫を避ける。

そして、その一体が女性に襲い掛かる。

女性は穢れに満ちた左腕で業魔≪ごうま≫の頭を掴む。

そして地面に叩き付ける。

その腕で、業魔≪ごうま≫を握りつぶす。

 

「ふうううっ‼」

 

女性の頬に、業魔≪ごうま≫の血がかかる。

次々に倒していく。

男性は女性を見て、

 

「左手で業魔≪ごうま≫を喰らう業魔≪ごうま≫……」

 

そして自分の近くにいる全ての業魔≪ごうま≫を倒し、男性を睨む。

 

「ア……サァ……ッ!」

 

そして穢れに満ちたその左手を握りしめる。

男性はその手を見つめ、

 

「“喰魔”か。」

「アアアァ〰サアァァァ〰ッ‼」

 

女性は男性を睨みながら襲い掛かる。

だが、そこに彼の近くに居た業魔≪ごうま≫達が立ち塞がる。

女性は業魔≪ごうま≫を倒しながら、

 

「なんで殺した!あの子の血が……こんなに……なぜっ‼なぜっ‼なぜぇぇっ‼ライフィセットが!ラフィが!なにをしたって‼どけえぇぇぇっ‼」

 

そしてそれらも倒し、息を上げ、男性を睨みつける。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

男性は冷たい眼差しで、

 

「周りをよく見ろ。」

 

女性は少し息を整え、周りを見る。

 

「‼」

 

そして目を見開く。

自分の瞳に映ったものは人の亡骸だった。

そこには先程自分が殺した業魔≪ごうま≫の亡骸があるはずだった。

そのはずなのに、そこには業魔≪ごうま≫の亡骸ではなく、自分のよく知る村の、友の亡骸……

 

女性は見開いた瞳が大きく揺れる。

声にならない悲鳴を上がる。

 

見開く女性の瞳に、少女が映る。

白と黒のコートのようなワンピース服を風になびかせ、仮面をつけていても解るくらい瞳が赤く光っている。

その少女、裁判者は女性を見て、

 

「何を驚いている。その後ろの人間に対し、我を忘れて自分で殺したのだろう。怒りに、憎悪に、駆られてな。」

「……村に業魔≪ごうま≫病が広がったのだ。」

 

男性が彼女の背に言う。

そして剣を持ち変え、後ろに向けてる。

そこには彼を襲う業魔≪ごうま≫。

だが、彼の向けた剣が業魔≪ごうま≫を突き刺さる。

 

「だが、案ずるな。この痛みは、私が――」

「うあああ〰っ‼」

 

そして力が膨れ上がり、再び男性に襲い掛かる。

男性は女性を見て、

 

「対魔士アルトリウス・コールブランドがとめる。」

 

女性の腕が男性に襲い掛かる瞬間、炎が女性を吹き飛ばす。

 

「ぐはっ!」

 

そして女性は後ろに転がる。

その際、彼女の櫛が落ちる。

男性の前には一人の赤い髪で、仮面をつけた女性が現れる。

そして空には巨大な光の魔法陣が浮かぶ。

 

裁判者は赤く光る瞳でそれを見上げる。

そして視線を彼らに戻す。

 

「さて、対魔士、人、業魔≪ごうま≫、聖隷……お前達の歴史はどのように紡がれるか、それとも滅びゆくか、どちらを辿るかな。」

 

 

女性は男性の方を見る。

彼女の瞳に、赤い髪で仮面をつけた女性が映る。

 

「シア……リーズ⁉」

 

さらに女性の瞳には鳥のような仮面をつけた者達が現るのを見る。

彼らは自分を囲い、次々に現れる。

女性は困惑しながら辺りを見る。

 

「あ……あ……」

 

その中、赤い髪で仮面をつけた女性はしゃがむ。

そして落ちていた櫛を拾い上げる。

男性がうつぶせになっている女性を見下ろし、

 

「『鳥がなぜ飛ぶか?』これが俺の答えなんだよ、ベルベット。」

 

そして剣を女性に向けて上げる。

女性は彼を見上げ、

 

「アー……サー……」

「許さなくていい。すべては私の罪だ。」

「……アルトリウスッ‼」

 

叫ぶ彼女に剣が突き刺さる。

その後、彼女はある島の地下牢に投げ入れられた。

 

あれから世界は大きく変化する。

人々の瞳に聖隷が見えるようになった。

人間からすれば、聖隷が降臨したとして世界に広がった。

それに加えて業魔≪ごうま≫病も勢いを増す。

だが、それと同じだけ対魔士の数も増えていく。

 

対魔士は組織・“聖寮”として活動し始める。

それは人々に業魔≪ごうま≫を倒すことのできる希望の光として信頼され、崇められる。

裁判者の耳にも、“人を護る『盾』にして業魔≪ごうま≫を狩る『剣』。救世主アルトリウス・コールブランド”と言う名が……

 

 

それが数年立ったある日……

裁判者はある赤い髪の仮面をつけた女性の前に現れる。

吹き荒れる風に、その女性は顔を防ぐ。

風が収まると、女性は裁判者を見つめ、

 

「……お久しぶりです。」

「で、覚悟は決まったのか。聖隷。」

「はい。」

「なら、お前の命を元にした誓約をかける。それを使えば、あの喰魔の居る場所に行けるだけの力と、あそこから出るための頸木≪くびき≫を断つ力を、な。」

「わかりました。それで構いません。」

 

彼女は炎を灯す。

裁判者はその炎に触れ、さらに燃え上がる。

それが小さくなり、彼女の中に入っていく。

裁判者は背を向け、

 

「聖隷としてのお前の願いは叶えた。後は己のみでやれ。」

「はい。ありがとうございます。」

 

そう言って、女性も背を向けて歩いて行く。

 

 

――一人の黒い髪の女性と白い服に身を包んだ男性が戦っていた。

そこに赤い髪で仮面をつけた女性聖隷と鳥のような仮面をつけた聖隷が二人いた。

黒髪の女性は右腕の武具から剣先が出ており、男性は剣を振るう。

彼らの剣がぶつかり合い金属音が響き渡る。

と、男性は女性二人から距離を取り、

 

「……手強いな。聖隷の一、二体は潰す覚悟が要るか。」

 

