テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第三十四話 記憶と真実

近くに森らしい森を見つけ、そこで野営をする。

レイがロゼと共に森を探索していると、レイは木の上になっているリンゴを見つける。

そしてロゼもそれに気付き、

 

「お!美味しそうなリンゴ♪あたしが採ってこようか?」

 

と、レイを見る。

レイは首を振り、

 

「自分で採ってくる。」

 

そう言って、木に登り始める。

ロゼもいちをレイを追いかけて登り出す。

リンゴのすぐ側まで登った時、スレイとミクリオ、ライラがやって来た。

 

「お!美味しそうなリンゴだな。レイ、気をつけろ。」

「レイ、危ないから気をつけるんだぞ。」

「そうですよ。落ちないようにしてくださいね。」

 

と、三人が言った。

ロゼは下を見下ろして、

 

「ちょっと、ちょっと!あたしの心配はないワケ⁉」

 

と、ロゼは頬を膨らませる。

スレイは頬を掻きながら、

 

「いや、ロゼはほら……何というか……」

「サルみたいだから、大丈夫だろ。」

「でも、サルも木から落ちる、というのもありますわよ。」

 

と、ライラが口に手を当てて苦笑する。

レイはリンゴに手を伸ばしながら、

 

「大丈夫。あと少しで届――」

 

そう言って、レイはスレイ達を見た。

それが別の光景へと変わる。

ライラは変わらないが、スレイはマントを羽織った男性、ミクリオは以前大地の記憶で見た女性に変わる。

レイは目を見開き、頭の中に声が響く。

それはいつかの男性の声……

 

――君たちは無から有を創りだし、有から無を創りだすんだよね。つまり、0から1を、1から0をって感じだろ。

 

そして見ていた映像が、自分を見上げる導師のマントをした男性へと変わる。

その男性のすぐ隣にはライラがいた。

そして気付く。

これは記憶だ……

 

「だったらなんだ。」

「いや……うん。決めた!君たちの名前を私がつけよう。」

「必要ない。」「面白そう!」

 

と、聞き覚えのある審判者の声もする。

男性は嬉しそうに、

 

「う~ん、よし!じゃあ、レイとゼロ。君たちの名前だ。」

 

彼は指を指しながら言う。

そして腕を組み、

 

「君たちは互いに相対だけど、同じだ。だからいいと思う。」

 

と、自信満々に言う。

隣を見ると、長い髪を束ね、黒いコートのような服を着た少年、審判者。

だが、彼は仮面を付けていない。

そしてその顔には見覚えがある。

そう、何度か会った少年ゼロだ。

彼は嬉しそうに、

 

「いいね。まるで人間や天族みたいだ。」

 

私≪裁判者≫は下へ降り、

 

「私には必要ないな。内側には関与しないしな。お前だけが使えばいい。」

「えー、俺は君にも使いたいなぁ~♪」

 

と、同じように降りて来た少年ゼロ。

そして裁判者と審判者の会話に変わる。

 

「内側のお前とは違い、外側の私には必要ない。ただ、それだけだ。」

「全く、君は相変わらず堅いなぁー。」

 

彼は苦笑いで、持っていたリンゴをクルクル回す。

導師のマントを羽織った男性は隣に居たライラを見て、

 

「いいと思ったんだがな。」

「そうですわね。」

 

と、ライラは口元に手を当てて、クスクス小さく笑う。

 

 

レイはハッとしたように、ビックと動き、後ろに滑り落ちる。

 

「え⁉レイ⁉」

 

ロゼがとっさにレイの腕を掴み、

 

「あー、ムリ‼」

 

と、一緒に落ちる。

そこにザビーダがやって来て、レイとロゼを抱き抱えた。

 

「おいおい、大丈夫かい。そんなにザビーダお兄さんの胸の中に、飛び込みたかったのか?」

 

二人はザビーダを見て、

 

「寝言は寝て言って。」「暗殺してもいい?」

 

そして冷たい視線を送る。

ザビーダは残念そうに二人を下ろす。

ロゼがザビーダを改めて見て、

 

「でも、サンキュ。」

「いいってことよ。」

 

レイはライラを見た後、視線を外す。

スレイはホッとしたように、

 

「でも、怪我がなくてよかった。」

「そうだな。その点はザビーダに感謝だな。しかし……レイ、どうしたんだ?」

 

ミクリオの問いかけに、レイは何かを言おうとして、視線を落とす。

 

「……滑っただけ。」

 

そう言って、テントのある方へ歩いて行った。

スレイとミクリオは互いに見合って、

 

「変だな。」「変だね。」

 

そして話し合いを始めた。

それを見たザビーダは頭を掻きながら、

 

「いやー、全くもっての過保護ぷりだなあ~。」

「そうですわね……」

 

ライラは苦笑して言う。

そしてライラ自身もレイの違和感に気付いていた。

 

スレイ達はローグリーン遺跡に向かう。

そしてスレイ達は探検家メーヴィンの元へ歩いて行く。

彼はスレイを見て、

 

「収穫あったか?」

「……ヘルダルフが苦しみや痛みを持ってるのはわかった。」

 

スレイはジッと彼を見て言う。

ロゼは腕を組んで、

 

「まるで呪いみたいだったね。」

「なるほど……永遠の孤独に縛る呪いか……」

「ふむ。」

 

ミクリオもそれに続いた。

それに探検家メーヴィンは髭を摩る。

ライラは手を握り合わせ、

 

「あの時、かの者は私たちとの邂逅で、スレイさんの心をなぶって堕ちた導師へと誘おうとしていました。ですが、後にはスレイさんに同胞にならないかと手を差し伸べてきましたわ。」

「災禍の顕主が導師に手を差し伸べる、か……」

 

探検家メーヴィンは腕を組む。

スレイは彼を強い瞳で見て、

 

「オレ、知りたい。ヘルダルフがどうしてあんな事になったのか。」

「けど、それはおじさんの禁忌≪タブー≫に触れるんだよね。」

「僕らはそれがどういう意味を持っているのかわかってない。勝手なことを言っているんだろう。だが……」

「やっぱりダメかな……?」

 

ロゼ、ミクリオ、スレイがそれぞれ言う。

レイがスレイの前に立ち、見上げる。

彼を見る瞳は赤く光る。

 

「本当に、真実を知る覚悟がある?後悔はない?」

 

レイはジッと見つめる。

スレイは力強く頷く。

そしてミクリオを見る。

ミクリオも頷き、ロゼもレイを見て頷く。

レイはライラを見て、

 

「ライラもあの人の……悲しみと絶望に触れる。覚悟はある?」

「レイさん……もしかして……」

 

レイは瞳を揺らしながらライラを見つめる。

ライラは一度瞬きをして、頷く。

レイは探検家メーヴィンを見上げ、

 

「刻遺の語り部、貴方もこれからの覚悟は?」

「ふう。その為の答えを俺はここで決めた。」

 

レイは俯き、顔を上げる。

 

「なら、私も覚悟を決める。私自身の為にも。そして、貴方の想うその願いを、私が叶える。裁判者として。」

「……どうやら、チビちゃんは一皮むけたな。」

 

そう言って、頭を撫でる。

レイは頷き、

 

「それはきっと……あなたたち、心ある者達のおかげだよ。そのおかげで私は向き合える勇気を貰った。」

「そうか。」

 

そう言って、さらに頭を撫でた。

そして探検家メーヴィンは彼らに背を向け、

 

「……ま、ついて来な。」

「メーヴィンさん。本当に……」

 

歩き出す彼の背にライラが悲しそうに、辛そうにそう言う。

最後の彼に対する覚悟だ。

それが解る彼は、

 

「語り継ぐ物語も未来がなくなっちゃ意味がない。そのためだな。」

 

そう言って歩いて行く。

ミクリオ以外の天族組は互いに見合って、スレイ達と共に歩いて行く。

そして高台の閉ざされていた扉を開ける。

高い壁に囲まれていた。

天井は崩壊していて、日の光が石碑を照らしている。

そしてそこは、花に囲まれた祭壇のよう。

その中央奥には強大な石碑が置かれている。

 

スレイはその石碑を見上げ、

 

「うわぁ……すげぇ……こんなでっかい石碑にびっしり何か描いてある!」

「『神代の時代』のものか?初めて見るものだな……」

 

ミクリオも同じように見上げて言う。

エドナがミクリオを傘で突きながら、

 

「またなの?この遺跡オタクどもめ。」

「ふふ。」

 

ライラはそれを見て笑った。

そして探検家メーヴィンの後ろに付いて行く。

 

「この石碑はただの人にとっては特に意味のない石塊≪いしくれ≫だ。が、〝刻遺の語り部″は真の機能を発動させられる。」

 

探検家メーヴィンはスレイ達を見て言う。

スレイは腕を組み、

 

「刻遺の語り部……」

「刻遺の語り部は、人、天族、憑魔≪ひょうま≫……導師や災禍の顕主の物語を後生に語り継ぐ者。俺はその運命を背負った一族の末裔だ。語り部は公平であるために、時代の趨勢≪すうせい≫に関わるのを禁じている。が……さっきも言ったように、覚悟を決めたよ。」

 

そう言って、光り輝く瞳石≪どうせき≫を取り出した。

スレイは少し驚き、

 

「それは大地の記憶?」

「まだ他にもあったのか。」

 

ミクリオもそれを見る。

探検家メーヴィンは自分の手の瞳石≪どうせき≫を見て、

 

「他のはともかく、裁判者がこれは刻遺の語り部が持つようにと手渡してきた。」

「やっぱり、メーヴィンも裁判者を知ってるんだな。」

 

スレイは探検家メーヴィンを見た。

彼は頷き、

 

「ああ。審判者という存在も、知っているぜ。ま、会ったのはあの時が初めてだったがな。それに俺も、こいつだけは人に見せたくなかったんでな。だから俺も素直に、先にいただいた。」

