テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第三十五話 寄り道5

一行は野営をしていた。

ザビーダは火を調節しながら、

 

「なあ、ロゼ。メーヴィンとは古いつきあいだったんだよな。どんな出会いだったんだ?」

「あたしらが追われてた時に助けてくれたんだよ。事情も聞かずにアジトを紹介してくれて。」

 

ロゼは伸びをしながら言う。

スレイは思い出しながら、

 

「それがティンタジェル遺跡。」

「そう。奥がああなってるとは思わなかったけど。」

「ふうん。」

 

ザビーダは調節しながら、曖昧な返事だった。

そのザビーダにロゼが、

 

「なによ。言いたいとこあるならはっきり。」

「いや、あいつはロゼの霊応力を見抜いた上で、接触してきたのかもなって。つまり、語り部の情報収集目的で。それか、裁判者に言われたとか。」

「なあんだ。そんなこと。」

「そんなこと?」

「うん。どっちでもいいし。あたしたちは、おじさんと知り合えて助かったし楽しかった。それでいいよ。」

 

ロゼは笑顔でそう言った。

ザビーダは今度はスレイに、

 

「スレイもそう思うか?お前に接触したのも狙いがあったのかもよ。」

「う~ん。」

 

スレイは腕を組み、考え込む。

そして笑顔で、

 

「オレもどっちでもいいよ。オレに探検の心得を教えてくれた人。それがメーヴィンだ。」

「問題ある?」

 

ロゼが今度はザビーダに聞く。

ザビーダは笑いながら、

 

「ちょっとあるな。勘ぐった俺が悪者っぽくなっちまった。」

「気にしなくてもいいって。元々だから。」

「ひでえ!」

 

ロゼが笑いながら言った。

そして立ち上がり、

 

「さって、ライラ達の所に行ってくるわ。」

 

そう言って、歩いて行った。

その入れ違いに、ミクリオが歩いて来た。

スレイは銃≪ジークフリート≫を取り出し、

 

「そういえば、この道具は……災禍の顕主を討つためのものだったのか。」

「そのためつーか、マオ坊と結びついたヘルの野郎には効くかも……ってことだろうね。」

 

ザビーダは木に寄りかかり、空を見て言う。

ミクリオは座り、

 

「ザビーダはそうと知って、これをスレイに?」

「ばれちまったか……」

 

そう言って、深刻そうな表情になる。

が、すぐにいつも通り笑いながら、

 

「……なーんて、言えればカッコいいんだがな。言ったろ。なんとなくだって。さすがの俺様も、裁判者みてえに予知能力はねえし。」

「そもそも、これは何なんだ?ザビーダは、どうやって手に入れたんだ?」

 

スレイが銃≪ジークフリート≫を色々な角度で見ながら言う。

ザビーダは帽子を顔にかぶせ、

 

「前に裁判者が、俺様の願いを元に創ったと言ったろ。だが、それ自体を創り出したのは俺様じゃない。俺様は、元々あったその銃≪ジークフリード≫の弾丸を願った。ま、大方、そん時にここまで奴には視えてたのかもしれんな。俺様も案外、奴にいいように使われたのかもねぇ~。」

「……わかった。これ以上はきかない。」

 

スレイはザビーダを見て言う。

ザビーダは帽子を少し上げ、

 

「だが……意志が偶然を引き寄せることもある。それをこう呼ぶんだろうさ。『宿命』ってな。」

「宿命……か。」

 

スレイは呟いた。

ザビーダは帽子を下げ、

 

「なんにせよ、そいつはもうお前のもんだ。どう使おうかもお前次第。」

「引き金を引いた結果が偶然か宿命かも。」

 

ミクリオがそう言うと、スレイは銃≪ジークフリート≫を見つめ、

 

「オレ次第……か。」

「ああ。それにメーヴィンが最後に渡した裁判者の記憶。」

「それも気になるよな……でも、今何も起こらないなら仕方ないさ。」

「それはそうだが……」

 

明るく言うスレイに、ミクリオは複雑そうな顔をする。

それを見たスレイは、

 

「なんだよ、ミクリオ。」

「いや、別に。」

 

ミクリオはそっぽ向いた。

ザビーダは笑いながら、

 

「くは。スレイ、ミク坊は嬢ちゃんが居なくなるんじゃないかって不安なんだよ。」

「そうなのか!」

「違う!」

 

逆にスレイは納得した。

だが、ミクリオは否定する。

スレイはミクリオを見て、

 

「違うのか?オレはそうだけど。」

「……否定はしない。が、肯定もしないからな!」

「何でそんなにツンツンしてんだよ。」

 

スレイは腕を組んで悩む。

ザビーダはまたしても笑いながら、

 

「くはは!そりゃ、スレイばっかりに嬢ちゃんが入り浸りだからだろぉ~。」

「ち・が・う‼」

 

ミクリオはザビーダの言葉に眉を寄せて、大声で言った。

 

 

エドナは地面に傘を突きながら、

 

「まったく、アイツ!」

「エドナさん、どうしましたか?」

 

そこにライラが心配そうにやって来る。

エドナは傘を開き、

 

「別に。裁判者に怒ってただけよ。」

「……今回はどうしてですか?」

 

エドナはライラに背を向け、

 

「決まってるじゃない。カムランでのことよ。」

「それは……仕方ないと思います。」

「ええ。カムランの事件は、ね。」

「え?」

 

エドナはライラに振り返り、

 

「アイツ……いざとなれば導師の器は、別の器を無理やりにでも造り出す……そう言ったのよ。アイツは自分がなるとは言わなかった。全ての後始末を他人に放り投げて!」

「ええ……そうですわね。でも、あの方はミューズ様に自身がなるのではなく、導くと言うことで盟約を結んだ。あの方なりの私情だったのではないかと私は思うのです。」

「私情?」

「はい。あの方は昔、スレイさんが聖剣を抜くのを見ました。そしておそらく、この災厄をもたらすのがミケル様だと知っていました。知っていて、結局は止める事もできずに……その未来は起こってしまった。メーヴィンさんが、あの方たちは子供と言いましたわ。そして私も今ならそう思います。」