そして男性は自分の左側に居る聖隷を見る。

聖隷は聖隷術を黒髪の女性と赤い髪の女性聖隷の間に繰り出す。

二人は左右に分かれて避ける。

と、男性の右側にいた聖隷が黒髪の女性を押さえつける。

そこに再び聖隷術が繰り出される。

黒髪の女性はそれを避け、聖隷に当たる。

 

「うわああ!」

 

赤い髪の女性聖隷はそれを見て、

 

「なんということを!」

「『非常な戦いは非常をもって制すべし』。」

 

と、再び黒髪の女性に剣を振るう。

女性はそれを防ぎ、互いに剣を振るいながら、

 

「それがあんたたちの“理”よね。」

 

二人の剣が再びぶつかり合う。

そこに足音が聞こえてくる。

二人は一端互いに距離を取り、その方向を見る。

 

「まったく愚かな選択肢だな、人間。そして憐れな聖隷共。」

 

そう言って、現れたのは白と黒のコートのようなワンピース服を着て、仮面をつけている少女。

長い紫の髪を結い上げ、冷たい赤い瞳がその場にいる者達を見る。

 

裁判者は全体を見て、そう言った。

赤い髪の女性は唇を噛みしめる。

黒髪の女性は裁判者を見て、

 

「お前は……‼」

 

そして睨みつける。

男性の方も裁判者を見て、

 

「お前は!第一級指名手配犯!まさかこんなところに‼この業魔≪ごうま≫を牢に戻したら、次はお前だ!アルトリウス様の元に引きずり渡す!」

 

と、彼の方も裁判者を睨む。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「断る。私は願いを叶えに、ここに来たのだからな。」

 

そう言って、先程聖隷術を受けた聖隷を横目で見る。

裁判者は指をパチンと鳴らす。

すると、聖隷から魔法陣が現れ、砕け散る。

と、聖隷は息が荒くなり始める。

 

「これ程の穢れがある場所だ。当然といえば、当然だな。」

 

裁判者が言うと、聖隷術を受けた聖隷は頭を抱えて、穢れに飲み込まれる。

 

「うあああ……おおおっ‼」

「……‼いけない!」

 

赤い髪の女性聖隷が声を上がる。

裁判者は赤く光る瞳で聖隷を見て、

 

「もう遅い。」

「うがあ……があああ〰っ‼」

 

そして業魔≪ごうま≫と化す。

黒髪の女性は眉を寄せ、

 

「聖隷が……業魔≪ごうま≫病に⁉」

「くっ⁉制御がっ!」

 

男性も眉を寄せた。

穢れに包まれた聖隷はドラゴンと化して、暴れ出す。

 

「願いは叶えた。人間ども、これはお前達の生み出した結果だ。」

 

そう言って、裁判者は背を向けて歩き出す。

裁判者の背後では、男性と男性の側に居た聖隷を吹き飛ばす。

彼らは壁に叩き付けられる。

 

「ぐはっ!」

 

ドラゴンは今度は黒髪の女性の方に振り返る。

そして女性に襲い掛かる。

 

「ベルベット!」

 

赤い髪の女性聖隷は彼女の元に駆け出す。

そしてドラゴンが爪を立てる。

彼女を庇って赤い髪の女性聖隷の背中が抉られ、悲鳴を上げる。

 

「さて、あれはどの選択を取るかな。」

 

そう言って、最期に背後を横目で見てから彼らの前から消えた。

最後に見た彼らの姿は黒い髪女性が、血を流して倒れる赤い髪の女性聖隷を抱き上げた所だった……

 

 

裁判者はある岩垣の上に居た。

辺りは嵐と化し、豪雨と雷鳴が鳴り響く。

そして海は荒れ、狂う。

裁判者は赤く光る瞳で曇天の空を見上がる。

 

「仮面が壊れたか……強い感情と固い意志……か。」

 

そして下を見下ろす。

そこには一人の喰魔と業魔と対魔師≪人間≫が居る。

彼らは船に乗り込んでいた。

 

「絶望、悲しみ、怒り、憎悪、裏切り……なんとも人間とは哀れで悲しい生き物だな。」

 

そして長い黒髪の女性を見て、

 

「やはりその選択を取り、苗床となったか……。さて、かつてお前は言った。『全≪世界≫と個≪親しい者≫』、どちらを選ぶか。お前は個≪親しい者≫を選び、自分の知る世界≪親しい者≫を救う、と。さぁ、抗ってみせろ。喰魔よ。」

 

裁判者は背を向け、風に包まれてる。

 

「さて、籠の鳥は籠の外へ。どのように物語は、歴史は動き出すか……」

 

裁判者はその場から消えた。

 

 

――そこは辺り一面が白に包まれていた。

辺りは雪が降っている。

裁判者はそれを門の上で見上げていた。

と、岩陰に三人の人影を見つける。

そこに一人の少年聖隷が歩みよる。

裁判者はそれを見つめ、

 

『……やはりそういう形となったか……だが、願いは果たした。器≪赤子の贄≫は器≪一部≫として、中身と言う感情は願い≪もう一人の贄≫として。これも因果だな。』

 

裁判者は下に降りた。

そして街の中を歩く。

壁にもたれ、街の声に耳を傾けていた。

と、一人の女性が子供の聖隷を二人連れて歩いてきた。

裁判者はそれを見た後、街から離れる。

 

『……そういえば、審判者はまだ人間と関わっているのか。物好きだな。』

 

と、街から出て、しばらくして洞窟に入る。

トカゲの姿をした業魔≪ごうま≫を見て、目を細める。

すると、後ろから足音が聞こえてくる。

裁判者は物陰に隠れ、横目でその者達を見る。

黒髪の女性と半分が業魔≪ごうま≫した男性が歩いて行く。

その二人はそのトカゲみたいな業魔≪ごうま≫と戦闘になり、彼らが勝った。

彼らは話し込む。

そして黒髪の女性は離れる際、トカゲみたいな業魔≪ごうま≫が呼び止める。

 

「ところでお前ら、どうやって俺を見つけた?」

「偶然よ。勘が当たっただけ。」

 

女性はすました顔で言う。

しばらく黙り込んだ後、トカゲみたいな業魔≪ごうま≫は、

 

「……俺の生まれたのは、なにもない陰気な村でな。そこが大嫌いで船乗りなったんだ。だが、このザマだ。生まれ変わったら、俺は二度と故郷を捨てねぇよ。」

「……そう。」

 

