テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第四十二話 正義と悪

スレイ達はイズチに向かう為、アロダイトの森に入った。

レイは立ち止まり、空を見上がる。

そして歩いていたロゼも、違和感を感じて立ち止まる。

 

「あれ?」

「これは……」

 

そしてスレイとミクリオもその違和感に気付き、立ち止まる。

 

「ミクリオ……」

「ああ。ジイジの加護領域を感じない……」

「イズチに何かあったのか……?」

 

スレイとミクリオは眉を寄せる。

レイは瞳を揺し、眉を寄せる。

そして拳を握りしめる。

 

「……時間切れか……」

 

レイは自分の前に居るスレイ達を見て、

 

「導師、私がお前達と共に居られるのはこれで終わりだ。」

「レイ……いや、裁判者。それはどういう……」

 

スレイが振り返って、レイを見る。

レイはジッとスレイを見上げ、

 

「審判者が扉に気付いた。本当に、決着をつける気があるのであれば、追いついてみせろ。」

 

そう言って、風がレイ≪裁判者≫を包む。

スレイは目を見開き、

 

「レイ!」

 

だが、すでにレイ≪裁判者≫は居なくなっていた。

ロゼが眉を寄せて、

 

「急ごう。二人とも!」

「「ああ!」」

 

二人は頷く。

スレイ達はイズチに向かって走り出す。

 

 

イズチでは、天族ゼンライがこちらに向かってくる人間達を睨んでいた。

審判者により、イズチの結界を壊されたのだ。

そして人間達を自分の足止めとして利用し、彼らはカムランに向かう裁判者の結界に向かおうとしていた。

だが、そこに風が吹き荒れた。

目の前の人間達の前には一人の小さな少女が現れる。

白いコートのようなワンピース服が風になびく。

 

裁判者は横目で、天族ゼンライ≪ジイジ≫を横目で確認する。

他の天族達は彼の家に集まっていた。

そしてそこには結界が張られていた。

視線をこの地に入った彼ら人間に戻す。

 

「お前は導師の妹!なぜここに⁉」

 

ハイランドの大臣バルトロが兵を連れて進軍してきた。

レイ≪裁判者≫は瞳を一度閉じ、そして開く。

赤く真っ赤に光る瞳を彼らに向け、

 

「ここから立ち去れ、人間ども!これ以上、この地を穢すことは許さん!」

「黙れ!これはハイランドの為なのだ!」

「アリーシャがハイランドの道を拓いたはずだ!」

「はっ!あんな甘ちゃん姫の言葉を真に受ける程、我らはバカではない。なにがドラゴンだ!なにが停戦だ!あの甘ちゃん姫めは、ハイランドを売ったのだ!この期を逃せば、ローランスの奴らを完全に根潰ぶす事はできなくなるというのに!」

 

レイは大臣バルトロを見据え、

 

「愚かな。国のため……だが、真にあるは自身の欲か。アリーシャの想いに免じ、今引き返すのあれば命は取らん。」

「はっ。いくら化け物と言えど、これだけの兵で挑めば問題ない!居るのは小娘一人。叩き潰せ!」

 

大臣バルトロは命令を下す。

そして大臣バルトロは数名の兵を連れて歩いてく。

レイはそれを睨む。

と、兵は槍や剣を構えて突っ込んでくる。

天族ゼンライ≪ジイジ≫が動こうとしたが、レイ≪裁判者≫が止める。

 

「やはり、あのとき殺しておけばよかったか……」

 

レイ≪裁判者≫は影から弓を取り出す。

それを構える。

兵は笑い出す。

 

「そんな弓一本で何ができる!」

「弓一本……確かに人間の弓ならな。」

 

レイ≪裁判者≫は矢を空に放つ。

それは無数矢となって、彼らに降り注ぐ。

それだけではない。

その矢は雷を纏っている。

それは人には当たらず、地面に刺さる。

 

「二度は言わん!すぐにこの地から出て行け!」

 

兵が逃げ出そうとするが、

 

「な、何をしている!あの化け物殺せ!懐に入ってしまえばいいのだ!相手は一人だ!」

 

偉い兵が命令した。

兵が再び唸りを上げて突っ込んでいく。

レイ≪裁判者≫は彼らを睨み、

 

「本当に愚かな……。お前の命もろとも……叩き潰す!」

 

レイ≪裁判者≫は矢を放つ。

さらに、彼ら影が揺らめき出し、剣や槍といった武器が現れて貫かれる。

レイ≪裁判者≫は武器を全て影にしまい、天族ゼンライ≪ジイジ≫に近付いた。

赤く光る瞳を彼に向け、

 

「ゼンライ、まだ人間の兵は近くに居る。今に導師達も来る。お前はあの結界の中に居て、何もするな。」

 

そう言って、彼の家に張られた結界に手を向ける。

小さな魔法陣が彼の結界に吸い込まれる。

レイ≪裁判者≫は天族ゼンライ≪ジイジ≫に背を向け、

 

「少し強化させて貰った。これで今回のこの地の広がった穢れを、少しは抑えられるだろう。」

 

それを聞いた天族ゼンライ≪ジイジ≫以外の天族達が怒りを上がる。

 

「裁判者!お前、カムランの時といい、今回の事といい何を考えている!」

「そうよ!スレイとミクリオに何かあったら!」

「何のつもりで、レイなんてつくって……ここに居た!」

 

と、言っていた。

レイ≪裁判者≫は背を向けたまま歩き出す。

だが、怒っていた天族達を天族ゼンライ≪ジイジ≫が止める。

 

「まぁ、待て、お前達。それと裁判者……いや、レイも待つのじゃ。」

 

レイ≪裁判者≫は立ち止まり、

 

「私は器では――」

「いや、お前さんはレイじゃよ。」

 

そう言って、レイの頭に手を乗せた。

ポンポンと頭を叩き、

 

「ワシらを心配して来てくれたんじゃろ。ありがとうな。」

「……どうして私の方だとわかったの?」

 

レイは背を向けたまま聞いた。

ジイジは髭を摩りながら、

 

「どんなに裁判者のフリをしたところで、お前さん≪レイ≫はお前さん≪レイ≫だからじゃよ。それにお前さん≪レイ≫も、スレイやミクリオと同じく大切な子じゃて。」

 

レイはジイジに振り返って、抱き付いた。

そして泣き出した。

 

「うわぁーん!ううっ!」

 

ジイジはその背を優しくなでる。

しばらくして、レイはジイジから離れる。

涙を拭いながら、

 

「ジイジ、お兄ちゃん達が今に来る。だからジイジはここに居て――」

 

そう言って、レイは後ろに振り返り、影で飛んできた短剣を防御する。

レイは投げて来た者を睨み、

 

「審判者!これはどういうことだ!」

「ん~、俺っていうよりヘルダルフのした事だよ。……でも、この前の仕返しもあるかも。」

 

