テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第四話 気持ち

レイ達は宿屋に居た。

そしてスレイは、ベッドで横になっている。

 

スレイが眠っている頃、ライラは一度部屋を出た。

部屋の隅からそよ風が吹いて来た。

ライラは部屋の隅を見る。

暗闇の中から、黒いコートのようなワンピースの服を着た少女が現れる。

辺りが暗いため、表情は見えない。

 

「やはり、あなた…だったのですね。」

「主神よ、何を躊躇っている。お前自身が望み、待ち続けたのだろう…導師の器を。」

「ええ。ですが、導師になるという事は…」

「簡単ではない。お前が言っていた通り孤独が付きまとう。これはいつの世も続く宿命だ。だが、それを望み、受け入れたのはあの人間だ。あれも、先代導師達のように破滅の道を辿るか…それとも、己の道を貫き続けるか…。さて、あの導師はどの道を辿るか。」

「…あなたは変わってませんね。他者の心に対し、容赦がない。しかし、変化はあるように思われます。」

「変化、だと?」

「ええ。あの時、あなたはスレイさんに対し、『興味がある』とはっきりと言ってました。」

「ああ…。それは私も驚いて…」

 

と、言葉が止まった。

 

「そう。あなたは知らず知らずのうちに、感情を出しているのですよ。おそらくは、白の子との共鳴ではありませんか?」

「…かもしれないな。しかし、我らは元より感情と言う…いや、心と言う概念は存在しない。」

「皆が皆、そうではないでしょう。」

「少なくとも、私はそうだ。対になる奴とは違う。私は願いを叶える者にして、裁判者。…主神よ、これまで待ち続けたお前に敬意を持って、忠告してやろう。あれは私と違い抜け殻だ。心や穢れに、異常なまでに反応する。人や天族の心をすぐに見抜き、射貫く。…お前も気をつける事だ。」

 

と、つむじ風が起こった。

ライラは目を瞑り、収まった頃には小さな少女は居なくなっていた。

 

「…どうし…たの?」

「…レイさん…。いえ、アリーシャさんは?」

「…帰っ…た。」

「そうですか。では、中に入りましょう。」

 

と、中に入った。

 

 

スレイの眠るベッドの横で、レイは彼を見ていた。

と、スレイが目を覚ます。

そして体を勢いよく起こす。

 

「お兄…ちゃ…ん起…きた…」

「目が覚めた?」

「おはようございます。スレイさん。」

「おはよう。三人とも。」

「気分はどう?」

 

ミクリオが、素早く確認する。

スレイが辺りをきょろきょろ見渡す。

 

「うん。もう大丈夫。ここは?あれからどうなったんだ?」

「お兄…ちゃん…恨み…買った。」

「へ?」

 

ライラが少し笑って、

 

「ここはレディレイクの宿屋です。アリーシャさんが手配してくださったんです。」

「そして君はホントに三日三晩寝込んだ。」

「そっか。」

「スレイさん、ミクリオさん、レイさん、少し街を歩きませんか。」

「うん。いいよ。」

「…散…歩…」

「じゃあ、行こうか。」

 

スレイが、宿の入り口に出ると、

 

「目が覚めたのかい。」

「良かった~」

「あら、意外と若いのね。」

「導師様~!」

 

と、歓声を浴びる。

浮かれるスレイに、

 

「一躍有名人だな。」

「……そうですね。」

「…今…はた…だ純…粋に喜…んで…る…で…も今…に変…わる。…それ…が人…の心…」

「レイさん…」

 

ライラはスレイとミクリオの後ろで、無表情でその風景を見ていたレイを見る。

ライラは無意識に、レイの頭を撫でていた。

 

「…何?」

「い、いえ。何でもありません。」

 

と店の亭主が、

 

「腹減ってるだろ、導師殿。すぐ支度するよ!」

「ありがとう、おじさん。けど、ちょっと出てくるよ。」

「そうかい?じゃあ支度して待ってるとするよ。お代は気にしなくて良いからな。俺のおごりだよ。」

「ホント!ありがとう。じゃ、ちょっと行ってくる。」

 

宿屋を出ると、

 

「人はほとんどいないな。まだ早朝だからか。」

 

ミクリオが辺りを伺う。

スレイは足元を見て、

 

「どうかしたのか?」

「ん‥…なんか変な感じがするんだよ。胸が押さえつけられるような……」

「なんだって……」

 

「…お兄…ちゃん…穢…れを感…じてる…」

 

レイの呟きにライラが、

 

「まさか、もう……?」

 