「では、それが……」

 

ライラは顔に緊張が走る。

探検家メーヴィンは重いく量で、

 

「そうだ。『災厄の時代』が記憶されている。おまえらに『災厄の始まり』を体験させてやる。感じてこい。光と闇を。全員石碑に手を振れろ。無論、チビちゃんも、だ。」

「私も?」

「ああ。なにせ、あそこは……」

「……わかった。」

「そして目を閉じるんだ。」

 

スレイ達は石碑に触れ、目を閉じる。

そして古代語を彼は詠唱する。

 

「偉大なる大地の神よ。契約者『刻遺』に御心示したまえ。」

 

そしてスレイ達は光に包まれる。

最後に彼は諭すように、

 

「これは答え合わせじゃない。ただ、感じてこい。いいな。」

 

そしてスレイ達は森に囲まれた、広い場所に立っていた。

自然が満ちた景色のいい広野。

そこは今まで旅をした場所のどこでもない。

 

スレイが辺りを見渡す。

 

「……どうなったんだ?」

「どこここ?見た事無いとこなんだけど……」

 

ロゼも辺りを見渡して言う。

レイは瞳を揺らしながら、

 

「……ここは記憶の中……」

「そうか。『災厄の始まり』を体験しているんだ。つまりここは……」

「始まりの村〝カムラン"か!」

 

スレイとミクリオが互いに見合う。

そしてレイが歩いて行った。

ザビーダがそれを見て、

 

「んじゃ、俺様たちも進んでみましょうかね。」

「反対の反対。」

 

エドナは傘を開きながら言う。

少し行くと、レイが立ち止まっていた。

スレイ達もそこに行く。

すると、村人と思われる人々と鎧騎士たちがいた。

 

「なんか人が集まってる。」

「ホントだ。」

 

ロゼがそこに近付き、スレイもそこに行く。

スレイが人々に触れると、彼は通り向けた。

 

「うわぁ⁉」

「これは記憶だ。触れても無駄だぜ。」

 

ザビーダが笑いながら言う。

と、一人の若い男性が一歩前に出て、

 

「将軍……こんな生活をいつまで続けさせるつもりだ。」

 

彼の見る先には若い頃の災禍の顕主ヘルダルフが居た。

 

「ハイランドに進攻から守っているのだ。むしろ感謝して欲しいのだがな。導師よ。」

「え⁉この人が先代の導師!」

 

スレイはその男性を見る。

そして先代導師の横に居た赤ん坊を抱いた女性が、

 

「あなた方が来てから半年……こんなのは守ってるなんて言いません!軟禁です!」

「それにハイランド王国が動き出したのも、あんた達ローランス軍がこの村を接収したからだろ!」

 

村人たちも軍を睨んで言う。

ロゼが頭を掻き、

 

「聞こえてもいないみたい。」

「ええ。あくまで大地の記憶が見せてるものですもの。」

 

ライラが手を握り合わせる。

レイはそこを悲しそうに見つめる。

将軍と呼ばれていた災禍の顕主ヘルダルフは導師を見据え、

 

「……この村の戦略的価値を、導師の興した村というだけで看過できはしない。ここは誰も足を踏み入れる事のできなかった未踏の地。それはどの国も同じ事よ。」

「時間の問題だったと?」

 

先代導師は眉を寄せて、彼を見る。

彼は続ける。

 

「ハイランドの蒼き戦乙女≪ヴァルキリー≫の台頭ぶりを思えばな。」

「……もういい。行ってくれ。」

 

先代導師は拳を握りしめた。

ローランス軍は歩いて行く。

村人が先代導師を見て、

 

「ミケル様!いいんですか!このままで!あいつら、マオテラス様の神殿まで砦みたいにしちまったんですよ!どれだけ天族を冒涜すれば気が済むんだ!」

「それだけじゃない!ついこないだは、ゼロ様が止めなければ……あいつら!」

「ああ!レイ様も止めなければ、アイツらのせいでもっと酷い事に!」

 

それを聞いたスレイ達はレイを見た。

そしてスレイが、

 

「ゼロ様?」

 

レイは先代導師と赤ん坊を抱いた女性を見る。

赤ん坊を抱いた女性は不安そうに先代導師を見る。

 

「兄さん……」

「ミューズ、案ずるな。カムランは確かに北の国境線としては重要な位置にある。ここを押さえたら両国とも自在に首都に兵を進められる。彼らもないがしろにはしないはずだ。それにここは二人の生まれた場所……彼らもきっと……」

 

先代導師は小さく笑って、彼女の肩を乗せて、そう言った。

だが、村人は怒ったように、

 

「信じるんですか?あの将軍の言葉を!」

「彼らがどうであれ、私たちが信じるのを忘れてはいけません。」

 

先代導師は村人たちを見る。

彼は続ける。

 

「家族をもてぬ導師の我が身。みんなやミューズは私が守る。必ず……」

「始まりの村はヘルダルフに接収されたんだな。」

 

スレイは俯く。

ライラが先代導師とその妹を見て、

 

「そして戦渦に巻き込まれていったんです。」

「まぁでも、確かに放っとく訳ないよね。」

 

ロゼも腕を組んで言う。

その視線の先には村人たちをなだめる先代導師。

そしてミクリオは赤ん坊を抱いた先代導師の妹を見つめた。

それに気付いたスレイが、

 

「ミクリオ?どうかしたか?」

「ん?ああ。」

 

レイはミクリオを見た後、俯いた。

ミクリオは腕を組んで、

 

「これじゃマオテラスに悪意を向けてるも同然だな。加護が失われて当然だ。それに、ここはレイの生まれた所でもあったんだな。」

 

そう言って、レイを見下ろす。

レイは俯いたまま、

 

「ん。ここは世界の始まりの場所でもある。ここで裁判者と審判者が生まれた。この地はそれ故に、結界で覆われていた。でも、先代導師は二人を説得して許しを得て、この地に村を造った。そして、本当の意味でレイと……ゼロと言う人間が生まれた場所……」

 

最後の方は小さすぎてスレイ達には聞こえていない。

ミクリオはスレイ達を見て、

 

「まだ先はあるだろう。神殿の方に向かおう。」

「ん。」

 

スレイも頷く。

神殿に向かう途中、村人たちが、

 

「ローランスはミケル様が、マオテラス様を連れ出した事に気付いているんじゃ……」

「いや、ローランスとしては北の大国への牽制≪けんせい≫の方が強い。開戦の名目が欲しいんだろう。」

「バカげてる……。だからあのお二方も、怒っていらしゃるんだ‼」

 

村人たちは怒っていた。

エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「まったくだわ。でもそれが人間。そしてあの時言った、裁判者の私情で力を使った結果がもしかしたら……」

「だな。これだけはいつの時代もかわらないねぇ。ただ、エドナちゃんの言うように……」

 

ザビーダが帽子を深くかぶる。

レイは奥へと歩いて行く。

スレイ達もそれを追う。

そして村人が今度は不安そうに、

 

「導師様の話だと、神殿が穢されて、村の加護がなくなりつつあるって……」

「……まさかマオテラス様が憑魔≪ひょうま≫に⁉」

「導師様を信じよう。命に代えてもそれだけは、阻止すると言ってくださってる。それにいざとなれば、レイ様とゼロ様が何とかしてくださるだろうて……」

「……けどよ。あのお二方はともかく、導師様を失うぐらいなら、いっそみんなで疎開した方がいいのかもしれないぜ。」

 

ライラが手をに強く握り合わせる。

 

「ミケル様にそんな事ができるわけがありませんわ……」

「ああ。導師だからね。」

 

ミクリオが頷く。

スレイも俯いた。

 

「マオテラスを穢れのさなか、置き去りになんて考えもしないと思う。」

「スレイさん……」

 

ライラはスレイを見つめた。

レイは歩きながら、

 

「それでも、人の心は簡単に変わってしまう……」

「レイ……」

 

スレイ達は歩き出す。

スレイは歩きながら、

 

「なんとなく分かった。」

「何が?」

 

ロゼがスレイを見た。

スレイは辺りを見て、

 

「この大地の記憶は裁判者と審判者の記憶そのものなんだ。」

「そうか!これだけの膨大な力を紡ぎだせ、そして歴史を知っているのは他でもない彼らだ。」

「あー!だから大地の記憶の中に、裁判者と審判者の姿が一度も出てこなかったのか。」

 

ミクリオとロゼもそれに納得した。

エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「ま、当然でしょうね。それに刻遺の語り部は手渡された、と言っていたわ。そんな事が可能なのも、アイツらだけ。それに、今回刻遺の語り部は感じろと言ってたわ。現に、いつもの映像だけでなく、こうして見聞きできるもの。」

「それに審判者が災禍の顕主の近くに居た事で、よりヤローの事を詳しく知れた。なにより、大地の記憶があいつの事が多かった。つまり、最初から導かれてたんだ。」

 

ザビーダは肩を少し上げていった。

レイはスレイ達を見て、

 

「それだけはないよ。大地の記憶は、マオテラスの意志も入ってる。マオテラスは大地そのものだからね。これを残すことを決めたのも、彼の強い意志があったから。」

 

レイは彼らに背を向けたまま、言った。

スレイ達がある進んだ先に、ローランス軍の姿が見えた。

そして神殿と思られる入り口に、将軍だった頃の災禍の顕主が立っている。

 

「こんな片田舎の村が北の大国制圧の足がかりになるのなら、導師なぞにいくら疎まれても安いものよ。無論、あんな小生意気なガキどもにも、な。」

 

と、そこに一人の兵が走って来る。

 

「何ごとだ?」

「敵の襲撃です!」

 

兵がその走って来た兵を見て、

 

「北の大国が来たか!」

「い、いえ!ハイランド軍のようです。」

「……なかなかに釣られぬものよ。」

 

