テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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第四章 瞳うつるもの~~アリーシャエピソード~~
toz 第四十八話 アリーシャとロゼ


両国の対立は収まりを見せていた。

ハイランドの国に、ローランスの兵が居る。

そしてローランスの国にも、ハイランド兵が居る。

その間を子供たちが楽しそうに、駆け回る。

 

そして場所はマーリンドの街へと変わる。

人々は喜びを分かち合い、祈りを捧げる。

そのマーリンドの街に、ハイランドの姫騎士アリーシャとローランスの騎士セルゲイが平和交渉をしていた。

そして騎士セルゲイは大臣と手を握り合わせる。

 

「此度のラストンベルとマーリンドの視察、有意義であった。貴君らに感謝する。」

「ありがとうございます。陛下もきっと喜ばれることでしょう。」

「そう改まらんでほしい。礼を言うのはこちらなのだからな。」

 

そして男性は姫騎士アリーシャを見て、

 

「姫よ。儂は退任届を提出しようと思う。我らハイランド評議は……故バルトロ内務大臣がその悪辣だが、的確な手腕をふるって国益をもたらしていた。その内務亡き後の儂らは、ただの老害。此度の視察でそれがようわかった。」

「特別大使、それ以上は……」

 

騎士セルゲイが彼を止める。

男性は苦笑し、

 

「良いのだよ。次代の偽政者の前で何を憚ることがある。」

「マティア殿……」

 

姫騎士アリーシャは彼を見つめた。

彼は姫騎士アリーシャを見て、

 

「次は評議会全首脳で視察団を編成しよう。彼らもその目で『今』を見れば気付くだろう。もはや時代は二人の騎士が変えているのだとな。頼んだぞ、両君。これからの時代を。」

 

そう言って、兵と共に歩いて行く。

姫騎士アリーシャはその背を見つめ、

 

「……気骨で知られるマティア軍機大臣だ。相当の決意なのだろう。」

「……講和条約締結が見えてきたな。」

「ああ。」

 

二人は見合う。

騎士セルゲイは姫騎士アリーシャを見て、

 

「それでは自分もペンドラゴへ戻ろう。今回の視察と会談の事を一刻も早く陛下にお伝えしたい。」

「承知した。」

 

そして騎士セルゲイは部下と共に歩いて行く。

姫騎士アリーシャは俯き、

 

「私たちだけでは時代を変えられなかった。スレイが災厄の時代に光をくれたから……」

 

そして空を見上げ、

 

「さて!今日はぐっすり眠れそうだ!宿に戻ろう!」

 

そう言って、老人ネイフトに別れを告げて歩き出す。

その彼女を見つめる穢れを纏った人間。

さらにそれを見つめる赤い瞳。

 

姫騎士アリーシャは歩きながら、

 

「前回顔を合わせてからもう3ヶ月になるのか。元気だろうか。スレイ達は。たまには顔を見せてくれてもいいのに……今のこの街をスレイ達にも見せたいな。ふ。要らぬお世話か。旅を続ける彼らの事だ。きっともう何度も訪れているだろう。」

 

そう言って、彼女は立ち止まる。

そして俯いた。

そこに歌が聞こえてきた。

懐かしい小さな少女の歌。

姫騎士アリーシャが顔を上げると、横から武器を持った者が現れる。

それと同時に歌も聞こえなくなった。

アリーシャは身構え、

 

「何者!」

「売国奴アリーシャ!誅伐である!」

「反休戦の過激派か!」

 

姫騎士アリーシャは槍を構える。

そして彼の攻撃を防ぎながら、

 

「わかってくれ!今、必要なのは講和締結による終戦だ!」

「だまれぃ!国賊ゥ‼」

「こいつ……何か様子が?」

 

そして槍で彼の剣を防ぐと、

 

「ぐ!なんて怪力だ……まさか。」

「しねぇぇ‼」

「憑魔≪ひょうま≫なのか⁈だとすると……従士の、浄化の力がない今の私ではッ!スレイ……!」

 

姫騎士アリーシャが眉を寄せる。

そこに不気味な声が響く。

 

「くくく。祈っても無駄無駄。」

「新手か?」

「どこだ?何者?」

「助けに来る事なんてない。」

「何を言っている⁈」

「導師の小僧はもう居ねえって言ってるのさぁ!」

「な、に……?」

 

と、隙を見せてしまう。

そこに先程の襲撃者が彼女を襲う。

彼女は吹き飛ばされる。

 

「うあ!」

 

そして仰向けになった彼女に剣を振り上げる。

だが、そこに再び歌が聞こえてくる。

その襲撃者の動きが止まる。

と、その襲撃者は背後から誰かに斬られ、倒れ込む。

姫騎士アリーシャの眼には解らないが、襲撃者は浄化の炎が包む。

その目の前にはライラと神依≪カムイ≫をしたロゼが居た。

ロゼは神依≪カムイ≫を解き、姫騎士アリーシャに振り返る。

 

「危ないとこだったね。」

「ロゼ!」

 

姫騎士アリーシャは身を起こす。

そして場所は宿屋と変わった。

その宿屋の一室で、姫騎士アリーシャはベッドの上に座る。

 

「ふぅ。」

 

そして先程の事を思い出す。

 

――ロゼは腰に手を当てて、自分を見る。

 

「危ないとこだったね。」

「ロゼ!」

 

