テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第四十一話 気持ちの整理

スレイは歩きながら、

 

「まずは、イズチに向かおう!」

「だね。あるはずだもんね。マオテラスとヘルダルフがいるカムランに通じる道が。」

「それに行けば、鍵のこともわかるだろうし。」

 

ロゼも頷き、ミクリオも頷いている。

と、いき満々に歩いている。

だが、レイが立ち止まる。

スレイが振り返り、

 

「レイ?」

 

レイは視線を左右に見てから、頷き、

 

「お、お兄ちゃん。そのことなんだけど……」

「「「ん?」」」

 

スレイ、ロゼ、ミクリオは首をかしげる。

レイは近くに居たザビーダの足に隠れ、顔だけ出す。

 

「裁判者があのドラゴンとの戦いの時、審判者の力を封じたんだ。で、多分まだ解けていない。だからそんなに焦らなくても……大丈夫。本当の意味で、やり残した事をしても時間はあるよ。ちゃんと、向き合えるように。」

 

そう言って、みんなを見た。

レイは遠くを見つめ、

 

「災禍の顕主ヘルダルフも、カムランに入るためは裁判者の封印を壊さなきゃいけない。そのためには、審判者の力は必須のとなる。その必須となる審判者の力を使えない間は多分大人しくしてると思う……」

 

そう言ってレイはザビーダの足に隠れる。

エドナは半眼で、

 

「そういうところは抜け目ないわね。この気持ちをぶち壊す。まさにアイツらしいわ。」

 

そう言って、地面に傘を地面に突きはずめる。

ライラはそれを見てハラハラし始める。

ザビーダは笑いながら、

 

「ははは!こりゃあ、いい!ついでだ、スレイ。少しぶらついて行こうぜ。」

 

スレイは眉を寄せて腕を組む。

 

「う~ん……」

 

と、ロゼがポンと手を叩き、

 

「そうだよ、スレイ。メデューサたちの事や、敗残兵狩りの子供達の事も色々まだあるし。」

「だよな。うん!」

 

スレイは頷く。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「で、敗残兵狩りの方だけど、ロッシュが裏取ってるとこ。ハイランドに言ってるみたいだから追いかけてみる?予定通りなら、フォルクエン丘陵あたりで落ち合えるはずだよ。その道中に、三姉妹の故郷があった村が、グレイブガンド盆地だから、そこを通っていけばいい。」

「うん。そうしよう。」

 

スレイ達はグレイブガンド盆地に向かって歩き出す。

 

日が昇り、グレイブガンド盆地を歩いていた。

と、歩いているとハイランド兵とローランス兵が居た。

彼はスレイ達に気付き、

 

「おお、導師殿!このような場所で!」

「そっちこそ。こんなとこで何してるんですか?」

「はい。合同で国境線の警備を行っているのですが、地図にない不審な村を発見。調べようとしていたところで。」

 

スレイとロゼは互いに見合う。

そしてスレイは、兵を見る。

 

「その調査、オレたちに任せてもらえませんか?」

「それがいいね。もしあいつらが戻ってたら……」

 

ロゼも頷く。

兵は互いに見合い、そしてスレイを見る。

 

「どういうことですか?」

「導師じゃないと太刀打ちできない危険が待ってるかもしれないんだ。」

「ですが……」

「頼む。オレはみんなが心配なんだ。」

 

スレイは力強い目で言う。

兵とは再び見合い、頷く。

 

「……わかりました。」

 

兵と別れ、進んで行く。

村に向かいながら、夜になった。

スレイ達は野営をする。

ザビーダはスレイと火の番をしていた。

そのザビーダは火をいじりながら、

 

「しっかし、マジで倒せたな、ドラゴン。大したもんだ。さすが俺様が見込んだ男だ。」

「わかってるよ。エドナのお兄さんのことだろ。」

 

スレイはジッとザビーダを見つめる。

ザビーダは真剣な表情になり、

 

「気付いてるかもだが、〝ジークフリート″で俺たちをアイゼンに撃ち込めば――」

「穢れを切り離し、元に戻せるかもしれない。」

「だが、所詮は可能性だぜ。何発必要なのか……そもそも本当にできるのかすらわからねえ。」

「ああ。今じゃないってわかっているよ。」

「……悪い。余計な口出しだったな。」

 

ザビーダは空を見上げる。

スレイは腕を組み、

 

「世界中を探せば、別の方法があるかもしれないけど……」

「そうだな。それこそ裁判者や審判者の力を使えばあるいは……だが、それは決してしない。それに、俺は根元を知ってる。憑魔≪ひょうま≫になっちまう者の気持ちを……。だが、ヘルの野郎は待ってくれねぇだろうな。」

「今やらなかったら、できなくなる。」

「別に強制はしないぜ?」

 

ザビーダはスレイを見て、ニッと笑う。

スレイもニット笑い、

 

「……独りでもやるから、だよな。」

「そういうこと。」

 

と、そこにレイがやって来た。

レイはザビーダの耳元に顔を近付け、何かをゴニョゴニョ言っている。

そしてザビーダはニット笑い、立ち上がる。

そしてレイの頭に手を乗せ、

 

「はは、任せときな。」

 

そう言って、一人奥の方に歩いて行った。

スレイはレイを見て、

 

「何を言ったんだ?」

 

レイはスレイを見て、

 

「ん~、後輩に先輩の助言。」

「は?」

 

レイは小さく笑い、スレイの横に座る。

 

 

ミクリオは一人、野営場から離れた所で俯いていた。

 

「……とうとう手を下してしまったか。」

「いやあ、ほれぼれする一撃だったな!二人の覚悟がこもっててよ。」

 

そこに、ザビーダがやって来て、ミクリオの肩に手を乗せる。

ミクリオは俯いたまま、

 

「今回は止めなかったな……ロゼは。」

「ん?前は止めたん?」

 

ザビーダがミクリオから腕を離した。

ミクリオは顔を上げ、

 

「ああ。どうしても浄化できなかった枢機卿を殺したのはロゼだった。『スレイの仕事は生かすこと。あたしの仕事は殺すこと』と言って。」

「くくく、らしいな。」

「もちろんロゼに手を汚して欲しかったわけじゃない。でも、なぜ今回は――」

 

ミクリオを言っていたが、ザビーダは真剣な表情になり、

 

「スレイは、答えを出した。ロゼは、その力になりたいと思った。なにも変わってないだろ?そういう意味じゃ。」

「……その通りだな。ロゼの方がスレイのことを、よく考えているのかもしれない。」

「つっても、本当のところは本人に聞かなきゃわからないがな。」

 

と、笑う。

ミクリオは首を振り、

 

「いや。聞く必要はないよ。僕が信じればいいことだ。」

「そうかい。」

 

ミクリオは火の番をしているスレイの元に歩いて行った。

ザビーダもその後ろに付いて行った。

 

翌朝、スレイ達は廃村を見つけた。

レイは中に入り、辺りを見渡す。

そしてロゼを見る。

ロゼは視線に気付き、

 

「なんかいるよ!」

「……しかも二体だ。」

 

ザビーダは声を低くする。

スレイはそこを見る。

二体のヘビの髪をし、下はヘビの胴体を持つ憑魔≪ひょうま≫。

スレイは眉を寄せ、

 

「村に戻ってるってことは、やっぱり!」

「枢機卿の姉妹なのね。」

 

エドナが傘を構え、天響術を詠唱を始める。

敵もこちらに気付き、襲い掛かる。

スレイは剣を抜く。

ライラが攻撃を避け、

 

「石化対策がなければ、決して勝てません……!」

「わかってる!」

 

そう言って、応戦を始める。

レイは少し考え、歌を歌い出す。

ザビーダが背後をに周り、死角をついて攻撃をする。

ミクリオも離れて天響術を詠唱を始める。

ロゼも懐に飛び込む。

ロゼに石化が当たりそうになった時、ロゼの影が動く。

そしてロゼを引っ張った。

 

「えぇ―⁉」

 

ロゼは尻餅をついてレイを見る。

レイはそっぽ向いていた。

ロゼはニット笑い、

 

「サンキュー!」

 

そう言って、再び短剣を構えて走って行く。

レイは小さく笑い、歌い続けた。

そしてスレイとロゼが神依≪カムイ≫に同時なる。

二人は力を籠めて、一撃を与えた。

 

憑魔≪ひょうま≫二体は浄化の炎に包まれ、崩れ落ちた。

そこには女性が二人いた。

スレイは武器をしまい、

 

「ふう……」

「お疲れ!」

「ロゼこそ。」

 

そこに兵が駆け込んでくる。

 

「導師殿、今の騒ぎは!」

「この女性たちは……?」

 

ロゼが兵を見て、

 

「倒れてたの。保護をお願い。」

「了解しました。眠り病患者かもしれませんね。」

「眠り病?」

 

スレイが兵を見る。

レイもスレイ達に近付く。

兵はスレイを見て、

 

「この辺りの古い記録を照合してみたのですが、どうやらここは二十年前に滅びたフォートンという村のようです。」

「記録によると、全員が無気力になり、ひたすら眠りをむさぼる病に罹ったとか。まるで夢という幻に閉じ込められたかのように。」

「スレイ、それって。」

 

ロゼはスレイを見る。

スレイは無言になる。

 

「では、導師殿。後の事はお任せください。」

 

スレイ達は頷き、村から出る。

ミクリオが村を遠目で見て、

 

「やりきれないな。枢機卿たちは、どう生きても憑魔≪ひょうま≫になるか、死ぬしかない運命だったのか?」

「それは……」

 

スレイは俯く。

レイはスレイを見る。

そして空を見上げ、

 

「感情を持つ者は決まられた運命を持つ。でも、それをどうするかは、結局のところ……自分次第。」

 

そう言って、ライラを見る。

ライラは頷き、

 

「はい。運命というのは確かに存在します。そしてレイさんの言う通りなのかもしれない。だがら、全てが決まっているなんて思いたくありませんわ。」

「運命とかって考えた事ないなぁ。みんな白と黒のギリギリで生きてる。どう転ぶなんてわかんない。あの姉妹達はみんな黒の方に進んだ。だから憑魔≪ひょうま≫になった。そんだけでしょ。」

 

ロゼは腰に手を当てて、いう。

スレイは顔を上げ、

 

「白か黒かは自分で選べる?」

「当然でしょ?自分の人生だよ?」

「スレイさん。」

 

ライラは微笑む。

スレイは笑顔になり、

 

「ああ。ロゼの言う通りだな。」

 

そう言って歩き出す。

スレイ達はフォルクエン丘陵に行き、ロゼの仲間を探す。

そして橋の近くで見つけた。

 

「いたいた。おーい!」

「頭領!」

 

そして話し合う。

しばらくして、

 

「で、頭領に別々の要件を伝えに来たんだが。」

「どうも別じゃなさそうなの。」

「なんじゃそりゃ?」

 

ロゼは頭を掻く。

 

「あたしのは高利貸しロマーノ商会の続報。代表のロマーノは相当な美術マニアね。破産させられた人のほとんどは、美術品を借金の担保にしてた。」

「俺は敗残兵狩りの子どもたちの件だ。彼らが襲ったのは破産した人々が雇った運送屋だった。奪われたのは、借金の担保になるはずだった美術品だ。」

「偶然なのかそれ⁉」

 

聞いていたスレイが驚きを隠せない。

ロゼは腕を組み、

 

「『物事は偶然の繋がりが生み出すもの。けど利害が繋がる時は、必ず誰かの意思が働いている』。」

「そうだ。」

「ロマーノは担保を届かないことを理由に、契約違反を言い立て、追い込みをかけた。それが大勢が破産した理由だったよ。」

「借金の形≪かた≫も美術品?」

「一切がっさい自分のものにしてる。」

 

それを聞いたミクリオは眉を寄せ、

 

「美術品を手に入れるための自演強盗か……」

「証拠がないと法では裁けないんでしょう?」

 

エドナがスレイ達を見る。

ライラが俯き、

 

「あるとすれば、利用した子どもたちだけだったのでしょうね。」

「だから証拠を消したってわけだ。クズのやるこたぁ、いつも同じだな。」

 

ザビーダが帽子を深くかぶる。

ロゼは頷き、

 

「わかった。あたしが直に探ってみる。」

「ロマーノは、マーリンドに向かったらしいが……気を付けろ。」

「手練れの護衛がついてるはずだよ。」

「了解。二人は調査続けて。」

 

そしてロゼはスレイを見て、

 

「スレイ――」

「オレも行くよ。」

「私も行く。彼の願いが関わってるから。」

 

スレイはロゼを見る。

そしてレイもまた、ロゼを見上げる。

ロゼは頷く。

 

「サンキュ。」

 

スレイ達は急いでマーリンドに向かう。

そして美術館に足を踏み入れる。

と、奥から声が聞こえてくる。

 

「大分荒らされているが、まあいい。改修資金はたっぷりあるからな。」

「回収した金で改修とは、洒落てますな。」

 

と、一人の男性と鎧を着た傭兵らしき人達が話していた。

スレイがその背に、

 

「あなたがロマーノさん?」

「なんだお前たちは?ここは私が借り切っている。」

 

中央に居た男性が振り返る。

ロゼが腰に手を当てて、

 

「聞きたいことがあって来たの。美術品なんて普通に買えばいい。なんでわざわざ汚いマネをするの?」

「やっぱり直球か……」

 

ミクリオが頭を抱える。

エドナも呆れながら、

 

「でしょうね。」

「お前は?」

 

男性はイラつきながらロゼを見る。

ロゼは目付きを変え、

 

「風の骨。」

「暗殺ギルド⁉」

 

周りに居た傭兵達は身構える。

だが、男性は笑い出す。

 

「ふん、小娘が。何の冗談だ。」

「冗談?」

「う……」

「相手を破産させて財産を没収。利用した子どもは皆殺し。やり過ぎたね。」

「……し、証拠があるのか。」

「ロマーノ。ズレてるって気付いてる?」

 

そう言って、ロゼは短剣を構える。

男性は周りの傭兵を見て、

 

「お前ら!ワシを守れ!護衛の仕事をしろ!」

 

だが、数人は逃げ出した。

何故なら、ロゼの後ろのレイの影から出てきたヘビのようなものが睨みつけていたからだ。

そして残った傭兵は憑魔≪ひょうま≫と化す。

 

「憑魔≪ひょうま≫!」

「最ッ高の裏付け、ありがと。ロマーノ。」

 

スレイ達も武器を構える。

そして憑魔≪ひょうま≫の攻撃を防ぎながら、

 

「子供たちがやったは、こいつらか!」

 

スレイが憑魔≪ひょうま≫を吹き飛ばす。

そしてロゼも同じように吹き飛ばす。

そこにすかさず、ミクリオとライラエドナの天響術が繰り出され、ザビーダのパンチが決まった。

スレイの浄化の炎で兵を元に戻す。

男性はその圧倒的な力に腰を抜かし、

 

「ひぃ……⁉」

「なんであんな酷い事をしたんだ!美術品のなんかのために。」

 

スレイが怒るが、

 

「なんか……だと?」

 

彼は立ち上がり、叫ぶ。

 

「美を取り戻すためだ!お前のようなバカ者から!美を金に替える俗物から!金で買う?認めてたまるか!俗物どもの所有権など!本物の美は!真の理解者が所有すべきなのだから!そう!価値ある美術品はすべて私が管理する。これは世界の美を守る聖戦なのだ!この歴史的偉業のためなら!ガキの死など些細なことだ!」

「浄化……できる?」

 

ロゼは怖い顔で、彼を睨みつける。

スレイは拳を握りしめ、

 

「こいつは……穢れを放っていない。」

「だよね。」

「待ってくれ、ロゼ――」

 

短剣を構えるロゼを、ミクリオが止める。

と、男性は兵と共に逃げ出す。

 

