テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第三十三話 真実を知るために~その2~

スレイ達は翌朝、帝都ペンドラゴに向かって歩いていた。

スレイは嬉しそうに、少し不安そうに思い出す。

 

「今頃、セルゲイ達頑張ってるよな。」

「そりゃあ、頑張ってもらわないと困るよ。セルゲイたちはただの騎士団じゃなくて、政治の調整や街の警備までやってるんだから。どうせ行くんだから、陣中見舞い行ってみる?」

「そうだな。」

 

ロゼの言葉に、スレイは頷く。

帝都ペンドラゴに入り、

 

「レイ、手を繋ぐか?」

「え?」

 

スレイがレイを見下ろしていった。

レイはそれに首を傾げた。

ロゼは意外そうに、

 

「ほら、裁判者の力が戻って色々ごちゃごちゃしちゃってるんじゃない?」

「あー……うん。今は大丈夫、かな?辛くなったらお兄ちゃんの手を握るよ。」

「そっか。わかった。」

 

そして街の中に入り、辺りを歩く。

少し街の雰囲気は変わっていた。

街人達の声が聞こえてくる。

 

「もう何日連続で続いているんだ、って感じだぜ。しかも殺されてるのは、貧しいやつらばかりときてる。ほんと許せねえよ。」

「まぁこれまでの事を考えたら、今晩も事件が起こるかもしれないんだ。確かに騎士団にはなんとかしてほしいもんだな。夜の警備はもっと強化するとかよ。」

「騎士団に文句言いたくなる気持ちは分かるぜ。教会とモメたりとか、なんか本文からズレてんだよな。」

「市民に疑心が広がってしまっている……。しかし、この状況では私にできることは……」

 

と、どこか殺気立っており、司祭までもが暗かった。

一人の女性にロゼが話し掛け、街の状況を聞いた。

 

「すみません。なんか、街の様子が変って感じなんですけど……何があったんですか?」

「実は……ここ何日か連続で殺人事件が起きててね。その被害者の遺族たちが騒いでいるのよ。殺されたのは貧しい市民ばかりでね。近頃は国も不安定だから、余計黙ってられないんだよ。そうそう、犯行は決まって夜らしいんだけど、犯人の手掛かりはほとんど無いんだってさ。あんたらも、夜にであるくのは控えておきな。万が一があるかもしれないよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 

そう言って、離れる。

そして教会に入り、レイが歩いて行く。

スレイ達はその後ろに付いて行くと、

 

「ここ。後はお兄ちゃんたち自身で見つけて。」

「……ああ。」

 

スレイ達はレイに案内された本棚を調べ始める。

そしてロゼが一冊の本を見て、

 

「スレイ。これ。」

「これって……」

 

スレイ達は本の中身を読む。

 

――エニド・フォートン。

フォートン三姉妹の長姉

明朗快活な修道女であったが、エリック司祭と通じ、不義の子を成す。

両人ともに破門。

ザフゴット原野の果てのホルサ村に追放処分となる

――ロディーヌ・フォートン。

フォートン三姉妹の次姉

慈愛と奉仕の精神にあふれた修道女。

その貢身によって一部信仰者から聖女の尊名を得る

プリズナーバック湿原の開拓計画に賛同。

信者を率いて移住を果たす

開拓計画の詳細については別資料を参照のこと

――リュネット・フォートン。

フォートン三姉妹の末妹

豊富な学識を備え、弁舌に秀でた修道女。

教会の内部、財務の再建に功績を残す

マシドラ教皇失踪後、数々の軌跡を残し、枢機卿に選出される

――付記。

三姉妹の出身地はグレイブガンド盆地の奥にあるフォートン村

極貧の村ゆえに、三姉妹は口減らしのため半強制的に修道女にされていたと思われる

 

それを見終わったスレイは顔を上げ、

 

「まさかメデューサ種の正体って……」

「どっちも枢機卿の姉なのかもね。」

 

エドナが少し首を傾げて言う。

スレイが驚きながら、

 

「あるのか?そんな偶然が。」

「レイ……裁判者には聞けないから、本人に聞いてみるしかないよね。ホントのことは。」

 

ロゼが腰に手を当てていう。

ミクリオはロゼを見て、

 

「どうやって?」

「それは……えっと……」

 

ロゼが腕を組んで悩む。

それぞれ悩み出す。

レイがロゼの服の裾を引っ張る。

ロゼはしゃがみ、耳元で言う。

 

「彼らの帰りたかった最初の原点。三人が共に居られた少ない時間……」

 

ロゼがレイを見て、

 

「故郷……」

 

レイは瞳を揺らす。

ロゼは頷き、立ち上がって、

 

「故郷に帰ってる気がする。」

「それも勘か?」

 

ミクリオが聞く。

ロゼがミクリオを見て、

 

「ま、ね。そういうものだよ、人間って。ね?」

 

そう言ってレイを見た。

レイは少し笑った。

ミクリオは腕を組んだまま、

 

「……まあ、心理的には可能性はあるが。」

「くくく、一理の半分くらいはありそうだ。」

 

ザビーダはレイを見た後、笑う。

スレイはそれには気付かず、

 

「それにロゼの勘って当たるしな。」

「ですが、今は無理ですわ。グレイブガンド盆地は閉鎖されていますから。」

 

