テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

30 / 73
toz 第三十話 戦い

スレイ達はグレイブガンド盆地向かう為、再びヴァーグラン森林にやって来た。

ザビーダが介入したことで、デゼルの時とは違う明るさがあった。

ザビーダがレイの前で腰を下ろし、

 

「しっかし、裁判者の方も随分と丸くなったな。」

「丸くなったのはおチビちゃんの方よ。アイツは何も変わってないわ。」

 

エドナがムッとしながら言う。

ザビーダは頷きながら、

 

「ほーう。んじゃ、嬢ちゃん。お前さんはどう思ってんだ、実際。」

 

ザビーダはレイを見据える。

と、ライラが苦笑しながら、

 

「やっぱり、ザビーダさんは凄いですわね。」

「ん~?何がぁ~?」

 

と、期待しながらライラを見るザビーダ。

エドナが真顔で、

 

「ある意味で、よ。大体、ワタシたちですら、その辺は最近触れていなかったのに。」

「それをズバッと言っちゃうんだもん。」

 

ロゼも笑いながら言う。

ザビーダ決め顔になり、

 

「なるほどね。ま、そこがザビーダお兄さんの凄いとこよ。」

「で、ザビーダ……レイはとっくにスレイと歩いて行ったけど?」

「ハァ⁉」

 

ミクリオに指摘に、ザビーダは前を向く。

そこにはさっきまでいたレイはいない。

 

レイはスレイと手を繋ぎ歩いていた。

スレイはレイを見て、

 

「いいのかなあ……ザビーダのこと、ほっといて……」

「いいんじゃない?さ、お兄ちゃん。みんなが来るの待とっか。」

「そうだな。」

 

レイはスレとの手を放し、みんなが来るのを待つ。

スレイは追いついて来た皆に駆け寄っていく。

レイは小声で、

 

「……ごめんね、お兄ちゃん。でも私はまだ……この答えを知りたくない……」

 

そしてレイも、彼らの元に駆けて行く。

 

 

グレイブガンド盆地に入り、辺りを探りながら歩いて行く。

しばらく回り、スレイは腕を組みながら、

 

「グレイブガンドにヘルダルフはいないみたいだ。」

「そのようですね。秘力があっても、近くにいれば強い領域は感じるはずですわ。」

「別の場所を捜すしかないね。」

 

ライラとミクリオも同じように言う。

ロゼも考えながら、

 

「にしても、なんか手がかりがないと。」

「同意。無駄足はイヤよ。」

 

エドナは真顔だった。

スレイは悩みながら、

 

「あの穢れは、そうそう隠せるものじゃないはずだけど……。」

 

と、他の者達も考えこむ。

ザビーダが思い出すように、

 

「穢れか……妙に強い穢れを感じたことはある。」

「いつ?」

「前にお前たちとやりあった後。ギネヴィアの塔からペンドラゴに戻る途中だ。」

「ペンドラゴの南西辺りかな。」

 

ロゼが地形を思い出しながら言う。

スレイが頷き、

 

「よし。行ってみよう!」

「信じていいのか?こんなテキトーな情報。」

 

ザビーダがスレイを見て言う。

スレイはニット笑い、

 

「調べる価値はあるさ。」

「ダメで元々!」

「無駄足だったら刺すけどね。」

 

ロゼは腰に手を当て叫ぶが、エドナは傘を深くして小さく呟いた。

それに、ライラとミクリオは苦笑する。

レイはミクリオの足にしがみ付く。

ザビーダは笑いながら、

 

「へいへい、覚悟しときますよ。」

 

 

スレイ達はアイフリードの狩場に足を踏み入れた。

レイはスレイと繋いでいた手を放し、

 

「いる……あいつがここに……」

 

そうレイが言うと、辺り一帯が穢れの領域に包まれる。

ライラは警戒しながら、

 

「この領域の力は……!」

「レイの言うアイツが誰かはどっちかわからないけど、ヘルダルフが居る……間違いない。」

 

スレイも真剣な表情になる。

ロゼは腰に手を当て、

 

「……大詰めってやつ?」

「ああ!ヘルダルフ!」

「いよいよだね……。気合い入れて行こ、スレイ!」

 

