テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第四十九話 友達

アリーシャ達は洞窟の中を突き進む。

エドナは歩きながら、

 

「思ってたよりもひどい状態ね。」

「ええ……強力な憑魔≪ひょうま≫も、生まれてしまっているようです。あの裁判者と言う方は大丈夫でしょうか。ここを一人で入って行ったようですし。」

 

アリーシャが辺りを見渡して言う。

エドナはムッとして、歩く速度が上がる。

ライラはアリーシャを見て、

 

「あの方なら大丈夫です。私たちよりも、お強い方ですから。」

「ですが……」

 

アリーシャは眉を寄せる。

ライラは苦笑しながら、

 

「本当に大丈夫なんですよ。あの方はお一人で、ドラゴンを喰らったり、倒したり、吹き飛ばしたりする方ですから。」

「ドラゴンを⁉」

 

アリーシャはライラを見て、目を見張る。

そこにロゼが早歩きで、

 

「ご託は後。急ぐよ!」

「わかった!」

 

アリーシャも、歩く速度を上げる。

エドナはロゼの背を見ながら、

 

「怒ってるわね。ま、当然かしら。」

「はい……封印していたのに、こんな状態になっているのですから。……それも、何者かの手によって。」

 

ライラも、ロゼの背を見て手を握りしめる。

エドナは傘を握りしめ、

 

「……でも、裁判者や審判者がやったとは思えないわ。レイはここを止め、裁判者は憑魔≪ひょうま≫を薙ぎ払った。」

「はい。審判者も、私たちにわざと過激派と合わせ、ここに誘導した。彼らが直接何かをしないと言うことは、私たちでケリをつけなくてはいけないと言うことでしょうね。それにはアリーシャさんが関わってる。だからレイさんも姿を現した。」

 

ライラは手を握り合わせる。

エドナも、視線を落とし、

 

「……そうね。」

 

そして二人は、前を突き進むロゼとアリーシャを見る。

互いに頷き合って、早歩きで二人元に行く。

 

アリーシャは早歩きで進みながら、

 

「カムランにはスレイに関わる何かがあるのですね?」

「ま、気付くわよね。」

 

エドナは淡々と言う。

アリーシャはジッとロゼを見つめる。

ロゼはその視線を感じ、

 

「何?」

「さっさと片付けよう!」

「教えないよ?」

「聞いてないって。」

 

そう言って、二人は互いに見合って奥に進む。

その途中で、過激派の残党達と鉢合わせになり、物凄い勢いで叩き潰していく。

 

一行は広い場所に出た。

エドナは辺りを見渡し、

 

「終わり?」

「ですね。もう人の気配はしません。」

 

アリーシャも辺りを見渡たす。

ロゼは辺りを警戒し、

 

「妙だね……」

「ええ。過激派の人たちが穢れていたとしても、それだけで全員が憑魔≪ひょうま≫になったり、ここがこれほど穢れたりするはずがありませんのに……」

 

ライラも、辺りを見渡す。

エドナは真剣な表情で、

 

「それにワタシが塞いだ入り口が、偶然入れるようになるわけもないわ。何より、ここに入ってから一度も、裁判者も審判者にも会っていないわ。」

「はい。もう少し進んでみましょう。」

 

ライラがロゼを見る。

ロゼは頷く。

アリーシャは俯くのを見たライラは、

 

「待ってください、ロゼさん。」

「今度は何?」

 

ロゼは振り返る。

ライラはロゼを見て、

 

「裁判者や審判者の事は教えておいてもよろしいかと。」

「……そうね。どうせ、今に会うだろうから。」

 

エドナもそれに同意した。

アリーシャはロゼを見た。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「……はぁ。アリーシャ。」

「何?」

「……裁判者、さっき会ったアイツだけど、簡単に説明すると世界の番人みたいな人。人でもないけど……。で、もう一人、審判者っていう番人がいる。」

「えっと……?」

 

アリーシャは腕を組み、顎に指を当てる。

ライラがアリーシャを見て、

 

「裁判者はこの世界を導くために、世界を管理する者。その対となるのが、審判者。彼はこの世界を導くために、世界を裁く者ですわ。そして私たちや世界の運命を一番知っている者、ですわ。」

「つまり、神様的なような感じでしょうか?」

「平たく言えば、そんな感じよ。で、おチビちゃんは……その裁判者の一人って事。」

「レイが⁉でも、それならレイのあの強さや予言めいた言葉にも、納得がいきます。」

 

エドナの言葉に、アリーシャは納得する。

だが、視線を落とし、

 

「だからレイは、今一緒に居ないのですか?」

「……ええ。おそらくね。」

 

エドナは淡々と言った。

ロゼは奥を見て、

 

「さ、もう行こ。時間が惜しい。」

「そうだな。」

 

アリーシャも奥を見る。

そして奥へと足を踏み入れる。

 

奥に進むと、空気が変わる。

 

「な、何?」

 

アリーシャが驚いて足を止める。

エドナが半眼で、

 

「ここで不思議ちゃんとはね。」

「なんか、凄く妙な感じ。」

 

アリーシャは胸を抑える。

ロゼがアリーシャを見て、

 

「アリーシャ!気を付けて!この幻術はかなり厄介だよ。そう簡単には打ち消せない……。今はまだ何もないけど、この先で変なのが出てきても慌てちゃダメだからね?」

「わ、わかった。」

 

アリーシャは頷いて、再び歩き出す。

進むと、再び広い場所に出た。

そしてアリーシャは目を見開いた。

立ち止まり、こちらに歩いてくる青い騎士服を着た女性を見る。

 

「せ、師匠≪せんせい≫……」

「アリーシャさん!」

 

ライラが、固まっているアリーシャを見る。

そしてその青い騎士服を着た女性は、冷たくアリーシャを見て、

 

「まだ師と呼ぶのか。本当に愚かだな。」

「サイモン……何のつもり?」

 

ロゼは辺りを警戒し、青い騎士服を着た女性・マルトランを睨む。

そして騎士マルトランは穢れを纏った槍を構え、

 

「さぁ!抗ってみせろ!アリーシャ・ディフダ!」

 

そう言って、アリーシャに突っ込む。

 

「アリーシャ!」

 

ロゼが叫び、そのアリーシャの前にロゼが手を広げて立つ。

騎士マルトランは動きを辞め、後ろに下がる。

アリーシャはロゼを見て、

 

「なんて無茶を!」

「……これはひどいよ。」

 

ロゼが呟く。

アリーシャはその言葉に瞳を揺らし、俯く。

 

「あたし、やろっか?」

 

ロゼの言葉が響く。

アリーシャは首を振り、

 

「……ううん。私、やる。やらなきゃ……」

「責めないよ?今戦えなくても。」

 

アリーシャは瞳を閉じ、開き、

 

「やる!」

 

そう言って、騎士マルトランの方に駆けて行く。

ロゼは笑い、

 

「ったく。」

 

ロゼも駆け出した。

ライラとエドナも互いに見合って駆けて行く。

騎士マルトランの前に立ち、武器を構える。

 

「手助けは要らない!これは……」

「勝手にやってる事。空気だと思ってて。」

 

と、ロゼは笑いながら、突っ込んで行く。

そしてそこに炎の天響術が繰り出された。

 

「空気2号、参上ですわ!」

「ワタシが3号になる流れ作らないでくれる?」

 

エドナが天響術を詠唱し始める。

ロゼはアリーシャを見て、

 

「やっちゃいな!アリーシャ!」

「みんな……!」

 

アリーシャは槍を握りしめる。

と、騎士マルトランが槍を振るいながら、

 

「お前は不快なものをただ排除したいだけ……それは感情にまかせた愚かな行為だ。」

「そうかもしれない……けど、もう決めたんだ!」

 