そう言って、短剣を再び投げる。

レイは影を使ってそれを弾き、影で攻撃する。

 

「それにしても、俺の答えに同意したんじゃなかったけ?」

「同意はしたが、やり方には同意しないとも言った!」

 

二人の影がぶつかり合う。

と、そこに災禍の顕主ヘルダルフが現れ、

 

「審判者、ワシは先に行く。」

「じゃ、後はこっちでやっとく。」

 

そう言って、歩いていった。

ジイジは走り出す。

 

「いかん!」

「ジイジ!ダメ!」

 

レイも行こうとするが、審判者に邪魔をされる。

ジイジの家に居た天族達が結界から出ようとするのを見て、

 

「そこから出るな!ジイジの想いを壊す気か!」

 

彼は出るのを止める。

審判者は笑いながら、

 

「随分と、彼らのことも気にするんだね。」

「……当たり前だ。私の……レイの故郷だった!彼らは裁判者である私を無下にする事だけはなかった。大切な……家族だった!」

 

レイは眉を寄せて、拳を握りしめる。

審判者は短剣をしまい、

 

「そ。なら、見捨てられないね。」

 

彼も走り出した。

レイも走り出そうとしたが、そこにハイランド兵の増援が来た。

倒れている仲間を見て、

 

「これは!お前がやったのか!」

「殺せー!」

 

彼は武器を構えてやって来る。

レイは影から弓を取り出し、

 

「邪魔をするな!」

 

矢を放つ。

雷を纏った矢が無数に彼らを襲う。

だが、彼らの様子が変わる。

彼らは穢れに飲まれ、憑魔≪ひょうま≫と化す。

そして互いに斬り合いを始めた。

 

「カムランの封印が……ミューズ!」

 

レイは戦う彼らを睨む。

そして決意する。

 

「その結界から絶対出るな!」

 

ジイジの家にいる天族達に振り返って、叫ぶ。

そしてレイはすぐに審判者を追う。

 

 

スレイ達は走りる。

ザビーダが走りながら、辺りを見て、

 

「うぇ……ひっでえ穢れだ。」

「これがあのアロダイトの森だなんて……」

 

ライラも悲しそうに走りながら、辺りを見る。

そして前を走っていたスレイとミクリオが急に立ち止まる。

そして息をのんでいた。

ロゼも立ち止まり、そこを見ると、

 

「人!」

「……の亡骸だ。ハイランドの兵だな。」

 

ミクリオがロゼを見て言う。

エドナがハイランド兵を見下ろし、

 

「人間がイズチに侵攻したのね。」

 

スレイは瞳を揺らして、黙り込む。

そして拳を握りしめ、

 

「くっ、一体なにが⁉」

「……先手を打たれたのかもしれない。」

 

ロゼが眉を寄せて辺りを見渡す。

ライラも頷き、

 

「ゼンライ様の領域でも力を発揮できる者が、この地に憑魔≪ひょうま≫や人を招き入れたのでしょう。」

「審判者……ヘルダルフ……」

 

スレイは眉を寄せて俯く。

ミクリオは腕を組み、

 

「ヤツがカムランに踏み入れるため、人間に封印を破壊させようとしたのか?」

「どうかな。あいつはマオ坊と繋がってる。もともと厄介なのは裁判者が創った封印。それにヤツには、審判者もいる。唯の人間なんて、何の役にも立ってねぇだろ。むしろ、これは足止めだ。」

 

ザビーダが辺りを睨んで言う。

スレイも頷き、

 

「ああ。きっとヘルダルフは、もうカムランでオレ達を待ち構えていると思う。だから、ザビーダの言う通り、足止めと、ただのいやがらせだ。」

 

ザビーダはスレイを見て、

 

「なら、ここでウダウダしてたら、ヘルの野郎の思うつぼだな?」

「とにかくイズチに急ごう。」

 

スレイは顔を上げる。

そして男子組は歩いて行く。

エドナはスレイの背を見て、

 

「……ひげネコの狙いはわかりきってるわ。」

「はい。」

 

エドナの口調は少し怒っていた。

そして頷くライラも、怒っていた。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「スレイに穢れを生ませるため、か。」

「スレイも気付いているわね。だから努めて冷静であろうとしてる。」

「きったないなぁ、ホント。誰だって故郷や親が酷い目にあって、冷静でいられる訳ないって。」

 

ロゼは拳を握りしめて怒る。

ライラはロゼを見て、

 

「スレイさんの心を傷つけるため、かの者が何を企てているのか……」

「想像つくよ。それだけは絶対阻止しなきゃ!大体、これを見たらレイだって……」

 

そこでハッとする。

ロゼはライラを見る。

ライラも何かを察した。

エドナが前を見て、

 

「……いきましょ。」

 

ロゼ達も急いでイズチに向かう。

 

スレイがイズチの門の近くまで行くと、頭を二つ持った犬のような憑魔≪ひょうま≫が待ち構えていた。

 

「こいつ!」

 

スレイは武器を構える。

ライラが眉を寄せて、

 

「これほどの憑魔≪ひょうま≫が生まれてしまっているなんて!」

「スレイ!」

 

ミクリオも武器を構えて叫ぶ。

スレイは頷き、

 

「ああ!一気に決める!」

 

スレイとロゼは颯爽と神依≪カムイ≫化する。

そして敵の攻撃を交わしながら、攻撃する。

スレイとロゼが神依≪カムイ≫で敵を引き付け、天響術でダメージを与えて行く。

そしてライラと神依≪カムイ≫をしたスレイが浄化の炎で叩き斬る。

ロゼは神依≪カムイ≫を解き、

 

「スレイ!急ごう!」

「ああ!」

 

スレイも神依≪カムイ≫を解く。

そして走る。

 

門をくぐると、兵達が倒れていた。

エドナが辺りを見渡し、

 

「戦場と同じね。憑魔≪ひょうま≫になって自分を失い、お互いに傷付け合ったんだわ。」

「だけじゃないみたいだな。」

 

ザビーダがある場所を見つめる。

そこには審判者が使っていた短剣と何かが抉られたかのような地面。

 

「こりゃあ、ここで裁判者と審判者が戦ったな。」

「どうしてこんな事に……」

 

ライラが俯く。

ミクリオは眉を寄せ、顎に手を当てて考えながら言う。

 

「昔ヘルダルフが考えたのと同じ事をしようとしたのかもしれない。イズチやカムランは戦略的に、価値があるんだろう?」

「もう戦争は終わろうとしてんのに!」

 

ロゼは拳を握りしめる。

エドナが静かに、

 

「戦争を終わらせたくないバカがいるってことでしょ。」

「けどよ。こいつらのせいだけじゃねぇな、こりゃ。どっかからすげえ穢れが溢れてやがる。」

 

ザビーダは辺りを探りながら言う。

ミクリオは俯き、

 