将軍と呼ばれた災禍の顕主ヘルダルフは、腕を組む。

そして兵を見て、

 

「兵をまとめろ。撤収する。」

「反撃しないのですか?」

「ハイランドとの小競り合いに兵を失えと?愚の骨頂よ。」

 

そう言って、歩いて行った。

一人の兵が、

 

「こうなってはこの村はただのゴミクズってことだ。撤収するぞ!伝令急げ!」

 

その光景を見たロゼが怒りながら、

 

「ありえない!村の人々の幸せをなんだと思ってんだ!」

「この村が滅びたのは、こんなくだらない理由だったのか……!」

「くっ!」

 

ミクリオとスレイも拳を握りしめた。

レイもまた、拳を握りしめた。

そしてレイは顔を上げ、

 

「そして災厄の時代が始まる……」

 

レイがそう言うと、景色が変わる。

炎が自分達を包む。

スレイ達は驚くが、それが熱くないことに気付く。

そして辺りを見ると、燃える家々、逃げまどう人々……

ハイランド兵に立ち向かい、倒れていく村の人々……

中には何も抵抗できない村人まで殺している。

 

「やめろー‼」

 

スレイは叫んだ。

そして触れぬと解っていて、兵の肩に触れる。

助けられないと解っていて、、村人の前に立つ。

スレイは拳を握りしめる。

 

村人達はしきりに、

 

「マオテラス様ー!」「ミケル様ー!」「レイ様ー!」「ゼロ様ー!」

 

と、各々救いを求めて叫んでいた。

ライラは拳を強く握りしめるスレイを見て、

 

「スレイさん……」

「干渉できないのがより虚しさを強めるよ……」

 

ミクリオが眉を寄せて俯く。

そこに先代導師が走って来た。

辺りを見渡し、

 

「ヘルダルフは何をしているんだ‼」

「……ヘルダルフは……村を捨てて逃げ……た……」

 

血を流し、倒れていた村人の一人が先代導師を見て言った。

先代導師は空を見上げ、

 

「頼む!レイ!ゼロ!手を貸してくれ!頼む‼」

 

彼は大声で叫んだ。

そこにハイランド兵が近付いて来た。

 

「ローランスの犬が!こんな山奥でコソコソと!」

 

先代導師は地面に落ちていた剣を拾い上げ、応戦する。

が、彼の剣は簡単に弾かれ、彼は地面に倒れる。

そこにハイランド兵が槍を近付ける。

 

「ミケル様!」

 

ライラが眉を寄せて、口元を手を当て悲鳴を上げる。

彼に槍が刺さる瞬間、

 

「ひひひ!あっちにもいるぞ!」

 

他のハイランド兵の声が響く。

そして、先代導師にやりを構えていた兵士が、

 

「ぐわぁ⁉」

 

と、兵士が倒れ込んだ。

先代導師が兵を見ると、彼の背には四本の短剣が刺さっていた。

視線を上げると、そこには少年が立っていた。

 

「ゼロ!」

 

紫色の長い髪を下で一つに縛り、黒いコートのような服をきた少年。

その少年の顔を見たスレイが、

 

「ゼロ⁉」

「やっぱり……」

 

スレイは驚いていたが、ロゼは腰に手を当てて眉を寄せる。

 

そして先代導師は改めて周りを見る。

燃える村、血を流し倒れている村人達、いまだ聞こえる悲鳴を悲痛……

 

「なぜ……どうしてこんな事に……」

 

悲嘆していた先代導師の元に、

 

「全く。これだから人間は愚かだね。導師ミケル、僕は賛成した派だから君を責められないけど……これはあの子の言った通り、君は人間を信じるべきではなったね。」

 

その少年が右手に持っている短剣をポンポン上に上げては掴んで、また上げては掴んでと手遊びをしながら言った。

先代導師は俯き、

 

「ゼロ……すまない。だが、手を貸してくれ!レイはどこに?」

 

そして立ち上がり、辺りを見る。

少年ゼロは手遊びしていた短剣を握り、先代導師の方に投げる。

その短剣は彼の後ろに飛んでいき、彼を狙っていた兵の首に刺さる。

 

「あの子ならいないよ。今は願いを叶えに、外にいる。時機に戻ってくるとは思うけど……これはマズイね。あの子に怒られちゃう。」

「……もう一度言う、ゼロ。手を貸してくれ!だから頼む!審判者の力を貸してくれ!」

 

先代導師は頭を下げた。

スレイは眉を寄せ、

 

「審判者……ゼロが?」

 

そしてレイを見た。

レイは眉を寄せて、少年ゼロと先代導師を見ていた。

 

「……ん。彼が審判者で間違いはないよ。……そして……」

「そして?」

 

ロゼがレイを見る。

レイはスレイ達を見上げ、

 

「この時、導師ミケルは、審判者に頼るべきではなかった。そうすればあそこまでには……なにより、彼はすでに怒っていた。そして私も……この地には二人が護らねばならないモノがあった。そして私も、彼も、導師ミケルと彼の妹……そして彼女の赤子には、思い入れがあった。この後私も、彼も……」

 

そう言って、レイはスレイに背を向けて走って行った。

と、少年ゼロ、いや審判者は彼を見て、

 

「残念だけど、それはムリ。君のその声に僕は応えられない。」

「な⁉」

 

先代導師は顔を上げる。

彼は赤く光る瞳で、先代導師を見ていた。

 

「でも、この村で過ごしたゼロと言う人間でなら、君達に手を貸せる。」

「ゼロ!ありがとう!」

「それより、これ持っといて。いちを、身を守るものは必要でしょ。」

 

そう言って、短剣を渡す。

先代導師はそれを受け取る。

少年ゼロは辺りを見て、

 

「で、ミューズと赤ん坊は?」

 

そう彼が問いかけに先代導師が答えようとした時、二人の所に怪我をした村人の女性が歩いて来た。

 

「導師様、ゼロ様、ミューズ様が神殿に!」

「なんだって⁉」

 

彼女は最後の力を振り絞り、

 

「ローランス軍に援助を求めに……」

 

彼女は倒れ込み、息を絶った。

そして彼は眉を寄せて、そしてスレイも同じように眉を寄せて、

 

「「けどヘルダルフはもう逃げてる!」」

 

声を合わせた。

少年ゼロは神殿の方を見て、

 

「行くよ、ミケル!」

「ああ!ミューズ!無事でいてくれ!」

 

二人は走って行った。

スレイも駆け出し、

 

「神殿に急ごう!」

「ああ!」

 

ミクリオも駆け出す。

その背に、

 

「お待ちください。」

 

ライラが止める。

そしてジッと二人を見て、

 

「同じ導師という立場からスレイさんが、あの方に感情移入することはわかりますわ。ですが、メーヴィンさんの言葉を思い出してください。ミクリオさんも。」

 

二人は俯く。

ミクリオが眉を寄せ、

 

「……すまない。ただ……」

「結末に嫌な予感しかしないんだ。」

 

スレイが悲しそうに顔を上げた。

ロゼが二人に歩み寄りながら、

 

「今まで知った事、十分繋がった感じするもんね。」

「……それでも見届けなきゃいけないんだろ?」

 

スレイが拳を強く握りしめる。

ライラは頷く。

 

「ええ。だからレイさんは、聞いたのです。覚悟はあるか、と。」

 

と、そこに声が響いた。

 

「ハイランド兵につぐ、今すぐこの地を離れろ。これ以上この地を穢すのであれば、お前達に待つのは死だけだ。」

 

そこに、一人の少女が現れる。

紫色の長い髪を結い上げ、顔は少年ゼロと少し似ていた。

そして黒いコートのようなワンピース服が風に乗ってなびく。

そこに、村人が一人やって来て、

 

「レイ様!お願いです、導師様を……ミューズ様を……マオテラス様を……助けてください‼」

 

そう言って、背後から斬られた。

ハイランド兵はその少女を見て、

 

「お前か、生意気な口出しをしていたのは!」

「だったら何だ、人間。直ちにこの地から消え失せろ。ここは、貴様らのような人間がいていい場所ではない。」

 

兵は詰め寄りながら、

 

「だったら、お前が死ね!」

 

剣を振り下ろす。

が、その振り下ろした兵士が鎧の上から血を噴出した。

少女の手には剣が握られていた。

そして彼女の足元の影が揺らいでいた。

彼女は赤く光る瞳で冷たく他の兵を見ながら、

 

「二度は言わない。さっさと消え失せろ、人間ども。」

 

兵は震え上りながら、逃げ出していく。

スレイとミクリオが驚いていた。

ロゼが同じように驚きながら、

 

「あれが本来の裁判者……じゃあ、あれが本来のレイの姿って事だよね?」

「ええ。あれが本来の裁判者の姿です。」

 

ライラが彼女を見ながら言う。

そしてスレイは彼女を見て、

 

「……ちょっと待って!あの人は……」

「ああ!あの人は遺跡で幼い頃僕らを助けてくれた……あの人だ!」

 

二人が互いに見合った。

 

「あの人間はすでにこの地から消えたか。」

 

裁判者は遠くを見て言った。

そして彼女は神殿の方を見て、

 

「……あっちか……ミケル、結局お前も……ほかの導師と変わらないな、このままでは……」

 

そう言って、駆け出した。

スレイとミクリオは頷き合い、

 

「行こう。」

「ああ。」

 

神殿に向かって駆け出した。

ロゼは腕を組みながら、

 

「でも、スレイはともかくさ。ミクリオもなんからしくない。」

 

ライラがロゼを見た。

そしてエドナが少し首を傾げながら、

 

「当然ね。あの子じゃなくても気付くもの。」

「だな。それが嫌な結末に繋がってるのなら、なおさらってヤツさ。なにより……」

 

ザビーダもどこか後味の悪いように、それに続いた。

そしてロゼはエドナとザビーダを見て、

 

