テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第四十話 戦争のあと

翌朝、スレイは起き上がる。

外で体をほぐしながら、

 

「ライラ……天族だったんだよな?あのドラゴンも。多分……」

「はい……女性の言った方だと思われますわ。おそらく、強い力を持った方だったはずです。おそらくかの者が捕らえ、閉じ込めたのでしょう。戦場の穢れが集まる場所に。」

「生贄として、か。」

 

スレイは拳を握りしめる。

ライラはジッとスレイを見つめ、

 

「スレイさん。戦場は世界の縮図といえるでしょう。あらゆる感情が渦巻いています。」

「恐怖や憎しみだね。ドラゴンを生むほどの。」

「それだけではありません。ドラゴンに立ち向かう勇気もありました。それはスレイさんが呼び起こし、レイさんが繋げたものですわ。」

「……絶望するわけにはいかないよな。そんなオレが。信じよう。セルゲイたちを……人の世界を。」

「はい。信じますわ。私たちもスレイさんを。」

 

そこに、ロゼが最後に起きて来た。

頭を掻き、あくびをしながら、

 

「ふぉふぁほ~……」

「おはよ。」

 

スレイはロゼに振り返って言った。

ザビーダはロゼを見て、

 

「……でもないだろ。三日も寝っぱなしだったのに。」

「うっそ⁉通りでお腹すきすぎと思った!レイは大丈夫かなぁ~。」

 

ロゼは驚いた。

ミクリオがロゼを見て、

 

「とりあえずは食事にしよう。レイを迎えに行くのは、その後だ。」

「ですね。スレイさんも、さっき起きたところですし。」

 

ライラがロゼを見て言う。

そこにスレイが近付き、

 

「食べ終わったら、ラストンベルに行ってみよう。あの後どうなったか見届けなきゃ。それにレイの居場所も。」

「仕事人間ねえ。あたしが言うのもアレだけど。」

「気にならない?」

「そりゃあ……なる!」

 

ロゼは笑顔でそう言った。

そして腰に手を当てて、

 

「また戦争始める気なら殺しとかなきゃだし。」

 

それを聞いたスレイは少し苦笑いし、エドナが半眼で、

 

「置いてった方がいいんじゃない?」

「はは……」

 

 

食事を取りながら、スレイは呟く。

 

「戦争、終わるよな?」

「当然!さすがに気付いたっしょ?戦争なんかやってる場合じゃないって。」

 

ロゼは速攻で食べて言う。

ミクリオが眉を寄せ、

 

「おい!いくらお腹が空いているからって行儀が悪いぞ!レイがマネしたら……」

 

そう言ってミクリオは頬を掻いた。

ロゼはニヤッと笑い、

 

「ですよねー、でも今はレイいないしー。」

「なんだかんだ言って、アンタも相当心配なのね。」

 

エドナも悪戯顔になった。

ミクリオはそっぽ向いて、

 

「う、うるさい!」

 

 

食事を終え、ラストンベルに向かう。

と、入り口の所に人影を見つけた。

ミクリオがいち早くそれを見つけ、

 

「おい、スレイ。」

「アリーシャにルーカスだ。それにレイもいる!」

 

スレイ達はそこに近付く。

すると騎士アリーシャの声が聞こえてきた。

 

「ハイランド大国の使者として停戦の交渉に参った。ローランス帝国代表と面会をお願いしたい。」

「セルゲイ、いる?」

 

レイも門を警備している兵士を見上げる。

兵士は槍で門を×にして、二人を見て、

 

「導師の妹君を通す事ができますが、ハイランドの姫は申し訳ありません。勿論、お通ししたいのは山々ですが公式には、未だハイランドと交戦中で……」

「国家レベルの判断です。一兵卒の独断では、いかんとも――」

 

そこに、スレイの声が響く。

 

「レイ!アリーシャ!ルーカス!」

「お兄ちゃん!」

 

レイはクルッと反転し、スレイに抱き付いた。

スレイがレイを抱き上げる。

騎士アリーシャも振り返り、

 