ライラがスレイ達を見る。

スレイは顎に手を当て、

 

「機会を待つしかないか……」

 

全員は頷く。

 

スレイ達が騎士セルゲイに会いに、騎士団塔へ行くと、

 

「一体なにやってんだ、騎士団は!」

「もう十人も殺されてるのに、手がかりもつかめないなんて……」

 

騎士セルゲイは市民達に囲まれていた。

そして騎士セルゲイは市民達を落ち着かせる。

 

「どうか落ち着いてくれ。我々も全力で捜査を進めている。」

 

だが、市民達はその熱気は収まらない。

 

「捕まえなきゃ意味ないだろう!殺人鬼が野放しなんだぞ!」

「皆の不安はわかるが、信じてもらいたい。騎士の名誉に賭けて必ず捕らえる。」

 

騎士セルゲイは胸に手を当てて言う。

レイは目を細め、それを見る。

そして小さく、

 

「本当、感情って厄介だ……」

 

市民達はそれでも収まっていなかった。

 

「ふん。団長さんは別の名誉に目が眩んでいるって、もっぱらの噂だぜ。やけに熱心に政治に口を出してるってな。」

「そういうことか。そりゃあ、庶民の命より権力の方が大事だろうさ!」

「違う!そのようなことは断じて!」

 

騎士セルゲイは眉を深くする。

そこに、司祭の男性が市民達の前に出る。

 

「皆さん。フォートン枢機卿の件も未だ捜査中。騎士団も人手が足りないのでしょう。騎士といえども、人。その無力を責めてはいけません。」

 

そう言うと、人々は渋々その場を後にする。

レイは司祭をじっと見て、

 

「……なるほど、あの人……」

 

小さく呟いた。

そして騎士セルゲイは司祭の男性を見て、

 

「……お気遣い、かたじけない。アミシスト司祭。」

「人は弱い。それを認めなくてはいけません。己の本性に気付かぬ傲慢さこそ真の悪なのですから。」

 

司祭も騎士セルゲイに振り返って言う。

騎士セルゲイは拳を握りしめ、

 

「人は無力です。だからこそ自分は全力を尽くそうと思います。」

 

そして最後はまっすぐに司祭の顔を見て言う。

司祭は優しく微笑み、

 

「さすがはセルゲイ団長。その心がけにこそ救いをもたらすでしょう。」

 

そう言って、司祭は歩いて行った。

レイはその司祭を見つめ、

 

「さて、あの人間は願いをどうするか……」

 

その後、騎士セルゲイに視線を戻す。

そして騎士セルゲイは近付いて来たスレイ達の方を見て、

 

「すまないが、見ての通りだ。自分は捜査に向かわねばならない。」

 

スレイは頷く。

彼も頷き、歩いて行く。

レイがスレイに何か言う前に、ミクリオが腕を組み、

 

「連続殺人事件……これって憑魔≪ひょうま≫の仕業じゃないか?」

「調べてみよう。」

「うん。さすがにほっとけないもんね。大きな騒ぎになってるみたいだし、街の人に聞き込みすれば何かしら情報は掴めるんじゃないかな。」

「だな。」

 

レイは空を見上げる。

首を振った後、スレイ達の元に駆けて行く。

ロゼを中心に、聞き込みを行う。

と、一人の男性がぼやいていた。

 

「事件の犯行が夜ってのはまぁ分かるけどさぁ。犯人の手掛かりが見つからないのはどうしてだろうな。」

 

その言葉通り、聞き込みを行うと誰もが同じような事を言う。

ミクリオがスレイを見て、

 

「どうやら夜行性の憑魔≪ひょうま≫のようだな。夜を待って調べてみよう。」

「なーんかひっかかるなあ。」

「何かって?」

 

ミクリオはロゼを見る。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「『なーんか』だよ。上手く言えないんだけど。」

「とりあえず、夜を待とう。」

 

スレイがミクリオとロゼを見る。

二人は頷く。

そして街を歩いていると、一人の商人が仲間の商人に話していた。

 

「ゾッドのやつ、ウェストロンホルドの裂け谷から、まだ、戻ってないらしいな。瞳石≪どうせき≫なんて面倒なもんより、もっと地道に商売すればいいんだがな。」

 

それを聞いたスレイが、

 

「瞳石≪どうせき≫を扱う宝石商か。」

「この殺人事件が解決したら、ウェストロンホルドの裂け谷に向かいましょう。」

「そうだな。」

 

スレイが頷く。

そして宿屋に行き、夜になるのを待つ。

 

夜になるまで、レイは寝ていた。

そして夢を久々に見た。

門が視える。

そしてその近くに女性の気配がする。

どこか懐かしく、誰かに似た女性。

私≪レイ≫がその女性に手を伸ばそうとした時、

 

「ダメだ。あいつに触れる事は、今のお前には許されない。」

「……どうして?」

 

レイは掴まれたその手の主を見る。

自分と同じ顔、同じ服だが色だけが違う小さな少女。

彼女はいつもと変わらない裁判者の顔で、

 

「あれに近付いていいのは盟約を知っている私≪裁判者≫だけだ。導師達の方に動きが出たな。早く行け。」

 

