テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第四十四話 決戦

スレイ達は神殿の扉の前に立つ。

スレイは扉を見て、

 

「……いよいよだ。」

「ああ。」

 

ミクリオも頷く。

スレイが皆に振り返る。

ライラはスレイを見て、

 

「スレイさん。あなたの後ろには私たちが居ますわ。それを忘れないで。」

「そういうことらしいわ。」

「そういうことらしいな。」

 

エドナとザビーダもスレイを見ていう。

ロゼが腰に手を当てて、

 

「思いっきりやっちゃって!そんでもって、裁判者と審判者にもギャフンと言わせよう!」

「ああ!ありがとう。みんな。」

 

スレイは頷く。

ミクリオはジッとスレイを見て、

 

「決着を付けよう。全てに。」

「ああ!行こう!」

 

そう言って、スレイとミクリオは扉に近付く。

エドナが二人の背を見て、

 

「……二人ともカムランに入ってから、一度もおじいちゃんの話しなかったわね。」

「ええ……ゼンライ様に危害を加えるのは無意味だと、かの者へ示しているのでは。」

 

ライラも眉を寄せて言う。

ザビーダは真剣な表情になり、

 

「ビビってるように見えたぜ。俺はよ。あれじゃ自分の弱点を認めてるようなもんだ。それにここに来て、一度も嬢ちゃんも、裁判者の方でも現れてない。無論、審判者もな。」

 

ロゼは少し考えてから、ライラ達を見て、

 

「行こう!」

 

ライラ達は頷き、歩いて行く。

スレイが扉を開け、中に駆け出していく。

そして中の扉が開く。

その祭壇の中に入ると、白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女がスレイ達の横の壁に叩き付けられた。

 

「レイ!」

 

レイは肩を上下させ、立ち上がる。

彼女はスレイ達を見る。

そして瞳を揺らすと、すぐに視線を外す。

レイは手を前に出し、黒い炎が浮かび上がり審判者と災禍の顕主ヘルダルフを襲う。

審判者は笑いながら、

 

「必死だね。」

「うるさい!」

 

だが、黒い炎は切り裂かれた。

ヘルダルフもまた、薙ぎ払う。

 

「レイ‼下がれ!」

 

スレイとミクリオが駆けよろうとしたが、レイはそれより先に突っ込んで行く。

影を駆使して審判者と災禍の顕主ヘルダルフに攻撃を仕掛ける。

だが、審判者は仮面をつけた上から目元に右手を当て、

 

「あはは!もう平静さも失ったか!」

 

そう言うと、レイは立ち止まる。

そして手を顔の前に組み、腕と影で防御する。

そこに審判者の影に打ち付けられ、吹き飛ばされる。

スレイとミクリオが、飛ばされたレイを受け止める。

そして床に置き、スレイは災禍の顕主ヘルダルフを見据え、

 

「ヘルダルフ!決着の時だ。」

 

災禍の顕主ヘルダルフはスレイ達に近付きながら、

 

「……苦しみとともに生きねばならぬ世界……全ての者はこれからの解放を望んでいるのは明白。」

 

そして立ち止まり、

 

「何故それに抗う?導師よ。」

「……確かにお前の目指す世界では、苦しみから逃れられるかもしれない。けど、やっぱり違うと思う。」

 

スレイは立ち上がる。

ミクリオも立ち上がり、

 

「僕たちは苦しみから目を背けたくない。」

 

レイは瞳を開ける。

そして床に寝たまま、彼らの声に耳を傾ける。

そして審判者も腰に手を当てて、彼らの声に耳を傾ける。

ライラは考えるように、

 

「辛い事があるから楽しい事を実感できるのですわ。」

「だね。あたしらは生きてるって感じたいんだ。」

 

ロゼも腰に手を当てて言う。

災禍の顕主ヘルダルフは天井を見上げ、

 

「苦しみに抗う事でのみ得られる安寧……そんなものを世界が享受するはずもあるまい。」

「別に逃げるのが悪いってワケじゃないわ。」

 

エドナが真剣な表情で言う。

そしてザビーダがニット笑い、帽子を上げる。

 

