テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第三十二話 真実を知るために

翌朝、スレイ達は目的のローグリーン遺跡についた。

街を探索るスレイ達。

すると、街人が話をしていた。

 

「なぁ、知ってるか?ザフゴットの南にあるプリズナーバック湿原に村を興した聖女の話。わざわざあんな辺境に行くなんて。本当の聖女様だったのか、それとも……」

 

それを聞いたザビーダは口の端をニッと上げ、

 

「聖女ときたか。おっかねえ。」

「怖い?なんで?」

 

スレイは首を傾げた。

彼はスレイの方に手を回し、

 

「お子様導師にゃわかんねぇか?」

「……さっぱり。」

 

スレイが腕を組んで首を傾げていると、

 

「ぐわぁ⁉」

「あんた、スレイに何してんのよ。」

 

エドナがザビーダの背を傘でおもいっきり突いた。

ザビーダがエドナに振り返り、

 

「ひどいなぁ~、エドナちゃん。そんなに俺様に構って欲しかったのかい?」

「死ぬの。ここで死にたいの。死ねばいいわ。」

 

エドナは傘を構える。

ザビーダは一歩下がり、

 

「うわぁ⁉目が本気なんですけど⁉」

 

そして二人の攻防戦が始まった。

と、ある一角で商人と男女の街人が切羽詰まった感じで話していた。

 

「せめて薬だけでもなんとかならないか?」

「すまんな。こっちも命懸けなんだ。」

 

そして商人は歩いて行った。

男性と女性の街人は肩を落とす。

ロゼが腕を組んで、

 

「ご主人、ご主人、今の値段ってめっちゃぼられてるよ?」

「……わかっています。でも、こんな辺境では旅商人だけが頼りで。」

 

男性は振り返って言う。

ロゼは眉を寄せ、

 

「でも、相場の五倍はやりすぎ!」

「ザフゴット原野に一頭の凶暴なゾウがいて、商隊を襲っているのです。被害と危険の分、値が上がると……」

 

ロゼが頭を掻きながら、

 

「ゾウ相手なら逃げるとか、罠張るとか、いくらでも方法ありそうだけどなぁ。」

「ですが騎馬商隊や武装商隊まで全滅していまして。」

「……やっぱり普通じゃないな。前に聞いた通り、か。」

 

スレイは腕を組んで言う。

女性がスレイを見て、

 

「そちらの方は……もしかして導師様?」

「えっと、一応。スレイっていいます。」

「おお!お噂は伝わっていますよ。」

「貴方は世界の希望ですわ。どうか頑張って。」

「必要なものがあったら言ってください。お役に立てるかもしれない。」

「ありがとう。気持ちだけで十分です。」

 

二人はお辞儀をして、歩いて行った。

レイがスレイの側に駆けて行き、

 

「話し終わった?」

「うん。終わった。」

 

スレイがレイの頭を撫でる。

ミクリオが、歩いて行く二人を見て、

 

「導師信仰が篤いんだな。」

「このローグリーンは昔からそうなんです。純粋な敬意なのでしょうね。」

 

ライラがミクリオを見て言う。

スレイは少し俯き、

 

「自分たちが大変なのに……」

「出番なんじゃない?本物の導師の。」

 

ロゼがニッと笑いながら言う。

スレイは顔を上げ、

 

「みたいだな。」

「じゃあ、早いとこメーヴィンおじさんを探そう。」

「ああ。」

 

二人ははりっきって歩いて行く。

それを見ていると、天族の男性を見つけた。

彼が独り言のように、

 

「いやあ、あいつは丸かったな。ワシの二千年の人生で一番丸かった。丸すぎて、まるで夢のようだった。それぐらい丸かった。ああまでワシに『丸い』と思わせたたら、大したもんだ。まさかトリスイゾル洞であんなヤツに出会えるとはなあ。」

 

ライラは拳を胸のあたりで握り合わせ、

 

「そこまで丸いなんて……まさかアルマ次郎さん⁉」

「トリスイゾル洞で見たって言ってたよね。行ってみよう!」

「ええ。行きましょう。」

 

ロゼの言葉に、ライラの瞳が燃え上がる。

ミクリオが二人を見て、

 

「この街でメーヴィンを探すんじゃなかったか?」

「脱線したね。」

 

レイも二人を見て言った。

ライラがハッとしたように、頬の手を当て、

 

「私たら……すみません。」

「じゃあ、メーヴィンおじさんを見つけてから行こうか。」

 

ロゼが腰に手を当てていう。

そして街を一通り歩き、探検家の服を身に纏った一人の男性を見つけた。

スレイ達は探していた人物の側に行く。

 

「メーヴィン!」

「おじさん!」

 

スレイとロゼが彼、探検家メーヴィンに話し掛ける。

レイはライラを見た後、彼を見た。

彼はこちらに近付き、

 

「よう。スレイ、お嬢、それにチビちゃん。元気そうだな。」

 

スレイは頷いて、

 

「よかった、ここにいて。マオテラスの事、なにかわかった?」

「藪から棒だな。特にこれといってないな。」

 

すると、ライラが一歩前に出て、

 

「メーヴィンさん。禁忌を犯す行為だとわかっていますわ。」

 

彼に話し掛ける。

その姿にスレイとミクリオ、ロゼは驚く。

ライラはジッと彼を見つめ、

 

「ですが、今や唯一人の導師となったスレイさんが後悔なくその道を歩めるよう、力をお貸しください。」

 

そしてスレイが探検家メーヴィンを見て、

 

「メーヴィン……もしかして聞こえてるのか?」

「ん?何の事――」

「刻遺の。頼むわ。」

 

