スレイ達は奥を突き進む。
スレイ達は歩いていると石碑を見つけた。
ミクリオはそれを見て、
「この石碑は新しいな。」
「なんか書いてある……『この村から始めよう』。」
ロゼが文字を読み上がる。
ライラは手を握りしめ、ハッとする。
ミクリオがそれを見つめ、
「カムラン開拓の記念碑か。」
「導師がやめたミケルさんは、なにを始めるつもりだったんだろうな。」
スレイが石碑を悲しそうに見つめて言う。
ロゼは腕を組み、
「普通の生活……家族との暮らし……」
「穢れのない世界への第一歩という意味かもしれない。」
ミクリオも続けて言う。
スレイはミクリオを見て、
「始めりの村カムラン――『災厄の時代が始まった』って意味じゃなかったんだな。」
「希望がこもった名前だったんだね。」
ロゼも二人を見て言う。
ライラは遠くを見て、
「ミケル様……」
「取り戻そう、ライラ。希望の名前を。」
スレイはライラを見る。
ロゼもライラを見て、
「災厄の時代を終わらせて。」
「はい。」
ライラは頷く。
そして再び歩き出す。
奥に歩くに連れて、穢れが強くなっていく。
ザビーダは辺りを改めて見て、
「おっそろしい量の穢れだな。スレイがいなけりゃドラゴンになってるぜ。」
「マオテラスが発してるのか……マオテラスに流れ込んでいるのか……。とにかく、この穢れがマオテラスを憑魔≪ひょうま≫にしている原因なんだ。」
ミクリオが腕を組む。
エドナが奥を見て、
「穢れの中心は村の奥のようね。おそらくそこに……」
「ヘルダルフとマオテラスがいる。」
「行こう!大丈夫!導師一行だって並じゃないから。」
そう言ってロゼが歩いて行った。
スレイ達も頷き、歩き出す。
しばらく歩いた先に、先代導師ミケルの家を見つけた。
と言っても、それは焼け焦げていた。
ミクリオはそれを見て、思い出す。
「ここは……大地の記憶で見た……」
「ミケルさんの家だ。」
スレイも驚きながらそれを見る。
ライラは無言でそれを見つめる。
スレイはミクリオを見て、
「ミューズさんも一緒に住んでいたんだよな?」
「ああ。つまり人間の赤ん坊だった僕も、住んでいたんだろうね。」
「カムランは、ミクリオの故郷だったんだよな。それに裁判者と審判者の……」
「スレイにとってもだろ?」
ミクリオはスレイを見て小さく笑う。
だが、スレイは腕を組み、
「そう……なんだよな。実感ないけど。」
「歴史的事情だね。僕たちの。」
「けど、オレの故郷はイズチだ。」
「ああ。もちろん僕も同じだ。それにレイも。」
ミクリオは頷く。
そしてスレイは腰に手を当てて、
「そしてこれからも。」
「言うまでもないさ。」
ミクリオも同じように言う。
それを見たライラは嬉しそうに微笑む。
そしてスレイ達は、神殿アルトリウスの玉座の入り口にやって来た。
空は赤く燃え上り、月のような球体は黒く浮いていた。
そして雷や竜巻、落石などが起きていた。
ロゼが怒りだす。
「っとに何ここ!」
「すごいところだよ。」
そしてスレイも眉を寄せた。
ミクリオも拳をつくり、
「何もかもが非常識すぎる。」
「膨大すぎる穢れが、こんな異常な光景を生んでいるんでしょう。」
ライラが辺りを見て言う。
ザビーダはニッと笑う。
「この世のならざる景色ってところか。」
「こんな感じなんだ。あの世って?」
ロゼが怒りからコロッと変わって言う。
エドナは遠くを見るように、
「あの世を見たことのある人がそう言ってるしね。」
「見たらちゃんと教えてやるって、嬢ちゃんたち。それもすぐかもしれねぇぜ?」
と、腰に手を当てて言うザビーダ。
ライラは口元に手を当て、
「ふふふ、大丈夫ですわね。冗談が言えるのなら。」
「ホント、いつもの調子だよね。」
ロゼが笑う。
エドナも悪戯顔で、
「あなた達も人のこと言えないと思うわ。」
「どうよ?こういうの?」
ザビーダは笑い出す。
ミクリオは苦笑した後、
「頼もしい限りだ。」
「ああ。本当に。」
スレイも頷く。
そして進む。
と、ミクリオは扉越しに、穢れの気配を感じ、
「以前ヘルダルフと戦った時よりも酷い穢れだ……」
「着実に近付いているってことだね。」
ロゼはジッと扉を見つめる。
ミクリオもそこを見つめ、
「ああ。気は抜けない。」
「行くぞ!」
スレイ達は中に入る。
中に入り、奥に進んで行くとある紋章を見つけた。
近付くと、『カノヌシの紋章』と隅の方に書かれていた。
だが、スレイ達はそれに気付かない。
ミクリオがそれを見て、
「マオテラスの紋章か。」
「いや……ちょっと違くないか?これ……」
スレイも腕を組んでその紋章を見る。
ライラは静かに、
「これはカノヌシ様の紋章ですわ。」
「カノヌシ……?どんな天族≪ひと≫?」
ロゼがライラを見る。
答えたのはライラではなく、ミクリオだった。
「かなり古い伝承だけに出てくる謎の天族だな。」
「一応五大神だ。マオテラスの前のな。」
ザビーダが腰に手を当て、その紋章を見て言う。
スレイはそれを聞き、驚きながら、