「俺らがそうしねぇってだけさ。」

「……ワシは自然の摂理を語っているのだ。」

 

災禍の顕主ヘルダルフの言葉に、スレイは眉を寄せ、

 

「摂理に従うのが生きる事だっていうのか。」

「無論の事よ。」

 

災禍の顕主ヘルダルフはスレイを見据える。

スレイはまっすぐ彼を見て、

 

「違う!それは死んでないだけだ!それがどれだけ苦しいことか、お前は知ってるはずだ!」

「最後にもう一度問おう、導師スレイ。ワシに降れ。」

「断る!」

「……災禍の顕主と導師……やはり世の黒白ということか。だが、ワシは白とは変じぬ!」

「オレも黒にはならない!」

 

スレイ達は武器を構える。

レイも身を起こし、立ち上がる。

そして審判者と睨み合う。

スレイが声を上がる。

 

「いくぞ!みんな!」

「まずはマオテラスの力を引き出せるんだ!」

 

ミクリオが天響術を詠唱し始める。

ライラも天響術を詠唱し始め、

 

「そうしなければ繋がりを見だせません!」

「了解!」

 

ロゼが突っ込む。

スレイも突っ込んだ。

審判者も短剣をポンポン上に投げながら、ニコニコしている。

そしてスレイの方に短剣を投げた。

レイも影から武器≪弓≫を取り出し、審判者の投げた短剣を矢で落とす。

そしてレイは審判者を睨みながら、矢を放つ。

エドナが天響術を繰り出し、

 

「おチビちゃん、完全に平静さを失ってるわ。」

「ああ。嬢ちゃんがああまでなると言うことは……」

 

ザビーダも天響術を繰り出す。

そして二人はハッとする。

 

「「スレイ!」」

 

二人は駆け出した。

スレイの方も災禍の顕主ヘルダルフに一撃を与えた所だった。

 

「ぬ……」

「うおおお!」

 

そしてスレイは剣を災禍の顕主ヘルダルフに向けて振り下ろす。

彼は左手を剣の前に出す。

スレイの剣が止まる。

 

「な……」

 

スレイはそのまま固まった。

審判者はそれを見て、笑い出す。

 

「あはは!やっぱ、そうなるよね!」

「……審判者‼」

 

レイは審判者を睨んだ後、スレイの元に駆けて行く。

そしてスレイを見ながら災禍の顕主ヘルダルフは、

 

「親だけは捨てられぬか。いかに成長しようとそれが貴様の限界よ!」

「ヘルダルフ!」

 

そこにレイが影に弓をしまいながら、影を飛ばす。

だが、その場に倒れ込む。

その背には短剣が刺さる。

ロゼがレイに駆け寄り、剣を抜く。

そしてライラが治癒術をかける。

そしてロゼは未だに固まっているスレイを見て、

 

「スレイ?」

 

災禍の顕主ヘルダルフの左掌にはジイジの顔が浮いている。

スレイはそれを見つめ、剣を下ろす。

 

「ジイジ……」

「何だって⁉」

 

それを聞いて、ミクリオが目を見張る。

そしてライラも驚愕する。

災禍の顕主ヘルダルフは立ち上がり、

 

「黒にならぬと言ったな。今お前に沸き出ている感情はどうだ?」

 

スレイはそれを見つめながら後ろにさがる。

駆けて来たザビーダが睨みながら、

 

「取り込みやがったのか……!」

「スレイ、下がりな――」

 

エドナが言う前に、スレイは災禍の顕主ヘルダルフの雷を受ける。

 

「うわぁぁ‼」

 

そして膝を着く。

エドナが叫ぶ。

 

「スレイ!」

「ライラ!浄化すればジイジは助かるんだろう?」

 

ミクリオは眉を寄せて、ライラに詰め寄る。

ライラはその視線を外し、無言で手を握りしめる。

ミクリオはさらに詰め寄り、

 

「ライラ!」

「オオオオ……」

 

災禍の顕主ヘルダルフの手に取りこまれたジイジが唸り声が聞こえる。

ミクリオはそこを見て、叫ぶ。

 

「ジイジ‼」

 