探検家メーヴィンの話をザビーダが割り込む。

彼はいたって本気だった。

それを見たエドナが、探検家メーヴィンを見て、

 

「そう……この人が今の『語り部』なのね。」

「「「語り部?」」」

 

エドナの言葉にスレイ・ミクリオ・ロゼの声がはもった。

だが、スレイは思い出したように、

 

「そう言えば、裁判者……の方も、そんなこと言ってたよな。」

「ああ。たしか……〝真実のカギを持ち、語り部の一族……『刻遺の語り部』を探すといい。だが、よく考える事だ。これは真実を知る事となる。その覚悟を持ってその者の所に行け″だったか。」

 

ミクリオも腕を組んで言う。

探検家メーヴィンはレイを見る。

レイもまた彼を見ていた。

そして頷く。

探検家メーヴィンは真剣な表情になり、

 

「ったく……それほどのタマだったワケか。今回のヤツは。」

「それもありますが……」

 

ライラは悲しそうに俯く。

探検家メーヴィンは続ける。

 

「……おまえらに俺が力を貸す……それがどういう意味かもわかってるんだな?」

「はい……」

 

ライラは顔を上げ、まっすぐ彼を見る。

彼はフッと笑い、

 

「怖い女だ。」

「さぱらん。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

ミクリオも頷き、

 

「まったくだ。ライラ、メーヴィン、ちゃんと説明してくれ。」

「まぁ、待て。お前らは今、俺にとってかなり重大な選択を迫ってるんだぜ?」

 

探検家メーヴィンは本気だった。

スレイは思い出した。

 

「さっきの禁忌を犯すことになるってヤツか。」

「そんなところだ。」

 

レイはジッと彼を見る。

そんなレイは彼と目が合い、また頷く。

彼は腕を組み、続ける。

 

「が、それでも探検家としてなら助言はやれる。繋がらないってことは、まだ欠けたピースがあるって考えるのが妥当だ。それと、遺物は遺跡だけにあるわけじゃない。このふたつだな。」

 

そしてスレイは何を示しているのかわかり、

 

「……大地の記憶の事をいってるのか?」

「たしかにアレじゃ、断片的にしかわからなんかったもんね。」

 

ロゼも頭を掻きながら言い、ミクリオは眉を寄せながら、

 

「何を知っているんだ?」

「とりあえず思い当たるところを探ってみろ。全てはそれからだ。」

「相変わらず回りくどいぞ。おじさん。」

 

ロゼは腰に手を当てて唸った。

探検家メーヴィンは少し笑い、

 

「もう俺はここから離れない。だから心ゆくまで探してこい。」

「わかった。行ってくる。」

「なんかありがと、おじさん。」

 

スレイとロゼは頷く。

ライラはどこかホッとしたように、視線を落とした後、探検家メーヴィンを見る。

彼はスレイとロゼに笑顔を向けていたが、スレイ達が背を向けて歩き出すと、真剣な表情になる。

レイは探検家メーヴィンを見て、

 

「お前自身にも時間はある。それまでに答えを出しておけ。」

「あんた自身でここに導いておいてか?」

「ああ。私は選択の一つを与えたに過ぎない。そしてその選択を選ぶかどうかはお前達自身だ。」

「変わらんな。チビちゃんは変わったと思ったが――」

「世界は変わる。あの導師の選択で。それ次第では私達のこれからの世界に、お前達に関わる理が変わる。」

 

レイはいや、裁判者は彼を見上げて言う。

探検家メーヴィンは髭を摩り、

 

「ほう。今回は本当に大きな選択……ということか。だが、それはお前さん達が変わると言うことか?」

「……ああ。かもしれんな。だが、この歯車の乱れは簡単には治まらない。長い年月が必要となるだろう。」

「……俺はその先は見られんな。」

「それでも繋げる事はできるさ。お前はそれだけの事をしている。」

「だと、いいがな。」

 

レイ≪裁判者≫は彼に背を向け、先を歩くスレイ達の元へ歩いて行く。

 

 

探検家メーヴィンと別れて、スレイは空を見上げ、

 

「大地の記憶を集めろ……か。」

「地道に探すしかなさそうだね。おじさんもヒントくれればいいのに。」

 

ロゼも同じように空を見上げて言う。

ライラは手を合わせて、

 

「頑張りましょう。真実を知るためにも。」

「だな。」

 

スレイは頷いて、前を向いて歩いて行く。

しばらく歩き、

 

「刻遺の語り部……」

「ん?」

 

スレイが呟いたのを聞き、ザビーダが反応した。

レイは手を繋いでいるスレイを見上げる。

スレイはザビーダを見て、

 

「ザビーダもメーヴィンを知ってたんだな。裁判者はなんとなくだけど予想はつくし。」

「あの男……ってか語り部のことはな。んで、カマかけたら当たっちまったわけ。」

 

ザビーダが笑いながら言う。

レイがスレイ達を見上げ、

 

「語り部は人間には知られてないけど、結構知られてると聞くよ。」

 

エドナが真剣な表情で、

 

「ええ。おチビちゃんの言う通り、語り部は、よく知られた存在よ。長く生きる天族の間ではね。」

「それなら教えてくれれば……」

 

ミクリオがエドナを見た。

エドナは鋭い目つきになり、

 

「同時にタブーでもあるけど。」

「天族にとっても、人にとってもな。」

 

ザビーダも真剣な表情で言う。

ミクリオは二人を見て、

 

「それってどういう――」

「大地の記憶を集めよう、ミクリオ。きっと話を聞くだけじゃダメなんだ。」

 

ミクリオの言葉をスレイが遮った。

そしてミクリオは、

 