 

ライラは胸に手を当て、俯く。

そしてライラは顔を上げ、エドナを見ると、

 

「あの方達は私達と違い、創られた感情で今まで生きて来た。それこそ、天族よりも遥か長く。そんな彼らは生まれたばかりの赤子と同じ、そんな彼らを今のようにしたのはきっと……心ある私たちなのですわ。だからあの方たちは、最初から全てを諦め、関わりを断ってしまう。でも、今回ばかりは違った。導師ミケルと言う人間の心に、あの方たちは心を動かした。やっと成長の一歩を歩み出せたのですわ。だからあの方は、スレイさんに……いえ、スレイさんとミクリオさんに、賭けたのかもしれません。」

 

エドナはしばらく沈黙した後、

 

「成程ね。それでもやっぱり、私はあいつのこと嫌いだわ。全てを見透かしていて、何もしないアイツに。」

「エドナさん……」

 

ライラはエドナを見つめた。

そこにロゼが歩いて来た。

 

「どうしたん?そんな暗い顔して。」

「別に。」

 

エドナは傘を閉じる。

そしてロゼを見て、

 

「で、なに?」

「ん~、これと言って理由はないかな。」

「は?バカなの。バカなのね。」

 

エドナは呆れた。

ライラは苦笑して、

 

「エドナさん……」

「でも、今日は顔を上げた方がいいかもね。」

 

ロゼは腰に手を当てる。

エドナは一層呆れ、

 

「は?」

「だって、こんなにきれいな夜空なんだもん!」

 

そう言って、顔を上げた。

二人も顔を上げる。

 

「……気付きませんでしたわ。いつの間にか、こんなきれいな夜空になってたなんて……」

「ま、今日は色々気持ちの整理が必要だからね。」

 

そう言って、ロゼは空を見上げたまま、目線だけをエドナに向けた。

エドナは夜空を見上げたまま、

 

「……ま、そういう事にしといてあげるわ。」

 

三人はしばらく夜空を見上げていた。

 

 

夜になり、レイは月を見上げていた。

 

「……誰しも変わる……確かに貴方の言う通りだ、導師ミケル。裁判者も、審判者も、後から気付いた自分の気持ちに。それは扉を……禁忌の扉を使おうとしたくらい……でも、裁判者はそれをしなった。それはきっと……ロゼの言った通り、目を背けるのを止めたからだろうね。私もちゃんと向き合おう……自分に……それはきっと彼も同じ。そうでしょ、審判者……いいえ、ゼロ。」

 

そしてレイはスレイ達のいる場所に戻る。

 

 

スレイ達は災禍の顕主ヘルダルフの情報を得る為、各地を巡っていた。

と、レイが立ち止まる。

 

「レイ……?」

 

スレイがレイを見下ろした。

レイが見つめる先には教会があった。

スレイはレイを抱き上げ、

 

「行ってみるか?気になるんだろ?」

「…………」

 

レイは無言だった。

スレイはロゼを見た。

 

「別にいいんじゃない?行ってみて損はないと思う。勘だけど。」

「勘なんですか?」

「おう。」

 

ライラはロゼを見て聞いた。

スレイ達はその教会に向かって歩いて行った。

と、歩いていると子供達がやって来た。

 

「なんか変なヤツが来た!」

「ホントだ!」

「変なヤツー!」

 

と、スレイを指差して言った。

その子供達の頭をベシッと叩いた。

 

「「「痛ったぁーー‼」」」

 

子供達は頭を抑える。

そして、後ろを振り返り、

 

「何するんだよ、チグサくん!」

「暴力反対!」

「そうだ!そうだ!」

 

と、子供達はブーブーいいながら、文句を言う。

そこには杖を突いた一人の青年が居る。

その後ろにはもう一人、同じ年頃の青年がいた。

彼の方は物凄い目で子供達を睨んでいた。

子供達を叩いた方の青年は、もう一度子供達をベシッと叩いた。

 

「うるさい!そもそも、お前達が悪いだろ。」

 

そしてその者は、スレイ達を見て、

 

「うちのガキどもが悪かったな。何分、甘やかされて育ったもんだから。」

「い、いや……うん。大丈夫。」

 

スレイは目をパチクリした。

子供達は彼の足を蹴って、

 

「フンだ!チグサくんのバーカ!」

「「バーカバーカ‼」」

 

と、走って行った。

彼の側に居たもう一人の青年は、

 

「大丈夫か、チグサ。」

「ああ、大丈夫だ。リー君。」

「それはやめろと言ってる。それにしても、まったくあのガキどもと来たら!」

「いや、いいんだ。同世代の子供が少ないし、遊び場も少ない。遊び足りないんだろ。」

「そんな事だったら、お前だって。」

「俺はいいさ。お前らが居てくれたし。」

 

と、彼は青年と話していた。

そしてハッとしたように、

 

「えっと、悪いな。」

「それよりも、足は大丈夫?」

 

ロゼが彼の足を見て言う。

子供達が蹴っていったのは、彼が足を引きずる方の足だったのだ。

彼は笑いながら、

 

「はは、平気平気。慣れてるからな。」

「それは生まれつき?」

 

ロゼは腰に手を当てて言う。

彼が答える前に、もう一人の方の青年が、

 

「すまないが、長話になるようなら、こいつを座らせてやってくれ。」

「うん、ごめん。えっと何所で話せばいい?」

「あそこで。」

 

そう言って、指さす方には簡易的なベンチがある。

そこに移動する。

 

「それにしても、導師がまだ存在していたとはな。」

 

と、スレイを見て言う。

スレイは彼を見て、

 