災禍の顕主ヘルダルフは左手を前に出し、

 

「愛する子を傷つける苦悩……伝わるか?」

 

スレイは彼を睨み、

 

「ヘルダルフ~!」

「さあ、救ってやるがよい。」

 

左手を握りしめる。

 

「ううう……」

 

ジイジの唸り声が響く。

スレイ達は武器を構える。

 

「ジイジ!」「ジイジ‼」

 

スレイとミクリオは叫ぶ。

レイは起き上がり、手を握りしめる。

ライラが天響術を詠唱し、

 

「なんと愚劣な……!」

「とにかく一度ぶっ飛ばす!話はそれから!」

 

ロゼも短剣を構えて突っ込む。

エドナも天響術を繰り出し、

 

「それが良さそうね。」

「ああ。手をこまねいていたらやられちまう!」

 

ザビーダも天響術を繰り出す。

災禍の顕主ヘルダルフは鼻で笑う。

 

「ふん……憑魔≪ひょうま≫の繋がりを断つ方法を得たのだろう?それを行えばよいではないか。」

「何か企んでるとは思ってたが……」

「ただ人質にされるよりもタチが悪いわ。」

 

ザビーダとエドナが眉を寄せて怒る。

災禍の顕主ヘルダルフはスレイを見て続ける。

 

「親を救うためには仲間を犠牲にせねばならん。だがここでその手を使うとワシを討てぬ。さぁ、どうする?導師よ。」

「ヘルダルフ……お前は!」

 

スレイは災禍の顕主ヘルダルフの攻撃を防ぎながら睨み続ける。

 

「オオオオ!」

 

災禍の顕主ヘルダルフがジイジの力を使う度、ジイジの唸り声が響き続ける。

 

「……それが……ジイジの想い……」

 

レイは立ち上がり、スレイ達の元に駆ける。

災禍の顕主ヘルダルフはスレイを見据え、

 

「抗う事の虚しさ……痛感したか。」

 

ミクリオが天響術を繰り出し、災禍の顕主ヘルダルフが

 

「ぐっ!」

 

そしてロゼが災禍の顕主ヘルダルフに止めを刺しに走って行く。

そこにミクリオが腕を広げて止める。

 

「待て!ロゼ!」

「……わかってとは言わない。あたしを恨んでもいい。今だけはあたしに任せて。」

 

ロゼはミクリオを睨むように、力強く見る。

スレイはロゼを眉を寄せて見た。

 

「ロゼ……」

「頼む……きっと何か……何か方法がある……!」

 

ミクリオは必死に言う。

ロゼは俯き、目をギュッとつむる。

そこに災禍の顕主ヘルダルフの声が響く。

 

「自らの家族だけは失いたくない……大した覚悟だ。」

「ふざけんな!」

 

ロゼが顔を上げ、叫ぶ。

そして災禍の顕主ヘルダルフを睨みながら、

 

「おじいちゃんもミューズって人も、ホントだったら犠牲になる必要なんてない……全部アンタのせいでしょ!」

 

飛び掛かりそうなロゼをミクリオが必死に抑え込む。

エドナが静かに、かつ怒りぎりに、

 

「そう。自ら愚かな選択をして、落ちた訳じゃないのに……」

 

スレイは眉寄せて俯き、拳を握りしめる。

災禍の顕主ヘルダルフは左手のジイジの顔をスレイに見せ、

 

「……それでどうするというのだ?」

「あたしが何とかする!そう決めたんだから!」

 

ロゼがミクリオを振り払って、突っ込む。

災禍の顕主ヘルダルフは雷を全体に出した。

 

「はうっ‼」

 

ロゼ達は膝を着く。

災禍の顕主ヘルダルフはロゼを見下ろして、

 

「従士の出る幕ではない。」

 

ロゼはそれでも必死に起き上がろうとする。

そこに再び雷が繰り出された。

しかし、影がロゼ達を守った。

そしてロゼの影が動き出し、ロゼを拘束した。

 

「な⁉」

 

ロゼは自分の横のレイを見る。

レイはロゼを見た後、

 

「ゴメン、ロゼ。でも、これはお兄ちゃんたちが決める事だから。」

 