「……母が施した封印が破られたのかもしれない。」

「ジイジ……みんな……無事でいてくれっ。」

 

スレイは顔を上げ、村を調べ始める。

そしてミクリオは辺りを調べながら、

 

「妙だ。」

「ああ。ハイランド兵の亡骸はあるのに、杜の仲間の痕跡がない。」

 

スレイも頷く。

ミクリオは眉を寄せ、

 

「まさかみんな……」

「悪い方に考えないで、二人とも。」

 

ライラがスレイとミクリオを見る。

ロゼも二人を見て、

 

「そうだよ。きっとみんな上手く逃げたんだって。」

「そうだな。」

 

スレイは顔を上げる。

ミクリオも顔を上げ、

 

「もっと隅々まで探してみよう。」

 

そう言って、再び調べ始める。

スレイはジイジの家の方に向かい、扉に近付く。

 

「って!」

 

だが、スレイは見えない壁のようなものにぶつかった。

ライラがそれを見て、

 

「これは結界ですわ。ゼンライ様がここに人が入らぬように施したのでしょう。」

「ジイジ!オレだよ!スレイだ!」

 

スレイが叫ぶと、スレイの前に小さな魔法陣が浮かぶ。

それを見て、今度はエドナが、

 

「これは……裁判者の結界……なるほど、二重結界ね。」

 

スレイがそれに触ると、音が響く。

スレイはもう一度、叫ぶ。

 

「ジイジ!オレだ!スレイだ!」

 

すると、魔法陣が消える。

そして中から、

 

「スレイだって?」

 

扉が開き、中から天族達が出てくる。

 

「スレイ!」

 

スレイは笑顔になり、

 

「良かった!みんな!無事だったんだ!」

「ジイジは?」

 

ミクリオは眉を寄せる。

 

「……ジイジは俺たちをここで護ってくれたんだ。だが、災禍の顕主を追っていった。」

 

スレイは眉を寄せる。

ライラも眉を寄せ、

 

「この穢れのさなかにお一人で⁈」

「すまん……俺たちもやっぱり行くべきだった。」

「……だが俺達がついていっても、足手まといになるだけ……」

「ジイジを見殺しにしてしまった……」

 

彼は肩を落とす。

ロゼが腕を組み、

 

「反省はしても後悔はするな!ばーいライラ!」

 

と、指をパチンと鳴らす。

スレイも腰に手を当てて、

 

「ジイジがそう簡単にやられるもんか。」

「スレイ……」

「カイム、みんな、ここを動かないで!」

 

スレイが反転しようとした時、

 

「待て、スレイ。」

「なに、カイム⁈」

 

カイムと言われた男性は、スレイに手紙を差し出す。

スレイはそれを開き、見る。

そして読み上げる。

 

「『私、ゼンライは、人間スレイと天族ミクリオの出生の真実、そしてレイと言う裁判者の事を、ここに残すものである』。」

「ジイジの手記か!」

 

ミクリオがスレイを見る。

スレイは続ける。

 

「『スレイとミクリオは、災厄の時代が始まった村、カムランの生き残りである。ミクリオの母は、先代導師ミケルの妹ミューズ。スレイの母は、カムランの住民セレン。二人は裁判者が生かしたものである。私は、カムランを脱出してきたミューズから二人を託された。私は、領域によってイズチを閉じ、二人を外界から切り離して養育すると決めた。そして審判者によって傷ついた裁判者は、レイと言う器を創りだして眠った。あの子は感情がなく、裁判者としての記憶も曖昧で、言葉もろくに話せなかった。だが私は、そこに裁判者が先代導師ミケルとの間にできた縁を、先代導師ミケルの妹ミューズの想いを繋げようとした形だった想う。裁判者はレイと言う器で、己の成長を図ったかもしれぬ。その真意は私にも分からない。だが、我が力が続く限り、この小さな赤子たちを守ろうと思う。我が家族として』。」

「メーヴィンおじさんが見せてくれた記憶。」

 

ロゼが呟いた。

ザビーダは腕を組み、

 

「ああ、マオ坊が憑魔≪ひょうま≫化した直後のことだな。それと、おそらく俺が見た裁判者と審判者の戦い。そして嬢ちゃんの器として始まりだな。」

「ライラ、あんたがゼンライに会ったのも、この直後じゃない?」

 

エドナがライラを見上げる。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「そっか。ジイジからカムランの事件と、災厄の時代の始まりを知らされた。」

「それで誓約で浄化の炎を手に入れ、導師の出現を待ち続けた……ってことか。」

 

ミクリオもライラを見る。

ライラは空を見上げ、

 

「裁判者にカムランで災厄が起こると聞かされ、向かいました。ですが、もう遅かった。ゼンライ様と会い、カムランの事を聞き、私は誓約と裁判者に願いを叶えて貰い、力を得ました。……お二人の名前までは伺いませんでしたが……」

「スレイ、他に書いてあることは?」

 

ミクリオはスレイを再び見る。

スレイは残った文を読む。

 

「『願わくば、時代の仇を背負わされてしまった、この子らに平穏な日々を。だが、もし――』。」

「スレイ?」

 

止まったスレイをロゼが見つめる。

スレイは瞳を揺らしながら、

 

「『だがもし、この子らが宿命を乗り越えて、世界を拓くことを望むのなら……その意志と未来に、人と天族の加護を、そして裁判者達との良き関係があらんことを心より願う』。」

「本当にわかってたんだな、ジイジには。」

「ジイジ……」

 

ミクリオとスレイは手紙を見つめた。

そして天族カイムはスレイを見て、

 

「それとスレイ。ここに裁判者……いや、レイが来たんだ。」

「レイも!やっぱり!」

 

スレイはどこかホッとした顔になる。

だが、天族カイムの表情は暗い。

ミクリオがジッと彼を見て、

 

「何かあったんだな。」

「ああ。兵のほとんどを殺したのはレイだ。裁判者ではなく。」

「「な⁉」」

 

スレイとミクリオは目を見開く。

彼は続ける。

 

「俺達は気づかなかった……ジイジが言うまで、あれがレイだとは。あいつ、裁判者のフリして俺らを助けに来たんだ。そして、最後まで裁判者であろうとした。そこに審判者が来て戦いになった。」

「それでおチビちゃんも追って行ったわけね。」

「ああ。」

 

エドナが彼を見て言った。

彼はスレイを見て、

 

「あいつ言ったんだ。『私の……レイの故郷だった!彼らは裁判者である私を無下にする事だけはなかった。大切な……家族だった!』って。過去形だった。俺達があいつからこの故郷を、家族と言うのを奪ってしまった。スレイ、頼む。レイにあったら言ってくれ。そしてお前達も忘れないでくれ。『今でもお前達は俺達の大切な家族で、ここはお前達の大切な故郷だ』と。」

 