「みんなも感じてたんだ。ミクリオと導師兄妹が似てるって。それなら……裁判者は……」

「……行きましょう。もうすぐ全てわかりますわ。」

 

ライラが手を強く握りしめ、先を走るスレイとミクリオの背を見つめた。

そしてロゼ達も走り出す。

 

スレイ達が神殿に近付くと、女性の悲鳴が聞こえて来た。

 

「イヤ――‼」

 

神殿の入り口からはハイランド兵が歩いてくる。

その表情はどこが面白がっていた。

先代導師と少年ゼロがそこに着くと、兵達は武器を構えて襲ってきた。

少年ゼロは影から剣を取り出し、

 

「こっちは俺が。君はミューズのとこへ!」

「ああ!すまない、ゼロ!」

 

敵を薙ぎ払いながら、少年ゼロは言う。

そして出来た隙間から、祭壇へと上がっていく。

スレイ達も上へと上がっていく。

そこにはレイも居た。

レイは泣いていた。

そしてスレイ達の前には、燃え盛る祭壇が見えた。

そして先代導師の妹が倒れ、その燃え盛る祭壇に手を伸ばしながら、

 

「あの子が!あの子が‼」

 

先代導師が炎の中に飛び込み、赤ん坊に覆いかぶさる。

そして抱き上げ、戻ろうとした。

が、その足が止まり、赤子を見つめた。

彼は今にも切れそうなか細い声で、

 

「生きてる……生きているが……これでは……」

 

そして先代導師は祭壇を見る。

穢れが浮き出ていた。

 

「マオテラス……」

 

そして妹へと目を送る。

妹もまた、死にかけていた。

彼は空を見上げ、涙を流しながら、

 

「全てが失われた……マオテラスは憑魔≪ひょうま≫と化し、この子はもう……」

 

そこに少年ゼロが駆けて来る。

 

「ミューズ!」

「ゼロ様!」

 

そして少年ゼロは炎の中の先代導師を見て、

 

「マズイ……マズイ!……このままでは‼……待つんだ、ミケル!その願いは――」

 

だが、先代導師の声音と目付きが変わる。

 

「一人の男のくだらなぬ野心のせいで……」

「兄さん?」

 

少年ゼロが彼の元に駆けだす。

先代導師は祭壇へと歩き出す。

 

「待って……」

 

だが、彼は無言で炎の中を歩き続ける。

先代導師の妹は手を伸ばしながら、

 

「やめて、お願い!ゼロ様、お願いです!兄さんを止めてください!」

 

だが、少年ゼロが彼に近付く前に、先代導師の方が先に祭壇へと上がる。

そしてその祭壇に赤子を乗せ、ゼロから受け取った短剣を握る。

妹の悲痛な叫ぶが彼の背から伝わった。

 

「兄さ~ん‼」

 

彼は短剣を上げ、

 

「この災厄をもたらした者に……『永遠の孤独』を!」

 

振り下ろす。

その瞬間、審判者の瞳が真っ赤に光り出し、

 

「……その願い……聞き届けた……」

 

彼の影が祭壇を飲込んだ。

そして穢れの柱が立った。

先代導師の妹は涙を流し、必死に手を伸ばしながら、

 

「イヤ――!」

 

悲痛な叫びを出した。

そこに裁判者が駆け付けた。

 

「……やはり、お前もほかの導師と同じ末路を辿ったか……」

 

裁判者は炎の中に入って行く。

そして祭壇まで行くと、赤く光る瞳を彼に向ける。

先代導師は膝を着き、

 

「ヘルダルフ……自らが生み出した地獄を背負え……!」

 

そして涙を流す。

 

「……こんな答えになってしまったよ……」

 

そして彼は裁判者を見上げ、

 

「君の言った通りだった……頼む、この子を救ってくれ!自分が君達にとって、愚かな事をしたと自覚はある。だが、私は……私にできる事はもはやこれしか……」

 

裁判者は祭壇に乗せられた赤子を見る。

赤子は穢れに染まりきっていた。

 

「お前の願いだけでは……この子は救えない。この子はもう、人としては生きられない。」

「なら、どうすればいい!私にはもう何もないのに!」

「お前の願いと命をもって、この子を生かす。そして、私の力があれば可能だ。だが、お前はあの人間……ヘルダルフに呪いをかけた。私は盟約に従い、お前の命をもらい受ける。そしてもう一つの盟約に従い、魂の一部をヘルダルフの呪いに対し、私は貰わねばならない。その残りのすべての魂と霊応力の全てをもって、この子を生かす。」

「ああ……それで構わない。すまない、すまないな……」

 

そう言って、穢れに満ちたその赤子を見る。

裁判者の影が揺らめきだし、彼の前に近付いて行く。

彼は最後に裁判者と審判者を見上げ、

 

「……もし、君達が本当の意味で、人だったのなら……違う道があったのだろうか。こんな答えにならずに済んだのだろうか……。もし、君たちが人としての感情をちゃんと知っていれば、きっと何か変わっただろうに……」

 

そう言って、彼は影に飲まれて言った。

裁判者と審判者は瞳を一度揺らした後、

 

「……俺は行くよ。時期にこの村は穢れに包まれる。ここの後始末は君の担当だ。」

「……ああ。そうだな……」

 

審判者は風に包まれ、消えた。

裁判者は穢れに満ちた赤子を抱き上げ、魔法陣が浮かぶ。

その魔法陣が赤子の中に入っていった。

そして、先代導師の妹の所に連れて行く。

彼女は泣きながら赤子を抱きしめる。

裁判者は膝を着き、

 

「……時期にゼンライが村に来る。あいつに、この村の最期の赤子を預けろ。」

 

そして裁判者は瞬きを一度し、

 

「ミューズ、私と盟約と誓約を結べ。」

「え?」

「時期にこの村を中心に憑魔≪ひょうま≫マオテラスの穢れが満ちる。そしてそれはこの世界全てを飲込む。そして私はその後、扉の番人としてこの世界を破壊し、再生させねばならない。」

「そんな⁉」

「だから……扉を使う。お前は導師ミケルの後始末をするんだ。」

 

先代導師の妹ミューズは瞳を揺らしながら、

 

「なにを……何をすればいいんですか?」

「扉を封じろ。だが、お前の霊応力だけでは封じきれない。だから私と誓約を結び、お前が命を賭けて、カムランを中心とした扉を封じろ。」

 

エドナが傘についた人形を握りしめ、

 

「あいつ!またあんな事!」

 

裁判者は続ける。

 

「私は扉を守る番人として、お前と盟約を結ぶ。この地を、マオテラスを鎮める事のできる導師の器を導く。そしてお前の命が持つ限りの間、カギを持つ者以外は、この地には誰も入れさせない。そうすれば私は、お前に力を貸せる。お前の命は幾分か持つ。そして再び、その子と会える確率は上がる。」

 

先代導師の妹ミューズは、自身の子を見つめる。

そして顔を上げ、

 

「なら、もう一つ。約束してください。」

「何をだ。」

「この地で生まれた子を見守ってください。私の代わりに……お願いします。」

 

裁判者は頷き、

 

「ああ。解った。約束しよう、ミューズ。」

 

そう言って、彼女は先代導師の妹に手をかざす。

魔法陣浮かび、彼女の中に入っていった。

裁判者は彼女の方に触れた。

すると、彼女の酷かった傷が癒える。

 

「裁判者はこうする事でしか出来なった……この村で起きてしまったこの悲劇を治めるには、こうするしか。……でなければ裁判者は、この村に関わったもの全てを消さねばならなかった。」

「それって……」

 

ロゼが眉を寄せる。

レイは瞳を揺らしながら、

 

「そう……さっき言ってた世界そのもの破壊の本当の理由。……それは裁判者と審判者を含めた本当の意味での世界の破壊……だから審判者は後始末と言ったんだよ。」

 

レイが見つめていた裁判者は立ち上がり、

 

「これである程度は動けるな。なら、行け。」

「あ、あの……レイ様は?」

「私はまだ、やることがある。」

 

そう言って、風が彼女を包み消えた。

映像が変わり、森へとなる。

そこにはローランス兵が歩いていた。

そして、その中央には将軍と呼ばれた災禍の顕主ヘルダルフが歩いていた。

 

「止まれ!」

 

将軍と呼ばれた災禍の顕主ヘルダルフの前には、ハイランド兵が武器を構えてやって来た。

彼は兵を睨み、

 

「この撤退を予見していたか……蒼き戦乙女≪ヴァルキリー≫の兵か。」

 

彼がそう言った時、空が闇に満ちる。

そしてそこに、穢れの塊が彼に向かって飛んできた。

彼は膝を着く。

そしてそれは、彼の中に入り込む。

空は晴れ、彼の近くに居た兵は皆倒れた。

それを見た兵の一人が、

 

「落雷だと⁈将軍!」

「ぬ……」

 

彼が立ち上がると、ハイランド兵の二人が、

 

「ヘルダルフ!覚悟!」

「ぐはっ!」

 

槍を彼に突き刺した。

彼からは大量の血が流れ出る。

だが、彼は槍が刺さったまま立っていた。

刺していたハイランド兵は、

 

「な、何だとっ⁉」

 

その状況に飲み込めなかった。

彼が兵に拳を繰り出す。

が、それは穢れを纏い、兵を吹き飛ばす。

 

「ぐ、う……」

 

その彼が息を少し荒らしながら居ると、今度は矢が心臓に向かって飛んできた。

それは彼の心臓に突き刺さる。

 

「うっ!」

 

だが、彼は立っていた。

それを見たハイランド兵は後ろに後退しながら、恐怖に震え出す。

将軍と呼ばれた災禍の顕主ヘルダルフは心臓に刺さった矢を抜き取った。

血が流れたが、それが止まり再生されていく。

するとハイランド兵は、

 

「く、来るな!化け物‼」

 