そう言って、女性は離れていく。

裁判者は腕を組み、

 

『今回の願い……私でなくても大丈夫そうだな。あの喰魔との出会いが、あいつの運命を変えた。』

 

裁判者もその場を離れた。

 

 

しばらくして裁判者は王都ローグレスに来ていた。

そして一軒の酒場に入る。

 

「……随分と楽しそうではないか。」

「ん?あれ、久しぶり♪」

 

裁判者が見る先には黒いコートのような服を着た少年。

自分と同じ紫色の髪と瞳を持っている。

彼はその髪を下に結い下げ、裁判者に笑顔を向ける。

 

「で、何でここに?」

「導師アルトリウス・コールブランドを、視に来た。」

「……成程ね。彼を、ね。」

 

少年は目を細め、ニッと笑う。

そして髪に付けていた赤い布を取り、カウンターの所に居る老婆に渡す。

 

「行くのね。」

「うん。また、来れたら会いに来てあげるよ。多分、すぐに戻るだろうけど。……と、これは人間でいう置き土産っていうのかな?ここに来るであろう業魔≪ごうま≫の情報。きっと、彼女は役に立つし、君たち心ある者達の“世界≪理≫”を変えるよ。」

 

そう言って、少年は紙を置く。

そして少年は裁判者と共に酒場を出る。

少年と裁判者は高い塀の上に上がる。

彼は風に身を包み、白と黒のコートのような服へと変わり、仮面をつける。

 

「さて、行こうか。」

 

彼はニッと笑う。

と、正門の方が何やら賑やかだった。

 

「ん?なんか騒がしいね。」

「……みたいだな。」

 

そう言って、二人は視線を向こうに向ける。

裁判者の瞳には、黒髪の女性と小さな聖隷を見つめる。

そして審判者を見て、

 

「行くぞ。」

「え?あ、うん。」

 

彼らは王宮の方へと、屋根の上から歩いて行く。

 

しばらくして、国民が集まり出す。

そして王宮を見て、腕を上げ、

 

「「ミッドガンド‼ミッドガンド‼ミッドガンド‼ミッドガンド‼」」

 

と、歓喜の声を上げ、盛り上がる。

そして国民から見える外に突き出た扉の前から一人の若者が現れる。

その若者は国民達を見て、

 

「王国民よ!ミッドガンド聖導王国、第一王子パーシバル・アスガードである!この良き日を皆と祝えることを、父王と共に嬉しく思う。」

「「おおお〰‼」」

 

その王子を見て、国民達はさらに活気出す。

裁判者と審判者はその皇子を見つめる。

その皇子の演説は続く。

 

「十年前の“開門の日”以来……業魔≪ごうま≫病と業魔≪ごうま≫の脅威によって我が王国は存亡の危機を迎えていた。だが、命が朽ち、心が尽き果ててゆかんとする地に、希望の剣をもち立つ者があった。誰あろう……アルトリウス・コールブランドである。」

「「アルトリウス‼!アルトリウス‼!アルトリウス‼!アルトリウス‼!」」

 

王子がそういうと、国民達は再び腕を上げ、歓喜の声を上げて叫ぶ。

 

「アルトリウスの偉業は、誰もが知っている。彼は業魔≪ごうま≫に苦しむ民の救済にすべてを捧げた。五聖主の一柱たるカノヌシを降臨させ、聖隷の力を我らにもたらした。混沌の世に“理”という希望を与え、今、その希望が“絆”となって我々を結んでいる。アルトリウスの偉大なる功績と献身を讃え、今、ここに災厄を祓い民を導く救世主の名――“導師”の称号を授けん!」

「「導師!アルトリウス‼導師!アルトリウス‼」」

 

と、国民達は腕を上げ、歓喜の声を叫び続ける。

そこに、白い服を纏った一人の男性が現れる。

髪を結い上げ、右手を服の中で固定していた。

その男性、導師アルトリウスは国民達を見て、

 

「……世界は災厄の痛みに満ちています。なのに、私は皆さんに頼まねばならなかった。“理”による苦痛に耐えてくれと。“意志”という枷で自らを戒めてくれと。なぜなら、揺るがぬ理と、それを貫き通す意志。これが災厄を斬り祓う唯一の剣≪つるぎ≫だからです。今ここに、その剣がある。私は誓おう!我が体と命を、全なる民のために捧げることを。すべての人々に聖主カノヌシの加護をもたらし、災厄なき世に導くことを!世界の痛みは!私が必ずとめてみせる!」

 

左腕を上げ、そして国民の前で出して、叫ぶ。

国民達は拍手し、

 

「おおお〰‼」「導師ー‼」

 

そしてさらに盛り上がっていき、

 

「「導師!導師!導師!」」

 

と、歓声を上げ続ける。

それを見つめていた審判者は、笑い出す。

 

「くは!いやー、人間は面白い!この人間選択で世界はどう変わるかな。希望≪救い≫か、はたまた破滅≪災厄≫か、見せて貰おうじゃないか。」

 

そして冷たい笑みを浮かべる。

裁判者も冷たい瞳で、それを見た後、ある一角を見る。

怒りに燃え、拳を握りしめる黒髪の女性。

それを仲間の剣士業魔≪ごうま≫が止めていた。

 

「人間は一時の感情に流れやすい。自らが希望≪救世主≫の道を続けるか、自らが破滅≪災厄者≫の道しるべとなるか……さて、どちらに運命は傾くか……」

 

そう言って、裁判者は導師アルトリウスと黒髪の女性を見据える。

そして背を向けて歩き出す。

審判者も、彼女と共にその場から居なくなる。

 

夜、裁判者はある石家の屋根に座っている魔女の格好をした女性に近付く。

 

「導師アルトリウス……なかなか見事に民衆をまとめあげおったな。さてさて、悲劇のヒロイン気取りの小娘の牙が、この世界に如何ほどの傷をつけ得るか……」

 

そして立ち上がり、

 

「裏切り者捜しでもしながら、見物させてもらおうか。」

 

と、裁判者に振り返ってニッと笑う。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「好きにしろ。お前はお前のやるべきことをやるのであれば、好きに動けばいい。」