「だ、誰かあぁっ!」

 

その背をロゼが追い、

 

「……眠りよ、康寧たれ。」

 

だが、ロゼの振り下ろす短剣を影が掴む。

そして逃げる彼らも影に捕まっていた。

そしてもう何人か、風の骨の者達も影に捕まっていた。

 

「あっ!」

「いつの間に。」

 

スレイとミクリオは風の骨の者達を見て、驚く。

ロゼはレイを見て、

 

「レイ!」

「ゴメン、ロゼ。でも、ロゼの家族には手を出さない。そして出させない。だってこれは――裁判者の仕事だ。あの子供と死んだ人間達の願い叶えるための。」

 

そう言って、レイの瞳が赤く光る。

影が男性と兵の腕や足を喰らい出す。

 

「や、やめてくれ!」

 

彼らは泣き叫ぶ。

 

「己の欲に身を包んだ。愚かな選択。だが、自身はそれを美化しすぎた。それは良くも悪くも、自身以外に恨みを買ったな。憐れな人間よ。」

 

そう言って、彼らは影に完全に喰われていった。

レイがロゼを見て、

 

「今回の件、人の世で治めるのに、ロゼのギルドの名が欲しいのならすればいい。」

 

そう言って、彼らを影から離す。

ロゼはレイを見た後、風の骨の仲間を見て、

 

「さっき喰われた兵士たちは?」

「あの者達の身元も洗った。」

「三十人以上殺している誘拐犯だ。被害者の身内から依頼が出てた。」

「なるほど。やっぱり、全て知っての行動か……でも、依頼は完了したという事で。」

「依頼主への報告はどうする?」

「子どもたちには、あたしが知らせるよ。そっちはお願い。でも、喰われたのはなしと言う方向で。」

「わかった。」

 

そしてロゼはスレイ達を見て、

 

「一緒に行ってくれる?」

「……もちろん。」

 

そう言って、風の骨の者達と別れて遺跡に向かう。

ミクリオは歩きながら、

 

「平気か、スレイ?」

「大丈夫だよ。悪いな、気を遣わせて。」

「いや。大丈夫ならいい。」

 

スレイは頷いて、ロゼと共に急いで歩いて行く。

ミクリオはレイを見下ろし、

 

「レイの方も大丈夫か?」

「私は何ともない。」

「そうか……」

 

ミクリオは複雑そうにレイを見た。

そして遺跡近くまで行くと、

 

「……でも!……ならいい!」

 

と、レイが走り出した。

 

「レイ⁉」

 

そして悲鳴が聞こえてくる。

 

「うあああっ!」

 

スレイ達も急いで駆けつける。

レイが願いを託された方の子供と犬の天族オイシの前で、木の憑魔≪ひょうま≫を睨んでいた。

そしてすぐ近くにはロゼの仲間が倒れていた。

 

「なぜっ!殺したあああっ‼」

「とめてくれ!導師殿!」

 

犬の天族オイシはスレイを見る。

スレイとロゼは武器を構え、

 

「ライラ!」

 

だが、木の憑魔≪ひょうま≫はレイを薙ぎ払い岩に叩き付けた。

レイは手を伸ばし、

 

「待って!その子は違う!」

 

だが、木の憑魔≪ひょうま≫は子どもを押し潰した。

 

「ぎゃあああ〰‼」

 

スレイの浄化の炎は間に合わなかった。

木の憑魔≪ひょうま≫浄化し、横に寝かせた。

その間に、子供の墓を作る。

レイはミクリオが治療する前に彼らの前に来た。

そして子供と子供の墓の前で横になっている子供を見る。

 

「意識を取り戻した途端、暴れ出したんだよ。ものすごい力でとめられなかった……」

「混乱した意識が、仲間が殺された記憶に支配されてしまったんじゃろう。」

 

ロゼの仲間と犬の天族オイシの言葉で、ライラが悲しそうに、

 

「それでまた憑魔≪ひょうま≫になってしまったんですね。」

「救えなかった……結局。」

 

スレイは拳を握りしめる。

ロゼが眉を寄せ、

 

「そんなことないって。スレイが浄化しなかったら、きっとこの子は何十人も殺しちゃったはずだよ。仲間への想いが、そんな結果になったら、それこそ救われなかった。この子は……可哀想だったけどね。」

「風の骨と裁判者がその子どもの願いを叶え、仇を討った。ある意味で、そいつの願いも叶ったんじゃねえの?」

 

ザビーダが帽子を下げて言う。

ロゼは首を振り、

 

「ううん。実際に討ったのは裁判者。あたしたちはケジメをつけることしかできなかった。あんなのは本当の救いになんてならないよ。」

「ロゼ……」

 

スレイはロゼを見る。

そしてミクリオもロゼを見て、

 

「だったらなぜ?」

「今回の事とかさ、今の世の中、酷いことって多いでしょ?それが当たり前にならないように、せめて自分たちの出来ることをやろうって。」

 

ロゼは拳を握りしめる。

ライラはロゼを見つめ、

 

「そう決めたのが『風の骨』なのですね。」

「うん。風の傭兵団として酷い目にあったあたしらだからこそのケジメってね。」

「だから、ロゼの仕事は殺すこと……」

 

ロゼの言葉にスレイが俯く。

ロゼは頷く。

 

「そう。けど、殺さなくていい世界が一番だってわかってる。エギーユやフィル、トル、ロッシュ、他のみんなも。あたしもね。けど、スレイは本当に救えるんだから。自身をもってバーンとやっちゃって!」

「オレの仕事は生かすこと。」

 

スレイは顔を上げて言う。

ロゼは笑顔でスレイを見る。

 

「そゆこと。」

 

レイはそれを聞いた後、子供の前に座り、

 

「あなたが仲間への想いと意志があるのなら、抗いなさい。」

 

そう言って、子供の胸の前に光を当てる。

そして犬の天族オイシを見て、

 

「あなたも選択肢を好きに選べばいい。」

 

そう言って、子供から離れる。

犬の天族オイシはスレイを見上げ、

 

「導師殿、この子の憑魔≪ひょうま≫になっちまう気持ちは痛いほどわかる……だからこの子の加護を任せてくれんか?大丈夫。仲間の死を悼む祈りが加護を支えてくれるはずじゃ。」

「わかった。お願いします、オイシさん。」

 

スレイ達は別れを告げて、その場を後にする。

ロゼは歩きながら、

 

「そだ。あと一個言っとくことあった。ありがとうね、スレイ、レイ。」

「え、なに?」

 

スレイはロゼを見て驚く。

そしてレイもロゼを不思議そうに見上げる。

ロゼは二人を見て、

 

「あたしに殺して欲しくないって思ってくれてること。後悔とかしてないけど、心配してくれるのは嬉しいよ。」

「ロゼの――風の骨の決意はよくわかった。それでも、やっぱりオレの気持ちは変わらないよ。無論、レイの方もね。」

 

レイは俯く。

ロゼはスレイの肩を叩いて、

 

「ったく、頑固だなぁ。」

「お互い様だろう。」

「敵には回したくないね。でしょ、レイ。」

「ん。」

 

レイは顔を上げて頷く。

スレイは笑いながら、

 

「よかったよ。ロゼがオレの従士で、レイがオレの妹で。」

 

そう言って、レイを抱え込んだ。

レイはギュッとスレイにしがみ付く。

 

スレイ達はハイランドに向けて歩いていた。

その途中で、野営をして休んでいた。

と、皆で火を囲っていると、

 

「ね。みんなが加護を与えたら、どんな感じになるのかな?てか、裁判者や審判者にもそういうのあるの?」

 

ロゼが唐突に聞いて来た。

レイは考えながら、

 

「うーん、あるといえばある。ないといえばない。でも、感覚的には……審判者は『幸運災厄』、裁判者は『傍若無人』。」

「へぇ……で、ほかのみんなは?」

「そうだな……僕なら、やはり『学業成熟』だろうな。」

 

ミクリオが考えながらいう。

スレイがライラを見て、

 

「ライラは『家内安全』かな?」

「ふふ、そうですわね。」

 

ライラが口に手を当てて笑う。

ザビーダはニット笑い、

 

「俺は『縁結び』かな。もちろん、いい女と俺様の。」

「ワタシは『無病息災』かしら。」

 

エドナが淡々という。

ロゼがそれに食いつき、

 

「へ?意外。」

「そうでもないわ。今まで何度も雷に直撃されたり、レイフォルクの頂上から転げ落ちたり、土砂崩れに巻き込まれたり――」

 

エドナは淡々と説明を始める。

レイはそれを聞いて、ある男性を思い出す。

そしてザビーダも心当たりがあるのか、渋い顔になる。

 

「タンスの角に足の小指をぶつけたり、ノドに魚の小骨がひっかかったりしたけど、こうして無事でいるもの。」

「すげー!一部すごくないけど、大筋すごい!」

「エドナって運がいいんだな。」

 

ロゼは大盛り上がり、スレイは目をパチクリして言った。

エドナはなおも淡々と、

 

「不思議なことにね。だから、ドラゴンになったお兄ちゃんの近くにいても死ななかった。」

 

最後の方は小声で言った。

スレイ達は無言になる。

レイはエドナの傘についてるノルミン天族の人形?をみつめる。

そしてザビーダも空を見上げ、

 

「偶然ってわけじゃないかもだがな。」

「どういう意味?」

 

ロゼがザビーダを見る。

ザビーダはニット笑いながら、

 

「さあーてな。」

 

と、笑うだけだった。

スレイはジッと炎を見つめて、考え込んでいた。

レディレイクに向かって歩いていると、霊峰レイフォルクが見える。

スレイはエドナを見て、

 

「……やっぱり行こう。」

「……なにが。」

 

エドナは傘で顔を隠す。

スレイは歩き出し、

 

「じゃあ、オレとザビーダだけで行ってくる。」

「よっしゃ!行くか!」

 

そう言って、ザビーダも付いて行く。

レイもその後ろに付いて行き、次々とその後ろに付いて行く。

エドナは小声で、

 

「なんなのよ、まったく……」

 

そしてエドナも付いて行った。

頂上付近までくると、穢れの領域が展開されている。

 

「スレイ……ここってまさか……」

 

ロゼは改めて周りを見渡す。

そしてエドナは傘を閉じ、

 

「で、どういうつもりなの。」

「それは――」

 

スレイがエドナに振り返る。

そしてザビーダが真剣な表情で、

 

「アイゼンを殺すってことさ。」

 

エドナが傘を握りしめる。

そしてスレイを見つめ、

 

「待って。ワタシとの約束は……!」

「悪いな。俺の約束はアイツをぶっ殺すってことなんだわ。」

 

ザビーダがジッとエドナを見つめる。

エドナは俯き、

 

「……そう。見極めたのね。お兄ちゃんを救う方法はヘルダルフと同じだって。」

 

エドナは顔を上げ、レイを悲しそうに、睨みながら見つめ、

 

「裁判者!ワタシの願いを叶えて!お兄ちゃんを元に――」

「ごめん、エドナ……それはエドナの本当の願いじゃない。それに、彼は答えを出した結果があの姿なの。それだけは忘れないで。」

 

レイはエドナをジッと見つめる。

エドナは傘をさらに握りしめ、

 

「……そうよね。それ以外に、ドラゴンを元に戻すことなんてできない。だから殺すしかないのよ。」

「エドナ……」

 

スレイは彼女をジッと見つめる。

エドナは傘を広げ、彼らに背を向ける。

 

「気にしなくていいわ。本当はわかってる。アレはもう、ただの化け物だって。人や天族を何十人も殺して食べた怪物。ワタシのことだってエサとしか思ってない。なのに、叶えて貰いとわかっていて、ありもしない可能性にすがって、逃げることもできなかった。何百年もずっと無駄に縛り付けられて……頭ではわかってるのに、お兄ちゃんってだけで……。殺さないと……アレが生きてる限り、ワタシは――」

「『オレがドラゴンになったら殺してくれ。きっとエドナが苦しむから』。」

 

エドナの言葉を遮り、ザビーダが思い出すように言う。

エドナはザビーダを見上げる。

 

「それって……」

 

そしてエドナは眉を寄せて怒鳴った。

 

「なによそれ⁉勝手なことばかり!勝手に旅に出て!勝手にドラゴンになって!ワタシが、どんなに寂しかったか――」

 

そして崩れ落ち、

 

「お兄ちゃん……もう一度……会いたいよ……」

 

傘で顔を隠す。

その声は震え、泣き声が聞こえる。

ザビーダが一人歩いて行く。

 

「お兄……ちゃん。うう……う……」

 

泣き出すエドナに、スレイは一言……

 

「ごめん、エドナ……」

 

そう言って、スレイ達も歩き出す。

レイは泣き続けるエドナを見て、

 

『エドナの願いは叶えるよ。それがエドナの願いだから……』

 

そしてレイもスレイ達の後を追う。

頂上に近づくにつれ、穢れが強くなる。

ロゼは歩きながら、

 

「叶えてあげなきゃね。アイゼンの望み。」

「ああ。エドナが自由になることが、アイゼンの救いなんだと思う。」

 

スレイも歩きながら言う。

ミクリオは今も泣いているだろうエドナを想い、拳を握りしめる。

 

「こうするしかないんだよな。ヘルダルフと戦う前に。」

「はい。エドナさんのためにも。」

 

ライラも手を握り合わせる。

そして頂上まで行くと、ザビーダが一人立っていた。

ザビーダはやれやれと言う感じで、肩を上げる。

 

「ホント、あきれるほど優等生揃いだ。」

「あったりまえでしょ。」

 

ロゼが腰に手を当てて自信満々に言う。

ライラもザビーダのその背に、

 

「お独りで背負わないでください。」

「優等生だがバカだな。こんなことにつきあうなんてよ。」

 

ザビーダは小さく笑う。

と、スレイ達よりも後ろから、

 

「本当にそうよね。」

 

そこにはいつものエドナが立っていた。

レイは少しほっとしたように、エドナを見る。

ザビーダはそれを横目で見て、

 

「で、何で嬢ちゃんは今回の件に首を突っ込む。今までも、関わるつっても一歩引いていた。なのに――」

 

レイはザビーダをジッと見つめて、

 

「彼との盟約だから……それがあの場に居た者達との盟約。そして彼らに関しては、彼女の代わりに見届けると盟約を交わした。」

「なるほどね……んで、嬢ちゃんは……」

 

ザビーダはその先を言わず、傘を握りしめるエドナを見て、

 

「ブルってるなら抱きしめてやるけど?」

「イヤよ。バカ。」

「上等だ。」

 

そっぽ向く、ザビーダはニット笑う。

スレイは瞳を閉じ、開くと、

 

「決めよう。今ここで。」

「来るよ。」

 

レイが中央を見つめる。

空から咆哮が鳴り響く。

そしてその中央に穢れを纏ったドラゴン・アイゼンが、降り立つ。

ドラゴン・アイゼンはスレイ達を見て、唸っていた。

ザビーダはドラゴン・アイゼンを見て、

 

「悪ぃ!待たせちまったな!」

「この時が来ちゃったよ、お兄ちゃん。」

 

エドナもドラゴン・アイゼンを見つめた。

ザビーダとスレイが、エドナとロゼが神依≪カムイ≫する。

それのサポートにライラとミクリオが天響術を詠唱し、繰り出す。

レイは岩の上に立ち、ドラゴンを影を使って空に上げないようにする。

そしてスレイとロゼと神依≪カムイ≫していたザビーダとエドナは、

 

「行くぞ、スレイ!」「決めるわよ、ロゼ!」

「ああ!」「うん!」

 

同時に一撃を与えた。

そしてドラゴン・アイゼンは崩れ落ちる。

神依≪カムイ≫を解き、エドナは崩れ落ちたドラゴン・アイゼンを見つめる。

スレイはその背を見つめ、

 

