テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第三十一話 改めて

スレイ達はローグリン遺跡に向かう途中、森で野営していた。

レイはまだ寝ている。

各自、気持ちの整理をつけるため自由行動していた。

 

ロゼは拳を握りしめ、

 

「あいつ……なんで……」

 

その姿に、ライラが心配そうに近付く。

ザビーダもそれに気づき、近付く。

ライラが、

 

「ロゼさん、もしかしてかの者にやられた怪我が……?」

「あ!それは平気!」

 

ロゼは腰に手を当て、笑う。

 

「みっともないよねえ。人質とったのにやられるなんて。」

「いえ。恐るべきは迷いなく攻撃したかの者です。そして……」

「サイモン、だよな。」

「はい。」

 

ライラとザビーダは真剣な表情で言う。

そしてロゼは思い出すように、

 

「あいつの幻覚、なんでもありだもんね。」

「確かに彼女の幻覚能力は普通ではありません。でも、もっと異常なことがあります。」

「あいつが……穢れてないこと?」

 

ロゼがジッとライラを見つめる。

ライラは頷き、

 

「そう。つまり純粋に信じているのです。かの者の理想を、心から。」

「なんで信じられるわけ⁉あいつ撃たれたのに笑ってた。なんでそこまで――」

「それは彼女にしかわからないことでしょう……」

 

ライラが手を握り合わせる。

ザビーダが帽子を深くかぶり、

 

「だが、サイモンが天族のまま、ヘルの野郎に従っているのは幻覚じゃない。」

「……わかった。ヤバイのはサイモンの純粋さなんだね。」

 

ロゼは腰に手を当てて言う。

ザビーダはさらに深く帽子をかぶり、

 

「皮肉だがな。」

「……うん。」

 

ロゼも俯いた後、顔を上げ、

 

「で、レイの方は?」

「……まだ眠っていますわ。」

「……ま、今回は前回のも込めて……裁判者のお仕置きが来たってところだろうよ。」

「でも、だからってあれは!」

「……ええ。だから、レイさんが目を覚ましたら、私たちはいつも通りに接しましょう。」

「ん……そうだね!」

 

ロゼは大きく頷いた。

そしてテントに向かって歩いて行った。

ザビーダはライラを見て、

 

「ま、実際……今回の件で、裁判者がどう出てくるか、だな。」

「はい。」

 

二人も、テントのある方へ歩いて行く。

 

翌朝、レイは目を覚ます。

ライラが手を合わせ、

 

「レイさん!良かったですわ!」

 

レイは身を起こし、

 

「……?」

 

そしてレイは左目の包帯に触った。

ライラが肩を落としながら言う。

 

「その……血は止まっていたのですが……その……」

「大丈夫。ありがとう。」

 

そう言って、包帯を取り始める。

エドナがジッとレイを見て、

 

「もう取って平気そうなの?」

「ん。」

 

そう言って包帯を外し、左目を開く。

左目は傷跡一つない。

左目をパチパチさせた後、

 

「……。」

「……大丈夫ですか?」

 

レイは頷いた。

エドナは立ち上がり、

 

「じゃあ、私はボウヤたちに言ってくるわ。」

「はい。」

 

ライラは頷く。

レイは黙り込んだまま、考え込んでいた。

そして立ち上がり、テントを出る。

そこに、スレイ達が駆けてくる。

 

「レイ!本当に大丈夫か⁉」

「痛いところはないか⁉」

 

二人は詰め寄った。

ロゼが二人の襟首を掴み、

 

「はいはーい!過保護兄貴ども、落ち着け。」

「あはは、ゴメン……」「す、すまない。」

 

二人は肩を落とす。

そこにザビーダが笑いながら、

 

「がはは!スレイとミク坊は過保護だね~。」

 

と、腹を抱える姿を見たミクリオは、

 

「べ、別にいいだろ!」

「……。」

 

レイはそれをただ見ていた。

そして視線を外し、

 

「心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫だから……」

 

そう言って、歩いて行った。

スレイ達は互いに見合った後、旅支度をすませる。

 