そう言って、レイはスレイとミクリオを見る。

 

「導師!お前はいつまで悩んでいる!その迷いが、仲間を死に追いやる事に何故気付かない!お前たちを育てたゼンライは、お前たちに何を教えた!あの嘆きが、お前達を傷つけただけの嘆きだと思うのか!それに目を背け、従士に討たせ、お前の願うその答えに……お前は向き合えるのか!」

 

レイは睨むように、懸命に必死に自分を裁判者として話す。

だが、涙を流し、言葉が演じきれなくなる。

 

「何よりも、ジイジの想いを無下にする気の!」

「レイ……あんた……」

 

ロゼはレイを見上げた。

そしてロゼを拘束していた影が離れる。

そこに審判者の短剣が飛んでくる。

レイは影で薙ぎ払う。

 

「これは導師と災禍の顕主の戦いだ。俺らは関わるべきじゃない。それに君は、俺の答えに同意したはずだよ。なら、いつまでその姿でいる気だよ。」

 

審判者はどこか苛立つように言った。

レイは瞳を閉じ、開く。

赤く光る瞳は燃え上がるような瞳で彼を見る。

 

「ああ。私は裁判者である為に、お前の答えに同意した。だが、私は裁判者としてジイジの願いを叶えるのではなく、レイと言う家族の一人としてジイジの願いを叶える!」

 

そう言って、災禍の顕主ヘルダルフの前で両手を広げる。

 

「私の全身全霊をもって、耐えられるか!」

 

広げていた手を前に出し、

 

「黒き業の炎、喰らい尽くせ!喰魔の力!」

 

黒い炎とレイの足元の影が一気に災禍の顕主ヘルダルフに襲い掛かる。

審判者が彼の前に立ち、同じように黒い炎と影がぶつかり合う。

それが爆発し、レイと審判者は互いに吹っ飛ぶ。

 

「「「レイ!」」」「レイさん!」「おチビちゃん!」「嬢ちゃん!」

 

スレイ達が叫ぶ。

二人は壁に叩き付けられる。

 

「うっ!」「ぐっ!」

 

スレイは俯き、拳を握りしめ立ち上がる。

そしてロゼの前に、災禍の顕主ヘルダルフの前に立つ。

ロゼは視線をレイから、スレイに向ける。

 

「スレイ……?」

「そうだ……これは……これだけはオレがやらなきゃいけない!」

 

そして顔だけロゼを見て、

 

「ありがとう、ロゼ。本当に。」

 

そして悲しそうに笑う。

そして今度は立ち上がり、フラフラしているレイを見て、

 

「レイもありがとう。」

 

レイはそれを見て、必死にスレイ達の元に歩く。

ライラはそのスレイの悲しくも、決意した背中を見て、

 

「スレイさん……」

「バカ……」

「スレイ……」

 

エドナ、ザビーダも彼のその背を見る。

スレイは背を向けたまま、

 

「下がってて。みんな。」

 

スレイは武器を構える。

ミクリオは俯き気味だった顔を上げ、涙を拭って立ち上がる。

そしてスレイの横に立つ。

そしてスレイを見て、

 

「君一人に背負わせない。」

 

スレイはジッとミクリオを見る。

災禍の顕主ヘルダルフは鼻で笑い、

 

「ふん……貴様らは誰も救えん。」

 

災禍の顕主ヘルダルフは雷の球体をつくり出す。

スレイとミクリオは走り出す。

そしてスレイは走りながら、

 

「『ルズローシヴ=レレイ≪執行者ミクリ≫』!」

 

ミクリオと神依≪カムイ≫をして、ジャンプして着地する。

そしてしっかり踏みとどまり、力を籠めて弓を弾く。

その姿を見たレイは立ち止まり、歌を歌い出す。

スレイは瞳を閉じる。

そこにジイジのこれまでの言葉が蘇る。

 

――自由に、自らの思う道を生きよ。お前の人生を精一杯。

 

ジイジは優しくも厳しく、自分を見て笑う。

スレイは深呼吸し、

 

「ジイジ……」

 

そして目を開き、

 

「この痛み……忘れない!」

 