自分は起き上がり、彼女を見る。

彼女は自分に笑いかけ、

 

「アリーシャ、今大事な時なんだから、あんま油断しちゃダメだってば。」

「すまない、助かった。本当に。」

「じゃね。」

 

と、ロゼは自分に手を振って去ろうとする。

自分は彼女を引き止める。

 

「ま、待ってくれ。スレイは?一緒なんだろう?」

「何?血相変えて。」

「何者かに導師はもう居ないと告げられた。」

 

自分は俯く。

だが、その自分の言葉にロゼは反応した。

 

「……何者か?どんなやつ?」

「わからない……声だけだった。」

 

そしてロゼの周りを見て、

 

「それにレイも……あの子の歌が聞こえた。なのに姿が見えないんだ。」

 

それを聞いたロゼは腰に手を当てて、考え込む。

そしてロゼは横を見て、

 

「うん。ヤな予感がする。やっぱ行ってみなきゃ、だね。」

「ロゼ?」

「いい?アリーシャ。今日はネイフトさん家に泊めてもらって鍵をかけて安全にして寝ること!んじゃね!」

「あ!」

 

そう言って、ロゼは走り去って行った。

それを振り返り、姫騎士アリーシャは天井を見上げ、

 

「ロゼのあの態度……やはりスレイの身に何か……それに、レイとも何かあったのかもしれない。前にレイはそれらしきことを言っていた……」

 

と、窓が風に当たり、ガタガタ言う。

立ち上がり、外を見る。

夜空に見上がる白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が居た。

 

「レイ!」

 

小さな少女は自分に振り返り、小さく笑う。

そして歩いて行った。

姫騎士アリーシャは瞳を閉じ、開く。

そしてドアに向かって歩き出す。

 

「やっぱ行ってみなきゃだね。あ……」

 

そして口を押える。

恥ずかしそうに照れ、

 

「もう……」

 

姫騎士アリーシャは外に出る。

歩きながら、

 

「ロゼ、宿に戻ってると良いのだが……だが、レイが居たんだ。きっと……」

 

宿屋のテラスにロゼの姿を見つけ、駆けよる。

 

「ロゼ!良かった!」

「ふぁ⁈」

 

姫騎士アリーシャはロゼに詰め寄り、

 

「聞かせてくれ!災禍の顕主との戦いを、その後を!」

「ちょ!今戻って来たばっか!ご飯ぐらい食べさせてってば!」

「ならご飯食べながらでいい!聞かせてくれ!」

 

ロゼは悲しそうに姫騎士アリーシャを見て、

 

「いいの。それで。」

「そこにライラ様たち居るんだ?お願いです!聞かせてください!」

 

姫騎士アリーシャは周りを見渡して言う。

彼女は眉を寄せ、

 

「レイ!レイもいるだろう!お願いだ、教えてくれ!」

 

ロゼはさらに眉を寄せ、

 

「なんつー強引さ……」

「それだけの想いなのですわ。」

「観念するの?」

 

と、ライラとエドナの声が響く。

姫騎士アリーシャはロゼの方を見て、

 

「ライラ様!エドナ様!」

「……あたしの想いは無視なわけ?」

「だったら何故話してくれないのか、聞かせてくれ!」

「やぶへびか……」

 

ロゼは姫騎士アリーシャから離れようとする。

その背に姫騎士アリーシャは、

 

「ロゼ!」

「言ったっしょ?戻って来たばっかだって。ちょっとぐらい休ませてよね。」

「あ……だからレイも居ないのか?さっき来たばかりだから……」

「え?」

 

歩いていたロゼが立ち止まり、振り返る。

姫騎士アリーシャは俯き、

 

「レイがさっき私の所に来たんだ。だから……」

「そ。」

 

そしてロゼは歩き出し、宿の中に入って行く。

姫騎士アリーシャも、その後ろに付いて行く。

宿には居ると、

 

「アリーシャ様もご一緒するんですね?」

 

宿屋の女将が嬉しそうに言う。

姫騎士アリーシャは困惑し、

 

「え、何?何だろうか?」

「お連れの方がそう言って、食事は三人分欲しいと。」

「え、ああ。頼みます。」

「すぐ用意します。もう一人お連れさんが来るまで、座ってお待ちください。」

 

女将は厨房に入って行く。

 

『……もう一人……と言うことは、レイはいないのか?それとも……』

 

姫騎士アリーシャはロゼの部屋に向かう。

戸をノックし、

 

「ロゼ。レイ。」

 

だが、反応がない。

姫騎士アリーシャはノックの音を大きくし、

 

「ロゼ!レイ!」

 

中に入ると、誰もいない。

そして部屋の窓が開いていた。

姫騎士アリーシャは俯き、

 

「そこまでする?」

 

そして顔を上げると、

 

「ロゼ!レイ!絶対聞き出すんだから!」

 

宿屋の女将に謝罪をして、宿屋を飛び出す。

早歩きで、

 

「私を避けている以上、レディレイクには行かないはず。ならきっとラストンベル!」

 

姫騎士アリーシャが見上げる空はすでに日が昇っていた。

その背を苦笑しながら、見ていた人物が居た。

 

 

姫騎士アリーシャはラストンベルに入り、宿屋に駆け込む。

そして亭主からロゼの事を聞き、部屋に乗り込んだ。

 

「ロゼ!見つけた!」

「あ、アリーシャ⁈」

 

