それはアリーシャが自身の答えを、カムランで眠るスレイに言ってから数年が立ったある日のこと。
アリーシャは馬に乗り、マーリンドに向かっていた。
それはローランス騎士セルゲイから送られてきた手紙からだった。
――アリーシャ姫。
このような粗末な手紙を書いて申し訳ない。
じつはヴァーグラン森林で巡回をしていた兵が気になる事を言っていたのだ。
白い服を着た小さな少女を見たそうなのだ。
だが、様子がどうもおかしかったようなので、保護をしようとしたところ見えない結界のようなものに阻まれてしまったそうだ。
そして少女は森深くに歩いて行ったそうなのだ。
私も気になり向かったのだが、兵たちの言うように見えない壁に阻まれてしまった。
もしかしたら、スレイの妹君かもしれないと思い知らせたしだいだ。
もし可能であれば、アリーシャ姫も確かめて貰いたい。
アリーシャはロゼにもこの手紙の事を知らせた。
ひとまず、マーリンドで待ち合わせる事にしたのだ。
アリーシャは馬を走らせ、マーリンドに到着した。
辺りは真っ暗だ。
ひとまず馬を休ませ、宿屋に向かう。
ロゼ達はまだ来ていないのを聞き、宿で待っていた。
翌朝、食堂で寝ていたアリーシャの肩に手が置かれる。
「アリーシャ。」
「……ん?」
そう言って、アリーシャは目を擦る。
そしてハッとして、
「ロゼ!」
「よ!」
ロゼが手を上げる。
従士契約を復活させ、
「ライラ様!ミクリオ様!エドナ様!ザビーダ様!」
「お久しぶりですわ、アリーシャさん。」
ライラが微笑む。
ライラ以外も各々反応を示す。
ミクリオがアリーシャを見て、
「早速で悪いが、そのセルゲイの手紙に書かれている人物はおそらくレイだと思う。」
「ええ。気がかりなのが、見えない壁と審判者が姿を消したこと。その頃から、大地の流れが少しおかしいのよ。カムランの様子も見てきたけど、あっちは以上はなかったわ。」
エドナも真剣な表情で言う。
ザビーダは腕を組み、
「ヴァーグラン森林で何かをしているのか、それとも何かが起きているのか。嬢ちゃんの様子がおかしいこと、その嬢ちゃんの側に審判者が居ないのも変だ。」
「ま、行ってみれば何かしらわかると思う。」
「ああ。行こう!」
ロゼとアリーシャは互いに見合って、ヴァーグラン森林に向かう。
辺りを探り、ロゼは腕を組む。
「うーん、変だな。何も感じない。」
「ああ。異様なまでに何も起きていない。」
ミクリオを辺りを探りながら言う。
ザビーダは腰に手を当てて、左手を顎に当てる。
「うーん……これは多分あれだ。見えない壁……結界が絡んでんだろうな。エドナ、大地の方は掴めそうか。」
「今やってるトコ。……わかったわ。あっちね。」
そしてエドナは傘を森の奥へと向ける。
エドナの示す場所に向かう。
奥の方に木にもたれながら眠っている小さな少女を見つけた。
「レイ!」
ミクリオがそこに駆け出す。
そして顔面から「ゴン!」と、ぶつかった。
「っ痛!」
「バカね、ミボ。見えない壁があるって話だったでしょ。」
エドナは呆れ顔で言う。
ライラは苦笑し、
「ミクリオさんの気持ちも分からなくはありませんが……」
「ですが、エドナ様。この結界を解かない限り、レイの元へは行けません。どうしましょうか。」
アリーシャはエドナを見る。
エドナは傘を肩でトントンさせ、
「問題はそこなのよね。アンタなんか知らないの?」
「俺様?知らねーな。」
と、ザビーダを見上げた。
そのザビーダも肩を上げる。
ロゼはエドナを見て、
「神依≪カムイ≫で壊せないかな?」
「仕方ないわね。やってみましょ。」
と、エドナと神依≪カムイ≫をするロゼ。
そして思いっきり、拳を叩き付ける。
すると、「ビイィィン!」と壁が音を上げる。
そしてひびが入り、穴が開く。
その中に入り、アリーシャ達は息をのむ。
「な、何これ……」
「なんて穢れの量なんだ……」
ロゼとアリーシャは冷や汗が頬が伝う。
ライラが辺りを警戒し、
「しかもこれは領域です!こんな……災禍の顕主よりも濃い穢れなんて!」
「こんな息苦しいなんて思うなんて……」
エドナは傘を握りしめる。
ザビーダは苦笑いし、
「ああ。ロゼと言う器があるってのに……こりゃあ、下手すりゃみんな穢れるぜ。」
「だったら、レイを連れてすぐにここを離れる!」
ミクリオがレイの方に近付こうとする。
それをザビーダが止める。
「待て!ミク坊!」
「なんだ!」
ミクリオはザビーダを睨む。
と、エドナは傘でミクリオの腹を突く。
「っ痛‼」
ミクリオは腹を抑えながら、
「何をするんだ!」