レイは後ろを振り返る。

スレイ達の声が聞こえる。

レイが目を覚ます瞬間、彼女は呟いた。

 

「ここまで来れるようになったのなら、お前は今に全てを思い出す。」

「え?それは――」

 

だが、彼女に問う前に目が覚めた。

レイは起き上がり、辺りを見る。

スレイ達はいない。

レイは部屋を出て、外に居たスレイ達に近付いた。

 

「レイ、起きたのか?」

「私も行く。」

 

スレイが目をパチクリしていった。

レイは夜の街を見る。

月が街を照らす。

 

「……」

「気味が悪いですよね。何か出そうで。」

 

ライラがレイが黙り込んだままだったので、余計にそう思えた。

だが、ロゼは腕を組んで、

 

「う~ん……」

 

深刻そうな顔で唸っているロゼを見て、ライラが焦ったのように、

 

「怖がらせてしまいましたか?」

「ううん。妙に気持ち悪くてさ……」

 

スレイ達は街を歩く。

と、レイが立ち止まり、辺りを見渡す。

 

「レイ?」

 

スレイがレイを見下ろすと、

 

「……やっぱり……あっちか……」

 

レイは走り出した。

スレイは驚いて、

 

「え⁉レイ⁉」

「とりあえず追うよ、スレイ!」

「あ、ああ!」

 

ロゼがスレイを追い越して叫ぶ。

スレイも急いで走り出す。

レイが行った先は教会神殿だった。

そしてその先には騎士セルゲイと倒れ込んだ人がいた。

ロゼはそれを見て、

 

「スレイ、あそこ!」

 

スレイとロゼが急いで二人の元に駆けよる。

が、レイはそれを追い越して中に向かう。

 

「レイ!」

 

スレイが走るレイを見る。

ロゼは倒れている男性を見ると、彼は苦しそうに呟く。

 

「なぜ……不満を言っただけ……なのに……」

「いかん!毒を飲まされてる。」

 

騎士セルゲイが彼に処置を施す。

スレイが手伝おうとすると、騎士セルゲイがスレイを見て、

 

「は!いかん、スレイ!犯人は教会の中だ!すまないが、先に行っててくれ!」

「わかった!ロゼ、急いで教会の中へ行くぞ!」

「了解!レイも色んな意味で心配!それに逃したらまた被害者が出る!絶対追い詰めなきゃ。」

 

スレイとロゼは中に駆けこむ。

奥に走りながら進みながら、

 

「例の殺人鬼か⁉なんで教会に⁉」

「とりあえず、考えるのは後!急ぐよ!」

 

ロゼがスレイを見て言う。

スレイが扉を開けると、レイが倒れていた。

そしてスレイがレイの眼の前に居る人物を見て驚いた。

 

「うっ⁉」

 

その殺人鬼だと思われる人物は司祭の服を着た男性。

そして彼の周りには四人の市民が倒れていた。

ミクリオが倒れている人達を見て、

 

「死んでる……のか。」

 

そして倒れているレイを見る。

 

「レイは……大丈夫なのか⁉」

 

そこに騎士セルゲイも駆けつける。

そう司祭は騎士団塔で、騎士セルゲイと会話していた司祭アミシスト。

司祭は嬉しそうに微笑み、ミクリオを見て、

 

「死ではなく浄化ですよ、天族様。悪を浄化したのです。この少女には申し訳ない事をしました。ですが、この少女も――」

「こいつ、僕の声が!」

 

そして全員が武器に手を掻ける。

対して司祭はなおも嬉しそうに、

 

「なにを今更。夢の中で何度も、道を示してくださったではありませんか。『救世こそ私の使命だ』と。」

 

と、レイの方がビックンと動き、

 

「ゴホッ!……ゲホッ!」

 

レイが身を起こす。

そして、司祭を見上げた。

 

「……これは……そうですか。あんたは死ぬべきではないと、天族様が助けたのですね。」

「違う。」

「……え?」

「私自信は人に近い。裁判者とて、毒を盛られれば一時的には死ぬ。でも、人や天族の作り出す毒に私≪裁判者≫は死なない。」

 

レイの瞳が赤く光る。

そしてレイは立ち上がり、

 

「貴方は願いと想いをはき違えている。本来なら私≪裁判者≫が叶えるべき願いを、あの人間達と同じようにはき違えた。貴方が与える死が、救いと……」

 

それを聞いた騎士セルゲイが、

 

「つまり、救いだというのか?こんな殺人が。」

 

騎士セルゲイは眉を深くして言う。

司祭から笑顔が消え、

 

「この者達が悪いのです。己の弱さを認めようとしない。それどころか、一方的に国や騎士団、果ては教会まで非難する始末。なんと醜悪な者ども……。これが穢れでなくてなんだというのです?」

「……本気でいってるんだね?」

 

ロゼが司祭を睨む。

そしてレイも瞳を細める。

彼は至って真剣な表情で、

 

「それこそ冗談ではない。この世は絶望的に穢れている。醜悪なる者を消さねば、すぐに滅びてしまう。残酷なのはわかっています。だが、やらねば。それが私の使命なのですから。」

「……憐れな人間……」

 

レイは小さく呟いた。

スレイは後ろのライラを見て、

 