スレイ達一行はキャメロット大橋を目指して歩いていた。

途中の森の中、休息を取る。

すると、一人の少年を見つけた。

 

「あれ?ゼロ?」

「ん?ああ、スレイ。それにロゼにレイ。」

 

スレイとロゼは彼に近付く。

 

「でも、なんでここに?」

「ん~、ちょっと気になった事があったんだけど……」

 

そして目を細め、小声で、

 

「どうやら大丈夫みたいだ。」

 

二人に笑顔を向け、

 

「もう用はすんだよ。で、君たちは?」

「俺たちはローグリン遺跡に向かう途中。」

「ローグリーン遺跡……誰かを探してるとか?」

「そ。メーヴィンおじさんを探してるんだ。」

「……そう。あの人を。」

 

そう言って、少年ゼロはライラを見た。

だが、すぐに笑顔になって、

 

「ところでスレイ。」

「ん?なに?」

「何でレイはあんなに離れてるのさ。」

 

そう言って、指さす。

そしてスレイとロゼがそこを見ると、ミクリオの足にしがみ付き、隠れているレイの姿。

ロゼは目をパチクリした後、レイの元に歩いて行く。

 

「レイ?どうしたの?」

「……ほっといて……」

 

レイは視線を外す。

ロゼがしゃがみ、レイのおでこにでこピンをする。

 

「ダメだぞ。挨拶は大事だぞ~!」

 

そう言って、レイを抱き上げた。

エドナがロゼをじっと見て、

 

「アンタがそれを言うのね。」

「でも、ロゼさんは挨拶はしっかりする方ですよ。」

 

ライラが苦笑いする。

ザビーダは帽子を深くかぶる。

その視線は少年ゼロをじっと睨んでいた。

かれもまた、その視線に気付いているが、それを流している。

 

「ほら、レイ。」

「……どうも……」

「うん。」

 

レイはロゼに抱きかかえられたまま、挨拶をした。

少年ゼロはレイの頭を左側で撫でる。

レイはビックっと反応した。

 

「あれ?嫌われてる?」

 

と、スレイを見た。

スレイは頭を掻きながら、

 

「おっかしーな。前は平気そうだったのに。」

「理由は?」

 

と、ロゼはレイを引き寄せて聞いた。

レイはロゼの視線を交わし、

 

「……別に……」

 

と、スレイがレイに近付き、頭に軽くチョップした。

 

「レイ、それは感じ悪いぞ。」

「……ごめんなさい……」

 

レイは視線を落とした。

スレイは頭を撫で、

 

「わかればいいよ。」

 

レイはスレイを見た後、瞳を揺らした。

そして少年ゼロを見て、

 

「……どうも……」

「う、うん?」

 

少年ゼロは笑顔のまま答えた。

レイはロゼを見て、

 

「降ろして。」

「え?あ、うん。」

 

ロゼがレイを降ろすと、レイはミクリオの足にしがみ付き、隠れた。

スレイとロゼは頭を掻きながら、

 

「ところでゼロはどこに行くんだ?」

「ん~、どこかな?気ままに旅をするさ。」

「へ~。……ところでゼロ。」

 

ロゼは真剣な表情になる。

ジッと少年ゼロを見て、

 

「ゼロは天族が視えるの?」

「ロゼ?」

 

スレイが不思議そうにロゼを見た。

少年ゼロは笑顔のまま、しばらくロゼを見た後、

 

「うん。視えるね。」

「え⁉憑魔≪ひょうま≫が視えてるんだから、やっぱりそうか……」

 

スレイがバッと少年ゼロを見る。

少年ゼロはレイの居る方を指差す。

正確には、レイがしがみ付いているミクリオを。

 

「そこにいるのは水の天族の人でしょ。始めて会った時から一緒に居るよね。導師の君のとこに居るんだから、陪神≪ばいしん≫でしょ?」

「……ああ。やっぱり最初から僕らが視えていたんだな。」

「もちろん。でも、俺自身は君たちに名のられていないかったから、その方がいいのかなって。」

「……否定はしない。」

 