「バカね。冷静になりなさい。この穢れ……災禍の顕主よりも濃い。こんなの異常なのよ。」
「だからなんだ!」
「ホントにバカね。これだけの穢れを出せるのは、裁判者や審判者くらいって話。」
エドナはジッとミクリオを見る。
そんな中、レイがピクリと反応する。
アリーシャがそれに気付き、
「ミクリオ様!レイが!」
「何だって!」
と、レイを見る。
レイは瞳を開け、立ち上がる。
「レイ‼」
ミクリオが駆け寄りる。
だが、様子がおかしい。
瞳には光を感じない。
否、生気を感じない。
そしてレイの影がミクリオを襲う。
「ミクリオ!」
ロゼが武器を手に駆けだす。
しかし、それよりも先に銀色の光がレイの影を斬り裂いた。
そしてミクリオの肩を掴み、
「離れるんだ!」
ミクリオがその人物を見る。
茶髪の少し跳ねた髪、後ろは少し伸びていて、下にまとめていた。
そして裁判者や審判者が付けている同じ仮面をつけた青年。
彼の服装はまるで導師の服みたいだった。
だが、ミクリオは彼を眉を寄せて睨み、
「ふざけるな!あれは僕の妹だ!このままにはしておけない!」
「じゃあ、このまま喰べられたい?」
そう言って、その青年はレイの方を見る。
レイの影は再び動き出す。
青年は儀礼剣を構え、影を斬り裂く。
「ゼロ!レイが起きた!」
青年が叫ぶと、風が吹き荒れる。
そして黒いコートのような服を着た少年が現れた。
その少年は青年を見て、
「うわ⁉ホントだ!しかも、ロゼ達も居るし。とりあえず、結界の外に!」
「わかった!」
青年はミクリオの手を引き、
「行くぞ!」
そう言って、アリーシャ達も連れて行く。
ゼロはレイの頭に手を置き、
「さ、もう寝よう。大丈夫!俺たちが何とかするから。今はお休み。」
再び瞳を閉じたレイを木に横たえ、ゼロも彼らの方に行く。
と、出てきたゼロに、
「どういう事なんだ!ゼロ!」
「ちょ⁉そんなに怒らないでよ、ミクリオ。」
と、詰め寄るミクリオを手を上げる。
アリーシャがロゼを見て、
「ロゼ、あの方たちは?」
「えっとねぇ~……」
ロゼは頭を掻き、ゼロを見る。
ゼロはポンと手を叩き、
「初めまして、ハイランドの姫騎士様。俺はゼロ。そうんだなぁ~、審判者の知り合いだと思ってくれればいいよ。で、こっちは審判者の知り合いの……イレス。うん、イレスって呼んであげて。あと、君の自己紹介はいらなよ、俺も彼も君の事は知ってる。あと、ロゼ達もね。」
と、青年を見て笑う。
青年は苦笑いしていた。
アリーシャは顎に指を当て、
『……ゼロ?どこかで聞いたことあるような……?』
ミクリオはジッと青年イレスを見て、
「で、どういう事なんだ。」
「なにをそんなにツンツンしてんのさ、ミクリオ。」
ロゼが若干意外そうに見る。
青年イレスはゼロを見て、
「でも、この結界壊れちゃったけど、どうするのさ。」
「う~ん、張り直す。」
そう言って、瞳が赤く光り、指をパチンっと鳴らす。
一瞬だった。
結界が壊れ、張り直された。
エドナは半眼で、
「相変わらずのバカげた力ね。」
「さて、ロゼたちの方から来てくれたのは幸いだ。丁度呼びに行くとこだったんだ。」
と、ゼロはニコッと笑う。
青年イレスはゼロを見て、
「交信があったの?」
「いや、まだ。でも、あっちが早いか、こっちが早いか。それには変わりはない。」
ゼロは笑みを浮かべる。
ロゼはゼロを見て、
「で、結局なんなワケ。」
「実はね、今レイと言う器を元に、外側の穢れをあの一帯に留めている状態なんだ。幸い、ここはグレイブガンド盆地にも近いしね。で、その穢れを内側から裁判者が留めている状態。」
ゼロは腰に手を当てて言う。
そして青年イスレの口を押え、
「で、彼にも手伝って貰ってるってワケ。彼があの領域内で力を使えるのは、彼女の仮面をつけてるから。で、一時的に裁判者の力を使えるようにしてるんだ。」
そして小声で、
「焦る気持ちはわかるけど、少し落ち着いて。」
青年イレスは小さく頷く。
彼を離し、
「さて、これからの状況を詳しく知らせたい。でも、あの子をほっとくこともできない。と言うわけで、オレとイレスはここでいつも通りに野営する。」
「勿論、僕はここに残るよ。」
ミクリオが眉を寄せる。
ゼロはニヤリと笑い、
「いやいや、天族組は残ってもらうつもりだったよ~。ま、人間で、女の子のロゼとアリーシャ姫はラストンベルに居ていいよ。」
「あたしもここに残る。野営は慣れっこだし。」
「勿論、私も残る!残るから!」
「わ、わかったから!落ち着いて、アリーシャ。」
詰め寄るアリーシャを、ロゼが落ち着かせる。