スレイは頷き、

 

「わかった。絶対に伝える。」

「ジイジはおそらく『災厄の始まりの門』に向かったはずだ。ジイジを頼む。」

「ああ!行ってくる!」

 

そう言って、今度こそ反転し、走り出す。

 

ロゼは走りながら、

 

「どこ?ジイジが向かった『災厄の始まりの門』って!」

「イズチにそんな場所があるとしたら……」

 

ミクリオはスレイを見る。

そしてスレイも頷く。

 

「マビノギオ遺跡の奥だ!」

 

そしてそこに向かって走る。

が、中央に来たら一人の少女が立っていた。

紫髪を左右に結い上げた天族の少女。

ロゼはその人物を睨む、

 

「……あいつ!」

 

その天族の少女、サイモンはスレイ達を見て、

 

「もはや手応えは計れんな。裁判者が邪魔したせいで。だからこそ、手は唯一となり、それに賭けねばならなくなったのだが……」

「貴様……!」

 

ミクリオが眉を寄せて怒りだす。

スレイは天族サイモンを見て、

 

「おまえらが何を企もうと関係ない。オレの答えは決まってる。」

「憎かろう、私が?討ちたいだろう、私を?」

「ジイジとレイはどこだ?サイモン。」

 

スレイは睨む。

天族サイモンは眉を少し寄せた後、無表情に戻り、

 

「……『災厄の始まりの門』に、我が主を追って向かった。そして審判者を追ったあ奴もな。だが、もはや手遅れだがな。」

 

天族サイモンは消えた。

スレイ達は急いで遺跡に向かう。

スレイ達の後ろで走っていたエドナは、

 

「……不思議ちゃん、不安みたいね。」

「スレイさんの成長が予想以上だったのでしょう。」

 

同じく後ろを走っていたライラが言う。

その隣のザビーダも言う。

 

「ああ。この後どんな手を使っても、スレイは全部はね除けるかもってびびってる。」

「ですが……彼女が見出した、唯一の策までスレイさんがはね除けられるか……正直私も不安ですわ。」

「なぁに。させなきゃいい。それだけだろ?」

「はい!」

 

ライラは頷く。

エドナは傘を握りしめ、

 

「……あの子はこんな想い知らなくていい。あの子が覚悟してたとしても。」

「エドナさん……」

「……さすがにマジモードだな。エドナちゃん。」

「あんたも珍しくマジモードが長いじゃない。」

「良い事ですわ!ザビーダさんはずっとマジモでお願いします。」

「お、ライラが言うならそれもありか?惚れちゃうぜ?いや、もう結婚する?」

「ライラのバカ。放っとけばマジモのままだったのに。」

 

エドナは頬を膨らませる。

悲しそうに、

 

「ごめんなさい……」

 

 

 

大臣バルトロは遺跡の中を歩いていた。

そして一人の女性を見つけた。

 

「女、そこを退け。私達はその奥に用がある!」

 

女性は振り返り、

 

「まさか、カムランに足を踏み入れようというのですか⁉」

「だったらなんだ。我々はローランスを滅ぼさねばならんのだ!」

「なんと愚かな!すぐに引き返しなさい‼この先は進めさせません‼」

 

女性は持っていた杖を彼らに向ける。

大臣バルトロは兵を見る。

兵の一人が女性に剣を振るう。

だが、それは兵自身の影から出てきた何かに鎖のように締め上げられた。

そして、辺りの空気が重くなる。

女性はハッとしたように、辺りを見る。

そこに声が響く。

 

「愚かな人間だ。この遺跡まで穢すとは。」

 

目の前に赤く光る何かがあった。

それが次第に人の形だと解る。

 

「レイ様⁉」

 

だが、女性は闇の中から現れた者に驚いた。

そこには自分の知る裁判者の女性ではなく、白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女。

逆にその小さな少女を見て、

 

「導師の妹⁉」

「え?」

 

女性は眉を寄せる。

レイは大臣バルトロを睨み、

 

「もはや、お前達に慈悲は与えない。これ以上、この神殿を穢せない。ここはジイジの……」

 

レイは手を前に出す。

辺りが暗くなり、何も見えなくなる。

そして再び見えるようになった時、立っていた人間は二人人だった。

女性と大臣バルトロだけが残され、

 

「だ、誰かいないのか⁉」

 

大臣バルトロは辺りを見渡す。

だが、自分が連れて来た兵士は皆、息もせず倒れている。

大臣バルトロが前を見ると、影のような何かが自分の眼の前に居た。

そして大臣バルトロを喰らおうと影が止まり、

 

「ごめんね、アリーシャ……」

 

レイは影から剣を取り出し、彼に突き出した。

そして抜く。

 

「うごっ⁉」

 

彼は前のりに倒れ込んだ。

レイは倒れた人間達を見て、

 

「アリーシャも、お兄ちゃんも、それでも彼らを助ける事を望んだだろな……。でも、これは裁判者ではなく、私自身の答えの為に殺らせてもらったよ……」

 

そしてレイは女性をみる。

女性はレイを見て、

 

「……あなたはレイ様……裁判者なのですか?」

「ん。私はレイ。貴女の兄が付けた名と想いによって、裁判者が人の世で活動させるために創った疑似体だよ。貴女の事は知ってるよ、ミューズ。裁判者の記憶で見たから。」

「そうですか。では、私は封印を再び――」

「ダメ。」

「え?」

 

そして女性ミューズに近付き、

 

「ごめん、ミューズ。今は眠って。」

 

そう言って、手をかざした。

女性ミューズは倒れる。

薄れゆく意識の中、最後に聞いた彼女の言葉は、

 

「今にお兄ちゃんとミク兄が来るんだ。ミク兄に……ミクリオに合わせてあげられる、互いにね……」

 

そして彼女は闇の中に歩いて行った。

 

 

スレイ達は遺跡に入り、大きな雷神の像を見つけた。

ロゼがそれを見て、

 

「これ……おっかない顔の像だよね。」

「多分、マビノギオ遺跡の祭神だと思う。名前はわからないけど――」

 

ミクリオがロゼに言っていた時、

 

「これはゼンライ様ですわ。」

 

ライラが像を見上げて言った。

ミクリオは目を見開き、

 

「え⁉」

「これがジイジ⁉」

 

スレイも驚いた。

ライラはスレイとミクリオを見て、

 

「かつて、ゼンライ様は厳しさと加護を併せもつ雷神として、人々の尊祟を集めていたと聞いています。」

「そうか。僕たちが遊び場にしていたのは……」

「ジイジの神殿だったんだな。」

 

ミクリオとスレイは改めて像を見た。

そして二人は頷き、奥へと進む。

 

奥に進むと、ハイランド兵達が死に絶えていた。

ザビーダがそれを見渡し、

 

「なんだこりゃ……」

「……こいつが兵を進めたんだ。」

 