「やっぱりあなたは天族の人?それに彼には霊応力があるのか?」

「ああ。」

「ここの加護天族の?」

 

ロゼも聞いた。

彼は首を振り、

 

「いや、俺はチグサの世話をしてるだけだ。その一環で、この地を少しだけ護ってるに過ぎん。」

「じゃあ、加護天族じゃん。」

「……俺はリリク。今はこの教会の加護をしている。で、こいつはチグサ。」

 

と、椅子に座った彼を指差す。

スレイが彼らを見て、

 

「俺はスレイ。で、こっちはロゼ。この子はレイ。で、ミクリオ、ライラ、エドナにザビーダ。」

 

スレイが説明する。

ザビーダが天族リリクを見て、

 

「聞くが、今はつー事は、最近か?」

「ああ。ここ十年くらいだ。」

「意外と長い気もするけど、天族としてみたら短いのか。」

 

スレイはライラを見る。

ライラは顎に指を当て、

 

「人によりますわね。」

「それで、アンタは何故ここにいるの?」

 

エドナが天族リリクを見る。

彼は青年チグサを見る。

青年チグサがスレイ達を見て、

 

「それは俺が。俺らはここから遠くの小さな村リクドっていう村に住んでたんだ。だけど、十数年くらい前に村全土が火事にあっちまって、生き残った村人で疎開したんだ。だけど、天族の祟りだとか、天族の罰だって事で、不吉な村の出身という事で受け入れてもらえなくてな。この廃墟と化した教会に、隠れ住んでんだ。」

「と言うことは、災厄の時代が始まった頃辺りか……。」

「なら、そう言われても仕方ないわね。」

 

ロゼとエドナが言う。

そこに、

 

「それでその時、その足になったの?」

 

ずっと黙り込んだままだったレイが、彼に聞いた。

彼は頷き、

 

「ああ。村から逃げるときにな。この足じゃなきゃ、村に戻って友達がどうなったか確かめに行きたいが……俺じゃ、何もできないからな。リリクに行って貰おうにも、あそこは穢れが強いからな。それに、ここの人たちを見捨てることもできんしな。」

 

スレイ達に?マークが浮かぶ。

彼は自分を指差し、

 

「俺、こう見えてもその小さな村の村長の孫だったんだ。でも、あとを継ぐはずだった父さんが死んだもんだから、俺が継がなきゃらん。友達とも約束したしな。」

「なるほどねぇ~。でも、穢れが強いとなると……」

「導師の役目、だな。」

 

ロゼとスレイは互いに見合う。

レイは小さく、

 

「……友……達……約……束……」

 

と、青年チグサはスレイの抱くレイを見て、

 

「ところでお前、姉とかいる?」

「なんで?」

 

レイは彼を見つめる。

彼は頭を掻きながら、

 

「いや、何でって……君に似た女性に会ったことあるからだよ。」

「もしかして、裁判者かな?」

 

スレイはライラを見た。

ライラは頷き、

 

「かもしれませんね。」

 

と、そこに子供達を連れた女性が来る。

 

「あ、いたいた。チグサ君、ちょっといいかしら?」

「え?あ、うん。ちょっとゴメン。」

 

彼は立ち上がる。

天族リリクが付いて行こうとすると、

 

「いいよ、俺だけで。導師様たちの相手をお願い。」

「……わかった。」

 

そして歩いて行った。

天族リリクはスレイを見て、

 

「導師、先の話だが……チグサが言った女性とは裁判者で間違いない。その時、俺たちも居た。」

「俺たち?」

 

スレイは首を傾げる。

天族リリクは頷き、

 

「ああ。チグサの言った村の加護をしていたのは俺の兄貴だ。チグサが生まれた時から、俺たちはあいつを見てきた。そしてアイツは俺らを見る事ができ、共に過ごした。当時、アイツと同い年の子供はいなかったし、相手をしてくれる近い者も、大人もいなかったからな。」

「でも、その村で何が起きたの?」

 

ロゼが腰に手を当てて聞く。

天族リリクは背を向け、

 

「憑魔≪ひょうま≫に襲われたんだ。穢れの炎に包まれた。兄貴は……村に居続けてると思う。チグサと約束しちまったからな……」

「約束……」

 

レイは空を見上げた。

スレイは天族リリクを見て、

 

「よし。今からその村に行ってみよう!」

「今から?」

「善は急げだろ。」

 

スレイは皆を見て笑う。

天族リリクはスレイ達の方を振り返り、

 

「すまない、導師。」

「じゃ、行ってくる。」

 

スレイ達は歩いて行った。

しばらくしてレイが、ライラを見る。

 

「ライラ。」

「なんですか?」

 

ライラはスレイの肩から顔を出すレイを見る。

レイはライラをじっと見て、

 

「……約束とは守るもの?」

「え?ええ、そうですわね。約束は繋がりでもありますから。」

「そう……だよね……」

 

レイはスレイの方に顔を埋めた。

それから数日、村を目指して歩いていたある日。

レイが立ち止まる。

そしてスレイを見上げ、首を傾げながら、

 

「……お兄ちゃん、人が倒れてる?」

「え⁉どこ?」

 

レイは歩き出す。

そこには怪我をした子供が居た。

ミクリオとライラが治癒術をかけ、スレイが声を掛ける。

 

「大丈夫、君?」

 

そして揺すると、

 

「……ん……?」

 

そして目を開け、スレイを見た。

彼は起き上がり、

 

「誰?」

「え?あ、ああ。オレはスレイ。」

「ふーん。ま、いいや。助けてくれてあんがと。」

「う、うん。」

 

スレイが頬を掻いていると、女性の声が聞こえてくる。

 

「イノー、どこにいるのー?イノー。」

「母さん、ここだよ。」

 

すると、茂みの中からお腹を支えながら出て来た。

女性がふら付く。

ロゼが女性を支え、

 