ハイランド兵は逃げ出した。

将軍と呼ばれた災禍の顕主ヘルダルフは自身の兵達を見る。

 

「ぐ。」

 

自信の兵達も、自分を見て逃げ出していった。

彼は一人、森で呆然と立ち尽くす。

スレイ達は無言となる。

そしてその呆然と立ち尽くす将軍と呼ばれた災禍の顕主ヘルダルフの前に、一人の少女が現れる。

彼は少女を見て、

 

「き、貴様は……!」

「だから言ったのだ。あの村には関わるな、と。忠告は何度もしたぞ、人間。」

 

そこには冷たく、赤く光る瞳を彼に向ける裁判者。

彼女はその瞳で彼を見つめ、

 

「あいつは最後まで信じようとした。その想いをお前は蔑ろにした。お前はこれから、あの導師が受けた全ての悲しみ、憎悪、後悔……それら全てをその身で味わう。」

 

そうして彼女は彼に背を向ける。

 

「そして抗う事もできず、お前は苦しみ続ける。終わる事のない永遠の孤独を……」

 

そう言って彼女は闇に消えた。

レイは立ち尽くす彼を見つめ、

 

「裁判者は目を背けた。」

「え?」

 

スレイがレイを見る。

レイは彼を見つめたまま、

 

「これから起きる事は大地の記憶で、お兄ちゃん達は知ってる。私は見ていた……彼が災禍の顕主となるその瞬間まで……。裁判者と審判者は、彼が何度も何度も生死を繰り返し、絶望していた時……彼の前に一度現れた。彼が何度も強く自分を殺してくれと願った。それは強く、叶えるに匹敵するほど。だけど、彼のその願いよりも、導師ミケルの呪いの方が強かった。だから彼らは呼ばれても、それを叶える事はしなかった。」

 

そして空を見上げ、

 

「そして裁判者は、ヘルダルフの願いは叶えられなくても……彼の家族の願いは叶えられた。」

「それは……」

 

スレイは眉を寄せ、レイを見る。

辺りは闇へと変わる。

レイはスレイ達に振り返り、

 

「彼に残された最後の家族。あの憑魔≪ひょうま≫と化した赤子……彼の命は救ってくれと言う家族の願いを、私は拒否した。でも、裁判者としては叶えなくてはいけない。だから彼が殺した後、あの赤子の魂を浄化し、生まれ変わらした。本来、その赤子を歩むはずだった運命をそのまま……」

「ん、なるほどね。」

 

ザビーダは帽子で顔を隠す。

エドナは悲しそうに、少し怒ったように、

 

「ひげネコは憑魔≪ひょうま≫になったんじゃない。憑魔≪ひょうま≫にされたのね。」

「……しかも最凶の呪詛をかけられた者として。」

 

ライラは悲しそうに上を見上げる。

暗い真っ暗な……

そしてロゼも同じように上を見上げ、

 

「そんで、それをやったのが先代導師、そしてそれを手伝ったのが……裁判者と審判者、か。」

「それじゃ僕は……」

 

ミクリオは俯いたまま、呟いた。

光が広がり、辺りは再びカムランへと変わる。

燃え盛る炎は消え、焼け焦げた家々、焦げた地面が広がる。

ロゼが辺りを見て、

 

「ここは……広場辺り?」

「終わらないのはまだ先があるってことね。」

 

エドナが傘を肩でトントンする。

その先にはレイが居る。

レイは頷き、歩いて行く。

 

「……まだあるのか。」

 

ミクリオは拳を握りしめる。

その姿をスレイは眉を寄せ、

 

「ミクリオ……」

「そろそろ全部だろ?ちゃっちゃと見て帰ろうじゃないの。な?」

 

ザビーダがミクリオの背を叩いて、歩いて行った。

ミクリオは無言で、歩き出す。

ロゼがスレイとミクリオを見て、

 

「……めっちゃヘコんじゃったぽい?」

「そりゃ、な……」

 

スレイは視線を外す。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「なんかごめんね。あたしそんなヘコんでなくてさ。」

「そんなの気にする事じゃないだろ。」

 

スレイはロゼを見る。

ロゼは変わらず、頭を掻きながら、

 

「ん~。仲間がヘコんでる時に自分がヘコんでないのって、やっぱあたし、なんか抜けてるんじゃないかな~って。」

「……ロゼ。スレイの言うとおりだ。気にする事じゃない。むしろ……その……」

「ん……だな。」

 

ミクリオとスレイは互いに見合った。

そしてロゼを見て、

 

「「ごめん!」」

「へ?」

「オレ達こそ、そんな心配かけちゃってさ。」

「もうしばらく気持ちの整理に時間はかかるが……大丈夫。だから安心してくれ。」

 

二人はロゼに頭を下げた。

そして顔を上げた。

ロゼは笑顔で、

 

「了・解!」

 

そして先を歩いていたレイが村の入り口で立ち止まる。

スレイ達もそこに行くと、向こうから三人の天族が歩いてくる。

そして戦闘を歩いていた老人天族が立ち止まり、辺りを見て、

 

「なんということじゃ……」

「穢れがひどくて気分が悪くなってきた……」

 

連れの天族二人は胸を抑える。

老人天族は空を見上げ、

 

「このあり得ない程の強大な穢れは、裁判者が言った通りだな……」

「……では裁判者の言う通り、マオテラスが……」

 

そして老人天族は結界に護られた赤子を抱く女性に近付く。

 

「この災厄が影響して早産となったのであろうか。母も子も報われんのう……幸いしたのは、この赤子を裁判者が護ったことか……」

 

そう言いうと、裁判者が張った結界が消える。

老人天族は赤子を宙に浮かす。

そして近付け、

 

「……これも縁か。」

 

そして少し考えて、赤子を頭上に高く上げ、結界を張る。

それを見た連れの天族は、

 

「人間の子ですよ!」

「この世に生まれ落ちた瞬間にあるのは器の差だけの事よ。」

「ですが、これほどの未熟児……持って数ヶ月では……」

「……かもしれんのう。」

 

老人天族は赤子を見上げる。

そこに、女性の声が響く。

 

「ゼンライ様……!」

 

老人天族がそこを見る。

そこには赤子を抱き、必死に掛けて来た。

そして疲れ果て、膝を着く。

 

「おお、ミューズか。何が起きた?」

「詳しい話をしている時間はありません。穢れがイズチに流れる前に封じなければ……」

 

そう言って、彼女は老人天族ゼンライの頭上に居る赤子に気付いた。

 

「その子は……?」

 

老人天族ゼンライは、すぐ近くの女性を見る。

先代導師の妹ミューズも、その女性を見て、

 

「セレンの……?身籠もっていたなんて……」

 

そして老人天族ゼンライは先代導師の妹ミューズを見て、

 

「マオテラスをこの地に縛るため……イズチへの道を封ずる人柱になる気じゃな。大方、裁判者が持ち出したのだな。だがの。大地の器とするマオテラスじゃ。ここに留める事はできても、それは気休めに過ぎん。それが解っていてどうして裁判者は……それに今回の件は……」

「そうです。裁判者と審判者である彼らの力を借り、この地に芽吹いたのは事実です。それでもこれは……人間の……私たちが招ねいた事ですから。だからこそ、私はあの方と盟約と誓約を結んだ。」

 

彼女は力強い瞳で言った。

老人天族ゼンライはひげを摩り、

 

「導師は?」

 

彼女は悲しそうに首を振った。

そこに一人の少女が現れる。

 

「あれは死んだ。その身をもって、この災厄を起こし、そこの赤子を助けた。」

 

それは裁判者だった。

連れの天族達は俯き、

 

「導師……ついに絶えてしまうのか。」

「かもしれん……が、縁が希望を繋いだのう。」

 

老人天族ゼンライも空を見上げる。

そして先代導師の妹ミューズが抱いていた赤子を宙に浮かせ、自身の頭上に持っていく。

そして人間の子と同じ結界の中に入れる。

裁判者は天族達を見て、

 

「どうやら、察しがついたようだな。ゼンライ。」

「うむ。お前さんはこの子らを使う気だな。」

「ああ。私はミューズと盟約を交わした。導師の器を導く、とな。」

「だが……ミューズの子は、お前さんが天族に生まれ変わらせたが、人間の子の命は乏しい。」

 

裁判者は赤く光る瞳を天族達に向け、

 

「それを、お前達が生かすのだ。」

「アンタの不始末をこちらに押し付ける気か!」

「それにこの子は穢れを纏っている!それをイズチに持って行けと⁉」

 

連れの天族たちが怒りだす。

裁判者は赤く光る瞳で彼らを射貫き、

 

「その子供が天族になりきれば、穢れは消える。晴れてお前と同じ同族だ。」

「だが、ワシの加護とて限度がある。」

「……お前の加護以外で、その赤子が死ぬのならそれまでだ。ミューズの子はともかく、導師の器は……別の器を無理やりにでも造り出す。」

「レ……イ……様?」

 

先代導師の妹ミューズが眉を寄せて、彼女を見る。

それを聞いたエドナが、

 

「アイツ!」

「エドナの気持ちわかるよ、こればっかしは。」

「ええ。」

 

ロゼとライラが眉を寄せる。

だが、裁判者は宙に浮く人間の赤子を見て、

 

「……だが、この赤子は簡単には死なないだろう。」

「曖昧じゃな。」

「残念だが、私の眼にはこの赤子の未来は見えん。靄のかかったように見ずらいのだよ。つまりこの赤子の未来は、まだ定まっていないと言うことだ。それでも私は、この赤子が成長し、聖剣を抜く姿を昔視た。それに未来なら、ミューズの子もまた然り。だが、この子らの物語は果てしなく続くことだけは視える。」

 

先代導師の妹ミューズは俯いた後、顔を上げ、

 