ロゼがある人物を見て睨む。

そこには大臣バルトロが他の兵達とは違い、剣で刺されたかのような傷を負って死に絶えていた。

エドナはそれを見て、

 

「大方、あいつがやったのかもね。でも、最後までどうしようもないバカだったわけね。」

 

スレイも大臣バルトロを見て、眉を寄せていた。

ライラが奥を見て、

 

「ミューズさん!」

 

そこには女性が倒れていた。

ミクリオがそこに走り出す。

 

「くっ!」

 

ミクリオは女性ミューズの前に膝を着く。

そして彼女を見つめた。

ミクリオは彼女の体を起こして、支える。

スレイ達も近付き、膝を着く。

スレイがすぐ傍に落ちていた彼女の杖を握る。

そしてライラを見て、

 

「ライラ、治癒の天響術を!」

 

ライラは首を振る。

 

「いえ、ミューズさんには怪我はありませんわ。」

「え?」

 

と、女性ミューズが意識を取り戻す。

 

「う……」

「しっかりするんだ!」

 

ミクリオが声を上げる。

女性ミューズは辺りの気配を感じ、

 

「この穢れの気配は……ですが……まだ……私の命を使えば……!」

「何するつもり?無理しないで!」

 

ミクリオは彼女を支えて言う。

女性ミューズは改めて周りを見る。

そして涙を堪え、

 

「天族の方……私はどうしても……希望を繋げたいのです……!この命に代えても!」

 

スレイ達は彼女を見つめる。

 

「なぜそこまで……」

 

ミクリオは眉を寄せて彼女を見る。

女性ミューズは手を握りしめ、

 

「いつかゼンライ様が育んだ子らが……導師と、それを助ける者……となって……人と天族の未来を……希望へと導いてくれると信じているから……」

「それが……答えなんだ……」

 

ミクリオは彼女を瞳を揺らしながら、だが力強く見つめる。

女性ミューズは手を伸ばし、

 

「……私の杖を……」

 

ミクリオはスレイに手を差し出す。

スレイはミクリオを見る。

ミクリオは頷く。

スレイは持っていた杖をミクリオに渡した。

そしてミクリオは女性ミューズにそれを渡す。

女性ミューズはミクリオを見て、片方だけ涙を流し、

 

「ありがとう。」

 

そして立ち上げった。

スレイが女性ミューズを見て、

 

「ミューズさんっ!」

 

だが、ミクリオがスレイの肩を掴んで止めた。

そしてミクリオを力強い瞳で彼女を見て、

 

「さようなら、ミューズ。あなたの願い、きっと叶うと僕も信じる。」

 

女性ミューズは振返り、

 

「ありがとう。」

 

そして杖を地面に一度付き、光が彼女を包む。

彼女は消えるその瞬間、

 

「ありがとう、ミクリオ……」

 

小さく呟いた。

それは彼らには聞こえない。

そして彼らに笑顔を向ける。

消えた彼女の元には杖だけが残された。

 

ミクリオは女性ミューズの杖を拾い、見つめた。

スレイが彼の背に、

 

「ミクリオ……あれで本当に……?」

「いいんだ。」

 

そう呟く。

そして奥を見る。

ライラは一歩前に出て、

 

「ゼンライ様とレイさんもきっとこの先ですわね。」

「それにマオテラス坊や。」

「ヘルの野郎と審判者もな。」

 

エドナとザビーダがそれに続く。

ロゼがミクリオの肩に手を乗せ、

 

「気合い入れてこ!」

「ああ。」

 

ミクリオは頷く。

スレイは前を見つめ、

 

「行くぞ!みんな!」

 

そして駆けて行く。

ミクリオは一度止まり、女性ミューズの居た所を見てから走り出す。

彼らが走り去った後、彼らの走る姿を後ろから見て言た天族の少女。

彼女は無表情で呟く。

 

「……最終幕の開演か。ヘルダルフ様……。本当に彼らはまだ染まるのでしょうか……」

 

その声はどこか戸惑っていた。

だが、すぐに力強い声となる。

 

「いや、それをこそ私が成すのだ……!」

 

そう言って、歩き出す。

 

 

スレイ達は階段を下っていると、何かに飲まれた。

そして辺りは遺跡の中でなく、砂と岩と暗い空になった。

ロゼは辺りを見て、

 

「スレイ!今の!」

「ああ。」

 

スレイも頷く。

ミクリオが辺りを見て、

 

「きっとサイモンだ。」

「でしょうね。」

 

エドナも辺りを睨んで言う。

ザビーダはニット笑い、

 

「さぁて……今度はどんな手でくる?」

「気を引き締めましょう。」

 

ライラがスレイ達を見る。

スレイは頷く。

そして辺りを調べ始める。

だが、辺りは何もない殺風景だ。

それが永遠と続く。

と、歩き続けると、何かを見つけた。

そして近付き、ロゼは目を凝らす。

 

「なに……?これ」

 

そして砂煙が消え、驚く。

 

「な⁉」

「サイモンの幻術だ!」

 

スレイは身構える。

そこにはスレイとロゼが立っていた。

ロゼは引きつった顔で、

 

「う、うん。」

「時間が惜しい!一気に突破しよう。」

 

ミクリオが武器を構える。

スレイはとロゼは頷く。

 

「わかった!」

 

そしてスレイはライラと、ロゼはエドナと神依≪カムイ≫をする。

すると、幻術の方のスレイとロゼも、同じように神依≪カムイ≫をした。

そしてスレイとロゼを剣を振った。

スレイとロゼは後ろに飛ぶ。

ロゼは驚きながら、

 

「わ~!何これ気持ち悪!」

「サイモン!こんな事しても無駄だ!」

 

そう言って、スレイは剣を幻術スレイとロゼに向かって振るう。

そして戦闘を行う。

すると、幻術ロゼが、

 

「痛い……やめて……」

「ぐぅ……仲間を気つけるのに躊躇はないのか?」

 

幻術スレイも言う。

ライラがスレイと神依≪カムイ≫した中から、

 

「……躊躇はありますわ。」

「だからといって引かない。それだけだ!」

 

ミクリオは天響術を繰り出した。

エドナもロゼと神依≪カムイ≫した中から、

 

「悪趣味なだけ。何なの?」

「責め立てる策も尽きてきたってことじゃね?」

 

ザビーダは天響術の詠唱を始める。

幻術スレイは攻撃をしながら、

 

「まだまだこれからよ!」

「図星?地が出てるわ。」

 

エドナが突っ込んだ。

幻術スレイはさらに攻撃を強め、

 

「ほざけ!」

 

だが、そこにスレイが剣を突き出す。

そして同じように、ロゼも幻術ロゼを殴り飛ばした。

光が包み、元の遺跡に戻る。

スレイは神依≪カムイ≫を解き、

 