アリーシャは騎士マルトランの攻撃を防ぎながら言う。

ロゼはアリーシャを見て、

 

「決めた、か……」

 

騎士マルトランの攻撃は続く。

 

「気付いているのだろう?私が幻だということに。」

「見えているものが現実であり事実。あなたが言った言葉です!師匠≪せんせい≫!」

「……その言葉に従うことこそが、お前が進んでいない、何よりの証。」

「わかってる……!」

 

アリーシャは槍に力を籠め、自分の出せる最大の力を全て叩き付けた。

騎士マルトランは膝を着き、

 

「ぐふっ……」

 

そして浄化の炎が彼女を包む。

彼女は浄化の炎を飲込み、アリーシャを睨む。

 

「ふふ、浄化などされてたまるか……真に浄化されるべきはっ!この世界の方なのだから!」

「同じですわ……。あの時と。」

 

ライラが悲しそうに、その光景を見る。

ロゼはライラとエドナを見て、

 

「……本物のマルトランの時は、自害されちゃったんだよね?」

「それも、あの子の槍でね。不思議ちゃん、最期まで再現する気よ。いいの?放っておいて。」

 

エドナはロゼを見る。

ロゼはアリーシャを見て、頷いた。

 

「うん。」

 

アリーシャは今にも泣き出しそうな顔で、騎士マルトランを見ていた。

 

「師匠≪せんせい≫……」

 

騎士マルトランはよろよろと、アリーシャに近付く。

そしてアリーシャの持つ槍に手を伸ばす、

 

「ここで手を止め、相手を気遣う……。私は、そんな優しいお前が――」

 

だが、騎士マルトランは目を見張った。

そして自分の腹を見る。

そこには、アリーシャが自身の槍を突き刺していた。

 

「反吐が出るほど嫌い、ですね……」

 

アリーシャは顔を上げ、騎士マルトランの頬を振れ、

 

「さようなら!マルトラン!」

 

片方だけ涙を流し、微笑んだ。

騎士マルトランは後ろに倒れ込んだ。

そして騎士マルトランは影に飲み込まれていった。

それを見たエドナは、

 

「そういうことね……」

「あの方と本当に決別するために、あえて……」

 

ライラはアリーシャの背を見つめた。

ロゼは悲しそうにアリーシャを見て、

 

「……ホンっト、不器用な子。」

 

そしてアリーシャに近付こうとした時、

 

「何故だ。」

 

アリーシャの前に、紫色の服を纏い、同じく紫の髪を左右に結い上げた少女が現れる。

ライラはその人物を見て、

 

「サイモンさん。」

「何を微笑む……」

 

そして歩てくる。

アリーシャは驚き、

 

「誰?」

「幻術を操る天族、サイモンさんですわ。」

「さっきの幻はこの不思議ちゃんの力よ。でも、あれは裁判者の力も入っていたみたいだけど。」

 

そう言って、天族サイモンの後ろを睨むエドナ。

その後ろの影から、仮面をつけた少女が現る。

 

「私は、私の仕事をしただけだ。アイツの貸しもあったしな。」

「アイツ?」

 

ロゼは首を傾げる。

そしてアリーシャは天族サイモンを見て、

 

「この天族≪ひと≫の……そしてあなたの……」

「なぜ古傷をえぐられて微笑む!何に抗っている!」

 

天族サイモンは眉を寄せて怒鳴り始める。

アリーシャは、その天族サイモンを見つめ、

 

「ありがとう……」

「な、に……?」

 

天族サイモンはアリーシャを見る。

アリーシャは微笑み、

 

「後悔していた事をやり直させてくれて。」

 

天族サイモンは困惑する。

裁判者はジッとアリーシャを見つめる。

 

「本当にありがとう。これで進める。あなた方の力のおかげです。」

 

アリーシャは笑顔で、天族サイモンを見つめた。

天族サイモンは俯いた。

ロゼは腕を組んで、

 

「こういう子みたい。」

 

天族サイモンは黙って、歩き出す。

その彼女にライラが、心配そうに見つめる。

 

「サイモンさん。」

「……失われたものの大きさを再認識はできた。」

 

そう言って、ロゼの横を歩いて行く。

ロゼは天族サイモンを見て、

 

「待ちなって。知ってること話してよ。」

 

天族サイモンは立ちどまり、

 

「娘……。お前も業を生んでいる。これは序幕だ。悲劇か喜劇のな。」

「だが、それをどう受け止め、抗い、進むかを、こいつらは知っている。」

 

再び歩く天族サイモンの背に、裁判者が言う。

そして消える彼女に、

 

「アイツはお前を心配していたぞ。」

「余計なお世話だ……」

「だろうな。」

 

天族サイモンは、最後に裁判者を睨んで消えた。

ロゼは頭を掻き、

 

「なんのこっちゃ……」

「サイモンさん、迷ってるのではないのでしょうか。だから自分の目で見極めようと……」

 

ライラが消えた天族サイモンの方を見て言う。

ロゼはライラを見て、

 

「アリーシャを?」

「あなたもよ。」

 

エドナがロゼを見上げる。

ライラはロゼとアリーシャを見て、

 

「気がかりだったのかもしれませんね。スレイさんと共に歩んだ方々が今、何を見て、どこへ向かっているのかが……そうですわね?」

 

ライラは裁判者を見る。

裁判者は腰に手を当てて、

 

「さあな。私に聞くな。」

 

と、裁判者はアリーシャに目を向けた。

アリーシャは俯き、

 

「スレイと共に……」

 

そして今度は自分の背後を睨む。

ロゼも何かに気付き、

 

「この穢れは……」

 

そして辺りを警戒して見る。

ロゼはライラとエドナを見る。

三人は互いに見合って、頷いた。

それを見たアリーシャは俯く。

エドナはそれを横目で見た後、

 

「意地張るのも、ここまでじゃない?」

「ロゼさん。」

 

二人はロゼを見つめた。

ロゼはアリーシャを見る。

そして考えた後、

 

「アリーシャ!行ってみよっか。」

「え。」

「スレイのところに行こう。」

 

ロゼは笑う。

アリーシャは目を見開き、

 

「ええ⁉」

「あれ?嫌なわけ?」

「そうじゃなくて、何で突然……」

「どうする?」

 

ロゼは腰に手を当てる。

アリーシャは頷き、

 

「行く!当然でしょ。」

「ん。じゃ、進もう。」

 

ロゼは突き進んでいく。

アリーシャは慌てて追いかける。

 

「あ、待って。ねぇ、なんで急に?」

「ようわからん。」

「はぁ?」

「さっきの決着見せつけられたからかな。」

「さっぱりわからない……」

「略してさぱらん、だね。」

「何それ?変なの。」

「なんだと?」

 

と、二人は会話をしながら進んで行く。

ライラが彼らの背を見た後、裁判者を見て、

 

「意外ですわ。アリーシャさんがあの地へ向かうのに、何も言わないなんて。」

「そうね。アンタらしくもない。」

 

エドナも裁判者を見た。

裁判者は二人を見据え、

 

「私は言ったはずだ。この地を封じる代わりに、お前達があの場所に行くことを許すと。それは導師スレイの仲間、全員を指す。あの姫はそうでないと?」

「成程ね。ホント、ムカつく。」

 

エドナは裁判者を睨んだ。

裁判者は背を向け、

 

「なら、さっさと行け。」

 

エドナとライラはジッと彼女を見つめた後、ロゼ達を追いかける。

裁判者はある一角を見つめる。

天族サイモンが再び現れ、

 

「これで約定は果たした。」

「くくく。」

 

ある者が笑い出す。

その者は歩いて行くロゼとアリーシャを見つめていた。

 

「縁は新たな縁を生む。それが浮世の常。お前も私もその縁の環の中の道化。だが、その道程が今後も交わるとは限らぬ。」

 