そして野営の準備を始めた。
火を囲い、
「――と言うワケさ。」
「ふーん、それでここしばらくバックレたわけね。」
エドナが呆れたように言う。
少年ゼロは、
「いやー、ホントびっくりしたよ。ま、審判者の方も全て裁判者が肩代わりすることで、審判者は動けるからね。でも、それだけじゃ不安定と言うことで、彼にも手伝って貰ってるけだけどね。」
青年イレスはジッと、ロゼとアリーシャを見つめていた。
ロゼも青年イレスを見て、
「で、何?あんたはあたしらに何が聞きたいの?言いたいの?」
「え?あ、いや、ごめん……」
と、頬を掻く。
そして苦笑し、
「俺の今旅をしている者達は、やっぱり似てるなって。」
「は?」
ロゼは首を傾げる。
青年イレスは苦笑するだけだった。
と、アリーシャはクスクス笑い、
「だが、不思議だ。イレスのことを以前から知っているかのような感覚になる。」
「それわかるかもー!」
と、ロゼはアリーシャと見合って笑い合う。
青年イレスはそれを見て、微笑む。
そしてアリーシャ達が眠ったのを確認し、青年イレスとゼロは森の中に居た。
青年イレスにゼロは木にもたれながら、
「で、久しぶりに彼らを見た感想は?」
「そうだね。オレの中ではそうなるね。なんか嬉しいような、複雑と言う感じかな。でも、改めて、二人にそっくりだと思った。」
青年イスレは懐かしむように、口ずさむ。
ゼロは目を細め、
「今の君の世界の理は知ってる。でも、全部じゃない。それでも君の事はまだ、俺は審判者として関わらざる得ない。」
「そこはわかってる。その分、終わったら向こうのお前に構わってもらうさ。」
「くは!その変は変わらないな。」
青年イレスが自信満々でそういうのを、ゼロは笑う。
ゼロは斜め前に視線を向けた後、青年イレスを見て、
「ま、何としてでも止めるよ。」
「ああ!」
そう言って、二人は歩いて行く。
彼らが去った後、木の陰に隠れていたミクリオは腕を組み、
「もしかして……やっぱり……」
翌朝、アリーシャ達は今後の事を整理する。
「と言うわけで、そろそろ動きがあってもいい頃なんだけど……」
「何も起きないな。」
座り、ユラユラしている。
それを青年イレスが苦笑する。
そして立ち上がり、
「さて、オレは中のレイを見てくる。」
「了解。でも……」
「わかってる。遠目から確認するだけだ。」
そう言って、歩いて行く。
青年イレスがレイの様子を見に行ってから数分後、
「ん?……」
ゼロが腕を組む。
そして眉を寄せ、
「成程ね……これまた厄介な……」
「ゼロ!」
と、青年イスレが駆け込んできた。
ゼロは彼を見て、
「うん。あっちでもなんかあったみたい。で、レイの方は?」
「ああ。影が動き出した!辺りの穢れの喰い始めた。」
「なら、もうこっちは動かないとマズイね。」
そう言って、ゼロは自身を風に纏わせ、弾く。
白と黒のコートのような服を身に纏い、仮面をつける。
それを見たアリーシャが、
「審判者様⁉え⁉ロゼ⁉」
「え、あ、うん。ゼロは審判者だよ。」
驚きながらロゼを見るアリーシャ。
ロゼは視線を外して、頭を掻く。
そしてアリーシャは審判者に頭を下げ、
「も、申し訳ありません!審判者様!そうとは知らず、何と無礼な!」
「え?あー、いや、うん。気にしないで。あれはゼロと言う一人の人間だと思ってくれれば……」
だが、アリーシャは頭を下げたままだった。
審判者は頭を掻き、
「アリーシャ、あれは気にしないで。いわゆる社会勉強みたいなもんなんだ。頼むよ。」
「わ、分かりました……」
どこか納得のいっていないアリーシャだが、頭を上がる。
そしてエドナが審判者を見て、
「で、何をするわけ?」
「レイを必死に足止めする。」
笑顔でそう言った審判者に、エドナは半眼で、
「は?何それ。もっと具体的に――」
「ドラゴンとなったレイを、足止めするの。裁判者が来るまで。」
それを聞き、エドナ達だけでなく、青年イレスまで驚く。
そして青年イレスは審判者を肩を掴み、
「どういう事だ!オレは聞いてない!」
「言ってないもん。」
「ゼロ!」
彼の手を放し、
「本当はそうなる前に、止めたかった。でも、あっちの穢れまで、こっちに流れ込み始めた今、あの子がドラゴンになるのも時間の問題。普通のドラゴンとはケタが違う。だから気をつけてね。」
「あっちのレイも無事なのか!みんなは!」
青年イレスは声を上げる。
審判者は歩き出しながら、
「そこは大丈夫。その為に、裁判者と審判者がより早くこちら側に穢れを流れるように組み替えてる。そうする事で、こっちに裁判者が来れる。そうすれば、こっちと向こうで扉を開ける事ができるからね。で、どうするの?」