「……エドナ。」

「何も言わないで。……わかってると思うから。」

 

スレイは俯く。

そしてドラゴン・アイゼンが黒い炎に包まれる。

ザビーダはそれをじっと見つめる。

そしてエドナも、それを見つめ、

 

「ごめんね。苦しませて。」

 

そこにレイの歌が響き渡る。

そして泣き出しそうなエドナの頭に手が置かれた。

 

「泣くな、エドナ。すまなかった。そしてありがとうな。」

 

エドナがバッと顔を上げる。

そしてスレイ達もそこを見て驚いた。

エドナと同じ髪の色、同じ瞳を持った黒い服を着た男性が小さく笑っていた。

エドナは瞳を揺らし、

 

「お……お兄ちゃん……」

「アイゼン……」

 

そしてザビーダも、その男性を見て驚いていた。

男性、アイゼンはザビーダを見て、

 

「世話をかけたな。」

 

そう言って、最後にエドナの髪を撫でる。

彼は消えかかり、

 

「今のあなたのコインは裏と表、どちらだろうね。」

 

レイは彼を見て言った。

男性は小さく笑うだけだった。

そして消えていった。

エドナはその場に座り込み、

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……うう……」

 

そして泣き出した。

レイは燃え切ったドラゴン・アイゼンが居た場所を見て、

 

「彼の願いは、もう一度エドナに会いたい。自分が自分である内に、エドナにもう一度……」

 

エドナは涙を拭いながら、レイを見る。

レイは未だそこを見つめ、

 

「彼は自身の呪いのせいで、エドナを危険にしてしまう自分が嫌だった。だから、エドナと共に過ごすため、その呪いを解く旅に出た。でも、その方法は見つからずにいた。そんな彼に、ある人間が言った。『呪いを含めて自分自身だ』と。それは彼にとって救いだった。彼は呪いを自分の一つとし、生きた。『自分の舵は自分で取る』と言うのが、彼の信条らしいよ。それに、それはエドナにも解ると思うよ。彼の想いの詰まった手紙を受け取ったでしょ。」

 

レイはエドナに振り返る。

エドナは立ち上がり、

 

「少しだけ、一人にさせて。」

 

そう言って、歩いて行った。

ザビーダはレイの頭に手を乗せ、

 

「ありがとな。」

「貴方もね。」

 

レイはザビーダを見上げる。

そしてスレイ達を見て、

 

「さ、彼のお墓をつくってあげよう。エドナがまたここに戻って来られるように。」

「ああ。」

 

そう言って、スレイ達はお墓をつくりだす。

そして小さなお墓ができた。

ロゼが手を合わせて、

 

「できたね。ささやかだけど。」

 

そして隣で手を合わせていたスレイを見て、

 

「それにしても、エドナにそっくりな人だったね。」

「……うん。」

 

スレイは立ち上がり、思い出しながら言う。

そこにザビーダが、スレイの肩に腕を置き、

 

「スレイ。お前は、ばっちりけじめをつけたんだ。思いつめんじゃねえって。」

「大丈夫だよ、オレは。」

「気にすんな。さっきの見た限りじゃ、野郎も満足してるだろうしな。」

 

と、笑いながらいう。

ロゼも立ち上がり、

 

「あんたも?」

「……俺もさ。」

 

ザビーダは真剣な表情に戻った。

ミクリオはエドナが歩いて行った方向を見て、

 

「けど、エドナは時間が必要かもしれないね。」

「はい。何百年も積み重ねた想いですから。」

 

ライラもその方向を見て言った。

ザビーダはスレイの肩から腕を離し、

 

「『エドナは泣き虫だけど、芯は強い子だ』。」

「それってアイゼンの?」

 

ロゼが呟いた彼を見た。

ザビーダはいつも通りの笑顔で、

 

「知ってるだろ?俺たちも。」

「ああ。だよな。」

 

スレイも頷いて言った。

そしてレイを見て、

 

「レイはアイゼンを知ってたんだよな?」

「私っていうより、裁判者がね。」

 

手を合わせていたレイが、スレイ達の方に振り返る。

そして立ち上がり、

 

「彼は、今のこの世界の理をつくった最初の天族と知り合いだったからね。」

「それって……もしかして……」

「でも、その先は内緒。お兄ちゃんたち自身で調べて。」

 

レイは小さく笑う。

そして、レイはザビーダの方に近付き、

 

「その頃にザビーダにも会ったよね。」

「会ったなぁ~、そういや。」

 

と、二人で見合っていた。

ミクリオが腕を組み、

 

「昔のザビーダか……」

「なになに、気になっちゃう?俺様の過去♪今なら俺様、大サービス!何でも教えちゃうぜぇ~♪」

「別に。」「全然。」「興味ないな。」「興味ありませんわ。」

 

声を揃えて彼らは言った。

ザビーダは肩を落とし、

 

「嬢ちゃ~ん。酷くね、みんな。」

「いつものことでしょ。」

「えぇ―⁉」

 

レイも即答で言った。

ザビーダはさらに肩を落とす。

レイは小さく笑い、

 

「でも、昔のザビーダはお兄ちゃんやエドナみたいだった。性格は今とあまり変わらないけど。」

「意外だな。」

 

ミクリオがジッとザビーダを見る。

レイは彼らを見て、

 

「昔は一時だけ全世界で天族や憑魔≪ひょうま≫を見ることができた世界があったからね。その時に、ザビーダは導師にいいように使われてた。他にも、エドナのお兄さんに『生きる』という意味。そして、彼とある事を約束をした。その理由は自分の彼女――」

「と、こっからは内緒だ。」

 

と、ザビーダがレイの口を押えた。

ザビーダは懐かしむかのようにアイゼンンの墓を見て、

 

「ま、だが……そうだな。そのおかげで俺は、俺でいられるわけだからな……」

 

と、そこにエドナがやって来た。

花を墓に添え、

 

「行きましょ。」

 

そう言って、再び歩き出した。

下に降りていると、中腹辺りでエドナがスレイの背を見て、

 

「スレイ、ちょっといい?」

「いいけど……どうかしたの?」

 

スレイが立ち止まり振り返ると、エドナは傘で背を向けたままだった。

 

「どうもしないわ。気にしないで。」

 

スレイは頷き、

 

「……うん。わかった。」

「顔を見たくないってことかな?」

 

ミクリオが不安そうにスレイに小さく呟く。

スレイも小さく、

 

「だとしても、オレはエドナの言う通りにするよ。」

「勘違いしないで。ただの個人的な理由よ。」

 

エドナはいつのように言った。

レイは小さく笑う。

ライラが遠くを見るように、

 

「腫れているからじゃないでしょうか。目が。」

「そっか。あんなに泣いたからね。」

 

ロゼも思い出すように眉を寄せる。

ミクリオも不安そうに、だが少し安心したように、

 

「それならいいんだが。」

「よくないぜ~。背中で語る大人の色気に気付かなきゃな。な、嬢ちゃん。」

「え?」

 

と、レイは首を傾げる。

エドナが背を向けたまま、

 

「黙りなさい、オヤジザビーダ。略してオジーダ。おチビちゃんに変な事を教えない。」

「はっは~!調子戻ってるじゃないの~。」

 

ザビーダが笑いながら言う。

だが俯き、ボソッと、

 

「ちょっと傷ついた。」

「ははは。」

 

その姿にスレイは苦笑いする。

そしてエドナの背を見て、

 

「で、用事ってなんなの?」

「丁度いいから今のうちに、みんなに言っておこうと思って。一度しか言わないから。」

 

そして、エドナは少し間をあけ、

 

「ありがと。ありがと。」

 

小さく言った。

スレイは真剣な表情で、

 

「えっと……二回言ったけど?」

「ひとつはアイツの分だろ。なぁ親友。」

 

そう言って、ザビーダはエドナの兄である天族アイゼンが眠る頂上を見て言う。

と、ザビーダは目線をスレイに変え、

 

「スレイ、ついでに俺も言っとくわ。おかげでダチとの約束を果たせた。サンキューな。」

 

そしてスレイ達は歩き出す。

 

スレイ達は野営をして今日は休んでいた。

スレイは木にもたれてよだれを流して寝ていた。

そのスレイの肩に、ロゼは頭を乗せて寝ていた。

 

「ぐぅぐぅ。」「すぅすぅ。」

 

その二人に毛布を掛け、不安そうに見ていたライラ。

と、そこにレイとミクリオがやって来た。

 

「微笑ましく眺めてるって顔じゃないね。」

「……見つけた答えを信じると頑張ってるお二人が、無理をなさってないかと。」

「ライラが思ってるほど、お兄ちゃん達はやわじゃない。」

 

手を握り合わせるライラを、レイが見上がる。

ミクリオは首を傾げる。

木にもたれていたザビーダが帽子を上げ、

 

「アイゼンの事だろ。」

「……はい。」

 

ライラは視線を落とす。

そしてザビーダも視線を落とし、

 

「なら、無理してるに決まってるだろ。いくら自分で決めたからって、ホントは嫌な事だったんだ。」

「……そうだな。」

 

ミクリオも視線を落とす。

ザビーダは視線を上げ、笑いながら、

 

「だが、嬢ちゃんの言うように、スレイ達はやわじゃない。それにしょうがねぇ。なんたって、決めちまったのも事実だ。」

「ザビーダさん……」

 

ライラは視線を上げて、彼を見る。

ミクリオも視線を上げ、

 

「ザビーダ……君も……」

「ふぅ。導師様ご一行、俺様は大したもんだと思ってんぜ?嫌な事だからって逃げずに、ちゃんと応えたんだからな。」

 

ミクリオは驚きながらザビーダを見た。

 

「ザビーダ……」

「ったく……言わせんなって、こんな事。な、嬢ちゃん。」

「ん。」

 

レイはザビーダの横に座る。

そのレイの頭をポンポン叩きながら言う。

ライラが微笑み、そこに腰を掛ける。

 

「そうですね……そうでした。」

「そうゆうこと。」

 

と、ザビーダはニット笑う。

ミクリオはレイの横に座り、腕を組む。

 

「どういうことだ?」

「わからないの?ミボ。まだまだ子供ね。」

 

そこにエドナが歩いて来た。

ミクリオはやって来たエドナを見て、

 

「エドナ⁉」

「ミクリオさん、心配するのではなくて――ムググ!」

「しゃべりすぎ。」

 

しゃべるライラの口を、エドナが抑え込む。

ザビーダはミクリオを見て、

 

「これ宿題な、ミク坊。」

「何がなんだか……」

 

ミクリオは呆れた顔になる。

エドナから解放されたライラはミクリオに微笑み、

 

「ふふ。ミクリオさんは、ずっと前に気付いているはずですわ。ね、レイさん。」

「ん。」

 

レイは眠そうにあくびをする。

ミクリオはなおも困惑し、

 

「?これがさぱらんということか……」

「ははは!嬢ちゃん、俺様と寝るか?」

「ん………」

 

すでにレイは首がカクカクしてる。

そしてコテンと彼の足に寝落ちした。

ザビーダはもろに笑い、

 

「いっやー、俺様モテモテ――って、うわ⁉」

 

そこにエドナの傘が突き刺さる。

ザビーダは首を横にずらす。

ザビーダのもたれていた木に突き刺さった傘を抜き、

 

「調子に乗らない!死にたいの?てか、死になさい。」

「エドナ!レイが危ないだろ!」

「俺様の心配は⁉」

「必要ありませんわ。」

 

と、ライラが即答で言った。

彼らの楽しそう?な会話は続くのであった……

 

翌朝、エドナが珍しく声を上げる。

 

「ちょっとみんな集まって。」

「どうしたんだ。」

 

スレイ達が集まってくる。

エドナはスレイ達を見て、

 

「こんなものを見つけたの。」

「手紙ですか?」

 

ライラが見るエドナの手には、手紙があった。

スレイがその手紙の分を読む。

 

「『一筆啓上。盟約の時はきたれり。汝らの力量を量りたく候。火の試練神殿イグレイン最深部まで来られたし。逃げても責めはせぬ。うぬらが惰弱と判断するのみ』。」

 

レイはそれを聞き、小さく呆れたように笑う。

 

『変わらないな。』

 

ロゼは呆れたように、

 

「なんじゃこりゃ?」

「呼び出しだ。火の試練神殿に来いって。」

 

スレイはロゼを見て言う。

ザビーダは腰に手を当てて、顎に指をやる。

 

「あからさまにケンカ売ってやがんな。」

「誰なんだ、相手は?」

 

ミクリオが腕を組み聞くが、それを遮りエドナが、

 

「気になるわね。『盟約の時』っていうのが。」

「珍しいじゃないか。女の勘?」

 

ザビーダがニット笑う。

エドナは真顔で、

 

「……かもね。」

「わかった。行ってみよう。」

 

スレイは頷く。

そして翌朝、火の試練神殿に向かう。

 

火の試練神殿の最深部まで来ると、ノルミン天族達が集まっていた。

そしてマーリンドのノルミン天族アタックもそこに居た。

彼が振り返り、

 

「あ、導師はんたち。なんでここに~?」

「手紙で呼ばれたんだ。アタックたちこそ。」

 

スレイが彼を見下ろして聞く。

彼は続け、

 

「ウチらもおんなじや~。『時はきた』ゆうはって……」

 

レイは苦笑し、呆れたようにエドナの傘を見つめる。

否、エドナの傘についているノルミン天族の人形?を……

そしてそこに渋い声が響く。

 

「盟約の――そして、解放の時は来たれり!」

「な、なんだあ⁉」

 

ロゼが声を上げて辺りを見渡す。

そしてスレイ達やノルミン天族達も。

だが、エドナは半眼で自分の傘のノルミン天族の人形?を見ていた。

そしてエドナは傘のノルミン天族の人形?は光り出す。

その光が収まると、紐から外れる。

宙を舞いながら、ノルミン天族達と同じ身長になった人形?が着地する。

スレイが驚きながら、

 

「マスコットがノルミンに!お前は……⁉」

「ふっ、冥土の見上げに覚えておくがいい。我が名は――」

「フェニックス。」

 

と、レイがそのノルミン天族を見つめて言った。

そして他のノルミン天族達も彼に近付き、

 

「あ~、フェニックス兄さんやんか~。なつかしな~。」

「お久しゅう~。元気やったか~?」

「そら、元気やろ~。兄さんはノルミン天族最強のお人やし~。」

「兄さんから元気をとったら、なんも残らんしな~。」

「そやそや。その元気さで裁判者を倒した事もあるさかい。」

 

と、ノルミン天族がワイワイ話す。

スレイがそれを聞き、

 

「ノルミン天族最強⁉」

「しかも裁判者を倒した事あるのか⁉」

 

ミクリオも驚いて彼を見る。

レイは真顔で、

 

「ないよ。一撃を与えただけ、顔面に。だから倒してない。」

「「…………」」

 

スレイとミクリオは無言でレイを見た。

そして、ノルミン天族最強らしい彼が、スレイ達を見て、

 

「我が名はフェニックス!ノルミン天族最強の漢≪おとこ≫なり!」

「全部先に言われてるけど。」

 

ロゼが頭を掻きながら言う。

彼は肩を落とし、

 

「くっ……秘かに練習した段取りが……」

「彼らに事前に言わない、貴方が悪い。」

 

レイは肩を落とすノルミン天族フェニックスを見て言う。

スレイは頭を掻きながら、

 

「えっと……フェニックスが、オレたちを呼び出したのか?」

「ふっ、そうだ。我はマスコットに身をやつし、秘かに汝らの力を量ってきた。」

「負けたからでしょ。」「気付いてたけど。」

 

レイは真顔で、エドナは半眼で、彼を見て言う。

後ろのライラとザビーダはすでに視線を外していた。

と、ノルミン天族アタックが、彼を見て、

 