そう言って、天族サイモンはその者を見る。

穢れを纏った彼はキツネ顔をした、風の骨の衣装を着ていた。

その者は笑い、

 

「くくくくく。よぉくわかったよ。よぉくな。」

「……まさに業よな。」

 

天族サイモンは呆れ、再び消えた。

残ったその者は一人、

 

「小娘どもにとって導師のガキは未だ希望……。縁だと?くくく。反吐が出る。ぐぅ……」

 

そして彼はかつてロゼに刺された傷を抑え、再び笑い出す。

 

「くくくくく‼」

 

そしてどこかに歩いて行った。

裁判者は一人、

 

「さて、あれは落ちるとこまで落ちて、次の災禍の顕主になるか……それとも、そうなる前に死ぬか。どちらが先か……なぁ、従士として、導師の意志を継ぎ歩む人間≪導師≫よ。」

 

そう言って、彼女はカムランへと向かう。

 

 

ロゼは歩きながら、

 

「さっきのサイモンっての、災禍の顕主の手先だったんだ。」

「え!だってあの人、天族……」

 

アリーシャはロゼを見た。

ライラは手を握り合わせ、

 

「ええ。彼女の力の価値を見出したの者が、人でも天族でもなく災禍の顕主だったのです。」

「しがみついていたわ。自分を認めてくれた、自分が認めた者の居る、その場所に。」

 

エドナは傘で顔を隠していった。

ロゼはまっすぐアリーシャを見て、

 

「それをスレイとあたしたちが壊した。」

「……なんか似てる。私と……」

 

アリーシャは俯いた。

ロゼは笑いながら、

 

「頑固なとことか、頑固なとことか、頑固なところが?」

「違う!」

「きっと頑固なところね。」

 

否定するアリーシャに、エドナが傘を上げて言う。

アリーシャはエドナに振り返り、

 

「エドナ様まで⁈」

「ガン!ガン!ガン!ときて、ガン!ですわね!」

 

ライラがガッツポーズを取る。

そんなライラを、エドナが半眼で見る。

 

「何も思いつかなかったのなら、黙ってても良いのよ?」

「ガーン!」

「くっ……ここだったか……」

 

エドナは傘にブル下がっているノルミン人形を握りつぶす。

アリーシャは呆気にとられながら、

 

「ね、ロゼ、意味がわからないんだけど。」

「そこで、さぱらん、よ。」

「いや、それ変だし。」

「「なんだと。」」

 

ロゼとエドナが声を合わせて、アリーシャを見た。

ライラが頬に手を当てて、

 

「まずいですわ。誰も回収できていません。」

「誰のせいだ!」「誰のせいよ。」

 

再びロゼとエドナは声を合わせる。

そこに裁判者が歩いて来た。

 

「何をバカをやっている。相変わらずのバカだな。」

 

そう言って、彼らを追い抜いて行った。

エドナは人形を握りつぶして、

 

「行くわよ。」

「は、はい。エドナ様。」

 

アリーシャが引きつった顔でその後ろに付いて行く。

そして出た道の先をエドナが遺跡の入り口を指さしながら、歩いて行く。

 

「さ。この先にあるカムランに、全ての答えがあるわ。」

「カムラン……」

 

アリーシャが表情を変える。

ライラは思い出すように、

 

「あの後、私たちはかの者と雌雄を決するため、決戦の地へと赴いたのです。」

「そこがカムランってワケ。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

アリーシャは手を握りしめ、

 

「始まりの村カムランが、災禍の顕主との決戦の地……」

「そう。憑魔≪ひょうま≫と化したマオテラスが、封じられていたのよ。」

「なんですって⁈」

 

エドナの言葉に、アリーシャが顔を上げた。

ロゼがジッとアリーシャを見て、

 

「災厄の時代の原因、カムランにあったってこと。アリーシャのカンも捨てたもんじゃないね。」

「もし、辿り着いていたとしても、入れなかったけどね。」

 

エドナが傘をクルクル回す。

アリーシャはエドナを見て、

 

「え、何故ですか?」

「焦んじゃないの。順、追ってんだから。」

 

ロゼが笑う。

アリーシャは頬を膨らませ、

 

「む~。は~や~く~。」

「イズチに封じられていた道を使ったのです。」

 

ライラが苦笑して言う。

アリーシャが思い出すように、

 

「イズチ?スレイとレイ、それにミクリオ様が暮らしていた?」

「そ。そこにバルトロが兵を進めてて……って、これは知ってるか。」

 

ロゼが頭で手を置くんだ。

アリーシャは頷き、

 

「うん……その動きに気付けなかった。」

「ひげネコと審判者がイズチの加護領域を破って招き入れたせいだけどね。そして、おチビちゃんの逆鱗に触れた。」

 

エドナの言葉に、アリーシャは立ち止まり俯いた。

ロゼは呆れ顔になって、

 

「出た。『私の責任だ』病。」

「だって!」

「過ぎた事でくよくよしない!」

 

と、腰に手を当てて、アリーシャの顔を覗き込む。

アリーシャは顔を上げ、

 

「私はロゼとは違うの!」

「ほんっと!全然違う!強くなったり弱くなったり、ね。」

「ロゼ?」

「先進むよ。女の子。」

 

ロゼは笑いながら、再び歩き出す。

アリーシャは頬を膨らませ、

 

「なによ!バカにして!」

 

怒りながら、歩き出す。

ロゼは歩きながら、

 

「褒めてるつもりだけど。」

「絶対ウソ!」

 

と、言いながら歩いて行く。

その背を見て、

 

「ヤレヤレだわ。」

「ふふふ。」

 

ライラも苦笑する。

そして二人も歩き出す。

その会話全てを、裁判者は黙って聞いていた。

 

アリーシャは後ろの方で、大きなため息をついた。

 

「はぁ……」

 

前の方では、ロゼとエドナが話しながら歩いている。

そのさらに前には裁判者が居て、完全無視を貫いていた。

ライラがアリーシャに近付き、

 

「大きなため息ですね。」

「ライラ様。いえ、何でもないんです。」

「何でもないと言って、何でもなかった事なんてありませんわ。」

 

ライラは苦笑する。

アリーシャは俯く。

その彼女を優しく微笑みながら、

 

「お聞かせくださいませんか?」

「……私、本当はどうしたいんだろうって。王女として生きたいのか、政治家として生きたいのか、騎士として生きたいのか、それとも……それらのしらがみから離れ、普通の女の子のように過ごしたいのか、今のように従士として穢れを浄化していきたいのか……」

「その答えを出さなければならないとお考えなのですね。」

 

ライラはアリーシャを見つめる。

アリーシャは顔を上げ、

 

「はい……。国や民のために政治家として生きる……。それに迷いはありません。それなのに、こうやってみんなと旅することに、とても充足を感じているのです……。私は、本当は答えを出せないのではないかと……」

 

アリーシャは再び俯いた。

ライラは手を合わせ、

 

「答えを導き出す……とても大切な事だと思います。スレイさんにもロゼさんにもそうお伝えしてきました。」

「その通りだと思います……」

「もちろん、レイさんにも。」

「レイにも?」

 

アリーシャは顔を上げた。

ライラは頷き、

 

「はい。レイさんも、レイさん自身がどうなりたいのか悩んでいましたから。ですから、アリーシャさん。答えを導き出す事は、捨てる何かを探す事でしょうか?」

「え?」

「私がお手伝いできるのはここまでですわ。」

 

そう言って、ライラは前をどんどんと歩いて行く。

ロゼはライラを見て、

 

「甘やかしすぎ。」

「ロゼさんが厳しすぎるのですわ。」

「ライラがそれ言うか~?」

 

ロゼは呆れ顔になる。

と、一番前を歩いていた裁判者が、

 