ロゼは目を見開いて驚いた。

そして頭を掻きながら、

 

「追ってくるなんて……。しかもこんな早く……」

「甘く見ないで!」

 

姫騎士アリーシャはロゼに詰め寄る。

そしてロゼを見つめ、

 

「さぁ話しなさい!」

 

ロゼは腕を組み、

 

「……もう分かってんでしょ。あたしが話すきないの。騎士姫さん?」

 

姫騎士アリーシャは睨みながら、拳を握りしめる。

 

「黙ってて。」

 

と、ロゼは手を上げて、後ろを横目で見る。

姫騎士アリーシャはさらに拳を握りしめ、

 

「何故だ。訳を言ってくれ。」

「話したくないから。」

「納得できない。」

「納得して欲しいとか思ってない。」

「私はスレイの従士!聞く権利がある!」

 

そう言って、さらにロゼに近付く。

ロゼは呆れたように、

 

「そう来たか。」

 

ロゼは怒りながら、後ろに手を払うように振り上げて、

 

「いいから黙っててってば!」

 

姫騎士アリーシャはそのロゼの手を取ろうとする。

だが、ロゼはそれをすり抜け、

 

「あなたとあたしはもう住む世界が違うのです。自分で選んだんでしょう?王女様。」

 

そう言って、胸に手を当てる。

姫騎士アリーシャは怒りだす。

 

「ふざけてるの?」

「そのつもりはありませんでしたが、お気を損ねたのならば申し訳ありません。ご無礼をお許しください。」

 

そう言って頭を下げる。

そのロゼに、姫騎士アリーシャは詰めよる。

 

「やめてくれ!王女である前に仲間でしょ!」

「……ホント正論。」

 

ロゼは頭を下げたまま言った。

そして姫騎士アリーシャは辺りを見て、

 

「レイ!どこにいるんだ!レイなら分かるだろ!」

「レイは関係ない。それに仲間じゃないよ。とっくに。」

 

ロゼは顔を上げ、真っ直ぐ彼女を見る。

姫騎士アリーシャは眉を寄せ、

 

「なッ⁉」

「もう別の道歩いてる。」

「ロゼ……」

「納得した?」

 

そう言って、ロゼは腰に手を当てた。

アリーシャは瞳を揺らし、ロゼの頬を叩いた。

 

「私は!私はずっと――」

 

そしてロゼもまた、姫騎士アリーシャの頬を叩いた。

彼女は頬を抑え、ロゼを見る。

 

「何その顔。やり返されたことないの?ま、王女様だもんね。」

 

と、ロゼは姫騎士アリーシャを見て笑う。

彼女は拳を握りしめ、

 

「あなたに私の何がわかるの!」

 

そう言って、再びロゼの頬を叩いた。

ロゼは眉を寄せ、

 

「わかるワケあるか!」

 

と、今度はロゼが、再び姫騎士アリーシャの頬を叩く。

彼女はロゼを涙をこらえて睨み、

 

「ロゼは自分がどれだけ恵まれているかわかってない!」

 

再びロゼの頬を叩こうと手を振り上がるが、その手をロゼは掴みとる。

その腕を押しのける。

 

「今度は悲劇のお姫様の顔なんだ?」

 

後ろに数歩下がった姫騎士アリーシャはロゼを睨み、

 

「ロゼ――‼」

 

今度は圧し掛かりに入った。

ロゼも踏みとどまる。

姫騎士アリーシャはさらに力を籠め、

 

「ずっと仲間だと思ってたのに!何故そんな酷い事ばかり!ロゼ‼」

「そっちに言わされたんだっつの!」

「ひどい!ひどい!ひどい!ひどい!ひどい!」

「次は泣くんだ?女の子。」

「わぁぁぁ‼」

 

と、二人の取っ組み合いが始まった。

 

それを窓越しに見ていた少年と小さな少女。

少年は身をすくめ、

 

「いや~、相変わらず心ある者の女性は怖いなぁ~……」

「何で、私を見るの?」

 

と、少年は見ていた小さな少女を見て、

 

「別に~。でも、君は怒ると怖いって言うより、可愛いかもね。」

「裁判者も?」

「あの子は怖い。」

「ほうぉ。」

 

小さな少女の目を細める。

その瞳は赤く真っ赤に光っていた。

少年は引きつった笑顔で、

 

「冗談だって。おぉ~、コワ。」

 

少年は最期、小声で呟いた。

と、小さな少女は再び部屋を見る。

 

また、彼らと同じように彼らの取っ組み合いを見ていた者が……

 

「どれだけ不器用なの……この二人。」

「とめます?エドナさん?」

 

呆れて二人を見ていたエドナに、ライラが困ったように見る。

エドナはそっぽ向き、

 

「イヤよ。どっちも正しくてどっちも悪いもの。それに……どうせこの二人は、無二の親友になるか。心底、疎み合うかのどっちかしかないわ。」

「確かに……」

「けど正直意外ね。この二人がこんなになるなんて。」

 

ライラは再び、取っ組み合いをしてる二人を見て、

 

「お二人は一番そう感じてるかもしれませんね。」

 

そう言って、苦笑した。

 

 

しばらくして、取っ組み合いをしていた二人はベッドに座り込み、

 

「「は~……」」

 

そしてロゼが疲れ切って、

 

「もう勘弁して。」

「ロゼ次第……」

 