スレイ達は奥へと進む。

レイが睨むように見つめるその先には獅子の顔をした大男と、仮面をつけた少年。

 

「ヘルダルフ!審判者!」

 

スレイが災禍の顕主を睨みながら言う。

初めて災禍の顕主を見たロゼは、

 

「うわ~……露骨に強そ~。」

「前のようには行かないぞ。」

 

スレイ達は武器を構える。

災禍の顕主はスレイを見下ろし、

 

「……そうあってもらわねばな。」

「どういう意味だ。」

 

ミクリオが睨みつける。

審判者は楽しそうに笑顔だった。

そして災禍の顕主は口の端を上げ、

 

「……行く先々に憑魔≪ひょうま≫の領域があったのが偶然だとでも?」

「……全てあんたの掌の上……そう言いたい訳かい。」

 

ザビーダの声音が変わる。

災禍の顕主はニッと笑う。

エドナは眉を寄せ、

 

「……敵に塩を送ったつもり?」

「軍で指揮を執っていたヤツだ。今も何か企んでいるのかもしれない。」

「……駆け引きってワケ?」

 

ミクリオとロゼは災禍の顕主を睨み、見据えながら言う。

ライラが警戒しながら、スレイを見る。

 

「スレイさん、油断なさらないで。」

「ああ。こいつらは謎が多すぎる。」

 

スレイも警戒を強める。

レイはその間も、審判者を睨んでいた。

そして審判者もまた、嬉しそうに楽しそうにレイを見つめている。

エドナはジッと災禍の顕主の見ながら、

 

「不気味ね……家族を失って慟哭してた者が、ここまで変わっているのも。」

「……孤独なヤツはそうじゃないヤツとは、時間の流れが違うのさ。」

 

ザビーダは相変わらず、声音が低い状態で言う。

それを聞くと、レイと審判者は一度スレイ達を見据えた後、再び互いに見合う。

そして災禍の顕主もまた、それに反応したのだ。

だが、それに気付いていなかったスレイ達。

ロゼがスレイを横目で見ながら、

 

「で、こいつがホントにマオテラスと結びついてんのか……どうやって確認すんの?」

「当たってぶつかるしか無いかもよ。」

「それは危険すぎる。」

 

ザビーダの言葉に、ミクリオがすぐに否定する。

エドナがミクリオを見ながら、

 

「じゃあどうするのかしら?」

 

スレイは一呼吸置き、災禍の顕主を見ながら、

 

「……ヘルダルフ、答えろ。お前は――」

「はぁーっはっはっは!ふっふっふっふ。」

 

災禍の顕主は笑い出す。

それも大声で。

ロゼが眉を深く寄せ、

 

「な、何笑ってんだ!」

 

災禍の顕主は笑みを消し、

 

「あまりによくしゃべるのでな。」

「!」

「ワシは災禍の顕主。貴様は導師。この両者が邂逅≪かいこう≫はすなわち戦い。そうであろうが?」

 

災禍の顕主の穢れが増す。

ロゼは目を見開き、

 

「うわわ!」

「スレイさん!」

「来るぞ!みんな!」

 

スレイ達は戦闘を開始する。

災禍の顕主はスレイに言う。

 

「見せてよ、導師!お前と言う器を!」

「気圧されるもんか!」

 

スレイ達は災禍の顕主の攻撃を交わしつつ、攻撃を与えていく。

レイが彼らの戦闘を見て、動こうとした。

が、そこに短剣が飛ぶ。

レイは動くのを止めると、それは地面に刺さる。

 

「ダメだよ。あれは導師と災禍の顕主の戦い。俺達の出る幕はない。」

「……私は――」

「君は裁判者だ。たとえ、君と言う人間が、器になれてもね。」

「!それは――」

「君は裁判者である事をやめられない。現に、裁判者という力を振い、行動せざるおえない。それが俺らの中にある全てだから。」

「……なら、貴方も審判者として動いているはず。なのに貴方は……?」

 

レイは左を頭に、右手を胸に当てた。

頭の中で何かがグルグル回っている。

何かを思い出しそうで思い出せない。

審判者はうっすらと笑みを深くする。

 