「ライラ、この人は……」

「はい。憑魔≪ひょうま≫ではありません。」

 

スレイ達は武器から手を放す。

レイは騎士セルゲイを見て、

 

「この件は導師が関わる件ではなくなった。どうする?」

 

騎士セルゲイは一呼吸置き、司祭の前に歩いて行く。

レイは横にずれる。

そして彼は司祭を見て、

 

「……アミシスト司祭。連続殺人の容疑で逮捕する。」

 

司祭は優しく微笑み、

 

「ふふ、私は人の法で縛るのですか?愚かですが、責めはしません。」

 

レイは司祭を横目で見上げる。

彼は騎士セルゲイを見つめ、

 

「知ってますよ。貴方の弟はフォートン枢機卿を害そうとして返り討ちにあったとか。」

 

騎士セルゲイは司祭から視線を外し、拳を握りしめる。

彼は続けた。

 

「大方、教会に災厄の責を押しつけようとした、弱い人間だったのでしょう。貴方はそんな弟の罪を必死に償おうとしている。救われるべきは健気な心がけです。」

「勝手なことを――!」

 

スレイが眉を寄せて怒る。

だが、騎士セルゲイがさらに拳を強く握りしめ、

 

「いいのだ、スレイ。」

 

と、そこにレイが笑い出した。

 

「クス、クスクス。」

「何がおかしいのです?」

 

司祭がレイを見る。

笑うのを止め、レイも司祭を見る。

 

「憐れを通り越して愚かだね。人間は本当に……感情という不可解なものに囚われ、こうも簡単に同族を落とす。これを愚かと言わず、何と言う?」

 

スレイ達は眉を寄せて、困惑していた。

司祭もまた、困惑していた。

 

「あなたは……」

「でも、貴方の言う通り。セルゲイの弟の心は弱かった。だからあの人間に負けた。」

「ああ。そうだ。あながち間違っていない。」

 

騎士セルゲイが呟いた。

司祭は再び騎士セルゲイを見て、

 

「そうでしょうとも。どうか悩みを話してください。貴方のような方を救うのが私の使命なのですから。」

 

騎士セルゲイは目を瞑り、顔を上げる。

レイは横目で騎士セルゲイを見据える。

彼は目を開き、

 

「スレイ、天族の方々。どうか見捨てないで欲しい……人間を。」

 

そう口にした。

レイは一度瞳を揺らした後、瞬きをする。

そして騎士セルゲイは再び司祭を見つめ、

 

「ご同行を。」

「……ええ、いいでしょう。」

 

と、歩き出す司祭の手を掴み、

 

「……忘れるな。今回はお前自身に自覚がなかったから、私は直接手は出さない。が、お前自身に自覚が芽生え、同じことをした時は、お前に手を下すのは人でも、天族でも、導師でもなく、私だ。」

 

赤く光る瞳が彼を射貫いた。

彼は一瞬脅えた後、騎士セルゲイと共に歩いて行く。

レイは騎士セルゲイの背を見て、

 

「一つだけ言っておく。お前の弟は弱った。だが、あいつ≪審判者≫を呼ぶだけの意志は強かった。私≪裁判者≫ではなく、あいつ≪審判者≫を。なにより、お前の弟は最後までお前を信じていた。これは事実だ。だからお前ははき違えるな。器や導師が想うように。」

 

騎士セルゲイは一度立ち止まり、再び歩いて行った。

その後すぐに、騎士セルゲイが手配した騎士団の者たちが、司祭に殺された人々を運んで行った。

ロゼがレイ≪裁判者≫を睨んで、

 

「で、アンタはいつからアンタだったの?」

「人間騎士が懺悔したときだ。」

「ウソ!」

 

ロゼが眉を深くして言った。

レイ≪裁判者≫はロゼを見て、

 

「事実だ。あの司祭の人間を見た時から器は気付いていた。が、それをお前達に言わなかったのも、ここに一人で先に入ったのも、器の意志だ。そしてあの言葉と感情を口に出させたのも、な。」

「な⁉」

 

ロゼは目を見開いた。

レイ≪裁判者≫はスレイを見て、

 

「導師、器は他人の感情だけでなく、自身の感情も理解し始めた証拠であり、結果だ。だが、今回は力が戻るのが早くて良かったな。」

「どういう意味だ?」

 

スレイがジッとレイ≪裁判者≫を見つめる。

彼女は何食わぬ表情で、

 

「今回、器が裁判者の力が戻る前に毒を盛られていれば、こうも早く蘇生する事はなかっただろう。」

「それはアンタが、おチビちゃんの力を封じたからでしょ!」

 

エドナが声を上げる。

だが、レイ≪裁判者≫は赤く光る瞳を全員に向け、

 

「では、世界をも壊すことのできる力を私情で使っていいと?」

「はあ?私情って……」

 

エドナは傘を握りしめて言う。

彼女はそのまま続けた。

 

「ああ、私情だ。……そうだな。お前達のことろで言う……『アイツのせいだ』、『アイツが悪い』、『殺されて当然のヤツだ』と、裁判者が人間や天族共と同じように私情を挟み、力を使って殺したりしたら、憑魔≪ひょうま≫以上に達が悪いぞ。そう思わないのは、我らの力を本当の意味で理解していないからか?それとも理解したくないからか?」