ミクリオは彼を警戒しながら言う。

少年ゼロは笑顔のまま、

 

「でも、どうして今頃?」

「……前々から気になってたんだ。それだけ。」

「そ。」

 

ロゼは腰に手を当てて言った。

そして辺りに風が吹いた。

 

「……用事ができた。俺は行くよ。」

「え?あ、うん。」

 

少年ゼロはスレイの横に来ると、

 

「スレイ。また会おう。」

「ああ。」

 

そう言って、彼は歩いて行った。

レイは彼の背をジッと見つめていた。

ロゼが頭を掻きながら、

 

「やっぱり、ゼロはさぱらん。」

「でも、なんでミクリオだけだったのかな。」

 

スレイが腕を組んで、首を傾げる。

ロゼは左手を腰に当てたまま、右手を顎に当てる。

 

「それは……あそこで睨んでる風の天族や、不機嫌そうにしてる土の天族に、掴みどころのない表情だった火の天族よりかは、レイがしがみ付いてる水の天族の方が絡みがよかったんじゃない?」

「なるほど~!」

「待ってくれ!それってどうなんだ⁉」

 

ミクリオはハッとしたように、ロゼを見た。

ロゼは笑いながら、逃げるように歩いて行く。

 

「あはは!」

「ロゼ!」

 

ミクリオはそれを追っていく。

ライラが手を合わせ、

 

「さ。私たちも、行きましょう。」

「そうね。」

 

エドナも傘を回しながら歩いて行く。

ザビーダも帽子を深くしたまま、歩き出した。

スレイは近付いて来たレイを見下ろし、

 

「俺たちも行くか。」

「ん……」

 

レイは頷く。

そしてレイは歩いて行った。

スレイは目をパチクリして、

 

「あれ?オレ、振られた?」

「……そう……なのでしょうか?」

 

スレイはレイに差し出していた右手を見て言った。

ライラも首を傾げてスレイを見ていた。

 

一行は帝都ペンドラゴに来た。

そこで旅に必要な道具を集める。

と、スレイ、ミクリオ、エドナと共に居たレイが、

スレイ達の買い物が終わるまで、店外の隅で待っていた。

そして人をジっと見ていた。

 

「……お兄ちゃんたち早く終わらないかな……」

 

レイでしばらく立っていると、ライラ達の方が買い物が終わりこちらに近付いてくる。

レイはそれに気付かず、立っていた。

と、レイの左上から植木が落ちてきていた。

 

「危ない!」

「え?」

 

女性の声にレイは上を見上げるが、

 

「……?」

 

レイの眼には植木は見えていない。

そして上にはロゼが見えた。

 

「あ、あっぶな~……」

「ごめんなさい!大丈夫だった!」

 

女性が店の中から掛けて、こちらに来た。

ロゼが植木を渡し、

 

「ギリセーフ。今度は気をつけてね。」

「ええ。本当にごめんなさいね。お詫びと言ってはなんだけど、はい。」

 

女性はクッキーをレイに手渡した。

レイは女性を見上げ、

 

「ありがとう……」

 

女性は最後にもう一度謝ってから、店の中に入って行った。

そこにライラとザビーダが来て、

 

「危なかったですわ。」

「ああ。ロゼちゃんが行かなきゃ、当たってたな。」

 

ロゼは少し間を置き、

 

「レイ。」

「ん?」

 

ロゼはレイの左目近くに、短剣を向けた。

レイはキョトンとしていた。

ライラとザビーダは少し驚いていたが、何か思い当たる事があるかのように納得していた。

 

「やっぱりね。」

 

ロゼは短剣をしまい、レイを見下ろして、

 

「レイ。左目見えていないっしょ。」

「……そんなことないよ。さっきのは一瞬何が起きたのか分からなかっただけ。」

「ウソ。」

 

ロゼは即答だった。

レイは首を振り、

 

「ホントだよ。」

「なら、今の私の思っている事わかる?」

「……え?」

 

レイは視線を少しオドオドさせた後、無言となった。

ロゼはしゃがみ、

 