戦闘を行っていたスレイ達の方は攻防戦を続けていた。

ミクリオは水の天響術を決めた後、

 

「さすがにケタが違う、が……」

「いける!」

 

ロゼもザビーダと神依≪カムイ≫化して言う。

その中、スレイと神依≪カムイ≫化していたライラだけが、スレイの中で眉を寄せる。

だが、そうは言っても相手は強い。

中々大きなダメージを与えられない。

 

「これがあの時と同じ青二才どもとはな。」

 

災禍の顕主は楽しそうに言う。

ザビーダはロゼの中で、

 

「……押してるのに何か嫌な感じだ。」

「あなたと意見が合うなんてね。」

 

エドナも土の天響術を繰り出しながら言う。

そしてライラと神依≪カムイ≫していたスレイが一撃を与えた。

災禍の顕主は後ろに少しずれる。

 

「どうだ!」

「……うれしいか?」

「何⁉」

 

スレイが叫ぶと、災禍の顕主はそう呟いた。

ミクリオは眉を寄せた。

レイは何かを感じ取り、スレイ達の元へ駆けて行く。

審判者は「やれやれ」と言う顔で、彼もまた歩き出す。

災禍の顕主は平然とした顔で、

 

「このまま戦えばワシを討てる。そう感じているだろう?それこそがお前たちの望みであろうが。」

「……何なんだ!お前は!」

 

スレイがライラとの神依≪カムイ≫を解いて、災禍の顕主を見る。

彼は続ける。

 

「ワシにはそれがただの欲望に見えるぞ。ふふ。溺れるか?その甘美な泉に。」

 

そこにレイがスレイ達の前に立った。

レイは後ろのスレイ達を……スレイを横目で見た。

そして悲しそうに瞳を揺らした後、赤く光る瞳で災禍の顕主を見る。

 

「随分と導師で遊ぶのだな、ヘルダルフ。いや、災禍の顕主。」

「……裁判者。それはお前自身ではないか。なぁ、器≪レイ≫。」

「!戯言だな。私は――」

「今のお前はあの時とは違うが、あの場所に居た『レイ』と言う人間だ。無論、審判者もな。」

 

それを聞いたライラは悲しそうに顔を伏せた。

審判者は災禍の顕主の隣に並ぶと、

 

「えー、俺も?ま、俺は否定しないけど、あの子は否定してるみたいだよ。ま、どちらにせよ。裁判者がこれに関わる時点で、君は裁判者ではなく、やっぱり器≪レイ≫だ。だけど、その身に纏う力は裁判者でしかない。」

「……黙れ。」

「君は君自身を捨てれず、裁判者という力に縋っている。裁判者という存在を疑惑に思いながらも――」

「黙れ!」

 

レイの足元の影が審判者と災禍の顕主を襲う。

が、レイの瞳にはまたしても黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が現れる。

その小さな少女が瞳をこちらに向ける。

自分と同じ赤く光る瞳で……

 

「私の邪魔をしないで!私はお兄ちゃん達を――」

――それはお前の意志であって、裁判者の力を使う理由にはならない。

 

小さな少女はレイに近付き、レイの眼の前で指を鳴らす。

影が消え、レイは弾かれた。

 

「レイ!」

 

ミクリオがレイを支える。

レイは左目を抑えていた。

そこからは血が流れている。

審判者はレイを見て、

 

「君の意志ではまだ、裁判者自身は動いてくれないみたいだね。」

「ふん。所詮は偽りの人の器よ。」

 

災禍の顕主もまた、レイを見て言った。

スレイは眉を寄せ、

 

「……ライラ!決着をつける!もう一度、神依≪カムイ≫を!」

 

だが、ライラはレイを見て武器をしまった。

それを見たロゼは、

 

「どうしたの?」

 

ライラは自身の手を握り合わせ、

 

「スレイさん、このまま決着を付ける事が後悔のないスレイさんの答えなんですの?」

 

スレイはライラを見た。

そしてエドナもスレイを見て、

 

「そうね。今のワタシたちの目的は、このひげネコと戦う事だけだったからしら?どうしておチビちゃんがあいつに逆らってまでも、あいつの前に出たと思う?」

 