「だからレイ様は……ゼンライ様に、その子たちを導師と陪神≪ばいしん≫となるよう育てろと言うことですか?」

「ああ。」

「そんな事が?」

 

先代導師の妹ミューズは老人天族ゼンライを見る。

 

「……人と天族の赤子が共に成長すれば……あるいはの。全てはこの子ら次第の事。」

 

そう言って老人天族ゼンライは赤子を見る。

その姿をスレイとミクリオは瞳を揺らして見つめる。

そして老人天族ゼンライは先代導師の妹ミューズを見て、

 

「希望……確かに預かった。」

「「ジイジ……」」

 

二人はジッと見つめ続ける。

先代導師の妹ミューズは赤子を見て、

 

「ありがとうございます。ゼンライ様!」

 

そして赤子を彼女の方に近付ける。

彼女は立ち上がり、泣きながら赤子の結界を抱きながら、

 

「さようなら、ミクリオ……私の坊や。」

 

裁判者はそれを見て、彼らに背を向ける。

 

「スレイ。」

「ん?」

 

老人天族ゼンライが裁判者を見つめる。

彼女は背を向けたまま、

 

「自らの命と引き換えに守り抜いて、その赤子を守った……その母親が、息絶えるその時に言った……その子の名だ。」

 

そう言って、彼女は消えた。

そして辺りは光に包まれ、スレイ達は元の石碑の前に意識が戻る。

そしてスレイは俯き、

 

「ジイジ……」

 

ロゼがスレイの横に来て、

 

「スレイはあの村の生き残りだったんだ。」

「んで、ミク坊は裁判者の力と奉じられて天族になったんだな。」

 

ザビーダは帽子を深くする。

ミクリオは肩を少し上げ、

 

「……生け贄だったわけだ。そして僕がどことなく先代導師の妹に想い入れがあったのは、裁判者の力で天族になったからだったワケだ。」

「泣いてもいいけど?」

 

エドナが彼の背に言う。

ミクリオはエドナに振り返り、

 

「泣くわけないだろう。驚いたけど悲しいわけじゃない。マオテラスの居所もわかった。そして幼い頃、裁判者が僕らを助けたわけも。あとはどんな答えを出すかだ。」

 

そしてスレイを見る。

他の者達もスレイを見る。

そしてスレイは頷き、

 

「ああ。」

「で、答えは出たわけ?」

 

ロゼがスレイを見つめる。

スレイは頷き、

 

「どうしたいかは決まった。それが答えって言えるかはわからないけど。」

「……では、メーヴィンさんとレイさんにも聞いていただきましょう。」

 

ライラがそう言った。

ロゼが辺りを見て、

 

「……見当たらないよ?」

「ついさっきまで石碑を発動させてたんだ。その辺にいるだろう。きっとレイも、そこにいるはずだ。」

「そうだな。探そう。」

 

ミクリオはスレイを見る。

スレイは頷く。

と、聞き覚えのある歌が流れて来た。

スレイ達はその歌声の元へ歩いて行く。

スレイは歩きながら、

 

「……悲しい事件だったな。ヘルダルフや導師ミケルだけじゃない、裁判者や審判者……色々なものが絡み合っててさ。」

「先代導師があんなことしちゃったの、あの村の惨状をみたらわかるっちゃわかるけど。……どん底まで絶望しちゃたからってだけじゃ、あの人の友達でもないと納得しないんじゃないかな。」

 

ロゼが腰に手を当てていう。

ミクリオも頷き、

 

「ああ。彼の行いが原因で多くの者たちの運命が定められてしまった。」

「そうね。彼がかけた永遠の孤独という呪いは、へげネコに災禍の顕主としての道を拓いてしまった。ひげネコは元々世を恨んでたり、憑魔≪ひょうま≫の世界にしようとしたわけじゃないのに。」

 

エドナは傘で顔を隠して言う。

ロゼは顎に手を当て、

 

「ハイランド、ローランス両方とも、あれを見る限り外道って見えちゃうけど……きっと根底にあるのは自国の安定なんだろうし。」

「先代導師がマオテラスを連れ去ったことを、秘密にしてたのも悪い結果に繋でいる。結果として何もしないヤツらに良いように暴れられて、マオテラスは憑魔≪ひょうま≫になっちまった。」

 

ザビーダは帽子を取り、クルクル回しながら言う。

スレイは俯き、

 

「そうだな。話してれば、もっと理解や協力を得られたかもしれない。」

「先代導師は自分の身内といえる者しか、信用してなかったともとれる。共になくとも先代導師を信じていた者にとって、これほど傷つく事もないだろう。」

 

ミクリオは呟く。

ライラは手を握り合わせ、

 

「……そうですわね。あのお方が純粋にみんなの幸せを願っていたとしても、伝わらなければ……」

「先代導師がどうであっても。ヘルダルフがひどい事をしたってのも変わんないよ。自分の野心のために他人を踏みつけるなんて。それと同じだけ、彼の願いを叶えた裁判者や審判者も許せない!」

 

ロゼが怒りだす。

そしてザビーダは帽子を被り、

 

「だが、新たな疑問は生まれた。」

「疑問?」

 

スレイが彼を見る。

彼はスレイを見て、

 

「ヘルダルフやマオテラスはわかった。じゃ、何故裁判者と審判者が対立を始めたか。そして……」

「どうして裁判者がおチビちゃんになったか、でしょ。いくら先代導師があの二人に言霊を言ったからって、多分ここまでには本来はならない。」

「ああ。」

 

エドナがザビーダを見上げる。

ザビーダはそれに頷く。

ミクリオが空を見上げ、

 

「まとまらないな……さすがに。」

「でも、メーヴィンはただ感じてこいって言ってた。感じた事をそのまま伝えるよ。」

 

スレイは力強い瞳で言った。

 

 

スレイ達よりも先に、意識を戻したレイは歩き出す。

すぐ傍の壊れかけた扉の部屋に入る。

そこには落ちた天井の崩れ落ちた石の所に座る探検家メーヴィンの姿。

レイは彼の近くの同じく天井から崩れ落ちた石の上に座る。

 

「……時期にお兄ちゃん達は目が覚めるよ。」

「そうか。」

 

そう言って、キセルを取り出し、吸い始める。

レイは空を見上げ、

 

「お兄ちゃんとミクリオは母親が想た通りに育ったと、私は思うよ。と、言っても私自身は親を持ったことも、子を持ったこともないから肯定は出来ないけど……」

 

そして探検家メーヴィンを見つめ、

 

「貴方の願い……もう一つの方を願えば……」

「おっと、そこまで。確かに俺は旅を続けたいし、あいつら紡ぎ出した未来も見たいさ。だがな、それを願えば……俺はきっと後悔して生きることになる。せっかく繋げた想いが無駄になっちまう。だから俺は、アイツらの為に、自分の為に時間をくれ。」

「……わかった。」

「それとな……」

「ん?」

「お前さんの歌が聞きたい。いつだっか、お前さんの……裁判者の歌を聞いた。ダメか?」

 

彼は笑いながら、そう言った。

レイは空を見上げ、

 

「今の私の歌でよければ、貴方の為に、貴方に贈ろう。刻遺の語り部……いや、メーヴィン。」

 

そして彼を見る。

彼はニッと、笑う。

レイは歌を歌い出す。

しばらくして、スレイ達が入って来た。

レイの歌は続く。

レイは彼らに視線を向けた後、探検家メーヴィンの方を見る。

そして、彼らも探検家メーヴィンに気付く。

探検家メーヴィンは立ち上がり、

 

「戻ったな。」

「なんでこんなとこに?」

 

ロゼが彼を見る。

彼は腰に右手を当てて、

 

「なに、石碑が傷付くのは避けたいんでな。どうだった?」

 

そう言って、スレイを見る。

スレイは彼を見つめ、

 

「……誰が悪いってくくれないけど、誰も正しくなかった、そう感じたよ。」

「そうか。それがわかりゃいい。あとは……答えだ。」

 

そう言って、探検家メーヴィンは腕を組む。

レイはスレイを見つめる。

その間も歌は続く。

そしてライラも、

 

「聞かせてください。スレイさんの答えを。」

 

スレイは少し間をあけ、

 

「……オレ、ヘルダルフを救いたい。オレが導師だから災禍の顕主を鎮めるんじゃなくて、先代の導師ミケルの後始末でもなくて。……やっぱさ、穢れて憑魔≪ひょうま≫になった天族は救うのに、穢れのせいで不幸になった人は自分の責任って放っとくの、なんか違うと思うんだ。」

 

それを聞いたレイは、スレイを見て嬉しそうに微笑む。

ライラは驚いたように、確認をするように、

 

「それが、スレイさんの……」

「答えになってるのかな。」

 

スレイはライラに振り返る。

ミクリオはスレイを見て、

 

「……ヘルダルフのような人間はいくらでもいる。あの事件では全て悪い方向に繋がっていっただけだ。」

「……ヘルダルフに同情すんなとまではいわないけどさ。平和な村をあんな事件に巻き込んどいて、何の報いも受けないなんて、そんなの絶対おかしいし。今、酷い事していいってワケないと思うけど?」

 

ロゼは怒りながら、腕を組む。

スレイは頷き、

 

「ああ。それは許せないよ、確かに。絶対止める。」

「そう上でヤツを救うってか。」

 

探検家メーヴィンがスレイに聞く。

スレイは振り返り、

 

「人と天族、両方とも幸せにするにはヘルダルフみたいに、憑魔≪ひょうま≫にされた人も救えないとな!」

 

探検家メーヴィンは彼をジッと見つめる。

レイは嬉しそうに、悲しそうに、空を見上げる。

ミクリオはスレイの背を見て、

 

「そうか……君は……」

「本当にバカね。」

 

エドナもスレイを見て言う。

ロゼは嬉しそうにスレイを見て、

 