「主は変わらぬな。あの頃と何ら変わらぬ。」

「お前もある意味ではそうだろ。だが、その壊れた心で、この世界を見渡せ。それが、お前にとって吉と出るか蛇が出るかはお前次第。」

「無責任じゃなぁ~。まぁ~よい。儂は、儂の想うがままに動くだけじゃ。」

 

裁判者は目を細めて彼女を見た後、背を向けて歩き出す。

 

 

ある夜、裁判者は王宮の離宮の聖杯堂に足を踏み入る。

話し声が聞こえてくる。

戸を開き、中に入る。

すると案の定、先客が居た。

黒い服を纏った聖隷は目を見張った後、睨むように裁判者を見る。

裁判者は辺りを見て、

 

「随分と賑やかだな。」

「お前は!」「あなたは!」

 

黒髪の女性と聖隷を従えた赤い髪を左右に結い上げた女対魔士が裁判者を見る。

赤い髪の対魔士は、

 

「まさか、第一級指名手配犯のあなたまで、この王都に入り込んでいるなんて!そこの業魔≪ごうま≫たちを捕らえた後、あなたをアルトリウス様の元に引き渡します!」

「……できるのであれば、そうする事だな。」

 

そう言って、魔女の姿をした女性に視線を向けた後、彼らを無視して奥へと入って行った。

後ろの方から、あの魔女の姿をした女性の声が聞こえてくる。

 

「ベルベットや、そやつを追い詰めてくれたら、いいことが起こるかもじゃぞー。」

 

それを聞きながら、

 

『……さて、どうなることやら。』

 

そして階段を降り、広い部屋に出る。

自身の眼の前に居る鷹のような顔に、四本足をもつ強大な鳥の業魔≪ごうま≫。

裁判者はその業魔≪ごうま≫を捕らえている結界を見て、

 

「やっぱりこれは……」

 

そこに、トカゲ顔の業魔≪ごうま≫が一人走り込んでくる。

裁判者はその業魔≪ごうま≫を見て、

 

「引き返した方がいいぞ。でないと……死ぬぞ。」

「うるさい!そこをどけー‼」

 

と、襲い掛かる。

裁判者はそれを避け、

 

「忠告はしてやったぞ、人間。いや、もう業魔≪ごうま≫だったか。」

 

その業魔≪ごうま≫が走り込んで行ったその先には、あの鳥の業魔≪ごうま≫がいる。

そしてトカゲ顔の業魔≪ごうま≫は鳥の業魔≪ごうま≫の爪に斬り裂かれる。

 

「ギャアアア〰‼」

 

悲鳴が響き渡る。

そしてそのトカゲ顔の業魔≪ごうま≫を喰らい出す。

そこに先程の黒髪の女性の集団が駆け込んできた。

黒髪の女性は奥の鳥の業魔≪ごうま≫を見て、眉を寄せる。

 

「こいつは……なに⁉」

 

そしてトカゲ顔の業魔≪ごうま≫は人の姿へと戻る。

それを後から掛けて来た赤い髪の女対魔士は、困惑しながら、

 

「業魔≪ごうま≫が……人に戻った……⁉」

 

そして鳥の業魔≪ごうま≫を見て、目を見張る。

 

「それに……この業魔≪ごうま≫は!」

 

そして鳥の業魔≪ごうま≫は飛び、襲い掛かろうとするが、結界がそれを阻む。

黒い服を纏った聖隷が眉を寄せ、

 

「結界が張られている。」

「聖寮が、こいつを捕まえてるってことか⁉」

 

彼の隣にいた男の業魔≪ごうま≫が驚いたように言う。

黒い服を纏った聖隷は裁判者を睨む。

 

「この結界……前にも……」

 

そう言って、黒い髪の女性は結界を見る。

そして死んでいる祭司を見る。

裁判者は彼らを見る。

 

と、鳥の業魔≪ごうま≫は飛ぶのをやめてこちらに走って襲い掛かる。

裁判者は彼らの前に立ち、

 

「喰い足りないのか……それとも……」

 

と、黒髪の女性を横目で見る。

裁判者は影が鳥の業魔≪ごうま≫を後ろに叩き付ける。

それに反応するかのように、黒髪の女性の左腕が勝手に動き出す。

そして裁判者を背後から襲うが、

 

「……私を喰らおうとする、か……なるほどな。」

 

と、黒髪の女性の左腕は裁判者の影から伸びた影に締め付けられていた。

黒髪の女性は裁判者を睨んで見て、

 

「……これは……!あんた、一体何を!」

「さっさと去れ。お前達の目的はどうあれ、終わったのだろう。」

 

と、裁判者も冷たく彼女を見る。

魔女の姿をした女性が目を細め、

 

「そやつの言う通りじゃ。なにはともあれ依頼は果たせたの。結果的にじゃが。」

 

黒髪の女性は怒りを抑える。

裁判者は彼女を離す。

黒髪の女性は裁判者から離れ、

 

「……そうね。報告に戻るわよ。」

 

と、反転して、来た道を戻ろうとする。

だが、赤い髪の対魔士が彼らに槍を構え、

 

「大司祭になにを……⁉それに、この業魔≪ごうま≫は一体……⁇」

「知らないし、興味もない。」

 

黒髪の女性は冷たく言う。

赤い髪の対魔士は目を見張り、眉を寄せ、

 

「ふざけるな‼」

「ふざけてるのはそっちよ。対魔士の力なしで、あたしとやるつもり?」

 

そう言って、黒髪の女性は彼女の槍先まで歩いて行く。

赤い髪の対魔士は眉をさらに寄せ、槍を握る手が震え出す。

 

「う……」

 

そして槍をどかし、その場に座り込む。

その横を彼らは歩いて行く。

 

「一体なんなのだ!お前たちはっ!」

 

と、泣き叫ぶ。

裁判者はそれを横目で見た後、鳥の業魔≪ごうま≫を見て、

 

「……これは私ではなく、あいつの仕事だな。」

 

そして裁判者は司祭の死体を掴み上げ、泣いている赤い髪の対魔士を掴み上げて上に戻る。

赤い髪の対魔士は眉を寄せ、

 

「離しなさい!何をする気です!」

「あそこに居ては邪魔なだけだ。」

 

そして祭壇まで行くと、死体と赤い髪の対魔士を放り投げる。

尻餅を着いた赤い髪の対魔士は涙を溜めた瞳で、裁判者を睨む。

裁判者は赤く光る瞳で彼女を見下ろし、

 