スレイとミクリオは、ライラを見る。

 

「スレイさん、それは穢れですわ。私の器となった事で感じるようになったのです。私の力が早くも馴染んできている証ですわ。」

「へぇ~、そうなんだ。けど、穢れって……こんなに?」

「はい。人々が活動し始めると、もっと穢れを感じると思いますわ。」

「ん?という事は、レイも感じてるという事だよね?」

「そう…ですね。この子も感じています。おそらくは、今のスレイさん以上に。」

「この感じを⁉」

「…レイ、大丈夫なのか?今のスレイ以上なら…苦しいのか?」

「…平…気…視え…るけど…今…はあの…時…ほ…どじゃな…い。そ…れに…穢…れは天…族の…方…が危…ない。」

「…ミクリオ、気をつけて。」

「ああ、わかった。」

「でも、レイは詳しいよな。ジイジに聞いたのか?」

「…………。」

「レイ?」

 

スレイとミクリオは、黙り込むレイを見た。

しかしライラが先に進み、

 

「さ、こちらへ。」

 

と、湖を一望できる所に移動する。

スレイは湖を見て、

 

「ホント、綺麗な湖だな。」

「で…も穢…れが…多…い。」

「ああ。レイの言う通り、この湖の美しさとは裏腹に、レディレイクの街は穢れてしまっている……」

「うん。オレも穢れを感じるようになって実感した。このままじゃいけないよ。」

 

ライラは湖を見ながら、

 

「ここレディレイクだけではなく、世界は確実に蝕まれていっています。このように美しい景色であっても、天族の加護がないことを何となく感じるでしょう。」

「うん。イズチではずっとジイジの加護を感じてた。なのにここでは何も……」

「ライラ、僕たちに、ただレディレイクの状態を再確認させたかった訳じゃないだろう?」

「大事な話があるんだね。」

 

ライラはスレイとミクリオの方を向く。

 

「はい。お二人に改めてお伝えいたしますわ。導師のなすべき使命を。導師は人や天族に災厄を与える憑魔≪ひょうま≫を浄化の力をあやつり鎮める事ができます。これこそが導師の力と言えますが、それをなす事が導師の使命とは言えませんわ。導師が鎮めるべきは憑魔≪ひょうま≫を生む『穢れ』の源泉とも言える存在『災禍の顕主』。」

「「災禍の顕主……」」

「はい。私たちは古来よりそう呼び習わしていますの。どの時代でも多くの憑魔≪ひょうま≫が跋扈≪ばっこ≫する背景には異常に穢れを持ち、その穢れで憑魔≪ひょうま≫を生み出す、災禍の顕主が存在していたのですわ。災禍の顕主は、時に世界のあり方を大きく変えてしまいますわ。それほどの災厄をもたらすのです。」

「待って。たしか天遺見聞録には200年程前から導師が現れなくなったって……」

「その200年前にも未曾有≪みぞう≫の災厄が世界を襲ったとも記されてたな……まさか?」

「あれは…呪い…の塊…でもあ…る。人々の…悲しみ…憎しみ…恨み…色…々な…不の…感情が…入り…混じっ…た者…」

 

そして小さな声で、呟いた。

 

「「…だからこそ、今回の災禍の顕主は…強い呪いに縛られた者…。」」

 

それは、スレイ達には聞こえていなかった。

 

「わかったよ、ライラ。その災禍の顕主っていう穢れの大元みたいなヤツを見つけ出し、鎮めるのが導師の使命なんだね。」

「だけど、そいつはいったいどこにいるんだ?」

「今は導師の使命を理解してくれれば、それで十分ですわ。」

「え。」

 

ライラは再び湖を見つめた。

その瞳はどこか悲しそうだった。

 

「私はスレイさんに答えを導き出して欲しいのです。後悔のないスレイさんの答えを。スレイさんのままで、使命は忘れず、けれど縛られずに。」

「オレの答え……」

「そのために、スレイさん。災禍の顕主が何をこの世界にもたらしているのか。そしてこの世界で人と天族がどのように生きているのか。」

 

ライラはスレイに振り返り、彼を見て言う。

 

「その目で確かめて欲しいのです。」

「確かにオレはまだこの世界のこと、全然知らない……」

「世界を旅して、色々識って……その上で導き出した答えを持って、災禍の顕主に相対して欲しいのです。」

「……。」

 

悩み込むスレイに、ミクリオが言う。

 

「難しく考える事はないんじゃないか?要は世界を旅して回ればいいって事だろう。」

「世…界は…大…きいよ…うで…小さ…い…」

「ですわ!」

 