「どっちもどっちだな。アメとムチと言うやつか?心あるもの達は、本当に面倒な生き物だな。自分たちのつくり出した理にしばられて。答えを導き出すのに時間がかかる。」

「ええ。だからこそ悩むことは大切なのです。それに、それはあなた方もそうでしょう。」

「……否定もしなければ、肯定もしないぞ。主神。」

「構いません。それに……この旅は、もうすぐ終わってしまいますから。」

 

ライラが胸に手を当てて言う。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「あなた達の時のように旅を続けて……という訳にはいかない、そういうことよ。」

「儚くも長い、長くて儚い時間、か。」

 

裁判者はそれを聞き、呟いた。

ロゼは頭で手を組み、

 

「……そうだね……」

 

そして一番後ろでは、アリーシャが悩みながら、

 

「私の答え……」

 

 

しばらくして、休息を取っていた。

アリーシャはロゼに話し掛けた。

 

「カムランへの道がイズチに、封じられていたって言ってたよね。スレイとレイはそれを知ってたの?」

「ん~……ちょっと色々あってさ。」

 

ロゼが首に手を当てて、悩み込む。

アリーシャは眉を寄せて、彼女を見る。

 

「わかんないよ、それじゃ。」

「ホントに色々あってややこしいんだ。どう話せばいいかな……」

 

と、さらに悩み出す。

アリーシャはライラを見て、

 

「ライラ様。」

「ややこしいは、『ややこ』と『しい』に分けて考えると、由来が見えてくるのです!ややことは、遠く西方にあったとされる都の言葉で、赤ん坊を指す言葉!それはノルミンさんたちの言葉に通ずる由来正しい古来からの言語!そしてややこしいは、おとなしいの由来も見えてきます‼」

 

ライラは早口でそう言った。

ロゼとエドナは呆れ、アリーシャは困惑した。

 

「え?え?」

「ライラにふっちゃダメな話ってことよ。」

 

エドナが呆れながら言った。

アリーシャは気持ちを切り替え、

 

「ではエドナ様、お願いします。」

「ワタシに説明させるつもり?いい度胸ね。」

「う、す、すいません……」

 

エドナはそっぽ向き、アリーシャは苦笑した。

アリーシャは裁判者を見て、

 

「えっと、あなた様にお聞きしても大丈夫でしょうか?」

「…………」

 

彼女は岩の上に座り、無言だった。

アリーシャが俯いた時、

 

「カムランはすべての始まり。それはお前の知る導師スレイにとっても、レイと言う人間にとっても、そしてお前の知る水の陪神も、だ。」

「え?」

 

そしてエドナはアリーシャを見て、

 

「仕方ない。覚悟することね。」

「覚悟……?」

 

アリーシャは首を傾げる。

エドナは真面目な表情で、

 

「カムランは元々、世界が最初に生まれた場所。そして裁判者と審判者の生まれた場所ってわけ。そこには彼らの大切な使命があって、誰も近付けさせなかった。だけど、その彼らを説得した先代導師は、この土地でマオ坊を祀り、村を興した。そしてそのマオ坊が憑魔≪ひょうま≫になったのは、ハイランドとローランスが戦争のいざこざに、カムランを巻き込んだせい。で、その人の愚行に責任を感じた先代導師の妹ミューズが、裁判者の力を借りて人柱となって道を封じていたのよ。スレイとミボがジイジと呼んでたイズチの長ゼンライに赤ん坊だったスレイとミクリオを託してね。その際に、裁判者と審判者の激しいいざこざが起こり、裁判者は眠りについた。その際、先代導師が創りだしたレイと言う人間を元に、裁判者は疑似体を創りだした。そして疑似体であるレイもまた、裁判者である自分を忘れて、スレイとミクリオを見守り、自分と言う存在を固定し始めていた。そしてゼンライはスレイとミクリオには、時が来るまでその事実を伝えないつもりだった。ワタシたちはひげネコ――災禍の顕主ヘルダルフの事をもっと理解するため、刻遺の語り部メーヴィンに――」

「うう……すごい情報量……」

 

エドナは表情を変えず、早口で淡々と言う。

その情報量にアリーシャは困惑する。

ロゼが大あくびをして、

 

「ふぁ~……今日はもうここで休憩だね。じゃあお先に~。」

「あ、ずるい!」

 

テントを張り始めるロゼに、アリーシャは怒りだす。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「なに?説明させておいて文句あるの?」

「い、いえ!そんな!」

 

アリーシャは姿勢を正す。

エドナは傘を閉じ、

 

「いい?ここからが重要よ。さっきライラが言っていた、ややこしい由来……。ノルのノルだけによるノルのための闘争よ。」

「ノル?」

「そう。ノルよ。」

 

困惑するアリーシャに、エドナはニヤリと笑い出す。

アリーシャは目をパチクリし、

 

「カムランの封印の話から遠くなった気がする……」

「何?文句ないんでしょ?」

「そうでした……」

 

アリーシャは姿勢を再び正す。

そしてエドナはニヤリと再び笑い、

 

「そこでおチビちゃんとノルたちは――」

 

と、続いていくのをライラは苦笑しながら聞くのであった。

そして裁判者も、それに耳にして無表情で顔上げ、空を見上げた。

ここは外の世界とはある種、別物なので気付いていないが、外では日が沈み、再び上がり出そうとしていた。

 

ロゼはあくびをしながらテントから出てきた。

 

「ふぁ~あ。おはよう~。」

「おはようございます。ロゼさん。」

 

ライラがロゼに微笑みかける。

そしてライラの前では、

 

「それでミクリオ様はホントに良かったんですか⁈」

「さぁ。」

「エドナ様!」

「……そうね。辛かったかもね。」

 

白熱するアリーシャと、疲れ飽きてきたエドナが居た。

ロゼは呆れながら、

 

「まだやってたんだ。」

「はい。」

「そして、アイツも珍しく居続けていると。でも、なんか雰囲気が……」

「はい。」

 

ライラは手を合わせて、視線を外していた。

ロゼの見上がるその先には岩の上で座りながら本を読む、若干雰囲気が怖い裁判者が居る。

と、アリーシャは手を握り合わせ、

 

「それでもお母様が出した命がけの答えを受け入れ、前に進むと決意したんですよね……」

「……そうね。生意気ね。」

「そんな事ありません!立派です!」

 

と、再び火が灯る。

エドナはロゼを見て、

 

「ロゼ、なんとかなさいよ。これ……」

「ええ!あたし⁈」

「エドナさんに匙を投げさせるなんて……」

 

ロゼは驚き、ライラは遠くを見る。

そしてエドナもため息をつき、

 

「恐ろしい子になったものね……」

 

裁判者は下を見下ろし、

 

『……いつまで続くんだ。まったく……』

 

しばらくして、やっと再び歩き出す。

アリーシャは歩きながら、

 

「ねぇ。」

「うん?」

 

ロゼがアリーシャを見る。

アリーシャはロゼを見て、

 

「ゼンライ様、救出できたんだよね?」

 

その言葉に、ロゼとライラは黙り込む。

前を歩いていた裁判者が、

 

「死んだ。導師スレイと陪神……ミクリオの手によってな。」

「そんな……」

 

アリーシャは拳を握りしめる。

ライラは手を握り合わせ、

 

「ゼンライ様はかの者に取り込まれても、スレイさん達のために自らの命を燃やし、道を示してくださったのです。その手伝いをしたのが、レイさん。」

「で、スレイ達はおじいちゃんたちの心に応えた。」

 

ロゼは腰に手を当てる。

エドナは傘を握りしめ、

 

「ひげネコがどれだけ手の込んだ真似をしても、結局は無駄だったワケ。」

「はい。ゼンライ様と、スレイさんとミクリオさん……そしてレイさんの絆……それはかの者の謀略などにも、穢されるようなものではありませんでした。勿論、レイさんの心も、審判者や裁判者にも負けず、自らの答えを出した。」