「ちょっと、お母さん。お腹に赤ちゃんいるんでしょ、無茶はダメだよ。」

「ご、ごめんなさい。でも大丈夫。」

 

そしてスレイ達を見て、

 

「どうやら息子がお世話になったみたいで……ありがとうございました。その、何もお礼ができませんがよければ家に……」

「スレイ、この人危なそうだし。」

「そうだな。」

 

ロゼが小声でスレイに言う。

そしてスレイも頷き、彼女を支えながら家に向かう。

家に向かう途中、村人にあったがスレイ達を睨んでいた。

ロゼはそれを横目で睨む。

 

スレイが、女性を椅子に座らせ、

 

「あまり無理はしないでくだいね。」

「ええ。本当にありがとうございました。」

「あ、そうそう!この辺にリクドって村知らない?火事にあったって言う。」

 

ロゼが女性に聞く。

女性はロゼを見上げ、

 

「リクド村……」

「それ、俺らの居た村だ。」

「え?」

 

女性は俯いてしまったが、代わりに子供の方が言った。

彼はスレイを見て、

 

「俺と母さんは村が火事になった時、森で倒れてたんだ。で、親父が助けてくれた。」

「……主人はこの村の村長の弟だったんです。だから不幸を呼んだ村の人間だと言われましたが、主人が庇ってくれて……この子もその主人の子なので……主人無き、この村に置いてもらっているのです。」

 

女性は俯きながらそう言った。

ロゼは腰に手を当てて、

 

「成程ね。それであの態度か。」

「……それで村には何の用で……」

「ああ、えっと……仕事みたいなもの?」

 

スレイを見る。

ロゼはスレイを指さし、

 

「えっとね、この人こう見えても導師なんだ。」

「導師様……」

 

そしてスレイは頷き、

 

「うん。オレ、スレイって言います。ここから少し遠いけど、リクド村のみんなは教会の方にいるよ。」

「もし、ここが居ずらいならそっちの方に言った方がいいかもよ。」

 

ロゼも言うが、

 

「ありがとうございます。ですが、私は……」

「子供のことを想うのであれば、この村から早く出た方がいい。でないと、手遅れになる。」

 

レイは女性を見て言った。

女性はお腹を摩り、

 

「そうかもしれないわね……でも、今は無理よ。行けたとしてもこの子が生まれてから……いいえ、生まれても子供を連れて旅に出るのは難しい事だわ。」

 

スレイ達は無言になったが、

 

「そっか。そうだよね。」

 

ロゼが頭を掻く。

そしてスレイは、

 

「それじゃあ、オレらは行くよ。早くその村に行かなきゃいけないし。体に気をつけて。」

「君も、お母さんと生まれてくる子を守るんだよ。」

「ああ!」

 

ロゼが子供の頭を撫でて言う。

そして村を出て行く。

しばらく歩き、辺りが暗くなる。

ザビーダが辺りを見て、

 

「そろそろ野営の準備をした方がよさそうだな。」

 

と、レイは立ち止まり、村のある方を振り返る。

それを見たロゼが、

 

「……レイ。」

「なに?」

 

ロゼがレイと目線を合わせ、

 

「レイはどうしたい?」

「え?」

「前に言ったしょ。聞かせて、レイの気持ち。」

 

レイは俯き、顔を上げる。

 

「……ロゼ、あの親子を助けて。あの親子の運命は本来ああではなった。でも、お腹の子が居る時点で彼らの運命はそれに肯定された。だから裁判者は手が出せない。でも私は、彼らにこれから起こる事を……止めたい!」

「よし!スレイ!」

 

ロゼはスレイを見上がる。

スレイは頷き、

 

「ああ!オレたちがあの親子と一緒に教会に行けばいい。」

「その後、もう一回こっちに来ればいい。」

 

ロゼは立ち上がる。

だが、レイは瞳を揺らし、

 

「……!そんな⁉どうして……」

 

レイは村の方に走って行く。

スレイ達も慌てて走り出した。

 

村につくと、なんだか雰囲気が違った。

穢れがどこからか流れ込んでいた。

そして奥に行くと、

 

「母さん!母さん‼」

 

あの子供イノが母親を揺らしながら泣いていた。

女性の腕には生まれたばかりと思われる赤ん坊が抱かれていた。

二人は遠目でも分かるくらい傷つき、そして息をしていないと解る。

そこを村人達が囲っていた。

そして太った村長らしき男性が命令し、村人二人が子供の腕を掴み上げた。

母親は蹴り飛ばされ、囲いの外に転がった。

スレイとロゼが眉を寄せ、

 

「何をやってるんだ!」

「あいては子供だよ!」

 

だが、村人はスレイ達を見る。

そして女性を指差し、

 

「俺は聞いたぞ!お前達、リクド村を調べるって!」

「私も聞いたわ。この村に不幸を呼び起こしに来たのね!」

「大体、この女と子供が来てからこの村は呪われた!」

「そうよ、農作は育たない!疫病は流行る!」

「村長の弟さんが死んだのだって、こいつらが来たせいで病気にかかったんだ!」

 

村人達は次々と怒りを口にする。

スレイとロゼも怒る。

 

「それは彼らとは関係ない!」

「そうだよ!何でもかんでも、二人のせいにしたいだけでしょ!」

 

そこに奥に居た太った村長らしき男性が、

 

「いいや、こいつらのせいだ!だからこの村の加護がなくなったのだ!だから災厄の種を処刑し、加護を取り戻す!」

「バカな!そんな事に意味はない!」

 

ミクリオが眉を寄せ怒る。

スレイが村長を見て、

 

「そんなことしても、天族は喜ばない!それに、ここにはそもそも天族はいない!」

「うるさい!」

 

村長は怒り狂っていた。

レイは転がっていた女性の元に座り、赤子を抱き上げた。

母親は燃えだした。

そして赤子を抱きしめる。

ライラがスレイを見て、

 