「自分の目で確かめたときにこそ、伝承の本当の意味が見える……か。」

「そういうこと。だよな!」

 

スレイは笑顔になる。

そして周りの者達も笑顔になる。

レイは小さく、

 

「お兄ちゃんなら……ううん、あなた達ならきっと……」

 

レイはスレイの手をギュッと握りしめる。

そしてスレイ達はザフゴット原野の半分までくると、

 

「さて、話だとこの辺だよね。おそらく憑魔≪ひょうま≫だよね。商人を襲うゾウって。」

 

ロゼが辺りを見渡して言う。

スレイも頷き、

 

「ああ、まず間違いないな。」

「レイはなんとなく気配でわからない?」

 

ロゼがレイを見る。

レイは首を振り、

 

「ごめんなさい。今は裁判者の力がないから……はっきりとはわからない。」

「そっか。ゴメン。」

 

ロゼが謝る。

レイはロゼを見上げ、

 

「ううん。でも、感覚的にはこの辺で間違いないよ。」

「じゃあ、この辺を探ろう。」

 

スレイが腰に手を当てて言う。

一行は商人を襲う憑魔≪ひょうま≫を探す。

しばらく辺りを探索していると、レイは立ち止まる。

 

「レイ?」

 

スレイがレイを見下ろす。

レイは辺りを見渡し、

 

「……いた!」

 

レイが指さす方向に、強大なゾウが居た。

スレイ達は背後からそのゾウに近付く。

そして奇襲をかける。

ロゼが憑魔≪ひょうま≫に攻撃を仕掛けながら、

 

「この憑魔≪ひょうま≫……なんて大きさなの。なにより重さがハンパなさそうだけど……」

「踏まれたらもだえ苦しむころになるわよ。」

 

エドナが天響術を繰り出しながら言った。

ザビーダもまた、天響術を繰り出しながら、

 

「だからロゼちゃん、あんまし近付くなよ!」

「了ー解!」

 

ロゼは繰り出されるゾウの長い鼻を避けながら言った。

そしてスレイも、叩き付ける足を避けながら、

 

「うわぁ⁉ホント、ハンパないな!」

「スレイ、あまり気を抜くなよ!」

「わかってるって!」

「スレイさん、右です!」

 

スレイはゾウの足を避ける。

そして、時に神依≪カムイ≫を用いて敵に少しずつダメージを与える。

レイが後ろでスレイに叫ぶ。

 

「お兄ちゃん!次、鼻の攻撃が来たら隙ができるよ!」

「よし!ミクリオ!」

「ああ!」

 

スレイはミクリオと見合う。

そして、二人は神依≪カムイ≫をする。

 

「『ルズローシヴ=レレイ≪執行者ミクリオ≫』‼」

「来るよ、スレイ!」

「ああ!」

 

そして鼻の攻撃を避け、こんしんの一撃を与える。

すかさず、スレイはライラを見て、

 

「『フェエス=メイマ≪清浄なるライラ≫』‼」

 

浄化の炎で切り裂く。

炎に包まれた憑魔≪ひょうま≫は一人の天族老人へと変わる。

彼はスレイ達を座り込んだ状態で見上げた。

そして立ち上がると、肩を落とした。

 

「不覚……このワシが憑魔≪ひょうま≫なんぞに……」

「大丈夫ですか?」

 

スレイが彼に近付く。

レイも離れてたところからスレイ達の元に駆けて来る。

彼は顔を上げ、

 

「手間をかけたようじゃの、導師殿。ワシはアラカンという者じゃ。教えてくれ。ワシはなにをしてしまったんじゃ?」

「それは……」

「人を襲った。」

 

レイが天族アラカンを見上げて言う。

ロゼは腕組み、付け足す。

 

「そ。オバケゾウになって行商人を襲っちゃったんだよ。」

「なんということじゃ……」

 

彼は再び肩を落とした。

レイは彼を見上げたまま、

 

「そのせいで、多くの人間が苦しんでた。」

「これまたそうなんだ。ローグリーンの人々が困っちゃってね。それであたしたち、それをなんとかしたくて。」

 

ロゼが再び付け足す。

彼は顔を再び上げ、

 

「ローグリーン……導師信仰の民か。加護天族はおらんのか?」

「今は。それでも信仰を守って、苦しい生活に耐えてるんだ。」

 

スレイが彼を見て言う。

彼は腕を組み、考え込む。

 

「ううむ……」

「憑魔≪ひょうま≫がやったことだ。仕方ないさ。」

 

ミクリオが彼に言う。

が、彼はスレイ達を見て、

 

「いや。昔のワシは簡単に穢れる人間たちをバカにしとった。」

「それは事実。貴方は至って間違っていない。」

 

レイは変わらず言った。

が、天族アラカンは首を振り、

 

「違うんじゃ。ワシ自身が憑魔≪ひょうま≫になって、信仰を貫いている人間を苦しめてしまった。恥ずかしい限りじゃ……」

 

彼は再び肩を落とす。

ロゼが腰に手を当てて、

 

「もう過ぎた事でくよくよしない!大事なのはこれからどうするか、でしょ?」

 

彼はふさぎ込んだままだった。

ライラは彼を見て、

 

「アラカンさんは、かなりの力をお持ちとお見受けします。ローグリーンの加護をお願いできないでしょうか?」

「器はオレたちが探すから。」

 

スレイも続けて言う。

彼は顔を上げ、

 

「純粋な人間たちが住み続けた場所なら、ローグリーンの塔自体を器にできるはずじゃろうて。」

「じゃあ!」

「むしろワシから頼みたい。せめてもの罪滅ぼしじゃ。」

「ありがとう!」

「よろしくね!きっと祀られ甲斐あるから。」

 