「実はウチもやねん~。」

「怪しすぎて、フツーにバレバレやろ~?」

「せやけども、黙っとかんと兄さんの立場がないやんか~。」

「せやな~。兄さん、形から入るお人やし~。」

 

他のノルミン天族達も次々と言う。

彼はググッと手を握りしめ、

 

「ぐぬぬ……」

「オレは、びっくりしたよ。」

 

スレイが苦笑いしながら言う。

ノルミン天族フェニックスはスレイを見て、

 

「……偽りではあるまいな?」

「一応。」

 

スレイは視線を彼から外した。

ロゼは半笑いする。

と、彼は自信が戻ったのか、

 

「ふははは、笑止!その程度の者には渡せぬぞ!」

「は?渡すって――⁉」

 

スレイは視線を彼に戻す。

彼はスレイを見据え、

 

「知りたくば、力を示してみせよ!」

 

そう言って、横に一回転してジャンプし着地すると、構える。

レイは一歩後ろに下がる。

 

スレイはノルミン天族フェニックスの攻撃を剣で受け、

 

「くっ!一体なんで戦うんだ⁉」

「いいじゃねえか。漢は拳で語るもんさ。」

 

ザビーダが笑いながら、彼と拳を交えながら言う。

エドナはそんな彼もろとも、天響術をそこに放ち、

 

「とにかく全力でボコるわよ。」

「あ~もう!わかんないけど、わかった!」

 

スレイも剣を振るう。

ザビーダはエドナを見て、

 

「だからって、俺様ごとやるのひどくない⁉」

「ひどくない。居たのが悪い。」

 

エドナは再び天響術を詠唱し始める。

そして彼らの戦闘は続き、スレイが彼を剣で叩き飛ばして決着がついた。

ノルミン天族フェニックスは膝を着く。

だが、すぐに立ち上がり、

 

「さすが導師だ……認めよう。エドナを託すに足る漢と。」

「エドナを?」

 

ミクリオが腕を組んで悩む。

だが、エドナは納得し、

 

「……やっぱりそうだったのね。」

「そっか。フェニックスって、エドナのお兄さんが残した形見。」

 

ロゼも納得した。

ミクリオはノルミン天族フェニックスを見て、

 

「アイゼンに頼まれてエドナを守っていたのか。ノルミンの能力≪ちから≫で。」

「ドラゴン化したアイゼンからも。」

 

スレイも彼を見る。

ノルミン天族フェニックスは視線を外して、

 

「ふっ……もはや語ることはなし。」

「漢じゃねえか。」

 

ザビーダはニット笑う。

ライラがノルミン天族フェニックスを見て、

 

「フェニックスさんは、これからどうされるのですか?」

「知れたこと……」

 

彼は周りを見て、

 

「我は独立闘争を再開する!汝らが我が一族を集めたのは千載一遇の好機!我は、今この瞬間に第二次ノルミン独立闘争の開始を宣言する!立てよ、ノルミン!我が同胞≪はらから≫よ!いざ、革命の咆哮をあげん!」

 

そう言って、横に一回転して決めポーズを取る。

レイはそれをつまらなそうに、呆れたように見た。

と、ノルミン天族アタックが、ノルミン天族フェニックスを見て、

 

「兄さん~、そういうノリめんどいって、前にきっぱりゆうたやんかいさ~。」

「別にウチらコキ使われてへんしな~。」

「むしろ導師はんたちを、お助けできて嬉しいわ~。」

「兄さんも、ライラはんのお側で、一緒にほちゃほちゃしよ~や~。」

「それに~、また裁判者と戦うんのは骨が折れまっせ~。」

 

と、次々と彼に言った。

ノルミン天族フェニックスは肩を落とし、

 

「くうっ……相変わらず惰弱無双なノルミン節……」

 

が、すぐに顔を上げ、

 

「だが、我はあきらめぬ!我が名はフェニックス!我が野望も不死鳥!必ずノルミンのノルミンによるノルミンのための覇権を打ち立ててみせる!」

 

そう言って再び横に一回転して、決めポーズを取る。

レイは冷たい視線をノルミン天族フェニックスに向け、

 

「言っておくけど、裁判者はもう面倒なので関わらないからね。少なくとも、意見がまとまるまでは。てか、関わりたくない。」

 

その雰囲気は怖い。

ノルミン天族フェニックスはめげずに拳を握りしめて、演説を続けた。

エドナは半眼で、

 

「……ま、頑張って。」

 

スレイも苦笑いする。

ロゼも苦笑いで、

 

「とりあえず協力してもらおっか?ノルミン世論がまとまるまで。」

「そうだな。」

 

そう言って、いまだに討論をしている彼らに別れを告げて歩き出す。

ミクリオがレイを見て、

 

「レイも行こうか。」

 

レイはノルミン天族フェニックスを見て、ため息をつく。

そしてミクリオと手を繋ぎ、スレイ達に付いて行く。

彼らから別れて、ロゼがエドナを見る。

 

「エドナは気付いてたんだよね?フェニックスが本物のノルミンだって。」

「まあね。フェイントをかけて振り返ると、結構な確率で目があったし。思いっきり目をそらすのよ、アイツ。」

「こわっ!かなり不気味じゃない、それ?」

「というか、ムカつくわよね。ストーカー的な意味で。」

 

と、頬を膨らませるエドナ。

ロゼは引きつった顔で、

 

「ひょっとして、それで逆さ吊りに?」

「それに思いっきり、握りつぶしてた。」

 

レイが思い出すように言った。

ライラが視線を外し、手を合わせて、

 

「フェニックスさんも、使命感でしたことですから。」

「じゃなかったら、磔≪はりつけ≫にしてたわよ。」

 

エドナは真顔だった。

ザビーダがエドナを見て、

 

「そのフェニックスから、エドナちゃんへ伝言だぜ。『エドナ、汝は我から巣立った。飛べ、どこまでも高く』だとさ。」

「うわ、上から目線……つか、意味不明?」

 

ロゼが呆れた。

ライラがなおも視線を外して、手を合わせたまま、

 

「とても情熱的な方なんですよ。ちょっと空気が読めないだけで……」

「かなり読めてない時が多いけど……それでも……」

 

そしてレイはエドナを見て、小さく笑う。

エドナは小さく、

 

「確かに前より高く飛べるかもね。ちょっとだけ傘が軽いもの。」

 

そう言って、エドナは歩いて行く。

翌朝、エドナは傘を開いていた。

その傘にはノルミン天族の人形がついていた。

ロゼがそれに気付き、

 

「あれ⁉エドナの傘にフェニックスがついてる!」

「気にしなくてもいいわ。今度は本物の人形だから。」

 

エドナが振り返って、そう言った。

レイはそれを見て、小さく笑う。

ライラは人形を見つめ、

 

「どうされたのですか、それ?」

「フェニックスの置き土産よ。こんな手紙と一緒に。」

「なになに……」

 

エドナが持つ手紙をロゼが興味深そうに見つめる。

ライラが手紙を受け取り、読み上げる。

 

「『この人形は、我が夜なべしをしてつくりしものなり。これを身代わりに我がいない寂しさを埋めるがいい。側にはおらぬが心配無用。我は不死鳥。汝の心にフェニックスはいつでも蘇る』。」

「まったく、お節介で面倒でくどいヤツよね。」

 

エドナは頬を膨らませる。

それはどこか嬉しそうだ。

ロゼは笑顔で、

 

「でも、つけるんだ?」

「なにもないと傘のバランスが気持ち悪いからよ。繊細なのよ。意外に。」

 

エドナは背を向ける。

その背に、ライラが笑顔で、

 

「はい。」

「繊細だね。ね、レイ。」

「ん。」

 

ロゼとレイは互いに見合って笑う。

 

スレイ達は決戦の前に、探検家メーヴィンの墓参りを兼ねて、塔の街ローグリンにやって来た。

そして探検家メーヴィンの墓に手を合わせて居た。

と、スレイ達は老人天族に声を掛けられた。

 

「お前さん、冒険詩人メーヴィンを知っておるか?遺跡を巡り、太古を讃える詩を歌った美貌の詩人じゃよ。たしか……トリスイゾル洞に、住んでいたはずじゃ。」

 

そう言って、歩いて行った。

ロゼは腕を組み、

 

「美貌の冒険詩人メーヴィン⁉どういうこと?」

「わからないけど……気になるよな。」

 

スレイがロゼを見ると、

 

「なる×100!」

「……マネされた!」

 

エドナはロゼを見た。

レイは空を見あた後、スレイ達を見た。

そして一行はトリスイゾル洞に向かう。

 

トリスイゾル洞に来ると、レイがどこかに向かって歩いて行く。

スレイ達もそれに付いて行くと、一人の女性天族が居た。

スレイが女性天族を見て、

 

「あなたは?」

「天族アカシャと申します。導師よ、こんな僻地にどんな御用でしょう?」

「オレはスレイです。えっと――」

 

スレイは一度頭を下げる。

ロゼが、天族アカシャを見て、

 

「ここにメーヴィンって詩人がいるって聞いたんだけど、知ってますか?」

「詩人メーヴィン……彼女なら、そこで眠っています。」

 

そう言って、後ろに振り返り、奥にあった棺を見る。

レイもそれを見つめる。

スレイもそれを見て、

 

「……亡くなった?」

「もう300年も前に。縁あって私が墓守をしています。」

「300年……話し違うじゃない……」

 

ロゼは頭を掻き、戸惑う。

ライラが静かに、

 

「長命な天族には時々あるんです。時間の感覚がずれてしまうことが。情報をくれた方にとっては、300年前の話が数年前のことのように思えていたのでしょう。」

「あ、俺もあるわ。プリンとって置いたら、うっかり100年経ってた。」

 

ザビーダは手を叩いていう。

ミクリオがライラとエドナを見て、

 

「そうなのか?」

「ないわよ。」

 

エドナは即答。

ライラは首を振る。

天族アカシャは振り返り、

 

「彼女にどんな御用があったのですか?」

「オレの知り合いにもメーヴィンって探検家がいて、その人の家族かと思ったんだけど……」

「偶然同じ名前だっただけみたいだね。」

 

スレイとロゼが互いに一度見会ってからいう。

天族アカシャはスレイとロゼを見て、

 

「偶然ではありません。その探検家も、刻遺の語り部でしょう?」

「『も』って。」

 

スレイは天族アカシャを見つめる。

 

「詩人メーヴィンも語り部でした。語り部は個の名を持たない一族。『メーヴィン』とは一族が代々受け継ぐ名なのです。」

「つまり、詩人は何代か前のメーヴィンか!」

 

ミクリオは腕を組んで言う。

ザビーダは帽子を深くし、

 

「メーヴィン……『看取る者』って意味だっけか?」

 

そしてレイを見る。

レイもまた、ザビーダを見ていた。

レイは目が合ったザビーダから目を反らす。

天族アカシャは頷き、

 

「彼らは、その名と共に誓約を受け継ぎ、世界を傍観する宿命を負うのです。」

「しかし、なぜそんな宿命を?」

 

ミクリオは考え込む。

ザビーダはレイをジッと見た後、

 

「初代がなんかやらかしちまって、強制的に誓約が与えられた……とかなんとかだっけ?」

「私も詳しくは……。すべてを知るのは語り部だけでしょう。今代のメーヴィンは?」

「最後は看取ったけど……」

 

スレイは俯く。

天族アカシャは頷き、

 

「……そうですか。『我は世界を見る者、歴史を見る者。眺むる世界に人あり、流れる歴史に人がいる。人よ征け。世界を回せ。我は見る、我は見る。輪廻の果てを。佇む体は独りでも、我が心は人とあり。恩讐因果を飲込んで、我が心は人とあり』。」

「それ、詩人メーヴィンの?」

 

スレイは顔を上げる。

ライラは微笑み、

 

「人への愛情に満ちた詩ですわね。」

「はい。彼女だけでなく一族皆の夢なのでしょう。語り部は、孤独ゆえに世界を愛し、人を愛する。あなた方に看取られた今代は、きっと幸せだったと思います。」

「だといいね……」

 

ロゼは小さく笑う。

スレイも小さく笑い、

 

「応えなきゃな。メーヴィンが託してくれた想いに。」

 

ロゼ達は頷く。

レイは小さく笑ってから歩き出すスレイ達に付いて行く。

前を歩くロゼは、

 

「メーヴィンおじさんには、難しい事情があったんだね。」

「ああ。特別な宿命を背負ってたんだな。」

 

スレイは彼を思い出す。

ロゼもまた彼を思い出し、

 

「それでも……おじさんは、いつもセキレイの羽を手伝ってくれたよ。」

「オレには探検家の心得を教えてくれた。」

「とにかく世界中を飛び回ってて。」

「オレたちに道を示してくれた。」

「うん!それがメーヴィンおじさんだよね。どんな事情や宿命があっても――」

「メーヴィンはメーヴィンだ。」

「スレイがスレイのように、ね!」

「ロゼがロゼのように、だよ。」

「マネすんなよー。」

「そっちこそ。」

 

と、笑い出した。

それをミクリオとライラは互いに見合って笑う。

後ろを歩いていたザビーダは、

 

「そういや、初代メーヴィンになるのか……アイツは面白い奴だったな、嬢ちゃん。」

 

そう言って自分の前を歩くレイを鋭い目で見る。

エドナもそれに気付き、レイを見る。

レイは前を見ながら、

 

「ん。あれは変わった人間だった。『儂はドラゴンも驚く大魔法使いじゃ~!』って盛り上がってた。あそこは奇妙な仲間揃いだったし。」

 

その者のマネするかのように手を横に広げて揺らす。

だが、それを後ろで手を合わせ、

 

「それに彼女は師であるあの人の想いも継いだ。師の犯した業を背負って、仲間の意志を継いだ。メーヴィンとは、それを知った者が受け継いでいった想いでもある。だから、今なら解るな……彼らの決意と言うものが……」

 

そう言って、前で盛り上がってるスレイ達の方に駆けて行く。

ザビーダはそれをじっと見て、

 

「……だよなあ~、俺もその頃は若かったわ。」

「知り合いだったのね。」

「その頃だからな。アイゼンに会ったのは。」

「……そう……」

 

エドナはザビーダをちらっと見て、そのまま歩いて行った。

ザビーダは小さく笑い、

 

「ホント、あん時のアイツらは変わった仲間揃いだったぜ。」

 

そう言って、自分も盛り上がっている彼らの方に歩いて行く。

と、スレイが思い出したように言った。

 

「そういえば、ライラが気にしてたアルマなとかって、この辺に居るんだよな?」

「そうです!アルマ次郎さんがいるかもです!」

 

と、ライラに闘志が燃える。

そしてスレイ達を見て、

 

「探しましょう!アルマ次郎さんを!」

「は、はい……」

 

スレイ達はその熱意に負けた。

スレイ達は洞窟を探索し、レイが立ち止まる。

そして指差す。

そこにはダンゴムシのような憑魔≪ひょうま≫がいた。

ライラは目を見張り、

 

「違う!アルマ次郎さんじゃない!」

「丸いけど団子蟲じゃん!」

 

ロゼもそれを見て唸った。

そしてライラは札を取り出し構える。

 

「この程度の丸さではマルでダメですわ!」

 

そう言って、一人戦闘を始めた。

 

「ライラ⁉」

 

スレイは剣を抜いて、ライラを追いかける。

エドナが天響術を詠唱し始め、

 

「まったく、仕方ないわね。」

「まぁ~、仕掛けちまったもんはしゃーねぇー!」

 

そう言って、攻撃を仕掛けた。

ミクリオとロゼは眉を寄せ、

 

「えぇ―⁉」「意味が解らん!」

 