そしてスレイの力と、災禍の顕主ヘルダルフの力がぶつかり合う。

そしてそれはレイと審判者の時のように爆発する。

災禍の顕主ヘルダルフが顔を防ぎ、見つめるその先には……

 

「でぃやあ――!」

 

神依≪カムイ≫したままのスレイが突っ込んでくる。

弓は中央が尖り、小さな剣のような形となっている。

災禍の顕主ヘルダルフは左手を出し、再び雷の球体をつくり出す。

再び力の勝負となる。

スレイは力を籠める。

そしてスレイの中のミクリオも力を籠める。

 

「「うおおぉぉぉ!」」

 

そして、災禍の顕主ヘルダルフの左手を貫いた。

その瞬間、爆発が起こる。

神依≪カムイ≫が解け、二人は後ろに飛ばさる。

だが、着地し膝を着く。

レイの歌が二人を包み、スレイとミクリオの眼の前には幼き頃の自分達の頭を撫でるジイジの姿。

そしてジイジは優しく、誇らしげに笑い、

 

「よくやった。スレイ、ミクリオ……」

 

そしてレイもまた、同じように自分の頭を撫でるジイジの姿が目に映る。

レイは歌が止まり、座り込み、スレイ達は手を握りしめ、

 

「「「うあああああああ‼」」」

 

声を上げて泣き叫ぶ。

その三人の姿をロゼ達は悲しそうに、切なそうに、悔しそうに見つめるしかできない。

そこに、審判者の笑い声が響く。

 

「あは、あはは!どうだった、レイ。君にとっての親を失った気分は。辛いだろ、悲しいだろ、苦しいだろ!」

 

そしてスレイの前に来ると、

 

「導師スレイ、その感情こそが、大切なものを奪われた感情だ。これが君の選んだ選択の答えだ!」

 

そう言って、冷たく笑う。

そして短剣を取り出し、

 

「ヘルダルフには悪いけど、ここで俺が終わらせてあげるよ。ゼロと言う君の友人の一人として!」

 

そして短剣を振り下ろす。

スレイは立ち上げり、剣を振り上げた。

短剣は彼の後ろの床に刺さる。

そして彼のつけていた仮面が真っ二つに割れる。

彼はそれを拓い上げ、

 

「へぇ~、凄いや。この仮面は簡単には壊れないんだ。壊れるとしたら、意志や感情の強い者。かつて裁判者のこれを壊した業魔≪ごうま≫がいた。彼女もまた、君のように家族を奪われ、自らの意志で家族を殺し、喰らい、その業を背負った。今も終わる事のない自分の選べなかった答えの夢の中をさ迷い続けながら……」

 

それを聞いたザビーダは、眉を寄せて審判者を睨んだ。

審判者は壊れた仮面を見つめ、

 

「これ、意外と気に入ってたなけどな。」

 

そう言って、握りつぶした。

仮面は粉々に砕け散る。

 

「壊れたものはもう元には戻らない。命も、関係も、運命も、絆も、全て!」

 

そう言って、赤く光る瞳をスレイに向けた後、レイを見て、

 

「だから俺は元に戻すんだ。そうだろ、レイ。」

「ああ。そうんだな……」

 

俯いて座り込んだレイは立ち上がる。

レイは審判者の方に歩き出す。

彼は続ける。

 

「審判者と裁判者に、俺≪ゼロ≫も君≪レイ≫も要らない。俺達は狂ったあの時から、いや、ミケルに会ったあの時から狂い出した。関わる事のない君≪裁判者≫が関わり、内側の俺≪審判者≫が人の世の理に触れた!全て間違いだったんだ!」

「……かもしれないな。私は感情を知り過ぎた……自らの業すらも、まともに背負えない。」

「ああ。所詮俺らと感情あるものとの見る世界は違う。彼らには多くの選択肢がある。でも俺達は審判者と裁判者の選択肢しかない。なら、それに抗っても仕方ない事だ。君もそれを実感しただろ。」

 

審判者は眉を寄せて拳を握りしめた。

スレイはそれを見て、

 