「ライラ。器なしで穢れの中にいるの、結構つらいんだよね?」

「え?ええ。力も存分に振るえませんし……」

 

ライラはスレイを見る。

スレイは眉を寄せ、

 

「だよな。」

 

そう言って、歩き出す。

エドナも神依≪カムイ≫をロゼと解き、

 

「幻術のネタも尽きてきたみたいね。」

「だな。でも油断せず進もう。」

 

スレイは歩きながら言う。

ミクリオも歩き出し、

 

「ああ。冷静さを失わない事が重要だ。」

 

ライラ達も歩き出す。

奥に進むと、再び何かに囚われる。

風景が遺跡から砂と岩と暗い空に変わる。

ロゼは辺りを見て、

 

「また!」

 

そして目の前にはミクリオと神依≪カムイ≫をした幻術スレイと、ザビーダと神依≪カムイ≫をしたロゼが居た。

スレイ達は武器を構え、応戦する。

幻術ロゼが攻撃を繰り出すながら、

 

「ホントはやりたくないんでしょ?」

「その想いがこの姿を作り出してるんだ。」

 

幻術スレイがスレイに矢を放つ。

スレイはそれを避け、

 

「もうそんな言葉で惑わされるほずないだろ。サイモン……焦ってるのか?」

「……闇へと堕ちよ!」

 

そう言って、矢を再び放った。

しかし、懐に入ったスレイが幻術スレイを吹き飛ばした。

そして反対側では、ロゼが幻術ロゼを切り裂いた。

再び光に包まれ、遺跡へと戻る。

スレイは武器をしまい、

 

「行こう。」

「けどサイモンがまた何かしかけてくるんじゃ……」

 

ロゼが腰に手を当てて、スレイを見る。

スレイはロゼを見て、

 

「多分。でも手の込んだ事はしてこないと思う。」

「……そうかもしれないな。見せる幻もなんか芸がなくなってる。スレイやロゼなら見たまま幻として妨げるけど、他のはできないのかもしれない。」

 

ミクリオは腕を組んで言う。

エドナもスレイを見て、

 

「そうね。どうせ幻を生み出すなら、もっとエグイの出しても良いはずなのに。」

「エグイって……」

 

ロゼが頭を掻きながら、顔が引きつっていく。

ライラが手を叩き、

 

「とにかく進んでみましょう。」

「だな。こうやって足を止めさせる事が、あいつの狙いかもしれねえぜ。」

 

ザビーダがスレイを見る。

スレイは頷き、歩き出す。

 

「ああ。」

 

ロゼ達も互いに見合って、歩き出す。

奥に進むと、行き止まりだった。

ライラは辺りを見ながら、

 

「……行き止まりですわ。」

「え~?一本道だったのに。」

 

ロゼも辺りを見渡す。

エドナはライラを見て、

 

「不思議ちゃんの幻ね。」

「これ以上時間を無駄にしないために、やはり幻術を打破する必要があるか。」

 

ミクリオが腰に手を当てて、左手で顎に当てながら考えて言う。

エドナはミクリオを見て、

 

「どうやって?」

「幻とはいえ相手するのは楽じゃないぜ。」

 

ザビーダが肩を上げる。

そして再び飲み込まれる。

辺りは遺跡から砂、岩、暗い空に変わる。

エドナは歩きながら、

 

「よくやるわね。性懲りもなく。」

「でも、術の効果が落ちている気がしますわ。」

 

ライラが思い出すように言う。

スレイは眉を寄せ、

 

「やっぱり、サイモン……まさか……」

 

そして人影を見つけた。

ロゼは短剣を構える。

 

「また、私達になっても……」

 

だが、そこに居たのは幻術スレイでも、幻術ロゼでもない。

居たのは仮面をつけた少年少女。

黒と白のコートのような服、コートのようなワンピース服とを着て、互いに結い下げた髪と結い上げた髪が揺れる。

 

「おいおい、今度は審判者と裁判者の幻術かよ⁈」

 

ザビーダが若干焦りながら言う。

ライラがジッと彼らを見て、

 

「幻術ですよね⁉」

「幻術に決まってるでしょ!」

 

エドナも眉を寄せて傘を構える。

ザビーダは笑いながら、

 

「だよねー。でなきゃ、裁判者が審判者と仲良く一緒に居るとは思えないし。」

 

だが、そこにも緊張感が漂う。

その緊迫さに、スレイとミクリオも武器を構え、

 

「幻術なら勝てるはずだ!」

「幻術でもなくても、倒さないとマズい相手ではあるな!」

 

幻術だろう審判者がニット笑い、

 

「導師、君に俺らを斬れると?」

 

そう言って、仮面を外す。

彼は笑顔で、

 

「俺の強さを知ってるよね?スレイ。」

「まさか、審判者は本物か⁉」

 

スレイは眉を寄せる。

幻術だろう審判者はさらに笑みを深くし、

 

「さあ、どうだろうね。」

 

彼の足元の影が揺らめき出す。

そして襲い掛かる。

スレイ達はそれを避ける。

そして幻術だろうの裁判者も動き出し、影から剣を取り出す。

 

「私も行かせてもらう。」

「あっちは間違いなく幻術のはずだ!」

 

そう言って、ミクリオが天響術を繰り出す。

だが、幻術だろう裁判者は歩きながら、それを斬り裂いた。

 

「な⁉」

「この程度の力か……」

 

そう言って、ミクリオに向かって走り出す。

剣をミクリオに振り下ろした時、ペンデュラムが飛ぶ。

 

「させねぇぜ!」

「……相手が変わるだけだ。」

 

そう言って、今度はザビーダに剣を振るう。

ザビーダはそれを避け、

 

「幻術とはいえ、やりにくいな!」

 

ペンデュラムを幻術だろう裁判者に向けて投げる。

幻術だろう裁判者も避ける。

そこに、エドナの天響術が襲い掛かる。

それを上に飛び、エドナの術の岩の上に乗る。

 

「ホント、幻術のわりにアイツみたいに戦うわね。でも、アイツはここまで馬鹿正直に戦わない!」

「ああ、エドナちゃんの言う通りだぜ。裁判者は、ここまで付き合っちゃくれないからな。」

 

ザビーダがニッと笑って言う。

エドナがザビーダを見て、

 

「戦ったことあるの?」

「昔、ある剣士とやり合ってたのは見たことある。ま、それはあいつに一撃を与えたからってだけだがな。」

 

そう言って、天響術を詠唱を始める。

 

幻術だろう審判者と戦っていたスレイはライラと神依≪カムイ≫をして、彼の影を切り裂く。

そこにロゼが突っ込む。

幻術だろう審判者は嬉しそうに笑う。

だが、ロゼは迷わず短剣を振るう。

と、影から槍が出てきて、

 

「いいね。迷いがない。」

「ロゼ!」

 