「スレイさん。彼らは……」

「ああ、穢れに飲まれようとしてる!」

 

スレイは辺りを見る。

穢れはどんどんと濃くなっていく。

レイは赤子を抱き、ライラの服の裾を引っ張る。

そしてライラを見上げる。

 

「ライラ、この子が穢れないように護って。」

「え?でもその子はもう……」

「お願い。」

「……わかりましたわ。」

 

そう言って、ライラが赤子を受け取る。

すると、息をしていなかった赤子が再び息をし始めた。

ライラはレイを見た。

レイは今度は子供の方を見つめていた。

エドナが傘を肩でトントンしながら、

 

「仕方ないわね、手伝ってあげるわ。スレイ、どうするの?」

「何とかして、村人からあの子供を助けないと。」

 

ロゼがスレイを見る。

だが、ザビーダが何かに気付き、レイを見た。

そしてスレイを見て、

 

「早めに何とかしないとマズそうだぞ、スレイ。嬢ちゃんの様子がおかしい!」

 

そう言って、レイを見ると、

 

「ダメ……ダメ!」

 

そう呟きながら、耳元を抑えていた。

そして腕を掴まれていた子供が、

 

「……も……で……まえ……」

 

そしてレイは大声を上げた。

 

「ダメ!その願いを口にしないで!」

 

だが、子供は空を見上げ叫んだ。

 

「こんな村も、村人も、死んで消えちまえ‼」

 

その瞬間、レイが瞳を見開く。

瞳が赤く光り出し、風がレイを包む。

そして弾け飛ぶと、黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が現れる。

その瞳は赤く光っていた。

スレイ達が止めるまもなく、小さな少女は村人の輪の中に入って行く。

 

そして子供の方は、村長が彼を殴ろとしていた。

 

「このガキ!」

 

だが、子供の前に小さな少女が歩み出て来た。

その小さな少女は子供を見て、

 

「その願い、私が叶えてやろう。」

「え?」

 

子供が小さな少女を見た。

その瞬間、村人全員が影のような鋭い何かに串刺しにされた。

血しぶきが、小さな少女と少年にかかる。

子供は目を見開く。

自分の手にも顔にも血がついている。

そして子供は見た。

化け物のような影が、今度は膨れ上がり村全土を飲込んだ。

それが地面に消えると、そこには村も、人も居た形跡がない。

ただの更地となっていた。

小さな少女は地面に尻餅をついた子供を見て、

 

「お前の願いは叶えた。」

「……ちがう!俺は……俺は!」

 

子供は頭を抱える。

そこにスレイ達が来て、

 

「裁判者!なんでこんな事を!」

「私は願いを叶えたまでだ。」

 

スレイが拳を握りしめ、怒って言った。

それを小さな少女、いや、裁判者が平然と答えた。

スレイは眉を深く寄せ、

 

「だからって、ここまでする必要はなかった!」

「それがこの子供の願いだ。」

 

そう言って、スレイを見た。

小さな少女の顔にも、服にも血がついている。

と、子供は震えながら母親を見た。

だが、その母親は炎に包まれ、今にも跡形もなく燃え切りそうになっていた。

 

「母さん!」

 

そして母親は跡形もなく燃え切った。

スレイ達も始めてそれに気付き、

 

「アンタ!」

「あれも、あの人間の母親が望んだことだ。」

 

裁判者は腰に手を当てて言う。

そして子供を見た後、

 

「私の役目は終わった。」

 

そう言って、風が裁判者を包む。

そして弾け飛ぶと、白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が現れる。

レイは子供を見て、

 

「……ごめんなさい。」

「……ない……も……」

 

そして子供を穢れが包む。

子供は熊のような虎のような憑魔≪ひょうま≫と変わる。

そしてレイをその爪で投げ飛ばた。

 

「マズイ!ミクリオ!」

 

スレイがミクリオと神依≪カムイ≫をする。

そして矢を彼に向けるが、

 

「俺も……俺も……」

 

子供だった憑魔≪ひょうま≫はレイの上に被さり、涙を流した。

スレイが眉を寄せて、困惑した。

ロゼがそれに気付き、

 

「スレイ!」

「あ、ああ!」

 

スレイは再び狙いを定める。

と、子供だった憑魔≪ひょうま≫は大きな声で、

 

「許さない!許さない‼俺も同じように殺してくれ!」

 

レイは涙を流し、

 

「ごめんなさい……それはできない。それは貴女の母親の願いに反する……」

「頼む!俺も、俺も殺してくれ‼」

 

すると、レイに爪を振り上げる。

ロゼがスレイを見て、

 

「スレイ‼」

「くそっ!」

 

スレイが矢を離そうとした時、

 

「ぐっ!ぐはっ!」

 

子供だった憑魔≪ひょうま≫に槍が突き刺さり、雷が内部を走った。

レイに血しぶきがかかる。

今度はレイの方がそれを目の辺りにする。

そして、彼は影に、闇に飲まれていった。

レイは瞳を揺らす。

スレイは神依≪カムイ≫を解く。

そしてスレイ達も状況が飲めずに、困惑した。

レイが地面を握りしめ、

 

「……あの子の願いの方が強かったんだね……」

「そうだよ。」

 

そう言って、一人の少年が歩いて来た。

彼は長い紫の髪を下に束ねていて、黒いコートのような服を着ている。

 

「ゼ……ロ……」

 

スレイが彼を見て呟いた。

その少年、ゼロと言われた彼はスレイに振り返る。

 

「や、スレイ。君は怒っているかもしれないけど……君が殺らなかったから、俺がやった。」

「……ゼロ。君は……本当に、審判者なのか。」

 

スレイは拳を握りしめる。

少年ゼロはニット笑い出し、

 