 

スレイ達は無言となる。

彼女は視線を外し、

 

「それと、今回の件の事は入れ替わった後も、器自身も視ていた。説明は不要だ。」

「どうして急に……」

 

レイ≪裁判者≫はスレイを見て、

 

「最早、入れ替わった時に私が何をしているかを、器に知られてもいいと言うことだ。忘れるな導師、お前がどう思うと一度狂い出した歯車は、簡単には戻らない。むしろ直すより、それを元々あった歯車にした方が早い。」

「え?」

「私≪裁判者≫から、導師への最期の私情だ。」

 

そう言って、瞬きをする。

少し間を置いた後、

 

「……エドナの言った通り、あの人嫌いかも……」

 

そう呟き、聖堂の荷をあさり出した。

スレイが慌てて、

 

「ちょ、レイ⁉」

「大丈夫。えっと……確かこの辺に転がった……」

 

と、開いていた荷の隙間の中に入って行った。

しばらくレイはその中でごそごそ聞こえてくる。

出てこないレイが荷物をあさってる間、スレイは改めて司祭を思い出す。

 

「あんな人がいるなんて……」

 

スレイの呟きに、ロゼが反応した。

スレイを見て、

 

「うん……ショックだよね。けど、本当に人なのかな?」

「あれは人だよ。あの憑魔≪ひょうま≫となって、精神を壊した人間とは似ていて違う。」

 

レイが荷物の中から言う。

ロゼはレイが入った荷物の方を見て、

 

「レイ。今のレイは――」

「あった!」

 

と、ロゼの言葉をさえぎって、本人が荷物の中から這い出てくる。

出て来たレイの手の中には、光り輝く瞳石≪どうせき≫があった。

 

「瞳石≪どうせき≫⁉」

「でも、勝手に持ち出したら……」

 

ロゼとスレイが互いに見合う。

レイが二人を見上げ、

 

「大丈夫。死んでしまった人間が持っていたものだから。身内もいないみたいだし、奉納される前に殺されたから盗っても大丈夫。むしろ、その方がいい。」

 

レイは瞳石≪どうせき≫をじっと見て言う。

スレイが頭を掻いて、どうしようかとしていた時、

 

「もしや、導師様?」

「え?あ、はい。」

 

そこには一人の司祭が居た。

司祭はスレイに嬉しそうに近付居た後、悲しそうに頭を下げた。

 

「この度は我が司祭の一人がとんだ無礼を……申し訳ありません!なにかご迷惑をお掛けしてしまったお詫びをさせて下さい!」

「え⁉いや……頭をあげてください。オレは……」

 

スレイは頭を上げない司祭をじっと見て、ロゼを見た。

ロゼは考え込んだ後、

 

「じゃあさ、この子の持ってる瞳石≪どうせき≫をくれない?それで今回はチャラ。それでもまだ悔やむ気持ちがあるなら、騎士団と一緒に街の人たちの為に尽力を尽くして。ね?」

「ああ。」

 

スレイも頷く。

司祭は頭を上げ、涙を流して、

 

「あ、ありがとうございます!導師様!」

 

そう言って、司祭は歩いて行った。

レイは首を傾げ、

 

「……これでよかったの?」

「ああ。むしろこの方がよかった。」

 

スレイはホッとしたように言う。

レイは視線を外し、

 

「そ。」

 

スレイがレイの持つ瞳石≪どうせき≫を取る瞬間、

 

「待った!」

 

ロゼがスレイの手を止める。

スレイはロゼを見て、

 

「ロゼ?」

「スレイ、ちょい待ち。」

 

そしてロゼは膝を着いて、レイと目線を合わせ、

 

「ねえ、レイ。」

「……なに?」

 

レイは視線を外す。

ロゼがレイの肩を掴んで、

 

「私の眼を見て答えて。あの時の司祭に言った言葉……あれは本当にレイの言葉?」

「……」

 

レイは視線を外したまま、無言だった。

ロゼはジッとレイを見つめる。

レイは俯き、顔を上げて、ロゼを見る。

 

「……そうだよ。あの時口にしたのは私。裁判者じゃない。でも、裁判者。」

「ん?」

 

ロゼは目を一度パチクリした。

レイは瞳を揺らし、

 

「私自身があの人間の心を見て、憐れだと、愚かだと思った。でも、それと同じだけ……人間はいつの世も変わらないと思った。あの人間も、あの枢機卿の女も……所詮は同じ。人の叶える願いは、想う願いはいつだって……くだらない。同じ人同士で争う。それは時に天族だってある。でも、まだ天族の方が少ない……」

「レイ……」

「それに思い出した。裁判者は……私は人も、天族も、心あるものが嫌いだと……いつも変わらない者達を見続け、感情のないあの裁判者が自覚もなく思えるほどに……」

 

レイの瞳は揺れる。

その瞳で、

 

「……でも、それと同じだけ私≪裁判者≫は知ってしまった。変われるものだと……一時的とはいえ、そう思える日々は、時間はあった。なのに目を背けた。その結果が審判者との対峙……。それに私自身はロゼ達の事が好きなの……嫌いだと思いたくない!でも、あの時人間に言った言葉は……私自身に向けた言葉でもあった。こんなことなら感情を知りたくはなかった……そうすればこう思わずにいられたのに……」