「真実を知りたいのなら、自らが動け。そして足掻いて、真実を見定めろ。」

 

そう言って、部屋を出て行く。

 

 

裁判者はまたも夜に歩いていた。

隣には審判者も居る。

 

「いや~、王都は面白かったぁ~。で、やっとあそこに行くんだ。」

 

審判者は笑顔でそう言う。

裁判者は横目で審判者を見て、

 

「怒っているのか。」

「……え~、怒ってないよ。ただ、君の力を持った心ある者達がくだらないことをする事は許せない。それに、あそこは僕らにとっても大切な場所だ。」

「……あの、扉は使わせないさ。場所は提供してもな。」

「その割には君も怖いけどね……」

 

審判者は苦笑する。

と、警備をしていた対魔士達が裁判者を見て、

 

「貴様は!」

 

と、戦闘態勢に入る。

審判者は口笛を吹き、

 

「ヒューウ。君、随分と有名だね。一体なにしたの?」

「あぁ。」

「コワッ⁉」

 

物凄い剣幕で睨む裁判者に、審判者は一歩下がる。

彼らの間に突風が吹き荒れる。

そこに一人の風の聖隷が現れた。

 

「さーて、暴れさせて貰うぜ~!」

 

そして戦い始めた。

一通り対魔士をボコった風の聖隷は裁判者と審判者を見て、

 

「……うわっ⁉えっと……もしかしなくても?てか、なんでこんなとこに居んだよ⁉」

 

と、苦笑いする彼の前に、地面が尽き出る。

今度は黒い服を纏った聖隷が現れる。

彼らは睨み合った後、拳とペンデュラムの戦いが始まった。

 

「ちっ!」

 

彼の拳を避け、一歩下がる風の聖隷はニット笑い、

 

「やるじゃないの。なに者だい?」

「死神アイゼン。アイフリード海賊団の副長だ。」

「アイフリードの身内か!こりゃ、また楽しめそうだ!なぁ?」

 

と、風の聖隷は笑い、裁判者を見る。

裁判者は二人を見据える。

 

「……さあな。」

 

黒い服を纏った聖隷は眉を寄せ、

 

「……やはり、お前らが……いや、お前がアイフリードをやったのか。」

「いいねぇ……いい気合いだ!」

 

と、さらに笑みを深くする風の聖隷。

そこに女性の声が響く。

 

「落ち着きなさい、アイゼン!」

 

そこにさらに駆け込んでくる集団。

それは黒髪の女性の集団だ。

黒髪の女性は黒い服を纏った聖隷を見た後、風の聖隷を見て、

 

「こいつは聖隷で、聖寮を襲った。協力すれば結界を通れるわ。それに、後ろのそいつも使えば尚更ね。」

 

と、裁判者を睨む。

すると風の聖隷は、

 

「つまらねぇ理屈言うなって。」

 

と、再び黒い服を纏った聖隷に対して構える。

 

「俺は、俺のやり方でケジメをつける。」

 

黒い服を纏った聖隷も拳を構える。

そして互いに見ら見合い、

 

「邪魔をするな。」「邪魔すんな。」

 

黒い髪の女性は眉を寄せ、眉がピックっと動ごき、

 

「……そう。じゃあ、あたしもあたしのやり方でやらせてもらうわ。」

 

と、戦闘態勢に入った。

二人を睨み、

 

「あんたたちを動けなくして、結界を開ける!」

 

と、喧嘩を再開した二人に剣を振るう。

他の仲間たちが驚きながら、

 

「なんでこうなるんだ⁉」

「とにかくベルベットを助けるんじゃ!そうせんと後が怖い。」

「確かに。すまん、アイゼン!」

「う、うん……」

 

と、彼らも加わった。

審判者は黒髪の女性の左腕と小さな聖隷の力を見て、目を細める。

そして審判者はそれを笑いながら見て、

 

「うわー、凄い。人間に、業魔≪ごうま≫に、聖隷……それに喰魔と器≪欠片≫の戦いだ。」

 

と、隣の裁判者を見る。

裁判者は審判者を横目で見る。

審判者はなおも笑みを浮かべて、

 

「いや、ここで暴れられも意味がないし、無駄な時間を過ごすだけだなって。」

「……それもそうか……」

 

裁判者は戦う彼らの元に行き、

 

「時間の無駄だ。」

 

そう言って、その場の全員に腹や背負い投げや蹴りや首打ちなど、それぞれに一撃を与える。

彼らは各々その部分を抑え、

 

「アンタ!」

 

黒髪の女性は裁判者を睨む。

審判者が裁判者に近付きながら、

 

「ホント、やり過ぎだよ。」

 

と、笑う審判者に、裁判者は影から取り出した剣を斬り付ける。

審判者は笑いながら、同じように影から短剣を取り出し、それを受け流す。

 

「そんなに何をカリカリしてるの?てか、怒ってるのさ。」

 

裁判者はピクリと反応し、

 

「……怒る……私が、か。意味が解らん。」

 

と、影に剣をしまう。

審判者は目をパチクリし、

 

「あー、そっか。そうだったね。うん。今の君は怒ってるよ。」

 

同じように影に短剣をしまう。

裁判者は顎に指を当てる。

 

「……なるほど……怒る。つまり怒りの感情か……なら、それは私自身ではないな。大方、お前やそこの奴らの感情が強いからだろうな。私に、感情はないからな。だが、この地をここまで穢した事には、お前の言う怒りを感じるのかもな。」

「それは解るよ。俺も、ここをこんなに穢されたのは許せないからね。」

 

と、二人の纏う空気は怖い。

そして奥に向かって歩き出す。

裁判者は立ち止まり、振り返って、

 

「抗ってみせろ。自身の答えの為に。」

 

そう言って、再び歩き出していく。

結界が張られているにもかかわらず、その中に入って行く。

 

「あいつ!やっぱり、アルトリウスと関わりがあるのね!」

 

後ろからあの黒髪の女性の怒りの声が消えた。

 

 

少し歩いてすぐ、裁判者は後ろを振り返る。

 

『……気付き始めたか……いや、無自覚か。』

 

と、後ろを睨んでいた裁判者に、

 

「結界、壊れちゃったね。あれは――」

「行くぞ。」

 

裁判者は審判者の言葉を遮って、先に進む。

審判者は「やれやれ」と肩を上げて首を振る。

そして歩き出す。

 