スレイとロゼが笑顔で言う。

彼は頷き、ローグリーンに向かって歩いて行った。

ライラはスレイを見て、

 

「ゾウはもう出ないとローグリーンに伝えましょう。」

「これでらくになるよな。ローグリーンの生活。」

「だといいけど……」

 

ロゼは腰に手を当てて言った。

一行はとりあえずローグリン遺跡に向かう。

歩いている途中ロゼは、

 

「にっしても、レイは直球だね。」

「アンタがそれを言うのね。」

 

エドナは傘をクルクル回しながら言った。

レイはロゼを見上げ、

 

「直球……?変だった?」

「変と言うより、グッサってくる感じ?」

「……痛い?」

「う~ん、かもね。その、人の心に。」

「……そう。感情や心が分からないって不便だね。」

 

レイは視線を落とす。

ライラがレイを見て、

 

「違いますわ。」

「……?」

「感情や心が分からないから、その人を知り、察してあげるのです。自分だったらこうするとか、自分ならこうして欲しいとか。そうやって、相手を思いやり、絆を深めていくのですわ。」

「……難しいね。」

「ええ。だからこそ、大切なんですわ。」

 

レイはライラを見上げて苦笑した。

そしてライラもまた、苦笑していうのである。

 

 

ローグリーン遺跡に戻る。

天族アラカンは無事塔に着き、器としていた。

そしてスレイ達はさっきの男性と女性にゾウの事を伝えた。

二人はそれを聞き、スレイにお礼を言って歩いて行った。

と、商人が話しているのが聞こえた。

 

「やはり、辺境にはそれ相応の相場ってのがありまして。特別な交易品でもあれば話は別なんですがねぇ……」

「値段が下がり始めたようだがまだまだ高ぇな。やっぱここでの調達は止めといた方が良いか。」

 

それを聞いていたロゼは腕を組み、

 

「うーん……やっぱり一度、高値に落ち着いた相場はちょっとやそっとじゃ戻らないな~。」

「だが商人たちも冷たいとは思うが、穢れているという訳じゃない。」

「ええ。」

 

ミクリオの言葉にライラも静かに頷く。

スレイは肩を落とし、

 

「加護を戻しても、問題が全部解決全部解決するわけじゃないんだよな……」

「加護は人の心を変えるわけではありませんから。」

「難しいよな。」

 

ライラの言葉にさらに肩を落とすスレイ。

レイがスレイを見上げ、

 

「でも、ここには救いがある。」

「ええ。救いはローグリーンの人たちに憎しみやあきらめがないことですわ。」

 

ライラは嬉しそうに言う。

エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「どの道、導師の出る幕じゃないわよ。」

「うん、こっからは商人が工夫するとこ!」

 

ロゼが腰に手を当てて言った。

レイは周りを見渡し、人々の表情を見る。

そして小さく微笑む。

ローグリーン遺跡を歩いていると、ロゼの仲間の一人を見つけた。

ロゼは彼に話し掛ける。

 

「エギーユ、掘り出し物あった?」

「あったぜ、頭領。前に瞳石≪どうせき≫を探してるって言ってたろ。」

「大地の記憶!見つかったの?」

「そうなんだが一足違いで買われちまった。」

 

それを聞くと、ロゼは眉を寄せ、頭を掻く。

 

「スレイ以外に欲しがる人がいるんだ?」

「買ったのは考古学を学んでいる司祭だそうだ。」

「考古学!遺跡を調べてるのかな?」

 

今度はスレイが大喜びだった。

 

「詳しくは知らんが、何冊も本を書いてるとか。」

「本を!すごいな。」

「……本……」

 

これにはスレイだけでなく、レイの瞳も輝く。

そしてミクリオも、

 

「内容には興味あるね。」

「あるある!」

 

レイはさらに瞳を輝かせる。

するとエドナが半眼で、

 

「またなの?脱線の流れなの?」

 

エドナが怒りだす前にロゼが、

 

「で、その学者さんは?」

「なにかの調査で、プリズナーバック湿原のリヒトワーク灰枯林に行ったらしい。」

「また危ない場所に。」

 

ロゼは腕を組んだ。

ミクリオは苦笑して、

 

「調べたい気持ちはよくわかるが。」

「心配だ。行ってみよう。」

 

スレイ達は頷く。

そして彼と別れ、ロゼがレイを見下ろし、

 

「にっしても、レイも本に興味があるんだ。」

「うん。裁判者や審判者もよく本を読んでたよ。」

「え⁉これまた人間らしい事で。」

 

ロゼが頭を掻きながら言う。

レイはロゼを見上げ、

 

「えっと、彼らは決まったところに長くはあまり居ないの。でも、場合によっては何もせずにそこにいる事もあったから……何というか、人や天族で言う『ひま』?な時間に本を読んでた。」

「あいつらにそんな単語があったのね。」

 

エドナが人形を握りつぶす。

レイはそれには気付かず、

 

「本はその時代の歴史、想いもそうだけど、人間は天族よりもその人生は短い。そんな人間達が自身の生きた証として本を残したり、次世代に残したい想いや願いとかも記されていて……裁判者は審判者が渡してきた本を気長に読んでた。その本の書いた者の想いという感情を感じ、それを見てただけだけど、人間や天族がどうのように世界を見ているのか、と言うのが分かる点では本はいいと言う結論になったみたい。」

「……だからハイランドの王宮で本を読み終わるのが早かったのか?」

 

ミクリオが思い出すように言う。

レイは頷き、

 