「マオテラスの先代⁉五大神って入れ替わるものなのか?」
「流行廃りはなんにだってあるわ。現に、今はマオテラス信仰だけが盛んじゃない。他の四神をおしのけて。」
エドナが淡々と言う。
スレイは首を傾げ、
「そういうもの……かもな。」
「つまり、ここはカノヌシの神殿だったのか。と言うことは、裁判者と審判者はそれに関わっていたのかもしれないな。なぜならこの地は、彼らの生まれ故郷だ。」
「かもしれないな……行こう。」
「ああ。」
スレイとミクリオは互いに見合って、歩いて行った。
ロゼがそれを見て、
「……スイッチ、無理矢理切っちゃったね。」
「ライラ、あの二人の――」
エドナがライラを見る。
ライラは無言で俯く。
そしてザビーダも何かを察して黙り込む。
ロゼも何かを感じ、
「あれ?」
「行くわよ。」
「あ、うん。行くよ、二人とも。」
エドナがロゼを連れて行った。
ザビーダが手を上げる。
「ああ。」
「はい。」
そしてライラも頷き、歩き出す。
レイは戦っていた。
目の前にいる審判者は短剣を投げてくる。
それを影が握っている剣や槍で防ぐ。
そして雷が審判者を襲う。
だが、彼はそれを交わし、短剣を雷を出した老人天族に投げる。
レイが老人天族の前に行き、影を操る。
「ジイジ!今からでも遅くない!イズチに戻って!」
「何を言うか!お前さんを残して戻れんわ!」
「私は大丈夫だから!」
レイは後ろを振り返り、老人天族ゼンライ≪ジイジ≫を見る。
だが、すぐそこに審判者は短剣を投げて来た。
レイはそれを防ぐ。
だが、彼は笑みを受けべ、
「やっぱり、今の君は弱いね。」
そう言うと、レイの背後から槍が突き刺さる。
「レイ!」
レイは後ろに視線を向けると、影から槍が尽き出ていた。
ジイジが雷を審判者に向けて放つが、
「俺ばかりに注意が行きすぎだよ、雷神。」
彼は槍を回して、それを打ち消した。
そしてレイは抜かれた槍の傷を抑え、
「ジイジ!」
影でジイジを引っ張る。
そこには災禍の顕主ヘルダルフが攻撃を仕掛けていた。
「すまんのぉ!」
「だ、大丈夫……!」
だが、災禍の顕主ヘルダルフがレイの側まで来て、レイを壁に打ち付けた。
レイはそのままずれ落ち、そこを見る。
ジイジが彼に首を絞められていた。
「ジイジ!……ヘル、ダルフ――‼」
レイの叫び声が響き渡る。
スレイ達は奥へと奥へと進んで行く。
ザビーダが辺りを警戒しながら、
「……まだ仕掛けてこねぇのか。焦らされるのは好きじゃなねえんだがな。」
「嫌な予感がぬぐえません……」
ライラが手を握りしめる。
ザビーダはライラを見て、
「言ったろ?楽に行こうぜ。考えたってしょうがねぇ。」
「ええ……」
ライラは俯く。
と、前を歩いていたスレイとミクリオは大量の儀礼剣を見付けた。
ミクリオはスレイを見て、
「スレイ、儀礼剣があるぞ。」
「ああ。やっぱりここは、導師と関係がある場所なんだな。」
スレイも頷く。
ミクリオは腕を組み、
「以前は大勢の導師がいたんだよな。せめて何人か残ってくれていれば……」
「そうだよなぁ。けど、そういう歴史の先に生きてるんだ。オレもミクリオも、みんな。」
「わかってるさ。今この瞬間が歴史であることもね。」
「はは、未来のオレたちにガッカリされないようにしないとな。」
「僕みたいな厳しいのもいるからね。」
「そういうこと!」
二人は頷き合う。
そして歩いて行った。
ザビーダは笑いながら、
「いやー、若いっていいねえー。」
「本当に。」
ライラも微笑みながら歩いて行く。
そして神殿の最奥の前の階段にやって来た。
スレイはザビーダを見て、
「ザビーダ、決着つけなきゃいけない相手だって言ってたよな。」
「ああ。何だかんだで、殺らずに済みそうだ。」
ザビーダは腰に手を当てる。
ライラもザビーダを見て、
「スレイさんとの出会いで、新たな可能性が生まれたのですわね。」
「そうそ!まさに運命の出会いってな!野郎なのが唯一の問題だ。」
ザビーダは笑いながら言う。
エドナは半眼で彼を見る。
「ばかなの?」
「まったくだ。五大神の一人を殺す……いや、殺せるつもりだったなんて。」
ミクリオも半眼で彼を見た。
ザビーダはニット笑い、
「やってみねえと結果はわからんだろうが、よ。」
「ザビーダ、答えを最初から持ってて、全くブレないんだ。意外とすごいやつ?」
ロゼが腕を組んで驚く。
ザビーダは手を広げて、
「お、ロゼちゃん、俺と契約して器になってみる?」
「調子のりすぎ。」
エドナが彼の横腹に傘を突き出した。
彼は横腹を抑え、
「痛い!」
「ザビーダ、ありがとう。」
「あん?」
ザビーダはスレイを見る。
スレイは銃≪ジークフリード≫を取り出し、
「オレ達の出会いが救う方法を、生んだってのがすげーうれしくてさ。」
「おまえ……」
そしてザビーダは帽子を下げ、
「ったく。この甘ちゃん導師め。甘ったるすぎだぜ。こっからが正念場だろ?」
そしてスレイの肩に腕を乗せる。
スレイは彼を見て、
「だな。」
ザビーダは肩を押す。
スレイは頷き、長い階段を登り出す。