スレイはペンドラゴに急ぎながら、
「ロゼはどうしてるかな?無茶してないといいけど……」
「無茶を期待しないのは無茶かもな……」
ミクリオがそう言うと、スレイは苦笑いし、
「い、急いで向かおう!」
帝都ペンドラゴに着くと、街の人達が集まっていた。
スレイ達はそこに近付く。
「また、やりやがったか。」
「これで五件目だな。」
スレイは近くに居た街人に聞く。
「なにがあったの?」
「知らないのか?ここんとこ毎晩、貴族の屋敷が襲われてるんだ。」
「それが妙な盗賊でな。襲う度にあんな張り紙を残していきやがる。」
そして街人が見つめる。
スレイもその見つめる先を見る。
そして目を見開き、
「『ルナールと再会が先か。貴族どもの財が尽きるのが先か。風の骨・頭領』。」
「一緒に、奪った金をばら撒いていくんだ。残念だったな。もうちょっと早くくれば拾えたんだが。」
「受けたくねぇよ。悪党の施しなんざ。」
街人は歩いて行った。
スレイもその場を離れ、腕を組んだ。
ミクリオが眉を寄せ、
「ロゼ、一人で無茶を……」
「今、気をもんでも、どうにもなりませんわ。」
「ロゼが動くとしたら夜だ。夜を待とう。」
スレイ達は宿屋に向かう。
レイは張り紙を見て、
「……信じるしかない……人の力を……」
そう言って、スレイ達を追う。
夜、スレイ達は宿屋を出る。
ライラがスレイを見て、
「貴族街を探ってみましょう。ロゼさんに会えるかもしれませんわ。」
スレイは頷き、貴族街に向かう。
そして歩いていると、レイが何かに反応する。
それに気付いたザビーダが、スレイの肩を掴む。
「待った。」
そしてザビーダが一軒の家に近付く。
スレイもそっと近付く。
そこから声が聞こえて来た。
「約束の金を払えないって、どういうことだい?」
聞き覚えのある声だった。
そして貴族だろう者の声も聞こえて来た。
「当然だ。どれだけの被害がでたと思っている。」
「警備30名が負傷。被害総額は2000万ガルド以上だぞ。」
「知らないね。警備がマヌケだからだろ。」
面白そうに聞き覚えのある声の主は言う。
貴族だろう者の声は、イラつきながら、
「賊は貴様が目的だと言ってるが?」
そう言うと、黙り込んだ。
そして他の貴族だろう者の声が、
「明朝、風の骨の処刑を執行する。そこでケリをつけろ。」
「報酬の件はそれからだ。」
「どうやって頭領を誘き出す?」
「それを考えるのが貴様の仕事だ。」
「元仲間だ。いくらでも連絡の方法はあるだろう?」
「……わかったよ。」
それを聞き、スレイ達はひとまず物陰に隠れる。
屋敷の中から聞き覚えのある声の主、ルナールが走って行く。
ザビーダとスレイがそれを追いかけようとするが、目の前に穢れに身を包んだ兵が現れる。
「憑魔≪ひょうま≫⁉」
スレイとザビーダは素早く兵を抑えにかかる。
だが、抑え終わった時にはもうすでに風の骨のルナールはいなかった。
ザビーダが舌打ちし、
「くそ!キツネ見失った。」
そこにライラ達が駆けて来る。
「捜そう。夜明け前に見つけないと!」
スレイがみんなを見る。
そして駆けて行く。
風の骨のルナールが出て言った後、貴族の家の窓が勢いよく開いた。
そこに黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が赤く光る瞳を向けていた。
そして小さな少女が呟いた。
「なるほど。審判者が願いを叶えたのはお前の声か。だが、その後はかなり不正に近いな……」