「……やる。そのためにオレはここに来た。」
そう言って、彼の方に歩み寄る。
そしてロゼ達も歩き出し、
「勿論、あたしらもやるよ。こんなとこで、ドラゴンが暴れ出したらまずいからね。」
「ああ。早めにレイを何とかできるのなら、救わねば。」
アリーシャも頷く。
審判者が立ち止まり、
「え、本気?……仕方ないな。」
彼はクルッと回ると、
「君たちはグレイブガンドの方に向かって。俺が穢れごとそっちに持ってく。イレス、君も彼らと先に行ってって。」
そう言って、駆け出していった。
青年イレスはロゼ達を見て、
「急ごう、みんな。」
「ああ!」
そう言って、駆け出していく。
グレイブガンド盆地につき、近くに居た兵達を安全な場所に誘導した。
と、一気にグレイブガンド盆地の空気が変わる。
目の前に、審判者と起き出したレイが居る。
「来るよ!」
審判者がロゼ達を見て叫ぶ。
そしてレイの瞳が赤く光り出すと、影がレイを飲込んだ。
それが膨れ上がり、翼を広げた。
そこに、真黒なドラゴンが現れる。
「ぐぎゃあああ!」
そしてすぐ側に居た審判者を叩き潰そうとする。
「っと!危な!」
ロゼ達の所まで下がり、
「俺はあの子が飛び出さないように、結界と足止めをする。君たちで、攻撃を防ぎながら、時間を稼いでくれ!」
そう言って、彼は腕を前に出し、強大な魔法陣が上下左右にドラゴンの辺りを囲う。
さらに、ドラゴンの影が動き出し、翼や足を縛る。
青年イレスは儀礼剣を抜き、
「頼む、力を貸してくれ。」
胸に手を当てて言う。
そう言うと、銀色の光が彼を包み、
「行くぞ!」
彼は駆け出した。
ライラ、エドナ、ザビーダはすでに詠唱を始めていた。
ミクリオはロゼを見て、
「ロゼ!」
「了解!」
二人は神依≪カムイ≫をし、アリーシャも槍を構えて共に走り出す。
シッポと、黒い炎を避けながら、ドラゴンを抑え込んで行く。
だが、疲れを知らないドラゴンはピンピンしている。
「まったくホントに、今までのドラゴンとはケタが違うわね。」
「いや~、これならマオ坊やヘルの野郎の方が可愛いくらいだぜ。」
と、エドナとザビーダは息を整えながら言う。
ライラも息を整えながら、
「はい。この状況で、まだ私たちが生きていられるのは、審判者とあのイレスさんのおかげです。」
「ホント、アイツ強いね。でも、あの戦い方みてるとスレイを思い出すんだよね。」
「ああ。スレイもここに居てくれれば、戦況はもっと変わるのだろうが……」
「泣き言は言っていられない!」
と、ロゼとアリーシャは汗を拭いながら言う。
ロゼと神依≪カムイ≫していたミクリオは神依≪カムイ≫を解き、
「……ロゼとアリーシャ以外は気付ているんだろ。」
ミクリオは後ろの天族組を見る。
ライラ達は黙り込む。
ミクリオは前を向き、
「だから、終わったら教えてくれ。」
そう言って、天響術を詠唱し始めた。
ライラはミクリオを見て、
「ミクリオさん……はい!」
と、戦闘を開始した。
どれくらい経ったか解らないくらい彼らは戦い続けた。
だが、その彼らもついに武器を支えにしないと立てられない。
その時、審判者の拘束が壊される。
審判者は青年イレスの横に立ち、汗を拭いながら、
「もう拘束は出来ないね。それに、彼らも、君も、そろそろ限界だ。さて、どうするかな。」
審判者が腕を前に出し、魔法陣を出して、ドラゴンの黒い炎を防ぐ。
そこに無数の矢が飛んできた。
彼は空を見上げ、
「やっとか!」
ロゼ達も空を見上げる。
そこには扉が見える。
その戸は開いていて、闇の中から再び無数の矢が飛んでくる。
そして扉が消えると、
「大分遅れたな。」
「結構ね。」
青年イレスの横に、黒いコートのようなワンピース服を着た少女が降り立つ。
審判者は仮面を外し、彼女に渡す。
それをつけ、影から剣を取り出す。
「まだ動けるか?」
「俺は行ける。」
「オレもまだいける。」
そう言って、審判者も影から剣を取り出す。
裁判者は審判者の方に何かを投げる。
審判者はそれを受け取り見る。
「成程ね。」
「あれは持ってきているな。」
裁判者は後ろの青年イレスを見る。
審判者が瞳を閉じ、何かを持っているそれを握りしめる。
そして瞳を開き、それを青年イレスに投げる。
青年イレスはそれを見て、
「ああ!持ってる!」
「なら、後はお前と、お前とリンクしているお前達の力を入れるだけだ。こちらで足止めはする。」
裁判者は審判者と駆け出す。