「ん!そういえばスレイはこんなヤツだった!」

「……はい。スレイさんはこんな方です。」

 

ライラも手を合わせて言う。

ザビーダは帽子を上げ、

 

「そういうことらしいぜ?刻遺の?」

「あいつにとっての救い……そりゃ……孤独を終わらせる事だ。この意味がわかってるのか。」

 

探検家メーヴィンはスレイを見据える。

スレイは右手を握りしめる。

そしてその拳を見て、

 

「……命を絶つって事かもしれないな。」

「スレイ……」

 

ロゼがスレイを見つめる。

そしてライラも、

 

「……できますの?スレイさん。」

「だな……重要なのは答えよりも、むしろそっちだ。」

 

探検家メーヴィンもそれに同意する。

ライラは頷き、

 

「はい。重要なのはもう迷わないか……いえ、自分の答えを信じぬき、それに至れるかですわ。」

「そのために何が起きようとが、どんな事になろうとも、な。」

 

そう言って、探検家メーヴィンは戦闘態勢に入る。

スレイ達も、身構える。

ロゼが二本の短剣を握り、

 

「何?決意を戦いで証明して見せろってかんじ?」

「平たく言えばそんなところだ。刻≪とき≫にとり遺されたものを倒すには、力の繋がりを断つしかない。その方法を示してみろ。」

 

探検家メーヴィンは完全に戦闘態勢に入る。

スレイは眉を寄せ、

 

「刻≪とき≫にとり遺されたもの……。まさかメーヴィン……?」

「力の繋がりを断つ方法だって……?」

 

ミクリオは考え込む。

探検家メーヴィンは空を見上げ、

 

「『永遠の孤独は呪い』か……なるほどな。」

「おじさん……」

 

ロゼは彼を見つめる。

だが、すぐに殺気を出し、

 

「さぁ、見せてみろ!」

 

レイはそれを見つめる。

瞳を揺らし、彼らの出す答えを見る。

そして探検家メーヴィンの強い意志を感じ、自分は歌い続ける。

 

「手加減不要!これは遊びじゃないぞ!」

 

探検家メーヴィンが先攻をきった。

スレイは剣を抜き、

 

「!けど力の繋がりを断つ方法なんて……」

「それにその方法を使ったとして……」

 

ミクリオも杖を出す。

ロゼが探検家メーヴィンのキセルを短剣で防ぎ、

 

「おじさんはどうなっちゃうんだよ!」

「おまえらが迷う元、わかったな?ケリをつけろ!」

 

彼はロゼを蹴り飛ばす。

ライラがロゼを治療しながら、

 

「メーヴィンさんの想いを無駄にしないで!」

 

スレイは覚悟を決め、彼と対峙する。

と言うより、守りに入る。

彼は少し距離を置き、

 

「見たいのはそんな表面上の強さじゃないぞ。」

「本当に不死身なのか……彼らのように!」

 

ミクリオが眉を寄せて彼を見る。

彼は口の端を上げ、

 

「もうわかってるんだろう?俺を倒す方法を。」

 

探検家メーヴィンの強い意志のこもった瞳を見る。

彼を見つめ、

 

「ああ……仲間を意志ある攻撃にして撃ち込み、力の繋がりを撃ち抜けばいいんだろ。」

「……デゼルがやったっていう……」

 

ロゼが眉を寄せて、視線を落とす。

探検家メーヴィンはスレイを見つめ、

 

「……何故それをしない?俺は憑魔≪ひょうま≫じゃない。今の方法を使っても、仲間が穢れに飲まれる心配はない。」

 

スレイは眉を寄せて視線を落とす。

彼は続ける。

 

「認めたくないか。……俺にその方法を示すって事は、ヘルダルフもそれでしか討てないのを認めるという事だからな。」

「……なんか他の方法ってないの?おじさん!例えば、裁判者や審判者に頼るとか!」

 

ロゼは彼を眉を寄せて、すがるように言う。

探検家メーヴィンは腕を組み、

 

「ない。ライラの浄化の力といえど、ヘルダルフほどの穢れが祓えるのもか。そして審判者が、お前らに力を貸すことは絶対にないと言い切れる。無論、裁判者はあの性格上、手を出してくることもあるまい。願いなら別だが、お前らが裁判者を呼ぶだけの、叶えるだけの願いを紡ぎだせるとも限らない。経験したろう。」

「スレイ……ロゼ……」

 

ミクリオが二人を見る。

探検家メーヴィンはなおも伏せてる彼らに、

 

「お前らは命を秤に乗せられると、途端に揺らいでしまう。仲間の命ならなおさらな。だがそのせいで迷い、迷って出した答えで失敗したら、二度と立ち上がれないだろう。それじゃ美徳が悪徳に変わっちまう。」

 

それにはミクリオも俯く。

 

「ですが、信じた答えに殉じれば、もし失敗しても必ず再び立てます。恐れるべきは失敗ではありません。失敗を恐れ、答えを信じられない事ですわ。」

 

ライラは探検家メーヴィンを見た後、後半はスレイ達を見て言う。

スレイは横目で彼女を見る。

 

「ライラ……」

 

ライラはスレイの横に歩み寄ると、

 

「さあ、スレイさん!」

 

探検家メーヴィンの方を見て、構える。

スレイは拳を強く握りしめる。

探検家メーヴィンはレイを見る。

そしてレイは歌いながら、頷く。

探検家メーヴィンはスレイ達を見て、

 

「茶番にしたいのなら終わらせてやる!」

 

彼はキセルをスレイの方に飛ばす。

それは回転しながら向かっていく。

 

「示せ!言葉だけじゃないと!」

 

スレイは剣でそれを防ぐ。

そして跳ね返したキセルを探検家メーヴィンは再び握り、

 

「信じる心を!」

 

彼は懇親の一撃をスレイに与える。

そしてスレイを壁に叩き付けた。

その余波で、ロゼとミクリオ、ライラも吹き飛ばされる。

彼は背を向け、

 

「……ライラ。残念だったな。こいつらわかっちゃいないみたいだ。無駄だったな……全て……」

 

そして歩き出す。

その背に、

 

「いえ……もう少しですわ。時に自分の無力に怒りを覚えても、時に仲間を失って悲しんでも、道を惑わせようとする悪意に見≪まみ≫えても、ちゃんとスレイさん達は自分のままここまで来たのです。」

 

ライラが身を起こしながら言う。

そしてスレイ、ロゼ、ミクリオは少しずつ力を入れて、体を起こしていく。

ライラは彼らを見つめ、そして探検家メーヴィンを見る。

そして手を広げて、

 

「悩みながらも穢れることなく、みんなでここまで。」

 

探検家メーヴィンはそれを見て、

 

「たいした女だ。」

 

そして今まで見守っていたエドナは、

 

「言っとくわ。ワタシは後悔したくないし、させたくもない。」

「スレイ、ロゼちゃん。マヒしちゃったん?憑魔≪ひょうま≫とやりあってるかぎり基本、命がけだろ?今更じゃね?」

 

同じように、見守っていたザビーダが被っていた帽子を取り、クルクル回しながら言う。

ロゼは二人を見て、

 

「エドナ……ザビーダ……」

「ロゼ。二人の言うとおりだ。」

 

そのロゼの背に、ミクリオが言う。

そしてスレイを見て、

 

「スレイ、レディレイクで僕が言った事、覚えてるか?僕は足手まといになるためについてきたんじゃない。そう言ったよな。改めて言った方がいいかい?」

「……いいや。」

 

スレイは首を振る。

ライラが手を握り合わせ、スレイを見る。

 

「導師スレイが信じる答えは、きっと災厄の時代に終焉をもたらしますわ。」

「さぁ、僕たちにも見せてくれ。」

 

ミクリオが彼の背に叫ぶ。

そして天族組は彼の背に、叫ぶ。

 

「「「スレイ!」」」「スレイさん!」

「みんな……」

 

スレイはロゼを見る。

ロゼはスレイを見て、とびっきりの笑顔で頷く。

それを見た探検家メーヴィンは、

 

「……いい仲間じゃないか。」

「ああ。」

 

そして立ち上がり、探検家メーヴィンを見つめる。

レイはその瞬間、瞳を大きく揺らす。

スレイ達の未来を見た。

彼らの想い願う未来を……一つの選択肢として。

レイは涙を流す。

そしてそこに災禍の顕主ヘルダルフのもう一つの選択肢も……

 

『……それは……誰もが願うもの。だけど手に入れられず、崩れ落ちる。でも、その願いならきっと……私≪裁判者≫ではなく、お兄ちゃん達自身で手に入れなければならない。それがお兄ちゃん達の後悔のない選択肢の一つ……なら、私自身の答えと願いは……」

 

スレイは銃≪ジークフリート≫を取り出し、

 

「いくぞ!」

「こい!」

 

彼は構える。

スレイはミクリオと神依≪カムイ≫をして、

 

「メーヴィン!これが!答えだ!」

 

そう言って、引鉄を引こうとした。

が、探検家メーヴィンは倒れ込む。

 

「おじさん⁈」

 

ロゼが彼に駆け寄る。

そしてスレイも、

 

「メーヴィン?」

 

神依≪カムイ≫を解いて、駆け寄った。

無論、他の者達も。

レイだけは未だ同じ場所で歌い続ける。

スレイが探検家メーヴィンの前で膝を着く。

彼は弱弱しい声で、

 

「……受け止めてやるまで持つと思ったんだが……なにせ、裁判者に願ったからな。」

「メーヴィン?」

 

ライラがスレイの反対側に座り、

 

「メーヴィンさん……ごめんなさい。」

 

そして頭を下げた。

エドナが彼を見て、

 

「あなたもバカね。」

「違いない……だが後悔はない。」

 

探検家メーヴィンは小さく笑う。

スレイは眉を寄せて、

 

「どうしたんだ!何を言ってるんだ!」

「おじさん!」

 