そして目を細める。
その足元の影が揺らめき出し、
「喰らいたい所ではあるが、願いならば仕方ない。だが、覚えておけ人間ども。次はない。」
そう言って、風が吹き荒れると、小さな少女は居なくなっていた。
貴族達は震え上り、その場に腰を抜かして倒れ込んだ。
レイはスレイ達の元に戻り、
「お兄ちゃん。明朝と言うことは、今夜のうちにロゼは仲間を救おうとすると思う。なら、それを利用してあのキツネが何か仕掛けてくると思わない?」
「なるほど。確かに一理ある。スレイ。」
ミクリオは腕を組んだ。
そしてスレイを見る。
「ああ。だけど、問題はそれがどこで行われるか……」
「……人が集まりやすく、かつ処刑できる所……そうか!」
「あそこか!」
スレイとミクリオは互いに見合い、駆け出す。
広場のような演技場のような場所に行く。
その舞台の上には吊るされた黒い服装をした元たちと、キツネ顔の憑魔≪ひょうま≫がいる。
そして同じく黒い服を着たロゼが短剣をその憑魔≪ひょうま≫に向けて睨んでいた。
スレイ達はその場に急いで行く。
ロゼは短剣を向け、
「やっと会えたね。ルナール。」
「ああ、あんたのお膳立ての通りにな。」
「助かったよ。さすがに牢の中じゃ手が出せなかったから。」
それを聞いた憑魔≪ひょうま≫ルナールは片手を顔に当て、震え出す。
そして笑い出した。
「かかかかっ!」
そして笑いを止め、
「めんどくさいと思ったが気が変わった。やっぱり――この手で殺してやるよぉっ!」
と、ロゼに突っ込んで行く。
その拳は炎に纏っている。
その拳でロゼを殴る。
ロゼは腕でそれを庇いながら、後ろに吹き飛ぶ。
「あうっ!」
だが、体制を整え、着地する。
縛られていた仲間が、
「頭領!」
「ダメだ!逃げろ!」
そこに憑魔≪ひょうま≫ルナールが嬉しそうに、楽しそうに襲い掛かる。
「どうしたぁ⁉ボロボロじゃねぇか!」
だが、ロゼに襲い掛かる前に憑魔≪ひょうま≫ルナールに、ペンデュラムが襲う。
「うおっ⁉」
それを瞬時に避ける。
その投げた方向を見ると、スレイ達がすでにロゼ達の前に居た。
ロゼは嬉しそうに皆を見た。
ペンデュラムを投げたザビーダは、帽子を触り、
「悪いな。この子が死ぬと悲しむ奴がいるんだ。」
「こいつは任せろ!」
「ロゼはみんなを!」
スレイとミクリオが武器を出しながら言う。
ロゼは二人を見て、
「ごめん!すぐ合流するから!」
仲間の元へ走って行く。
レイは少し考え、ロゼを追う。
憑魔≪ひょうま≫ルナールは一度ロゼを見てから、スレイを睨み、
「導師か……」
そして襲い掛かって来る。
スレイは剣を構えて応戦する。
「油断すんなよ!このキツネは!」
「はい!穢れが異常に強まりました!」
ライラがスレイを援護しながら言う。
一方、ロゼの方は仲間の元に着き、
「助けに来たよ、フィル!」
「ありがとう、頭領……」
「生きてるよね、エギーユ!」
「だ、大丈夫だ。」
ロゼが助けた仲間をレイが治癒術をかける。
レイはある程度治癒が終わり、スレイ達を見る。
ザビーダが憑魔≪ひょうま≫ルナールにペンデュラムを投げる。
それを交わしながら、憑魔≪ひょうま≫ルナールが近付いて行く。
そしてすぐ傍までくると、
「まずは一匹っ!」
「くっ!」
ザビーダは後ろに避けようとするが、間に合いそうにない。
そこに短剣が突き刺さる。
「うおっ⁉」
それはロゼの短剣だ。
ロゼが上から降りてきて、短剣を抜く。
ザビーダはロゼを見て、