姫騎士アリーシャも、疲れ切っていた。

ロゼは足を組み、

 

「あたしの気持ちは変わんないよ……」

「私も……」

 

そう言って、二人は再び、

 

「「は~……」」

 

と、姫騎士アリーシャは立ち上がり、歩き出していく。

ロゼは彼女の背を見て、

 

「アリーシャ?」

「明日また来る。逃げても無駄なのはわかったでしょ。待っててよ。」

 

彼女はロゼに振り返る。

ロゼは眉を寄せ、

 

「そうじゃなくて!こんな夜にどこ行く気?」

 

そう言って、外を見る。

辺りはすっかり夜になっていた。

姫騎士アリーシャは再び背を向け、

 

「公職の者らしく騎士団の寄宿舎で仮眠する。」

「あんた反休戦派とかに狙われてんじゃん!危ないって!」

 

ロゼが立ち上がる。

姫騎士アリーシャは戸のドアに手を置き、

 

「他人の事でしょ。ロゼには関係ない。」

 

そう言って、出て行く。

ロゼは頭を掻き、苦笑いする。

 

 

外に出た姫騎士アリーシャは歩きながら、

 

「……わかってるよ。ロゼ。スレイの事……とても辛い事情があるんだね。それにレイの事も……。自分が決めた道で実を結ぼうとしている今の私は、そんな辛い事を知る必要はないって気遣ってくれてるんだよね。わかってる……けど、仲間なんだから……はぁ……」

 

と、俯いていた。

だが、聖堂の辺りまでくると、

 

「あーもう!何故あんなになってしまったんだ?あれじゃホント、ただの女の子……はぁ~……」

 

と、大きなため息をつく。

そして立ち止まる。

 

「顔を上げてないと、危ないよ。アリーシャ。」

 

姫騎士アリーシャがハッとして、少し顔を上がる。

目の前には俯いた自分の顔を見上げる小さな少女がいた。

 

「レイ……」

 

小さな少女、レイは後ろで手を組み、

 

「アリーシャも大変だね。でも、本当に真実を知りたいのなら、足掻いて足掻いて、足掻きまくって……本当の気持ちをぶちまけて、ロゼを説得してみるといいよ。だって、二人は似た者同士なのだから。ね?」

 

と、小さく笑う。

姫騎士アリーシャはジッとレイを見て、

 

「レイ……君は何故――」

 

だが、レイに問いかける前に、二人の前には武器を持った集団が現れる。

姫騎士アリーシャは気持ちを切り替え、斜め後ろを見る。

 

「ロゼ!手出しは無用だから!レイも!」

 

だが、ロゼは斜め前の建物の屋根の上に居た。

 

「なに言ってんだ~?あの子は~?ま~だ頭冷えてないのか……」

 

と、頭を掻く。

そして姫騎士アリーシャの近くに居るレイを見つめる。

レイはロゼを見上げて、小さく笑う。

と、レイは集団者の一人に拘束され、武器を着き付けられる。

姫騎士アリーシャは集団者達を見て、

 

「このような真似をしても意味はない。そして、その子は関係ない。やめなさい。」

「うるさい!売国奴がぁぁ。」

「この人達も憑魔≪ひょうま≫……。我らは同じ人のはず。そして世界を想う者のはず。私達がこんな諍いを続ける限り、いつまでも安心してもらえない!大丈夫なんだって証明できない!」

 

姫騎士アリーシャは大声で言う。

ロゼは眉を寄せ、

 

「あの子……」

「アリーシャさんは、ロゼさんを戦争が招いた問題に巻き込みたくないのですね。だからレイさんも、大人しく様子を伺ってる。」

 

ライラがロゼの背を見て言う。

ロゼは横目でライラを見て、

 

「けど、あいつら憑魔≪ひょうま≫だ。アリーシャじゃ敵わないよ。」

 

と、視線を戻す。

案の定、集団者は殺気立っている。

 

「うるさいぃぃぃ!」

「聞いて!私の言葉を!」

 

エドナはロゼの背に、

 

「それでも力を借りずにここを何とかするし。何とかしたら、安心してどんな事実でも話して欲しいって事かしらね。」

「ホント、不器用だなぁ。」

 

ロゼは笑う。

エドナは続ける。

 

「……あの子自身があいつらを浄化すれば、ウィンウィンの一挙両得一網打尽の一石二鳥。それにあのまま、おチビちゃんを捕まえててもらえれば、こっちとしても助かる。今はそういう事にしといてあげるわ。」

「ロゼさん、アリーシャさんと従士契約しましょう?」

 

ライラが手を合わせて言う。

ロゼは嬉しそうに笑い、

 

「も~!しょうがないなぁ!」

 

そして立ち上がる。

そのロゼの姿に、

 

「不器用なのはお互い様ね。」

「ふふ。」

 

淡々と言うエドナに、ライラは笑う。

 

そして襲撃者の一人が、武器を構えて姫騎士アリーシャに突っ込む。

 

「がぁぁぁ!」

「とぉぉぉ!」

 

と、その襲撃者を蹴り飛ばして、ロゼが姫騎士アリーシャの前に着地する。

姫騎士アリーシャは驚き、拳を握りしめ、

 

「手出しは無用って――」

「だったら!従士、やる?」

 

ロゼは姫騎士アリーシャに振り返って、笑う。

レイは小さく笑う。

だが、そのロゼに、姫騎士アリーシャは困惑する。

 