と、言いつつも、武器を構えて戦い出す二人。

そんな彼らのやり取りを見ていたレイは、

 

『……楽しそうだな……』

 

一人、後ろに下がって見ていた。

と、ライラがこん身一撃を与え、

 

「今回は何も見ていなかった。そうですわ、何も!」

 

そう言って、歩き出す。

スレイ達も苦笑いしながら、歩き出す。

 

スレイ達は帝都ペンドラゴに立ち寄った。

騎士団塔に行くと、騎士セルゲイが立っていた。

スレイは彼に近付く。

 

「セルゲイ。ハイランドとの交渉はどうなった?」

「皇帝陛下とハイランド王は平和に同意された。だが、実務交渉が難航している。」

 

騎士セルゲイの言葉に、スレイは首をかしげる。

 

「一番偉い人が許可したのに?」

「それは形式だよ。実務では保守派は面子に賭けて条件をゆずらないし。推進派も、これを機に利権を得ようとしている輩がほとんどだ。味方の中に敵がいて、敵の中にも味方がいる。混沌極まりない状況だ。」

「はぁ……聞いてるだけで疲れる。」

 

スレイは肩を落とす。

レイはスレイ達に背を向けて、

 

「それが人間の作り出した理……人が人を縛る為の秩序……か。」

 

ロゼが腕を組み、騎士セルゲイを見る。

 

「大変だねえ、セルゲイも。」

「なんの。スレイや奥方の苦労に比べれば。それに貴殿の妹君も。」

 

レイは騎士セルゲイを笑顔で見て、

 

「ん。お兄ちゃんを支える立派な従士だよ。ね、ロゼ?」

 

と、ジッとロゼを見る。

ロゼは一歩下がる。

それを見ていたザビーダは、声を殺して笑っていた。

そこにエドナが傘で突く。

ロゼは騎士セルゲイを見て、

 

「えっと、その奥方っていうの実は……」

「奥方。困難な道を共に進む人がいるというのは、とても幸せなことだ。」

 

だが、彼は胸に手を当てて言う。

そしてスレイを見て、

 

「前ばかり見ている男は、なかなかその幸福に気付かないものだが。」

 

スレイは苦笑する。

騎士セルゲイは再びロゼを見て、

 

「どうか見守ってやってもらいたい。」

「わかった。任せて!」

 

ロゼは頷く。

騎士セルゲイは笑い、

 

「はは、許されよ。自分が言うまでもないことだったな。おっと、次の会議の時間だ。失礼する。」

 

そう言って歩き出そうとする彼に、

 

「セルゲイ――」

「心配無用、自分は折れない。ここまでの道を築いてくれた者のためにも。」

 

そう言って歩いて行った。

レイは騎士セルゲイを見て、微笑む。

だが、レイはロゼを笑顔で見上げた。

 

「ロゼ、ミク兄が前に言ってたように、セルゲイのいう奥方は……従士だよね。」

「ちょ⁉レイ⁉雰囲気が怖いよ!」

「えー?笑顔だよ、私。」

「いやいや!スレイー!ミクリオー!」

 

と、ロゼは両手を上げる。

ミクリオがレイを抱き上げ、

 

「レイ、前にも言った通りだから!そうだろ、スレイ!」

「ああ!」

 

必死な二人の姿を見たザビーダは、今度は声を上げて笑い出した。

それをエドナが傘で突きまくった。

スレイ達は今日は、ペンドラゴで宿を取って休んでいた。

と、休んでいたスレイとミクリオの元に、ザビーダがやって来た。

 

「ライラたちは?」

 

ザビーダは周りを見て言った。

スレイがザビーダを見て、

 

「みんなサウナに入るって。レイも付いて行ったよ。」

「っしゃ!サウナ行こうぜ!ミク坊も!」

 

ザビーダは嬉しそうにはしゃぐ。

ミクリオは読んでいた本のページをめくり、

 

「僕は後でいい。」

「反論は却下!男はハダカのついあいが以下略!」

 

と、ミクリオの読んでいた本を取り上げる。

そして二人を無理やり連れて行く。

ミクリオは怒りながら、

 

「なんなんだよ、もう!」

 

そして連れて行かれたスレイとミクリオだったが、彼らはサウナで討論を開始していた。

 

「……というわけで、燻製用の小屋がサウナの原型という説が有力なようだ。」

 

だが、ザビーダは別の事に集中していた。

 

「風を読みきる……俺様ならできるはず!」

 

スレイがミクリオの説を聞き、

 

「ふうん……どっちにしろ北方の文化だったんだよな。それがグリンウッド全土に広がったんだろう?」

「改めて言われると不思議だな。」

 

と、彼らの横の方では、

 

「エドナちゃんと嬢ちゃんはパス!エドナちゃんは三千年後くらいにまたな。嬢ちゃんは元の姿くらいになったら!熱気を駆け抜けて……届け!」

 

スレイは腕を組み、

 

「昔は大陸全体が寒かったから……とか?」

「ありうるのか?そんなことが。」

 

ミクリオも腕を組む。

と、スレイが手をポンと叩き、

 

「あっ!ヴァーグラン森林の切り株!」

「デゼルが言ってたな!気候が冷え込んだか日差しが弱かった時代があったって。」

 

ミクリオもハッとする。

そして横でも、

 

「あつっ!風が弾かれた⁉嬢ちゃんに気付かれたか⁉いや、ライラの炎か……!」

 

ミクリオは嬉しそうに、

 

「思わぬものが繋がったね。」

「新しい歴史が証明できるかもしれない。」

 

そして熱気付いた彼らは、

 

「「「ふぅ……」」」

 

そして汗を拭い、

 

「熱いな。」「熱いね。」「熱い。」

 

そう言って、もう少しだけサウナに居た。

 

 

レイはロゼ達に誘われてサウナに来ていた。

ライラに体や髪を洗って貰い、湯につかる。

横にエドナが来て、

 

「おチビちゃん、沈まないようにね。」

「ん。浅瀬に居る。」

「でも、ちゃんと肩までつかるんですよ。」

「ん。つかる。」

 

ライラも湯につかりながら言う。

その上を飛び越えて、

 

「とぉう!」

 

と、ロゼがお湯に飛び込んだ。

エドナが水しぶきを防ぎ、

 

「バカなの。アホなの。」

「ごめん、ごめん。でも、やりたくって。」

 

ロゼは謝りながら、つかる。

エドナはそっぽ向き、

 

「まったく、子供ね。」

 

と、レイが顔を上げる。

 

『……お兄ちゃん達も入ったんだ……』

 

そして、スレイとミクリオの討論が響いて来た。

エドナは天井を見上げ、

 

「うるさいわね。男サウナ。」

「どうせスレイとミクリオが、サウナの歴史とかで盛り上がってるんでしょ。」

 

ロゼが笑いながら言う。

ライラも頬に手を当て、

 

「『なぜサウナが大陸中に広がったんだろう?』とかですね。」

「そうそう。」

 

ロゼは大笑いする。

エドナが顔をお湯に戻し、

 

「そして、けしからんマネをしている他一名。」

 

と、言ってレイを見た。

レイはさっきから何かを見つめている。

そしてビクンと一度脅え、ライラから距離を取った。

ライラが笑顔で、

 

「大丈夫です。怪しい風は燃やしておきましたから。」

「ヤボだよねえ。もっと落ち着いて、このアツアツ天国を楽しめばいいのに。」

 

そして横を見るロゼ。

そこには岩に身を預けてうっとり気持ち良さそうにつかっているライラの姿。

 

「はい。身も心も浄化されるよう……」

「この気持ちよさに気付けないなんて、ホント男って――」

 

エドナもうっとりしながら言った。

そして声を合わせて、

 

「子どもね。」「子どもだよねー。」「子どもですよね。」

 

と言うのを聞き、レイは目をパチクリし、

 

『そう……なんだ……』

 

と、水で遊んでいた。

そしてしばらくして上がるのだった。

 

ハイランドに戻って来た。

そして霊峰レイフォルクが見えてきた。

スレイはエドナを見て、

 

「エドナ、アイゼンの墓参りに行こう。」

「……そうね。」

 

エドナは霊峰を見つめて言う。

そして頂上を目指して歩き出す。

頂上まで来ると、スレイ達は天族アイゼンの墓の前で手を合わせていた。

そしてエドナが彼の墓に花や人形、置物を添えて、

 

「……お土産よ。お兄ちゃん。」

 

そして立ち上がり、墓を見つめる。

 

「アイゼンがいつもお土産くれたのも、こういう気持ちだったのかもね。」

 

レイはエドナを見て、小さく笑う。

そして横では、

 

「一緒に行かなくても、お土産で思い出を繋げられるもんね。」

 

ロゼがニット笑う。

エドナはロゼを見て、

 

「へぇ。旅烏≪たびがらす≫のあなたらしい台詞ね。」

「エドナも気持ちは同じだろ?」

 

スレイは小さく笑う。

エドナはそっぽ向きながら、

 

「違うわ。教えないけど。」

「あはは、かなりエドナっぽい台詞なんだけど。」

 

ロゼは腰に手を当てて笑う。

エドナは天族アイゼンの墓を見て、

 

「言うわね。」

 

そして空を見上げて彼を思い出す。

ロゼがエドナの背を見て、

 

「お兄さんっても別の人なんだし、同じ気持ちじゃなくても良いんじゃない?」

 

そしてエドナはハッとしたように、ロゼをに振り返り、

 

「透視能力?」

「マジで⁉」

 

スレイもロゼを見上げた。

それも手をポンと叩き、

 

「ロゼにも私と同じような能力が。」

「「ないない。」」

 

と、ロゼとデゼルは声を合わせた。

そしてレイは一人笑い出した。

それにつられて、ライラも笑い出す。

エドナはお墓を見つめ、

 

「そうね……お兄ちゃんと同じものを見てるのかなんて、どうでも良いことだったわ。」

「そういう事ではありませんわ。」

 

ライラがエドナの背に優しく微笑みながら言う。

ロゼも微笑みながら、

 

「そうだよ。お兄ちゃんと違ったこと感じてても、悩まなくていいよって意味。」

「だな。エドナの旅はエドナのものなんだから。」

 

と、スレイもエドナの背に言う。

エドナは背を向けたまま、

 

「……面倒な子たちね。心配いらない。良いことばかりじゃないけど旅は楽しい。」

「うわ!」

 

と、今まで黙って聞いていたミクリオが一歩下がって驚いた。

スレイも少し驚き、

 

「エドナが気持ちを素直に!」

「赤飯だ!人間はそうするらしいぜ!」

 

ザビーダは手を叩きながら笑う。

レイはそのザビーダを見て、

 

「お祝いごと?」

「ああ!そうだ!」

 

と、なおも笑う。

レイはビクンと何かに反応し、ライラの後ろに走って隠れた。

その中、ミクリオはエドナの背を見て、

 

「いやまて、落ち着け、これは罠だ。」

 

と、エドナが怒りマックスの顔で振り返る。

そして傘で彼らをど突いた。

 

「いて!」「いた!」「いった!」

 

軽傷だったスレイは頭を掻き、腹を抑えるミクリオ、ザビーダに関してはかなりボロボロだ。

エドナは傘を開き、

 

「……って、お兄ちゃんは思ったのかなって話。さ、行きましょう。」

 

そう言って、さっそうと歩いて行く。

スレイは頷き、

 

「ああ。」

 

そう言って歩いて行く。

ザビーダは天族アイゼンの墓を見つめ、

 

「またな。」

 

彼も歩き出す。

一人先に歩いていたエドナは嬉しそうに、

 

「行ってくるね。お兄ちゃん。」

 

その足取りは軽い。

 

スレイ達はレディレイクに居た。

そして今日一日はレディレイクの街の宿で、休息を兼ねて休んでいた。

レイは部屋でスレイと本を読んでいた。

そこに、ミクリオが汗を拭いながら部屋に入ってくる。

スレイはミクリオを見て笑い、

 

「特訓か?ミクリオ。」

「特訓?なんのことだ?」

 

ミクリオは椅子に腰を掛ける。

スレイは苦笑いし、

 

「そっか。にっしも長い旅になったよな。出発の時は思いもしなかった。」

 

レイはスレイと呼んでいた本を閉じる。

ミクリオはスレイを見て、

 

「覚えてるか?イズチを出た時のこと。」

「忘れるわけないだろ。あんなに輝いてた世界をさ。な、レイ。」

 

と、スレイはおもい出しながらレイの頭の上に手を置いた。

レイはスレイを見上げ、

 

「……うん。」

「今は……どう見えるだろう?」

 

ミクリオは遠い目をしながら言う。

スレイは腕を組み、

 

「どうだろうなあ……」

「見てみないか?イズチに行って。」

「……そうだな。行ってみるか。」

 

と、スレイは腰を上がる。

ミクリオは驚き、

 

「今から行くのか?」

「善は急げだ。」

「だが……」

「なら、私が連れてく。」

「「え?」」

 

レイが立ち上がり、スレイとミクリオの手を掴む。

と、レイの影が三人を飲込んだ。

二人が目を開けると、すでにそこはイズチだった。

そしてレイは指を指す。

その先には広大な空、そして雲が包み込んでいる。

スレイとミクリオはそこを見つめる。

ミクリオは遠くを見つめ、

 

「やっぱり広かったな……世界は。」

「まだ早いんじゃないか。言い切るのは。」

 

スレイも遠くをみるように言う。

レイは岩に座って遠くを見る。

ミクリオは変わらず遠くを見つめ、

 

「早いって……散々旅をしただろう?」

「そうだな。」

「けど、天遺見聞録にある『火を噴く山』もまだ見てない。北にあるっていう『氷でできた大地』も。その向こうにだって、きっと世界は広がってる。」

「ものスゴイ困難もね。」

「もちろんな。けど、それは――なんとかしようぜ。」

 

と、自信満々で腰に手を当てて言う。

そんなスレイに、ミクリオは苦笑いで、

 

「まったく……あきれてものが言えないよ。」

 

レイは二人を見て微笑む。

と、スレイは腕を組み、

 

「あれ?なんか用があったんじゃないのか?」

「どうだったかな。忘れた。」

「適当だなー。だろー、レイ。」

 

そう言って、スレイはレイに振り返る。

ミクリオも振り返り、

 

「スレイ相手にはこれぐらいでいいのさ。な、レイ。」

「うーん、かもしれないし、そうじゃないかもしれないね。」

 

と、レイとミクリオは笑い出す。

スレイは頭を掻きながら、

 

「ひっで!」

「思い出したら言うよ。」

 

ミクリオは小さく笑って言う。

スレイは伸びをして、

 

「また今度か。」

「まだ今度だ。」

 

と、二人はレイを見て、

 

「その時はレイも一緒だからな。」

「また一緒に来よう。」

 

レイは瞳を揺らし、笑う。

そして立ち上がり、二人の元に駆けより、

 

「ん。約束ね。」

「「ああ。約束だ。」」

 

と、笑い合う。

ジイジ達に会ってから、スレイ達はレイの影で、宿屋の部屋に戻った。

スレイ達が戻ってしばらくして、レイが一人どこかに出て行った。

気になったスレイ達がそっとついて行くと、レイは地面に浮かんだ魔法陣に吸い込まれて消えた。

 

「「レイ⁉」」

 

そう言って、スレイとミクリオがその魔法陣に近付くと、二人も飲み込まれた。

ロゼ達は互いに見合って、その魔法陣に近付く。

そして飲み込まれた。

 

「お兄ちゃん、ミク兄。おーい、みんな。」

 

と、スレイ達はハッとしたように目を開ける。

スレイ達は起き上がり、辺りを見る。

とある一角は岩々が連なり、その間から光る柱が見える。

さらに見晴らしのいいところでは、海が見える。

辺りには巨大な骨も転がっていた。

 