――二人は巨大な神殿の前に来た。

審判者は扉の前で笑みを浮かべる。

 

「ここに来るもの久しいな。」

「……そうだな。」

 

裁判者は辺りを見渡してから、

 

『さて、あの器≪欠片≫はどの選択を取るか……』

 

そして裁判者は扉を開ける。

そして二人は中に入っていく。

二人の前には、座っている男性が居た。

男性は自分の前にある祭壇の紋章を見て、

 

「ベルベットが来るか……。この縁には決着をつけねばなるまい。」

「それがお前の選択か。導師。」

 

裁判者はその男性、導師アルトリウスの背を見据えて言う。

導師アルトリウスは彼らに背を向けたまま、

 

「ああ。そうだ。邪魔はやめて貰おう。」

「……いいだろう。丁度、来たみたいだしな。我らはただ傍観していよう。」

 

と、裁判者は扉を横目で見る。

そこには扉を勢いよく開け、

 

「アルトリウスッッ‼」

 

と、黒髪の女性達が乗り込んできた。

裁判者と審判者は左右に分かれる。

そして導師アルトリウスは黒髪の女性達の方を振り返る。

 

「業魔≪ごうま≫に聖隷……ずいぶん風変わりな仲間を集めたな。」

「シアリーズもいるわよ。私の胃袋の中に。」

 

黒髪の女性は彼を睨みつける。

導師アルトリウスは瞳を閉じ、

 

「母鳥となることを望んだか……」

 

そして瞳を開けて、立ち上がる。

黒髪の女性達は武器を構える。

 

「今度は前のようにはいかない!あの子の……ライフィセットの仇を討つ!」

「‼」

 

黒髪の女性の横に居た小さな聖隷は眉を寄せて、瞳を揺らす。

裁判者は黒髪の女性と小さな聖隷を見て、

 

『怒りと憎悪、困惑と悲しみ……さて、お前達の足掻きを見せて貰おう。』

 

と、裁判者は顎に指を当て彼らを見据える。

 

導師アルトリウスは鞘を床に突き刺し、剣を抜く。

 

「……いいだろう。かかって来い。」

 

そして剣を一振りする。

その剣風が彼らにもビリビリと伝わる。

 

「これが導師の剣気か!」

 

業魔≪ごうま≫の男は冷や汗を掻きながら、笑みを浮かべる。

魔女の姿をした女性は苦笑いし、

 

「こりゃ死ぬかもの~。」

「だが聖隷はいない!」

 

黒い服を纏った聖隷が辺りを探る。

黒髪の女性は頷き、

 

「作戦通りにいくわよ!」

「う、うん!」

 

黒髪の女性は腕の武具から剣を出し、導師アルトリウスに突っ込んで行く。

そして彼に剣や蹴り、左手を振るう。

だが、導師アルトリウスはいとも簡単に、彼女を吹き飛ばした。

 

「ぐうううっ‼」

 

黒い髪の女性は後ろに吹き飛ばされる。

小さな聖隷が眉を寄せて、

 

「ベルベット!」

 

彼女の元に駆け寄る。

彼女は身を起こし、

 

「お願……い……」

 

小さな聖隷は治癒術をかける。

黒い髪の女性は立ち上がり、

 

「まだだっ!」

 

再び導師アルトリウスに襲い掛かる。

審判者は彼女を見て、

 

「へぇ~、捨て身の戦いか。どれくらい持つかな。」

 

と、冷たい笑みを浮かべる。

 

導師アルトリウスは振るわれる彼女の剣を何度か避け、彼女の腹に剣を突き刺した。

 

「がはっ!」

 

彼女は剣を指されたまま、踏みとどまり、小さな聖隷を見る。

 

「もう一回よ!ライフィセット!」

 

そう言うと、導師アルトリウスは小さな聖隷を見る。

小さな聖隷は治癒術を彼女にかける。

 

「ううっ‼」

 

導師アルトリウスは彼女を見る。

彼女は導師アルトリウスを睨みながら、

 

「戦訓その四!はあああっ!」

「‼」

 

剣を振り上げる。

導師アルトリウスは彼女に突き刺している剣を抜き、後ろに下がる。

彼女は前乗りに倒れ込む。

小さな聖隷が駆け寄り、治癒術をかける。

導師アルトリウスは小さく笑い、

 

「ふっ……『勝利を確信しても油断するな』か。お前をとりこぼすわけにはいかない。戦訓通り、全力で相対そう。“聖主カノヌシ”と共に。」

 

導師アルトリウスは眉を寄せ、剣を上にあげる。

と、それと同時に彼の後ろの祭壇の紋章が光り出す。

そして彼に入る。

裁判者は心臓を抑え、膝を着く。

 

『無理矢理、扉を少し開けたか……』

 

審判者は導師アルトリウスを睨んでいた。

 

光が導師アルトリウスに入ると、彼の傷は回復する。

業魔≪ごうま≫の男性は驚きながら、

 

「一瞬で回復しやがった!」

「この力……まさか本物⁉」

 

黒い服を纏った聖隷は、一度裁判者を見た後、光を見て眉を寄せる。

魔女の姿をした女性も、光を見上げて、

 

「そりゃ反則じゃろ~!」

 

と、叫ぶ。

小さな聖隷は黒髪の女性に治癒術をかけながら、その光を見る。

 

「こ、この感じ……は……⁉」

「これは……こいつは、あの夜の!」

 

黒髪の女性も瞳を揺らしながら、その光を見る。

裁判者は立ち上がる。

そして光を見る。

光が強く発光し、裁判者と審判者と導師アルトリウス以外の者達を吹き飛ばす。

 

「きゃあああ!」

 

そして地面に叩き付けられる。

 

「さて、彼らは無事にこの場を脱せるかな……」

 

審判者は彼らを横目で見据える。

 

黒髪の女性は身を少し起こしながら、

 

「うう……まだよ……回復を……」

 

小さな聖隷は再び彼女に治癒術をかける。

そして眉を寄せ、

 

「もう無理だよ……!逃げないと!」

「今度は逃がしませんよ。」

 

立ち上がる彼女たちの斜め後ろに、赤い髪の女対魔士、そして監獄島での男対魔士、氷雪の女対魔士、老人の対魔士、四人が現れる。

魔女の姿をした女性は老人を睨み付ける。

そして老人の対魔士の方も、魔女の姿をした女性を見据えていた。

監獄島での男対魔士が一歩前に出て、

 