 

そう言って、ライラは裁判者の背を見つめた。

アリーシャはライラを見て、

 

「……どうしてヘルダルフは、そんなにスレイにこだわり、審判者はレイや裁判者にこだわったのでしょう……」

 

その言葉にハッとする三人。

裁判者は視線だけを彼女たちに向けた。

エドナは視線を落とし、

 

「こだわった、ね。」

「かの者の望みは世界の穢れで満たす事でした。そして審判者は世界を正すために、先代導師に会う前の自分達に戻る事を望んでいました。」

 

ライラが遠くを見つめるように、そしてエドナは視線を落としたまま、

 

「けどヘルダルフのそれは、想像も出来ないような孤独が導き出したものよ。そして審判者も、自身の中に生まれた感情を受け入れる事ができなかった。」

「仲間が欲しかったんだよ。ヘルダルフは。そして審判者は、裁判者に認めて貰いたかったのかもしれないね。あの二人、いわば兄妹姉弟≪きょうだい≫みたいなものらしいから。」

 

ロゼも遠くを見つめる。

アリーシャはロゼを見て、

 

「仲間……兄妹姉弟≪きょうだい≫……」

「仮に、おじいちゃんを犠牲にしてスレイが穢れちゃったとしても。それは仲間になるって事じゃないのにね。あいつは自分が欲しかったものを、自分で遠ざけてる事に気付いていなかったんだ。んで、審判者は逆に自分の気持ちをちゃんと理解して、裁判者と和解した。でしょ?」

 

そしてロゼは前を歩く裁判者の背を見る。

裁判者は背を向けたまま、

 

「実際、災禍の顕主はそうのだろうな。親しいもの、家族、全てを失い、全てに絶望し、恨み、抗うことを辞めた。死にたいと願うアイツの前に出た我らだが、本当は違う。あいつの真に願った願いは……孤独からの解放。独りという孤独の中に耐えられなかったのだ。審判者においては……和解したといえば和解したのか。」

 

と、アリーシャは急にハッとする。

ロゼはアリーシャを見て、

 

「何?」

「ロゼってすごいなって思って。」

「はぁ?」

 

ロゼは若干嬉しそうだ。

だが、ロゼの横からエドナが、

 

「時々だけどね。」

「ええ。時々です。」

 

アリーシャは苦笑する。

ロゼは腕を組み、

 

「あんたら。」

「ふふ。」

 

そしてライラが手を当てて笑う。

と、アリーシャやロゼも笑い出す。

だが、ロゼは漂ってきた穢れを感じ取り、表情を変えた。

 

「これ……嫌な感じ。」

「え?」

「こんなに穢れが満ちてるのに、穢れを導いているヤツと結局出会わなかった。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

エドナもイラつきながら、

 

「姿を隠してるのかしら。気に入らないわね。」

「ええ。狡猾さを感じます。私達を観察してるようにも感じますわ。」

 

ライラも眉を寄せる。

裁判者は目を細めて彼女らを見る。

アリーシャは眉を寄せ、

 

「入っていったのでしょうか……」

「行くよ!」

「うん……」

 

ロゼは速度を上げる。

心配するアリーシャに、

 

「心配すんなって。絶対スレイのトコ連れてくから!」

「うん。でも、大丈夫だよね?」

「絶対なんとかする。」

「……ホント、強いんだね。ロゼ。」

「よくそれ言われるけど、自分じゃわかんない事いわれてもね。」

 

と、頭に手を置く。

アリーシャは驚き、

 

「……なんか怒ってる?」

「何でよ。普通普通。」

 

そして、前を歩いていた裁判者を追い越していった。

裁判者はため息をついた。

アリーシャは手を握り合わせた。

エドナはどんどんと進んで行くロゼの背を見て、

 

「あれは焦ってるのよ。」

「はい……心配ですわ。ああなったロゼさんは無茶をしますから……」

 

ライラは手を握りしめる。

アリーシャは握り合わせて、ロゼを見る。

 

「なら、急いだらどうだ。その無茶をさせないように。」

 

裁判者もどんどんと歩いて行った。

そしてアリーシャ達も速度を上げていく。

遺跡に入り、カムランへと急ぐ。

と、遺跡の途中で憑魔≪ひょうま≫が立ちふさがる。

裁判者は一歩下がり、

 

「私は手を出さない。」

 

と、壁により掛かる。

エドナは怒りながら天響術を詠唱し始める。

ライラも同じように天響術を詠唱し始めた。

ロゼとアリーシャは憑魔≪ひょうま≫に突っ込む。

敵はそんなに強くはなく、簡単に叩き潰した。

だが、憑魔≪ひょうま≫を倒した彼らの空気は怒りではなく重い。

ここの穢れにより、憑魔≪ひょうま≫が生まれたのが彼らにとって歯がゆいことだからだ。

と、裁判者は彼らの後ろを横目で見た。

ある天族の男性が近付く、

 

「なんか元気ねぇな。もったない。せっかく華々しいパーティだってのに。」

「ザビーダ様!」

 

アリーシャは後ろを振り返った。

ザビーダは片手を上げて、

 

「よ。アリーシャちゃん。んと、裁判者。」

 

ザビーダは目付きが変わる。

裁判者は彼を見て、

 

「……なんだ。」

「いんや。俺は嬢ちゃんが居ると思ったもんでね。」

「残念だったな。で、審判者は?」

「さぁてね。ミク坊の方に行ったんじゃね?」

「そうか……」

 

そう言って、裁判者は壁から離れ歩き出す。

ロゼ達も歩き出し、

 

「んで、どうなってんだ?嬢ちゃん方も、この遺跡も、あそこの裁判者も、よ。」

 

ザビーダはロゼを見る。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「そっちこそどうしたのよ。」

「封印の法探しはどうなさったんです?」

 

ライラもザビーダを見つめた。

ザビーダは真剣な表情で、

 

「ゴミの入った箱に綺麗なフタしても、そりゃあもうゴミ箱だろ。」

「封印の法はミボが追ってるし、ここの憑魔≪ひょうま≫を鎮めるのが先決って言いたいわけね。でも、結局のところは、その封印の法を知ってる審判者に〝ここ≪カムラン≫に来い〟って言われたってとこかしら。」

 

エドナは呆れ顔で言う。

ザビーダはニッと笑った後、

 

「んで?どうなってんの?」

「ここに穢れを導いてるヤツがいるかもしれないのよ。で、姿をくらましていた裁判者……おチビちゃんや審判者が現したのよ。」

「そりゃ笑えねぇ冗談だな。なら、狙いはスレイってことになるじゃねぇの。」

 

ザビーダは眉を寄せる。

ライラがザビーダを見て、

 

「目的は私たちかもしれません。ずっと見られている気もします。」

「はっ、面食いな憑魔≪ひょうま≫なんてのがいるんだな。んで、こっちは?」

 

と、気まずい雰囲気を出しているロゼとアリーシャを見ると、

 

「別になんでもないって!」

「ええ!」

「この穢れを絶対にスレイの元にはいかせないよ!」

「それが今は一番大事!」

 

と、二人は互いに見合って行き込んで行く。

エドナは疲れたように、

 

「答えは本人たちが出すしかないみたいよ?」

「ずっと旅を続けられるのなら、かける言葉もあるかもしれませんが……」

「立場なんてものもあるしね。」

 

ライラが視線を落とし、エドナは変わらず続けた。

二人は考え込んでいる。

ザビーダは面白そうに笑い、

 

「ふぅん。けどま、時間切れってワケでもねぇだろ?」

「もちろんです。」

「サンキュ、ザビーダ。心配してくれて。」

 

二人はザビーダを見る。

だが、裁判者が彼らを見て、

 