ライラも明るい声で言う。

 

「……うん。」

 

が、スレイの頭は抱えきれなくなり、

 

「とにかく飯!もう腹が減りすぎて倒れそう!レイもそうだよな!」

「……じゃあ…そう…し…てお…いてい…いよ。」

「じゃあ、宿に戻ろうか。スレイが倒れる前にね。」

「…うん。」「はい。」

 

と、レイとライラは同時に言う。

 

宿屋に戻りながら歩いていると、

 

「世界中を旅したいなって思っていたけどさ…それがこんなに色々な事と繋がってくのが、なんか不思議だけど、面白いよな。」

 

そのセリフを聞いたミクリオが、

 

「はぁ……スレイほど世間知らずな導師なんて、きっと史上初だろうな。」

「ジイジ…も心…配してた。」

「そっかな~。ライラ、オレ以外の導師ってどんな人だったの?」

 

ライラに振るが、

 

「え?えっと……聞いてませんでした。」

 

と、視線を外す。

 

「オレ以外の導師ってどんな人だったの?」

「……聞いてませんでした……」

 

と、さらに視線を外す。

 

「ライラ……」

「はい……」

「何か隠してる?」

「今日は良い天気になりそうですわね……」

「どうやら話したくないらしい。」

「理由は聞いてもいいのか?」

「…誓…約…」

 

レイの呟きに、スレイとミクリオは、レイを見ていた。

 

「レイさんの言う通り、私は〝誓約〟をかけ、それを守る事で他の者にはない特別な力を発揮できるようになったのです。なので、その誓約に則って禁じている事があるんです。」

 

ライラは、二人を見て言った。

 

「ライラはしゃべっちゃいけない事があるってわけ?」

「特別な力とは浄化の力の事だろう?」

「あ!蝶々ですわ。」

「…解…りやす…い…。嘘…になっ…てない…」「誤魔化すのヘタすぎ……」

 

レイとミクリオは言った。

 

「別にいいんじゃないか。それを知るためにも世界中を旅するんだと思えば。」

「各地で導師の伝承を追えばわかる事か。」

「はい♪まったくその通りです♪」

 

ライラは、めちゃくちゃ明るく言った。

 

「君の他にも浄化の力を操る天族は居るのかい?」

「早く宿に戻らないとお腹減ったスレイさんが倒れちゃうんですよね。たしか!」

 

また話を反らした。

ミクリオは既に諦め切った顔をしていた。

 

「帰りましょう!もしかしたらすでにすっかり冷めちゃってるかもしれませんわ!ね、レイさん!」

「…そう…かも…ね…」

「ははは……戻るとしようか。」

 

宿屋に着いたら亭主に話し掛け、食事を始めた。

 

食事を終えると、

 

「あぁ~、お腹いっぱい。な、レイ。」

 

と、レイは頷く。

 

「はは。良い食べっぷりだったよ。」

「おいしかった!けど……ホントにタダでいいの?」

「ああ。いいとも。」

「ありがとう、おじさん!」

 

と、スレイに荷物を持った人が寄って来る。

 

「導師殿、これ。アリーシャ殿下からのお届け物だよ。」

「え?なんだろ。」

「これは……手紙とオレの剣と荷物と……服?」

「丁度いい。着替えなよ。君、ちょっと臭うぞ。」

「…確か…に…」

「はは……そうします。」

 

着替え終わったスレイの姿を見たレイ達は、

 

「…導…師の…服…」「まぁ♪」「へぇ。」

 

と、感心する。

 

「どうかな?」

 

周りの人達からも、

 

「おお!似合うよ。導師様。」

「ホント、かっこいいわ。」

 

と、歓声がでる。

ライラは嬉しそうに、

 

「レディレイクに伝わる導師のいでたちですね。よくお似合いですわ。」

「馬子にも衣裳って言うしね。」

「…大丈…夫…カッ…コイイ…よ?」

「疑問形かぁ…。ミクリオに関しては、素直にうらやましいって言ったら?」

「絶対言わない。で、手紙にはなんて?」

「ああ。えっと……」

 

ーースレイ。突然倒れて驚いた。

宿ではよく休めただろうか?貴殿が私たちには見えぬ天族と本当に交流を持っていると理解したとき、湖の乙女の聖剣を抜いたとき、あの祭りでの暴動を見事に鎮めたとき、私の胸はこれ以上ないほど高鳴った。

そこで私に浮かんだ言葉は『ありがとう』だった。おかしいだろうか?