「申し訳ありません、アルトリウス様。シグレ様が警備していると思い、油断しました。」

「‼」

 

業魔≪ごうま≫の男がその名に反応する。

導師アルトリウスは彼らを見て、

 

「シグレなら修行に出た。そもそも、私を一番斬りたがってるのはあいつだ。」

「変わらないな。」

 

それを聞いた業魔≪ごうま≫の男は眉を寄せる。

老人の対魔士は腕を組み、腰に手を当てる。

 

「まったく。アイフリードの時といい、勝手なやつだ。」

「やっぱりこのジジイが……!」

 

黒い服を纏った聖隷は老人の対魔士を睨みつける。

黒い髪の女性はふら付きながら、

 

「違う……誰よりあんたを斬りたいのは……あたしだッッ‼」

 

と、睨み、叫ぶ。

そこに杖を構えた氷雪の女対魔士は、

 

「アルトリウス様。この業魔≪ごうま≫の始末はお任せください。」

 

そして聖隷を呼び出す。

 

「どけえぇぇ〰っ‼」

 

黒髪の女性は走り、剣を突き出す。

裁判者はそれを見て、

 

『理性を失ったか……さて、器≪欠片≫、お前はどうする。』

 

と、横目で小さな聖隷を見据える。

 

氷雪の女対魔士は聖隷と共に、術を繰り出す。

 

「思い知れ!忌まわしい業魔≪ごうま≫が!」

 

氷の粒が黒髪の女性を襲い、吹き飛ばされる。

小さな聖隷が駆け寄り、治癒術をかける。

彼女は呟く。

 

「まだ……だ……」

「なんで……?すごく痛いでしょ?苦しいでしょ?なのに、なんでベルベットは戦うの?」

 

小さな聖隷は、瞳を揺らして、彼女に訴える。

黒髪の女性は虚ろな瞳で、呟く。

 

「あの子は……ライフィセットは、もっと痛かった……。なのにあたしは……なにもできなくて……」

 

そして彼女は手を伸ばす。

小さな聖隷は涙を溜めながら、その手を握りしめる。

 

「ごめん……ごめんね……」

「ベルベット……」

 

彼女は意識を失った。

それを見た審判者は冷たい笑みを浮かべる。

 

「なるほどね。あの子が気に掛けてたのは……そういう事か。これは確かに手がかかる。」

 

彼の見る先では、氷雪の女対魔士が倒れている黒髪の女性と小さな聖隷の所に杖を突き出し、

 

「業魔≪ごうま≫と馴れあうとは。二号、お前は罰を与えましょう。その業魔≪ごうま≫を殺して、お前も命を絶ちなさい。」

「……いやだ。」

 

小さな聖隷は首を振る。

氷雪の女対魔士は眉を寄せ、

 

「契約を忘れたか!これは、お前の主の命令です!」

 

そう言って、小さな聖隷に手を伸ばす。

すると、彼に魔法陣が浮かび、

 

「ああああっ‼」

 

小さな聖隷を縛る。

彼は手を握りしめ、

 

「命令なんて……いやだ!」

 

そう言って、力強い瞳で、意識を失っている黒い髪の女性を見る。

裁判者は彼に歩み寄り、

 

「なら、どうする。お前はどうしたい。」

 

赤く光る瞳で小さな聖隷を見据える。

 

「僕は!僕は……っ!」

 

小さな聖隷は拳を握りしめる。

と、導師アルトリウスの後ろの紋章が光り出す。

それを見た導師アルトリウスは眉を寄せ、

 

「この力は……!」

 

そして小さな聖隷を見る。

裁判者はそれを横目で見た後、小さな聖隷に視線を戻す。

 

「ベルベットが死ぬなんていやだっ‼」

 

そう言って、叫ぶと魔法陣が壊れる。

そして、氷雪の女対魔士は吹き飛ばされる。

 

「ああああっ‼」

「姉上‼」

 

監獄島での男対魔士が駆け寄る。

審判者は倒れている黒髪の女性の前で膝を着き、

 

「その願い、俺が叶えてあげよう。」

 

そう言って、手をかざす。

彼女の傷は全て治った。

と、それと同時に、次元の裂け目が現れる。

黒い服を纏った聖隷は、裁判者と審判者を睨んだ後、黒髪の女性を抱えて走り出す。

 

「あれに飛び込め!ロクロウ!」

「おう!」

 

と、業魔≪ごうま≫の男も、さっきので意識を失った小さな聖隷を抱えて、走り出す。

その後ろに怒りながら、

 

「儂を忘れるな~!」

 

魔女の姿をした女性が走って行く。

彼らはその中に入って行く。

赤い髪の女対魔士が、それを見て追いかける。

 

「逃がしはしません!」

 

だが、急に穴が縮まり、吸い込まれる。

 

「ああああっ⁉」

 

さらにそこに老人の対魔士が黒い球体を投げ入れる。

そして光と共に、穴は塞がって消えた。

老人の対魔士は次元の裂け目があった場所を見て、

 

「カノヌシの力と地脈の反応とはな。珍しいものを見た。お前達の仕業か。」

 

と、裁判者と審判者を見据える。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「本来の力の一部が互いに反応し合っただけだ。無事に出られるかは、知らんがな。」

 

老人の対魔士を見据える。

導師アルトリウスは光る紋章を見上げ、

 

「そういうことか……なるほど。」

 

そして視線を落とし、

 

「しかし、聖隷に弟の名をつけるとは。お前はどこまでも――」

 

導師アルトリウスは裁判者と審判者に振り返る。

監獄島での男対魔士が剣を構え、

 

「お前の仕業なのか!アルトリウス様、ここは私が!」

「お前は下がっていろ、オスカー。」

「ですが!」

 

監獄島での男対魔士は眉を寄せる。

導師アルトリウスは剣を構え、

 

「おまえでは一分も持たない。さて、鍵をもらい受けるぞ。」

「殺れるのならね。」

 

審判者は彼に冷たい笑みを浮かべる。

影が揺らめき出し、影から槍を取り出す。

それを一回しして、構える。

裁判者は一歩下がる。

 