「いつものレイなら、街に入ってすぐにスレイかミクリオの手を握ってた。でも、今回はそれをしなかった。それに、こうして離れてるのも普段はありえない。ま、例外はあるけど。それでも、いつものレイとはやっぱり違った。この前の影響だよね?」

 

レイは頷いた。

そしてロゼを見上げ、

 

「……左目は裁判者としての力が封じられてるから治りが遅いの。でも、しばらくすれば見えるようになる。でもそれ以上に怖いのは……人の心が読めないこと。確かにごちゃごちゃし過ぎて気持ちが悪いけど、それ以上に何も聞こえなくて……何を想っているのか……何を考えているのか分からないの怖い。だから……行動の理由が分からなくて……どうしたらいいのか分からないの……」

「そっか。ゴメン。」

「え?」

「ゼロのとき。だからあんな風だったんだね。気付いてあげられなかった。」

 

そう言って、ロゼは手を合わせた。

レイは眉を寄せ、どうしていいかわからずライラを見た。

ライラは優しく微笑み、

 

「今のレイさんが思っている事を、レイの思うままに言えばいいのですよ。」

 

レイは少し考えて、

 

「ロゼ……別にロゼが謝る事じゃないよ。私はロゼ達のように人間でもないし、天族でもない。今まで分からずに聞こえてきてたものや、何気なくしてたことができなくなって……不安で……でもそれと同じくらいやっぱり自分は人間にはなれないって思って……もちろん天族にも。私は……あの人なんだなって……あの人の力に頼ってたんだなって……」

「レイ……」

「だから……ロゼ、どうしていいのか分からないくて恐いの。周りが、人が、天族が、世界が……誰かに側にいて欲しい。でも、どうしたらいいのか分からなくて不安で……」

 

ライラがレイの前でしゃがみ、引き寄せた。

レイの背を摩り、

 

「それが普通なんですの。生きる人たちみんな。相手が何を想い、感じ、そして行動しているか解らない……。でも、だから人は人と関わる事で、その人を知り、絆を深め、共に過ごすのですわ。それは人間も、天族も、そしてきっとそれを読める裁判者や審判者もまた、同じように……」

「ライラ……」

 

レイはギュッとライラにしがみ付いた。

ライラはもう一度、優しく微笑み、

 

「怖いときは怖いと、不安な時は不安だと、素直に言ってください。私たちが傍にいますわ。ね、ロゼさん。」

「もちろん!」

 

ロゼは大きく頷いた。

それを聞いたザビーダは、

 

「え⁉その中に俺様入ってる⁉その口調だと俺様、場外されてね?」

「え?違うの?」

「ロゼちゃ~ん!」

 

ロゼがニット笑いながら言うと、ザビーダは肩を落とした。

それを見たレイは、笑い出した。

ライラがレイを離し、

 

「やっと笑ってくださいましたね。実は私も、不安だったんですの。レイさんが、私のことを嫌いになってしまったのではないか、と。」

「ライラ、そこはあたしたち、でしょ。」

「ええ。」

 

ロゼが付け足した。

レイは首を思いっきり振って、

 

「そんなことはないよ!ライラ達の事も好きだよ。お兄ちゃん達の次に!」

「次なんだ。」

 

ロゼは苦笑いする。

レイはジッと彼らを見て、

 

「だから嫌われるのが、恐がられるのが……イヤ……だった。他の人達みたいに、嫌われるんじゃないかって……」

「大丈夫ですわ。私達はレイさんが大、大、大好きです。」

「ん。」

 

レイはライラに再びしがみ付いた。

ロゼは嬉しそうに笑った後、

 

「それにしても、ライラばっかりズルイ!」

「え?」

 

ライラはロゼを見ると、拗ねていた。

ロゼは頬を膨らませている。

ザビーダは笑いながら、

 

「仕方ないぜ、ロゼちゃ~ん。なんたって、お母ん体質なんだから。」

「それもそうか。なら仕方ない。」

「ロゼには無理だね。ライラは皆のお母さん……ザビーダ抜きで。」

「ふふ。そうですわね。」

「え?えぇ~⁉」

 