やはり手紙では上手く伝わらない気がしてしまう。

もう貴殿は導師として、世界を救う旅に出てしまうかもしれないが、目が覚めたのなら是非我が邸宅を訪れて欲しい。

追伸:贈った服は袖を通してもらえただろうか。

伝承の導師の衣装になぞらえたものだ。

気に入ってもらえると幸いだ。

 

「手…紙に…嘘…はな…い…」

「アリーシャさん、良い方ですわね。」

「うん。お礼を言うのはオレの方なのに。」

「じゃあ行ってちゃんと話すといい。」

「まずはそれだな。行こう。」

 

と、レイ達はアリーシャの元へ歩いていく。

アリーシャの元へ行く途中、

 

「祭りが終わって、街もちょっと落ち着いたな。」

「替わりに導師が噂になってるね。」

「…みん…な…導…師と言…う光を…手に…入れ…た。だか…ら…今は…他人…事。」

「……レイさん…」

「…何?」

「いえ、何でもありません。」

 

アリーシャ邸がある貴族街に入る。

アリーシャ邸の前に来ると、

 

「これは導師殿。」

 

と、騎士兵に声を掛けられた。

 

「アリーシャ様にご用ですか?今ならテラスにおられますよ。」

「ありがとう。行ってみるよ。」

 

アリーシャは確かにテラスに居た。

アリーシャがこちらに気が付く。

 

「スレイ!それにレイも!来てくれたのか。」

「アリーシャ。」

「導師の装束、よく似合ってるな。」

「ありがとう。」

「ミク兄…あ…あい…うの…何…て言…う…んだっ…け?」

「馬子にも衣裳だよ。」

「ミクリオ、レイを使ってオレに当たるなよ。ホントしつこいな~。」

「事実だろ。」

「…ケン…カ?」

「違うと思いますわよ。」

 

と、やり取りをしていると、

 

「……もしや、そこに天族の方がおられる?」

 

アリーシャはスレイの近くを見る。

 

「……そうだって言っても信じられる。」

「正直、あの聖剣祭の出来事があるまでは信じられなかっただろう。それに、出会った当初、君のことなんていうか……その……少し変わった人と認識していた。それにレイも…。」

「ははは……」

「まぁ、事実だね。」

 

と、スレイはミクリオをアリーシャの目の前に押していく。

レイも近くに近付く。

そして、スレイはすぐにミクリオの横に行き、

 

「ここに居るんだ。ミクリオってのが。」

 

アリーシャは視えないミクリオに近付く。

ミクリオは視線を外す。

と、アリーシャは頭を下げた。

 

「これまでの無礼を許していただきたい。天族ミクリオ様。」

 

と、ミクリオは顔を少し赤くし、

 

「べ、別に無礼とは思っていないから。」

「別に無礼だなんて思ってないって。」

「…ミク…兄…顔…赤い…照…れて…る?」

「レイ、余計なことは言わなくて良いから。」

「ははは。図星か。」

 

そしてスレイは少し下がり、

 

「そしてここに居るのがライラ。みんなが湖の乙女って呼んでいる人。」

 

ライラはお辞儀をする。

天族を説明する彼の姿に、

 

「……君は本当に導師になるべくしてなったのだな。」

 

アリーシャはスレイ達に背を向け、

 

「それに引き換え私は……我々はこれほど身近に天族の方々が居ても、どうすることもできない。」

「それは違いますわ。」

「聞こえないって。」

 

ミクリオの言葉に、ライラは思い出したかのように頭を押さえた。

 

「……お兄…ちゃん…を通…せば…いい。」

「そうですね。スレイさん。」

 

ライラはスレイを見て、

 

「アリーシャさんの手を握ってみてください。」

「え?うん。」

 

スレイはアリーシャに寄り、

 

「アリーシャ、手を。」

 

と、アリーシャの出した手を握る。

 

「これでいい?」

 

と、ライラは力を溜め、

 

「あー、あー、聞こえますかー?」

 

が、アリーシャに反応はない。

 

「……聞こえてないみたいだよ。」

「む~。ではスレイさん、目を閉じて。」

 

スレイは困ったように目を瞑る。

 

「あー、アリーシャさん、聞こえますか~?」

「ダメみたい。」

「スレイさん目を閉じて、今度は息も止めてください!」

 

スレイは困り顔で、目を瞑り、息を止める。

そしてスレイの頭に手を当てる。

 

「アリーシャさん!」

「…ダメみたいだけど?」

 

スレイは頑張って、息を止めている。

それを見たレイが、ライラの服を掴む。

 

「レイ?」

 