「は?」

「自分でやってみせるんでしょ?」

「やる!」

「ライラ!」

 

ライラは嬉しそうに、ロゼと姫騎士アリーシャの手を取り、

 

「我が宿りし聖なる枝に新たなる芽いずる。花は実に。実は種に。巡りし宿縁をここに寿がん。」

 

姫騎士アリーシャを炎の魔法陣が包み込む。

 

「今、導師の意になる命を与え、連理の証しとせん。覚えよ、従士たる汝の真名は――」

「『イスリウィーエブ=アメッカ≪そぞろ涙目のアリーシャ≫』!」

 

ロゼは叫ぶ。

それを聞いて、レイはクスクス笑い、ライラに至ってはロゼを見て、

 

「ええ⁈」

「スレイとのこのギャップ……」

 

エドナは半笑いする。

だが、意味を知らないアリーシャは笑顔で、見えるようになったライラとエドナを見る。

 

「ライラ様、エドナ様、お久しぶりです!」

 

そして頭を下げる。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「さ、見せてもらうよ。それに、レイもいつまでもああしておくと、機嫌損ねるだろうし。」

「望むところ!見てなさいよ‼」

 

そして武器を構える。

無論、レイを助けると言うことで、ロゼ達も参戦する。

浄化の力を手に入れ、アリーシャは敵をどんどんと薙ぎ払う。

その呆気さに取られている敵を影で叩き付けて、レイは自分で拘束を解く。

敵を全て倒すと、ライラが手を合わせて、

 

「お見事ですわ。アリーシャさん。」

「悪くはなかったと思うけど。そうよね、おチビちゃん。」

 

エドナも傘を肩でトントンしながら、誉める。

レイは小さく笑い、

 

「ん。そうだね。」

 

だが、アリーシャは首を振り、

 

「いえ……お二人の力がないと対処できませんでした。レイに至っては、自分で脱出してるし……まだまだです……」

「そ、ね。あれじゃ、まだわかんない。」

 

と、ロゼがアリーシャを見据える。

そして二人は互いに見合って、

 

「「おやすみ。」」

 

そして背を向ける。

アリーシャは歩いて行く。

ライラは困惑しながら、

 

「ろ、ロゼさん?アリーシャさん?」

「……面白くなってきたわね。ね、おチビちゃん。」

 

エドナは笑いながら言う。

レイも二人を見て、

 

「そうだね。」

 

と、レイはその場に座り込む。

ロゼがレイに近づく。

 

「大丈夫、レイ⁉」

 

だが、その間に短剣が突き刺さる。

レイとロゼはその方向を見る。

そこには塀の上に、白と黒のコートのような服を風になびかせた、少年が立っていた。

彼は仮面は仮面をつけていない。

 

「ゼロ。ロゼが怪我でもしたら、怒るよ。」

 

レイは立ち上がり、彼を見る。

彼は降り、レイに近付き、

 

「ごめん、ごめん。でも、怪我させてないよ。」

「当たり前。」

 

そう言って、レイは彼に抱っこされる。

審判者ゼロはロゼ達を見て、

 

「ごめんね。この子、貰ってくから。」

「待ちなさい。あの時と違って、おチビちゃんはまだ、おチビちゃんのはずよ。」

「そうだよ。なのになんで、あたしたちから離れるのさ。」

「ミクリオさんも心配していましたわ。勿論、私達も……ここにいないザビーダさんも、です。」

 

エドナ、ロゼ、ライラはレイを見つめる。

レイは俯き、審判者ゼロの服を握り、

 

「ごめん。行って、ゼロ。」

「……わかった。」

 

そう言って、二人は風に包まれる。

ロゼはそこに手を伸ばしながら、

 

「レイ――‼」

 

だが、その風に触れる前に、風は消えた。

そして二人の姿もない。

 

 

翌朝、ロゼはアリーシャの居る部屋にノックもせずに入る。

 

「おはよう‼!」

「わ!」

 

アリーシャは思いっきり驚き、振り返る。

ロゼは笑いながら、

 

「お、着替え中?ちょうどいいや。」

「何が⁈いや、まずドアを閉めて!」

 

アリーシャはテンパり出す。

ロゼは不敵な笑みを受けべ、

 

「ふふん。覚悟しろ~!」

「な⁈きゃー‼」

 

アリーシャの悲鳴が宿舎に響き渡る。

しばらくして、アリーシャの格好はいつもの騎士服ではなく、姫として動くときの服装になった。

アリーシャはロゼを見て、

 

「で、どうして公務の正装に?」

「反休戦の過激派のヤツらって、憑魔≪ひょうま≫ばっかじゃない?なんか裏にやばいヤツがいるんじゃないかなって。」

「答えになってないよ。」

 

アリーシャはロゼを見ながら、頬を膨らませる。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「あたしはそれ確認しんきゃなんないの。」

「答えになってないってば。」

 

さらに頬を膨らませるアリーシャに、ロゼは笑顔で、

 

「囮。」

「は?」

 

アリーシャは首を傾げる。

ライラは視線を外し、エドナはニヤリと笑う。

ロゼは笑顔のまま、

 

「その恰好なら誰が見ても、時の人アリーシャ・ディフダだってわかるでしょ。襲われて。」

「はぁぁぁ⁈」

 