だが、災禍の顕主はスレイを見て、

 

「災禍の顕主を鎮める事が導師の使命……何も間違ってはおらん。」

「やれるもんならやってみろって挑発してるのか?」

 

ミクリオがレイを支え、治癒術をかけながら言う。

だが、ミクリオがいつもと違うのは治癒をかけているレイの傷が一向に治らないからだ。

そしてエドナが、

 

「……違うわ。」

「何か狙ってやがるな。」

 

ザビーダは警戒を強める。

すると、災禍の顕主は、

 

「……サイモン!」

「……ここに。」

 

そして天族サイモンが現れ、災禍の顕主に頭を下げる。

災禍の顕主は静かに命じる。

 

「邪魔者を除く。」

「は!」

 

そう言うと、天族サイモンは杖をかざす。

レイが血が流れる瞳を抑えながら、

 

「…気をつけて……!」

 

そして天族サイモンにより、黒い幕が辺りを覆う。

ライラが警戒しながら、

 

「幻術ですわ!」

「注意しろ!みんな!」

 

スレイもハッとして、叫んだ。

ミクリオはエドナにレイを渡し、スレイと神依≪カムイ≫する。

そしてロゼも、ザビーダからライラに神依≪カムイ≫する。

だが、災禍の顕主は拳を地面に叩き付け、

 

「もう遅い。」

 

穢れが爆発する。

スレイとロゼは上に高く飛ぶ。

ザビーダはレイとエドナを抱えて飛ぶ。

そこに天族サイモンが現れ、攻撃繰り出す。

それが直撃する。

 

「ぐあ!」

 

スレイとロゼの神依≪カムイ≫が解け、スレイとライラ以外は穢れの球体に飲み込まれた。

審判者はそれを見て、

 

「へぇ~。」

 

と、拍手していた。

スレイは飲み込まれたみんなを見上げた後、災禍の顕主を睨む。

ライラも今度は警戒を強くする。

 

「……ほう。力をつけたな。……あの穢れの量でどれほど遮断できる?」

 

災禍の顕主は天族サイモンを見下ろした。

天族サイモンは少し震えた声で、

 

「かほど強いものですと10分程度しか……それに裁判者が力を使えばすぐに壊れてしまいます。……申し訳もありません……」

「ま……よいわ。」

 

そして天族サイモンはもう一度災禍の顕主に頭を下げて、姿を消す。

スレイは災禍の顕主を睨みながら、

 

「何をした!ヘルダルフ!」

「来ますわ!」

 

スレイとライラは神依≪カムイ≫し、彼の拳を受け止める。

すると、球体の一つが弾け、黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が岩の上に降りる。

審判者は短剣を投げる。

が、小さな少女の影がそれを止めた。

 

「私はあの器と違う。手を出すつもりはない。が、お前が私に手を出すのであれば、殺る。」

 

そう言って、二人は睨み合う。

そしてスレイは災禍の顕主の拳を弾き、後ろに飛ぶ。

 

「形成が逆転したか?」

 

災禍の顕主は笑みを浮かべる。

スレイは剣を構えなおし、

 

「くっそ……!」

「勝利の期待から不安、焦躁、死の予感へと……!」

「くっ!」

「スレイさん、気持ちを強く持って!……かの者は!」

「ライラ!」

 

スレイは災禍の顕主の攻撃を避けながら言う。

そしてそれを聞いていた災禍の顕主は、

 

「……やはり邪魔だ!」

 

そう言って、彼は審判者を見た。

審判者は彼を見て、

 

「仕方ないな。」

 

裁判者が審判者の投げた短剣を審判者に投げる。

が、それよりも早く、彼は指を鳴らした。

すると、スレイとライラの神依≪カムイ≫が解ける。

そしてライラに、災禍の顕主の拳が迫る。

 

「ハッ!」

 

スレイがすぐに、

 

「『フォエス=メイマ≪清浄なるライラ≫‼」

「ぬ!」

 

しかしスレイ達は再び神依≪カムイ≫化できた。

災禍の顕主が審判者を見ると、彼の心臓の所には短剣が刺さり、岩に叩き付けられていた。

そして裁判者が災禍の顕主を睨んでいる。

 