「だが、その時間は長いようで短い。答えは見えているようで、見えていないようだからな。」

 

二人は再び黙り込む。

ザビーダは苦笑し、

 

「……ちっと重傷みたいだな。」

 

そう言って、彼らは進んで行く。

彼らは途中で憑魔≪ひょうま≫を倒していきながら突き進んでいく。

アリーシャは立ち止まり、視線を落として、

 

「憑魔≪ひょうま≫、減らないね……」

「うん。」

「穢れを導いてるものも姿を見せないね……」

「そだね。やっぱ観察してるのかも。」

「ロゼ。大丈夫?」

 

と、アリーシャはロゼを見る。

ロゼはアリーシャを見て、

 

「はぁ?」

「だ、大丈夫だよ!みんながいるじゃない!」

「そんなに不安がってる子に言われても、説得力がないんだけど。」

「そう……ごめん……」

 

と、アリーシャは俯く。

ロゼは腕を組み、

 

「ミクリオがさ。」

「え?」

 

アリーシャが顔を上げる。

ロゼは思い出すように言う。

 

「あたしを旅に誘った時に言ったんだ。」

「何?突然?」

「同じようなものを見て、聞くことのできるのが真の仲間だって。」

「真の仲間……」

「あたし、アリーシャとは仲間になれないと思ってた。」

 

ロゼは真顔で言った。

アリーシャは苦笑し、

 

「またそんなこと言い出すんだ。」

「だってあんたはお姫様で騎士で政治家で女の子。普通に考えてあたしと違いすぎるっしょ。」

「天族の方々や憑魔≪ひょうま≫、穢れやそれに揺れる人の心……導師と従士が見ている同じものでしょ。」

 

と、微笑みかける。

ロゼは頭で手を組み、

 

「お!でたアリーシャ節。」

「もう!どうして意地悪するのよ!いつもそうよね、ロゼって!」

「……なんだろ。なんかあんたには、こんな調子になっちゃうんだよね。」

「でもいい。もう慣れてきた。友達だもんね。」

「いつのまにか友達認定されてるし。」

「言い争って挙げ句に取っ組み合いのケンカして、そのあと一緒に旅をして……それで友達じゃないとでも?」

 

アリーシャは頬を膨らませる。

ロゼは笑顔で、

 

「こりゃやられた。」

「ふふ。あ!」

「なに?」

「い、いや昔レイに言われた事を思い出しただけだ。そうか、確かにそうかもしれない。」

 

と、アリーシャは一人笑い出す。

ロゼは頭を掻き、黙り込む。

アリーシャはロゼを見て、

 

「……やっぱりロゼも不安なんだね。ここ、こんなに穢れちゃってるし。」

「……それもある。」

「他にもあるの?」

「あんたの事。答え出さなきゃ。」

「!そうだね。答え出さなきゃね……」

 

その二人の姿を見ていた天族組と裁判者。

ザビーダは腰に手を当てて、

 

「悩める少女も絵になるが……」

「もうヒントは無しなのね?」

 

エドナがライラを見る。

ライラは手を握り合わせ、

 

「ええ……彼女たち自身で、導き出さなければいけませんから。だからあなたも黙っているのでしょう。」

 

そう言って、裁判者を見る。

裁判者は視線だけを彼らに向け、

 

「さあな。だが、さっきも言ったように、あいつらは答えをすでに持ってる。後は本当の意味で、それに気付くだけだ。」

 

そして歩き出す。

ザビーダは腕を組み、顎に指を当て、

 

「う~ん、裁判者変わった?」

「全く変わってないわ。」

 

エドナがノルミン人形を握りつぶしながら、ザビーダを睨む。

ザビーダは一歩下がり、

 

「こわ!」

「ですが、昔よりかは距離を近くに感じますわ。」

 

ライラが歩いて行く裁判者を見る。

エドナはノルミン人形をさらに握りつぶして、

 

「少しだけね。」

 

そして彼らも歩き出す。

 

 

これはアリーシャたちがイズチに向かう頃、彼らが来た入り口グレイブガンドの方では、腹の傷を抑えた者が一人歩いていた。

穢れに身を包み、キツネ顔の風の骨の衣装を身に纏った男性。

 

「……虫酸が走る……くくく。だが……くく。食いたくてしょうがない!ぐぅ。」

 

そして立ち止まり、腹の傷を強く抑え、

 

「この痛み……はやく味わわせたい!小娘どもを導師の小僧の前で引き裂くか……小娘どもの目の前で導師の小僧を引き裂くか……。楽しみだ……くく!力が戻る日が!食える日が!味あわせる日が!」

 

と、狂気に満ちた瞳で笑い叫ぶ。

そして笑いながら再びフラフラと歩き出す。

 

「くくくく!カカカカ‼」

 

そう元風の骨の一員ルナールはなおも笑いながらどこかへと歩いて行く。

それを岩の上で見ていた審判者は、

 

「哀れな人間だな……。もはや見る事すらできないか……。さて、ミクリオを追いかけるか。あの子にも、そろそろ怒られそうだし……」

 

そして背を向けて歩き出す。

 

 

一向は一番広い場所に出た。

裁判者は立ち止まり、ロゼ達を見る。

ロゼが立ち止まり、辺りを見渡す。

そして拳を握りしめて俯いた。

 

「絶対におかしい……」

「え?」

「なんで出会わなかったわけ?」

「どうしたの、ロゼ。」

 

アリーシャが眉を寄せる。

ロゼは眉を深くし、

 

「ここはもう本当の意味で、一番奥だ。穢れを導いた憑魔≪ひょうま≫がいないとおかしいでしょ。まさか……もうカムランに!」

 

そして裁判者の横を駆けて行った。

 

「人間や天族に冷静さを失えば、残るのは後悔や死だけだぞ。」

 

通り抜けて行くロゼに、裁判者は言った。

アリーシャは手を伸ばし、

 

「ちょっと、落ち着いてよ、ロゼ!」

 

と、アリーシャも走り出す。

エドナもため息をついてから走り出し、

 

「そうよ。この穢れに気付かないの?」

「上だ!」

 

ザビーダがロゼの上を睨む。

そこには待ち構えていたヤギのような悪魔のような憑魔≪ひょうま≫達が襲い掛かる。

二人は後ろに飛ぶ。

そして武器を構える。

ザビーダ達も駆けつけ、

 

「ハッ!エライのが出てきたな!」

「しかも2体……!」

 

そして一体は奥へと歩いて行く。

アリーシャがそれに気付く。

 

「奥へ⁈」

「野郎!面食らってのはマジらしいな!一番のヤツんとこへ行こうってハラだ。」

 

ザビーダが敵を睨む。

ロゼが駆け出し、

 

「とにかくあっちを……」

 

だが、もう一体がロゼに武器を振り下ろす。

裁判者が駆け出し、ロゼの襟を掴んで後ろに飛ばす。

 

「きゃっ!」

 

ロゼは一回転して、着地して裁判者を睨む。

 

「邪魔すんな‼」

「では、死にたいか。」

 

裁判者は敵の武器を影で掴んだまま、ロゼを睨む。

仮面をつけていても、解るくらいの殺気が伝わる。

アリーシャがロゼを困惑しながら見る。

 

「ロゼ!」

 

と、裁判者は奥の方を見て、

 

「やっと見つけた。……終末の使者!」

 

裁判者は敵を飛び越え、奥に走って行く。

ザビーダは笑いながら、

 

「がはは!なるほどなぁ~!」

「これまた厄介な者を追いかけて行ったわね。」

「ええ……」

 

エドナは半眼で、ライラは視線を落とした。

アリーシャは天族組を見て、

 

「何ですか、終末の使者って⁈」

「アリーシャ、それは後!」

「先にあっちです!」

 