 

と、ロゼがレイの頬をバシっと叩いた。

レイは驚いて、ロゼを見つめた。

無論、スレイ達も驚いた。

特にスレイとミクリオが。

ロゼは力強い目で、

 

「レイ。さっき裁判者は目を背けたっていったよね?でも、あの裁判者は少なくともそれに気付き、向き合ってるんじゃないかと思ってる。ライラ達の知る裁判者の態度や話、短い間だけど関わって来たあたしが、そう思える。もし、それに気付き、目を背けたと思い続けているのなら……それは裁判者じゃなくてレイの方。確かにあたしたちは簡単に争いを始める。穢れを生む。でも、ちゃんと向き合う心もある。それはレイも見てきた。だから苦しいんだよ。それにちゃんと向き合うって事は。レイは、このまま目を背け続けるの?」

 

ロゼの言葉を聞き、レイは思い出した。

あの時の審判者の本当の言葉の意味を、そして裁判者の心を……。

 

――苦しんだ。前はここまで苦しい思いはしなかったのに……

 

彼の苦しそうな、悲しそうな表情が仮面をつけていても分かる。

あの時の顔を、裁判者の心を、私≪レイ≫は思い出した。

レイは涙を流した。

レイは首を振る。

 

「私は私として、目を背けたくない。違う。私は向き合わなくちゃいけない。」

「うん!」

 

ロゼはレイの頭を撫でる。

レイはしばらく泣いた後、スレイに瞳石≪どうせき≫を渡す。

スレイが持つと、光り出し、映像が流れ込む。

 

――ローランスの将軍は残された赤子を見る。

だが、その赤子を見て彼は絶望する。

抱き上げるその赤子は人ではなく穢れに満ちた憑魔≪ひょうま≫。

彼は絶望し、絶叫する。

自らその赤子の命を絶つ。

 

レイは背を向ける。

ロゼが瞳を揺らしながら、

 

「なんなの今の?赤ちゃんが……」

 

スレイもひどく動揺し、

 

「ウソだろ、ライラ?あんなことが本当にあるなんて――」

「大地の記憶は、過去に起こった事実を記録するものですわ。」

 

ライラは手を握り合わせ、俯く。

スレイは眉を寄せながら、

 

「事実……なのか……」

「しかも、ただの事件じゃない。天響術でなきゃ、ああはならない。」

 

ミクリオは拳を握りしめる。

レイの瞳は赤く光る。

スレイは顎に手を当て、

 

「憑魔≪ひょうま≫か天族が人間に術をかけたって⁉」

「もしくは裁判者か審判者が願いを叶えたか……。おそらく目的は復讐ね。」

 

エドナがジッとスレイを見る。

ザビーダは口の端を上げ、

 

「おっかない術だねえ。いや、願いかもしれんな。いや、怖いのはかけた、願った奴の方かな?」

「けど家族は関係ないだろ!」

 

スレイは拳を握った。

レイは天井を見上げる。

その赤く光る瞳は揺れる。

エドナはスレイをジッと見たまま、

 

「生きる目的を奪うのが目的だったのかも。直接殺すよりも、ずっと残酷だし。」

「いるのか?そこまでされなきゃいけない人が……」

 

スレイは拳を強く握りしめた。

レイは出口み向かって歩き出した。

 

「レイ。」

 

ミクリオがそれに気付き、他の者も気付いた。

レイはスレイ達に背を向けたまま、

 

「……もう朝になっちゃったみたいだよ。」

 

そう言って扉を開け、入り口の方へ歩いて行った。

エドナが歩き出し、

 

「仮に、願いだったとしたら……さっきの今で、おチビちゃんは何を思うのかしらね。」

「はは、成程ね。まだ大地の記憶は残ってる。今は立ち止まる所じゃあねえな。」

 

ザビーダも帽子を深くかぶって歩き出す。

ライラも頷き、

 

「ええ。ロゼさんがレイさんに言ったように、私達も向き合わなくてはなりませんわね。」

 

ライラが歩き出す。

ロゼがスレイとミクリオの思いっきり叩き、

 

「ほーら、いつまでもくよくよしない!怖い顔しない!前に進むよ!」

 

そう言って、ロゼはニッと笑った。

スレイとミクリオは互いに見て、歩き出す。

 

外に出て、日を浴びた。

ロゼが腕を伸ばしながら、

 

「あ!変な感じの理由がわかったよ。この事件に殺気が感じられなかったからなんだ。」

「成程な。あの司祭、殺しを浄化とかぬかしてたな。」

 

ザビーダが顎に手を当てて言う。

ロゼが空を見上げているレイを見て、

 

「だから、レイは私達にアイツが犯人って言わなかったのか。」

「え?」

 

スレイがロゼを見る。

ロゼが視線をスレイに変え、腰に手を当てて、

 

「だって、この件を調べた理由は殺人鬼が憑魔≪ひょうま≫だと思ったから。それは導師としての仕事として、騎士団を手伝えた。でもこれが憑魔≪ひょうま≫ではなく、人のしでかした事なら、導師はこれに関わるべきではない。でしょ、ライラ。」

