スレイは災禍の顕主ヘルダルフと睨み合っていた。
「……もはや語るまい。」
「行くぞ!」
スレイは武器を構える。
そして剣と拳がぶつかり合う。
スレイは左手に力を籠める。
「うおお!」
「我らの幕はその技か!よかろう!」
スレイのそれを見た災禍の顕主ヘルダルフは、同じように左手に力を籠める。
そして二人は、
「「獅子……」」
互いに踏み込み、
「「戦……」」
その力を開放する。
「「吼ッ‼」」
白い獅子と黒い獅子がぶつかり合う。
そして爆発する。
「ぬうっ!」
災禍の顕主ヘルダルフは顔を防ぐ。
その光の爆発の中からスレイが右手に力を籠めて、
「これが!」
「まさかっ⁉」
「オレの全てだッ‼」
そして力を災禍の顕主ヘルダルフにおもいっきり叩き付ける。
災禍の顕主ヘルダルフは吹き飛ばされる。
「ぐあああ‼」
そして壁に叩き付けられた。
その衝撃で、穢れが爆発する。
スレイは腕で顔を当てる。
そしてその穢れは光へと変わる。
災禍の顕主ヘルダルフの上には、光り輝くドラゴンが居た。
スレイはドラゴン見上げ、
「マオテラス……」
そこに一本の剣が振って来た。
それは地面に突き刺さる。
そしてその先には、人の姿に戻った災禍の顕主ヘルダルフが居た。
スレイはゆっくり歩きながら、そこに向かう。
災禍の顕主ヘルダルフは弱りきった声で呟いている。
「親を……妹を……仲間を奪われた復讐を……成し遂げたな。……災厄の時代は終わらん……」
そしてスレイは剣の側まで行くと、剣を抜く。
災禍の顕主ヘルダルフは老人だった。
彼は椅子にもたれ、スレイを見ていた。
スレイは剣を握って、そこに行く。
「その剣をワシに突き立てた時……新たな災禍の顕主が生まれるのだ……。……やれ。その時貴様は理解するだろう。」
スレイは瞳を閉じ、そして開いて剣を災禍の顕主ヘルダルフの心臓に突き刺した。
それは石の椅子をも貫く。
「ぐふっ!ふふふ……」
スレイは悲しそうに剣を握っていた手を離す。
彼は目を開けて息を断った。
スレイは彼を見つめ、
「こんな事でしか救えないなんて……」
「それでも、彼は孤独と言う名の呪いからは解放されたよ。」
スレイの後ろの方から聞き覚えのある声が響く。
スレイが後ろを振り向くと、
「レイ……」
レイは小さく笑う。
そして表情を真剣な表情に戻し、
「災禍の顕主……いえ、ヘルダルフ。私達は貴方を許すことはできないだろう。だが、私達は導師スレイの出した答えによって、お前を先代導師ミケルの呪いから開放する。」
そう言って、災禍の顕主ヘルダルフの体は黒い炎に包まれる。
「お前の呪いも、業も、私達が持っていこう。だが、災禍の顕主は新たに生まれる。これは導師と災禍の顕主との因果のようなもの。消すことはできない。それでも、その答えを貫く?」
「ああ。オレはやるよ。」
スレイはレイを見て、小さく笑う。
そしてスレイは燃える災禍の顕主ヘルダルフを見て、
「おやすみ……ヘルダルフ……永遠の孤独は今、終わった。」
と、息絶えて燃えていた災禍の顕主ヘルダルフは笑みを浮かべ、スレイを見た。
「……気に入らん……な……最後まで抗おうと……いう……のか……」
そしてガクンっとなった。
彼は今度こそ本当に、息を引き取った。
と、彼の中で渦巻いていた穢れがスレイとレイを飲み込む。
それは通り抜け、離れて行く。
それと光が四つ出てきた。
光はスレイを囲うように漂った後、上に向かっていく。
スレイはそれを見て、嬉しそうに悲しそうに見上げる。
それを見たレイは微笑み、
「私達は見守るよ。彼らはお兄ちゃんの出した答えを、想いを繋げなくてはいけない。そしてその願いは、お兄ちゃん自身が叶えなくてはいけない。だから待ってる。そしてまた一緒に旅をしよう。」
「ああ。」
そう言って、スレイはレイの頭を撫でた。
レイはスレイに抱き付いた後、離れる。
光り輝くドラゴン、天族マオテラスを見上げ、
「今ならあなたの意志も、あなたが護るあの人の想いと言う名の感情を理解できた。マオテラス、あなたも選ぶといい。彼女を意志を継ぎ、このまま続けるか。それとも聖主という任を辞めるか。」
天族マオテラスはスレイを見つめる。
それはスレイの答えに賛同し、そして意志を継ぎ続けるという事だ。
スレイ達の居た場所も崩れ始める。
「なら、俺も見守ってあげるよ。スレイという人間の一人の友人として。」
そこには白と黒のコートのようなワンピース服を来た審判者が居た。
彼はスレイに近付き、笑みを浮かべて言った。
スレイも笑顔で、
「ああ。今度はゼロも一緒に旅をしよう。」
「は?」
「だって、旅は人数が多い方が楽しいからさ。」
「……考えておくよ。」
彼はそっぽ向き、照れながら言った。
レイは微笑んだ後、風がレイを包む。
そしてスレイと同い年くらいの黒いコートのようなワンピース服を着た少女が現れる。
その少女、裁判者はスレイを見て、
「私はお前と盟約を結ぼう。お前の意志が続く限り、お前を援護する。そしてお前の導く未来とやらを、見定めよう。導師スレイ。」
そう言って二人は見合う。
そして裁判者と審判者は天族マオテラスの近くに行く。
スレイも同じように天族マオテラスの前に行く。
裁判者と審判者は同じように、スレイと天族マオテラスに向けて手を前に出す。
そして横に広げる。
魔法陣がスレイと天族マオテラスの上下に浮かぶ。
そして一つの大きな門が現れる。
中は真っ暗な闇だ。
その中にスレイと天族マオテラスは飲み込まれる。
スレイは天族マオテラスに額に触れ、瞳を閉じる。
そして天族マオテラスと繋がると、再び瞳を開け扉の向こうの上を見上げ、
「……ありがとう。」
そう言って、扉が閉まる。
その瞬間光の柱が生まれる。
それは世界に一瞬で広がり、一周して一つの柱となる。
世界に光と歌と笛の音が広がった……
――世界から穢れが薄れ、暖かな日差し、空気が流れる。
そして人も、天族も、喜び合う。
あるものは世界に広がる空を見上げ、あるものは願いと意志を託したその土地で……
人々は歓喜に包まれる。
あるものは仲間と笑い、あるものはかつて敵だった国同士ものと未来を掴むために、互いに手を取り合う。
繋げたものの願いと意志を繋げて……
ロゼは見つめる。
スレイがこれから起こす未来の人柱を……
涙を一筋流し、彼女は託された想いを背に歩き出す。
その彼女の眼の前には、四人の天族達が居た。
彼女は再び涙を流し、彼らの元に駆け寄った。