「うん。あそこにある本は書かれた当初や、世に出回った頃には呼んでいるから中身知ってるし。でも、どんどんと新しい本を出すから、飽きると言うことはないね。それに昔はただ見ていただけだったけど、今は書いた人の気持ちとか、自分の気持ち?みたいな感じで見ることができるからとてもいいと思うんだ。」

 

レイは嬉しそうに言う。

スレイも嬉しそうに、

 

「そっか。レイは裁判者を通して色んな本を読んだんだな。オレもたくさん本を読みたいな。」

「ああ。いつか世の中の全ての本を読んでみよう。」

「ああ!」

 

ミクリオもそれに賛同し、歩いて行く。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「ホント、ガキなんだから。」

 

そう言って、他の者達も歩いて行く。

一行は学者が向かったというプリズナーバック湿原に向かう。

スレイがその人物を思い浮かべながら、

 

「どんな人だろ、考古学者って?」

「それってスレイと似た趣味なんでしょ?きっと変人よ。」

 

エドナは傘をいつも以上にクルクル回しながら言う。

レイはエドナたちの方を見る。

 

「変人?お兄ちゃんは変人?」

「へ?あー、多分……てか、絶対。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

ミクリオはスレイを見て、

 

「ひどい言われようだ……」

「ヒドイよな~。」

 

スレイはレイを見下ろす。

レイは首を傾げ、ロゼを見つめる。

 

「ヒドイの?酷かったの?」

「え?え~と……」

 

ロゼは視線を外し、

 

「さ~!急いで行こう!」

 

ロゼは颯爽と歩いて行った。

そして一行はプリズナーバック湿原に足を踏み入れる。

 

「オレたちの知らない遺跡の話聞けるかな?」

 

スレイは辺りを見渡しながら言う。

ライラが優しく微笑みながら、

 

「ふふ、聞けるといいですね。」

「……!」

 

レイは自分の足元を見る。

影が揺らいでいる。

そして一気に色んなものが見聞きできるようになる。

ライラがレイを見て、

 

「どうしました、レイさん?」

「……なんでもない。」

 

レイはスレイの元に駆けて行き、手を繋ぐ。

洞窟を抜け、辺りは風景は砂漠から一気に変わる。

枯れ木や湿った地面、所々に岩々があり、大きな葉があり、空は薄暗い。

その中を歩くが、

 

「うわぁ⁉」

「ちょ、スレイ!」

 

足元が滑り、スレイが派手に滑って転んだ。

ロゼが驚いてスレイを見た。

無論、手を繋いでいたレイも……

 

「大丈夫か、レイ。」

 

水沼に落ちたレイをミクリオが抱き上げる。

 

「くっしゅん。」

 

レイはミクリオにしがみ付いた。

ライラが炎でレイの服を乾かす。

ミクリオはスレイを見て、

 

「スレイ!足元には気をつけろ!」

「ゴ、ゴメン……」

 

レイはそのままミクリオに抱かれたまま進む。

進むにつれ、

 

「……気配を感じる……あそこ。」

 

レイの指さす方向には廃村があった。

村に入り、スレイが辺りを見渡し、

 

「ここが聖女の村……?」

「誰もいない……」

 

ロゼも辺りを見て言う。

だが、ザビーダが目を細め、

 

「……こともないようだぜ。嬢ちゃんの言う通りにな。」

 

その先には憑魔≪ひょうま≫がいた。

レイはミクリオに抱かれたまま、空に手を伸ばす。

 

「……ここも同じ……」

 

そして手を戻し、憑魔≪ひょうま≫を見る。

ヒト型に近いが、下と頭はヘビとなっている。

そういつぞやの憑魔≪ひょうま≫と同じ系統だ。

そして憑魔≪ひょうま≫もまた、こちらに気が付き攻撃を繰り出してきた。

ライラは札を構え、

 

「この者はエウリュアレーです!」

「ステンノーじゃないのか⁉」

 

スレイは敵の攻撃を防ぎながら言う。

ロゼは敵に攻撃しながら、

 

「スレイ!考えるのは後!」

「ああ!」

 

スレイは攻撃を繰り出す。

レイはミクリオから降り、ミクリオも参戦する。

スレイとロゼは時に神依≪カムイ≫を用いて戦闘するが、

 

「しぶといわね。」

「みたいだな。」

 

エドナとザビーダが天響術を繰り出しながら言う。

レイは瞳を閉じ、開くと歌を歌い出す。

辺りが大きな魔法陣に包まれた。

敵の動きが止まり、頭を抱えて唸り出す。

スレイはその隙を突き、一撃を与えた。

レイは歌うのを止め、スレイの横に立つ。

敵は後ろにさがり、

 

「げひひひっ……わかったわ……!人の欲望は底なしだって……!」

「ライラ!」

「はい!」

 

スレイはライラを見る。

そしてライラもスレイを見た。

 

「聖女なんてもちあげて……!全部押しつけて……!」

 

憑魔≪ひょうま≫エウリュアレーは頭を抱えて唸る。

レイはビックンと反応し、胸を抑える。

 

「……あぁ……!」

「レイ⁉」

 

ミクリオはレイを見る。

レイは呼吸が荒くなる。

憑魔≪ひょうま≫は続ける。

 

「自分はなにもしないクセに!子どもたちは病気で死んだのに!」

 

そしてレイは胸を抑えたまま、

 

「「私のせいじゃないのにいぃぃっ!」」

 

レイと憑魔≪ひょうま≫の声が被る。

そして憑魔≪ひょうま≫から強い穢れが凝縮される。

 

「やばいぞ!下がれ!」

 

ザビーダが叫ぶ。

そしてそれを爆発させた。

それが収まると、憑魔≪ひょうま≫は居なくなっており、レイは倒れていた。

ミクリオがレイを抱え、ザビーダが敵が居た所を睨みながら、

 