「ええ。そうなりますわね。レイはそれを理解した上で、それを飲込んだ。そしておそらく、あの人たちがああなる前に、きっと止めようとしたんですわ。」

 

ライラはレイを見て言う。

ロゼがスレイを見たまま、

 

「でも、着いた時にはもう遅かった。そして現場を見られたから、レイも……殺された。でも、本来なら巻き込まれる事のなかったレイを殺しても、アイツは穢れなっかた。」

 

エドナが傘をさし、

 

「あいつは心の底から思ってたのね。あれが全部世界のためになるって。」

「だから穢れを生まず、憑魔≪ひょうま≫にならなかった。これがもっとも恐ろしい事です。」

 

ライラが視線をスレイ達に戻して手を握り合わせる。

スレイは視線を落とし、

 

「どうしてあんなに心が歪んでしまったんだろう……」

「あの男、夢の中で天族に導かれたと言っていた。仮に裁判者……はないな。審判者が関わっていたら、裁判者は最初から何かするだろうし……。やっぱり、それが原因かもしれないな。」

 

ミクリオが思い出すように言った。

ライラが悲しそうに、

 

「そんな形のないものに……」

「……実体の無いもの……幻……幻覚⁉」

 

スレイが呟きながら言った。

それに全員がハッとする。

エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「不思議ちゃんが何かしたのかもね。」

「サイモンが何かしたんだとしても、絶対に罪の意識だけではごまかせない。人殺しは罪……どんな理由つけても。その罪の意識を感じないで殺めていたあいつは、怪物だったんだよ。」

 

ロゼは力強い目でそう言った。

ザビーダは口の端を上げ、

 

「弱ぇ奴、おっかねぇ奴、強ぇ奴、いろんなのがいるって事だな。」

「はい。そしてセルゲイさんのような方も。」

 

ライラがスレイを見る。

スレイも頷き、

 

「ああ。わかってる。」

 

スレイ達はレイに近付いて行った。

レイは差し伸べるスレイの手を取って歩き出す。

 

 

宿屋で一休みし、スレイ達は宝石商を探しにウェストロンホルドの裂け谷に向かう。

ウェストロンホルドの裂け谷に着き、歩いていた。

すると、辺境巡視隊たちが何人かの怪我をした男性を連行していた。

スレイが話し掛ける。

 

「えっと、何があったんですか?」

「ん?なに、こいつらは、旅人を襲って宝石を奪っていたんだ。ペンドラゴに連行してしかるべき処罰する。何者かに逆襲されたらしいが、因果応報だな。」

「少し話しても大丈夫ですか?」

「早くすませてくれよ。」

 

スレイは商人に話し掛けた。

 

「えっと……もしかしなくても、アンタがゾッドさん?」

「だったら何だ?」

「えっと……瞳石≪どうせき≫はどうなったのかな~って……」

「ああ⁉それだったら、突然男が襲ってきて、俺の瞳石≪どうせき≫を喰っちまったんだ!」

 

そう怒鳴って、連れて行かれた。

スレイは頭を掻く。

ライラが顎に指を持っていき、

 

「瞳石≪どうせき≫を食べた……その者は憑魔≪ひょうま≫のようですわね。」

「ですよねー……」

 

スレイ達は奥に進む。

奥に進み、レイが立ち止まる。

 

「レイ?」

 

スレイが見下ろすと、レイは指を指し、

 

「お兄ちゃん……アレはどうする?」

 

スレイはレイの指さす方をみると、木の乗り物に乗ったゴブリンが物凄い形相でこちらに向かって走って来る。

スレイはレイを抱え、

 

「み、みんな逃げろ!」

「へ?」

 

ロゼがスレイを見ると、レイを抱えたスレイが物凄い勢いで走っている。

その後ろのものを見て、

 

「ちょ、スレイ!何連れてきてるの⁉」

 

ロゼも走り出す。

天族組はスレイの中に入った。

ザビーダが笑いながら、

 

「スレイ~、ガンバ!」

「卑怯だぞ!みんな~!」

 

スレイは走りながら叫ぶ。

と、エドナが普段通りに、

 

「バカなの。バカなのね。」

 

そう言って、出てきて、地面を叩く。

と、地面から突起が出てきて、ゴブリンは思いっきりひっくり返った。

突起が地面に戻り、スレイはレイを降ろして武器を構える。

そしてスレイは剣を振るいながら、

 

「ゴブリンロード……!」

「ということは……!」

 

ミクリオも出てきて、天響術を繰り出す。

スレイは攻撃を仕掛けながら言う。

 

「あの乗り物のマスタークラスということか……!」

「言うと思ったよ……!」

 

ミクリオがスレイを見て突っ込んだ。

敵との攻防戦の末、スレイは敵を浄化する。

レイがミクリオを見上げ、

 

「戦ってるとき、お兄ちゃん少し楽しそうだった。」

「だろうね。あの乗り物に乗りたくてうずうずしてたから。」

 

ミクリオが若干呆れて言う。

そして浄化した憑魔≪ひょうま≫の居た所には瞳石≪どうせき≫が輝いていた。

スレイはそれを手に取った。

 