レイは目を瞑る。

すると、そよ風がどこからか吹いてくる。

 

「…早…く…お兄ちゃ…んの…息が…持た…ない…」

「はい。」

 

ライラはもう一度、

 

「アリーシャさん。」

 

と、アリーシャは辺りをきょろきょろする。

 

「聞こえる!女性の声が!」

「本当に?」

 

と、ミクリオも驚く。

ライラは嬉しそうにしている。

 

「んんん~~~‼」

 

と、スレイが唸る。

が、ライラは続ける。

 

「アリーシャさん。私たち天族はあなたたちの心を見ています。万物への感謝の気持ちを忘れないでください。私たちは感謝には恩恵で応えます。けして天族を蔑ろにしないでください。その心が穢れを生み、災厄を生むのです。」

 

ライラはミクリオを見る。

その意図に気付いたミクリオは、

 

「大丈夫さ、アリーシャ。君の感謝の気持ちはちゃんと届いて……」

「ぶはー!」

 

と、スレイの限界がきた。

 

「「「あっ!」」」

「スレイ!もう一度!」

 

と、スレイに詰め寄る。

 

「え~……なんかもっと良い方法ない?」

「今のスレイさんではこれしかなさそうですわ。スレイさんがもっと私の力に馴染み、器としても導師としても力をつければ、これほど知覚遮断する必要はなくなると思います。」

「それじゃ、オレが導師として力をつけたら、天族の声をみんなが聞くことができるのか?」

「いえ。アリーシャさんはスレイさんほどではないですが、元々才能があるから聞こえたのでしょう。」

「そっか……。単純じゃないみたい。」

 

と、アリーシャを見て言う。

アリーシャはとても嬉しそうに、

 

「だが、私でも言葉を交わせた。天族は間違いなく私たちと共にある事がわかった。それだけで……」

「ドキドキする?」

「ああ!」

「伝承はお伽噺じゃない……よし!」

 

と、スレイはテラスを降りていく。

 

「アリーシャ!オレ達しばらく街にいるから!用があったら報せて!それじゃ。」

「あ、ああ。ではまた。」

 

と、歩いて行った。

 

「スレイさん?」

「探検家の虫が騒いだのさ。」

 

去る前にレイは、アリーシャの前に居たままだった。

心配して、ミクリオが傍にいる。

そしてレイは、アリーシャを見上げ、

 

「…何?」

「ああ。イズチでの君の言葉…あれからずっと考えていた。だが、私は未だに解らないのだ。」

「…何か言ったのか、アリーシャに?」

「言っ…た。…答…えは…近く…にあ…る。で…も今…は…まだ…あなた自身…解らな…い。貴女…の描く…未来の…願いは…私ではなく…貴女…の大…切な…友の存…在で…気付…く。」

「…君は本当に凄い子だな。だが、友とはスレイの事だろうか?」

「………。」

「…答えない、か。しかしレイも、あのような兄を持てて嬉しいだろう。しかも導師にもなったのだ。」

「…嬉…し…い?…導…師は…貴女…が思っ…ている…程…簡単じゃ…ない。」

「え?」

「…行こ…ミク兄…」

「ああ…スレイも待っているだろうしな。だが、レイ…君は…」

 

と、歩いて行った。

スレイ達と合流すると、

 

「さ、早く行こうぜ。」

「慌てないで。遺跡は逃げないよ。」

「え!よくわかったな。オレが何考えているか。」

「抜け駆けはさせないって言ったろう?さあ、どうするんだ?」

「もう一度街を回ろう。きっとどこかに手掛かりがある。」

「わかった。」

「ふふふ。」

 

一通り街を見た。

と、レイがどこかに歩き出す。

 

「ちょ、レイ!どこに行くんだ?」

「…こっち…」

 

と、裏通りに来た。

話し込んでいる作業員男性達を指差し、

 

「あの…人…の…話…」

 

と言うので、耳を傾ける。

 

「さっきの点呼で、あいつの返事がなかったけど、まだ地下水路から戻ってないのか?」

 

と言うのを聞いた。

 

「地下水路か……怪しいね。」

「一人戻ってこない、か……大丈夫かな。」

 

そして地下水路の入り口に向かう。

 

「行くの?」

「うん。戻ってこない人が心配だ。」

「スレイさん。」

 

と、中に入る。

 

「…穢れ…の…溜ま…り場…」

 

レイは後ろで呟いた。

そしてスレイも、足元を見る。

 