「スレイ!」

「はは!やっぱり生きてやがったな!」

 

傭兵ルーカスも笑う。

騎士アリーシャはローランス兵に一言入れてから、スレイに近付く。

スレイはアリーシャを見て、

 

「ローランスと話しに?」

「ああ。停戦の機会は今しかないと思ってな。」

「よくやるねぇ。ハイランドの姫がろくに護衛も連れずに。」

 

ロゼが腰に手を当てて、言う。

傭兵ルーカスが腰に手を当てて、

 

「最高の護衛がついてるっての。」

「この程度の危険で争いがとまるのなら安いものだ。だが、人の立場とは難しいものでな……」

 

そう言って、悩む。

スレイが門兵に近付き、

 

「導師殿……」

「白皇騎士団の人だよね?セルゲイを呼んでくれないかな。スレイの友達のアリーシャが訪ねて来たって。」

「友人同士の面会あれば、騎士が関与するものではありません。」

 

そう言って、槍をどかす。

そこに男性の声が響く。

 

「まったく。融通の利かない部下で申し訳ない。」

 

それは騎士セルゲイだった。

スレイは腰に手を当てて、

 

「仕方ないよ。団長が堅苦しいから。」

「ははは!一本とられたな。」

 

そしてスレイに近付いた。

騎士アリーシャも近付くと、騎士セルゲイは彼女を見て、

 

「アリーシャさんですね。スレイの友人、セルゲイと申します。」

 

そう言って、手を差し出す。

騎士アリーシャも、その手を握り、

 

「アリーシャです。先日はお世話になりました。」

「こちらこそ。よろしければお茶でもいかがでしょう?」

「喜んで。スレイたちが開いてくれた道だ。」

「決して無駄にはしない。」

 

そう言って、二人はスレイを見た。

スレイは頷く。

二人は街に入って行く。

と、後ろの方でどこか嬉しそうに傭兵ルーカスが、

 

「あーあ、傭兵の仕事がなくなっちまいそうだ。ヤケ酒だ。つきあいな、スレイ。」

 

そう言って、彼も歩いて行く。

スレイも苦笑いして歩いて行く。

 

「にっしても、レイはスレイから離れないね。」

「ん。ミク兄にも抱っこしてもらいたい。」

「けど、街中だもんね。」

 

ロゼがニヤッと笑ってミクリオを見た。

ミクリオはプイッとそっぽ向く。

ロゼは真顔に戻り、

 

「で、レイ。あたしたちがいない間は、アリーシャ姫の所に?」

「ん。一緒に居た。」

「へぇ~。何してたの?」

 

ロゼが首を少し傾げた。

レイは思い出しますように、

 

「えっと、一緒にご飯食べたり、お話したり、お風呂入ったり、寝たり……色々?」

「な⁉何かズルイ!」

 

ロゼは手を上げた。

ライラが苦笑いし、

 

「ロゼさんとはある意味では真逆ですものね。」

「全くだよ!つい最近まで完全スルーだったのに!」

 

と、少し拗ねていたロゼ。

レイが視線を落として、

 

「……つい最近まで、まともに人と関わると言うことが解らなかったから……。アリーシャと旅をしてた時は、まともに話した事もなかったし。」

「そっか……そうだよね……」

 

ロゼも視線を落とす。

スレイがレイに声を掛けようとした時、レイは顔を上げ、

 

「と、いうのは建前で、アリーシャの方がロゼより扱いやすいから。」

「え⁉」

 

ロゼは顔を上げて驚いた。

スレイもこればっかりは驚いた。

エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「おチビちゃんもなかなか、やるようになったじゃない。」

 

そう言って教会に足を踏み入れる。

と、すでに傭兵ルーカスは兵達と飲み出していた。

スレイ少し捕まった後、騎士アリーシャ達の居る中に入る。

 

「では。続きは後日。」

「はい。よろしくお願いします。」

 