「当たり前だ!みんな、自分自身の人生を生きてるんだ!見てる世界も、選ぶ選択肢も違う!それはお前達もそうだろ!」

 

スレイの叫び声に、レイは立ち止まる。

そして顔を上げ、スレイを見る。

審判者はスレイに冷たく笑い、

 

「君に、俺らの何が解るのさ。俺達≪ゼロとレイ≫は、俺達≪審判者と裁判者≫でいなきゃいけないんだ!この狂った歯車を正すには!」

「だから何なんだよ!前に裁判者は言った。狂い出した歯車を元に戻すのではなく、狂いを正す方法がある事を!だから諦めるなよ!」

「君は解ってないんだよ!それがいかに矛盾で、不可能に近い事を!」

 

審判者はスレイの襟首を掴み上げる。

スレイは彼を睨んだまま、

 

「そんなのやってみなきゃわからないだろ!」

「そんなの解りきってる!俺の眼は、その未来には希望がない!」

「それはお前がそう思い込んでるからだ!」

 

そう言って、スレイは頭突きをした。

審判者はスレイを離し、額を抑える。

スレイはレイに振り返り、

 

「レイもレイだ!自分の本当の気持ちに嘘ついて、裁判者のマネして、しまいには自分の本当の答えすらも偽って!いくらお前達が子供の精神でも、大人になれ!俺たちは家族だろ!みんなは仲間だろ!レイの気持ちくらい俺を含めたみんなが受け止めてやる!ゼロ!お前の気持ちだってオレが受け止めてやる!お前達の本当の願いは何だ!」

 

スレイはレイを怒鳴った。

レイは瞳を揺らし、涙を流しながら、

 

「……私は……私は……お兄ちゃん達と……一緒に――」

 

だが、レイが全ていう前にグサッとレイは貫かれた。

それも心臓を。

レイは横目でその相手を見る。

 

「やっと隙を作ったな。」

「ヘル……ダルフ……!」

 

そしてレイは自分の貫かれた心臓を見る。

ジイジの顔の合った左手には自分の心臓が握られている。

災禍の顕主ヘルダルフはそれを抜く。

レイは前乗りに倒れ込む。

 

「お前にとっての親のいた方の手だ。本望だろ。導師、自らの手を汚し……涙してまでも抗うか。……ならば、世かろう。真の孤独をくれてやる。」

 

そしてとっさに駆け付けた審判者に襲い掛かる。

審判者は影から槍を取り出し、それを防ぐ。

だが、彼の得意技である獅子戦吼をくらう。

できた隙に、審判者の心臓を貫き、抉り出した。

 

「やっ……ぱり、恨んでたん……だ。ま、当……然か……」

 

審判者は倒れ込む。

災禍の顕主ヘルダルフは扉の前に立つ。

そしてスレイを見て、

 

「導師、お前のおかげで鍵は手に入れた。」

「まさか、テメェ!全てこのためだけに、やりやがったのか!」

 

ザビーダは眉を寄せて怒り出す。

災禍の顕主ヘルダルフはニット笑い、握っていた心臓を潰す。

その血が扉に流れ、封印の魔法陣が消える。

そして開いた。

 

「導師、ワシを止めたくば、同じように裁判者と審判者の心臓を抉り取るのだな。そして追いかけて来い。」

 

そして中に入って行く。

スレイが追いかけるが、扉が閉まり結界に弾かれる。

 

「くそっ!」

「スレイ!」

 

ロゼが叫ぶ。

スレイもレイの元に駆ける。

レイは小さく息をしている。

 

「まったく……心臓を……抉られるなんて……いつぶりだろ。」

「ゼロ!」

 

スレイはすぐ側に居た審判者を見る。

彼は身を起こし、

 

「心配はいらないよ。心臓を抉られようが、頭を潰されようが、死にはしないよ。」

「だが、痛みや苦しみはあるだろ。」

「あはは!あんな事があったにもかかわらず、俺の心配?とんだ甘ちゃんだ。」

「友達を心配するのに、理由なんていらない。」

「……はぁ。全く。」

 

そう言って、座ったままスレイ達に背を向ける。

天井を見上げ、

 