「スレイさん、感じるのですね。」

「うん。街中より断然穢れてる感じがする。」

「本当にスレイさんは素晴らしい才能をお持ちですね。どんどん力が馴染んでいっている。」

「早…すぎ…る…くらい…」

「レイ?」

「…ええ。レイさんの言う通り、私の想像よりずっと早いですわ。」

「そうなんだ。」

「はい。導師たる真の能力開放も、そう遠くないかもしれません。」

「それってどういう能力?」

 

と、ミクリオが問いかけると、

 

「あいた!すみません。なんですか?」

 

こけたふりをした。

 

「ま、見れば分かるだろう。」

「だな。」

 

と、二人は早くも対応した。

置くへと進む。

すると、スライム型の憑魔≪ひょうま≫が、男性を喰らっていた。

 

「憑魔≪ひょうま≫だ。下がれ、ミクリオ!レイ!」

「何を言う!僕だって……」

「オレとライラで大丈夫。心配するなって!」

「……」

 

そんなスレイを見たミクリオは、拳を握りしめた。

レイはミクリオのその手を握る。

 

「レイ…。スレイ達の邪魔になる。少し下がろう。」

「…ミク兄…。ミク…兄…にも…できる事…はある…。」

 

スライム型の憑魔≪ひょうま≫を倒し、喰われていた男性を救い出す。

 

「ゴホゴホ……君が助けてくれたのか。オレはどうなっていたんだ?」

「説明しても分かってもらえないでしょうね。」

「えっと……おぼれていたみたいです。」

「そうか……いやぁ、情けないな……戻っておとなしく休んでおくよ。」

 

と、起き上がる。

ふら付く男性を手伝おうとするが、

 

「なに、大丈夫。一人で戻れるよ。」

 

男性は戻って行った。

 

「よかった。これで心置きなく遺跡探検できるな。」

 

が、ミクリオはそうではなかった。

 

「ミクリオ?」

「次からは僕も戦う。」

「ミクリオじゃ憑魔≪ひょうま≫を浄化できないだろう。」

「じゃあこれからずっと君の後ろで指をくわえて見てろっていうのか?」

 

二人は険悪の雰囲気になる。

 

「僕は足手まといになるためについてきたんじゃない!」

「ミクリオ……」

 

ライラはレイに、

 

「レ、レイさん!どうしましょうか?」

「こ…のま…までい…い。…二人と…も互い…を知…り過ぎ…てい…るから見…えていな…い。」

 

ミクリオは、ライラに詰め寄る。

 

「…ライラ、僕も浄化の力を得る方法はない?」

「方法は一つ……ミクリオさんが私の力に連なるもの陪神≪ばいしん≫となることですわ。そして私の器たるスレイさんに宿るのです。」

 

それを、ミクリオはすぐに決断する。

 

「じゃあ、それで。」

「陪神≪ばいしん≫…になれ…ば…自…由はな…い。」

 

そしてそれを、スレイが止める。

 

「ダメだ!ミクリオ。そんなこと簡単に決めちゃ!」

「君に言われたくないな。君だって導師になるってあっさり決めたじゃないか。」

「それとこれとは別だろ。ミクリオは憑魔≪ひょうま≫を浄化するのが夢なのか?違うだろう!」

「僕は天族だ!天族の天敵とも言える憑魔≪ひょうま≫を浄化したいって思うのは自然なことだと思うけど?」

「カエルがヘビを退治したいって思わないだろ!」

「僕はカエルじゃない!」

「何ムキになってんだ!ちゃんと聞いてくれ!ミクリオ!」

 

スレイはミクリオの肩を掴む。

 

「……ムキになってなどいない。」

 

その手を外した。

 

「ミクリオ……」

「足手まといは宿で待っているよ。」

 

と、歩いていく。

それをレイが追いかける。

ライラは心配そうに、

 

「スレイさん、追いかけなくては……」

「宿で待ってるって言ってんだ。放っとこ!」

 

そこでライラは何かを納得したように、

 

「青春ですね?男の友情!そうですね?」

「……」

「でもそれならスレイさん。意地悪ですわ。ミクリオさんの気持ち、わかっているんでしょう?」

 

と、優しく問いかけた。

スレイはムスッとした顔で考え込む。

 

 

ミクリオが外で出ると、風が吹き荒れていた。

風が強すぎ、目を瞑る。

 

「…お前も、導師も、互いにいた時間が長過ぎた。故に、互いの事を自分の事に心配しあい、自分の事のように共感してしまう。」

「だ、誰だ‼い、いや…この声はあの時の…」

「探し物は見付かったろ?さて、お前が本当に導師の器と…いや、あの人間と共にいる事を望むのであれば、いずれお前に必要なものは手に入る。だが、それを手に出来るかは、お前自身の心のみだ。」