――将軍と呼ばれた男は一人、暗い部屋の中で頭を抱えていた。

彼の頭の中には記憶が流れる。

彼は一人生きる希望を失い、自ら自殺を図る。

首を吊ったが、息を吹き返す。

自らの体に剣を突き刺すが、傷が癒え息を吹き返す。

窓から身を投げても息を吹き返した。

毒を飲み、もがき苦しんだ後、自分は生きていた。

ならばと火をつけ、焼いた。

映像は赤い炎に包まれた。

 

スレイは視線を落とし、

 

「命を絶とうとしたのか……何度も。」

「結局、死にきれなかったみたいだが。」

 

ミクリオも視線を落とす。

ライラは背を向け、俯いた。

レイはジッとスレイの持つ瞳石≪どうせき≫を見つめる。

と、ロゼが頭に手をやり、

 

「けどおかしくない?こんなに失敗するなんて。」

「本気じゃなかったんでしょ。」

 

エドナが傘をクルクル回す。

ロゼはエドナを見て、

 

「そうは見えなかったよ。」

「うん。むしろ死にたがってる感じがした。」

 

スレイも頷く。

レイは背を向け、俯く。

 

「そう、彼は死にたがった。強く願うほどに……でも、それは叶えることのできない願い……」

 

レイはスレイ達にも聞こえない声で呟いた。

ミクリオは顔を上げ、

 

「偶然じゃないってことか?これも。」

「そこまでは……」

 

スレイは眉を寄せる。

エドナは首を傾げ、

 

「わからないことだらけね。」

「そんなもんさ。世の中は。」

 

ザビーダがスレイとミクリオをガシっと捕まえて言う。

そしてスレイはハッとして、

 

「だからヘルダルフは諦めたのか……?」

 

その場の全員が一瞬暗い雰囲気に包まれた。

しばらくそれが続いたが、レイがスレイを見て、

 

「大地の記憶……大分集まったね。そして災禍の顕主についても、少しは理解できた?」

「……ああ。」

 

スレイは視線を落とす。

レイは空を悲しそうに見た後、ロゼを見る。

ロゼは察しがつき、

 

「うん、色々分かったもんね。でもさ。決定的な事が欠けてる。ヘルダルフがどうしてあんな事になったのか。」

「……けど、あいつの心の痛みは十分過ぎるほどわかった。」

 

スレイは視線を落としてまま、呟いた。

ザビーダがスレイの肩に手をかけて、

 

「おろ。導師殿、同情しちまったのかい?」

「同情なのかな。わかんない。」

 

スレイは頬を掻く。

レイは瞳を揺らしながらスレイを見る。

ロゼが腕を上げて、

 

「も~、厳しすぎるぞライラ。知らないままの方が揺らがないってのに。」

「……ごめんなさい。」

 

ライラは手を握り合わせる。

ミクリオがロゼを見て、

 

「だが実際……どうするのが正しいのか……難しい問題だよ。」

「ライラは正解を出せっていってるかい?」

 

もう片方の腕で、ミクリオを抱き寄せて、ザビーダが聞く。

 

「「「え?」」」

 

スレイ、ロゼ、ミクリオはザビーダを見た。

ライラはザビーダを見て、

 

「ザビーダさん!」

「あちゃ……怒られちゃった。」

 

ザビーダは両手を上げて、一歩下がる。

エドナがスレイ達を見て、

 

「……で、どうするの?ここで話し込んでてもしょうがないと思うけど?」

「メーヴィンのところに戻ろう。」

 

スレイが頷いて言った。

ロゼは微笑み、

 

「だね。おじさんも、もう考えまとまったかもしれないし。」

 

そう言って、一行は歩き出す。

そしてしばらく歩いてスレイは空を見上げ、

 

「……何となくわかった。ヘルダルフには、オレの前に導師だった人の何かがからんでいるんだ。」

 

レイとライラはハッとしたしたように、スレイを見た。

ミクリオが納得したように、

 

「……そうか。ライラが直接話さずに、語り部と言うのメーヴィンに協力を求めたわけだからな。」

 

ライラが視線を落とす。

そこに、エドナが傘を構えて……

 

「痛っ!何なんだ!傘はそうやって使うものじゃないだろう!レイがマネしたらどうしてくれるんだ!」

 

突いて来たエドナに怒りながらミクリオが言う。

レイはミクリオを見て、

 

「傘は武器でしょ?」

「違う!」

 

ミクリオは則否定した。

が、ザビーダが笑いながら、

 

「ふふん。乙女心のわからなんやつめ。」

「ふん。」

 

そしてエドナは今度はザビーダに傘を突く。

ザビーダはそれを避けながら、

 

「いて!ツンツンすんなっての!ハ!これがツンデレ!」

「ツンデレ?」

 

レイは首を傾げた。

と、そこに笑い声が聞こえた。

 

「ぷっ!」

 

それはライラだった。

そしてエドナは思いっきりザビーダに一撃を与える。

 

「ぐぁ!いてぇ!結構本気――」

「ザビーダ、サンキュ。和ませようとしてくれて。」

 

ロゼが笑顔で言う。

ザビーダは決め顔になり、

 

「惚れてもいいぜ?」

「調子のりすぎ。」

「ぐはぁ!」

 

エドナが最後の一撃を与える。

レイは一人、首を傾げ、

 

「ツンデレ?」

 

と、悩んでいた。


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