「助かった。」
「さっきのお礼。」
ロゼはニッと笑う。
スレイも駆けつけ、
「いけるのか?」
「つけるよ。身内の不始末は。」
そして短剣を構える。
空はすでに火が出始めている。
憑魔≪ひょうま≫ルナールは大声で怒りに燃える。
「うるせえっ‼」
そして再び襲い掛かって来る。
ロゼが短剣を振るう。
それを避け、ロゼに襲い掛かろうとする炎をミクリオの天響術で防ぐ。
そうやって、敵の攻撃を仲間が防ぎつつ、攻める方法で戦っていく。
勢いのあった憑魔≪ひょうま≫ルナールだったが、だんだんと勢いが落ちていく。
憑魔≪ひょうま≫ルナールは助けたロゼの仲間に近付く。
「くくくっ!」
レイは彼らの前に立つ。
憑魔≪ひょうま≫ルナールは前に移動し、レイの首を締め上げる。
スレイは動きを止める。
「お、お兄ちゃん。大丈夫、私は……どうなっても死なないから……」
「それでも痛みや恐怖は感じるだろ!」
レイはスレイを見つめる。
だが、レイの首を絞める方の手が炎に包まれる。
「くくく、くはははぁ‼」
「ルナール‼」
ロゼが眉を寄せて睨みつかる。
と、レイがその腕を掴む。
「憐れだな、否定しているその気持ちは、お前が求めていたものであり、縋っていたものだというのに……」
「黙れ!」
「……だが、お前の歩んだ道がそれを肯定し、否定を続けている……か。」
「俺の炎で燃やし尽くしてやる!その目が、その目が気に入らん‼」
するとレイが掴んでいた憑魔≪ひょうま≫ルナールの腕に黒い炎が燃え上がる。
「ぐあぁ⁉」
憑魔≪ひょうま≫ルナールはレイを離す。
レイは赤く光る瞳で彼を見つめ、
「だが、それとこれとは話が別だ。人間無勢がいきがるな!」
と、黒い炎をぶつけた。
憑魔≪ひょうま≫ルナールはスレイ達の方に吹き飛ばされた。
レイはその場に膝を着く。
そしてスレイがその隙を狙って、浄化の炎を叩き付ける。
だが、その炎の中で憑魔≪ひょうま≫ルナールは笑っていた。
「くくく……あれと違って、焼けないねぇ、導師ぃ……」
スレイは身構え、
「これは――」
「枢機卿と同じ。」
ロゼの仲間たちは困惑しながら、
「と……頭領。」
「一体なにが……」
ロゼが憑魔≪ひょうま≫ルナールに近付く。
スレイがロゼを見る。
「ロゼ。」
「あたしの仕事。」
そう言って、浄化の炎に包まれる憑魔≪ひょうま≫ルナールに突っ込んで行く。
そして彼を短剣で突き刺す。
「がっ……‼」
「『……眠りよ、康寧たれ』。」
「ざけん……じゃねえ……!安らぎもクソもあるか……。格好つけようが人殺しだ。ただの。」
「わかってる。」
「家族ゴッコの建前のクセに。」
「だったら?」
苦しみながら言う彼に、ロゼは静かに言う。
すると、彼の穢れが膨れ上がり、
「きめぇんだよぉ。」
「あっ⁉」
ロゼは吹き飛ばされた。
空中で回転し、着地して彼を見る。
「死ぬほどなあっ!」
そして穢れの炎に包まれ、彼は消えた。
そこに仲間のトルが駆け込んできた。
「頭領!」
ロゼは仲間に振り返り、そして憑魔≪ひょうま≫ルナールが居た場所を見つめた。
そこに仲間たちが集っている。
ザビーダは手を着いて座り込んでいるレイに近付いた。
レイは顔を上げ、
「ザビーダ……」
「大丈夫かい、嬢ちゃん。」
そう言ってしゃがむ。
「ちょうどよかった。抱っこしてくれない。」
「なになに、俺様の魅力に惹かれちゃった?」
「違う。……今、こうしてるのがやっとだから。」