青年イレスはそれを握りしめ、瞳を閉じる。
裁判者と審判者は黒い炎を斬り裂き、ドラゴンを飛ばせないように足止めする。
シッポの攻撃を審判者が剣で防ぎ、裁判者がそれをくぐって斬り付ける。
そして青年イレスは瞳を開け、腰から一つの銃を取り出す。
その銃を見たロゼが、
「ジークフリード!何で⁉」
彼を見て驚く。
青年イレスは弾丸を入れ、銃≪ジークフリード≫を構える。
「返してもらうぞ!オレの妹を‼」
彼は銃≪ジークフリード≫を放つ。
それがドラゴンの胸に当たり、
「ぐぎゃあああ!」
と、咆哮を上げる。
その一部がヒビが割れ、レイが落ちてくる。
ミクリオが駆け出し、スライディングでキャッチする。
青年イレスも駆け寄り、
「レイは!」
「大丈夫だ!」
そう言って、二人はレイを見る。
レイは眠っていた。
裁判者が二人の前に着地し、
「審判者!」
「了解!あっちは任せて。」
審判者はロゼ達の方に行く。
裁判者は腕を前に出し、
「裁判者たる我が名において、禁忌の扉!時空の扉を開門する!次元を越え、我が声に応えよ!」
魔法陣が浮かび、そこから大きな扉が現れる。
最初に裁判者が現れた時と同じものだ。
その扉が開き、
「やるぞ、導師!このままヤツを未来に持ち帰る!」
「ああ!」
青年イレスも立ち上がり、剣を構える。
そして二人は駆け、
「黒い業の炎、喰らい尽くせ!喰魔の力!」
「浄化の炎よ!頼む!」
裁判者の持つ剣は黒い炎が纏い、影がドラゴンを貫く。
青年イレスの剣も青い炎と銀色の光が包み込む。
二人は扉にドラゴンを押し込んでいく。
そして裁判者が後ろに下がり、思いっきり走り込んで蹴り込んだ。
ドラゴンは扉に吸い込まれていく。
青年イレスは裁判者を見て、
「ホントにオレ、必要だった?」
「当たり前だ。一応な。」
と、剣を影にしまい、伸びをする。
裁判者は青年イレスを見て、
「さて、帰るか。」
「……ああ。」
「導師。想いを伝えるだけなら別に構わないぞ。」
「え……?」
そう言って、裁判者は仮面を外し、後ろに投げる。
審判者はそれを受け取り、
「未来の僕によろしく。」
「ああ。」
裁判者は手を上げる。
青年イレスは彼らに背を向けたまま仮面を外し、
「みんなが繋げてくれた世界で、オレは今旅をしてる。沢山の遺跡を調べて、憑魔≪ひょうま≫を浄化して、みんなで旅をしてる。ロゼとアリーシャはいないけど、二人にそっくりで、意志と想いを継いだ子が自分探しの旅と、世界を知るために共に世界中を旅してる。二人が……みんなが繋げてくれた未来はとっても輝いてるよ。」
そう言って、振り返って笑う。
「だからオレは未来で待ってる。」
そして裁判者に仮面を渡し、扉に向かって歩き出す。
裁判者も歩き出し、
「後始末、頼んだぞ。」
「はは、頑張るよ。」
審判者は苦笑して言う。
ロゼ達は瞳を揺らす。
そして二人が入って行き、扉が閉まる直前、
「待ってろー、スレイ!絶対!今見てるスレイの世界を届けてやるー!」
「ああ!絶対だ、スレイ!待っていてくれ!絶対に君の繋げた想いを、縁を、未来に届けるからー‼」
「僕も、お前との約束を守るからなー!」
ロゼ、アリーシャ、ミクリオが叫ぶ。
スレイは最後にもう一度微笑み、扉が閉まった。
彼らが去った後、レイが目が覚ます。
「ん……」
目を擦りながら、
「おはよう、ミク兄……」
「おはよう、レイ。」
と、ボーとした後、
「ゼロ、終わった……みたいだね。裁判者がぐったりしてる。」
「だろうね……さて、俺が後始末する事になってるんだけど、ホントに裁判者はまだ疲れてる?」
「ん。後はゼロに任せるって。」
レイはミクリオに抱き付いて言う。
審判者は肩を落とし、
「ま、いいや……。行ってきます……」
と、審判者は一人、ドラゴンが居た場所で色々とやり出した。
レイはミクリオの上で嬉しいに座っていた。
ミクリオはレイを見下ろし、
「レイは手伝わなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫。前の異界人の時は私一人でやったからいいの。」
と、嬉しそうに言う。
ライラが手を合わせて、
「ふふ。レイさん、嬉しそうですわね。」
「まぁ、なんたってあれから結構立ってるからな。直接は会ってないし。良かったな、ミク坊。」
「そうね、その辺に免じて今日は良いにしてやるわ。良かったわね、ミボ。」
と、ザビーダとエドナもニヤニヤしながら言う。
ミクリオはムッとして、
「うるさいな。でも、三人はあれがスレイだって、最初から気付いていたのか?」
ミクリオは真剣な表情になる。