「フフ、アハハ‼やっぱりそうか!メーヴィン……刻遺の語り部を探してたみたいだから、もしかしたらって思ったけど……石碑の力を使ったか。なら、カムランの真実も知ったんだろ?災禍の顕主ヘルダルフを恨んでる?それともこの災厄をもたらした先代導師ミケルを恨んでる?」

 

手を広げて、赤く光る瞳を笑顔で、スレイに向ける。

ミクリオは眉を寄せ、少年ゼロ、いや、審判者を見て、

 

「何で……何で、そんな風に笑っていられるんだ!楽しそうなんだ!君にとっても、先代導師ミケルは――」

「君たちの言うところの大切な存在……かい?かもしれないね。俺も、あの子も、ミケルやミューズ……そして君を大切に思っていたからね。ミクリオ。」

 

そう言って、ミクリオを見た。

目を細め、

 

「君はミューズに似てる。そしてミケルにも。君を見た時、もしかしたらって思ったさ。だけど……今はもう、君を見たらミケルを思い出して笑いが込み上がる!」

「な⁉」

 

ミクリオはさらに眉を寄せた。

彼は腕を広げ、

 

「だってそうだろ?俺らを変えたのは他でもない彼だ。俺は賛同した。だから彼がカムランで引き起こした事は否定できない。が、肯定もしない。俺をこうしたのは、他でもないアイツなんだ!」

 

そう言って、彼を風が包む。

そして弾け飛ぶと、黒と白コートのような服へと変わり、仮面を取り出して目元に着けた。

 

「私≪レイ≫も、貴方≪ゼロ≫も、先代導師ミケルによって作り出された……そしてそれを人として存在させたのも、先代導師ミケル……。だけど、私≪レイ≫も、ゼロも、他でもない裁判者と審判者が器として、人として存在を続けさせた。」

 

レイは立ち上がり、彼を見ながら言った。

その瞳は赤く光っている。

審判者はレイに近付きながら、

 

「そう……だね。俺も、ゼロという人間を演じるのは嫌いじゃない。でも、それでもやっぱりゼロは審判者に向かない。違うな、審判者として動きたくないんだよ。そうミケルによって思い知らされた。だから俺は苦しかった。辛かったさ。でも、これでやっと続きができる。」

 

そしてレイの前に立つと、影から剣を取り出し、

 

「やっと、君を殺せるよ……レイ!」

 

そして剣を振り下ろし、レイを斬り付けた。

スレイ達は息をのんだ。

レイは一歩下がり、

 

「……はぁ、はぁ……」

 

赤く光る瞳を彼に向ける。

が、その瞳を自分の後ろに向ける。

後ろは崖となっていた。

レイの足元には血が流れ出る。

その血が、崖の方に流れている。

 

『……さっきので地形が変化したんだ……あの下は確か……』

 

審判者は剣についた血を見て、

 

「痛い?苦しい?感情を知った君だ。そして『レイ』と言う器は出来ている……君を完全に消滅させ、裁判者を元に戻す。そして本来、来るべきはずだった歴史に戻す。そして始めからやり直せばいい……それでもダメなら、裁判者を完全に一度、消滅させればいい。」

「ゼロ……いいえ、審判者。貴方のその答えは間違ってる。」

「間違ってはないさ。むしろ、間違えているのは君。君のその願いは、裁判者として矛盾している。」

 

レイは首を振り、

 

「私はそうかもしれない。けど、なら貴方は……何故そんなに泣いているの?」

 

審判者は再び剣を振り上げる。

そこに、水の矢と風の刃が襲い掛かる。

審判者はそれを剣で薙ぎ払う。

審判者が横目で後ろを見た。

 

「ゼロ!いや、審判者!それ以上はさせない!」

「アンタが何を想うが、レイはあたしらの大切な仲間なんだよ!」

 

そこにはミクリオと神依≪カムイ≫をしたスレイと、ザビーダと神依≪カムイ≫をしたロゼが居た。

ロゼが再び審判者に攻撃を仕掛ける。

エドナも、詠唱が終わり、天響術を繰り出す。

ライラは赤子を抱き、天響術を繰り出す。

レイはスレイ達を見て、

 

「お兄ちゃん……ミク兄……みんな!」

 

レイは血の付いた手を彼らに伸ばす。

スレイが神依≪カムイ≫をしたまま、手を伸ばしながらこちらに走って来る。

レイの手を掴もうとした時、グサグサっとスレイの後ろから短剣が二本飛んできたナイフがレイに刺さる。

スレイが横を見ると、ロゼが木に叩き付けられていた。

そして、レイの前に来た審判者の剣が、再びレイを斬り上げた。

 

「ゴメン……お兄ちゃん……ミク兄……」

 

レイがそう呟くと、レイはスレイを着き飛ばす。

そして、レイと側に居た審判者の足元が影によって崩壊する。

そのまま二人は崖下に落ちていった。

スレイが下を見る。

その先に小さいが村らしき痕跡が見えた。

スレイは立ち上がり、

 

「行こう!」

 

ロゼも立ち上がり、頷いて迂回して下に行く。

走りながらエドナが、

 

「それより、ライラ。その赤ん坊はなに?」

「レイさんに託されました。」

 

ライラは赤子を大切そうに抱きながら走る。

ロゼが赤子を見て、

 

「もしかして、あの赤ん坊?生きてたの?」

「いいえ、死んでいましたわ。でも、息を吹き返しました。」

 

ライラが首を一度振ってから言う。

そして村らしき所に着くと、

 

「ここがもしかして……リクド村?」

「完全に廃村ね。」

 

ロゼとエドナが辺りを見て言う。

スレイが一歩村に入った瞬間、穢れの領域が広がった。

 

「な⁉」

「穢れ!」

 

ミクリオとスレイは空を見上げる。

ザビーダが前を見て、

 

「スレイ!こりゃあ、マズいぞ!」

 