スレイが叫ぶ。

ロゼはとっさに後ろに思いっきり後退する。

ロゼの居た場所には雷が落ち、焼け焦げる。

 

「あっぶな~!」

「さぁ、もっと楽しませてよ。」

 

幻術だろう審判者は槍を回転させ、構えて言う。

そこにミクリオが飛ばされてきた。

 

「くっ!」

「ミクリオ!」

 

スレイがミクリオに駆け寄ろとした時、今度はエドナとザビーダが転がって来た。

そしてロゼが叫ぶ。

 

「スレイ!」

 

スレイがとっさに自分に振られた剣を、なんとか剣で防ぐ。

そのまま、力で押される。

 

「ぐっ!」

「どうした、導師。何やら感情が動いているぞ。」

 

幻術だろう裁判者は小さく笑った。

スレイとロゼはそれを見て、

 

「「やる事は決まった!」」

 

そう言って、ロゼはザビーダに叫ぶ。

 

「ザビーダ!」

「おうよ!」

 

そして、神依≪カムイ≫をする。

スレイも幻術だろう裁判者の剣を弾く。

ロゼは突っ込み、背中の風の剣を彼に飛ばす。

それは全て刺さる。

彼は消える。

そしてスレイも、幻術だろう裁判者に剣を突き出した。

幻術だろう裁判者に剣が突き刺さる。

 

「はは。流石に気付かれたか……」

「サイモン!いい加減に――」

「だが、導師。お前が今突き出したのは私の幻術ではなく、お前の妹だ。」

 

そう言って、幻術が解ける。

そしてライラと神依≪カムイ≫したスレイの剣には白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が刺さっている。

そして血がポタポタ落ちる。

スレイは目を見張る。

スレイが神依≪カムイ≫を解くと、小さな少女は地面に落ちる。

ロゼは眉を寄せ、

 

「サイモン!アンタいい加減にして!」

「スレイ!これは幻術だ!」

 

ミクリオも眉を寄せて言う。

スレイは困惑しながら、

 

「あ、ああ……」

 

と、小さな少女、レイが起き上がる。

傷を抑え、スレイを見る。

 

「やっぱりお兄ちゃんも、私の事嫌いだったんだね。イズチの天族達みたいに、ジイジみたいに!」

 

そう言って、影が揺らめき出す。

そして、涙を流しながら、

 

「あの雷神の天族みたいに、導師!お前も喰ってやる!」

 

そう言って、影が飛んできたが、炎がそれを吹き飛ばす。

そして次の炎がレイもろとも吹き飛ばした。

スレイは炎を飛ばしたライラを見た。

ライラは眉を寄せ、怒りながら言う。

 

「このレイさんも幻術です!裁判者はゼンライ様のお力を認めています。あの方はゼンライ様を、もう雷神とは呼びません!」

 

だが、幻術だろうレイは消えずに残っている。

ロゼはライラを見て、

 

「本当に幻術だったの?」

「幻術だよ、ロゼ。」

 

スレイがロゼを見る。

そしてミクリオも頷き、

 

「ああ。レイはイズチの皆を助けたんだ。そのレイが、今更こんな風に皆を嫌うはずじゃない。」

 

スレイも頷く。

そしてまっすぐ前を見て、

 

「……もうすぐ幻術は解けると思う。」

「え、なんで?」

 

ロゼがスレイを見る。

スレイは前を見たまま、

 

「サイモンは天族だから。こんな穢れた領域の中じゃ、力を振るうのも難しいんじゃないか?」

 

幻術のレイが消え、天族サイモンが現れる。

ミクリオは彼女を見て、

 

「図星だったようだな。」

「……いくら幻で責め立てても、お前の心にはもうさざ波も立たぬか……ならば、別の手を使うまでの事よ。」

「何?やけすそ?おチビちゃんの幻術でもだめだったから。」

「大人しく屈せ!」

 

天族サイモンは声を上げる。

そして攻撃を仕掛けてきた。

スレイはそれを避け、

 

「サイモン……お前……」

「なんだ、その目は?同情か?同情するならその身を闇と染めろ!」

 

そう言って、力を籠める。

彼女は続ける。

 

「お前たちは散るべき花。目障りの極み!」

「これも幻……なの、ライラ?」

 

ロゼが天族サイモンの攻撃を避けて、ライラを見る。

ライラは首を振り、

 

「いえ、これは恐らく……」

「どっちにしても倒すだけよ。」

 

エドナが天響術を繰り出す。

ミクリオも天響術を詠唱し、

 

「こんな戦い、何の意味もない!」

「なら大人しく消えよ。どうせ天族は殺せまい。」

 

天族サイモンは天響術を繰り出す。

それを避けながらザビーダは、

 

「えらくナメられたもんだな、おい!」

「ならば殺してみよ。そして憑魔≪ひょうま≫と堕ちよ!」

 

そう言って、再び天響術を詠唱する。

 

「導師よ。その同胞どもよ……。もはやその身が染まらぬのなら……このまま共に夢幻と踊り狂おうぞ!」

 

そう言って、天族サイモンが増える。

スレイ達は戦い続ける。

 

スレイは増えた天族サイモン達を薙ぎ払い、本体の天族サイモンを吹き飛ばす。

彼女は地面に落ち、幻術サイモン達が消える。

天族サイモンは上半身を起こし、

 

「ふふ。私を殺さねばこの舞台は終わらない。」

「サイモン、もうやめよう……」

 

スレイは彼女を見下ろす。

そう言って、剣をしまう。

サイモンはスレイを見上げ、

 

「死を受け入れるか。」

 

スレイは首を振る。

彼は、天族サイモンの奥を見る。

そして天族サイモンも、自分の後ろを見た。

そこには道が続いている。

ロゼが天族サイモンの横を通て、そこに向かって歩いて行く。

スレイも天族サイモンの横を通る。

天族サイモンは杖を彼叩き付けようと振る。

 

「待て!導師っ!」

 

だが、スレイはそれを掴み軽く押す。

天族サイモンは後ろに尻餅を着く。

そして、恐怖や悲しみのような表情をする。

ロゼはそれを見て、

 

「それがあんたのホントの顔ってわけね。」

 

天族サイモンは無言になる。

ミクリオはスレイを見て、

 

「行こう。ジイジとレイが心配だ。」

「あ、うん。」

 

スレイ達は歩いて行く。

天族サイモンはスレイ達の背を見て、

 

「もはや手遅れ……すべて我が主の掌中よ……」

 

スレイ達は振り返る。

ロゼが天族サイモンを見つめ、

 

「あたしらが、はい、そうですかって諦めると思う?」

「……なぜ抗うのだ……抗えばそれだけ苦しむ……。なぜ苦しみから解放されありのまま生きるという、我が主の目指す世界を否定する……。……忘れたわけではあるまい。その業ゆえに命を落とした風の天族の存在を。彼の選んだ復讐という答えは我が主の目指すあり方に他ならぬではないか。お前たちは彼も否定してるのだぞ。」