すると、ある程度の話は終わったようだった。

二人は握手を交わしていた。

 

「ありゃ、もう終わったの?」

「初回はな。ペンドラゴの城に招待されたよ。」

 

ロゼの問いに、騎士アリーシャは振り返って言う。

スレイは少し不安そうに、

 

「……アリーシャ一人で?」

 

彼女は頷く。

そして力強く、

 

「その代り、ローランス皇帝陛下が直々に交渉してくださるそうだ。末席の王女の私と対等に。」

「共にドラゴンと戦った戦友だ。ローランスは礼儀を心得ているよ。」

 

騎士セルゲイも頷く。

スレイも頷く。

 

「そっか。」

 

それを遠目で見ていた天族組。

ミクリオが振り返り、

 

「あとは任せてよさそうだね。」

 

ライラも頷く。

ザビーダが笑いながら、

 

「『ドラゴン出て、地固まる』だな。」

 

それを聞いたライラがザビーダに振り返り、

 

「あ!上手いこと言われてしまいました。」

「どういう競争意識?」

 

エドナが呆れる。

 

 

スレイがミクリオ達に振り返り、見つめていると、

 

「スレイも一緒にペンドラゴに行かないか?君は両国の架け橋として重要な人物だ。」

「ありがとう。」

 

スレイは騎士アリーシャを見る。

そして彼女を見つめ、

 

「けど、それはアリーシャが叶える夢だよ。」

「……そうだね。」

 

彼女は胸に手を当て、少し間を置き、真っ直ぐスレイを見て、

 

「旅の無事を祈るよ。」

 

スレイは頷き、

 

「アリーシャも。セルゲイも。」

 

二人は頷く。

ロゼが笑いながら、

 

「外で酔っ払ってるオジサンも、ね。」

 

騎士アリーシャ達は少し笑った後、真剣な表情になる。

 

「できることを精一杯やろう。お互いの夢のために。」

「アリーシャ姫のことは任せてくれ。自分も全力を尽くす。」

 

そして二人に挨拶してその場を後にする。

 

 

教会を出て、街を歩いていた。

ロゼは意外そうな顔で、

 

「にっしても、あっさり断ったなー。せっかくのデートの誘いなのに。導師ってモテないよね、絶対。」

「ま、仕方ないね。」

 

ミクリオも苦笑する。

ライラも苦笑して、

 

「スレイさんですし。」

「ね。」

 

エドナは悪戯顔になる。

ザビーダは爆笑し、

 

「はは!どうやらそのようだな。」

 

前を歩くスレイとレイには聞こえていない。

と、スレイはレイを見て、

 

「そういえば、アリーシャ達に助けを頼んでくれたのレイだろ。ありがとう。」

 

レイは首を振る。

 

「あれは、お兄ちゃんが紡いだ縁、絆だよ。そして彼らはそれに応えた。だから私は手を貸せた。」

「でも、やっぱり言わせてくれ。ありがとう。」

 

スレイはニッと笑う。

レイはスレイにギュッと抱き付く。

街の入り口では、街人達が嬉しそうに話していた。

 

「なんとか平和決まりそうだってよ。いやぁ~、アリーシャ姫は大した御方だな。」

「まったくだよ。ウチの亭主にも見習わせなきゃ!」

 

夫婦が笑い合う。

子供が兵士に、犬を撫でながら、

 

「この子も喜んでいるよ!センソーがなくなって。」

「そうだな。おじさんもそう思うよ。」

 

兵士は膝を着いて行った。

そして立ち上がり、ハイランド兵を見て、

 

「一杯どうだ、戦友。」

「……ああ、喜んで。」

 

と、見合う。

スレイはそれを見守る。

その背に、ロゼが声を掛ける。

 

「明日にしよ。出発。」

「え、でも……」

 

ライラが口に手を当て、あくびをする。

 

「ふぁああ~……急に眠気が……」

 

スレイがそこを見ると、

 

「ツツツ……俺も腰痛が。」

 