ロゼとレイとライラは笑いながらそう言った。

ザビーダは肩を落とした。

そこにスレイ達も店の中から出て来た。

レイはロゼと共に前を歩いていた。

スレイ達はライラから先程の事を話した。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「やっぱりね。」

「エドナは最初から気付いてたのか?」

 

ミクリオは前を歩くエドナを見る。

エドナは傘をクルクル回したまま、

 

「ええ。アイツが何もせずに、あの子を起こすわけないわ。前の時も、その前の時も……裁判者が関わるたびに、おチビちゃんは色々と変わった。だから今回もそうだと思ったわ。」

「……なるほどな……」

 

ミクリオは納得する。

スレイはライラを見て、

 

「レイが見えないって俺の時みたいな?」

「スレイさんのとは少し違いますわ。今はおそらく完全に見えていないと思われます。ですが、レイさんは人とは違い、傷の治りは早いです。」

「でも、痛みは感じる……よな?」

「……多分……」

 

ライラは俯いた。

スレイは頬をバシバシ叩き、

 

「よし!今度は俺がレイをカバーする!」

 

そしてレイとロゼの方に駆けて行った。

ミクリオはジッとその背を見て、

 

「全く。勢いだけはいいんだから!」

「素直に出遅れた事を認めたら?」

「違う!」

 

ミクリオはエドナの言葉を聞き、早歩きで歩いて行った。

 

 

キャメロット大橋につき、レイが海を見ていた。

と、ロゼもそこに来て、

 

「お!こんなトコまで登ってきてる。」

 

レイもそこに見ると、赤いカニが何匹か上がってきていた。

そこにスレイとミクリオ達がやって来た。

そしてスレイはそこに居たカニを見て、目を見開きレイを抱え、

 

「下がれ、ロゼ!」

「憑魔≪ひょうま≫だ!」

 

ミクリオも杖を出し、構える。

レイはスレイを見上げる。

その表情はいたって本気だ。

逆にロゼは、

 

「は?なに言ってんの?」

「なにじゃない!」

「その赤いヤツから離れろ!」

 

ロゼは目をパチクリした後、片手を振って、

 

「いやいや。これ、ただのカニだから。」

 

だが、スレイはさらにレイをカニから離し、

 

「ただのじゃない!足が8本もあるぞ!」

「それがカニよ。」

 

後ろにさがるスレイを見て、エドナが言う。

そして同じように杖を構え、後ろにさがりながらミクリオが、

 

「そのハサミは凶器だろう。」

「それがカニですわ。」

 

ライラが苦笑しながら言う。

スレイが眉を深くし、

 

「けど甲羅もトゲトゲだし……」

「それがカニ。」

 

レイがスレイを見上げて言う。

ミクリオも眉をさらに深くし、

 

「泡を吹いて小型のヤツもたくさんいて……」

「100%≪パー≫カニだ。」

 

ザビーダが笑い出す。

二人は目をパチクリし、スレイがレイを降ろし、

 

「……マジで?」

「マジで。普通に海にいる生き物。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

ライラもカニを見つめ、

 

「しかも美味しい。」

「こんな生き物が普通だとは……」

「海って怖いな……」

 

ミクリオとスレイはジッとカニを見つめた。

そしてロゼはその二人を見て、

 

「変なの。どうでもいいことはいっぱい知ってるのに。」

「山育ちだから海の知識がないのですね。」

 

ライラがさらに苦笑いする。

レイは興味津々にカニを見ている二人を見て、

 

「ホント、変だね。」

 

小さく呟いた。

 

 

そして再びザフゴット原野にやって来た。

その砂漠とかした土地を歩きながら、

 

「にっしても、やっぱりあつ~。脱いでいい?」

「またそれ?火の試練神殿でも言ってたよね。」

 

ロゼが手を顔に仰ぎながらいう。

そんなロゼにスレイは眉を寄せた。

ロゼはスレイを見て、

 