そう言って、ザビーダは真剣な表情になり、レイを見た。
レイの手は自身を支えるのさえ、震えていた。
ザビーダは目を細める。
「嬢ちゃん。」
「ん。さすがに人間の体に近い今、あの力は負荷が大きい。ドラゴンをも焼き尽くし、喰らう黒い業火……ま、昔は他のもやっていたけど……。でもあれじゃないと影は、ロゼの大切な家族を喰べてしまいかねなかったから。でも、久しぶりに使ったな……」
そう言って、空を見上げた。
ザビーダはレイを抱えて立つ。
「こりゃあ、スレイとミク坊に嫉妬されちゃうな。」
「するの?」
「さてな。」
そう言って、スレイ達の方に歩いて行く。
ロゼ達の方は話し込んでいた。
ミクリオはその姿を見て、
「大丈夫かな、ロゼ……」
「エギーユ達が一緒だ。心配ないさ。」
スレイが仲間と共に居るロゼを見ながら言う。
ミクリオも頷き、
「そうだな。しかし残念だよ。ルナールにロゼたちの気持ちが伝わらなかったのは……」
「伝わっていたのかもしれませんわ。」
ライラも仲間と共に居るロゼを見ながら言った。
スレイはロゼを見て、
「どういうこと?」
「ルナールさんは、家族や仲間を否定したかったのだと思います。裁判者も、そのような事を言ってましたわ。だからこそロゼさんたちにこだわった。」
ライラはスレイを見る。
エドナもスレイを見上げ、
「多分、認めたら否定されると思ったのね。独りで生きてきた自分が。こればっかりは裁判者に同意するわ。」
それを聞いたミクリオは眉を寄せ、
「バカな!苦しい時にこだわってなんの得が――」
「そう簡単には捨てられないのさ。重い過去であるほどな。」
そこにレイを連れて来たザビーダが言う。
ライラは黙り込む。
そしてスレイは俯き、
「風の骨は、過去をみんなで背負って生きてる。それが許せなかったのかもな……」
「だとしたら……悲しいヤツだね。」
ロゼの仲間達を帝都ペンドラゴから逃がす。
ロゼがその仲間の背を見つめる。
スレイはロゼの背に、
「ロゼ……」
「……あたしは大丈夫。」
ロゼは拳を握りしめる。
そしてレイはその背を見つめた後、ザビーダを見上げ、
「もういい。降ろして。」
「はいよ。」
そして降りると、壁を見上げ、
「いつまでそこで、見ているつもりだ。」
スレイ達も上を見る。
すると紫髪を左右に結い上げた少女が現れる。
そしてスレイ達の前に降り立つ。
「やはり主には見つかってしまったか……」
「サイモン!」
スレイは天族サイモンを睨む。
天族サイモンは笑いながら、
「導師、何やら策を投じていたようだがもう遅い。ハイランド軍とローランス軍は本隊同士で衝突を始めた。お主が託していたハイランドの姫も、ローランスの騎士も無駄だったのだ。」
「違う。二人が頑張ってくれたからロゼを助けに来れた。二人のおかげだ。」
「スレイ、戦場に急ご。これはあたしの意志。」
ロゼがスレイに振り返る。
スレイはロゼを見て頷く。
と、レイは天族サイモンを見て、
「……審判者に伝えろ。お前の答えに裁判者は同意した。だが、お前のやり方には同意しないと。」
「なぜ私が言わねばならない?」
「言わないのであれば、それはそれで構わん。だが、ここでお前が死ぬだけだ。」
そう言うと、影がヘビのようにニョッキと地面から出てくる。
天族サイモンは一歩後ろに下がって消えた。
スレイはレイを見下ろして、
「レイ?」
「さ、行こう。お兄ちゃん。手遅れになる前に。」
そう言って、レイは先に歩き出した。
スレイは戸惑いながらも、歩き出す。