ロゼとアリーシャも思い出したように、
「そうだよ!スレイの顔を見ても、たいして驚いてなかった!」
「どういう事でしょうか⁉」
と、彼らを見る。
ザビーダがライラを見て、
「どうなん?」
ライラは手を合わせて、視線を外して、
「そもそも、裁判者と審判者は古来よりこの世界を見てきました。その中には、我々の知らない世界を知っています。かの者との決戦の前もとある場所に迷い込んだ異世界のお二方出会い、ミクリオさんの思春期らしい感情が垣間見え、ドラゴンと戦い、遺跡巡りをしたり――」
と、話し始めた。
ミクリオとロゼは察し、
「わかった。ライラには聞かないよ。」
「マオテラス絡みってのはわかったけど。」
と、二人は呆れ顔になる。
ザビーダは笑いながら、
「がはは!いっやー、ミク坊は憑魔≪ひょうま≫化したマオ坊しか知らんからわからんだろが……あの銀色の光の力はマオ坊の力で間違いない。んで、決め手は裁判者が仮面を貸したってとこか。」
そして真剣な表情になる。
隣に座っていたエドナも真剣な表情で、
「そうね。裁判者と審判者の仮面は普通の仮面じゃないのよ。あの仮面ひとつにも、アイツらの力が宿ってる。で、仮にマオ坊の力を持ってた彼を私達は疑問に思った。この世界のマオ坊はまだ穢れの中に居る。それが浄化されたとは考えにくい。」
「カムランの記憶を見た時、嬢ちゃんが禁忌扉って言って、それをしようとしたって言ってたの思い出して、アイツらなら、『未来や過去も行き来できるかもな~』って思ってな。んで、『あっちのレイも無事なのか!みんなは!』って言ったもんだから、こりゃあもしやって思ったんよ。んで、案の定ジークフリードを持ってるもんだから、確定したわ!」
ザビーダはニッと笑う。
エドナは続ける。
「それだけじゃないわ。彼は一度も、ゼロとレイのことを審判者と裁判者と言わなかった。それは知ってるからよ。今自分の側に居るのが、器の人間の方だと。仮に、未来で既に彼らが人間としての器を完成していれば別の話だけどね。第一、あの裁判者が自分の力を預けるとかありえないわ。」
と、エドナはノルミン人形を握りつぶす。
全員がピシッと固まった。
そこに疲れたように、だが、普通そうに、風に身を包み黒いコートのような服に変わる。
「あー疲れた。……ってあれ?」
「何でもないよ。終わった?」
レイがゼロを見上げる。
ゼロはレイを見て、
「うん、終わった。で、この後はどうするの?あの子がいくら疲れてるとは言え、いつまでも君のままと言う事はもう少し彼らと居ても良いって事だろ?」
「ホント⁉えっと、えっとね……どうしよう?」
と、レイは嬉しそうにミクリオを見上げた。
ミクリオも考え込む。
そこにロゼが、
「ならさ、ラストンベルに行かない?汗だくだし、サウナ行かない?」
「そうれもそうだな!エドナ様、お背中流します。」
アリーシャがエドナを見る。
エドナは立ち上がり、
「そう。なら、お願いしようかしら。わかってると思うけど、私のこのか弱い肌を傷つけたら許さないから。」
「はい!エドナ様!」
と、アリーシャも立ち上がる。
レイはミクリオから降りる。
ゼロは立ち上がったミクリオを見て、
「サウナ……ああ!裸の付き合いってやつか!それ凄い気になってたんだ!ミクリオ、行こうよ‼」
「わ、わかった……わかったから、落ち着いたらどうだ。」
ミクリオは苦笑していう。
レイはライラの手を取って、
「ライラ、洗って~。」
「はい、わかりましたわ。」
と、ライラはレイの手を握る。
ゼロはレイを見て、
「レイは入ったことあるの?」
「あるよ。イズチに居た時はお兄ちゃん達と水浴びしてたけど、旅をするようになってからサウナに入るようになった。最初の頃はお兄ちゃん達と入ってたけど、デゼルの説教が長々と続いてからは、ロゼ達に無理矢理連れてかれた。で、ザビーダが仲間になってから昔みたいにしようとしたら、エドナがザビーダをボコって、ライラが長々と説明もとい諭すように永遠と説教が。」
ゼロは首を傾げる。
ザビーダは笑いながら、
「そういや、そんな事もあったな~。」
エドナは傘を構えて、ザビーダをボコり始めた。
そしてゼロは、
「よくわかんないけど、いいや。じゃあ、早速ラストンベルに行こう。」
と、指をパチンと鳴らす。
すると、ラストンベルの入り口に自分達は居た。
ロゼはゼロを見て、
「ゼロ、アンタ……裁判者に後で殺されるかもね。」
「そうね。殺されそうね。」
エドナも半眼で見た。
ザビーダは立ち上がり、
「ま、いいじゃねぇ~。その分、早くサウナに入れるしぃ~。」