その先には穢れに満ちたドラゴン≪憑魔≫が現れる。

スレイは武器を構え、

 

「くそぉ!ロゼ、ミクリオ!」

「わかってる!僕たちでレイを探してくる!」

「その間、耐えてよ!」

 

ミクリオとロゼは駆け出しながら言う。

スレイは頷き、

 

「ああ!頼んだぞ!」

 

スレイ達は戦闘を始めた。

 

 

レイは身を起こす。

空は穢れに満ちていた。

辺りを見て、

 

「……この村はやっぱり……約……束を……果たさなきゃ……」

 

レイはヨロヨロと歩き出す。

そのしばらく後、審判者も身を起こし、

 

「痛てて。容赦ないな。……あれ?この村は……そっかぁ。」

 

彼はニット笑い、歩き出す。

 

 

ロゼがミクリオと共に走っていると、鈴の音が聞こえた。

そこに行くと、レイが瓦礫をどかしていた。

 

「「レイ!」」

 

二人はレイの元に駆け出す。

レイは一心不乱に瓦礫をどかす。

そして瓦礫の隙間に手を伸ばし、

 

「……あともう少し……取れた……」

 

そして手にしたものを見る。

それは鈴のついたお守りだ。

それを胸に当て、

 

「後は……彼との約束を果たすだけ……」

 

レイは立ち上がる。

そこに審判者の剣が振り下ろされる。

だが、それは水の矢で弾かれた。

レイが前を見ると、ロゼがミクリオと神依≪カムイ≫をしていた。

後ろには審判者が再び剣を振り下ろす。

レイを風が包み、彼の剣は弾かれた。

 

「全く。世話のかかる。」

 

そこには黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女、裁判者が現れる。

そしてロゼ達の方に行くと、

 

「器がこれを見つけられた褒美だ。従士、私の手を握れ。」

「はぁ⁉」

 

ロゼは差し出された裁判者の手を見た。

彼女は早くしろと言う顔で、ロゼを睨む。

ロゼが手を握ると、影が自分達を飲込んだ。

 

ロゼがハッとすると、そこはスレイ達の前だった。

スレイ達も驚いたように急に現れたロゼ達を見た。

 

「スレイ⁉」「ロゼ⁉」

 

裁判者は憑魔≪ひょうま≫を見上げ、

 

「随分と穢れたな。お前にまだ意志はあるか?地の主よ。」

 

それを聞いたスレイが、

 

「地の主って……じゃあ、こいつはチグサ達が言っていた人⁉」

「想像はしてたけど、これほどまでになっていたなんてな。」

 

ザビーダも納得したように腕を組む。

裁判者は手に握っていたお守りを手の平に乗せたまま、持ち上げる。

 

「あの時の子供の願い……いや、約束か。かなり保留にしていたが果たした。さて、お前の願いを……約束を果たしに来たぞ、地の主。」

 

裁判者の手の平に乗ったお守りを見たドラゴン≪憑魔≫は動きを止め、涙を流す。

そしてお守りに手を伸ばしながら、

 

「あ……ああ……!チグサ……リリク……!最後にもう一度……彼らに会いたい……」

 

裁判者の影から弓が出てくる。

影がドラゴンを拘束し、裁判者は弓を構える。

そしてそれを構え、

 

「……ああ。その願い、私が叶えよう。」

 

雷を纏った無数の矢がドラゴンに振りかかる。

ドラゴンからは悲痛な悲鳴のような咆哮を上げる。

そして最後の強い力を纏った矢がドラゴンを貫いた。

黒い炎に包まれたドラゴンから光が現れ、それは彼女が持っていたお守りの中に入っていく。

そして彼女の影は飛んできた無数の短剣を弾き飛ばす。

その影は剣をや槍といった武器を手にしていた。

スレイ達がロゼの元に来て、その傍の裁判者を見る。

審判者が笑いながら、

 

「あは、あははは!どうして、神器を創りだし、扱っているにも関わらず……どうして君は元に戻らない!」

「まだ器の答えを聞いてないからな。」

 

裁判者は冷たい瞳で彼を見つめる。

彼は裁判者を見て、

 

「君らしくないな。君が答えを待つ?あは、何の冗談だい。大体、君だって気付いているはずだ!この狂い出した歯車はもう元には戻らない!」

「ああ。だろうな。」

「なら!」

 

審判者は裁判者を睨みつける。

だが、裁判者はそれを受け流し、

 

「だが、その狂い出した歯車を元に戻すのではなく、狂いを正す方法をこいつらは持っている。」

「それこそが、笑いだよ。彼らの想い、願うそれは闇に覆われてる!」

「お前の今の眼ならそうだろうな。彼らの中には二つの選択肢がある。それは他でもない、ミケルが生かし、ミューズが繋げた希望。それと共に、闇に負けず、強い意志を持った導師の器と仲間。だから彼らには選択肢が二つあるんだ。一つはお前の言うように闇に負けた選択肢。そしてもう一つはその闇の中に弱くも光り輝く一筋の希望。そしてこの器に答えを出させた未来だ。」

 

その裁判者の言葉に、彼は顔に片手を当て、

 

「……あはは!君がそんな賭けみたいな事をするなんてね!君もやっぱり狂ってる!」

「私達は願いを叶える。だが、その願いをどうするかは、願いを叶えた本人だ。だから後始末はしない。それは他でもない願いの代償を理解する為に。」

 

裁判者は矢を審判者に向け、

 

「それにお前は言ったろ。カムランの後始末は私だと。」

「だからこんなバカげた方法を取ったと?」

 

審判者は影から槍を取り出し、構える。

そして突っ込んでくる。

裁判者は矢を放ち、

 

「そうだ。だから審判者、お前も答えを見いだせ。」

 

槍で矢を払った審判者の地面から剣が突き出し、貫いた。

そして魔法陣が浮かび、

 