 

と、より一層の風が吹き荒れる。

風が収まり、目を開けるが誰も居なかった。

 

「…ミク…兄…」

 

と、後ろからレイに話し掛けられた。

 

「レイ…ごめん、考えたい事があるんだ。一人にしてくれ。」

「…わかっ…た。…でも…無茶は…ダメ…」

 

と、行って、レイは戻って行った。

 

 

レイが戻ると、ライラが何かを決意した。

スレイに嬉しそうな顔をして、

 

「………決めましたわ!」

「え?何を!」

「進む事をですわ。うん、それがいいです。」

「なんかわかんないんだけど……」

「さぁ、遺跡探検に出発ですわ♪」

「…出…発…。」

「レイ⁉」

「ミク…兄が…一人に…してくれ…って…」

「そ、そうか……」

 

レイ達は奥に向かって、歩いていた。

と、仕掛け扉の前に出た。

 

「開き方はわかりそうですか?」

「ハイランド王家の紋章……鍵穴のない扉……」

「…見た…目に…騙さ…れて…はダ…メ。」

「そうだな。これは扉じゃない…そう、封印だ。」

「封印、ですか?」

「見つかった遺物や遺構が時の権力者にとって不都合なものだった場合、人目につかないように禁忌扱いして封印してたんだって。」

 

と、その扉の封印に触れ、

 

「ってことは、ここのカギは封印を施した王家のゆかりものか……」

 

と、ライラは手を合わせた。

 

「な、何?」

「スレイさんは本当に遺跡が好きなんですね。」

「うん。子どもの頃から遊びって言えば、ミクリオと時々レイも連れての遺跡探検だったから。ミクリオのやつ、オレが何か見つけたら、次の日すぐ別の何かを見つけてきて……」

 

と、嬉しそうに話す。

そこで何かに気が付く。

が、ライラが優しく、

 

「それで?」

「別に。それだけ。」

「…どっ…ちも…頑固…」

 

と、その話は終えた。

ライラは仕方なく、

 

「カギはわかりました?」

「あ、うん。もうちょっと扉調べてみる。」

「…お兄…ちゃん…そこ…」

「んん?これか?」

 

と、汚れを落とす。

 

「あとはカギか。」

「…ナイフ……」

「あ、これか。」

 

ナイフを押し当てると、扉が開く。

 

「…開く…よ。」

「よし!」

「それにしても変わったカギですね……ナイフにしか見えませんわ。」

「ナイフなんだけどね。」

 

と、さらに奥に進む。

 

と、一番奥に進みと、大きな剣の刺さった石造の元へでた。

その中央には、色んな色に光る宝石があった。

 

「…祭…壇の…間…大…地の…記…憶…」

 

レイは、中央の宝石を視て、呟き、俯いた。

が、スレイはそれには気が付かなかった。

 

「すげ~……でっかい剣だな~。」

「ここがアスガード時代に作られた聖剣の祭壇跡です。」

 

そしてライラは、聖剣の祭壇跡へと進む。

 

「ライラ、ここのこと知って……ライラ?」

 

ライラは上段まで上がって行った。

レイとスレイも、その後ろに付いて行く。

ライラは、聖剣を見上げ、

 

「先代導師とは、ここで契約をしたんです。」

「そっか…。でも何で話してくれなかったんだ?」

「…は闇に…飲まれた…」

 

レイは聖剣の祭壇跡にある宝石を視たまま言った。

 

「レイ?」「レイさん…」

 

少しの間があった後、ライラは話を変えた。

 

「…スレイさんとミクリオさんがとても楽しそうだったので。お二人の遺跡の探求心に水を差したくなかったんですの。」

 

ライラはスレイを見て、

 

「そしてもうひとつ。スレイさんのためですわ。」

「オレのため?」

「スレイさん。導師だからといって全てを一人で抱え込む必要はありません。どうですか?この遺跡にたどり着いて。これまでよりも心が躍らなかったでしょう。スレイさん。理由はわかっていますね?」

「……うん、けど……」

 

レイはスレイを見上げ、

 