と、エドナは半眼で、ライラは真顔でザビーダを見ていた。
ザビーダは口笛を吹きながら、宿屋に向かっていく。
宿屋につき、男女に分かれてサウナに入っていた。
ミクリオはゼロを見て、
「それにしても、未来からスレイが来るとは思わなかった。」
「ん~、俺もかな。本来は禁忌の行為だからね。よく、未来の裁判者が許したと思うよ。ま、未来になれば本当の意味での真意がわかるんじゃない?何せ、物陰から俺らの話を聞いてたくらいだし。」
ゼロはニコッと笑う。
ミクリオはそっぽ向く。
と、彼らの横では……
「前の時はライラに邪魔されたが、今回こそは!」
と、ザビーダがブツブツ言っていた。
ミクリオはそれを無視し、再びゼロを見て、
「ま、未来の事は未来になったら考えるさ。だが、レイ……君たちは天族のようにドラゴンになるんだな。」
「いや、俺はなれないよ。」
ゼロは笑顔で言った。
ミクリオは目をパチクリし、
「え?」
「だから俺はなれないよ。ドラゴンになれるのは裁判者だけ。そもそも、裁判者とは人を裁く者。審判者は神を裁く者だからね。で、内側の俺はその人と関わりが深い。逆に外側のあの子は五大神とか神とかに関わりが深い。だから人情が深い俺が、その情に飲まれた時はあの子が俺を裁けるように、裁判者ってワケ。現に今回がそう。で、神側に属するあの子はドラゴンにもなれる。で、俺は逆にそんなあの子を裁けるように、審判者ってワケ。」
「そ、そんな事が……。だが、そんな事話していいのか?」
「本来はダメ。でも、どうせスレイには話すつもりだったし。なら、君に話してもいいかなって。」
と、天井を見上げる。
ミクリオは真剣な表情で、
「なんで、そんなに情があるのに人から……感情ある者達から距離を取るんだ?裁判者の記憶を見たが、どうしても納得がいかない。」
「……ん~、理由は色々あるけど……。俺らも最初から距離を作ってたわけじゃない。でも……人も、天族も、心ある者達は俺らを恐れ、先に距離を取ったのは君たち。初めて俺が傷をおった時、死を理解できなかった。だから俺は俺らにしたように、人も天族も時には傷つけた。つい最近までね。ま、それでも俺は何故だか、心ある者達から離れる事は出来なかった。俺らは変わることなく、死ぬこともなく、この世界が終わるまで過ごしていくんだろうね。」
「ゼロ……」
ミクリオが寂しそうに天井を見上げる彼を見つめる。
と、横に座っていたザビーダが、
「そんな深く考えなくていいんじゃねぇか。昔は昔、今は今。人や天族が成長するのは遅いようで早い。それが、裁判者と審判者にとっては、早いようで遅いってこった。俺らと違って、長い年月を得て成長する。それを理解できていなかった俺らが、今のお前達を作ってしまった。なら、その今を変えればいいだけの話だ。」
「ザビーダ、君――」
「お、アリーシャちゃんもなかなか……」
ミクリオはザビーダを驚いたように見た矢先、ザビーダはニヤニヤして顎に手を当てる。
ミクリオは半眼で、
「僕は知らないぞ、どうなっても。」
「何が?」
「ゼロは知らなくてもいいこと。」
「ふーん。」
ゼロは首を傾げながらミクリオを見ていた。
その矢先に、ザビーダが声を上げる。
「アッチ‼ライラのヤツ、本気で燃やしたな!」
「自業自得だ。」
「だから何が?」
ミクリオは呆れながら言って、ゼロはさらに首を傾げた。
レイはライラに髪を洗って貰っていた。
右側ではアリーシャがエドナの背を洗い、左ではロゼが鼻歌を歌いながら体を洗っている。
と、ロゼが思い出したかのように、
「そういや、未来のスレイには驚いたなぁ~。髪も伸びてたし。」
「ああ。何と言うか私たちの知るスレイが成長したっていうのを実感した。それに、スレイが目覚めてくれる未来がわかったことがとても嬉しい!」
「だね。」
アリーシャは嬉しそうに言う。
ロゼも、笑顔だった。
が、ロゼは目をギュッと瞑っているレイを見て、
「にっしても、レイがドラゴンになった時は驚いたぁ~。二人もドラゴンになるもんなんだねぇ~。」
ライラがレイの頭に水をかけ、レイは目を開き、
「ドラゴンになれるのは裁判者だけだよ。」
「え?」
「そうなのか?」
アリーシャもレイを見た。
レイは頷く。
アリーシャはエドナの背に水をかけながら、
「だが、レイ。前に聞こうと思っていたのだが、審判者様が裁判者様と違って、人の世に凄い関わっているのだろう。なら、審判者様の方が裁判者様と言う方が正しいのではないか?」
「ん?」
ロゼが目をパチクリする。
アリーシャは苦笑する。