ザビーダが腰に手を当てて言う。

エドナがすまし顔で、

 

「いい部屋とってね。」

「私も眠い。」

 

レイもスレイを見上げた。

ミクリオはスレイを見て、

 

「スレイ。」

 

スレイはロゼを見る。

ロゼは頷く。

そしてスレイも頷いた。

 

 

夜、各々街に出ていた。

ロゼはラストンベルのシンボルであるベルの上まで上がり、腰を掛けていた。

そこにはライラも供をしていた。

ロゼは夜空を見上げ、そしてライラを見上げた。

 

「ありがとう、ライラ。付き合ってくれて。」

「いえいえ。私も街の様子を見たいと思ってましたから。」

 

そう言って、街を見下ろす。

ロゼも街を見下ろして、

 

「これがスレイの導いたものなんだよね。」

 

その先には街の人たち、ローランス兵だけでなくハイランド兵もちらほらいる。

その人達は楽しそうに、嬉しそうに行きかっている。

 

「ええ。きっとスレイさんも彼らを見て、これまでの事に想いを馳せてますわ。エドナさんやザビーダさんも、導師との旅という経験をして、これまでの事……これからの事に想いを馳せているかもしれませんね。そしてレイさんも、きっと……」

「あはは。あたしたちみたいにね。」

 

ロゼは笑う。

ライラは夜空を見上げ、

 

「エドナさんは聡明な方です。きっと今、決戦に向け気持ちの整理をなさろうとしているでしょうね。私たちの中でもっとも色んなものを見聞きしているザビーダさんと話をしてるんじゃないでしょうか。」

「よく見てるんだな~。学校の先生みたい。」

 

ライラは笑い、ロゼの横に座る。

 

「ふふ。ロゼさんも私にお話があるんでしょう?」

 

ロゼは少し驚いた後、少し間を置いて、

 

「……ドラゴンが現れた時、スレイはすぐ答えを見つけたよね。この戦場でこれ以上殺させたり、殺されたりして欲しくないって。」

「ええ。そしてすぐにそのために、なさねばならない事も決めましたわね。志を持った方は時間の流れを超えてしまったかのように、思わされる事がありますわ。」

「すごいよね。」

「けど、ロゼさんはそれに、危うさを感じてるのですね?少しでも気を抜くとまた迷ってしまいそうで、つとめて気を張っているんじゃないかと。」

「……気付いていないのはスレイ本人だけじゃないかな。張り詰めた糸って、ほんのちょっとのきっかけで、プッツリいっちゃうでしょ。」

「不安なのですか?」

 

ロゼは首を振る。

 

「ん~ん。不安とかじゃないんだ。どんな事になっても、何が起きても、あたしが何とかしたい、ってか、する。」

「ふふ。それがロゼさんの答えなんですのね。」

「そうなのかな。あたし昔からずっとこうだよ?」

「……ロゼさんが穢れを生まない理由、わかった気がします。」

「だからみんな安心して、ばーんとやっちゃって欲しいんだ。」

 

そして夜空に手を上げる。

だが、すぐにライラを見て、

 

「けど、後の事はまかせて、なんて言うつもりはないよ!あたしも最後まできっちり付き合うからさ!」

「ふふ。ロゼさん、そのお話は皆さんに、聞いていただいた方が良いのではないですか?そうすればきっとエドナさんもザビーダさんも、勇気づけられると思いますわ。」

「あの二人に改まってあたしがついてる!的な事言うのって、なんか不思議な感じ。」

「確かに。」

 

ライラは笑う。

ロゼは足をぶらぶらさせながら、

 

「ま、あの二人でもあたしが何か言ったぐらいで、元気でるんならいっちょ話してやるか。」

「言葉をかけてくれる……それだけで十分なのです。それが仲間ですわ。ですがロゼさん、何故私にはお話してくださったんです?」

 

ライラがロゼを見る。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「ん~。何となくライラもあたしと同じ事、考えてるんじゃないかって思って。抱え込んだままにしなくていいよって、言いたかったんだ。」