天響術を詠唱し始めたエドナとライラが注意する。

そしてロゼが、

 

「そこをどけー!」

 

と、ロゼは武器を構えなおし突っ込んで行く。

アリーシャは頷き、

 

「わかりました!ロゼ、一緒に――」

「神依≪カムイ≫化できないあんたは下がって!」

「そんな訳にはいかないでしょ!」

「じゃあ黙ってて!集中させて!」

 

そしてロゼは近くにいたザビーダと神依≪カムイ≫する。

敵に攻撃しながら、

 

「倒れろっていってんだ‼」

「どうしたのよ!ロゼ!」

 

アリーシャは叫びながら、ロゼを見る。

エドナは天響術を繰り出し、

 

「聞きなさい!ロゼ。」

「ロゼさん、何をそんなに焦ってるんですの?」

 

ライラも、天響術を繰り出して言う。

ロゼは敵を睨みながら、

 

「なんで……なんでで倒れてくれないの!あたしはレイに託されてんのに!それに……!」

 

と、ザビーダが神依≪カムイ≫を解いた。

ロゼはザビーダを見て、

 

「ザビーダ!」

「ロゼちゃん!ちっと頭冷やしな!」

 

そう言って、天響術を詠唱し始めた。

アリーシャは槍を構え、

 

「ロゼ!このままじゃダメだよ!」

「絶対にあんたをスレイのところに連れてく!だから黙って自分の身を守っとけ!」

 

そしてロゼは、今度はエドナと神依≪カムイ≫をして、突っ込んで行く。

アリーシャはその背に叫ぶ。

 

「ロゼ……!」

 

そして敵とロゼの拳がぶつかり合う。

それが爆発し、

 

「うわ!」

 

双方共に吹き飛ぶ。

アリーシャは吹き飛ばされたロゼを見る。

 

「ロゼ!」

 

ロゼの神依≪カムイ≫化は解けていた。

ロゼは立ち上がり、

 

「この……!」

「もうやめて‼」

 

アリーシャが手を広げて、ロゼの前に立つ。

ロゼはアリーシャを見て、

 

「何言ってんだ!」

「死んじゃうよ!」

「死なないよ!あたしは強いらしいから!」

「バカ――‼!」

 

アリーシャはロゼの頬を思いっきり叩いた。

ロゼはそこを抑え、

 

「った!何すんのよ!」

「話聞いて‼」

「んなヒマないんだっての!」

 

アリーシャは睨み、ロゼを抱き付いて圧し掛かる。

ロゼは後ろに倒れ込む。

 

「いでっ!」

 

そして抱き付いているアリーシャに、怒りだす。

 

「こら!はなせ!」

「離さない!話聞くまで離さない!」

「そっちこそ聞けってば!こんなことしてる時間はないんだって!」

 

と、ロゼは暴れ出す。

アリーシャは泣きながら、

 

「せっかく友達になれたのに!スレイやレイだけじゃなくてロゼにも、会えなくなるなんて絶対イヤ!」

「あんた……!」

 

そして思いっきり、ロゼを抱きしめる。

 

「いででで!」

 

そのロゼの肩にライラが手を置く。

 

「時間ならありますわ。」

「へ?」

「よく見なさい。」

 

エドナが敵を見据える。

ロゼもその先を見る。

 

「あ……」

 

その先には奥に行ったと思われた敵が、弱ってる仲間に力を流し込んでいた。

 

「あいつら、力を送り合ってたんだ。」

 

そしてアリーシャはまた、ロゼを思いっきり抱きしめる。

 

「いでで!」

「やっと落ち着いたようね。」

 

エドナは二人を見て言う。

ライラも頷き、

 

「おそらく二体同時に倒さない限り、復活を繰り返しますわ。」

「で、ロゼちゃんが無茶して一匹ボコったから、なんだか時間がちっと稼げてる。」

 

ザビーダはニット笑う。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「3分あげるわ。ちゃんとあなたも答えを出して、それ、なんとかなさい。」

「ロゼさんはアリーシャさんのために、ムキになってたんですのね。そしてレイさんとの約束も。」

 

ライラは優しく微笑む。

ザビーダは敵に振り返り、

 

「にしても、あのロゼちゃんが、あそこまでテンパるとはなぁ。」

「ほんっとバカ。」

 

エドナは敵に天響術を繰り出す。

ライラも天響術を詠唱し始め、

 

「心許したと友達にだけ見せる顔……青春ですわね!」

 

と、嬉しそうに敵に天響術を繰り出した。

エドナは呆れながら、

 

「バカなだけよ。」

 

と、天族組は戦いを始める。

ロゼはしばらくそれを見た後、アリーシャの頭を叩き、

 

「もう大丈夫だって。アリーシャ。」

 

そしてアリーシャの顔を見る。

 

「また泣いてら。」

「泣いてない!」

 

アリーシャはロゼがから離れ、涙を拭う。

ロゼはアリーシャを見つめ、

 

「あんた、気付いていたんだね。スレイやレイのこと。」

「うん……」

「でもスレイはね、死んだんじゃないよ。ヘルダルフと決着をつけたあと、穢れちゃったマオテラスを浄化し続けてるんだ。それが刻≪とき≫にとり遺される事になるって知りながらね。そしてレイも、元の姿に戻って自分の理を変えてる。」

「刻≪とき≫にとり遺される?自分の理?」

「浄化に何百年かかるかわからないんだって。レイの方は、自分と言う存在を、世界に受け入れさせる準備をしてるらしい。レイの方はあまり詳しくは知らないんだけど。」

 

アリーシャは黙り込む。

その見つめる先のロゼは手を握りしめる。

そしてロゼは続ける。

 

「んで、スレイはその間、霊応力と地上の穢れを祓うって志をもつ人が現れるのを信じて……自分の知覚すべて遮断して眠りについた。」

「知覚を遮断すれば従士に力を委ねられる……」

 

そう言って、アリーシャは戦う天族組を見る。

ロゼは頷き、

 

「そう。人と天族が幸せになる未来のために、今も頑張ってる。仲間と語らったり、遺跡探検出来なくても頑張り続けてる。」

「それじゃあスレイの夢は……」

 

アリーシャはロゼに振り返る。

ロゼは笑顔で、

 

「忘れない限り終わらないってさ。」

「!」

「それがスレイの答え。」

「スレイの答え……」

「そしてレイは裁判者に戻る事を選んだ。でも、レイとして、あたし達の側に居る事も選んだ。それがレイの答え。けど、今はいないけどね。」

「……ロゼは良かったの?それで。」

「あたしはあたしで、できる事やるだけだよ。レイと約束したし。」

「だから……ロゼは導師に……」

「諦めんのが性に合わないってだけ。だから知りるために、ずっとレイを……封印の法以外で、裁判者と審判者を探してた。」

 

ロゼは立ち上がり、

 

「さ、話はこれでお終い。あの憑魔≪ひょうま≫やつっけなきゃ。んで、あんたをスレイに会わせて、裁判者と審判者が何をしてるのか確かめる。」

 

そしてアリーシャの横を通り抜ける。

そのロゼの手を掴み、

 

「待って!」

 

そして立ち上がり、ロゼを見つめ、

 

「まだ私の話が終わってない。」

「ん。」

「見つけたよ。私の本当の答え。」

「知ってた。」

「え⁈」

 

アリーシャは驚く。

ロゼは笑顔で、

 

「知ってたよ。」

「えええ?‼」

「さ、スレイに聞かせに行こ?」

 

そう言って、ロゼは武器を構えて敵の方に突っ込んで行く。

 

「おまたせ!」

「ちょっと遅刻よ?」

 

エドナは天響術を繰り出しながら言う。

ロゼは敵を斬り付けながら、

 

「埋め合わせるからさ、勘弁して!」

 