アリーシャはロゼを凝視した。

ロゼは笑いながら、

 

「昨日従士契約したじゃん。あたしを手伝うのは当然。おわかり?」

「え?あれってロゼとの従士契約だった?」

「そだよ?」

「……スレイでなく?」

「ん。」

 

少しだけロゼを見つめた後、アリーシャは頷き、

 

「わかった。過激派の裏に憑魔≪ひょうま≫が居ないか確認するために、アジトを探す。そのために囮になるってことでいい?」

「従士契約があたしとだった理由、聞かないんだ。」

 

意外そうな顔でアリーシャを見る。

アリーシャはムッとして、

 

「どうせ教えてくれないでしょ。」

「ま、ね。」

 

と、頷く。

するとエドナがそっぽ向き、

 

「ワタシたちは蚊帳の外ね?」

「あああ!そんなつもりは‼ごめんなさい!」

 

アリーシャはエドナに頭を下げる。

ライラは口に手を当て、

 

「ふふ。よろしくお願いしますね、アリーシャさん。」

「はい。ライラ様。……ところで、レイはいないのか?昨日はいたのに。」

 

と、周りを確認する。

ロゼ達は一瞬何かに反応したが、

 

「それはおいおいね。」

「では、ミクリオ様とザビーダ様もそれで一緒じゃないのか?」

 

ロゼは頭に手を組んで言う。

 

「ああ、うん。ちょっと探し物してて別行動中。」

「そっか。残念。」

「あれ?追及無し?」

 

ロゼは首を傾げる。

アリーシャは微笑み、

 

「……女性ばかりで旅をするのも良さそうだなって。だからレイも居ればよかった。」

「ふふ。ですね。」

 

ライラは少し悲しそうに笑う。

そしてアリーシャは腕を組み、顎に指を当て、

 

「実はジョシカイというのに憧れてて……」

「ジョシカイ?」

 

ロゼは眉を寄せる。

エドナが若干真剣な表情で、

 

「ジョシカイ……たしか伝説の荒行だったかしら。」

「ええ⁈」

 

アリーシャは目を見張る。

エドナは続ける。

 

「食欲や物欲を制御しながら、集団で話術や語学、情報の収集、処理能力を練磨しつつ、作戦立案能力をも駆使しなければ無事に終われない、厳しいものだそうよ。」

「エドナさん……」

 

ライラは苦笑する。

アリーシャは眉を寄せ、

 

「想像していたものと全然違う……!」

「最大の敵はドゥターキャンという魔物!」

 

エドナは話は続く。

アリーシャはエドナを見て、

 

「魔物まで……!ジョシカイ……本当は恐ろしいものだったんですね……」

「そうよ。甘く見てるとやばいわよ。」

 

エドナは生き生きして話す。

ロゼはライラに近付き、

 

「これは、いじってるんだよね?」

「そう信じたいです……」

 

ライラは苦笑するだけだった。

そしてロゼが手を上げて、

 

「さって、じゃあ――」

「言っておきますけど!従士で囮だけど、この作戦は私が中心です。行き先、行動、各種決定権は私が持つべき。おわかり?」

 

アリーシャは、ロゼを睨みつけた。

ロゼは若干驚き、

 

「お、おう。」

「しっかり見てて。」

「うん。見てる。にしてもさ。」

 

と、ロゼは腕を組んでアリーシャを見つめる。

アリーシャは首を傾げ、

 

「何?」

「お姫様、なんか口調砕けすぎくない?」

「ロゼのせいでしょ!」

「ちょ、逆ギレ?」

「なんか移っちゃったんだ……」

 

アリーシャは、そっぽ向く。

ロゼは笑いながら、

 

「普通の女の子の練習してたんじゃないの?」

「!し、してないってば。」

 

と、照れ始める。

 

それを遠くから見ていた二つの黒い影。

一つの影の者が呟く。

 

「どうだ?これで役者はそろって、舞台も整ったぜ?」

「……約定は違えぬ。」

 

そしてもう一人の影が揺らめきながら言う。

 

 

アリーシャ達は歩き出す。

アリーシャは歩きながら、

 

「過激派は緩衝地帯のマーリンドからラストンベルの付近に潜んでいるはず。その辺りを中心に調べよ?」

「ふむふむ。」

 

ロゼは頷きながら歩く。

アリーシャはさらに続ける。

 

「セルゲイ殿や評議会にも私がしばらく、そっちのことやってるって伝えなきゃね。」

「あ、そっか。その辺考えてなかった。」

「そんなことだろうと思ったよ。いい。書簡で伝えとくから。」

「ん。悪いね。」

「よく言うよ。」

 

と、話している姿を見たライラは笑う。

 

「ふふふ。」

「どうかなさったのですか?ライラ様。」

 

アリーシャがライラに振り返る。

ライラは頬を膨らませ、

 

「むむ。アリーシャさん、私には今まで通りの口調なんですのね。ちょっと残念ですわ。」

 

と、今度はへこみ出す。

アリーシャはライラを見て、

 

「そんな!やはりライラ様たち天族の方々には、敬意が自然に出てしまいますので。」

「あたしにゃ敬意なんかないもんね。」

 

ロゼは半笑いする。

アリーシャは頬を膨らませ、

 

「なんでそんな言い方するの!」

「なんでそこで怒るわけ?」

「だって!」

「五月蠅いわ。静かになさい。」

 