スレイは神依≪カムイ≫化が解ける。

災禍の顕主を睨みながら、

 

「ライラ、ヘルダルフはまだ答えを出せないオレにつけ込もうとしている。そう言いたいんだろ?」

 

災禍の顕主は視線をスレイに向ける。

 

「このままこいつと戦ってたら、もっとつけ込まれてどうにもできなくなりそうだ。」

「スレイさん!わかりましたわ!」

「みんなを助け――」

「逃すものかよ。」

 

災禍の顕主が詰めよる。

スレイはおもいっきり、

 

「獅子戦吼‼とにかく弱点を攻めるしかない!」

 

だが、災禍の顕主は笑いながら、

 

「それが……獅子戦吼だと?笑わせるわ‼」

 

そして災禍の顕主はスレイの目の前で、同じく獅子戦吼を繰り出した。

そしてスレイを吹き飛ばす。

スレイは岩に叩き付けられる。

 

「ぐわっ!うぐっ‼」

「スレイさん……」

 

その風圧に巻き込まれたライラも地面に叩き付けられた。

そしてそのライラを穢れに満ちた足が踏みつける。

 

「あぁ!」

 

さらに、その穢れに満ちた手にはスレイが首を絞められている。

 

「ぐぅ!」

 

 

裁判者はそれをただ見ていた。

だが、その瞳が揺れ出す。

 

「大人しく見ていろ。」

――お兄ちゃん……お兄ちゃん‼

 

小さな少女は風に包まれ、白いコートのようなワンピース服を着た小さな少女が現れる。

その左目はまだ癒えていない。

そして、手を伸ばしながらスレイの元に駆けて行く。

 

災禍の顕主はスレイを締め上げ、

 

「抗うな。」

「……イヤだ!絶対に諦めない……!」

「抗う事……そのいびつさに気付くがよい。」

「な、に……」

 

そこに、レイがライラを踏みつける災禍の顕主の足をどかそうとする。

 

「レイさん‼」

「ライラを……お兄ちゃんを……放せ!」

「いけません、レイさん!今のレイさんでは‼」

 

災禍の顕主は片手でレイを腹の辺りで掴み、締め上げる

 

「お前もまた哀れだな。あいつの言霊に縛られた憐れな器……」

「哀れなのは貴方も同じだ。あの導師の……人間の呪いに……縛られて……!」

 

レイは右目の瞳を大きく揺らした。

そして頭を抑えた。

涙を流しながら、何かを思い出しそうで思い出せない。

それを見た災禍の顕主は目を細め、

 

「……サイモン。従士を解け。」

「はっ!」

 

天族サイモンは再び現れ、ロゼを解く。

ロゼはおもいっきり尻餅を着く。

 

「あいた!」

 

そして掴んでいたレイを離す。

レイは地面に落ち、気絶していた。

 

「レイさん!何を……」

 

ライラはレイを見た後、ロゼを見つめる。

災禍の顕主は穢れに満ちた玉を凝縮し始める。

 

「抗ったとてどういにもならなぬ事を受け入れよ。導師。」

「や、めろ……!」

 

それをロゼに向ける。

ロゼは仁王立ちになり、腰に手を当て、首を振る。

そして災禍の顕主を睨み、

 

「なめんなっての。ね?ライラ。」

 

ライラはロゼを見つめた。

そしてロゼはまっすぐこちらに駆けてくる。

 

「ふん!」

 

災禍の顕主の顕主の真上に飛んで行くと、

 

「『フォエス=メイマ≪清浄なるライラ≫‼』」

 

そしてライラと神依≪カムイ≫化して、攻撃を切り裂く。

神依≪カムイ≫を解き、ライラが災禍の顕主にスレイを握る所に炎をぶつける。

スレイは彼から解け、レイを抱えて離れる。

ロゼは天族サイモンの前に着地し、短剣を向ける。

 

「くぅ!」

 

ロゼは天族サイモンの喉元に短剣の刃を向け、

 

「形勢逆転かな。」

「……討つのか?天族であるその者を?」

 