「さっきのは……天響術?」

「それに、裁判者の力が加わった者ね。そしてこれは、移動に使うもののようね。」

 

辺りをきょろきょろ見渡すスレイに、エドナが言う。

ミクリオは腕を組み、考え込む。

 

「遺構に遺った……移動の……まさか……これ……『旅の門』⁈」

「え!神代の時代の文献に言葉だけ出てる、あの?」

 

スレイとミクリオは互いに見合う。

そして彼らの前にいるレイを見る。

レイは向かれた視線にそっぽ向く。

そして同じように辺りを見ていたライラが、

 

「これは……私も初めて見ましたわ。」

「……くるね。これは。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

ザビーダも腕を組んで笑いながら、

 

「はっはっは。だろうなぁ。」

「つまりこの先には……」

「神代の時代の遺跡が!」

 

だが、ミクリオとスレイは興味深そうにその先を見つめる。

エドナが呆れたように、

 

「のんきね。この気配、わかるでしょ?」

「ああ……危険なところなんだろうな。」

 

スレイはワクワクするように言う。

ロゼが呆れたように、

 

「けど、行くでしょ。」

「ああ。危険なら、なおさら調べておかないと。」

 

スレイは頷く。

レイはスレイ達を見上げ、

 

「なら、本当に危険な場所だから気をつけてね。」

 

そう言って、レイが歩いて行く。

スレイとミクリオは互いに見合って苦笑いして歩き出す。

エドナは歩くレイを見て、

 

「おチビちゃんに言われると、なんか納得がいかないわ。」

「ははは!まったくだ。」

 

そう言って、エドナとロゼも歩き出す。

ザビーダはライラを見て、

 

「止めないんだな。」

「ええ。迷って出した答えで失敗したら、二度と立ち上がれない。でも――信じた答えに殉じれば、失敗しても必ず立ち上がれますから。」

「信じてるってワケかい。」

 

ライラは頷く。

そして互いに見合って、スレイ達に付いて行く。

 

スレイは嬉しそうに、

 

「旅の門、神代の時代の遺跡か……」

「かは、わからないけど……注意は怠らないこと!」

「わかってるって!」

 

スレイとミクリオはどんどんと辺りを調べまくる。

と、スレイとミクリオは浜辺で見たこともない種を見つけた。

 

「なんだろう?なんかの実……かな?」

「それにしても変わったものだね。見たことあるか、ロゼ?」

 

スレイとミクリオが種を調べて、ロゼを見た。

ロゼは腕を組んで悩み、

 

「う~ん……ないなあ。旅でも商品でも。」

「もしかして海の向こうから流れ着いた?」

「海の向こう⁉」

 

スレイの言葉にミクリオが目を見開く。

ロゼも驚きながら、

 

「そこに、こんな実をつける樹が生えた場所があるって?すごいこと考えるな。」

「不思議じゃないだろ?事実、見たこともない実がある。それに、こんな妙な場所だってあったんだ。」

 

スレイは嬉しそうに語る。

ロゼも微笑み、

 

「うん。不思議じゃないね。」

「海の向こうか……ロマンだね。」

 

ミクリオは海を見つめて言う。

スレイも見つめて、

 

「ああ、行ってみたいな。いつか。」

 

と、その姿を見て聞いていたレイは同じように海を見つめて、

 

『実際に、向こうはあるけど……内緒にしとこ。』

 

そして彼らを見て微笑んで、歩き出す。

スレイとミクリオは再び探索を始める。

と、高い岩場で、ドラゴンの骨を見つけた。

スレイが驚きながらそれを調べ、

 

「これ、ドラゴンの骨か!」

「これを調べたら、ドラゴンの存在が核心にもっと迫れるかもしれないな。」

 

ミクリオも同じように骨を調べながら言う。

ロゼは微妙な顔つきで、

 

「へぇ~。二人って、手羽先食べててもなんか見つけ出しそう。」

「鳥の羽と動物の足の骨って、不思議なほど似てるんだよ。もしかして――」

 

と、ドラゴンの骨を調べながらスレイがロゼのと言葉に反応した。

ロゼは呆れたように、

 

「なんか始まったし。」

「バカ。」

 

エドナはロゼを半眼で見た。

そして同じように調べていたミクリオがスレイを見て、

 

「問題は不死身のドラゴンが死んでるってことだ。」

「しかも四足種――最強のドラゴンが、です。」

 

ライラがジッと、ドラゴンの骨を見つめる。

スレイが腕を組んで、

 

「こいつを倒したヤツがいるってことだな。」

「もしくは『いた』だな。」

 

ザビーダはニット笑う。

エドナが黙り込む。

ザビーダはエドナを見て、

 

「怖かったら手握ろうか?」

「違う。地脈が変なのよ。」

「おりょ?マジ返しかよ。」

「あなた、なにか知ってるんじゃない?」

 

エドナがザビーダを睨みつける。

ザビーダはレイを見つめた。

黙って聞いていたレイはザビーダと目が合う。

レイは知らん顔をする。

ザビーダは口の端を上げ、

 

「……八天竜の巣『だった』。大昔はな。けど行くんだろ?ここが何でも、よ。」

 

と、ザビーダは最後真面目な表情で言う。

スレイは頷き、

 

「ああ……気を抜くなよ、みんな。」

「オッケー!骨になったらスレイに研究されちゃうしね。」

 

と、ロゼが笑いながら歩いて行く。

ライラ達も笑いながら、歩いて行く。

レイはザビーダを見上げ、笑った後歩いて行く。

と、その奥の方にあった光る柱をスレイが調べると、光に包まれる。

光が収まると、スレイ達は辺りが空に浮いているかのような場所に来た。

というより、下は雲で覆われている。

ロゼが辺りを見て、拳を握りしめて叫ぶ。

 

「なんだこりゃー⁉」

「術で隔離された空間だこりゃー!」

 

と、ロゼと同じポーズで、ザビーダも笑いながら叫ぶ。

スレイが苦笑いで、

 

「はは!ザビーダのボケで冷静になれた。」

「そりゃよかった。ボケボケしてたら死んじまうからな。」

 

ザビーダは帽子を上がる。

奥に進むと、ピンクに近い紫のような髪をした少女がいた。

その髪を左右に結い上げているが、地面に着きそうなくらい長い髪だった。

服は白を基準とした赤いラインがある。

そして拳には武器があった。

ミクリオがその少女を見て、

 

「女の子⁉なんでこんなところに?」

「気をつけて。ワタシたちに気付いてる。この子ただ者じゃないわよ。」

 

エドナがそう言うと、その少女の武器で憑魔≪ひょうま≫を倒した。

そして少女は、こちらを見て構えている。

ミクリオが武器を取り出し、

 

「ああ。見た目で油断は禁物だ!」

「……今、ワタシを見て言ったわね?」

 

エドナはミクリオを睨んだ。

そしてレイは彼らの空気を読み、一歩下がった。

少女が攻撃を仕掛けてくる。

スレイ達は戦闘を開始する。

少女の攻撃を避け、天族組が天響術を繰り出す。

そしてスレイとロゼが接近戦で応戦する。

と、スレイとロゼの息の合った攻撃がヒットする。

少女は一歩後ろに下がる。

さらに攻撃しそうになる少女の前にレイが前に出る。

そして少女に笑顔を向ける。

 

「とりあえず、お話しようっか。」

 

と、言うと少女は警戒しながらも、スレイ達を見る。

スレイが剣をしまい、

 

「君は……天族なのか?」

「天族?」

 

少女は眉を寄せる。

ミクリオも武器をしまい、

 

「僕たちが見えているんだろう?」

「聞こえてないみたいよ。」

 

ロゼが困惑しながら言う。

少女はスレイの奥を見つめ、

 

「それはなに?あなたの周りの四つの光。」

 

どうやら少女の瞳には天族達は赤、青、黄色、緑の球体に見えるみたいだ。

レイが少女を見て、

 

「天族の気配は感じるのか……」

「仲間だよ。見えないけど友達なんだ。」

 

スレイが笑顔で言う。

少女は何かを思い出すように、

 

「ともだち……」

 

レイはジッと少女を見つめる。

そして少女は警戒を解き、スレイ達を見て、

 

「ごめんね。『それ』なんて言って。」

「いいんだ。君は……?」

 

スレイが少女を見て言う。

そして天族組も警戒を解く。

少女はスレイを見て、

 

「わたしはソフィ・ラント。」

「ソフィ。なんで襲ってきたかも聞いて良い?ワケあるんでしょ?」

 

ロゼも警戒を解いて聞く。

少女ソフィは俯き、

 

「『強力な見えない力が時空を歪めている。力の源を断たないと元の世界に帰れない』って。」

「それは……」

 

スレイも困惑する。

少女ソフィが顔を上げ、

 

「譜術士≪フォニマー≫のおじさんが、そう言ったの。」

 

そして背を向け、外の方を見て、

 

「見えない力の源……探さないと。」

 

そう言って、歩いて行った。

エドナがその背を見て、

 

「変わった子……」

「ね。」

 

ロゼも腕を組んで言った。

ミクリオはスレイを見て、

 

「僕たちや憑魔≪ひょうま≫を直感で捉えてるみたいだったな。」

「よほど清らかな心をお持ちなのでしょう。」

 

ライラがスレイ達を見て言う。

そしてザビーダは笑いながら、

 

「実は人ならぬ力をもってる……とかな。」

「悪い子には見えなかったけど。」

 

スレイは困惑して言うと、ずっと腕を組んで考え込んでいたレイが、

 

「そうか!そういうことか……あー、何でこのタイミングでこういう事を起きるかな……。審判者の力借りたかったなぁ……。ま、いいか。私だけで……事実、かなり昔の時は審判者のおふざけが入ったし……よし!」

 

と言って、レイは少女ソフィを追いかけて言った。

スレイはさらに困惑し、

 

「え?え⁉何が⁉」

「それは後!」

「追うぞ!スレイ!」

 

そう言って、スレイ以外の全員がレイを追う。

スレイも走り出す。

そしてミクリオが走りながら、

 

「さっきの子、憑魔≪ひょうま≫……じゃないよな?」

「なぜそう思うの?かわいいから?かわいいからね?」

 

エドナが走りながらミクリオに言った。

ロゼはニヤニヤしながら、

 

「女子に夢見る年頃なんだねぇ。」

「問題ないよ。君たちが夢を覚ましてくれるからね。」

 

そう言って、走るスピードを上げるミクリオ。

と、その先に穢れを纏ったドラゴンが現れる。

その大きさは小さい方だったが、相手はドラゴン。

攻撃力は強い。

それに注意して攻撃を繰り出す。

そして倒すと、ロゼが武器をしまい、

 

「まさかドラゴンと戦う事になるなてね~。」

「同じ構造物が他にもあるわ。きっとまだ居るでしょうね。」

 

エドナがスレイ達を見る。

スレイが辺りを見渡し、

 

「ホントにここはドラゴンの巣なんだな。」

 

そして再び走り出す。

ミクリオは思い出すように言う。

 

「捉えられているのように見えたが……」

 

ロゼがハッとしたように、

 

「じゃあ、罠だ。ドラゴンホイホイ的な。」

「しかし、捕獲できるなら倒せるはずだ。生かしてある理由がわからない。」

 

ミクリオが考えながら言う。

ロゼは走りながら、頭に指を当て、

 

「う~ん……」

「ドラゴンを利用する気だったとか……」

 

スレイも考え込む。

そしてライラも、

 

「単にドラゴンを飼っている……なんてことはありませんよね。」

「それだ!飼ってるんだよ。」

 

ロゼがバッと顔を上げた。

そしてスッキリした顔で、

 

「お乳を搾るために、牛を飼う牧場!ここ、牧場に似てる気がする。」

「ほほう。」

 

それを聞いたザビーダは、面白そうにロゼを見た。

ミクリオは苦笑して、

 

「ドラゴンを家畜にして、一体何を搾るって――」

 

そしてザビーダ以外がハッとした。

スレイが呟くように、

 

「『穢れ』か。」

 

ザビーダはその答えにニッと笑う。

ライラがどこか納得したように、

 

「……この遺跡の術は、ひとつに連動しているように見えますわ。」

「つまりここは穢れを絞り出す回路……?だとしたら、やっぱり裁判者と審判者か……」

 

ミクリオが眉を寄せる。

そしてスレイも眉を寄せ、

 

「その仮説、確かめないといけないな。」

 

スレイ達はレイの元に急ぐ。

と、今度はドラゴンの代わりに、一人の男性を見つけた。

男性は長い茶色の髪に、眼鏡をつけ、青い服を身に纏った騎士とは違うが、それに近い何かを感じ取れる。

その男性がスレイ達を見て、いきなり術を放ってきた。

ザビーダがそれを避け、

 

「こいつ!俺たちが見えてやがる!」

「メガネだから?」

 

ロゼも術を避けて言う。

が、ザビーダは近くに居たミクリオを見て、

 

「そうなん?」

「知るわけないだろ⁉」

 

ミクリオが叫ぶ。

そして彼の術と槍の攻撃を防ぎながら、スレイは彼に近付く。

そして大声で、

 

「オレたちの話を聞いてくれ!」

 

と、言って彼の前で剣を捨てた。

 

「「スレイ⁉」」

 

ミクリオとロゼは目を見開いた。

と、男性は意外そうな顔で攻撃を辞めた。

そしてスレイと少し話し、

 

「いやはや、見えない敵だらけ。やっかいな世界ですねえ。」

「それで……あなたは……?」

 

スレイが聞くと、男性はスレイ達を見て、

 

「これは申し遅れました。私はジェイド・カーティス。」

「オレはスレイっていいます。」

「ジェイドさんは見えているのですね?私たちや憑魔≪ひょうま≫が。」

 

ライラがそう言うと、彼は頷き、

 

「ええ。例え不可視でも、空間構成素子にはなんらかの影響を及ぼしているはず。その揺らぎを検出、視覚化するよう眼鏡に細工をしてみたのですが……」

「はは!マジでメガネが理由だったか。」

 

と、ザビーダが手を上げて笑うが、

 

「……とかだったら面白いですね。」

「じゃあなぜ見えてるんだ?それに声まで。」

「さぁ?」

 

と、男性ジェイドは笑う。

ミクリオは拳を握りしめ、

 

「こいつ……」

「ミボの苦手なタイプのようね。」

「エドナと同じだ。」

 

エドナがミクリオを見て言う。

そしてスレイが苦笑いで、そう言った。

その背に、エドナは睨みつけた。

そのやり取りを見た男性ジェイドは笑う。

 

「はっはっは、おふざけはそのくらいにして、そろそろ私が元の世界へ戻る方法を教えていただきましょうか。」

「……別の世界から来たって言うのか?」

 

スレイは驚く。

男性ジェイドは頷き、

 

「はい、何らかの力が時空に干渉して、私たちをこの世界に引きずり込んだようです。詳しく調べないとなんとも言えませんが、この遺跡が発する力場が原因なのは間違いなさそうですね。まったく迷惑な話です。」

「ですが、私たちもどうしたらいいか……裁判者や審判者ならともかく……」

 

ライラが俯く。

男性ジェイドは笑いながら、

 

「おや、あなた方も知らないと言うのですか。その裁判者や審判者という者はどこに?」

「え~と……審判者は現在は対立中で、レイ……っていうか、裁判者は……」

「行方不明ね。」

 

ロゼが頭を掻き、エドナが淡々と言う。

男性ジェイドは腕を組み、

 

「これは困りましたね……。ふむ……やはり力の発生源を叩くしかありませんか。」

「力の発生源……領域のことか?」

 

スレイが聞くと、

 

「それをそう呼んでいるのなら、そうなりますね。……しかし、強力な領域は複数あるようです。となると……あのお嬢さんの方が、元凶に当たってしまうかもしれませんね。」

「え?」

「いえ、こちらの話です。では私はこれで。」

 