 

ライラは口元に手を当て、驚いた。

ロゼも驚ろき、

 

「え、何?そんな驚く事?」

 

ライラはい瞳を揺らし、そして笑顔になり、正面を向いて手を叩く。

そしてロゼに顔を近付け、

 

「ロゼさんと私って似ているんですのね。」

 

そして夜空を見上げ、嬉しそうに手を合わせたまま、

 

「勝手に決意してしまったり、自分の役割を決めつけたりしてしまうところが。」

「あ~、そうかも。」

 

ロゼも納得し、腕を組み、

 

「だから同じ考えてんじゃないかって、気がしたのか。なるほどな~。」

 

そして二人は互いに見合って笑う。

 

「ふふふ。」「あはは。」

 

ライラは一呼吸し、

 

「ロゼさん、ありがとうございます。楽になった気がしますわ。」

「そう?なら良かった。」

 

そしてライラはロゼの手を握り、

 

「この出会いに感謝しておりますわ、ロゼさん。」

「ライラって芝居がかってるよね。ホント。」

 

ロゼは笑いながら言う。

ライラは少し拗ねたように、

 

「もう!ロゼさん!」

「はがが!さぁ、みんなに伝えに行こ!」

 

ロゼは立ち上がり、ライラに手を差し伸べる。

ライラは頷き、その手を取る。

そこにレイの歌声が聞こえてきた。

二人はその声に耳を傾けながら、歩き出す。

 

 

エドナは夜空を見上げながら、街を歩く。

と、エドナは子供の泣き声に立ち止まる。

そこには泣きじゃくる妹をあやす兄の姿。

そして、妹を連れて歩いて行く。

エドナはしばらくそれを見た後、ある場所に向かって歩き出す。

その先にはザビーダが居た。

ザビーダは振り返り、

 

「……明日は吹雪か?エドナちゃんが俺様に会いに来るなんてな。」

「答えて。あなたはどうして憑魔≪ひょうま≫を殺してたの?」

「なんでそんなことを聞くんだ?……しかも今。」

「……彼らを救うため?」

 

ザビーダは少し歩く。

エドナは彼に、

 

「スレイみたいに、救うためにはやらなきゃいけないって事、覚悟したの?」

 

ザビーダは振り返り、

 

「……そっか。エドナは認め切れてないんだな。死が救いになるって事を。今まであえて言葉にして、なんとか認めようとしてたってわけか。」

 

エドナは視線を外して、無言になる。

そして彼の後ろに付いて行く。

ザビーダはエドナの前を歩きながら、

 

「ったく。女の子は複雑だな。だからこそソソられるんだけども!」

 

そう言って歩きながら、一度エドナにヒューというポーズを取った。

そして前を見て歩き続ける。

 

「まったく……バカなの?」

「ああ。バカさ。俺は見つけたひとつの方法を、信じる事しかできねぇヤツだからな。」

 

彼の言葉に、エドナは立ち止まる。

俯いたまま、

 

「……どうして信じられるの?」

 

ザビーダはジッとエドナを見た後、エドナに近付き、

 

「俺はダチや同族の誇りを守ってやりたいだけさ。誰も望んで憑魔≪ひょうま≫になったわけじゃない。けどよ、憑魔≪ひょうま≫になるってなぁどういうことか、わかるだろ?だから終わらせてやるのさ。そいつの誇りのために。」

 

そう言って、エドナの頭を一度突いた。

エドナはそこを抑え、彼を見上げ、

 

「それで救われたと思う?」

「さあな。んなこたぁ、そいつが死んだあと、あの世で考えてくれるだろ。」

 

そう言って、エドナに背を向けて夜空を見上げる。

エドナは視線を外し、

 

「……潔いのね。きっと、それが覚悟なんだわ。」

 

ザビーダはクルッと回り、エドナの方に手をやって、

 

「惚れそう?」

 