「余力を残してやがったか。」

「くそ!また浄化できなかった。」

 

スレイは眉を寄せる。

エドナが傘を開き、

 

「敵が一枚上手だったわね。」

「ねぇ、今の憑魔≪ひょうま≫が……」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

ミクリオも頷き、

 

「ああ……聖女だったんだろう。信じた民衆に裏切られて……」

「メデューサ種は、独善や憎悪に染まった女性が変化≪へんげ≫した憑魔≪ひょうま≫とされています。」

 

ライラがスレイを見て言う。

ザビーダが肩を少し上げ、

 

「道理で睨まれると固まっちまうわけだ。」

 

レイが目を覚まし、スレイを見る。

スレイが心配そうに、

 

「レイ。大丈――」

「……お兄ちゃん。彼女たちの事を知りたいのなら、教会を調べて。そこに彼女たちの悲しみと憎悪の真実の一部がある。」

「レイ……お前……」

「それが彼女に邪魔されずに、私ができること。」

 

レイはミクリオにしがみ付いた。

ロゼが頷き、

 

「うん。……レイの言う通り、聖女は修道女なんだしね。ペンドラゴの教会行けばなんか手がかりあるかも。」

「ああ。調べてみよう。理由はどうあれ、あんな憑魔≪ひょうま≫を野放しにはできない。」

 

スレイも頷く。

ライラは二人を見て、

 

「そのためにも、はやく考古学者の方を探さなくてはなりませんね。」

「ああ!その人もほっとけないしな。」

 

スレイ達は再び歩き出す。

ロゼがミクリオにしがみ付いているレイを見て、

 

「にっしても、いつの間にかレイは力?的なもの戻ったの?」

「ここに入って少ししてから。でも……裁判者の気配が遠い……他の所に意識が飛んでる気がする。」

 

そう言って、顔を上げ、空を遠い目で見る感じで見る。

ロゼは頭を掻き、

 

「ま。あんまし、無理すんなよ。」

「ん。お兄ちゃんほど無茶はしない。」

「ならよし!」

「何が⁉」

 

頷くレイとロゼをスレイは驚いたように見た。

さらに歩いて行くと、

 

「うわぁ⁉」

 

スレイが少しへこんだ地面に足が落ちる。

ロゼが笑いながら、

 

「スレイ、足元注意!」

「はは、ゴメン……」

 

そしてスレイは改めてそのへこみを見て、

 

「ん~。この形……足あ――」

「言わなくてもいいわ。言うと出てくるパターンよ。」

 

エドナが傘でスレイを突いた。

と、レイとロゼが、

 

「足跡だ。ドラゴンかな……」「足跡だよね。これって。」

 

同時に言った。

エドナが傘を構えて、

 

「言うなって言うと言うパターンなのね!」

 

レイは前の方にいるミクリオの方に逃げて言った。

ザビーダが笑いながら、

 

「すかすパターンみたいだな。」

「どうでもいいわよ。」

 

エドナは構えていた傘をザビーダに突き刺した。

ザビーダは突かれた所を抑える。

ロゼが頭を掻きながら、

 

「で、この池はやっぱり?」

「足跡だろうな。ドラゴンか巨人かデカ足憑魔≪ひょうま≫の。だが、嬢ちゃんがドラゴンって言ってたからかもしれんな。」

 

ザビーダが笑いながら言う。

スレイが腕を組み、

 

「でも、ずいぶん古いものみたいだ。今、ここにいるってわけじゃなさそう。」

「こんなデカブツ、ここ以外でも会いたくないけど。」

 

エドナが傘を広げた。

ロゼが足跡らしきものをじっと見て、

 

「あらためて見ると不思議だよね。」

「ああ。人がこんな巨大な憑魔≪ひょうま≫に変わるなんてな。」

 

スレイが腕を組んで言う。

ザビーダがスレイ達を見て、

 

「思うんだがよ。元々俺らはドラゴンサイズの欲望を抱えてて、抑えこんでるだけなのかもな。それが吹き出して憑魔≪ひょうま≫が生まれるとしたら、あいつらは俺たちの『心そのもの』ってことだ。そう考えると納得できねえか?憑魔≪ひょうま≫がいくらデカくても。」

 

そしてザビーダはスレイ達が不思議そうな顔で自分を見ているのに気づく。

ザビーダは顎に手を当てたまま、

 

「あん?おかしなこと言ったか?」

「ううん……まともすぎてビックリしただけ。」

「なんかごめん。」

 

ロゼとスレイは一歩ずつ下がっていく。

エドナが悪戯顔で、

 

「柄にもないことを言ってひかれるパターンね。」

「ひでえ⁉」

 

ザビーダは目を見開いた。

 

レイはミクリオの側に行くと、

 

「ん?どうした?」

「……ある種のエドナの逆鱗に触れた?」

「は?」

 

レイはミクリオの手を握って言う。

ライラがミクリオを見て、

 

「何かあったのでしょうか?」

「さぁ?」

 

と、後ろの彼らを見ると、

 

「……でもなさそうだけどな。」

「みたいですね。」

 

そこにはエドナにど突かれているザビーダの姿。

二人は変わった植物や景色に目を戻す。

 

そして、リヒトワーグ灰枯林に入る。

途中まで進み、レイが立ち止まり、

 

「……何かいる……」

 

そう言って、レイが辺りを探って指さした。

その先には強大な岩の巨人が立っていた。

ザビーダがいち早くレイの指すものを理解し、

 

「おおっと!やばそうなのがいやがる!」

 

スレイ達もそれに気付き、

 

「せっ……」

「説明不要のデカさー‼」

 