「……俺は審判者である為に、自身≪ゼロ≫を殺す。だから傷の治りも早い。……スレイ、これはゼロと言う人間の呟きだ。」

 

そう言って彼はユラユラしながら、

 

「扉の鍵は、審判者と裁判者の心臓を捧げること。かつてこの扉を開く事のできたのは、初代導師と初代災禍の顕主。そして今宵の災禍の顕主。」

「先代導師ミケルは、お前らに認められたんだろ。マオ坊と一緒で。」

 

ザビーダがその彼の背を見て言う。

彼はユラユラするのを止め、ニット笑い、

 

「そうさ。マオテラスは彼女の意志と想いを継ぐために、俺らと盟約を交わした。ミケルは俺らを説得し、この地に村を興すために、この扉を開ける必要があったからね。」

「それって……」

 

スレイは眉を寄せる。

彼はスレイに振り返り、

 

「そ。扉の鍵はもう一つ方法がある。裁判者と審判者から直接カギを貰うこと。スレイ、君はどちらを選ぶ?無論、俺は渡す気はないけどね。」

 

スレイは無言になる。

と、レイが目を開ける。

 

「……お兄ちゃん……ミク兄……みんな……」

「レイ!」

 

レイはそれをじっと見つめ、

 

「……お兄ちゃん、ミク兄……お願いがあるの。」

「なんだ?」「なに?」

「神依≪カムイ≫をして……」

 

スレイとミクリオは頷き合い、神依≪カムイ≫をする。

レイは呟くように言った。

 

「私はカムランでの事にちゃんと向き合って、お兄ちゃん達と一緒に居たいって、皆と旅をしたい、もっともっとみんなで色々な所に行きたい……あのメーヴィンの想いに応える為にも、そう思ってた。でも、お兄ちゃんが言ったように選択肢と言う道は沢山ある。でも、自分にはないかもって思った。そしてドラゴンと戦うお兄ちゃん達やそれに応えたアリーシャ達を見て、私はやっぱりみんなとは違うんだと、一緒にはなれないって思った。でも、お兄ちゃん達と一緒に居たかった。なら、自分を偽ってでも最後は裁判者としていれば、お兄ちゃん達と悲しい別れにはならないと思った……」

「でも、違ったのですわね。」

 

ライラが優しく言った。

レイは頷き、涙を流す。

 

「ん。そうした結果、どんどん変えたかった未来は、運命は、引き起こされた。ジイジも救えず、お兄ちゃんとミク兄はあんな想いをさせてしまった。ごめんなさい……」

「レイ……オレこそゴメン……」

「僕もだ、ゴメン……」

 

レイは天井を見上げ、

 

「裁判者と審判者は願いを叶える。願いとは想い……だから後始末はしない。それはその願いの代償を理解するため……。あの枢機卿フォートンもそう。あの願いを誰かと共に使うべきだった。でも、本当は違う。あの人は願いを叶えるのではなく、他者と協力するべきだった……。願いを叶えた後、その本当の気持ちに、そして繋げて欲しい想いを繋げてほしくて……」

 

そしてエドナを見て、

 

「エドナの本当の願い……ううん、想いに気付けた?」

「ええ。ワタシはお兄ちゃんと一緒に居たかった。でもそれ以上に、お兄ちゃんに会いたかった。けど、ドラゴンから元に戻しても、多分お兄ちゃんはまた居なくなる。でも、あの時お兄ちゃんは笑ってた。ワタシはお兄ちゃんが大好きだってこと、それと同じくらい今の仲間が大切。そしてお兄ちゃんもまた、人間に凄い関わっていたから、そう想える仲間が居たのね。今の私のように……」」

「ん。船の仲間も、ある意味での愉快な長く短い仲間も、ね……」

 

レイはロゼを見て、

 

「そしてロゼは、デゼルの願いと想いを繋げてくれた。だから私は嬉しかった。そしてお兄ちゃん達の想いに応えたアリーシャ達にも、希望と未来を見た。だから本当に嬉しかった。」

「うん。レイが、最後にデゼルに会わせてくれたから、あたしは向き合えた。ちゃんと知れた。」

 

スレイはレイを見つめ、

 