言い争いが始める彼らの間に、エドナがいじけながら言う。

アリーシャはシュンとして、

 

「ああ、ごめんなさい!エドナ様。」

「……申し訳ありませんでした、じゃないの?そこは?」

「もう。エドナさん、意地悪しなくても。」

 

エドナに、ライラがじっと見ながら言う。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「崇め奉り度は絶対キープよ。」

「もちろんです!ロゼは肩苦しいの苦手でしょ?こんな感じの方がいいよね。」

 

アリーシャはエドナを見た後、ロゼを見える。

ロゼは呆れたように、

 

「ま、そうだけれどね。口調までは変えなくて良いけど。」

「ふふ。アリーシャさんはロゼさんと対等でありた――」

「そんな事ありません!」

 

ライラの言葉をアリーシャは頬を赤くして否定する。

ライラは微笑みながら、

 

「恥ずかしが――」

「ロゼが悪いんです!」

 

アリーシャは叫んだ。

ロゼは呆れまくって、

 

「えー。」

 

そして広場に来ると、ロゼは立ち止まる。

表情を真剣になり、

 

「さてと。アリーシャ、過激派のアジトの目星、騎士団はつけてないの?」

「うん。緩衝地帯も広いから。ラストンベルの近くじゃないのは確かだよ。この辺りは捜索済みだから。」

「となると、グレイブガント盆地辺りって事か……」

「そうね。フォルクエン丘陵にもなかったし。」

 

ロゼとエドナが考えながら言う。

と、ライラが黙り込んでどこかを見る。

アリーシャがライラを見て、

 

「どうかしました?」

「グレイブガンド盆地には、エドナさんが封じた秘密の場所があるんです。」

 

ロゼは頭を掻きながら、

 

「……やな予感。」

「ええ。だからレイさんも……」

 

そう言って、ライラは俯く。

アリーシャはロゼを見て、

 

「行ってみよう、ロゼ。」

「おっけ。」

 

と、一行はグレイブガント盆地に向かう。

エドナとライラは後ろで歩きながら、

 

「ホント、影響を受けやすい子。」

「元々の口調もマルトランさんの影響なのでしょうか。」

 

ライラは前を歩くアリーシャの背を見つめる。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「影響を受けた相手に対して、色んな顔を作ってきた、そんなところかしら。」

「ですが、王女、騎士、普通の女の子……どれも彼女の本当の姿ですわ。」

「本人がそれに気付くかしらね。」

「きっと大丈夫ですわ。」

「ロゼは無理だと思ってるみたいだけど?」

「そうでしょうか。ロゼさんは共に時間を過ごす事を選びましたよ?あの時のレイさんのように。」

 

ライラは前を歩く二人を見て微笑む。

エドナはそのライラを見上げ、

 

「そのおチビちゃんも、今はいないけどね。」

「……エドナさん……」

「……でも、まぁ良いわ。しばらく退屈しなさそうだし。」

「見守りましょう。お二人を。」

 

二人はジッと二人の背中を見つめる。

 

彼らが街から出るのを見ていた人物がいた。

彼は屋根上から彼らを見て、

 

「頼むから、早めに行ってよ。大方、あの子が無茶するだろうし……」

 

そう言って、彼は風に包まれて消えた。

 

アリーシャ達はグレイブガント盆地に入る。

アリーシャはロゼを見て、

 

「じゃあ、探してみよ?」

「おっけ。」

 

ロゼは辺りを見渡して言う。

 

グレイブガント盆地を探索していると、ロゼ達の前に短剣が突き刺さる。

二人は足を止め、辺りを伺っていると、背後から殺気を感じる。

二人は振り返ると、

 

「国賊!死ね!」

 

と、アリーシャに向かって剣が振り下ろされる。

そこに再び短剣が飛んできて、それを弾いた。

アリーシャ達は距離を取り、武器を構える。

 

「来た!」

「囮作戦大成功!」

 

そしてある程度相手をボコる。

敵がアリーシャ達から距離を取ると、

 

「くそっ!」

 

敵は逃げ出した。

アリーシャはロゼを見て、

 

「あれをつけるのね?ロゼ?」

 

ロゼは短剣を睨んだ後、一目散に走り出す。

アリーシャは驚き、

 

「ちょっと、ロゼ!」

 

アリーシャも急いで駆け出す。

 

アリーシャ達が駆けて行くのを岩の上から見ていたある少年は、

 

「ここは、これでひとまず良いか……残すはあっちの陪神さん達か……。あまり無茶しないでよ、レイ。」

 

彼はある方向を見て、風と共に消える。

 

 

そしてアリーシャは、ロゼに追いついて、

 

「ロゼ!一体――」

 

と、走るその先から怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「相手は一人だ!」「ガキ一人に何を手間取ってる!」

 

それを聞いたロゼが、さらに早く駆け出していく。

そしてライラとエドナも、走るスピードを上げた。

アリーシャはさらに困惑し、自分も速度を上げる。

 

アリーシャは息を整え、辺りを見て目を疑った。

レイが、多くの憑魔≪ひょうま≫達を影のようなもので薙ぎ払っていた。

 

「あーもう!ゼロも居ないのに!」

 

レイは息を上げながら、敵を薙ぎ払い続ける。

ロゼが短剣を構えて、その場に向かって行く。

そしてライラとエドナも、天響術を詠唱し始める。

アリーシャは槍を構え、自分も突っ込んで行く。

ロゼが敵を薙ぎ払いながら、

 

「レイ!」

「ロゼ。それにアリーシャ……と、奥に居るのはライラとエドナか。」

「大丈夫か、レイ!」

 

アリーシャも、そこに来てレイを見る。

そして怪我がない事を確かめると、再び憑魔≪ひょうま≫に向かっていく。

と、レイは敵を見たまま、

 

「つ、疲れてきた……」

――そもそも、無茶をしたのはお前だ。そこは反省しろ。

「だって、ここは……」

――なら、変われ。まだ、あいつらと話をしたいのだろ。

「……アリーシャがいる……」

――なら、話せなくなっても良いと?