そう言って笑顔を向け、決め顔をする。

エドナは傘を閉じ、彼の顔に傘の先を突き出した。

 

「痛てっ!」

 

そしてエドナに背を向け、顔を抑える。

だが、すぐに気持ちを切り替え、

 

「つか、エドナちゃんたちはもうひとつ、覚悟をしとかなきゃダメなんじゃないの?」

 

そう言って、振り返った。

エドナは傘を開き、

 

「ヘルダルフを討った後、スレイがマオテラスをどうするか……そしておチビちゃんが裁判者としてどうするのかね。それはもういいわ。覚悟してる。あの子達が決めた事を受け入れるだけ。」

 

そう言いながら、ザビーダの横を歩いて行く。

ザビーダはその後姿を見て、

 

「……そっか。むしろそれのがすげえけどな。」

「ダチが苦しむのを黙って受け入れる……。俺ぁ、できるかどうかわからねえわ。」

 

エドナの横を通り、そして前に中腰になる。

そこにエドナが彼の肩に手を置く。

 

「気にする事はないわ。どうせ最後までみんな一緒よ。」

 

そして歩いて行った。

ザビーダは立ち上がり、

 

「んじゃ、そん時俺様がブルってたら、優しく抱きしめてくれ。」

 

歩くエドナに叫ぶ。

エドナは立ち止まり、彼に振り返る。

彼に笑顔を向け、

 

「イヤよ。」

 

そして歩いて行った。

ザビーダは笑い、エドナと共に歩いて行く。

そこにレイの歌声が響いてきた。

 

 

スレイは高台から街を見ていた。

そこにミクリオが歩いて来た。

スレイは夜空を見上げ、

 

「……すごい星空だな。」

「ああ。」

 

スレイの見上げる星は川のように大きく流れるかのように暗い空を輝かせている。

スレイは夜空を見上げ、

 

「……誰が言ったんだっけ。星の数だけ想いがあるって。うまい事言うよな。」

「その想いそれぞれが輝いていると比喩したものだな。よっぽどのロマンチストだったんだろう。」

 

スレイは夜空を見上げたまま、

 

「……オレ、旅してわかったよ。自分からは見えていない星もあるのに、見えないから輝いてないって思われる事もある。」

「……実際、イズチから見上がるだけじゃ、見えない星もたくさんあったな。」

「誰だって気付きさえすれば、その輝きがわかると思うんだ。アリーシャだってみんなの声を聞いたから、初めて本当の意味でわかってくれたんだから。」

 

スレイはミクリオを見る。

ミクリオは笑い出し、

 

「あの時の君は傑作だった。」

 

そう言うと、スレイがミクリオを突き始める。

ミクリオはそれをガードし、

 

「あはは。」「ふふふ。」

 

二人は笑い出す。

そして思い出すように、

 

「すげえワクワクしたよ。あの時。他の人たちも天族に気付けるかもって。」

「だがあれだって君が感覚を遮断しなければ……」

 

ミクリオは笑いながら言って、途中で止めた。

そして眉を寄せ、真剣な表情になり、

 

「……そうか。決戦のあとどうするか、考えたんだな。」

「うん。オレがマオテラスを宿して全ての感覚を閉じれば、グリンウッド全域に力をゆだねられるんじゃないか。そうすれば導師になれるほどの素質がなくても、従士はオレと同じように力を操れるんじゃないかって。」

 

ミクリオは腕を組み、顎に手を当てる。

 

「確かに君の全ての感覚を従士にゆだねればあるいは……。アリーシャの事を考えると、力を振るえる従士の数も増えるかもしれない。新たな導師の出現を期待するよりかは、ずっと建設的な考えと言えるね。」

「だろ?」

「だが、その行動の意味をわかって言ってるのか?」

 

ミクリオは眉を寄せて、スレイを見る。

そこにレイの歌声が響く。

スレイはそれに少し耳を傾け、少し歩いた。

 