「レイ、イズチの皆がお前に会いたがってたよ。そして伝えてくれって……『今でもお前達は俺達の大切な家族で、ここはお前達の大切な故郷だ』って。」

「そっか……嫌われてなくて……良かった。」

 

レイは小さく笑う。

そしてレイは、手を上げる。

神依≪カムイ≫化したスレイが手を握る。

と、魔法陣が浮かんだ。

それがスレイの中に入る。

 

「それがお兄ちゃん達にできる最後のレイにできること……」

「レイ?」

 

そうしてレイは神依≪カムイ≫化したスレイから離れ、

 

「時間をありがとう……だから審判者を救って。私は裁判者に戻る!」

 

レイの眼の前には黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女。

裁判者はレイに向かって歩いてくる。

レイはスレイ達に振り返り、笑顔でスレイ達を見て、

 

「お兄ちゃん、ミク兄、ロゼ、ライラ、エドナ、ザビーダ……また会おうね。」

 

そう言って風に包まれる。

審判者は立ち上がり、

 

「結局は、その選択肢を取るのか。」

 

そう言って、短剣を投げた。

だが、風が弾け影から剣を取り出した審判者が弾く。

そこには黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女ではなく、黒いコートのようなワンピース服を着たスレイ達と同じくらいの年頃の少女が立っていた。

彼女は仮面を外す。

それは大地の記憶で見た少女。

裁判者は剣を横に振り、

 

「何を驚いている。これは器が望んだことだ。」

「……はは!成程ね……君は本当に、その答えという選択肢を選んだんだね。」

 

審判者はスレイに近付き、

 

「君のその願いは闇しかない。それでもやるの?抗うの?」

「ああ!」

 

スレイは頷く。

そして審判者はニット笑い、

 

「気が変わった。俺も君に託してあげるよ。君の友人だったゼロとしてね。」

 

そう言ってスレイの前に手を差し出す。

魔法陣が浮かび、スレイの中に入って行く。

そして影から剣を取り出し、裁判者に斬りかかった。

裁判者はそれを剣で受け止め、弾く。

そして金属音が響き渡す。

裁判者はスレイを見て、

 

「何をしている導師。」

「え?」

「お前は鍵を手に入れた。そしてお前には、お前のやるべき事がある。これの相手は、私がしなければならない。お前は、お前の相手の元に行け。お前の妹だった器の想いを無下にするのか。」

 

スレイは瞳を閉じ、開いて言う。

 

「……行こう、みんな!」

 

そして反転する。

ロゼはスレイを見て、

 

「いいんだね。」

「ああ!」

 

ロゼはスレイの背を叩き、

 

「なら、行こう!」

 

そう言って、みんな歩き出していた。

スレイも扉に近付き、触れる。

スレイの中から魔法陣が出てきて、結界が消える。

扉が開き、スレイ達は中に進む。

 

裁判者はそれを横目で見た後、

 

「導師は想いを繋いだ。なら、お前もいい加減気付いたらどうだ。」

「変な事を言うね。俺は俺の出したこの答えに――」

 

裁判者は剣を地面に刺し、彼を抱き寄せた。

 

「私は知らなかった。感情というもを本当の意味で……お前はいつも願いを叶えた後、人々の想いに触れたとき……どうしてあんな表情をしていたのか、何故なんだかんだ言って、感情あるものたちを信じていた……こんな感じだったんだな。昔のように共に……今度は私も、ともに背負おう。」

 

審判者は目を見開いた。

そして小刻みに震え、

 

「お、俺は……俺もゼロとして残りたい……でも、審判者は必要だ……」

「ああ。だから私達は、レイとゼロと言う人間ができた事で、それに向き合えた。それて器は裁判者レイとして、ある事を望んだ。だからお前も、選べ。」

 

審判者は裁判者を抱きしめ、泣き出した。

それが答えの結果だ。

 

 

しばらくして裁判者は扉の方に向かう。

 

「俺はやり残した事をやってくるよ。」

「そうか。では、私は先に行く。」

 

審判者と裁判者は互いに背を向け合って歩いて行く。

一人は扉の中に、一人は遺跡の方に……


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