そしてアリーシャも槍を構えて、戦いながら、

 

「ねぇ!いつから知ってたの?」

「え?最初からずっとだよ?」

「ウソ!」

「ホントだって。」

 

ロゼは敵の攻撃を交わしながら言う。

そしてアリーシャも敵の攻撃を交わし、

 

「知ってるのなら言ってみて!」

「や、もうそれどころはないし。」

「ホントは知らないくせに。」

「しつこいな~。もういいよ。知らない。」

「ひどい!すっごい悩んだんだよ!」

「そう言うけどさ、ライラとエドナも知ってるよ?」

「ええ⁈そうなんですか?」

 

アリーシャは後ろで天響術を詠唱してる二人を見る。

 

「何がよ。」

「全くですわ。」

 

と、敵に天響術を繰り出した。

アリーシャはロゼを見て、

 

「ほら!」

「何の話かわからないって事っしょ!」

 

と、ロゼもアリーシャを見た。

そこにザビーダが天響術を繰り出し、

 

「なぁ、嬢ちゃん達。緊張感って知ってっか?」

「あああ!すみません!」

「ザビーダ、ぐっじょぶ!」

 

と、二人は後ろに下がった。

ザビーダは二人を見て、

 

「だろ?惚れちゃう?ってうお⁉」

 

ザビーダに敵の攻撃が出され、彼はとっさに避ける。

アリーシャは目を見張り、

 

「緊張感どこいったんですか!」

「ついにツッコミまで……恐ろしい子。」

 

エドナがアリーシャを見る。

 

「あ、挟まれないように注意して。」

「おっけ。一方にまとめた方がいいかもね。」

 

と、攻撃をする。

そしてアリーシャ達は一斉攻撃を仕掛ける。

アリーシャとエドナとザビーダが敵の隙を作り、ロゼがライラ神依≪カムイ≫をして剣を振るう。

 

「き、決まった……⁈」

「まだ!トドメいくよ!」

「う、うん!」

 

そしてロゼは神依≪カムイ≫したまま、突っ込む。

アリーシャも突っ込んで行くが、

 

「あっ!」

 

躓いて転んでしまう。

そこに敵の一体が武器を振り下ろす。

ロゼがそれに気付き、

 

「アリーシャ!間に合わ――」

「ツインフロウ!」

 

そこに水の天響術が繰り出された。

そしてアリーシャが振り返ると、ミクリオが立っていた。

 

「ミクリオ様!」

「この!美味しすぎるぞ!」

 

神依≪カムイ≫化を解き、ロゼもアリーシャに近付く。

そして腰に手を当てて、ミクリオを見た。

さらに、アリーシャの方に短剣を指に二、三本持ち、駆けて来る少年。

 

「まだ油断しない!」

 

そう言って、短剣を投げる。

さらに影から槍を出し、

 

「今のうちに!」

 

そう言って、槍を突き出した。

敵は後ろに吹き飛ぶ。

アリーシャはロゼの手を取り、立ち上がり、

 

「あ、あなたは?」

 

彼を見る。

彼は黒と白のコートのような服を着ていた。

そして長い紫の髪を下に束ね、仮面をつけていた。

彼は影に槍をしまい、

 

「俺は……うーん、審判者。」

「あなたが⁉」

 

そこにミクリオが怒りながら、

 

「遊ぶな!さぁ、アリーシャ!ロゼ!」

「やれる?ロゼ?」

「あんたが言うな。」

 

そして二人は武器を構える。

敵は地面から影の剣を突き出す。

二人はそれを左右に避け、

 

「たぁぁぁ‼」「はぁぁぁ‼」

 

敵に突っ込んで行く。

そしてクロスするかのように、同時に敵を斬り裂いた。

二体の憑魔≪ひょうま≫は浄化の炎で浄化される。

審判者が手を叩きながら、

 

「おお~。ナイスタイミング。」

 

と、アリーシャが座り込む。

ロゼが近付き、笑顔を向ける。

アリーシャも笑顔を向ける。

その二人に、

 

「まったく、僕らが来なかったら、どうするつもりだったんだい?」

 

と、ミクリオが近付いてくる。

そして審判者も影に槍をしまいながら、

 

「ミクリオ、焦ってたもんね。」

「う、うるさい!」

 

ミクリオはそっぽ向く。

審判者は仮面をつけてても解るくらいの笑顔だった。

アリーシャはミクリオと審判者を見て、

 

「助かりました!ミクリオ様!審判者様!」

「久しぶり。アリーシャ。」

 

ミクリオはアリーシャを見る。

そして奥の方でも、ザビーダは手を上げた。

審判者はアリーシャを見て、

 

「えっと……こうして会うのは初めてだよね。改めてまして、こんにちは。ハイランドの姫騎士様。」

 

と、胸に手を当て、お辞儀した彼に、

 

「え!いえ!そんな!あなた様に、そんなこと!」

 

アリーシャも慌てて立ち上がり、お辞儀した。

審判者は顔を上げ、ミクリオを見る。

 

「なにこれ?この子、面白いんだけど。」

「僕が知るか。でも、アリーシャをいじめるなよ。怒るからね。それと、レイも。」

「それは大変だ。」

 

と、彼は肩を少し上げた。

そして一行は状況説明も兼ねて、歩き出す。

ミクリオは腕を組み、顎に指を当てる。

 

「そうか、そんな事が。だったら、おそらく僕が感じた穢れがそれだろう。来る途中、遺跡から離れていく何とも言えない気配を感じた。」

「立ち去ったってこと?」

「ああ。そうだろ、ゼ……審判者。」

 

と、前を歩く審判者はクルッと振り返り、後ろ向きで歩きながら、

 

「そうだね。あの憑魔≪ひょうま≫の狙いは確かめることだったからね。気が済んだんじゃない?」

「不気味ですね……」

 

ライラが俯く。

ロゼは逆笑顔で、

 

「ここは守れた。今はそれでいいよ。」

「気にならないの?」

 

アリーシャがロゼを見る。

ロゼは笑いながら、

 

「ミクリオが戻ったからね。ここはもう大丈夫。おまけに審判者まで捕まえてきてくれたし。でしょ?」

 

と、ロゼはニヤリと審判者を見た後、ミクリオを見た。

審判者は首を傾げる。

ミクリオはそれをスルーし、

 

「ああ。封印の法は審判者から、無理矢理聞き出した。憑魔≪ひょうま≫はもうカムランには近付けない。」

「ミクリオ、怖かったよ~。もとい、面白かった。」

 

そう言って、笑う彼をミクリオは睨んだ。

エドナは半眼で、

 

「いいとこ総取りってわけ?生意気よ。しかもいつの間にか、審判者と仲良くなって……」

「押さえるところは押さえてこそ良い男さ。」

 

と、笑いながらいう。

ミクリオは後ろに居るザビーダに、

 

「君は先に戻ったのに押さえられなかったのか?」

「いい男ではないということですわね。」

 

と、笑顔で言った。

ザビーダは両手を広げ、

 

「ぐはっ!」

「ふふふ。」

 

それを見て、アリーシャは笑う。

と、審判者は笑顔で、

 

「ところで、レイ……裁判者は?」

「「「「あ!」」」」

 

ミクリオとエドナ以外が思い出したように、ハッとする。

そしてエドナは、

 

「そういえば、忘れてたわね。」

「そういや……『やっと見つけた。……終末の使者!』って言って、走ってた。」

 

ロゼが頭で手を組んで言う。

審判者は苦笑いし、

 

「ああ……とうとう見つけちゃったか……生きてるかな、二人とも……」

「「「??」」」

 

ロゼ、アリーシャ、ミクリオは首を傾げる。

ライラが手を合わせ、

 

「と、とりあえず、裁判者を追いましょうか……」

 

そう言って、彼らは遺跡の奥を進む。


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