「審判者を倒せたら、私も考えよう。」

「えぇ⁉マジで⁉」

「先に啖呵きったのは、お前だ。」

「……ま、いいや。行くよ。」

 

審判者は笑みを浮かべて突っ込む。

老人の対魔士が術を繰り出すが、影がそれを飲込む。

そして審判者は導師アルトリウスに槍を突き出す。

彼はそれを寸で避ける。

 

「さすがに早いな。」

「ギリギリとはいえ、これを避けるか……。流石、あの子が認めた対魔士の弟子だ。」

 

審判者は槍をクルクルと回す。

そして再び構え、

 

「でも、彼の方がもっと強かった……かな。」

 

と、審判者は裁判者を見据える。

彼の持つ槍が雷を纏う。

導師アルトリウスは眉を寄せ、剣を掲げる。

再び紋章が光り出す。

審判者はそれを冷たく見据え、導師アルトリウスに突っ込む。

導師アルトリウスの剣が光り、審判者の槍とぶつかり合う。

互いに力のぶつかり合いが始まる。

導師アルトリウスが後ろにずれていく。

 

「アルトリウス様!」

 

監獄島での男対魔士が、眉を寄せる。

驚きながら、

 

「なんなんだ、この力は⁉アルトリウス様と互角だと⁉」

「互角?俺が人間と?笑える冗談だ!」

 

審判者は槍を薙ぎ払う。

彼は少し後ろに飛ばされ、踏みとどまる。

 

「遊びが過ぎたな、審判者。お前が扉側になってるぞ。」

 

裁判者が審判者を見て言う。

審判者が、後ろを振り返る。

そこには祭壇と紋章のある側に変わっている。

さらに、審判者に術が襲い掛かる。

審判者は影でそれを防ぐ。

だが、そこにグサっと音が響く。

そのまま、彼は祭壇奥に吹き飛ばされ、壁に突き刺さる。

壁には導師アルトリウスとは違う剣が、審判者の心臓を貫ぬいた姿。

彼の血が扉に吸い込まれる。

 

裁判者は導師アルトリウスを見て、

 

「まさか、あの剣を見つけていたとはな。」

「我が師に感謝せねばなるまい。」

「なるほど。確かに、クローディンなら剣を見つけ出し、我らの対策法を見いだせるか。いや、見いだしていた……と言うべきか。だが、使い手が使えぬのであれば、宝の持ち腐れだがな。」

 

裁判者は審判者に突き刺さっている剣を見据える。

そして腕を組み、顎に手を当てて、剣を構える導師アルトリウスを見る。

裁判者は祭壇に近付き、

 

「いいだろう、今回はあの剣を見つけ出した報酬として、我が心臓をくれてやろう。」

 

扉の前に立つと、自ら心臓に手を突き刺す。

そしてその血が、扉に流れていく。

扉に魔法陣が浮かび、それが消える。

扉が開き、光の塊が導師アルトリウスの中に入って行く。

再び扉が閉まる。

裁判者は審判者を見て、

 

「行くぞ、審判者。」

 

審判者は自ら突き刺さった剣を抜き、一振りする。

その剣を掲げ、

 

「いやー、ビックリしちゃった。まさか、この剣がここにあるとは。そりゃあ、俺の影を貫けるワケだ。」

「睨むな。これも必要なものだ。心ある者達にとってはな。」

 

と、裁判者は歩き出す。

審判者は剣を床に突き刺し、歩き出す。

 

「いや、でもさ、解ってはいても、驚くでしょ。」

「知らん。」

 

二人は平然と歩き出す。

導師アルトリウスの横を通り過ぎ、出口の扉に手をかける。

監獄島での男対魔士が二人を見て、

 

「待て!お前達をこのまま――」

 

と、裁判者と審判者は立ち止まり、彼を見据える。

彼は瞳を揺らし、一歩下がる。

裁判者は赤く光る瞳で冷たく全体を見て、

 

「今回は、この程度に済ませたのだ。これ以上やるのであれば――」

「俺らは本気で相手にするよ、人間。いくらその剣があっても、聖主カノヌシの力があっても、今の君たちじゃ……俺らを殺せない。」

 

同じく赤く光る瞳で冷たく全体を見る。

彼らの影が広がり、ヘビのように浮き上がる。

導師アルトリウスも、老人の対魔士も、頬に冷や汗が一粒つたう。

裁判者は導師アルトリウスを見据え、

 

「これ以上この地を穢すような事があれば、命はないと思え。」

 

そう言って、扉を開けて出て行く。

歩きながら、審判者は裁判者を見て、

 

「そういえば、いいの?扉開けても。」

「構わない。最奥の扉ではないからな。あの扉程度なら問題はない。」

「それもそうか。所詮、聖主カノヌシを一時的に居れていた扉に過ぎないもんね。」

 

と、彼は笑いながら言う。

だが、頭に手をやり、

 

「でも、聖剣エターナルソードにはホント、驚いたよ。」

「自分で創っておいてか。」

「いやいや、だからだよ。アレ、見つかるとは思わなかったし。あー、でも、君の創った魔剣エターナルソードよりかはマシかぁ~。」

 

と、一人ブツブツ言い始めた。

裁判者は前を見たまま歩き、

 

「私達の力を封じる剣と私達を殺せる剣……。ま、それ以外にも効果やものは色々とあるが……見付けられる者はいないと思っていた。」

「まね。あれは、俺らが互いに世界を壊すときに、心ある者達が対抗できるように創ったからね。で、君はこれからどうするの?」

 

審判者は立ち止まり、裁判者を見る。

裁判者も立ち止まり、

 

「行く末を見てみようと思う。導師アルトリウスに聖主カノヌシが本格的に入った今、あれらはどう抗い、運命を紡いでいくのか。それが私の力を使っている、心ある者達にとってのいい実験になるだろう。その力が救済か災厄か、どちらを掴み取るか……」

 

裁判者は目を細める。

審判者は腰に手を当てて、顎に指を当てる。

 

「ふーん。じゃあ、俺もまた自由行動でもしようかな……。」

「また人間と関わるのか。物好きだな。」

 

裁判者は審判者を見つめる。

彼はニット笑い、

 

「かもね。それでも、俺は気に入ってるんだ。それに、面白い事もあるかもだし。」

「……好きにしろ。」

 

裁判者は歩き出す。

審判者も歩き出し、彼女とは別の方へ歩いて行った。


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