「裁判者たる我が名において、地よ。審判者をどこかに飛ばせ。」

 

そう言いうと、魔法陣の中に審判者は飲み込まれていった。

裁判者は歌を歌い出す。

風が辺りを包み、この地を浄化する。

そしてライラを見て、

 

「あまり近付くな、主神。近付けば、その赤子を殺させねばならん。」

「では、やはり……」

「……その赤子を生かしたのは私ではなく、器だ。」

 

そう言って、指をパチンと鳴らす。

一瞬だった。

自分達の居た場所が、教会の前になる。

そこに丁度、青年チグサと天族リリクが出て来た。

 

「導師スレイ?」

「え?え⁉チグサさん⁉リリクさん⁉」

 

スレイが辺りを見渡し、二人を見て驚く。

裁判者が青年チグサを見上げ、

 

「……あの時とは逆になったか。さて、これでお前との約束は果たしたぞ。」

 

そう言って、彼にお守りを見せる。

彼は驚き、それを手に取る。

 

「……これは!な、何でお前が⁉」

「言ったろ、その願いは私が叶えると。」

「……じゃあ、ホントにお前は……」

 

そう言って、お守りを見つめ涙を流す。

その涙がお守りにあたり、光り出した。

 

「チグサ……リリク……」

 

そしてその光が収まると、天族リリクそっくりの天族の男性が現れる。

青年チグサと天族リリクは彼を見て、

 

「クー君!」「兄貴!」

 

彼は苦笑いし、

 

「チグサ、約束守れなくてごめんな。俺はもう行かなきゃならん。お前が村に帰ってくるまで村は俺が守ると約束したのに、本当にごめんな。リリク、俺の代わりにチグサを頼むよ。いや、俺の分も、か。」

「くー君!」「兄貴……」

 

そして笑顔で青年チグサの頭に手を乗せ、天族リリクの肩に手を当て、

 

「俺は先に逝くが、お前達を見守ってる。俺の分まで、この世界を見てくれ。」

 

そう言って、光の粒子が出始め、体が薄くなっていく。

彼は泣きながら、

 

「お、俺、ちゃんとクー君との約束を果たすよ!俺、俺が皆を、村の皆を守るから!」

「兄貴、チグサの事は任せておいてくれ。約束だ。」

 

彼はそれを聞き、笑顔で消えた。

裁判者はライラの抱いていた赤子を影で掴む。

 

「あ!」

「安心しろ、主神。もう、殺すつもりはない。」

 

裁判者はそれを青年チグサの方に持っていく。

彼は赤子を抱き、

 

「その赤子をお前が育てろ。」

「はい?」

「その子はまだ、何色にも染まっていない。お前が本当に村に戻る気があるのであれば、お前がそこの村長となり、その子の親として育て、次に繋げろ。そしてその村の加護はお前がやれ。」

「裁判者、君は一体何を考えている。」

 

天族リリクは裁判者を睨む。

裁判者は背を向け、

 

「それが、私がお前達の村にできる手助けだと言ってるのだ。あの村はすでに浄化した。後はお前達次第と言う事だ。」

「ん?こいつ女の子なのか。」

 

青年チグサが赤子を見て言う。

そして裁判者を見て、

 

「この子の名は?」

「ない。つける前に母親が死に、兄も死んだからな。」

「そうか……。じゃあ、ミライだな。」

 

青年チグサが赤子をあやしながら言う。

スレイが青年チグサを見て、

 

「えっと、それは……」

「その子を育てる気はあるって事?」

 

ロゼが真剣な表情で言う。

青年チグサは頷き、

 

「ああ。理由はどうあれ、この子を育てる人は必要だ。旅をしてる導師殿一行には無理だろうし。だったら、これも何かの縁として、俺がこの子の親になるよ。この子には、これからの未来を見て欲しいからな。母親と兄貴の分まで……だからリリク、手伝ってくれ。」

「……仕方がないな。」

 

裁判者はそれを背で聞き、風が包む。

レイが風の中から出てきて、赤子と彼らを見る。

青年チグサが、レイを見て、

 

「抱いてみるか?」

「え?」

 

そう言って、足を引きずり近付いて来た。

そして天族リリクに支えられながら、レイに手渡した。

レイはその赤子を抱くと、赤子は笑い出した。

レイは瞳を揺らし、

 

「……とても脆くて、壊れやすい……でも、その命は母親が守ろうとしたもの……強く生きてね、ミライ。」

 

スレイ達は驚いた。

その時、裁判者の瞳石≪どうせき≫が少しだけ光った気がした。

そしてスレイを見て、

 

「で、お兄ちゃん……どうしたらいい……」

 

と、小刻みに震え出す。

スレイは慌てて赤子を抱く。

 

「可愛いな。」

 

スレイが赤子を見て言う。

他の者達も、赤子を見て微笑む。

ライラが微笑み、

 

「そうですわね。」

 

スレイは赤子を青年チグサに渡し、別れを告げて歩いて行った。

 

――そこは花畑。

そこに一人花畑で遊んでいた子供が居た。

その子供は嬉しそうに顔を上げ、

 

「あ、今日も来てくれたの?」

「ん。」

 

そう言って、子供を目線に合わせてその声の主は頭を撫でる。

その声の主は、

 

「私もお兄ちゃん達にこうして貰うのが好きだったんだ。貴女はパパは好き?」

「うん。二人とも大好き!」

「そ。なら、迎えに来たから帰らないと。」

 

そう指さす方向には、二人の男性が歩いてくる。

一人は杖を支えに、もう一人は相方を支えながら。

子供は立ち上がり、

 

「パパ―‼」

 

と、駆けだした。

そして二人の足にしがみ付き、

 

「チグサパパ、リリクパパ!」

「さ、帰ろ。ミライ。」

「うん。」

 

そう言って、歩いて行った。

声の主は微笑み、風と共に消えた。


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