ロゼがライラの隣に手を着いて、彼の顔を見つめる。

すると彼は空を見上げ、

 

「禁忌を犯したからな……」

「誓約で得た特別な力はそれを破れば消え失せる……そういうこった。」

 

ザビーダが帽子を深くかぶり、真剣な表情で言う。

ミクリオは彼を見て、

 

「それじゃ最初から……」

「……ライラを責めるなよ。そして裁判者……いや、チビちゃんにもな。お前らのためにこれが正しいと信じたんだ……俺も自分で決めた……」

 

スレイは瞳を揺らしながら、だが力強い瞳で、

 

「オレも信じるよ。自分の答え……仲間を。そのためにやらなきゃいけない事を迷わない……後悔しないために!」

 

他の者達も頷く。

探検家メーヴィンはポケットから一つの石を取り出す。

それは光り輝く瞳石≪どうせき≫。

だが、いつものとは少し違た。

 

「まだ……あったのか?」

 

ミクリオが眉を寄せる。

探検家メーヴィンは首を振り、

 

「……これは大地の記憶じゃない。裁判者の想いに対する記憶だ。カムランの村の記憶を渡された時、一緒に渡された。」

 

スレイはそれを受け取る。

だが、何も起こらない。

探検家メーヴィンは小さく笑い、

 

「……反応しないと言うことは、まだチビちゃんが裁判者としての記憶を……本当の意味で、全て取り戻していない証拠だ。そしてチビちゃんが答えを出していない証拠でもある。」

「え?」

「……裁判者はこれを渡した時に言った。この瞳石≪どうせき≫は裁判者の力を持った『レイ』という器が導師の側に居たら、俺の意思で導師に渡せと。刻遺の語り部としてではなく、一人の導師の関係者として……。半信半疑だったが、本当に一緒に居たんだからビックリだった。それに背も縮んでたしな……」

 

探検家メーヴィンはスレイを見上げ、

 

「……スレイ、あの二人は長い時を生き続けた。それこそ、天族よりも……。二人はまだ本当の意味で子供なんだ……成長途中の、な……だから、あの二人を変えてやってくれ……先代導師ミケルのように……」

「それはメーヴィンが、この瞳石≪どうせき≫を見たから?」

「……ああ、半分だけだが……俺はそう思った。」

「半分だけ?」

「ああ……裁判者はすでに答えを決めてるって事だ。」

 

スレイは眉寄せて、困惑する。

そしてミクリオを見上げた。

 

「……たとえ何が起ころうと、レイは僕たちの妹だ、じゃないの?」

「……ああ!そうだよな!」

 

スレイは頷き、探検家メーヴィンを見た。

彼は嬉しそうに笑い、

 

「……そろそろお別れだ。スレイ、チビちゃんにお礼を言っといてくれ。歌、ありがとなって。」

「……ああ。……オレ、メーヴィンに教えて貰ったこと絶対忘れない。ずっと伝えていく!」

「スレイ、お前……」

 

探検家メーヴィンは弱弱しくなっていく。

その彼はスレイの言葉を聞き、眉を寄せた。

スレイは頷き、ロゼを見る。

ロゼもスレイを力強い瞳で見る。

探検家メーヴィンは笑う。

 

「……ふ。俺が看取られるなんて……考えたことも……なかった。だから……チビちゃんだけの歌でいいと思ったのにな……あり……が……」

 

最後スレイの方を見て、最後まで言えずに手が落ちる。

そして持っていたキセルが地面に転がる。

レイは瞳を揺らし、歌が止まる。

 

「……さよなら……メーヴィン……刻遺の語り部よ。」

 

そう言って、スレイ達の元へ歩いて行く。

スレイはとっさに瞳石≪どうせき≫をしまった。

レイはスレイを見て、

 

「……埋葬するの?」

「ああ。」

 

スレイは頷き、探検家メーヴィンを抱き上げる。

そして遺跡のすぐ傍に小さいが墓をつくる。

スレイはその墓に彼のキセルと花を置く。

レイは歌を歌い出した。

歌い終わり、

 

「これで本当のお別れ。」

「ああ。」

 

スレイは後ろに振り返り、

 

「行こう!」

「カムランだね。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

スレイは頷き、

 

「ああ。マオテラスはそこにまだ居るはずだ。」

「とにかく、まずはイズチへ。」

 

ミクリオが腕を組む。

スレイも腕を組み、

 

「カムランへ通じる道があるはずだ。村が崩壊した直後にジイジが駆けつけたし。」

 

それにロゼがポンと手を叩き、

 

「そっか。カムランってイズチの近くだったんだ。」

「おそらくね。それだとハイランドとローランス、北の大国にとって戦略的に重要という条件にも合う。」

 

ミクリオが地形を思い出すながら言う。

ザビーダが腕を組み、

 

「ま、そうだろうな。ただしカムランへの道は封じられているみてえだが。」

「……僕の母によってね。」

「泣いても――」

「泣かないって言ってるだろう!」

 

俯いたミクリオにエドナがいつものように言う。

ミクリオはすぐに顔を上げ、反論した。

ザビーダは肩を少し上げ、

 

「ま、それだけじゃないがな。カムランへの道はミク坊の母親。そしてその扉に近付くには裁判者の許可がいる。で、おそらくマオテラスが居ると思われる扉には裁判者だけでなく、審判者の許可も必要だろうな。」

「そうか……扉の守る番人とか言っていたな。 だが、審判者は協力することはないとメーヴィンが断言していた。だとすれば、どうやって行くかだが……」

 

そう言って、ミクリオはレイを見る。

そしてスレイもレイを見て、

 

「可能ならその辺教えてくれる、レイ?」

「……」

 

レイは無言だった。

スレイは頭を掻きながら、

 

「やっぱ、その辺は教えてくれないか……仕方ない、自分達で――」

「あ……ごめん。なに、お兄ちゃん?」

「へ?」

 

レイはスレイを見上げた。

スレイはレイを見て、

 

「え、あ、はい。えっと、カムランに行く扉とマオテラスがいるかもしれない扉についてなんだけど……」

「……」

 

レイはスレイを見上げて、黙り込んだ。

スレイは再び頭を掻きながら、

 

「やっぱりムリか……」

「……今回の大地の記憶で見て、お兄ちゃん達も知ったよね。カムランへの扉はミューズによって封じてある。そしてそれを裁判者が彼女との盟約で、巧妙に隠している。そしてその中に入るには、扉にはカギが必要。でも、多分……ヘルダルフはその扉にまだ気づいていないと思う。もし気付いていれば、彼はすぐにでも行くと思うから。でも仮にカムランに入るための扉を見つけた場合、審判者がそれを壊すだろうね。あの扉は本来の扉ではなく、カムランに入るための扉に過ぎないから。」

 

レイはスレイだけでなく、全員を見て言った。

そしてレイは続ける。

 

「そして憑魔≪ひょうま≫と化しているマオテラスがいるのは、大地の記憶で見たあの神殿の中の最奥の扉の中。でも、審判者はマオテラスのいる扉にヘルダルフを案内できても、カギは渡さないと思う。それは審判者として、そして導師ミケルを知る者として、そしてマオテラスとの盟約によって、それは絶対にしないと私は思う。」

「そう……つまり、その為にはカギが必須になるのね。カムランに入るにも、マオテラスの所に行くにも。で、そのカギはどうやったら手に入るかが問題ね。そうね、おチビちゃん。」

 

エドナがいつになく真剣に聞く。

レイは頷く。

 

「ん。でも、カギについては言えない。これはとても大切な事だから。」

「そう。なら、頑張りなさい、スレイ。」

「え⁉あ、うん!ガンバル‼」

 

スレイはは意外に素直なエドナに驚いた。

そして、一行はひとまずカムランに入るための扉とカギについて調べ始める事にする。

だが、その為にもその先に災禍の顕主ヘルダルフに会わなくてはならない。

 

「……いよいよ決戦ですわね。」

「終わらせましょ。」

「だな。」

 

ライラの言葉に、エドナ、ザビーダが続いた。

スレイは頷く。

ロゼが腰に手を当てて、

 

「でも、マオテラスとヘルダルフの繋がりが無くなったらもう何も心配しなくていいのかな。」

「どうだろう……。大地を器とするほどの存在だ。果たしてそれだけでいいか……」

 

ミクリオは腕を組む。

スレイも腕を組み、

 

「ああ。大地の穢れ全てを浄化しなきゃダメかもしれない。」

「どうなん?ライラ?」

 

ザビーダはライラを見た。

ライラは視線を外し、手を合わせて、

 

「たけやぶやけた!はい!」

「「たけやぶやけた!」」

 

ザビーダは大笑いしながら、ライラと共に言う。

ミクリオは呆れながら、

 

「絶対わざと振ってる……」

「本来、大地の穢れは裁判者と審判者だけでなく、あの坊やも浄化してた。そしてあの子の力は大地の営み、そのもの。」

 

エドナが説明した。

スレイが顎に手をやり、

 

「自浄作用みたいなもんか。」

「……今回はそれだけじゃ足りないかもねぇ。」

 

ザビーダは手を上げた。

ライラがスレイを見て、

 

「導師の活動は大地の自浄作用を、外から助けているといえます。」

「裁判者と審判者はともかく、マオテラスは限界があるからね。それを知り、共に浄化をしていた数多くいた導師達は……」

「今はスレイ一人、か。」

 

ライラの言葉に続いたレイの言葉に、ロゼは頭に手をやってため息をつく。

スレイはロゼを見て、

 

「ちゃんと考えないといけないな。けど、考え込んでもしょうがない。」

「だね。」

 

ロゼも頷く。

そしてスレイは皆を見て、

 

「よし、ヘルダルフを探そう!」

「きっと見つかるよ。あいつ、『頭隠して穢れ隠さず』だからね。」

 

彼らは歩き出した。


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