「…お兄ちゃん…もミク兄…も気付い…てる。でも…それを…言葉に…できな…い。言いたく…ないと…思ってる。」

「ええ。レイさんの言う通りです。友達に宿命という重荷を背負わせたくない、ですね?」

「……なんでもお見通しなんだな、レイとライラは。」

「いつの時代でも導師とその天族の友人が必ずぶつかる問題なんです。」

「長い…時…間…共に…過ごせ…ば過…ごす…ほど…互いに。」

「ふふ。レイさんは優しいですね。」

「…優し…い?」

「はい。さて、スレイさん、ミクリオさんの気持ち、わかりますわね?」

「うん。」

「なら、もう私が言うことはありませんわ。おそらく、レイさんも。」

「…たぶん…」

「ありがとう、レイ、ライラ。」

 

と、ここでスレイは疑問をぶつける。

 

「でも、ここが聖剣の祭壇……ここが導師の契約の場だったんだな。」

 

「遥か昔の話ですが。」

「剣って導師のシンボルなのか?」

「いえ?どうしてそう思うんですの?」

「イズチの遺跡で『聖剣を掲げる英雄』―導師の壁画を見つけたし、ライラだって剣に宿って導師を待ってたしさ。」

「ふふ。必ずしも導師が剣を振るったわけではありませんわ。導師の剣は、災厄や穢れを斬り、未来を拓いて欲しいという人々の願いを表したものなのでしょう。」

「…最…初の…導師が…剣を扱…っていた…から。人々は…それを…見て…夢と…希望を…持って…時代…の導師…に繋げ…た。」

「そうなの?ミクリオから聞いたのか?」

「‥‥‥?」

「…まいいか。しかし、希望の象徴……この剣は……」

「その剣はちょっと変わったものですわね。」

「儀礼剣だと思う。遺跡で見つけたんだ。」

「だから刃がないのですね。」

「護身には十分なんだ。ミクリオとの稽古にも便利だし。」

「……必要以上に傷付けない剣なのですわね。」

「いつも…ミク兄…と…ボロボロ…」

「ふふ。」

「だから、未来を斬り拓くのは難しいかもしれないけどね。」

「スレイさん、剣はあくまでも象徴です。何をもって何を斬るのか―それを識ることが大切なのですわ。」

「わかった……答えを探してみる。」

「ええ。そして、私がこの祭壇を訪れた本当の理由は……これをスレイさんに託すためですわ。」

 

と、中央に置かれていた宝石をスレイに渡す。

 

「宝石?」

「人の世では『瞳石≪どうせき≫』と呼ばれているようです。しかし本来は『大地の記憶』というべきものですわ。」

「瞳石≪どうせき≫……大地の記憶……」

「…歴…史。…時…代の…流れ…」

 

レイは視線を反らし、小さく呟いた。

ライラから瞳石≪どうせき≫を受け取り、

 

「スレイさん、見えますか?」

「へ?何が?」

「スレイさん、それは天族を感じられる力、霊応力を持つ方にそこに刻まれた記憶を見せるもの。災禍の顕主を識るための道標となりえるもののはずです。」

「……何も見えないけど……」

「そのようですわね……不思議ですわ。」

 

と、スレイは瞳石≪どうせき≫をしまい、歩き出す。

 

「スレイさん?」

「帰ろ。ここで考えててもわかんないし。」

「ですが……」

 

と、レイを見る。

 

「今…はそ…の時…じゃない…。」

「…え?」

 

そしてレイは、スレイの後ろに付いて行った。

 

「必要があればまた来たらいいさ。」

 

そして納得したように、

 

「ミクリオさんと……ですわね。」

 

と、ライラもその後に付いて行く。

 

帰り道の途中、閉じられた扉に気が付く。

 

「ここも封印されてる?内側から?」

「…導師…を生み…出す…ため…」

「導師を生み出す?」

「レイさんの言う通り、ここは導師を生み出すために作られた祭壇なんです。」

「浄化の炎を操れないと開かない仕掛けになっているのですわ。」

「なんだって?それじゃ導師になれなかった人は、ここから出れず……?」

「…死ん…だ…」

「はい……哀しい時代の産物ですわ。」

「…‥‥」

「スレイさんはすでに私に輿入れしています。力もどんどん馴染んでいる。すでに浄化の炎をある程度操れるはずですわ。」

「なるほど……それでこの燭台に火をともせばいいんだな。」

「…進めば…穢れ…に…当たる。…悲しみ…怒り…恐怖…憎しみ…無念…負の心…」

「はい。この先はここで倒れた導師になれなかった人達の想いが穢れとなり、澱みのようになっていますの。」

「憑魔≪ひょうま≫がうごめいているってことか。」

「はい。注意が必要ですわ。」

「わかった。レイ、オレから離れるな。」

 

レイは頷く。

スレイは灯台に炎を灯す。

扉が開き、中へ進む。


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