そう言って、男性ジェイドは歩いて行った。

ミクリオは眉を寄せ、

 

「なんだあれ……」

「別の世界なんて……信じられないよね。」

 

ロゼは笑いながら言う。

ザビーダはロゼを見て、

 

「ロゼちゃん。それをここで言う?」

「……それもそっか。」

 

ロゼは辺りを見て言う。

そしてスレイ達は再びレイを探しに走り出す。

と、ザビーダは口の端を上げ、

 

「今のメガネ男は『ナスとは反対』だな。」

「?そのココロは?」

 

ロゼが首を傾げながら彼を見る。

ザビーダは決め顔で、

 

「『煮ても焼いても揚げても食えない』。」

「なるほど!」

 

そして行った先にいたドラゴン達を倒して先に突き進む。

奥に行くにつれて穢れも強くなる。

と、頂上まで行くと、レイと少女ソフィ、そして男性ジェイドが居た。

スレイがそこに駆け込み、

 

「レイ!」

「お兄ちゃん。……ごめん、お兄ちゃん達のこと……忘れてた。」

 

レイは苦笑いする。

スレイとミクリオは目を見開き、

 

「「えぇ⁉」」

 

そしてスレイは気持ちを何とか切り替え、

 

「……また会ったね。」

「おや。これはいいところに。」

「絶対今のはわかってて言っただろ!」

 

ミクリオは男性ジェイドの言葉に、拳を握りしめる。

そしてロゼも腕を組み、

 

「本当にいいとこ?」

「はい。この遺跡の強い力の発生源は、すべて消滅したというのに私たちが戻れる様子はありません。そして、あなたの妹さんが言うには……残った強い力の源はあなた方だけ。となれば答えはひとつです。」

 

男性ジェイドはミクリオの事は完全スルーで、笑顔で言う。

ミクリオは腕を組み、

 

「……僕らが元凶だと?」

「この子のいう事は少し難しい。でも、ジェイドとこの子が言うには、元凶を消す方法はひとつだって。」

 

ミクリオの問いに、少女ソフィが答える。

 

「僕の声が!」

「うん。聞こえるし見えるよ。ジェイドにメガネ、つくってもらったから。」

 

確かに少女ソフィは眼鏡をつけていた。

 

「お揃いです。」

 

と、男性ジェイドは眼鏡を上げる。

ミクリオは半眼で、

 

「やっぱり眼鏡だったんじゃないか……」

 

少女ソフィはスレイ達を見て、

 

「わたし、どうしても帰らなきゃいけないの。みんながいる世界へ。約束したから……!」

「だからそれは――」

「私も異世界の技術には惹かれますが、こんなはた迷惑な建築は好きになれそうにありませんのでね。」

 

と、男性ジェイドはレイの言葉を遮った。

そして少女ソフィは構える。

男性ジェイドも、警戒を強くする。

そしてスレイ達も構える。

ザビーダは男性ジェイドを見て、

 

「なるほど。戦≪や≫る準備は万端ってか。」

「飲み込みが早くて助かります。」

「ごめんね。」

 

そして彼らの戦闘が始まった。

ミクリオは彼らの攻撃を避けながら、

 

「くっ!僕らは元凶なんかじゃ……」

 

だが、同じように攻撃を避けたロゼは、

 

「スレイ、あのメガネがいっぱいあれば!」

「みんな天族が見えるようになるかも!」

 

と、スレイも攻撃を避けて、ロゼと見合った。

ミクリオは眉を寄せて、

 

「二人とも集中しろ!」

 

ミクリオが二人に怒った。

その間も戦闘は悪化していく。

レイはため息をつく。

そして笑顔で全員を影で捕まえる。

 

「と・り・あ・え・ず、戦闘を今すぐやめなさい!」

「ちょっ⁉レイ⁉」

「なんかキャラ変わってない⁉」

 

スレイとロゼが驚いてレイを見る。

レイは笑顔のまま、

 

「ただでさえ、この場所嫌いなのに……アイツらに呼び出される。その理由はまた異世界人を迷い込ませたこと……さらには審判者の力も使えない。裁判者の力ひとつでやらなきゃいけないの。一人で後処理もしなきゃいけない……アイツら……!」

 

そして最後の方は何というか怖かった。

ライラがレイを見て、

 

「わ、わかりました!今すぐやめます!ね、ミクリオさん!」

「ああ!わかったから、その、な?」

「そうだぜ、嬢ちゃん~。奴≪やっこ≫さん達も戦闘はもうやめる、そうだろ?」

 

と、ザビーダが少女ソフィと男性ジェイドを見る。

少女ソフィが無言で首を縦に振る。

レイは彼らを解放する。

男性ジェイドは笑いながら、

 

「いや~、さすがですねえ。」

「……うん、ジェイド。この人たち、強いよ。特に……あの子が……」

 

と、少女ソフィはレイから少しだけ距離を取る。

男性ジェイドは頷き、

 

「ええ、これなら勝てるかもしれません。」

「やっぱり試してたんだな。」

 

スレイは苦笑いする。

エドナは男性ジェイドを睨み、

 

「おかげで飛んだとばっちりよ。」

「おや、気付いていましたか。」

「うん。レイと違って殺気がなかったから……」

 

と、ロゼは視線を外す。

ミクリオは若干怒りながら、

 

「油断したら、どうなったかわからないけどね。そのおかげで……」

 

拳を握りしめるミクリオに、

 

「ちゃんと話さなくてごめんね。えっと……」

「ミクリオ。」

 

ミクリオは拳を収めて言った。

少女ソフィは頷いて、

 

「ミクリオ。」

「この遺跡は、ある力を抽出し、特定の対象に流し込む構造をもっていました。その対象こそ、時空を歪めている元凶。しかし――」

「その力は、この世界独自のもの。わたしたちじゃ消せないみたい。」

 

少女ソフィが俯く。

スレイは二人を見て、

 

「穢れって言うんだ。」

「それ、消せる?」

「ええ。浄化の力を持つ私たちなら可能ですわ。」

 

ライラが少女ソフィを見て言う。

そしてロゼも腰に手を当てて、

 

「あたし達が元の世界に戻したげる!」

「安心していい。ソフィ。」

 

ミクリオは優しく微笑む。

そして少女ソフィは嬉しそうに笑う。

 

「ありがとう。」

「その気になっていただけたようでなによりです。ま、実際彼女の言う通りではありましたが、何分心配性でしてね。では、しっかり頼みましたよ。」

 

男性ジェイドは笑いながら言う。

その言葉に、

 

「「「「ちゃっかりしすぎ。」」」」

 

ロゼ、ミクリオ、エドナ、ザビーダは彼を見る。

レイは拗ねたように男性ジェイドを睨んだ。

男性ジェイドはなおも笑いながら、

 

「きれいにハモりましたねえ。」

「危険だってわかってる。でも……」

 

少女ソフィは俯く。

ミクリオは彼女を見て、

 

「ソフィ、さっきも言ったろう。安心していい。」

「任せて!オレは穢れを祓う導師だから!」

 

スレイも頷いて言った。

そしてレイを見る。

 

「で、どうすればいい?」

「穢れを祓うのはお兄ちゃん達が。その道は私がひく。浄化できたら、彼らを返す道を私が出すから大丈夫。」

 

そう言って、レイは腕を前に出し、少女ソフィと男性ジェイドの後ろに魔法陣が浮かび上がる。

レイはスレイ達を見て、

 

「あれに入ればいいよ。無論、私も行くから安心して。」

「わかった。」

 

そしてスレイ達は魔法陣の上に乗る。

 

「お願いしますよ。」

「気を付けて。」

 

二人がスレイ達を見送る。

スレイ達は頷く。

光が彼らを包む。

その場所は最初にスレイ達が来た場所だった。

そしてスレイ達が発見したドラゴンの骨が穢れを纏って動き出す。

ロゼは眉を寄せて、

 

「まさかの元凶発見!」

「こいつだったのか!」

 

スレイも眉を寄せる。

ザビーダはレイを見下ろし、

 

「嬢ちゃんは気付いてたのか?」

「気付いていたら、放置すると?」

「だよなー……」

 

レイは笑顔で彼を見上げた。

ザビーダは視線を外した。

エドナがレイを見て、

 

「それより、死んでるヤツをどうやって倒す気?」

「穢れを祓えばいい。」

「……具体的に。」

 

と、レイはエドナにキョトンとして言う。

スレイが武器を構え、

 

「こいつは穢れで動いてるはずだ!」

「はい!溜め込んだ穢れを祓えば!」

 

ライラも天響術を詠唱し始める。

ザビーダも天響術を詠唱し、

 

「けど、ドラゴン三体分だぜ?」

「なら、四倍分ファイトで!」

 

ロゼがドラゴンに突っ込んで行く。

レイは歌を歌い始める。

そして時には影でドラゴンの動きを止める。

そこにスレイ達は一斉攻撃にかかる。

それを繰り返し、スレイとロゼはライラとミクリオと神依≪カムイ≫をして、ドラゴンに一撃を与えた。

そしてドラゴンは黒い炎に包まれる。

ザビーダは帽子を深くかぶり、

 

「逝けよな……今度こそ。」

「なんとか祓えましたわね。」

 

ライラがザビーダを見る。

ザビーダは小さく笑う。

 

「やっとな。」

 

そこに魔法陣に乗って男性ジェイドと少女ソフィがやって来た。

 

「お見事です。」

「みんな、大丈夫?」

 

スレイ達は頷く。

男性ジェイドは辺りを見渡し、

 

「ここが稼働をやめたわけではありませんが、穢れの流出は止まったようです。」

「……お礼にあげるね。メガネ。」

 

少女ソフィは眼鏡を外し、ミクリオに渡す。

ミクリオはそれを受け取り、

 

「あ、ありがとう。」

「あれ?まだミクリオが見える。わたし、見えるようになった!」

 

と、少女ソフィは嬉しそうにミクリオを見た。

男性ジェイドは笑顔で、

 

「ソフィの純粋な心が生んだ奇跡ですね。」

「テキトー。」

 

エドナがスパッと言った。

ミクリオは眼鏡を持たない拳を握りしめ、

 

「じゃあこの眼鏡は……」

「もちろん、ただの眼鏡です。」

「こいつ……」

 

と、レイが二人を見て、

 

「さて。じゃあ、あなた達をそれぞれ元の世界に戻すね。」

「ええ。お願いしますね。それにしても、あなた方が言った裁判者とは……随分と幼いんですね。」

「うん。わたしよりも子供。」

「人は見かけによらないらしいよ。事実、私はこのメンバーの中で、一番年齢が上だからね。」

「おやおや、それは驚きです。」

「それにこの姿も、一つの手段に過ぎないからね。元の裁判者なら、もっと苦労したはずだよ。」

「「「「「「確かに……」」」」」」

 

スレイ達は頷いた。

そしてレイの瞳が赤く光り出す。

腕を前に出し、魔法陣をつくり出す。

 

「裁判者の名の元、異界への門を開く。異界の旅人を元の世界の旅路へと誘え。」

 

そして二人の体が光り出す。

 

「どうやら本当に帰れるようですね。」

「帰れる!アスベルたちのところへ。」

 

二人はホッとしたように言う。

レイは二人を見て、

 

「とりあえず、こちらの世界の事情に巻き込んでごめん。元の世界で頑張ってね。」

 

ロゼも腰に手を当てて、二人を見る。

 

「よかったね。二人とも。」

「ありがとう。おかげで約束、守れるよ。」

「なかなか有意義な体験でした。あまり繰り返したいと思いませんがね。一応、礼を言っておきますよ。助かりました。」

「はは。」

 

スレイは笑う。

 

「ありがとう。」

 

最後に少女ソフィの声が響いた。

そして二人は光に包まれて消えた。

二人が消えた後、ミクリオが呟く。

 

「別の世界か……なんか夢みたいだな。」

「夢じゃないって。」

「夢じゃないさ。」

 

ロゼとスレイがミクリオを見て言う。

エドナは黙り込む。

ライラがエドナを見て、

 

「どうかなさいましたか、エドナさん?」

「地脈が活発化してる。」

「え⁉」

「どういうことだ?」

 

エドナの言葉に、ライラとミクリオが驚く。

エドナは二人を見て、

 

「大地が力を増してるのよ。つまり、それを器とするマオテラスも。」

「ヘルの野郎も……か。」

 

ザビーダの目付きが変わる。

ミクリオは眉を寄せて、

 

「しかし、なぜ突然?」

「……活発化ではなく、元に戻ったのかも。この地、カースランドの発する穢れは、時空を歪めるほどでした。それに、レイさんが言ってましたし。『後始末もしなきゃいけない』と。」

 

ライラが手を握りしめる。

エドナも真剣な表情で、

 

「なるほど。それが大地を歪め、地脈の流れを抑えていたとすれば。」

「俺たちと裁判者が、それを止めちまったのが原因か。」

 

ザビーダも納得する。

ライラは俯き、

 

「すみません……私が事前に気ついていれば……」

「それでもやっただろうね。スレイもロゼも。それに裁判者も、ね。」

 

ミクリオがライラを見て言う。

エドナは意外そうな顔で、

 

「言うじゃない。」

「強くなったってことさ。僕も。」

「選んでやったことだ。後悔なんてないよな。」

 

そう言って、ザビーダもライラを見る。

ライラは顔を上げ、

 

「……そうでしたわね。強くなりますわ、私も。」

 

そう言って、ライラ達はレイと話していたスレイとロゼの元に歩いて行く。

ロゼはレイを見下ろし、

 

「そういえば、レイはさっき誰に怒ってたの?」

「……四大神と聖主。四大神に呼び出されたと思ったら……また!」

 

と、レイの雰囲気が一気に重くなる。

何かを思い出し、座り込み草をむしり出した。

 

「はいはい!この話終了!」

 

ロゼが手を叩く。

そして腰に手を当てて、

 

「これ以上、厄介な敵が増える前に話題変えよう!」

「アンタから振ったクセに。」

 

エドナは半眼でロゼを見た。

ロゼは引きつった笑顔で、周りを見て、

 

「で、……結局、この遺跡はなんだったのかな?」

「おそらくドラゴン牧場が正解だ。」

 

ミクリオの言葉に、レイが彼を見上げた。

 

『……ドラゴン牧場、ね……』

 

草をむしるのを止め、立ち上がる。

そしてミクリオは続ける。

 

「ドラゴンを利用する天族の文明があったんだ。」

「目的はなんだったんだろう?人間との関係は……?」

「残念だが、よかったとは思えないね。」

 

腕を組んで悩むスレイに、ミクリオが即答で言う。

スレイも眉を寄せ、

 

「……だよな。生活の痕跡もなかったし。あるとすれば、裁判者や審判者の力があるかな~的な。」

「ホント、上手くいかないんだね。ドラゴンを捕まえる力があっても。」

 

ロゼが頭を掻く。

スレイは空を見上げ、

 

「どんな時代……どんな人たちがいたのかな……」

「そうか。導師殿もミク坊も、遺跡を通して人や天族を見てるんだな。」

 

ザビーダが視線を落とす。

ライラは彼を見て、

 

「お二人は、前からそうでしたわ。」

「今頃気付くなんてバカなの?」

 

エドナもザビーダを見て言った。

ザビーダは視線を上げ、

 

「そりゃあ失礼しました!」

「いや。オレも昔はちゃんとわかってなかった。旅に出て、たくさんの遺跡を回って実感できたんだ。遺跡は、人の営みそのものだって。」

 

スレイはザビーダを見て言った。

ミクリオも彼を見て、

 

「それは僕も同じだ。」

「無駄ではなかったのですね。この旅は。」

「それ言うの、まだ早くない?」

 