「脱いでいい~?」

「ダ~メ。大体、前に来た時は言ってなかったでしょ。」

 

スレイはロゼに言う。

ロゼは頭で手を組みながら、

 

「ケチ。」

「全く残念だぜ。」

 

ザビーダも肩を落とした。

レイがミクリオを見上げ、

 

「なにが残念なの?」

「え?え~と……レ、レイは知らない方がいいこと。」

「……解った。ザビーダがエドナに突かれることをしたという事だね。」

「あ、ああ……」

 

そこを見ると、エドナが傘でザビーダを突いていた。

しばらく歩き続け、

 

「Oh!オアシス!命の泉!」

 

ザビーダが砂漠の中にある湖を見つけた。

そしてそこに駆けて行く。

スレイ達も歩いて付いて行くと、ザビーダは水際に膝を着き左手を胸に当て、右手を天に向ける。

 

「お前は荒れ地に生まれた女神!」

「なんだそのテンションは⁉」

 

その姿を見たミクリオはレイをザビーダから遠ざけながら言う。

そしてザビーダは立ち上がり、ミクリオを見ながら、

 

「水の天族ならわかるだろ、ミク坊!この水のありがたさが。」

「わかるが……それほどでは……」

 

ミクリオはレイを抱え、後ろにさがる。

ザビーダはライラ達の方に近寄り、

 

「いいんだぜ、ライラ!火の天族の火照った体を投げ入れちゃっても。」

「遠慮しますわ。清らかな泉ですが……」

 

ライラも手を合わせて後ろにさがる。

ザビーダはミクリオに抱かれているレイを見て、

 

「んじゃ、嬢ちゃんはどうだ!熱いだろ!気持ちいいぞぉ~!」

「……熱い?気持ちいい?何それ?」

「えぇ⁉まさかの疑問返し⁉」

 

ザビーダは一歩下がった。

が、ザビーダはさらに近付き、

 

「んじゃ、んじゃ、エドナちゃん!地の天族を代表して、一緒に飛び込もうぜ!最高の大地の恵みに!」

「空気読めないのね。風の天族のくせに。」

 

エドナは真顔で言った。

ザビーダは背を向け、肩を落とす。

 

「今の……地味にグサッときた。」

「涙を拭きなさい。この命の泉で。」

「……そうするわ。」

 

エドナは傘をクルクルさせて言った。

ザビーダは泉に近付く。

が、そこにスレイとロゼが近付いて来て、

 

「ぷっはー!美味しかった!」

「だな。あれ?みんなは飲まないの?」

 

それを見たザビーダは泉とは逆方向に走って行った。

ロゼがその背を見て、

 

「なにあれ?」

「さぁ?」

 

スレイもその背を見て首を傾げた。

 

 

さらに一行は進み、あたりが暗くなってきたので野営を始める。

食事が終わり、それぞれテントに入る準備をする。

 

「さて、明日も早い寝るか。」

「そうだな。」

 

スレイとミクリオは立ち上がる。

レイも立ち上がり、二人の元に行くと、

 

「もしかして、嬢ちゃんも俺らと同じテント?」

 

ザビーダは目をパチクリした。

ロゼがザビーダを見て、

 

「あ、そっか。ザビーダは真面な野営は初めてか。」

「そういえばそうですわね。前の時はレイさんは一人で寝てましたし。」

「その前の野営はテント張らずにそれぞれ寝てたし。」

 

と、ライラとエドナも納得した。

ザビーダはスレイとミクリオを見て、

 

「一つ聞くが、デゼルもその中に居たのか?」

「時々ね。」

 

ミクリオが不思議そうな顔で言う。

ザビーダは目元を抑え、

 

「あのデゼルが、ねー。俺様、少し感動。」

「……いつもはお兄ちゃん達の間で寝てるんだけど、前に間違えてデゼルの横で寝てたら怒られた。」

「あー……あったね。そういの。俺も怒られた。」

 

スレイが頭を掻く。

そしてレイは思い出すように、

 

「ロゼがデゼルの肩で寝てる時も、ロゼが起きてからロゼに怒ってた。」

「あったあった!」

 