スレイが言う前にロゼが大声で叫んだ。

ライラがロゼを見て、

 

「えっ?あ、そうですか……」

「したかったん、説明……?」

 

ザビーダがライラを見る。

エドナが傘を閉じ、

 

「でも、今ので……」

 

そう言って、敵を見る。

そしてロゼの声でこちらに気付いた強大な岩の巨人が近付いて来た。

スレイ達は武器を構える。

レイが歌を歌う。

そしてスレイとロゼは神依≪カムイ≫をして、敵と交戦する。

敵の防御率が高く、長期戦となる。

と、岩の巨人はレイの方に歩いて行た。

足をドシンと一回大きく踏み込んだ。

地面が軽く揺れ、レイは尻餅を着いた。

そこに敵の拳が振るう。

 

「ちぃ!」

 

ザビーダがスライディングしてレイを抱えて、それを防ぐ。

だが、第二派が来る。

レイは影で敵の腕を掴んで、

 

「ザビーダ、着地よろしく。」

「へ?」

 

そのまま、上へとジャンプした。

正確には影がテコの原理となった。

高く上がったレイとザビーダ。

ザビーダが地面に風を使って着地を和らげるが、一気に足に重みがかかる。

彼はしばし固まり、

 

「……よ、よ~し!何とかなったぜえ!」

「……ん。」

 

レイは降りて、再び歌を歌う。

そして、エドナと神依≪カムイ≫をしていたスレイが、思いっきり地面を叩く。

その反動で、レイは再び尻餅を着いた。

 

「……二回目……」

 

レイは岩の巨人を見上げ、睨んだ。

影が敵を締め上げる。

スレイ達はレイを見ると、物凄く怒っていた。

スレイはミクリオと神依≪カムイ≫をして、一撃を与え、傷が出来た。

そこにライラとすぐ神依≪カムイ≫をして浄化の炎を思いっきり叩き斬る。

レイはムーと頬を膨らませ、スレイ達に背を向けた。

ミクリオはスレイを見て、

 

「思ったより危険だぞ、ここは。色々な意味で。」

「学者さんを早く探さないと。色んな意味で。」

 

スレイもミクリオを見て言う。

と、そこに一人の司祭服を着た男性が歩いて来た。

 

「なんだ今のは……?」

 

スレイは司祭を見て、

 

「あなたが考古学の人?」

「岩の嵐を……斬っていた……」

 

彼は脅えながらスレイを見る。

レイが歩いて来て、司祭を見た後背を向けて、

 

「……ムカつく。人間嫌い……」

 

と、ボソッと言った。

司祭はレイを見て、

 

「こ、こっちの子は影が……」

 

司祭はさらに震え上る。

スレイが慌てて、

 

「違うんだ。あれは憑魔≪ひょうま≫ていう――」

 

だが、司祭は近付いてくるスレイを、

 

「ち、近寄るな!化け物っ!」

 

と、走り去って言った。

スレイは口を開け、

 

「あ……」

 

レイは思いっきり、頬を膨らませた。

ロゼは走って行く司祭を見て、

 

「なんだよ!助けに来てあげたのに!」

「瞳石≪どうせき≫目当てだけどね。」

 

エドナがレイの頭を撫でながら言う。

ロゼがエドナを見ながら、

 

「そうだけど、スレイはそれだけじゃないし!」

「スレイ……」

 

ミクリオは不安そうにスレイを見る。

が、当の本人は笑顔で、

 

「とにかく無事でよかったよな。」

「それは、ね。」

「そうだけど~!」

 

ミクリオは苦笑し、ロゼは納得しきれない顔で言う。

と、ライラが少し離れた所にキラキラ光る石を見つけた。

 

「見てください!大地の記憶が。」

「学者が落としたんだろう。」

 

ミクリオもそれに気付いた。

ザビーダがそれを拾い、

 

「もらっとこうぜ。ここまで来た駄賃だ。」

「いいのかな……?」

 

スレイが頭を掻きながら言うと、

 

「別にいいと思う!」

「そうだよ、いいの!それくらい!」

 

レイとロゼが怒りながら言う。

少し落ち着いたロゼが、

 

「そういや、よく裁判者が怒らなかったね。」

「何が?」

 

レイがロゼを見上げる。

ロゼが頭を掻きながら、

 

「ほら、さっき思いっきり力使ってたじゃん。」

「あー……あれはよく裁判者もやるよ。」

「へ?」

 

ミクリオ以外の天族組は何か思い出したように、各々視線を反らす。

レイはロゼを見たまま、

 

「で、その度に審判者が『相変わらず短気だなぁ~』って、笑って剣を交えてた。」

「「「…………」」」

 

スレイとミクリオとロゼは口を開けたまま、固まった。

レイは首を傾げる。

そしてスレイは思い出したかのように、

 

「そ、そうだ!大地の記憶!」

 

スレイはザビーダから瞳石≪どうせき≫を受け取る。

 

――辺りは闇で覆われていた。

数多くの憑魔≪ひょうま≫達が蠢いている。

将軍と呼ばれた男性は虚ろな瞳でそれを瞳に映す。

彼の髪は金から白へと変わり、顔にはしわや痩せ衰えて、骨の形が分かる。

そんな彼を無数の憑魔≪ひょうま≫達が喰らい出す。

彼は暗い空を見上げ、されるがままとなっていた。

彼は穢れに身を任せ、包まれる。

そこに、旅をしていた家族連れが歩いてくる。

その瞳には、無残な人の亡骸。

そして穢れを身に纏った巨大な獅子の男。

その男が振り返り、襲い掛かる。

彼は冷たく、怒り狂った顔をしていた。

辺りに赤い、血柱が吹き荒れた。

家族は地面に倒れ、血を流していた。

そしてすぐ傍には咆哮を上げている獅子の男。

その表情はどこか悲しく、哀れで、辛そうであり、怒りに狂っているかのようだった。

 