ライラの言葉にロゼが笑いながら言う。

スレイは頷き、

 

「ああ。まだ見つけてないもんな。オレの夢に繋がる遺跡を。」

「どこかにあるさ。必ず。」

 

レイは視線を落として考え込む。

そしてしばらくして、レイが魔法陣を作り出す。

レイが魔法陣に乗る前に、

 

「お兄ちゃん。さっきの話だけど……」

「ん?」

 

スレイはレイを見る。

レイはスレイを見つめ、

 

「時に人は自身の正義の為に動く。その人にとって、正義だと道だと信じて。時に、人々の希望として崇められた者が正しく、その希望を打ち壊そうとした者が悪とされた。」

「それが当然じゃない?」

 

ロゼが首を傾げる。

レイはジッとロゼを見て、

 

「その希望を崇められた者の描く正義は『全を救い、個を見捨てる』。それは仲間も、そして自身の家族も、そして家族として過ごした相手も。そして希望を壊すその者は、それを良しとせず抗った。復讐と言う名の業を背負い。」

「それは……」

「でも、それもまた自身の掲げる正義なら、貫き通すだけ。……時に、きょうだいや家族と戦い、救いたかった大切な人を、友を失っても。そして信じた正義に裏切られても、己の中の正義と言う名の答えを信じた。お兄ちゃん達が行う正義の答えはヘルダルフを倒す事。そしてヘルダルフの正義と言う名の答えは救い。導師が正しく、災禍の顕主が悪い。それが全てではない。時に、導師が悪く、災禍の顕主が正しい時もある。それを忘れないで。そして、お兄ちゃん達が出した正義と言う名の答えを信じて。その先に、何があろうとも。」

 

レイは最期は全体を見て言った。

スレイは頷き、

 

「ああ。約束する。」

「ん。」

 

そう言って、レイは魔法陣に乗る。

スレイも魔法陣に乗り、レイの頭に手を置いて、

 

「だからレイも、自分の答えを信じてくれ。」

「…………」

 

レイは瞳を揺らし、無言で俯いた。

そして光に包まれると、スレイ達は元の場所に戻る。

スレイ達は宿屋で休む。

レイは月夜を見上げ、

 

『……私の答えはあれしかない……。だから私に残された時間はもう……』

 

そしてベッドで寝ているスレイとミクリオを見る。

レイもしばらくしてベッドに入って眠った。

 

翌朝、スレイ達は騎士アリーシャの屋敷に来ていた。

と、テラスの方に騎士アリーシャとメイドさんが居た。

そしてもう一人の男性がいた。

 

「本日はアリーシャ姫直々の接待、痛み入りました。」

「いや、ロゴス殿には、今後もローランスとのパイプ役をお願いしたいと思いまして。」

「その件は、なにかと物入りでしてな。先立つものがそれなりに。」

 

その男性は腕を組んで言った。

騎士アリーシャは首を傾げ、

 

「先立つもの……?」

 

そしてまっすぐ彼を見て、

 

「承知しています。それは。」

「承知するだけですか?」

 

彼は騎士アリーシャを見る。

騎士アリーシャは眉を寄せ、

 

「い、いえ……もちろん便宜は……十分に取り計らせていただきます。」

「そういうことであれば、私も存分に働かせていただきましょう。」

 

男性は頷いた後、騎士アリーシャを見つめ、

 

「……しかし60点と言ったところですなあ。そこまで顔に出しては足元を見られますぞ。今後はご注意を。」

「は……?」

 

騎士アリーシャは眉を寄せて首を傾げる。

男性はため息をついた後、

 

「私のような者を使いこなしてこそ、人の上に立てる。精進なされよ。」

「はい。肝に銘じます。」

 

騎士アリーシャは頷く。

男性は歩いて行く。

男性が居なくなった後、騎士アリーシャは俯く。

 

「ふう……まだまだ未熟だな。」

「あまり無理をなされませんように。」

 

メイドの人が騎士アリーシャにお茶を差し出して言う。

騎士アリーシャは顔を上がる。

 

「ありがとう。けれど、無理じゃない。少々遠回りをするだけだ。」

「アリーシャ様にとってお辛いことでしょうに。」

「私の理想なんて。私には民のために汚れる強さが必要なんだ。『騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ。』穢れのないハイランドをつくるのは国の皆だ。私は、その礎として強くならなくては。」

「……変わられましたね、アリーシャ様。」

 

騎士アリーシャは首を振り、

 

「まだまだだよ。人知れず災厄と戦っている人たち比べれば……。負けてられないから。仲間として。」

「でも、少しは休まれますように。」

「わかった。大臣たちとの会議まで、少し時間があるからね。」

 

そう言って屋敷の中に入って行った。

それを遠くから聞いていたスレイはどこかホッとしたように笑う。

レイもそれを見て小さく笑う。

そしてレイの瞳は騎士アリーシャの未来の一つを見た。

 

「頑張って、アリーシャ。」

 

レイは小さくそう呟く。

スレイ達はアリーシャ邸から離れ、

 

「アリーシャ、なんか変わったね。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

ザビーダも腰に手を当てて、

 

「ああ。前より、いい女になったな。」

「見極めたからでしょう。夢を実現させるためになにが必要かを。」

 

ライラが嬉しそうに言う。

ミクリオも頷き、

 

「その上で決めたんだんだな。政治家として生きることを。」

「……ああ。」

 

スレイも嬉しそうに頷く。

と、エドナがスレイを見て、

 

「もしかして寂しい?」

「まさか。信じられるよ。もうアリーシャは大丈夫だって。」

 

そう自信満々で言うスレイ。

ザビーダはスレイの肩に手をやり、

 

「こっちもいい男になったんじゃないの。」

「だろ?」

「おっと。」

 

スレイはザビーダに笑う。

ザビーダは意外そうに手を上げた。

ミクリオも笑い出す。

そして他の皆も、

 

「言いますわね。」「言うわね。」「言うねえー。」

 

と、各々笑う。

スレイは肩を落としながら、

 

「えー、なっただろ、レイ。」

「……さあ?」

 

と、レイも笑いながら言う。

そしてスレイも笑い出す。

スレイ達はその夜、レディレイクの宿屋に泊まった。

と、スレイは辺りをきょろきょろしていた。

 

「んん……?あれ……ライラ?」

「どうかした?」

 

そこにロゼが近付いて来た。

スレイはロゼに振り返り、

 

「あ、起こしちゃったか。ごめん。」

「で?」

「ライラが居ないみたいなんだ。何かあったのかな……」

 

と、悩み出すスレイ。

ロゼも腰に手を当てて、少し考え込んだ後、

 

「ふむ……。別に気にしなくていいと思うよ。」

「けど……」

「ライラにだって見られたくない姿もあるよ、きっと。」

 

ロゼはスレイにそう言うが、彼は眉を寄せて悩み込む。

 

「……これまで苦しかった時もライラは一人で……?」

「そうだったんじゃないかな。」

「気付かなかったなんて……」

「気付かせないようにしてたんだよ。ひとりにさせたげなって。」

 

と、そこにライラがやって来た。

 

「あら、もう起きたんですの?二人とも。」

「あ、ライラ、大丈夫?」

「はい?」

 

やって来たライラに、スレイがバッと見て言った。

ライラは首をかしげる。

ロゼがライラを見て、

 

「気付いたら居ないんで心配したって。」

「まぁ。少し散歩していたんですの。心配かけてごめんなさい。」

 

ライラが俯いた。

スレイが慌てて、

 

「謝るようなことじゃないよ。」

 

そんな二人の姿を見たロゼが、

 

「……ちょっと二人とも。不器用過ぎて見てらんない。」

「え?」

 

スレイはロゼを見た。

ロゼはスレイを見つめ、

 

「スレイ、ライラは子どもじゃないんだよ?ライラにとって仲間って何なのかな?」

 

二人はハッとした。

ロゼは笑い、

 

「いっぺん初心に戻ってみたら?この街から始まったんでしょ?想い出の場所に行ってみるとかさ。」

 

二人は頷く。

と、それを遠くから見ていた残り組。

ミクリオは腕を組み、

 

「ふむ……」

「くくく。」

 

ザビーダは笑う。

エドナはやれやれと言う顔で、

 

「世話の焼ける……ね、おチビちゃん。」

「そうだね。」

 

レイもそこを見た後、エドナを見て苦笑する。

 

スレイ達は聖剣祭のあった聖堂にやって来た。

辺りに人はいなかった。

ロゼが周りを見て、

 

「お、貸し切りじゃん。」

「ホントだ。」

 

スレイも周りを見る。

と、ミクリオがロゼの耳元で、

 

「ロゼ。ちょっと……」

「ん?」

 

そしてこそこそ話し始める。

それを聞いたロゼは頷き、

 

「……うふ。いいね。」

「なんだよ、二人とも?」

 

スレイが振り返る。

ロゼがスレイとライラを見て、

 

「せっかくだから、想い出にひたる時間つくってあげようってミクリオが。」

「台無しだ……」

 

スパッと言ってしまうロゼに、ミクリオは頭を抱える。

レイは首をかしげてミクリオを見上げた。

ライラがロゼとミクリオを見て、

 

「お二人とも、ありがとうございます。ですが……」

 

ライラは祭壇を見上げ、

 

「どうか皆さんもご一緒に。」

 

そして祭壇に向かって歩いて行く。

スレイ達もそれに付いて行く。

 

「話しておくべきでした。スレイさんはあの時の事、覚えていますか?」

「ああ。今でもはっきり覚えてる。ライラ、導師に課せられる宿命がどんなものか、教えてくれたよね。」

 

スレイは思い出すように言う。

そしてミクリオもそれに加わる。

 

「そして、今ならわかる。僕たちがそれに押しつぶされないよう、ライラは導いてくれていたんだ。」

 

レイは二人の背を見て微笑む。

スレイはライラを見て、

 

「ああ。オレ、導師になって世界を旅して、ホント色んな事に気付けたと思う。改めて言うのもちょっと照れるけど……。ありがとう、ライラ。」

 

スレイは笑顔でそう言う。

ミクリオもライラを見て、

 

「僕も感謝してる。」

「私もだよ!ライラ!ありがとう!」

 

レイもライラを見上げて微笑む。

ライラは驚いたように、

 

「そんな。感謝するのは私の方ですわ。なのに皆さんには伝えられなかった事が……」

 

そしてライラが俯く。

スレイはライラを見て、

 

「ライラ、無理に話さなくても……」

「スレイ。」

 

それをロゼが首を振って止めた。

ライラが俯いたまま話し始める。

 

「……私はずっと後悔していた事があるんです。」

「先代導師に着いていなかった事、だな。」

 

ザビーダがライラを見て言った。

 

「……私も共に行くべきだったのでは……。あのお方が見出した答えに、最後まで寄り添うべきだったのではないか……裁判者があの方と旅をしていた時に言っていたように……」

「……そうしてたら、あんな結果にならなかったんじゃないか……そういうことか。」

 

ミクリオが腕を組んでいった。

エドナも遠くをみるように、

 

「まさに後悔の典型的なカタチね。」

「はい。まったくその通りですわ。」

「……けど、わかるよ。その気持ち。」

 

スレイは拳を握りしめる。

ミクリオも眉を寄せて、

 

「あの事件を体験した時、僕たちですら干渉できない歯がゆさを感じた。共に旅をしたライラはなおさらだろう。」

「先代導師、いい人っぽかったしね。」

 

ロゼが思い出すように言った。

スレイも頷き、

 

「ああ。導師の使命を、本当の真摯に受け止めてるように感じた。」

「……導師として正しい道を歩む……常にそうあろうとしていました。自分を押し殺してでも……」

 

ライラが悲しそうに呟く。

エドナがライラを見て、

 

「その結果、怒りや哀しみ、絶望感が抑えきれなくなった時、最悪の形で穢れに飲み込まれてしまった……アイツらを呼び寄せ、叶えさせてしまう程に……ライラはそう思っているワケね。」

「それで、ライラは……」

 

レイは俯き、呟く。

ザビーダがジッとライラを見つめる。

 

「……で、ライラのもうひとつの後悔につながる、と。」

「……自分が先代導師に使命を強く意識させてしまった。だからスレイはそうなって欲しくない。そんなところかしら。」

 

エドナは傘を肩でトントンしながら言う。

スレイはライラを見つめ、

 

「ライラ……」

「私は自分が後悔しているのを否定するために、スレイさんを利用してきただけなんです……」

 

ライラがスレイを見つめる。

それを聞いたロゼが頭を掻きながら、

 

「はぁ~……それがスレイに申し訳ないって?っとにもー!」

 

そして、ロゼとエドナが声を合わせて、

 

「「バカ‼」」

 

レイは驚いたように二人を見た。

そしてロゼは怒りながら、

 

「スレイも言ってやれ!」

「え。」

 

スレイは目をパチクリする。

そしてエドナはミクリオを見て、

 

「ミボも、ほら。」

「や、しかし……」

 

ミクリオは眉を寄せる。

エドナはミクリオを見て、

 

「バーカバーカ。おチビちゃんもなんか言ってやんなさい。」

「え……うーんと……バ、バーカ!」

 

レイは困惑した先に出た言葉が、それだった。

ロゼはエドナを見て、

 

「調子のりすぎ!」

「シューン。」

 

エドナは棒読みで言った。

ザビーダは帽子を下げて笑う。

 

「くくく。」

「ライラ、言いたいことわかるよね?」

 

ロゼは腰に手を当てて、ライラを見る。

ライラは頷き、

 

「はい。『仲間は支え合うもの』ですわね。」

 

ライラの言葉にレイは背を向ける。

そしてロゼは頷き、

 

「そゆこと!」

「……わかってたつもりだったのに。」

 

スレイは腕を組んだ。

ミクリオがスレイを見て、

 

「心配しすぎるのは信頼してないとも言える、か……」

「もっと任せて、もっと頼ってってかんじ?」

 

ロゼが笑ってそう言う。

そしてエドナも、

 

「楽しいのは自分で、面倒なのは仲間に丸投げ、これよ。」

「なんか違うけどまぁ、おっけ!」

 

ロゼは指をパチンと鳴らす。

ライラは微笑み、

 

「ありがとう……」

 

そう言って、ライラが光り出す。

 

「これは……力が……」

 

レイがライラを見て、

 

「ライラが本当の想いに気付いたから、その枷が外れる。」

「……やっぱりバカですわね、私。力の枷になっていたのが、自分の気持ちだと気付かないなんて。」

 

そして光が収まる。

ライラは全員を見て、

 

「みなさん聞いてくださってありがとう。胸につかえていたものが晴れた気がしますわ。」

「ああ。なんかオレもそんな気分。」

 

と、スレイも納得する。

ライラは手を合わせて、ロゼを見る。

 

「ありがとう、ロゼさん。」

「オレも礼を言うよ、ロゼ。ありがとう。」

 

スレイもロゼを見た。

ロゼは指をパチンと鳴らし、

 

「おう!」

 

ミクリオは腕を組み、

 

「……ふむ。」

「つってもま、男は意地はっちまうけど、な?」

 

と、ニヤニヤしながらミクリオを見る。

ミクリオはそっぽ向いて、

 

「べ、別に。」

「ふ~ん。男ってめんどくさいね。ね、レイ。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

レイは笑いながら、

 

「そうだね。」

「そうよ。バカなだけよ。」

 

エドナが呆れたように言う。

ザビーダはなおも笑い、

 

「そういうこった。」

「もういいよ。バカでも意地っ張りでも。」

 

ミクリオはムスッとして言った。

スレイ達は笑い、

 

「行こう!」

 

そして彼らは歩き出す。

ライラは笑顔で、

 

「……本当にこの出会いに感謝いたします。」

 

そう言って、先を歩くスレイ達の元に駆けて行く。


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