ロゼは思い出し笑いをする。

それを聞いたザビーダはさらに目元を手で押さえ、

 

「なんだかんだ言って、アイツ馴染んでたんだな。」

「そうですわね。」

「全く。地味に思い出を残していくわね。」

 

ライラは微笑み、エドナは人形を握りながら言う。

レイはエドナを見て、

 

「思い出?これが?」

「ええ。そうよ。」

「……そう、なんだ……これが……思い出……」

 

レイがそう言うと、顔をガバっと上げた。

すると、風が吹き荒れた。

スレイ達は顔を腕で防ぐ。

レイの瞳はある人物たちの会話が光景が視えて来た。

 

――そこは森の中。

自分が見上がるのは森、空、大地、その先の街や人、天族、世界そのものだった。

そこに男性の声が下から聞こえる。

 

「君は彼と違って、随分とつまらなそうに景色を見るんだね。」

 

自分≪裁判者≫は彼には向かず、

 

「……自然の景色は時代と共に変わる。だが、人の世はいつの時代も変わらない。戦争で多くの命が失われ、争うことでそれが間違いだったと思った頃にはもう遅い。失った者は大きい。だが、それと同時に新たな命を育む。」

「うん。失った命は戻らない。でも、新たな命が時代を繋いでいく。」

「それでも人はそれを忘れ、再び戦争を起こす。何も変わらない。いくら導師が穢れを祓っても、人は何度も穢れを生む。」

「それでも、人は繋がりを忘れない。次に繋げることを知ってる。どんなにいがみ合った相手でも、いつかはきっと分かり合える。私はそう信じるさ。」

 

視線が下の声の彼の方を見る。

彼は木にもたれ、上を見上げていた。

その顔は靄がかかったように見えない。

いや、実際は見た事がある。

そして自分≪裁判者≫は彼を見て、

 

「それがお前の言う絆≪縁≫か。」

「ああ。」

 

彼は嬉しそうにそう言っているのが分かる。

 

風が止み、レイはハッとする。

そして左目が視えている事に気付く。

だが、力はまだ戻っていない。

レイはスレイ達を見る。

 

「凄い風だったな。」

「全くだ。テントは大丈夫か?」

「大丈夫みたい。」

 

スレイ・ミクリオ・ロゼは言う。

レイは瞳を揺らし、

 

「もし、あれが記憶で、思い出と言うものなら……彼との出会いはきっと……」

 

レイは服の裾をギュッと握りしめた。

そして再びスレイ達を見て、

 

「お兄ちゃん。今日はもう寝よ。」

「そうだな。てか、その為に立ったんだった。」

 

スレイがレイに手を伸ばす。

レイがそれを握ろうとした時、

 

「レイ。今日はあたしらと寝ない?」

 

ロゼが笑顔で言った。

レイはスレイに伸ばしていた手を止め、ロゼを見る。

 

「……いいよ。」

「だよねー。やっぱりまだダメだよね。レイはやっぱりガードが――」

 

ロゼは頭を掻きながらそう言って、無言となり、

 

「え⁉今なんて⁉」

「だからいいよって。」

「ウソ⁉」

「本当。」

 

レイはそう言うと、ロゼ達のテントの方に駆けて行った。

ロゼは笑顔になって、

 

「やったー!これなら私が寝てるレイを抱っこしても起きないよね⁉」

「ソレとアレは別じゃない。」

「かもしれませんわね。」

 

と、エドナとライラは立ち上がった。

そしてテントに歩き出した。

ロゼはハッとしてすぐに立ち上がり、

 

「ちょっと待って!」

 

二人を追いかけた。

残されたスレイはレイに差し伸べていた手を見て、

 

「……なんか、さみいしな。」

「そうだな。」

 

ミクリオも嬉しそうな悲しそうな表情で言った。

そしてテントに歩いて行った。

そして一人取り残されたザビーダは、

 

「え⁉ってか、俺様乗り遅れた⁉」

 

そう言って、彼も後始末をしてテントに入った。


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