エドナがロゼを見て、
「裁判者とは人を裁く者、審判者とは神を裁く者、と言う意味があるのよ。」
「あ~、成程ね。確かにそれを言ったら、ゼロの方が人を裁く方がしっくりくる。」
ロゼが頷く。
ライラも顎に手を当て、
「言われてみれば、そうなりますが……。それゆえに、審判者はドラゴンにならないのでしょうか?」
「さあね。」
エドナはそっけなく言う。
レイは天井を見ながら、
「それはね、人と関わりの深いゼロが私情を挟んだ時に力を使い過ぎないようにする為だよ。いい例が今回の件。だから裁判者は審判者と対立した。で、神とかに関わりを置く裁判者は逆に、その神を裁ける力を持つ審判者が止めると。ま、今回私がドラゴンになったのがいい例かな。」
「その為か?レイ達が、我々と距離を取ろうとしていたのは?」
アリーシャがじっとレイを見る。
レイはアリーシャを見て、
「そっか。アリーシャは裁判者の記憶見てなかったね。と、言っても見ていたロゼ達も詳しくは知らないか……あれ、結構短縮型だし。裁判者と審判者も最初っから距離を取ってた訳じゃないんだ。でも、世界に対して……と言うよりかは、人や天族達に恐れを抱かせるくらい力が強すぎたんだ。自分達が力を理解した頃には、心ある者達の方から距離を取ってた。で、その有り余る力を暴走させないように、四大神と盟約を交わし、願いを叶えると言う理を創り出した。そうしている内に色々あってね。死や感情を理解するのに千年以上もかかちゃった。」
と、レイは苦笑する。
レイ達は湯につかり、アリーシャがレイを見て、
「レイ、さっきの話だが……成長するのにレイも、ゼロ様も、時間がかかるだけで、私たちとは何も変わらない。」
「お!アリーシャ、良いこと言うじゃん!ま、あたし達だってすぐには成長しないだから、別にいいと思うしね。昔は昔、今は今ってね!」
ロゼはニッと笑う。
エドナも小さく笑い、
「そうね。過去は変えられなくても、今を変えればいいだけの話ね。裁判者とは仲良くなれないけど。」
「エドナさん……。そこでそれをいうのですわね。」
ライラが苦笑する。
レイは小さく笑い、
「ん。そうだね。」
「はい。今を大切に。明日に向かって、ですわね。」
と、ライラは笑顔で炎をぶちまけた。
隣の方から、
「アッチ‼ライラのヤツ、本気で燃やしたな!」
ザビーダの叫び声が聞こえてきた。
エドナは半眼で、
「学習しない奴ね。」
「あはは……ザビーダ様らしいといえば、らしいような気もしますが……」
アリーシャは苦笑する。
そして四人は湯に身を預け、
「「「「気持ちいい……」」」」
『……ゼロも楽しそうだな。今度はお兄ちゃんもゼロと入れると良いな。でも、なんだかんだ言って、みんなって似てるなぁ~。』
レイは水遊びをしながら思うのだった。
そして深夜、レイは置手紙を置いて、みんなから離れて行った。
ゼロと宿を出ると、
「行くのか?」
「ミク兄。」
レイが振り返ると、ミクリオが外に立っていた。
レイが小さく笑い、
「ん。でも、また――」
「会いに来るんだろ。待ってるさ。」
「ん。」
と、レイはミクリオに抱き付く。
ゼロは苦笑し、
「俺の事は待ってくれないの?」
「君は、レイのおまけでついてくるだろ。」
「うわー、ひっど。否定できないけどさ。」
そう言って、見合って笑う。
ゼロはレイを抱き上げ、
「ミク兄、またね。」「じゃ、またね。」
「ああ。またな。」
そう言って、二人は風に包まれて消えた。
ミクリオはしばらくして宿に入る。
と、ザビーダはニット笑い、
「ミク坊も随分と大人になったじゃないの。」
「そうね。ついこないだまでは、おチビちゃんが居なくなると泣いてたものね。」
エドナはジッとミクリオを見て笑う。
アリーシャはエドナを見た後、ミクリオを見て、
「そうなのですか⁉ミクリオ様、大丈夫です!またすぐに会えますよ!」
「あはは!だってさ、ミクリオ。」
ロゼが笑いながら言う。
ライラも苦笑して、
「そうですわね。大丈夫ですよ、ミクリオさん。」
ミクリオは頬を赤くして、そっぽを向く。
「全く。僕は子供じゃない!それにエドナの言うことは嘘だから!僕は泣いてないからな!」
と、部屋に入って行った。
エドナは悪戯顔で、
「ホント、ガキね。これだからミボは子供なのよ。」
「がはは!ちがいねぇ!ミクリオはお子様だ!」
ザビーダは腹を抱えて笑う。
ライラは頬に手を当て、
「ですが、それがミクリオさんですわ。」
「そうですね!」
「ま、仕方ないね。」
アリーシャとロゼは見合う。
そして各々部屋に戻るのであった。