「……わかった。」

 

レイは憑魔≪ひょうま≫の攻撃を避ける。

 

アリーシャがレイを見た。

レイは憑魔≪ひょうま≫の攻撃を避けた。

土煙が上がり、晴れるとレイが居ない。

が、憑魔≪ひょうま≫は何者かに斬られ、浄化される。

アリーシャの瞳には、仮面をつけた黒いコートのようなワンピース服を着た少女がいた。

その少女はアリーシャとロゼの近くまで来ると、

 

「退け、従士ども。」

「え?や、あなたは?」

「退けと、言っている。」

 

仮面の下からも解る赤く光る瞳がアリーシャを睨む。

アリーシャは一歩後ろに下がる。

仮面の少女が憑魔≪ひょうま≫に向かって、剣を横に一振りする。

憑魔≪ひょうま≫達は吹き飛び、浄化の炎に包まれた。

 

「すごい……」

 

アリーシャが呆気に取られていると、ロゼが仮面の少女を睨み、

 

「アンタ!一体何のつもり!何を考えてんのさ!」

「それをお前に言う必要があると?」

 

仮面の少女は右手を腰に手を当てる。

そして近づいてきたライラとエドナも、

 

「話してください!一体、あなた達は何をしているのです!」

「そうよ!それに、おチビちゃんには一体なにが起きたのよ!」

 

仮面の少女はそれを無視した。

エドナは地面を蹴り始めた。

アリーシャが困惑し、大声で声を上げた。

 

「あ、あの!」

 

仮面の少女は目線だけ、アリーシャに向ける。

アリーシャはグッと彼女を見て、

 

「あなたは一体何者ですか?それにあなたの側にはレイが……小さな少女がいた筈です。あの子は――」

「まず、器……小さな少女に関しては心配はない。」

 

そしてアリーシャとロゼの横を通り、

 

「そして抗って見せろ、ハイランドの姫。私は裁判者。私の事を詳しく知りたいのなら、そいつらに聞け。」

「え?」

 

そして彼女は、すぐ近くの洞窟に入っていた。

アリーシャはロゼを見る。

 

「ごめん。今ムリ。」

「すいません、アリーシャさん。私も少し……」

「今聞いたら、ぶっ飛ばすわよ。」

 

そしてライラは視線を外し、エドナに関しては怖い。

アリーシャは一端、三人が落ち着くのを待つことにした。

その為に、話題を変える。

 

「それにしても、こんなところに洞窟があったなんて。知りませんでした。」

「アリーシャさんには、そうなりますね。……ですが、やはりここなのですね……」

「そんな予感はしてたけど。」

 

ライラとエドナが洞窟を見つめる。

その雰囲気に、アリーシャが聞いて良いかどうか迷っていた。

ライラは静かに、

 

「この洞窟はカムランへと繋がる道なんですの。」

「カムランって、あの⁈」

 

アリーシャはバッとライラを見る。

エドナは傘を広げ、

 

「そうよ。ローランスからの道ってワケね。」

「失われた道でしたが、かの者との熾烈な戦いの余波が、再び道を拓いてしまったのです。」

 

ライラが手を握り合わせる。

そしてエドナも傘を握りしめ、

 

「けど、ワタシが封じた。確かに入り口は塞いだはずよ。」

「でも、裁判者たちが動いてる。と言うことは、やっぱり何かが起きた。」

 

ロゼは洞窟を睨む。

アリーシャは一人眉を寄せて、手を握りしめる。

そしてロゼはアリーシャを見て、

 

「行くよ。」

「待って、ロゼ。さっきの憑魔≪ひょうま≫たちは彼女が浄化したが、他の残党を浄化はするにしても、ちゃんと捕らえて根本的に解決しなきゃ。セルゲイ殿に連絡して――」

「そんなの待ってらんない。」

 

ロゼは眉を寄せる。

アリーシャは拳を握りしめ、

 

「話聞いてよ!」

「この先は人に触れさせちゃダメなの!」

 

ロゼは拳を握りしめ、怒鳴る。

アリーシャは瞳を揺らした後、

 

「……わかった。行こ。」

 

と、歩き出す。

そのアリーシャの腕を、ロゼが掴む。

 

「なに?」

 

ロゼは手を放し、アリーシャを見て、

 

「もっとしつこく来るかなって思ってた。」

「もう譲ってくれないでしょ。」

 

アリーシャは頬を膨らませて言う。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「ま、そうだけど。」

「行こ。」

「ん。」

 

二人は洞窟に向かって歩いて行く。

エドナも歩き出しながら、

 

「仲が良いのか悪いのか。」

「ふふ。」

 

ライラも歩き出す。


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