災禍の顕主はロゼを見る。

ロゼは彼を見て、

 

「あたしの仕事は殺す事。覚えておいて。」

「……サイモン。」

「……御意のままに。」

 

災禍の顕主は先程と同じく、穢れの玉をロゼと天族サイモンに向ける。

 

「なっ!」

 

そして放つ。

二人は吹き飛ばされる。

 

「きゃあああ!」

 

そして、地面に叩き付けられる。

スレイはロゼの元に駆けよる。

 

「ロゼ!」

 

ライラも駆け寄り、ロゼに治癒術をかける。

審判者が災禍の顕主の隣に立ち、

 

「うっわ~、サイモンちゃんごとやったんだ。」

「無論だ。」

 

そして彼は心臓に刺さっていた短剣をクルクル回す。

彼の心臓には刺さっていた痕跡がないくらい血も、服も破けていなかった。

天族サイモンは空を見上げ、

 

「くっふふふ……」

 

そう笑うと、気絶した。

そしてそれと同時に、ミクリオ達をつかめていた穢れの球体は解かれる。

三人は地面に落ち、気絶していた。

 

「……もはや弄するのは無駄だな。」

 

そして腕を組み、スレイを見る。

 

「……導師スレイ、ワシに降れ。共に世界を元の姿に戻そうではないか。」

「な⁉」

 

スレイは目を見張る。

審判者は口笛を吹いて、彼を見た。

レイは目を覚まし、開く。

左目はまだ血が流れている。

そして開いているその右目は虚ろだった。

まるでこれからの会話をただ聞くだけかのように……

 

ライラはロゼの治癒を終え、災禍の顕主を睨みながら、

 

「災禍の顕主と共に行く先など、ただ穢れるのみ……そんな事――」

「それの何がおかしい?何もせずとも穢れは生まれ、ごく限られた浄化の力を持つ者によってのみ滅される。これが自然な事だとでもいうのか?」

「憑魔≪ひょうま≫は人も天族も傷つける存在です!」

「だから穢れに抗う事が自然だと?笑止な……穢れに抗っている者と身を任せている者……。どちらが苦しんでいたか。これまでの旅路で目の当たりにしたろう。」

「おまえ……」

 

スレイは災禍の顕主をジッと見つめた。

それは彼の想いに何かを感じたかもしれない。

そしてロゼが眉を寄せ、彼を睨み上げる。

 

「自分が苦しいのがイヤだったから、他のみんなもそれがイヤだと思ってるんだ。」

 

災禍の顕主は一度間を置き、

 

「……導師スレイ、もう一度言う。ワシに降れ。人々に恩恵を与えるために穢れに抗う事を課せられ、天族と称されて縛り付けられている者たちを、憑魔≪ひょうま≫という本来の姿に戻すのだ。」

 

スレイは瞳を閉じ、開く。

そして立ち上がり、力強い瞳で彼を見つめ、

 

「断るよ。」

「……では雌雄を決するとしよう。」

「それも断る。今はその時じゃない気がする。」

 

スレイは立ち上がったロゼとライラを一度見てから言った。

レイはそれを聞き、再び地面に倒れる。

そしてスレイの言葉に、審判者が笑い出した。

 

「あはは!やっぱ、面白いな。今宵の導師は!」

 

そして笑いを止め、災禍の顕主を横目で見て、

 

「いいじゃない?彼らはまだ真実を知らない。今ここで終わらせても、面白みがないし。」

 

災禍の顕主は口の端をニッと上げ、

 

「そうだな。それに言うことよ。だが、いずれその身で知る事となろう。世界の……人と天族、そして裁判者と審判者の真の姿をな。」

 

背を向け、そう言うと姿を消した。

審判者は倒れている天族サイモンを抱き上げ、

 

「じゃ、俺も今日の所は帰るよ。また会おうね、導師。」

 

彼は風に包まれ、消えた。

スレイは彼らの居た場所をしばらく睨んだ。

そしてスレイとライラは倒れているレイを、ロゼはミクリオ達の方へ行く。

スレイがレイの傷を見て、

 