 

天族サイモンはスレイ達を睨んで言った。

スレイは彼女を見つめ、

 

「……デゼルは確かに苦しんでた。でもあいつは自分の決めた事をがんばってた。」

「そうだ苦しみから逃れるためにな。」

「けどあいつは――」

 

ロゼは反論しようとしたが、

 

「業を抱えたものがそれに抗う事はすなわち、自分自身を否定する事に他ならない。抗い、否定した先に何があった?空虚な死ではないか。」

 

天族サイモンも言葉に、怒ろうとした。

だが、ライラが彼女の前に立つ。

 

「サイモンさん……。抗うのをやめた先に……そこに生の実感はあるのでしょうか?」

「何?」

「抗えば確かに苦しみを伴う事が多いですわ。それでも顔を上げ、答えを信じて足を踏み出したとき……そこに生の実感があると思いませんか?デゼルさんは確かに最初は苦しみから、逃れようとしたのかもしれません。ですが、全てを思い出したとき、彼はあなたの言う自らの業を呪い、諦めましたか?」

 

スレイはライラの言葉を聞き、

 

「そうか……」

「だからデゼルは最期に笑ってた……。ううん、笑えたんだね。ライラ。」

 

ロゼはおもい出しながら言う。

だが、天族サイモンは声を上がる。

 

「それが何だというのだ!正しい解に至らねば空虚な自己満足ではないか!」

「いいじゃねえの、自己満足で。」

 

ザビーダが肩を上がる。

ミクリオも腰に手を当てて、左手を顎に当てる。

 

「結果は重要だが……かといってそれは、経過が不要には繋がらない、か。」

「詭弁に過ぎん……」

 

と、俯いていた天族サイモンの頭をエドナが傘でバシっと叩いた。

天族サイモンはエドナを睨む。

エドナは傘を左肩に置き、右手を腰に置いて、仁王立ちしている。

 

「……いい加減気付いてくれる?急いでるに何故ライラが、わざわざこんな話してるのか。」

 

ライラはスレイを見る。

スレイはライラを見た後、天族サイモンを見て、

 

「……サイモン、前にオレに聞いたよな。『存在するだけで不幸をもたらす業を持ったものは、存在自体が悪なのか、死ぬべきなのか』って。」

「どう答えるかなど聞くまでもない。」

 

天族サイモンは俯く。

スレイは彼女をまっすぐ見つめたまま、

 

「……でも言っとく。前にレイが言ってた。導師が正しい時も、災禍の顕主も正しい時もあるって。だから、自分を悪だって決めつけなくてもいい。……違うな。悪でもいいじゃないか。」

「なんだと……」

 

天族サイモンは眉を寄せる。

スレイは困惑しながら、

 

「や、なんか違うな……えーっと。」

「上手く言おうとするな。」

 

ミクリオがスレイを見る。

スレイは頷き、

 

「どんなヤツだって居てもいい。みんな幸せになる方法、きっと見つけるよ。だから――」

「貴様は自分の残酷さがわかっておらん……。貴様は今まさに私の幸せを奪っているのだ……。もはや我が主の御為に働けぬ私に、存在理由などない……。」

 

天族サイモンは俯き、落ち込んで丸くなる。

ロゼは拳を握りしめ、

 

「っとにもーこいつ!あたしも、も一発ぶっとくか。」

「もう行こう。スレイ。」

「……ああ。」

 

ミクリオがスレイの肩をおく。

スレイは頷き、みんな歩き出す。

そして天族サイモンも鳴き声が響いて来た。

 

「うぅ……わぁぁぁ~!あぁぁ。」

 

 

スレイは奥に進みながら、

 

「伝わったかな。オレ達の言いたい事。」

「わかりません……ですが、耳は傾けていましたわ。」

 

そして審判者が壊したカムランへの扉に入った。

辺りは穢れで充満していた。

木々は枯れ、大地は干からびていた。

スレイが辺りを見て、

 

「……ここがカムランか。」

「始めて来るのに知ってる場所なんて、なんかへんなかんじ。」

 

ロゼも周りを見て言う。

ミクリオも辺りを見渡し、

 

「……なんだか時が止まってるみたいだ。」

「実際そうなのかも。裁判者や審判者、マオ坊のあのバカみたいな力を考えればね。」

 

エドナが村だった所をじっと見て言う。

ライラは俯き、

 

「……ここで亡くなったのですね。」

「ライラ、大丈夫か?」

「ありがとう、スレイさん。もちろん大丈夫ですわ。」

 

ライラは顔を上がる。

ザビーダがスレイを見て、

 

「神殿まではまだ結構ある。楽に行こうぜ?」

 

スレイ達は頷いて歩いて行く。

ロゼは歩きながら、

 

「サイモンってなんか憐れ。業とかいうのにホント苦しんだんだね。」

「ヘルの野郎に使えることで、やっと自分の存在意義を感じられるぐらい、な。」

 

ザビーダは頭で手を組んで言う。

スレイは天族サイモンを思い出し、

 

「あんなすごい力を持っているのに、自分を信じられなかったんだ。」

「あの力ならいつでもあたしらを殺せたのに、そうしなかったのもヘルダルフの指示だったのかな。」

 

ロゼも頭で手を組んで言う。

ミクリオはロゼを見て、

 

「それもあるかもしれないが……殺せなかったんじゃないだろうか。あれは普通じゃ考えられない。特別な力に感じた。」

「そうか、誓約だな。」

 

スレイは手をポンと叩く。

エドナが傘をクルクル回し、

 

「……で、誓約は『殺めない』ってワケね。」

「人、天族、憑魔≪ひょうま≫なんでもござれだが殺せない。意味があるようで意味がない、か。」

 

 

ザビーダは遠くを見るよな感じで言う。

ライラは手を握りしめ、

 

「ですが、先ほどは本気だったと思いますわ。」

「誓約を侵して、力を失っても……ひげネコの思惑にすら反してでもね。」

 

エドナは淡々と言う。

ライラも頷き、

 

「はい。この穢れの中で、力を存分に発揮出来なかったのが、幸いしたのでしょう。」

「そこまでしてオレを……」

 

スレイは俯いた。

しかし、顔を上げて進む。

 

 

神殿の中、審判者はカムランの入り口の方を見る。

そしてそこを見つめ、

 

「サイモンちゃん、負けちゃったか。と言うことは、スレイ達もやって来る。彼らは間に合うかな。大切な家族を。」

 

そう言って、自分の居る部屋の扉を見る。

そこに老人天族がやって来た。

そしてその後すぐに白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女も入って来た。

審判者は嬉しそうにニット笑い、

 

「さあ、抗ってみなよ!」

 

そう言って、短剣を握る。

小さな少女もまた、影から武器を取り出し、影が掴む。


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