 

レイはスレイにしがみ付く。

スレイはレイの頭を撫で、

 

「これがヘルダルフ――災禍の顕主が生まれた瞬間……」

「アイツも……人間だったんだよね。今更だけど。」

 

ロゼが空を見上げて言う。

ライラは手を握り合わせ、

 

「はい。冷徹ではあっても、当たり前に家族を愛する……」

「そんな人間が災禍の顕主になるのか。」

 

ミクリオが拳を握りしめた。

ロゼは視線をスレイ達の方に向け、

 

「家族を失ったから?」

「なんかのせいっていうより、自分の意思でなったように見えたがな。」

「そうね。」

 

ザビーダは帽子を深くし、エドナは傘で顔を隠す。

レイがスレイにしがみ付いたまま、

 

『……彼は受け入れた。自らの呪いを……全てを憎み、悲しみ、かけられた呪いをさらに恨んで、呪って……』

 

レイはスレイの足に思いっきりしがみ付く。

スレイはレイを抱き上げ、

 

「オレたちが理解できることじゃないのかもしれない。けど……きっとヘルダルフはやめたんだ。抗うことを。でも、どうして……?」

 

しばらく沈黙が続く。

スレイ達はひとまず野営のできる場所まで歩く。

ミクリオがスレイを見て、

 

「残念だったな。遺跡の話、できるとよかったが。」

「いいさ。会えてもミクリオの考えは聞いてもらえなかっただろうし。」

 

スレイが笑いながら言う。

ミクリオは眉を寄せて、

 

「僕は別に……」

「でも、オレの知ってることは、オレたちが探検して考えたことじゃないか。」

「見解は同じじゃないけどな。」

「結構な。」

 

二人は互いに笑う。

ロゼの隣に居たレイは後ろを横目で見て、笑った。

と、ロゼは後ろ向きで歩き、

 

「こらー!もたもたするな、遺跡オタクども!」

 

その声を聞いたスレイは、

 

「ロゼ、意外にまだ怒ってる。」

「あれは自分のためじゃなく――」

「わかってるよ。おかげで冷静になれた。」

「いいパートナーじゃないか。」

 

スレイは頷く。

と、ロゼが大声で、

 

「もおー!駆け足ー!」

「今行く!」「今行くよ!」

 

二人は大声で叫んで走り出す。

彼らはザフゴット原野に戻り、野営の準備を始める。

そして各々気持ちを整える。

スレイは火にあたりながら、スレイは伸びをする。

 

「今日は少し疲れたな。」

「ああ。やらなきゃいけないことが多かったからね。」

 

ミクリオはスレイを見て言う。

スレイは燃える火を見て、

 

「大地の記憶に語り部、裁判者に審判者……。俺たちの知らない秘密だらけなんだよな。世界って。」

「まったくだ。振り回されて隠されて……釈然としないよな。」

 

その二人の会話に、ロゼがお茶を渡しながら、

 

「てかさ。それが普通じゃない?」

「ロゼ?」

 

それを受けとり、スレイはロゼを見上げる。

ロゼは腰に手を当て、

 

「商人の世界だって秘密だらけだよ。相場にギルドのしきたり、人脈に仕入のルート。談合とか口に出せないアレやコレや……毎日がそういう秘密との戦いなわけよ。」

「なるほど……そうだよな。」

「それが僕たちの場合は、マオテラスや過去の歴史ということか。」

「当然そうなるよな。導師なんだから。」

「しかも好きでやってるんでしょ?」

「もちろん!」

「おっしゃる通り。」

「わかればよし!んじゃ、また明日も秘密と戦いましょう!」

 

スレイ達は盛り上がっていた。

レイはそれを遠目で見て嬉しそうに笑う。

と、後ろの方ではライラが怒りながら、ザビーダに近付いて行った。

レイがそこに近付いて行く。

 

「ザビーダさん。お願いがあります。」

「なんだい?怖い顔して。」

「いいかげんに服を着てください!その恰好は教育上、よろしくありませんわ。特に、家にはレイさんも居るんですから!」

 

ライラは腰に手を当てて怒る。

ザビーダはすました顔で、

 

「そうしたいのは山々なんだが、これが俺の誓約でさ。」

「そう……だったのですか⁉」

「ああ。それが俺の一人旅できた理由さ。」

 

と、エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「誓約を課しているのが自分だけと思わないことね。」

「まさかエドナさんも?」

「そうよ。お兄ちゃんが山から出さないように――」

 

エドナは重い口調で言った。

レイがそれを聞き、さっと木の後ろに隠れる。

レイは恐る恐る、そっと聞き耳を立てる。

 

「毎日ピーナッツを年の分だけ食べてる。」

「俺も肌を焼いて一月に一枚脱皮しないとダメでさ。」

 

だが、エドナは若干声色を変えて言う。

そしてザビーダがそれに続く。

レイは目をパチクリし、首を傾げる。

エドナは続けて、

 

「あ。デゼルも、歯をヤスリでギザギザにするのが誓約だって言ってたわ。」

「どこまで本気かわかりませんわね……」

 

ライラが苦笑した。

ザビーダは笑いながら、

 

「くくく、ライラには言われたくないねえ。」

「そういうものでしょ?天族の誓約って。」

「はい。真実は各々の心に。それが誓約ですわね。」

 

ライラは胸に手を当てて言う。

レイは小さく笑って、そっとその場を離れた。


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