「マオテラスの自浄作用に任せられるくらい従士となった人が大地の穢れを鎮めるまで。オレは眠り続けなきゃいけない。」

「マオテラスと繋がり、刻≪とき≫にとり遺され、何年……いや、何百年待つか……。そもそも天族を知覚できる人が現れても、天族と共に生きる道を選ぶかどうかはわからないぞ?」

「信じるさ。」

 

ミクリオは拳を握り、

 

「……夢はどうなるんだ?世界中の遺跡を探検するんだろ?」

「オレが忘れない限り終わらない。」

 

スレイはミクリオを見た。

ミクリオはしばらく考えた後、スレイを見て、

 

「……わかった。」

「サンキュ。ミクリオ。」

 

だが、ミクリオは視線を落とし、

 

「だが、カムランに行くにはイズチに行く。……ジイジにはなんて言う?」

「……話さないで行こう。」

「スレイ!」

 

ミクリオは顔を上げる。

スレイは笑顔で、

 

「必要ないだろう。また会えるんだから。」

「……そうだな。わかった。」

「でも、その間はレイのこと頼んだぞ。」

「ああ。」

 

そう言って腕をぶつけ合い、誓いを交わす。

 

 

レイは一人高いところから夜空を、月を見上げていた。

 

「お兄ちゃんが願うそれは、かつて人間の初代導師が行ったこと……でも、きっとお兄ちゃんはあの時とは違う道を拓く。だから私はこの答えでいいんだ……お兄ちゃん達の為にも……」

 

レイは瞳を揺らし、夜空を背に歌い出す。

そしてスレイとミクリオの元に、みんなが集まったのを見る。

自分もそこに行く。

 

 

スレイとミクリオのやり取りを見ていたエドナは、

 

「まったく……ホントバカね。」

 

スレイとミクリオが振り返る。

そしてそこには歌に導かれたかのように、

 

「男がバカなかじゃなくて、女が頭良すぎるのさ。なぁ?」

 

ザビーダがミクリオの肩に手をかける。

ロゼと共にライラがやって来る。

ロゼもスレイ達近付き、

 

「なにそれ、人生観?」

「そうなの?」

 

レイも歩いて来た。

ライラはレイを見て微笑む。

スレイはみんなを見渡し、

 

「なんだ。みんな揃っちゃったな。」

「さっきの話、みんなも聞いていただろう?」

 

ミクリオも同じように見て言った。

ザビーダがミクリオの肩から手を外す。

ライラは頷く。

 

「ええ。」

「ったく……エドナじゃないけど。」

「ホント。」

 

ロゼは腕を組み、ザビーダはニット笑い、

 

「「バカ。」」

 

スレイは嬉しそうにミクリオを見る。

ミクリオも笑顔で彼を見る。

そしてザビーダ、エドナ、ライラ、ロゼ、レイを見る。

ロゼはスレイをど突いた。

スレイは笑い、

 

「出発しようか。」

「え?朝まで待たないの?」

 

ロゼは驚く。

ライラも驚ろき、

 

「アリーシャさんたちに挨拶もなしに?」

 

スレイは顔を上げ、夜空を見上げる。

 

「この星空の下で出発したいんだ。そうすれば星空を見るたびに、今日を思い出せそうな気がするから。」

「今日の君はやけにロマンチストだな。」

 

ミクリオも腕を組んで夜空を見上げる。

そして肩をぶつけた。

スレイはキョトンとして、

 

「そうかな。」

「どうするの?いくの?」

 

エドナはスレイを見る。

スレイは頷く。

 

「ああ。」

「決戦ですわね。」

 

ライラも決意して、スレイを見る。

スレイは力強く頷く。

 

「ああ。」

「んじゃ、気合い入れていきますか。」

 

ザビーダがそう言うと、風が吹く。

帽子が飛び、スレイの元に落ちる。

そして仲間を見て、

 

「行こう!」

 

スレイ達は頷いて歩き出す。

スレイは歩きながら帽子を被る。

そしてみんなは笑い、ザビーダが帽子を取って歩いてく。


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