「ライラ、治癒術でなんとかならないか?」

「……申し訳ありません。これはただの傷ではありませんわ。裁判者が……レイさんの力を封じる為にしたもののようです。」

「そんな……」

「ですが、どうやら血はもう止まっています。おそらくもうじき左目は直るでしょう。」

「ホント?」

「ええ。」

 

ライラはレイの左目を優しくなでながら言った。

スレイはレイを抱き上げ、ロゼ達の元に行く。

そして目を覚まし、今までの状況を話す。

ザビーダが腕を組み、

 

「間違いない。あいつはマオテラスと繋がってんな。ヤツの穢れに遮断された時、気配を感じた。」

「だが、マオテラスの影も形もなかったじゃないか。」

 

ミクリオがザビーダを見て言う。

エドナが真剣な表情で、

 

「もっと考えて。見えてないと思ってたのに、実はずっと見えてたとしたら?」

「……見えているのに意識してなかったもの……」

 

スレイ・ミクリオ・ロゼは考え込む。

そしてハッとして、顔を見合わせた。

ロゼが地面を蹴りながら、

 

「これ?」

「大地か!」

 

スレイも改めて周りを見る。

ミクリオは眉を寄せ、

 

「……ヤツ繋がってるものが、グリンウッド大陸を器としてるって……?」

「そう。そんなヤツぁ、一人しか考えられないってワケだ。」

 

ザビーダが地面を睨みながら言う。

ミクリオがザビーダを見て、

 

「だがそれなら――」

「そうだとしてさ。大地を浄化するってできんの?それにヘルダルフが器になってんならわかるけどさ。大地を器としてるのが、なんでヘルダルフとも繋がってんの?」

 

ロゼがミクリオの言葉を遮って、一気に話した。

スレイとミクリオは再び考え込む。

そしてスレイは、

 

「……マオテラスを探そう。ヘルダルフが本当に大地を器としてる憑魔≪ひょうま≫となってしまったマオテラスと繋がってるとしたら、マオテラス自身を浄化しないかぎり、ヘルダルフを鎮める事なんてできない。」

「だが……これまでの旅路で得た、マオテラス伝承にも所在を示すものなんてなかったぞ。」

 

ミクリオがスレイを見た。

そしてレイが目を覚まし、目を開ける。

左目はまだ開けずにいた。

そして右目はやはり虚ろなまま、

 

「……真実のカギを持ち、語り部の一族……『刻遺の語り部』を探すといい。だが、よく考える事だ。これは真実を知る事となる。その覚悟を持ってその者の所に行け……」

 

レイは再び瞳を閉じ、眠った。

 

「それって誰よ?」

 

ロゼが頭を掻いた。

ライラが一度瞳を閉じ、開く。

そしてスレイ達を見て、

 

「……メーヴィンさんを探しましょう。」

「メーヴィンおじさん?」

 

ロゼはライラを見た。

そしてザビーダもまたライラを見て、二人は頷き合った。

ミクリオはハッとして、

 

「そうか……彼もマオテラス伝承を追って旅を続けているだったな。」

「何かマオテラスの手がかりを得てるかも!それに裁判者のいう『刻遺の語り部』もわかるかも!」

 

スレイも頷きながらいう。

ロゼは空を見上げ、

 

「けど、おじさん、どうやって見つけよっか……」

「私に心当たりがありますわ。ローグリンの遺跡を守る方々に会いましょう。」

 

ライラがスレイを見て言う。

スレイはレイをミクリオに渡し、天遺見聞録を開く。

そしてページをめくり、

 

「ローグリン……確かザフゴット原野にある遺跡だな。」

「ええ。」

 

スレイは天遺見聞録を閉じ、しまう。

エドナが傘で突きながら、

 

「決まったわね。じゃ行くわよ。ミボ。」

「わかったからつつかないでくれ……レイに当たる。」

 

そしてスレイ達は歩き出す。

ライラは静かに、それでいて力強い瞳で彼らの歩く姿を見る。

ザビーダがライラの隣に行き、

 

「良いのかねぇ、これで?」

「信じます……これは賭けですわ。裁判者とそして私自身の……」

 

ライラはそう言って、歩き出す。

ザビーダは帽子を深くかぶり、歩き出す。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。